日常………常に送る日々。それは人によって大きく違う。例えば軍人であれば厳しい訓練や規律の中ですごし、そして時がきたら戦場に送られる。それが軍人の日常である。

例えば飢餓や病魔に苦しみ、自分の食べる物すら困っている国では、毎日のように人が死に行く中、自分は少しでも長く生きたい。そんな風に思い過ごすのが日常なのかもしれない。

この国の日常は、子供なら学校に行って、帰ってきたら塾に行き、暇なときにはゲームをしたり友達と遊んだり。大人になったら日々のストレスと戦いつつも、必死に働き、稼いだお金で趣味に走ったり、家族と触れ合う。そして老人になったら残りの余生を楽しみ、死んでくといったところだろうか。

ついこの間出会った闇の書を守り、書の主に忠誠を誓う4人組は、書の完成を目指すため、傷つき、苦しみ、それでも戦い抜く日々だったそうだ。………残念ながら、その日常は今も繰り返されている。今の主、八神はやてという少女を救いたいが為に。

俺の日常は、この前まで仕事がないときは高校生として生活をしていた。同級生や幼馴染の親友達に囲まれて、表面上変わらない日々にぼやいたり、それでも楽しんだり泣いたりした。しかし、俺は闇の世界の人間でもあった。だから仕事のときは大概危ない目に遭い、死にそうな目にあいながらも自分の守りたい人や、守りたい人たちの守りたい人の為に頑張っていた。その所為で、普通の人間ではなくなってしまった。俺の日常はこの闇の部分を隠しつつ、平凡な生活を送っているフリをして闇の仕事をこなしていくことだった。

けれど、そんな俺に新しい日常が始まる事になった。



魔法少女リリカルなのはA's ヤミノセイネンとヒカリノショウネン始まります。

第4話 新しい八神さんの家庭の事情



ヴォルケンリッターと協定を結んで以降(このとき、彼女達の事と、はやてのことを全部聞いた)、現状の変化はまったくもってない。闇の書はまだまだ完成しそうにないし、俺の探す『奴』もまったく姿を感じない。この家に来られても困るが、幸いそれがないのはいい。だが、わざわざヴォルケンリッター達について行っても気配すら感じないのだ。

はっきりいって自分のほうはお手上げ状態である。はやてのいない時間を見計らって、町に繰り出し、探っていはいるのが、いっこうに気配は感じず、そして『奴』の手によってエネルギーを吸い取られた人というのも、またいなかった。

海鳴市周辺も調べては見たものの、それらしきものはなく奴はこの辺りにいないのかと思いもしたのだが、何かが引っかかるのことと、闇の書のこともあるので結局八神家で過ごしていた。

そんなこんなで八神家に来てからはや8日が過ぎた、ある日のこと。



シャマルが料理修行のため、はやてに特訓をしてもらっていた。そして課題料理である肉じゃがをはやてが口にしてしまった事によって事件が起きた。

「はやてちゃん、どうしたんですか?」

しかしはやては黙ったままで、動きも止まっている。

「はやて〜、どうしたんだ?」

ヴィータが心配して近寄ったそのとき、急にはやてが傾いた。はやてが倒れる寸前のところで、シャマルとヴィータが受け止める。

「はやてちゃん!?」

「はやて〜!!」

ふたりの声に反応し、他の面々が厨房に集まる。

「シャマル、一体どうした!?」

シグナムが慌てて問いただす。

「私にだってさっぱり………ただ、私の料理を味見したとたん、反応がなくなって………」

「「「「………」」」」

原因はあっさり判明した。そして無謀にもその凶器に手を伸ばした人物がいた。

「………お前一体何したらこんな味になるんだよ。普通の人間に食えるものではないな。」

なんと昌ははやてを気絶に追い込んだシャマルの料理に口をつけて、そのうえ平然としているのだ。約一名違う意味だが、それに誰もが驚いた。

「あ、あいつ、シャマルの料理食って、何事もなかったようにぴんぴんしてるぞ!?」

「ば、馬鹿な………主はやてでさえ気絶したというのに………」

「貴様、本当に人間なのか!?」

「そんな!?はやてちゃんが言う通りに作ったのに〜。そしてみんな何気に酷い事言ってる!?」

はっきり言って毒薬か何かの扱いだった。まあ、現状を見れば仕方ないのだが。

「おい、それよりもはやてを病院に連れてった方が良くないか?顔がどんどん青くなっているぞ。」

昌はやはり何事もなかったかのように冷静に告げる。そして騎士の面々もそれを見て、慌てて救急車を呼んだ。



病院に運ばれたはやては、幸い命に別状がなかったそうだ。しかし、2、3日の入院が必要になった。となると困るのが食事だった。食事以外のことなら、たまにうっかりを発動させるものの、シャマルに任せておけばいい。

