闇………それは光から生まれ、しかし光を飲み込む存在。恐怖や絶望を表す、一般的には人が忌み嫌われている。だが、中にはその闇を好むものもいる。悪いことではない。

しかし、それは自然に発生したものの話だ。人の心から生まれたヤミは、人の弱さにつけ入り、膨れ、そしていずれは自分や周りのものすら飲み込んでいく。そして、飲み込まれた人が待つ先は碌なものではない。少なくとも、平凡な生活からは切り離されていく。

俺もそうだった。俺は他の人のヤミから生まれたものに望まずとはいえ、関わってしまった。それ故に俺はそれまでは一般人よりは少し強い人間………あくまで常識の範囲内でしかも子供にしてみれば、の内だったのが、今ではすっかり化け物になってしまった。だから責めて、自分は心だけは化け物になりたくない。ヤミに飲み込まれたりしないようにしてきた。

しかし、望まずとも人はヤミと共存していくものなのだ。ヒカリに負ける、あるいは勝てないが負けない程度のヤミであれば人は平凡でいられる。

だが俺は運が悪かった。周りにできたヤミがあまりに大きすぎたため、俺は抵抗むなしく飲み込まれていった。そして、これ以上深いヤミに飲み込まれないために、強くなっていこうとした。俺はもがいてもがいて、『強さ』を求めた。ヤミに負けないように。しかし上を求める余り、自分は大きなヤミを生んでしまった。

そしてそのヤミを喰らい、『奴』が生まれた。いや、この表現はおかしいな。元々、『奴』はそこにあった。だが、『奴』に俺のヤミを奪い、そして多くの人をそのヤミで飲み込もうとしている。

俺は『奴』であり、しかし俺ではない存在。

『奴』は俺であり、それでいて『奴』は『奴』でしかない。

俺は『奴』に奪われた自分を取り戻したい。それが危険で色濃いヤミであったとしても。

自分が自分であるために。

そして、自分の周りの人間に、ヤミが及ばないように。

家族を望み、ようやく手に入れた少女と、そして彼女を守る優しいが、俺と同じヤミに身を置く彼女の家族を、俺は守りたい、守ってやりたい。



魔法少女リリカルなのはA'sアナザーストーリーヤミのセイネンとヒカリノショウネン始まります。

第5話 現れるヤミ




季節は霜月から師走に変わろうかという時期、以前自分のほうに進展はないし、闇の書の完成の目処も立っていない。しかし、それでも今ある日常を、そこにいる彼女達は満喫している。

現在、八神家ではシャマルの料理修行という、ただ傍観している人も、もちろん彼女の成長を手助けする人もいろいろと疲れる恒例(?)のイベントを行っている最中だった。

ついこの間、家主であり彼女の料理の師である八神はやてが倒れてからというもの、彼女のたった一つの動作に出さえ注意を注がなければいけない毎日であった。ちなみに前回彼女が倒れた原因は確かにシャマルは言われたもの以外入れてはいなかったかのように見えた。

が、彼女は自分でも無意識のうちに創作意欲という名の暴走により、いろいろと入れていたのだ。そしてはやてもそれに気付くことはなく、事が進んでしまったのでああなったらしい。………一体どんな方法を使ったのやら。

それはともかく、あれ以来八神家では驚異的な胃の強さを誇る見た目幼い自称高校生の居候に頼む事にした。

はやては最初反対していた。何も知らされていない彼女は、昌を本当に年下と考えていたし、何より居候である。そんなことを任せて置けないと思うのはいたって普通である。

しかしまたこんなことが起こると皆が困るということでしぶしぶOKを出した。というかはやてを除く全員が無理やり納得させた。まあ、昌は相変わらずマイペースではあったが。

