“おるすばん”へ “レヴァンティンそこそこがんばる”へ “夏服の話”へ なんでもない休日の話を。 主の私服を拝借し、普段は下ろした長い髪を結ってもらって、忘れ物はないかと---特に必要なものがあるわけでもないのに---入念に確認し、一緒の道のりをゆっくり歩いた。 到着した所はいつもの玄関。何度も訪れた友人の住む家。 「おまたせ、なのは、はやて」 「うん、レイジングハート、いい子でお留守番しててよ」 「はい。皆さんも気をつけて」 「なのはちゃん、フェイトちゃん、早よぉ!」 賑やかに足音は遠のいた。 階段を一歩ずつ上っていく。部屋の前でひと呼吸おいて、ノックを2度。 「・・・」 答えの代わりにドアが開いて、目を合わせるために顔を上に上げた。 「主たちは、行ったようだな」 「はい」 「紅茶を淹れて来る。部屋で待っていてくれ」 「私も手伝います」 春物らしい紺のニットの端をきゅ、と掴んで、上ったばかりの階段をふたりで降りた。 お湯はポットに沸いていて、ティーセットとお茶の缶もダイニングに並んでいた。 お菓子は無い。ふたりとも、固形食品を分解して消化することはないからだ。そもそも嗅覚も味覚もはっきり出来てはいないのに、どうして紅茶を用意しているのか。 (私はバルディッシュとお茶を飲む時間が好き、という理由があるけど) 聞いてみようとして、やっぱりやめる。 今日はそれよりも聞きたいことがあるのだから。 「・・・どうした」 「なんでもありません」 できれば、聞く前に気づいてくれると嬉しいのだけれど。 ちらりと横目に願いをこめる。 ティーカップから湯気が消えたころ。 「アルフさんはお出かけですか?」 「本局に残っている。おそらくは」 言わずもがな。守護の彼とでも一緒なのだろう。 「仲良いですよね」 「そうだな」 テレビはつけていないので、ふとした間がとても静か。会話よりも冷蔵庫のファンの音のほうが大きいくらいだ。 沈黙を気まずいと思わなくなったのは、いつからだったろう。 今日はこんなことがあった、なんて会話する余裕もなくなるほど疲れて帰還する毎日。 駆けるのが同じ空ではなくなって、少しずつ会うことも減っていった。 その分、会う時間を大事にしている・・・できてると思う。 目が合って。 「何か言いたいことでもあるのか」 優しく諭すように言う。 「私はありません。バルディッシュこそ、何かないんですか?」 意地悪く問いを問いで返した。彼はややしばらく考えて、 「・・・・・・・服か?」 「髪です!」 高い位置でふたつに分けて束ね、チュール地にすかし模様が入ったアイボリーのレースリボンで飾っている。 「バルディッシュの考えてること、当ててみましょうか? ・・・『似合うと答えなければいけないのなら最初からそう言え』・・・・どうです?」 「・・・今日の君はいささか意地が悪いようだ」 わかってます。マスターにはいい子で待っているよう言われたのに。こんないじわるばかりしていたら怒られるかも・・・でも。 「解っていても『似合ってる』と言われたほうが、やっぱり嬉しいです。 ・・・・・でも、本当はどう思いますか?」 私のマスターも、彼の主フェイトさんも、仕事中この髪型でいることが多いから。 もしかしたらこの方が好きなんじゃないかと、そんな理由を隠して結ってもらった。 答えによっては自分で結い上げる練習もしなくてはならない(ほんとうは今朝自分でやろうとして失敗した)。 答えの気配を察知。 「・・・・・単純にその髪型が君に似合うかどうかを答えるなら”似合っている”。 ただ、私個人の意見としては」 頭に乗ったのは大きな手のひら。 「普段のほうが、撫で易いな」 「・・・!」 私はリボンと輪ゴムをいっぺんに引っ張って外そう・・・として。 絡まった。 「・・・・バルディッシュ、左側とってくれませんか?」 「・・・・・・・」 黙って左の塊に挑む。私は右の塊に。 「・・・すみません・・・・」 無言の時間が、久しぶりに気まずくなった。 恒星が休むことなくエネルギーを放出し続け、地上へ降り注ぐ紫外線も絶好調。 あついです。 管理局の空調が壊れているのではなくて、環境問題に取り組んだせい、らしいです。クールビズというものだとマスターが言っていました。 「・・・・ふい〜・・・」 私はだらしなくデスクにつっぷしていました。ほっぺたに触れる冷たい感触はすぐに私の体温と同じになります。 寒いのも苦手ですが、暑いのは別です。 本体に熱がこもるし、汗(※正確には冷却水)で服が汚れるし。 元の本体は氷点下40度から摂氏300度くらいなら正常動作保障内だったのに、今やたったの30度でへとへとです。 軟弱すぎます。改善しなくては。 