しかし、だ。闇の書の防衛プログラムたちは料理が出来ないのだ。闇の書から生まれたヴォルケンリッターは、食事を作るなんてことをすることがなく、常に戦場にいた。そんな状況だから、料理を習う暇さえなかったのだから当然だった。そして冷蔵庫の中には冷凍食品の類はなく、あるのは新鮮な野菜と肉と魚など、日持ちするようなものではなく、その上調理しなければいけないものばかりだ。

店屋物を注文するにしても、毎日はやての作るものばかり食べていた面々は、どこにどういう店があるのかすら知らなかったのである。

絶望かと思われた状況に、自称17歳の高校生が声を上げる。

「やれやれ、仕方ないな。この中で料理が出来そうなのは、俺ぐらいか………」

皆が驚きの表情を浮かべ、言葉の主を一斉に見た。

「お前、本当に料理が出来るのかよ?」

疑わしげな声を上げるヴィータに少年は答えを返す。

「はやてよりはうまくはない、しかしそれでも食べられるものは作れる。両親が共働きで、自分で作らなければいけないときもあったからな。」

そういえば忘れていたが、彼は闇の仕事もして入るが、ここに来る前は普通の人間の暮らしをしていたと聞く。彼が本当は何歳にしても、簡単な料理くらい習うことはあったかもしれない。

ヴォルケンリッターたちは彼に聞こえないような小さな声で、相談を始めた。

「おい、どうすんだ?あいつのこと信用するのか?」

ヴィータはまだ彼を信用していないようだ。

「この8日間彼と暮らしていた限り、不必要な嘘を言うような人間ではないだろう。」

シグナムはこの数日の彼を見て、そう言う。

「確かにそうかもしれないな。彼は主やシャマルがしていない別の家事を行っていてくれていたな。」

狼(犬?)の姿で話すザフィーラ。昌は居候だからといって、彼は自ら進んで家事を手伝っていた。曰く、「こんなことでもしないと、今の自分はただ飯喰らいになりかねない」からだそうだ。見た目少年とは思えない心がけである。

「彼には結構助けられていますし………大丈夫だとは思いますけど………」

シャマルは彼を認めて入るようだが、言葉を濁す。

確かに彼は家の事をしてくれている。しかし、今大切なのは彼の料理の腕なのだ。さすがにそこまで見ず知らずの人間だった少年を信用しきれないようだ。

「提案なんだが、1回任せて、それでだめだったら冷凍食品でも買いに行けばどうだ。」

「なるほど、それはいい考えだ。」

ヴォルケンズの意見はここで固まった。が、ここでヴィータが疑問に思った。

「おい、今の声誰が出した?」

「私ではない。」

「私も違います。」

ザフィーラは黙って首を振る。

ヴィータは疑問を出したのだから除外される。しかし声がした。これはどういうことなのだろうか。

声のした方向を向いてみる。するとそこにいたのは昌だった。

「うわ、てめえ!!いつの間にここに居やがった!!!」

ヴィータは驚きの余り、グラーフアイゼンを構える。

「シャマルが大丈夫だとは思いますけどって言ったあたりからだな。」

「………いい加減、家の中で気配を断つ癖をどうにかしろといっているだろうが。」

そう、彼は困った事に常日頃から気配を断つ癖があるのだ。彼の話によると、小学生のときから近所にマッドサイエンティストが住み着いたらしく、その人物がとてつもなく巧妙で、逃げるのにいろいろとスキルを学ばなければいけなかったらしい。まあ、今も見て目小学1年生のため信じ難いのだが。