そんなこんなで一応シャマルの腕は上がってきてはいる。ただし、いまだに人に食べさせるには問題があるとか。

そして今回の出来は

「………まずい、が何とかこの前のような大惨事にはならないレベルにはなったと思います。辛うじて食べられないことはありません。」

成長して………いると言っていいのかどうか微妙なところである。

「そんなに酷いんですか!?」

といい、がっくり項垂れるシャマル。

微妙なOKサインを貰い、とりあえず恐る恐る味見を試みるはやて………が案の定止められた。

「辛うじて食べられるものをいちいち口にしますか?」

若干呆れ気味な昌が、はやての手を押さえつつ言う。

「うっ………でも食べられるようにはなったなら確認してあげるのも、師匠としての仕事やし………」

「ですからそれを昌が受け持っているではないですか。いい加減、やめてください。」

「そうだよ、はやて。また倒れる事になったら嫌だからな。」

ザフィーラも黙ってうなずく。

容赦のない言葉にすでに一部がとてつもなく重い空気になっているが、

「少なくとも、うまくもまずくもないというレベルになるまでは口にしないでくださいね。」

何のためらいもなく昌は止めを刺した。

シャマルは隅に移動してうずくまり、地面に「の」を書き始めてしまった。しかも小声で

「どうせ私なんか………」

某ライダー義兄弟のような台詞を吐いていた。

さすがに見かねたはやてが

「皆、シャマルをいじめたらあかんよ?シャマルだって精一杯頑張ってるんやで。なのに全員でそんなこと言ったら可哀想やないか。」

と遅めの助け舟をする。もさすがに悪いと思ったのか、

「す、すみません。」

「ご、ごめんはやて。」

素直に謝罪する二人。ザフィーラもどこかばつ悪そうだ。

(頑張ったところで結果が出なければ意味がないとは言わないほうが良さそうだな。下手したら切れて暴れるか、自殺を図りかねないし。)

なんか一人謝るどころか酷いこと考えていた。とはいえ、家主に睨まれさすがの彼も

「すみません、シャマルさん。言い過ぎました。僕が出来る範囲なら、何でも手伝うので言ってください。」

自分の考えていたこともあり、分かりにくくはあるが優しい口調で手をさし伸べた。

次の瞬間、シャマルさんは

「………」

顔を赤く染めながら、どこか別の世界に旅立っていた。彼女ははやてに呼ばれるまでずっとそのままだったとか。



とまあ、こんな騒がしい日常を過ごしていたある日。

「昌君、おはよう。ちょっとええか〜?」

彼の朝の日課はランニングのほかなどの軽い運動から始まる。なので、自然とシグナムに付き合う形となっている。

それはともかく、はやては昌に用事があったので、いつも少し早めに起床して彼の部屋を訪ねてきた。

だが、そこにいたのは見ず知らずの青年だった。痩せ過ぎず、かといって太ってもいない。ザフィーラのように筋骨粒々まではいかないが、針のいい筋肉をしている。ちなみに彼は、着替え中だった。

「え〜っと、す、すみません。」

とりあえず謝罪し、部屋を出て行くはやて。しかし、冷静になって考えてみる。ここは自分の家、彼は見知らぬ男性、しかもなぜか着替え中つまり………

「キャ〜〜〜〜〜〜〜」

彼女は彼を不審者と断定、悲鳴を上げた。

その悲鳴を聞きつけ、集まる八神家の面々、そして事情を知ったシグナムとヴィータが昌の部屋にいる不審者を捕らえるため、突入する。

しかし、そこはもぬけの殻で不審者はおろか、昌の姿さえない。ベッドのシーツを触れてみるとまだ暖かい。もしかしたら連れ去られたかもしれない。急いで外に出ようと階段を下りると、ガチャっとドアが開いた。そこには昌がいつもどおりの顔でいた。

「無事か、昌!!」

心配して声をかけるシグナムに、

「ええ、単に不審者追っていただけですから。逃げられましたが。」

いつもどおりの反応で返す昌。

「お前から逃げるってどんな人間だよ。」

なんか酷い言葉が帰ってきたが、彼のことを知っていれば当然の結果だ。何せ常人の何倍、何十倍、下手すれば何百倍以上だ。そんな速さを出せる子供体型は彼とア●レちゃんとオ●ッチャマン君くらいだろう。

