ミッドチルダの峠には1つの伝説があった……。

 とある峠でデットヒートが繰り広げられていた。1台は赤いバイク。1台は緑の車。2台は一進一退の攻防を続けながら、しかし、当人達は念話で話し合っていた。
(やるじゃないヴァイス)
(ったりめーだろティアナ。俺を誰だと思ってんだ?)
(ストームスターの『嵐帝』でしょ?)
 ストームスター。ミッドチルダ完全制覇目論む新進気鋭、たった2人の走り屋だ。
 メンバーの2人は『嵐帝』・『流星』と呼ばれ、早くも伝説的な存在となり始めている。
ヴァイスは快活に笑った。
(ははは、その通りよ!)
 それに対し、ティアナは不安げだ。
(……あんまり、調子に乗らないでよ?)
(お前こそ、あんま無茶すんなよ? いつかみたいに、なのはさんを怒らせるかもしれねーし)
 含み笑いを交えながら、ヴァイスは言った。
(ちょ、ちょっとやめてよ! あの時、本当に恐かったんだから!?)
 それを聞いたヴァイスは、今度は大声を上げて笑い出す。
(いや、悪りーな。ツボに入っちまってよ)
(……)
(お、おいティアナ?)
(……)
(おーい、ティアナさーん?)
(……)
(こんなんで、ふて腐れるなよ。ちゃんと謝まっから)
(謝っただけじゃダメ)
(じゃあ、どうすりゃいいんだよ?)
 それを聞いたティアナは少しどもりながら言う。
(きちんと……償ってよ)
(どうやってだ?)
(帰ったら、ちゃんと愛して……)
 ティアナの声は真剣だった。恐らく今顔は真っ赤だろう。急な申し出にヴァイスはやや緊張した。
(りょ、了解)
(よろしい)
 少しして、二人同時に吹き出し、笑い合った。
 というか、危険の多い峠でプロ顔負けのレース展開をしつつ、念話でこんな甘ったるい会話ができる辺り、流石は元武装局員のヘリパイロットとエリート部隊のフォーワード゛という所だろうか。
そして、それが起こったのは、レースが佳境に入った頃だった。
最後の一直線。
(今日こそ勝ってやるんだから!)
(そう簡単に負けられるかよ!)
 二人共もアクセルを全開にする。
 そんな時だった。遥か後方から、青い影が迫っていた。その影はみるみる近くなり、

「魔力全開ぃぃぃぃぃ――――――――――――――――――――――っ!!」

 二人をあっという間にブチ抜いて行った。
(い、今のって!?)
(ああ、間違いない。『360』だ)
 蒼い弾丸――通称・『360』。神出鬼没で影と謎の雄叫びしか確認されていない。

 走り屋の間にある本当の伝説だった。



        *



翌日。デッキでストームレイダーを見ていたヴァイスを訪ねる者がいた。
「ヴァイス」
「シグナム姐さん。珍しいですね、ここに来るなんて」
 シグナムは返答せず、ポツリと言った。
「……かったか」
「はい?」
「うら若い果実は美味かったか、と聞いている」
「……な、何の事でしょう?」
 ヴァイスの背中に冷や汗が流れる。
「ほぅ、この私を前にしらばっくれる気か?」
「滅相もないすっよ、シグナム姐さん」
「……まぁ、私も慈悲深い」
 それを聞いてヴァイスは心の中で安堵する。
「陣風で許してやろう」
「え?」

1時間後、デッキの壁にめり込んでいるヴァイスが発見された。



――――――――――
ども、福神です。
えー、ヴァイスとティアナの○○シーンはご想像にお任せします。
『360』に関しては、少し車に詳しい方には分かるはずです、たぶん……。
次回は、ある四人がなのはを取り合う話です。ちなみに、ネタバレ有り(まぁ見てない人はいないと思うけど)。
最近ご無沙汰だったんで二本同時投稿いたしますんで、よろしく!





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