ウェンディ・セッテ・チンク・オットー・ディードの五人はリビング(と暗黙に呼ばれている場所)で、思い思いの時間を過ごしていた。
 が、ウェンディが唐突に、
「前から思ってたんスけど……」
 と切り出した。
 その場にいる全員の視線はウェンディに向き、ウェンディの視線はチンクに向けられていた。
「チンク姉はなんで眼帯してんスか?」
「……それは一体どういうことだ?」
 セッテが聞く。
「どうもこうも、そのままっスよ。あたしらが生まれた時には、既につけてたじゃないっスか。セッテ姉は今まで一度も気にならなかったんスか?」
「私はトーレお姉さま一筋だ」
 頬をわずかに赤くしキッパリと言い放つセッテに、ウェンディはため息をついた。
「ああ、もういいっスよ。せいぜい、宝塚満喫しくださいっス。……そっちの二人は気にならなかったスか?」
『別に』
 オットーとディエチは同時に答えた。
「あんたら、双子って設定だからって声揃えなくてもいいんスよ」
『いや、そんなつもりはない』
「……いい加減、キレるっスよ?」
『ちょっと、ちょっとちょっと』
 ブチ、とウェンディの堪忍袋が切れそうになった瞬間だった。
 バンッ、と机を叩く音がする。チンクだった。
「いい加減にするのは、お前もだ。ウェンディ」
「いや、でもっスけど……」
「いやもでももない。大体、私の眼帯がどうした。この眼帯がお前に迷惑でもかけたのか?」
「そ、そうじゃないっスけど」
「なら、するな」
 チンクは不機嫌な表情で自分の読書に戻る。しかしその時、チンクの肩に手が回された。
 ビクッと反応し、チンクは慌てて振り向くと、そこには嗜虐的な笑みを浮かべたドゥーエがいた。
 それにその場にいた全員が驚き、特にチンクはいきなり現れた工作員の笑みに表情を強張らせる。
「チンク……せっかく、妹が見たいって言ってるんだから見せてあげればいいのに」
 ドゥーエはチンクの眼帯に爪をかけ、一気に剥がし取った。
 チンクの体は一気に脱力し、頭が垂れる。
 何が起こったのかわからない妹たちを他所に、ドゥーエは部屋を後にする。
「あなたたちも早く逃げた方がいいわよ」
 という言葉を残し。
「な、なにがっスか?」
 いち早く、硬直から脱したウェンディが呟いた。まさにその時。
 脱力していたチンクが、ガバッといきなり頭を上げた。普段なら、ありえないほど頬を吊り上げて。
「チ、チンク姉……?」
 ウェンディが呼びかけるがチンクはまったく反応せず、手を交差させた。
 瞬間、チンク周囲には百を越えるスティンガーが生まれ、その手にも同じくスティンガーが何十枚も握られていた。
「いぃぃぃ!」
 それを見て、ウェンディの口から悲鳴が漏れる。
 そして、
「みぃんな、みんな壊れちゃえ―――――――っ! あははははははははははははははははははははははははははははははっ!!」
 チンクはスティンガーを手当たり次第に投げ始めた。
 もちろんISが発動していて、スティンガーはおろか、スティンガーに触れた金属でさえも爆発を起こしていた。しかも狭い部屋でそれをしたものだから、スティンガー同士が誘爆していく。
 それが偶然にもモンロー効果を生み、周囲全てを破壊せんとしていた。
「いいぃぃぃぃぃぃっやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 飛来するスティンガーから逃れ、爆発する金属をかわしながら絶叫を上げるウェンディ。
 彼女が最後に見た最愛の姉は、悪鬼と化していた。


 焼け野原となった拠点の中に立ったスカリエッティ。その足元には、うつ伏せになったり白目になったりの違いはあるが、いずれも黒焦げになったウェンディ・セッテ・オットー・ディードがいた。
 その斜め後ろに立ったウーノは資料を流し見しながらスカリエッティに話し掛ける。
「この拠点はもうダメですね。それに、どこかに埋まっているチンクを見つけませんと……」
 しかしスカリエッティからは何も返ってこない。
 と思いきや、彼は突然肩を震わせ笑い出した。
「ハハハハハ、さすがは私の作品だ! 素晴らしい。なんて、素晴らしいんだ! 最高じゃないか!」
 その後も狂気的に笑い続けるスカリエッティを見ながら、ウーノはポツリと呟く。
「……このマッドが」
 何もなくなった鉄の平原の中で、マッドのバカ笑いがしばらく響いていた。





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ども、福神です。
前の「黒和さんの事件簿」では出てこなかったキャラを総出演させてみました。
今後ともよろしくお願いします。
次回は桃子さんと士郎の話です。





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