シグナムの声に気付いて、他の面々も玄関にやってきた。次の瞬間、パンと乾いた音が響いた。

呆然とする騎士達。なんと自分達の主が、昌に張り手を喰らわしていたのだ。いきなりの展開についていけなかったのである。しかも彼ならば、突然の襲撃であろうと9歳、しかも病弱な彼女の一撃だ。簡単に避ける事が出来ただろう。

しかし彼はそれをしなかったところを見ると、こうなることが分かっていて、あえてこれを受けた事になる。つくづくとんでもない奴である。

「………なんでうちが殴ったか分かるか?」

普段は優しく微笑んでいる彼女が、今はとても怒っている。はっきり言ってかなり怖い。迫力だけで潰されそうである。

「………自分の危険も顧みずに、不審者を追ったから………ですか?」

顔は伏せているが口調がいつもどおりである。ある意味尊敬でき、そして毎度の事ながら、こいつ一体どんな生活してきたのかと思うヴォルケンリッター一同だった。

「わかってたんなら何で行ったの!!何かあったらどうするつもりだったんや!?他の人のことも考えてみ、本当に心配したんやからな!!!」

一通り自分の言いたいことを言った彼女は彼を優しく抱いた。昌は自分のしたことを良く分かっていた。だから彼は初めて表情を出した。それは作ったものではなく、本当に申し訳なさそうにしていた。

場の空気が凍った。そして次の瞬間、混沌(カオス)が生まれた。

「な、あいつが表情を変えただって!?」

少女は驚いて手に持っていたグラーフアイゼンを落とし、

「夢でも見ているのか!?」

ポニーテールの女性はほほをつねりながら言う。

「馬鹿な!!嘘だ!!!とても信じられない………」

狼もどきはいつの間にか人型に戻り、固まってしまう。

「うわ〜、今日も天気がええな〜」

彼を抱いていたはずの病弱少女は現実逃避を始めた。

余り言いようだ。

「僕が一体どんな風に見られていたかがよく分かりました。」

1人相変わらず冷静に言う。が、数週間どんな状況においても一切表情を変化させないのだから、仕方ないであろう。

(可愛い………って私は何を!?彼は子供だし、だからこそ可愛い、じゃなくて………)

なんだか一人変な方向に走っている人がいた。しかも、最初血に飢えた獣のような視線で昌を見ていた。ちなみにその瞬間、昌は言いようのない寒気に襲われた。この事実に対して、シャマル自身が一番混乱しているようだ。



一応この騒動も収まり、はやてに今度からは一人で勝手に危ないことをしないと言う約束をさせられた。そのあと、ちょっと遅めな朝食の準備に取り掛かる。ぶっちゃけると、不審者事件よりも初めて見せた表情から生まれた混沌に時間がかかり、せっかくの早起きが台無しになってしまったのである。

はやてが朝食の準備に集中しているのを見計らって、昌はシグナムとザフィーラにしか聞こえないように声をかける。

「後で少し話したいことがある。重要な話だから、朝食が終わり次第何か理由をつけて外出して欲しい。俺と初めて会った付近にある公園に来てくれ。」

「分かった、他の二人はどうする?」

シグナムはチラッと、台所で支度を手伝うシャマルと、はやてにじゃれつくヴィータを見る。

「念話と言ったか?あれを使って連絡しておいて欲しい。………はやてには聞かせられない話だからな。」

どうやら、蒐集や彼の探している相手関係の話らしい。

ザフィーラは黙って頷いた。

ゆっくりとゆっくりと………誰にも分からないほどゆっくりと、日常が壊れ始めてきた。



朝食後、それぞれ散歩だのゲートボールだのと理由をつけて10分おき位で別々に家を出た。しかし話があるといった本人がまだ出ていなかった………はずなのに、なぜか本人が一番先に居たので驚く面々である。と言うよりも、彼はここから一切動いていないのにもかかわらず、八神家に存在していると言うことだ、これは一体どういうことなのか………