「だからって俺と勝負の意味がわからねーんですが」 レヴァンティンがつんつんした頭を掻いて言いました。 場所はトレーニングルーム。お互い騎士服とバリアジャケットの完全武装です。 「心頭滅却すれば火も涼しくなると、シグナムさんから伺いましたので」 炎が涼しくなるなんて、人間ってやっぱりすごいです。プログラムですけど。 「いや、それウチの主がおかしいだけだから。普通の人間は暑いもんは暑いままっスから」 右手を顔の前で立てて横に振るレヴァンティン。 「今のヴォルケンリッターは人間でしょう?もしかしたら私にもそういった・・・さ、さそり?」 「悟りって言いたいんですかお嬢」 「ああ、それですそれです」 ちなみに『お嬢』とは私のことです。私はマスターのご友人のような生活をしているわけではないのでその呼称はおかしい、と前にも言ったのですが、レヴァンティンは変えるつもりはないそうです。 「そんなもん悟らんでもアンタ十分強いっしょ・・・第一、斬れませんって」 確かに、普段のレヴァンティン一人でカートリッジ抜きなら私のシールドを切るのは大変かも。 「でも、人間にはその時々で”調子”による補正がかかりますから、今日は私のことまっぷたつにできるかも知れないですよ」 「全力全開それはないわ」 即答で否定されました。 「・・・・・・・確かに非殺傷だと難しいかも知れませんね。 では本気で」 「いやちょっ、ま、待って待って死ぬの怖い死ぬの怖いから」 私は冗談のつもりで言ったのに、レヴァンティンの顔が白っぽく(青ざめる、というのだと最近教わりました)なります。冗談ってすごいです。でも、全然笑ってくれないのはどうしてでしょう? 「レヴァンティン、そんなに離れなくても・・・」 「ギャース!!そういえば距離取ったら死亡フラグだったよなお嬢はーッ!!!」 ひとこと かいしゃで かいてて ばれた はなし しぬかと おもった 「衣替えしましょう」 事の発端はいつものようにシャーリーの適当な一言から始まった。 「体感温度機能を切ればいいのでは・・?」 「だよな」 しかし、今の整備室でそう思っているのはバルディッシュとレヴァンティンだけのようだった。グラーフアイゼンは「浴衣か作務衣か、それが問題だ」などとつぶやいているし、クラールヴィントは鏡の中からデスノーtもとい謎ノートを取り出して「要チェックやあああ」とか口走りながらすごい勢いでデザイン画を描いている。こういうときに限り彼女の意見はかなりの高確率でファイナル★フュージョンされてしまうので、同じ不時着なら少しでも衝撃を和らげる努力が必要になってくる。 「すみませんがシャーリー、主を呼んでも宜しいですか」 「シャマル先生も忙しいんじゃない?」 ガラッ! 「話は全て聞かせてもらったわ!」 自動ドアのはずな出入り口を片手で横へとスライドさせて、ものすごい勢いで白衣の貴婦人が現れた。 「仕事は?」 「患者は?」 「いつからそこに?」 レヴァンティン、バルディッシュ、レイジングハートが順ぐりにツッコんで、 「はやてちゃんも後で合流するそうよ」 あの甲冑デザインとセンスはきっと戦力になるわ、と鼻息荒くシャマル。3機のゆるい軌道修正など指2本で潰しちゃいます撒いちゃいます。 「せっかくなのでマリー先輩も召喚しときますね」 シャーリーがメール送信。その表情は逆光を受けた眼鏡に隠されて見えずバーロー。 「お嬢、俺とシグナムが許すからそこの壁ぶち抜いて逃げ道確保しろ」 「ここで撃ったらみんな怪我しちゃいますよ?」 戸惑いながら手元に生まれる桃色の光。マスター無しでどの程度逝けるんですか?いや決して自分の目で見てみたくはないですがって誰の目だ誰の。 「撃つのなら早めに決めたほうがいいな」 バルディッシュの足首を掴む手。旅の鏡から伸びてました。バインドとはまた違うプレッシャーというか前方で長い髪の毛をゆらゆらさせるクラールヴィントが井戸の中からくーるー、きっとくるー。 「撃てるものなら撃ってみなさい!バルディッシュがどうなってもいいのなら!」 「・・・あ、あくせる」 クラールヴィントの予想斜め上から弱パンチ3Hit。加減は十分にしたけども、一応は大丈夫ですかと問うレイジングハート。 「まあな・・・人間相手ならコア撒けるけど、デバイスだもんなあ・・・・」 しみじみとレヴァンティン。 「そこまでよ」 作業服で腕組んで、逆光背負って仁王立ちするマリーがいた。 じゃーん、と気合いの薄い擬音を口に出しながら右手に光る5枚のディスク。 「過去ログP2Pで流されたくなかったら私たちの言うこと聞け」 『卑怯者──────!!!』 「ふむ、こちらの要求は飲んでくれたようじゃの」 「あらぁ、おじさま浴衣お似合いで」 いちばん早く仕上がったのはグラーフアイゼン。