管理局本局の機能性を重視した寂しい廊下、そこをフェイト・T・ハラオウンは歩いていた。
顔を見ると、殺風景なこの場所を歩いているというのに、頬が少し緩んでいる様に見える。
そんな彼女が辿り着いたのは無限書庫、管理局で一番忙しいであろう所である。
まぁ実際に用があるのは無限書庫ではなく、ここにいる司書長になのだが・・・

「すいません、スクライア司書長は?」

入り口の近くにいた司書の一人に聞くと。

「司書長ですか?それならあちらで作業していますが」

「ありがとうございます」

何の用だろうと、小さく首をかしげる司書にお礼を言って軽い足取りでフェイトはユーノの元へとむかった。



ユーノはいつも通り仕事をしていた。
「ユーノ〜!」
そこに後ろの方から声の声に気付き、振り返るとフェイトが手を振りながらこっちに向かってくるのが見えた。







    〜未来にむかって〜







「ユーノ、明日の食事の件なんだけど」

「あぁ、そういえば待ち合わせ場所とか決めて無かったね」

「そうだよ、で、どうする?」

「ここで話すのも何だし、司書長室の方で話そうか」

などと話していると、偶然、側を通りがかった司書が小耳に挟んだらしく

「あ、あの噂は本当だったのかぁーーー!!」

無限書庫に響き渡ったのではないかというほど大きく、叫んだ。

「「わっ(ひゃっ)?!」」

驚く二人を余所に。

「司書長にも春が来たんですね!」

「デートですか?デートなんですね!う、羨ましくなんて無いぞ!」

何処からか、集まってきた司書達は余りの出来事に混乱、むしろ錯乱していた。

「そんな、みんなが考えてるような―――」

事じゃないよ、と続けたかったが…

「ここは我々に任してどうぞ話し合ってください!」

「司書長!押しと引きのタイミングが大事ですよ!」

「頑張ってくださいよ」

そんな、まったく自分の言おうとした事を聞いてくれない司書達の、勝手だがある意味で優しい言葉を背に受けながら二人は司書長室に向かった。無論、どう返事をすればいいのかわからない二人は顔を真っ赤にして―――




司書長室に着いてユーノが淹れたコーヒーを飲みながら二人は話していた。

「待ち合わせは、クラナガン公園の時計台下でいい?」

かちゃりと陶磁器のカップを置いて、二人は話を続ける。

「うん、わかり易いし良いんじゃないかな、時間はどうする?」

「券には18時からって書いてあるから17時頃でどう?」

「大丈夫だよ、決める事はこれ位かな」

「そうだね」

また、カップを手に取りコーヒーを啜りながらユーノは答えた。

その後はまた、他愛の無い世間話をして時間は過ぎていった。




しかし、その会話を盗み聞きしている黒い影があった。

「・・・ユーノ君もフェイトちゃんも楽しそうな声だなぁ」

声の主は高町なのはであった、用事で無限書庫に来て、偶然二人がここに入っていくのが見えたので気になって盗聴しているのだ。
本来、司書長室は強力な防音結界が張られていて会話は洩れないはずなのだが、そこは恋する魔王の底力で一字一句逃さず聞き取っているのである。

「これは私も動かなくちゃイケナイカナ・・・」

そう言ってクスクス笑いながらその場所を去っていった。
その姿を偶然見てしまった司書は当然の如くその場で足が竦み、身動きもままならない程の圧倒的な恐怖に襲われた、と後に語る・・・。




気付けば時計の針が10時を指していた、2時間近く話し込んでいたようだ。

「そろそろ、いい時間だしお開きにしようか、明日の事もあるし」

そう言いながらユーノはカップを片付け始めた。

「そうだね、じゃあ私はこれで・・・」

席を立って部屋から出ようとした時

「フェイト、明日楽しみだね」

「そうだね」

フェイトは笑顔でそう言った。


その笑顔はその日最高の物だったに違いない。





その頃―――

クロノ・ハラオウンは書類の整理に追われていた・・・
前回の無限書庫の件の物がまだ残っていたのだ。

「くそっ、あのフェレットもどきが」

自分が蒔いた種だが、そうでも言ってないとやってられる訳がない。
補佐のエイミィも隣で整理を手伝ってくれているお陰で、もう少しで終わる所まできている。

「よし、終わりだ」

最後の書類に判子を押し終え背筋を伸ばすと、ポキポキと全身の骨が鳴った。

「やっと終わったね、クロノ君」

わずかに疲れからか苦笑を混ぜながら、クロノに微笑む。

「全くだ、これでゆっくり休める」

と、普段どおりにエイミィと会話しながら自らの部屋に戻れば、その言葉通りにゆっくりと、自室で休むことが出来るだろう。


そのはずだったのだが。


「クロノ君いる?お願いがあるの、聞いてくれるよね?」

普通ならばありえない声がしたのだ、帰り支度を整え始めていた自分とエイミィしかいないはずの執務室の中で。

恐る恐る声のする方向を見たクロノは、そこに、レイジングハート・エクセリオンを起動させた管理局の白い魔王の姿がある事に気付いたのだった。

こうして、彼の平穏は脆くも崩れ去っていく。

そして運命の夜は明けていった・・・













時刻は16時30分、待ち合わせの時間より30分も早くフェイトはクラナガン公園の時計台の下に着いてしまっていた。

「どうしよう、早く来過ぎちゃった」

昨晩はなかなか寝付けず、なぜか目覚めは早かった。
ここにくる時も早足だった気もする。
そしてこの待ち時間をウキウキしながら待っていた。
何度も時計を確認する姿は初々しささえ感じる。