全員がそろったところでようやく口を開く。

「ようやくそろったか………悪かったな、呼び出して。」

「どうしてこんな時間帯なのだ?夜も良かったのではないか?」

蒼い狼が疑問を告げる。

「そうしたいのもやまやまなんだが………緊急事態が起きてな。」

特に動揺も表情の変化もないので本当に困っているかは微妙なところだ。付き合いがなければ冗談かと聞き流してしまうだろう。

「緊急事態?一体何だよ………早くしないとはやてにばれるだろ、ていうかお前どうやって抜け出したんだよ。」

ヴィータが不満気につぶやく。しかし自分達の知りたい事も聞いてくれた。

「簡単だ。今家にいるのは俺じゃない、ちなみに今話しているこれも俺本体ではない。」

いきなりとんでもないこと言うので、ヴォルケンズは何を馬鹿なと言う顔をした。しかし彼はおもむろに一枚の紙を取り出した。よく見るとその紙には何か書いてある。が、何と書いているかまではわからなかった。彼がその紙に気を送った、次の瞬間驚くべきことが起こった。

なんともう一人昌が寸分の違いなく現れたではないか。余りの事に騎士達は口をぽっかり開いたまま動けなくなってしまった。

「こういうわけであって、今家にいるのもここにいるのも俺ではない。俺の作った偽者だ。」

彼の声が聞こえてようやく我を取り戻す面々。そしてヴィータが爆発する。

「何平然ととんでもないことやってるんだよ!ていうか他の奴にばれたらどうするつもりだよ!!しかもおまえ自身はどこにいんだよ!!!」

「百聞は一見にしかず、見せたほうが早い。それに人が居ない場所選んでるし、実際ここには人いないだろう?近くに俺たち以外の人の気配もない。俺はこの付近にいるさ。だが、まだ出て行くわけには行かないんでな。」

いつも通り淡々と返答に、ヴィータはカチンと来たがシャマルが抑え、作り物の昌にまた質問をする。

「出て来れない理由って何なんですか?」

ふうっと軽いため息をつきながら、彼は答える。

「それは今から説明するさ。実h………」

と次の言葉を紡ごうとしたそのとき、突然強風に見舞われた。そしてその風とともに気味の悪い声が聞こえてきた。

「見つけた見つけた見〜つけた〜、ぎゃはははははは。」

そしていつの間にか、一人の青年が彼らの背後に現れた。そしてその顔は………彼を襲撃したときに見せてもらったあの写真の顔だった。つまり………昌の探していた「奴」が今、彼らの前に姿を現したのである。



何も指定で大人しくしていれば、とても端正な顔をした青年なのだが、今そこにある顔は醜く歪んでいた。

「ようやくお前の力も扱えるようになってきたところだったんだ。嬉しいねぇ、嬉しいねぇ、嬉しいねぇ〜、この前散々傷つけられた仕返しが出来るんだからなひゃははははは。」

今目の前にいる敵から発せられているのは、こっちまで気がおかしくなりそうな狂気と、閑静な住宅街にはそぐわない生々しい殺気だった。

「………また傷つけられに来たんじゃないのか。」

冷静にいう彼(の作った偽者)に緊張が走っている。しかも余裕がなさそうだ、目の前にいる狂人を見れば、それも納得できる。こいつは相当やばい、かなりの実力者だ。気を抜いたら瞬殺されるかもしれない。

シグナム、ヴィータ、シャマルの3人は急いで騎士甲冑を着込む。盾の守護獣は急いで人間へと姿を戻す。そんな中昌は

「よせ、ここでは人を巻き込みかねない。ここは一旦引くぞ!!」

退却を持ちかけてきたのだ。しかも相変わらず表情の変化はないが、声で判断すると焦っているようだ。

「ふざけんな!お前こいつ探していたんじゃないのかよ!?ここで叩けばそれで終わりじゃねーかよ!!!」

そういって狂人に向かってグラーフアイゼンを振るう。

シャマルは急いで結界を張る準備をする。シグナムはヴィータに加勢すべく、彼女もまた敵に向かっていく。ザフィーラは援護すべく、魔力を発動する。

が、急にどこからか投げ込まれた一振りの刀にさえぎられる。奴の仲間かもしれないと思い、大声で叫ぶ。

「誰だ!!」

そして目の前に現れたのは、敵である青年とまったく同じ顔をした青年であった。そしてその青年は言葉を放つ。

「やめろと言っているだろう、急いで逃げるんだ!!」



今日と言う日は碌な事がなかった。

朝起きてみると、体に異変を感じ鏡を見ると、自分の体がどんどん成長していくではないか。慌てて持ってきておいた、元の自分の服に着替えているところをはやてに見られ、変質者扱いされたのが始まりだった。あと少しタイミングが遅かったら、シグナム達にボコボコにされていたかもしれない。