ともかくその関係で今もその癖が抜けないようで、いろいろと騒動が起こった。例えば、暗がりに急に現れ、はやてが幽霊と間違えて夜中に大声を上げてしまったり、風呂場に電気がついているのにもかかわらず、人の気配がしないため、順番を確かめに来たシグナムが誰もいないのでそのまま入ろうと着替えを持ってきたら、彼がちょうど出てきて驚いたシグナムが大暴れしたりetcetc

出会った時も妙な感じがするとは思っていたが、常に気配を殺した人間がこの平和な国にいるとは思わなかったのである。話を元に戻すとしよう。

「すまないな、気をつけてはいるのだが、どうもあいつのことを思い出してついついな。」

余り表情の変化はないが、声からすると彼も一応困っているらしい。なんとなく同情してしまう4人(3人と1匹?)であった。

彼に表情の変化がないのも例のマッドサイエンティストの関係で、怒気、喜気といった、感情から発せられる気配すら殺すためにこうなってしまったそうだ。………彼は本当に日本人なのだろうかと思ってしまうくらいの苦労ぶりだ。ただ、感情がないかといえばそうでもなく、日常生活では分かりにくくはあるが、言葉の中に楽しいときや呆れているときなどの変化はあった。なので決して彼が詰めたい人とか感情のない人間ではない。

とりあえずそんな彼の提案を飲み、彼女達は彼に昼食の準備をしてもらった。しばらくすると、なにやら若干がたがたうるさい音がする。正直不安になってしょうがないが、任せてしまった手前、何も言えないのであった。

「出来たぞ。」

彼がそういって持ってきた料理は、ホイコーローとニラと春雨のスープ、そして白飯とデザートに杏仁豆腐だった。

それも見た目も良く、おいしそうな匂いが漂ってきた。怪しい音のした割に、とてもまともなものが出て一安心した彼女達は、恐る恐る彼の造ったものに口をつけた。そして

「う、うまい。」

「本当ですね。」

「ま、はやてほどじゃねーけどな。」

彼の宣言通り、はやて程の腕前ではないにしろ、それは家庭料理としてはおいしいものだった。なのでここからは全員食べる事に専念する。

途中、ヴィータが野菜を避け、肉だけ取ろうとしたところを、シャマルが注意したり、ヴィータがシグナムのブンの杏仁豆腐まで食べようとして県下になったりしたが、きわめて普通の、いや家主はいなくとも、八神家の日常がしっかりとそこにはあった。

男性二人はちょっと呆れたように女性人を見ていた。しかしそこには満ち足りたものが、しっかりと存在した。



後日、

「皆ごめんな〜、私入院してしっかりしたもの食べれんかったんやない?」

「いえ、昌が料理を出来たので、何とかなりました。」

「本当、助かりました。」

意外な人物の名前が出て、驚きはしたが、直ぐに申し訳なさそうな顔をするはやて。

「ほんまなん?ごめんね、大変だったんと違う?」

しかし昌はいつも通り何事もなかったかのように、

「いえ、僕は居候ですから、自分の出来ることをするのは当たり前ですよ。」

と相変わらず、年齢設定とかけ離れた口調で言った。

その後、はやてに何かあったときは彼が料理を作ることとなり、ついでにシャマルの料理の試食人にも任命された。

ちなみにあの料理でどうにもならなかった理由は、「あれ以上に酷い料理を日常的に食べさせられたことがある。」だそうだ。

………この年にして苦労の耐えない人生を送っていたらしい。(現在進行形?)

けれど彼は思う。少しでもこんな暖かい日々が続けばいいと。

しかし日に日にはやての病魔の進行は酷くなっていき、『奴』も奪った力を着々と自分のものにしているだろう。だからこの日常も早くに崩れてしまうかもしれない。

それでも彼は、はやてを守る騎士と守護獣達と一緒に守って生きたい、このかけがえのない日常を。せめて、彼女だけは一般人と変わらないように暮らしていけるこの日々を………



<続く>







今回は本編でありながら、番外編的なストーリーにしてみました。………嵐前の静けさって奴です。

次回、展開に風雲急が告げられます。ついに探していた『奴』が姿を現します。そして昌にも変化がある………かもしれません。それは次回のお楽しみって感じで。

でもまだ魔法少女達は出てきません。ごめんなさい(土下座)

P.S. ちょっと昌を信用させるの早かった気もするのですが………どうなんですかね^^;





BACK

inserted by FC2 system