しかし、傍から見れば待ちぼうけを食らっている様にしか見えない。
なので、声をかけてくる男性が後を絶たなかった。

そして20分後、13人目を断った辺りで、待ち人がやってきた。

「フェイト早いね、僕も早めに出たつもりだったんだけど」

「そんな事ないよ、私だって今来たとこだよ」

そんなお約束のやり取りを終え、二人は市街地に向かって歩き出した。


その後ろで動く不気味な影の存在をまったく気付かずに…



夕闇にのまれつつある市街地は人で溢れ返っていた。

「久々にこっちまで来たけど凄く混雑してるね」

「そうだね」

人混みを掻き分けながら二人は進んでいた。
すると、ユーノはフェイトの手をつないだ。

「え!ち、ちょっと」

「このままじゃ、はぐれるかもしれないし」

「そ、そうだね」

フェイトは紅くなってユーノの引かれるがままに着いて行った。




「逃がさないの、ユーノ君、フェイトちゃん」

「…なの―――」

「何か問題でもあったの、クロノ君?」

「…何でもありません、マム」

「急がないと、間に合わなくなるかも、急ごっか、クロノ君?」

「…イエス、マム…」

足元に敷かれるクロノは自分の立場を、完全に思い知らされていた。





「な、なんか、凄い所だね」

「うん、そ、そうだね」

レストランに着いて二人はただ驚いた。
まずは、外装。雑誌にも書いてあったが、古風な洋館をモチーフにして、落ち着いた空気を醸し出している。
中に入り、券を見せるとボーイが席に案内してくれた。
席は景色が良く見える店の一番奥の窓際という、最高の所だった。

そして今は、料理を食べつつ雑談していた。

「でね、なのはがまた無茶するからはやてと一緒に止めたりしてね」

「そうなんだ」

今は共通の親友である高町なのはの話題で盛り上がっていた。

そんな時に後ろから声をかけられた

「相席、いいですか?」

「はい、どう・・・ぞ」

「なのは!?」

そこには丁度、話の話題のなのはがいた。






「なのは、どうしてここに?」

「うん、親切な人がここの食事券をくれてね、休みも重なったから来たんだ」

「そうなんだ、偶然ってあるんだね」

「ほんと偶然だよね」

なのはとユーノが話しているのを見てフェイトはユーノを取られた気分になった。
なぜそんな気分になったかフェイトはまだ解からなかった。


そんな中でユーノの携帯にコールがかかった、相手はクロノと表示されていた。

「ゴメン、少し席はずすね」

そう言ってユーノは廊下の方に出て行った。





「ねえ、フェイトちゃん」

ユーノを笑顔で見届けた後、ふぅ、と小さく息を吐き、真剣な顔つきで見つめて言う
なのはにたじろぎながらフェイトは

「な、なに?」

と聞き返すのが精一杯だった。

「フェイトちゃん、ユーノ君の事好きだよね」

「え、そ、そんな事・・・」

「あるよ、ユーノ君を見るフェイトちゃんの目は私と同じだもん、私はユーノ君の事好きだもの」

なのはの告白にフェイトは戸惑っていた。

そして自分の中にある気持ちに整理がつき始めた。




彼が食事に誘ってくれたのが嬉しくて

一緒にいるだけで心が暖かくなって

他の女の子と話しているのを見るとムカムカして

そんな気持ちになるのは、やっぱり・・・






私はユーノの事が好きなんだ。






「…そう、だね、私はユーノが好き、でも、なのはとは友達でいたい」

「私もユーノ君が好き、けど、フェイトちゃんも大切なお友達、だからこれからは、お友達兼、ライバルだからね」

「うん、なのは、お互い頑張ろうね」

こうして、ライバル宣言が終わった頃に

「ゴメンね、話が妙に長くて・・・何かあった?」

空気が変わった事にユーノは気が付いた。

「ううん、何にも無いよ、ねぇ、フェイトちゃん?」

「そうだね、なのは」

「?」

ユーノは、二人の雰囲気が変わった事はわかった、けれどそれは険呑な雰囲気、というわけではなく、穏やかな何か。

(二人とも、どうしたんだろう?喧嘩したわけじゃなさそうだけど…まぁ、特に問題ないかな。)

なのはとフェイトの様子に、にっこりと微笑んでその様子を見たユーノは、何故か自分の顔を見て、顔を真っ赤にして伏せた二人の気持ちに気付かないまま。

結局閉店の時間になるまで3人で楽しい食事をして、特に何事もないままその日を終えた。









後日、人払いをした無限書庫でユーノに告白する二人の少女の姿があった。



これをきっかけに彼女らの生活は変わるだろう

それが彼女達の望むものになるのかは分からない

それぞれの願う"未来に向かって"

わずかな一歩か大きな一歩かは誰も知らないその一歩を、今歩き出した・・・


                                  












更に後日談。

白き魔王と金色の死神の二人とフェレットもどきが、盛大に顔でお湯を沸かせる程、真っ赤になっている間、某提督は、某真っ白に燃え尽きた人物のようになって発見される。

その傍らには、多額の高級レストランからの請求書と、本局からの無限書庫の司書長の提督権限で与えられた勝手な休暇、その他職権乱用に関しての説明を求める文章が山のように積み上げられていたという。








あとがき



ハルバートです。
久しぶりです。
〜きっかけ〜の続編として考えたお話ですけど
気に入って貰えるか心配です。
大丈夫かな、カナ?





BACK

inserted by FC2 system