いざ家を出たはいいが、自分が言えなければ皆を心配させてしまうので、自分は子供になった原因は分かっていたので、急いで気の排出量を限界ぎりぎりまで落とそうとしたが、今日が運の悪い事に気の量が最も増える日だったので(これは解説講座で詳しく言います)、うまく減らせなかったので仕方なく式符を使う事にした。

しかし結局時は遅く、はやてたちを心配させた挙句、きつい一発を貰ってしまったようだった。さらに自分はこの姿で、財布は家の中。家に入れるはずもなく、仕方なしに朝食は抜きになった。

その後自分の説明をしようかと思えば、式神に驚くし、極めつけは『奴』の出現である。俺が知っているときより遥かにエネルギーが増している。一体何人の人が犠牲になってきたんだ………はっきり言って今戦闘になっても相打ちになればいいほうだ。しかも闇の書のこともある。余りに形勢が不利だ。

しかしヴォルケンリッターたちは俺の静止を聞かずに立ち向かおうとしていた。彼女達のそういう勇敢なところは嫌いではないが、今はそうなことを言っている場合ではなかった。仕方ないので、説明することもなく結局俺の姿を晒す事にした。

当然の如く混乱している。だが、『奴』にも揺さぶりが掛けられたようなので、それは不幸中の幸いだ。しかしいつまでもそのままだと危ないので、取り合えず

「詳しいことは後でたっぷり話したやる!だから今は目の前の敵に集中しろ!!」

言われてようやく落ち着いた、と言うより無理やり自分を落ち着かせたと言ったほうがいいだろう。とにかく今はあいつのことだ。

「馬鹿な、もう力が戻ってきたと言うのか!?」

奴は相変わらずショックを受けたままのようだ。実際には半分戻ったと言うところだ。しかし、それが現段階では限界のようだ。本当に元に戻るには、やはりこいつを倒す以外ないようだ。それに気付いてないようだ。ならこのままそれらしい態度をとれば有利になる。

「奴には直接触れるな!触れたれたらミイラになるまでエネルギー吸い取られるぞ!!」

そして彼は刃を一旦鞘に戻し、腰を深く構える。そして次の瞬間彼はその姿を消し、入れ替わるように敵が吹っ飛び、相手がいた辺りに彼がいる。

吹き飛ばされたほうは、腹のあたりを押さえている。

“喰らった人間と、放った人間しか何をしたのか判らない一撃”

