長い髪を耳の上で少しだけ結った紅と碧のオッドアイの幼女が、洗濯物を折り畳んでいる。
 幼女は全て折り畳むとこちらを向き、
「できた?」
 と聞き、私はなんの問題もなかったのでコクリと頷く。すると彼女は中二階で布団を強いている寮母のアイナに大声で言った。
「できたー」
 アイナは作業を一度中断して、幼女に微笑みかけ彼女を褒める。
「すごいわ、ヴィヴィオちゃん!」
「えへへー」
 私からはよく見えないが、彼女が満面の笑みを浮かべているだろうことはよくわかった。
 ヴィヴィオ。
 彼女が機動六課に来てから、もう一週間になるが、事の発端はそれ以上に遡る。
 フォワードの新人達が初めてもらった休暇の日に起きた戦闘。私はその時、六課の守備あたっていたので戦闘には参加していなかった(主が前線に出たので、余計六課から離れられなくなった)が、その一部始終はよく知っている。
 その戦闘で保護されたのが彼女であった。元々は聖王教会が運営する病院にいたのだが、後に高町が保護責任者になり、テスタロッサが後見人になっている。
 私が主より彼女のガードの任を与えられたのも、ほぼ同じ頃だ。つまり、私はそれ以来ほぼ四六時中彼女と共にいることになる。
 そして――それはそんな時に起こった。

 隊舎でのお手伝いが終わったヴィヴィオは、私と庭に来ていた。
 彼女は高町とテスタロッサの訓練が終わるまで蝶々を追いかけたり、花を眺めたり、ベンチに寝転がって日向ごっこをしたりしている。
 私は彼女の後を黙ってついていく。その間も常に神経を張り巡らせる。なにせ、あの高町とテスタロッサの娘だ。なにかあれば、どんな制裁が下るかわかったものではない。
 そんな事を考えていると、ヴィヴィオが私をじっと見上げているのに気付いた。
「……」
 ジーっと私を見つめる円らな瞳は、まるで「なにか欲しいのに、どうしたらいいわからない」と言った感じだった。
 不意に彼女の目が横にずれ、私はその視線を追う。行き着いたのは私の背中だった。なるほど、と心の中で納得すると、私は無言でしゃがみこんだ。一瞬、目をパチクリとさせた彼女に私が首で促すと、彼女はひまわりのような笑みを浮かべて私の背にまたがった。
 それを確認して、ゆっくりと立ち上がる。それだけで彼女はキャッキャッと喜び、前を指差して言った。
「わんわん、ごー」
 それを聞き、私はゆっくりと歩きはじめた。こうしていると、まだリインフォースが幼い時を思い出す。あの時はまだ舌足らずで、私のことを「ざふーら」と呼んでいたな。
 思い出に浸っていると、ヴィヴィオは喜びを表現しようとして諸手を上げた。その時だった。
「ふあっ」
「む」
 急に両手を上げたせいでバランスが崩れ、彼女はドサッと地面に落ちてしまった。私はどうにか体制を変えてバランスを取ろうとしたが、思い出に浸っていたせいで反応が遅れてしまった。
 即頭部から落ちたが、ここの土は柔らかい。大事には至っていないだろう。だが、
「ふえ、ふ、ふぁ」
 その声に、ウッと思わずうめいてしまう。そして案の定、
「ふあ―――っ!」
 泣き出してしまった。
 さて、どうしたものかと泣き声を聞きながら思う。
 このまま放置するわけにも行かない。だが、今の状態でなにが出来るという訳でもない。
 魔法を使ってあやしてみるか、とふと思ったが自分の魔法にそういった類に応用できそうな物はない。次に人間形態になる事を思いついたが、さらに泣いてしまうのは目に見えていた。と、そこで妙案を思いつき、早速実行することにした。
 視界がどんどん下がり、やがて止まる。そして、泣きじゃくるヴィヴィオの膝に前足を乗せた。
 泣いていた彼女は次の瞬間、泣くのをやめ自分の膝元にいる私を食い入るように見る。彼女の目に映っているのは、子犬形態の私だろう。六課に来てからは隊の守備を固めるのが務めだったため、省エネに適したこの体型を取らなくなって久しい。
 思惑通り、彼女の表情はどんどん笑みに近づき、そして、
「わんわーん!」
 思いっきり抱きつかれた。予想以上の反応に困惑する暇もなく、腕でギリギリと胴体が締まられ、腹が押し付けられた頭で圧迫される。
 数分も持たず、私は気絶した。
 防御力が低いのも、子犬形態の弱点だった。


 白い光に照らされ、私の意識は次第に覚醒する。むくり、と起き上がると隣から誰かの声がした。
「大丈夫ですか、ザフィーラさん?」
 見ると、心配そうにしている高町がいた。周りを見るとここは医務室のようだ。外を見ると、日が傾き夜になろうとしていた。
「問題ない」
「そうですか、でも驚きましたよ。教導してたらザフィーラさんを抱えたヴィヴィオが来るんですもん」
「そうか……。それで彼女は」
「今はフォワードのみんなと遊んでます」
 小さく安堵の息をつく。
「でも、すみませんヴィヴィオのせいで……」
「かまわん」
 いつも通りに答えた時、ふとあるものが目に入る。レイジングハートだった。待機モードの宝石ではなく、バスターモードになっている。嫌な予感が、頭の中を高速で駆け巡る。あのデバイスが今この場であの状態と取るという事は一つしか考えられない。
 不意に高町の顔に陰が射した。
「でも、ヴィヴィオを泣かせた罪……償ってもらいますよ?」
「待て、高町」
「待ちません」
 もはやこれまで、と覚悟した時あることに気付いた。
「テスタロッサはどうしたのだ?」
 高町がその気だというのに、親バカの彼女がここにいないのはおかしい。高町は、フフと含み笑いをして、
「フェイトちゃんなら、『飼い主にどういう躾をしてるのか体で聞いてくる』ってはやてちゃんの所に行きましたよ?」
 レイジングハートを構えながら言った。その時、私は主のご武運を祈るばかりだった。
 その後、黒焦げの私はボロボロになった主に小一時間ほど説教され、晩御飯抜きを言い渡された。





――――――――――
ども、福神です。
ちょっとヴィヴィオが幼すぎた気もしますが、まぁOKでしょう。
最近は長編もやってみようかと思ってます。
さて、この次はナンバーズ第三弾をお送りします。





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