その日、クアットロは戸棚からお気に入りの物を取り出そうとして、固まった。

 リビング(と暗黙の内に呼ばれている場所)に呼び出されたのは、セイン・ディエチ・トーレ・ノーヴェの4人だった。
「わざわざ、呼び出してなんの用だ」
 トーレが他の三人を代表して、不機嫌にいい放つ。
「フフフ、あなた方に集まってもらったのは他でもありません。あなた方の中にあそこの『超ハイテク・高性能センサー付き戸棚』から、わたくしのクロワッサンを盗んだ犯人がいますわ!」
 戸棚を指し、クアットロは宣言した。
 一瞬、全員が呆然とした。
「そんな事のためにわざわざ呼び出したのか?」
 ノーヴェは眉根を寄せて言った。
「いいえ、わたくしのとっては重大な問題ですわ!」
 堂々と言うクアットロに、トーレはため息混じりで聞いた。
「……で、なんで私たちだけなんだ?」
「ドクターもウーノ姉さまも仕事でしたし、他の姉妹たちは調整中だったり任務中だったりでしたから、そんな余裕があるのはあなた方四人に置いて他はいませんわ! それにちゃんとした理由もありますのよ?」
「ほう、なら教えてもらおうか?」
「トーレお姉さまの『ライドインパルス』を使えばセンサーが反応する前にクロワッサンを奪取できるわ」
「誰がそんな下らないことにISを使うか!」
 トーレは不機嫌に叫び、クアットロはそれを無視してセインの方を向いた。
「セインの『ディープダイバー』なら、センサーを通り越してクロワッサンを掠め取ることができますわ」
「確かにできるって言えばできるけど、私ご飯党だしねー」
 セインはあっけらかと言う。その横で、ディエチが妙に低いテンションで言った。
「それじゃあ、私はムリだね。私の『ヘヴィバレル』にそんな効果ないし」
「つか、クロワッサンみてーな頭の奴がクロワッサンクロワッサン言ってんじゃねーよ。自分の頭食ってろ」
 辛抱しきれなくなったノーヴェが、暴言を放つ。
「なんですって! それが姉に対する言葉なのかしら!」
「そんなに言ってほしけりゃ、何度でも言ってやるよ『クロワッサン頭』!」
「キーっ! なんて生意気な妹なの!!」
 そこから、二人の言い争いはエスカーレートしていく。
「お、おいっ。やめろお前ら!」
「ちょっと、二人ともやめなって!」
 それをトーレとセインが止めようとする中、一人傍観する者がいた。
「おなか減ったな……」
 ディエチだった。彼女は『超ハイテク・高性能センサー付き戸棚』へ歩き、中を漁り始めた。そこで、ディエチはあることに気付いて、クアットロに呼びかける。
「ねぇ、クアットロ」
「な、なんですのディエチ」
 肩で息をするクアットロは聞き返し、ディエチは戸棚からソレを取り出した。
「これなに?」
「はぁ?」
 ノーヴェを押さえていたセインはソレを見て、素っ頓狂な声を出した。ディエチの手に握られた物、そこには何もなかった。
 いや、それは見えなかった。
 その事にセインは気付き、ソレを施した人物を見る。他の2名もそれに気付き、同じ様にその人物を見る。
「あ……」
 クアットロが声を上げる。当事者が一番気付くのが遅かった。
 そう、ディエチの手に握られたソレは、クアットロのIS『シルバーカーテン』で透明にされたクロワッサンだった。
「あーあー、そうでしたわ。そういえば、念のためにクロワッサンに『シルバーカーテン』をかけていたのを忘れてましたわ」
 パチン、指を鳴らすと透明だったクロワッサンは見えるようになった。クアットロはディエチからクロワッサンを奪い、いとおしそうにほお擦りした。
「あー、このスベスベとした肌触り。早くかぶりつきたいですわ」
 しかし、だからこそ彼女は気付かない。セインがディエチを連れて『デェープダイバー』でその場から退散し、後ろに二匹を鬼がいることを――。
 クアットロの絶叫が響いたのは、それからすぐのことだった。





――――――――――
どもどもども、福神です。
原作の中盤の時に書いたので、今見るとなんか笑えますね。
まぁ、この小ネタも最初に比べるとだいぶグレードアップしたように思います。
これからもよろしくお願いしますね?
って事で、連続投稿終わり!





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