まさにそうとしか言いようのないことだった。いつの間に攻撃したのかも不明だ。何せ自分達が気付いたときにはすでに終わっていたのだ。

しかし自分達もいつまでも呆けているわけにはいかない。それぞれ攻撃を始める。

「ラテーケンハンマー!!」

「紫電一閃!!」

「鋼(はがね)の軛(くびき) 」

全員の一斉攻撃で倒した………と思ったが、姿が見当たらない。どこに行ったのかと辺りを見回すと、昌が声をあげる。

「上だ!!」

と同時に殺気を感じ一斉に飛び退く。そしてそのあと直ぐに上空からかまいたちが襲い掛かってくる。

かまいたちを避けたのはいいが、かまいたちの余波で出来た突風に吹き飛ばされてしまう。

しかし、全員飛行魔法でブレーキを掛ける。………昌以外は。

「ぐっ」

彼は近くの木に激突して気絶してしまったようだ。

「「「「昌(さん)!!!」」」」

「てめえ、絶対許さねえから!!!」

ヴィータが激情を表す。しかし目の前にいる狂気の固まりははじめてみたときよりさらに歪んだ顔でこちらを睨んでいた。

「許さないのはこっちのほうだ、貴様ら全員ぶち殺す!!体を刻んで、潰して、なんだったか判らないくらいになぁ!!!」

怒りが爆発したらしく、それに合わせるように風が吹き荒れている。いや、彼が怒りに任せてむちゃくちゃに操っているらしい。

そういえば彼は以前、機で自然界の現象をある程度操れると聞いたことはあったが………正直、これはある程度と言うレベルを超えている。

風か勢いよく渦巻き、周りには幾つもの小型の竜巻が吹き荒れている。気を張っていなければすぐにでも吹き飛ばされそうだ。

「こいつで刻まれろ!!複巻斬風撃」

幾つもの竜巻にに囲まれ、重なり合う竜巻殻発生した真空刃が発生し、ヴォルケンリッターたちに襲い掛かる。

「ぐう」

「きゃあ」

「あう」

「うぐぅ」

甲冑やシールドをで何とか防ぐが、それでも防ぎきれずに傷ついてしまった。とてつもない破壊力だ。昌はこんな奴を相手にしたと言うのか………

「止めだ!!これで壊れちまえよ、くひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

いかれためでこちらを捉える。手には膨大なエネルギーを感じる。今この攻撃を受けたら確実に倒されてしまう。急いで反撃に移ろうとしたとき、残酷にも最後の一撃が放たれる。

「つぶれちまったかな?あ〜はははははは。」

どこか嬉しそうなこの男が、土煙が納まったあと見たものは………そこにあるはずの死体がどこにもないと言うありえない光景だった。

「………お前は調子に乗りすぎなんだよ、間抜け。」

と、後ろから気絶したはずの昌の声がした。

振り返ると、そこには式神2体が、それぞれザフィーラとヴィータを抱え、そして昌がシャマルとシグナムを抱えている。

「………手前、相変わらす狡い手使ってきやがるな。」

「あっさり騙されるほうが悪いんだよ、戦闘においてはな。」

実は彼は最初の一撃をした時点で式神と入れ替わり、期を伺っていたのだ。

「………本当はもっと早くに出るつもりが、準備になかなか時間がかかってな。」

「と言うかいい加減降ろせ!いつまで抱き上げているつもりだ!!」

恥ずかしそうに怒鳴るシグナム。まあ、いつまでも抱えられた状態なんだから仕方ないと言えば仕方ないが。

(私はもうちょっとこのままで………ってだから私は何を)