グレーのかすりに黒い帯を合わせて、煙管と扇子を挟んである。下駄と仕込み杖の音が小気味よい。 「ついでに会話ログのディスク返してくれんかの」 「却下でーす」 マリーの爽やかな返答。 「そんなら道連れついでにヴィータにも1着用意してくれんか?」 親指を立てて工房に引っ込むクラールヴィント。おじさまアンタ余計なことを・・・ 「・・・・・」 げんなりした顔でレヴァンティンが、 「やっぱ壁抜いときゃ良かったんだよ」 タンクトップの上にクリンクル加工した半袖のシャツ、麻製でゆったりめのハーフパンツ。「涼しくなったからいいけどよ」とツンデレとかでもなく、ただ諦めをつけるためだけの発言。 「今回は自重してくれるといいんだが・・・」 続いて、上が半袖の襟つきシャツに変化しただけであいかわらず黒ずくめなバルディッシュ。「素材は夏物よ?」とクラールヴィントがよくわからないフォローを奥から浴びせた。 「・・・確かにアレはないわ」 前回のレイジングハート出力制限に伴って生成された手足拘束鎖つきゴス服の評判は局内で見事に二分され、レヴァンティンのように露骨にドン引く者とある意味ツボに入ってしまった連中とが対立し、結局数日後には前のもの(白いスクエアネックのワンピース)に戻されてしまったという経歴がある。 当のレイジングハートが存外人目を気にしない性格だったのも災いした。見てみて可愛い服でしょうと騎士服ヴィータの前ではしゃいでいた所を目撃した数名が「誰がお父様だ」、「アリスなゲームの再来だ」といったいまいち要領を得ないヒートアップ。しまいにはグレアム元提督までご愛読されていたという驚愕の真実を某司書長がバラしてしまい、某司書長は罰として現提督の前でハレ晴れとしたダンスを踊らされたという。 「いやあ・・・すごかったよな練習風景、俺もたぶん踊れるわ」 「踊らんでいいから心の準備をさせてくれ」 「準備なんかさせませんよ★」 「お家になんか帰しません☆」 がくーっ、と2機がうなだれた先では白衣の人とその相棒が仲良くプリティかつキュアキュアな(※白衣が白で相棒が黒)バトルコスチュームに身を包んで決めポーズ。 「わー、お二人の服も素敵ですね!」 澄んだ赤の瞳をきらきらさせる様子を間近に感じ、バルディッシュはおそるおそるそちらに顔を向ける。 かくして彼女は男2機ではなく、ぶっちゃけてはっちゃけているシャマルとクラールヴィントに憧れのまなざしを浴びせていた。 「あっ、バルディッシュとレヴァンティンとグラーフアイゼンも格好良いですね!」 (ぅゎ ぅゎゎ) 事前に精神的ブラウザクラッシャーを踏んでおいたのでソフトランディングには成功したような気がしなくもない。 「ほぉ、レイ嬢ちゃんはまた若くなったのー」 ありていに言えば、かわいい。 「やっぱり子供っぽいですか?前と違って丈も短いし」 薄いピンクのワンピースは上半身がスリムなつくりで、鎖骨のラインを引き立たせる深めのラウンドネック。そしてやっぱりというかパフスリーブ。カフスが白の別布で、飾りボタンはハート型。スカートは全円で布が多いタイプなのに、あくまで軽やかさを失わず、歩くたびにパニエのレースをふわん、と揺らす。構成はシンプルなのに無駄に目を惹きつけるのはフリルがついたサロンエプロンと頭に居座ったレースつきのカチューシャのせいだろう。あと首輪。 「・・・・・どこの喫茶店からかっぱらった」 「翠屋さんの次の制服だそうですよ」 「嘘つけ!」 レヴァンティンがクラールヴィントとザケンナー漫才に興じている間、 「バルディッシュ、この服ダメですか?」 体半分横を向けて、非常に残念そうな顔で聞くレイジングハート。前側からだとエプロンで隠れていたサイハイ丈いわゆるニーソックスとミニスカートの境に生じるあの領域に半ば致死量のダメージを受けつつ、 「・・・・・服はこの際何でもいい。どうして腕と足に続いて首まで拘束されてるんだ・・・・」 「その方が雰囲気が出るそうですよ」 「何の!?」 「はいバル君、隠しステージへのフラグ立ちましたー。サブシナリオ”はじめてのめいどさん”行ってらっしゃーい」 違うこれはメイドじゃないウェイトレスだとどこからか声がした、ような気がする多分。 はやて:「次回、神秘のアルハザード編に続きません」 このまま でんげんを おきりください。 ほんとうに ありがとう ございました。 あとがき ここから Q1.カオスもいいとこだな A1.もっと あたまの ひきだしが ほしいところ。 Q2.ネタが解らん! A2.ニコニコどうが あたりを みると しあわせに なれるかも Q3.とりあえず「はじめてのめいどさん」をください A3.エロスは ほどほどに しないと おこられるよ! |