シャマルは違う意味で恥ずかしそうだった。

ヴィータは竜巻に巻き込まれていた岩に頭をぶつけたらしく気絶していたので式神が抱えたままだ。

「はやて〜、ハンバーグ小さい。もっと大きいのがいい〜。」

………浅い切り傷以外の怪我がないのは幸いだが、どうも緊張が殺がれる寝言だ。

ザフィーラはすでに立ち上がり、戦闘態勢を取っている。ザフィーラを救い、用のなくなったもう一体の式神はいつの間にかしく符に戻り、昌の手の中にあった。

「準備?………くくくくく、てめぇ実はまだ完全回復してなかったのか。それはチャンスだぜ。きひひひひひ。」

相変わらずいかれた笑い方をする相手に、ふうっとあきれを表すため息をつく。

「確かにそれをもっと早く気付けばチャンスだったかもな。しかしもう遅いんだよ、準備は終わっているからな。」

そして余裕と言ったようでなんと、彼は敵に堂々と背を向けたのだ。それに頭にきたのか、手を振り上げ、攻撃………しようとしたはずだった。

しかし彼は振り上げたはすの手がすでにそこに存在していなかった。

「あ?」

何が起こったか分からず、手を見る彼。

余りの事に息を呑むシグナム。

目を背け、顔色のそぐわないシャマル。

驚いて目を見開くザフィーラ。

………依然気絶中のヴィータ。

「ぎ、ぎゃああああ、お、俺の手が、手が〜。」

「わめくな。俺の肉体を奪えていない時点で、お前の体がエネルギーの塊を実体化したものだということはわかっているんだ。それとも本当に痛みがあるのか?」

普段の昌とはまったく違う、冷たい目で相手を捉えている。そこには一片の容赦もないようだ。

「貴様〜、何をした!!」

確かに彼の傷口からは一切血が流れ出てきていない。昌の言ったことが大体あっているようだ。

「罠を仕掛けたのさ、俺と俺の仲間に敵意のある奴に襲い掛かる不可視の刃をな。」

「何!?」

彼は激昂して止まる勢いはない。そして容赦ない攻撃が始まる。

「刻め、ミラージュスライサー」

敵である彼に数本の見えない刃が突き刺さる。

そして、敵が身動き取れなくなったタイミングを見計らい、昌は叫ぶ。

「今のうちに逃げるぞ、奴はこれだけじゃ死なない。」

何を馬鹿なと顔でにシグナムは言う。

「馬鹿な、これだけの優位でありながら逃げると言うのか!!」

昌は冷静に言葉を放つ。

「あれは、刻んでもその刻んだ部分をつなげて再生できるはずだ。現状の俺たちで倒せる相手ではない。」

先ほどの戦闘力を思い出し、何も言えないシグナム。そして静かに剣を下ろす。口には出さないが、認めたということなのだろう。

全員急いでこの場を離れていく。何も出来ずに1人残されたもう1人の昌が叫ぶ。

「全員覚えていやがれ、あとで絶対ぶち殺す、このアクィナスの1人、憤怒シャイターン様がな。命乞いしようが、泣いて喚こうが一切容赦しねぇ。」

言葉とともにまた風が吹き荒れる。

しかし突然刺さっていた刃が破裂したので、命乞いのあたりは言葉にならなかった。





一方その頃、昌たちは………

「おい、しっかりしろ。昌、昌!!」

昌が突然気絶してしまっていたのだ。シャイターンに刺さっていた刃が破裂した原因はこれにあった。

気を圧縮して作られている刃は、術者がいて初めて形を成す。つまり、抑えられていた放出を急に開放されたのだ。そうなれば、膨らませすぎた風船のように木っ端微塵になってしまうのも当然だった。しかしなぜか式神は依然その姿を残したままである。(これもまたあとで解説します)

ともかく今は昌のことだった。先頭を離脱して直ぐ、こうなってしまった。とりあえず、あの場所から遠く離れてはいるが、ここは住宅街である。いつ騒がれてもおかしくない。

しかし悩んでいる暇もない。仕方がないので、八神家に戻る事にした。





気が付けばもうお昼時である。出て行ったきり、連絡もないシグナムたちを心配するはやて。いつもなら、出かけていても昼食がいらないときは早い目に連絡をくれる。だが今日はそれがない。一体何があったと言うのか………そんなことを考えていると、上でガタゴトと物音がする。

位置を考えると、昌の部屋だ。もしかしたら、朝の変質者が帰ってきたのかもしれない。

普段なら、シグナムやヴィータが行き、退治してくれるだろうが、今は自分しかいない。昌はそこのソファーで寝ている。起こすわけにはいかない。今、この家で何か出来るのは自分ひとりだ。やるしかない!!

急いで二階に上がり、昌の部屋の前で息を殺し、武器である箒を持ってタイミングを見計らう。そして………



シグナムは倒れた昌を背負い、シャマルの転移魔法を使い、直接昌の部屋に来た。しかし転移の位置が悪かったのか、全員ベッドの上に転移してしまい、バランスを崩して倒れてしまう。シャマルたちは直ぐに立ち上がったが、シグナムはなんと、倒れた拍子に昌に乗られた状態になってしまったのだ。

そして引き剥がそうとしたところで………

はやてはシグナムが組み倒されていると勘違いし、シグナムたちはいろんな意味で見られてはいけないところを見られてしまった。



本当に、不幸と言うのは立て続けに続くものだった。





はい、今回急いでてまたちょっとぐちゃぐちゃしてます;しかもあとで解説しますってあんた………とりあえず解説とかは気長に待てください。いや、なるべく早く書くつもりではありますがね。

そして何を間違えたのかエグイシーン書いている私………唯一の救いは血が流れないところ?

………ごめんなさい、本当にごめんなさい。エ、ちょ、ちょっと昌さんどこに連れて行くおつもりですか?ま、待て今回は確かに僕が悪かったからちょっとま(不可視の刃展開によりお見せできません)





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