「・・・っ、嘘だろっ!」
高速で飛来する弾丸を横に飛んで回避しつつサクヤはつぶやく。


「後方より爆発物が飛来、距離60」
手に携えた愛機が淡々と危機を告げる。
振り返り目標を視界に捕らえると防御行動をとるべく詠唱を始める。
「氷獄の精よ、我に拒絶の壁を与えよ」
足元に円形の魔方陣が展開し、魔力を収束する。

「アイシクルフォール!!」
詠唱を完了すると同時に前方に氷の絶壁がそそり立ち、爆音を立てながら榴弾を防ぐ。

「なんで・・・」
前方で桜色の閃光が爆ぜる。
「なんでここに質量兵器があるんだよ!?」



魔法少女リリカルなのは-After determination-

act01:凶弾


―遡ること五時間前

定刻の五分前にミッドチルダ首都、クラナガン郊外にある士官養成学校にサクヤは到着した。
校門をくぐり校舎内へと入る。傍から見ても中学生にしか見えない少年が武装局員の制服を身にまとい、
廊下を歩いている様に士官候補生たちは訝しげな目をむける。
実際サクヤは中学生であるし、いくら就業年齢が低いミッドチルダとはいえ、その姿はかなり奇異である。
因みにサクヤの身長は160cm強程度であるのでその奇特さ加減を際立たせている。

そんな視線をひしひしと感じつつも事務所にて身分証を提示し、ここでも係の人間に目を丸くされつつ手続きをすませる。

「ではご案内いたします。」
手続きをしてくれた事務職員に連れられ訓練室へと向かう。
控え室に通されるとそこには自分を呼び出した師の姿があった。

「定刻どおり、流石サクヤくんだね。」
「お久しぶりです、ししょ・・・なのはさん。」

高町なのは戦技教導官 管理局魔道士ランク空戦S+
若干九歳にしてPT事件、及び闇の書事件解決の一端を担った天才魔道士。
管理局入り後もその活躍はとどまるところを知らない。
また、教導官として、スパルタ教育という言葉が生ぬるく感じるほどの徹底指導で数々の優秀な局員を輩出している。
・・・ちなみに俺の師匠でもある。無論両親からも鍛えられてはいるが、俺の能力が砲撃魔法に特化しているので、
両親の反対を押し切り師匠、もといなのはさん(本人は師匠と呼ばれるのを嫌っているため自分のなかでしか師匠とはよんでいない。)
に弟子入りしたのである。


後でものすごく後悔したが。


「ごめんね、本当は一人でやるつもりだったんだけど講習する人数が倍になっちゃって。」
「いえ、かまいません。力不足かも知れませんがよろしくお願いします。」

そりゃあ伝説のAce of Aceの講習といったら参加人数も増えるだろう、一見さんならなおさらだ。
でもやっぱりほとんどは俺と同じように後悔するんだろうが。

「よし、じゃあ今日の予定を説明するね。」
そういうと師匠はパネルを操作しスクリーンに情報を投影する。

「今日指導してもらうのはランクB+からAランクまでの特進クラス。」
「エリートさんですか。」
スクリーンに男女ともに10〜19歳までの生徒たちが三十人ほど顔写真、魔道士ランク、戦闘形態などが映される。
ますますやりにくい、俺のランクは空戦AA、つまり大した開きがない。
「陸戦と空戦をごた混ぜにしたクラスだから、午前中はツーマンないしスリーマンセルでのチーム演習。」
「二人ないし三人を同時に相手をしろと?」
「大丈夫だよ、サクヤくん強いし。」
そういう問題じゃ。
「昼食後は人海戦術の訓練。」



はい?




「すいません、要約していただけますか?」
「だから人海戦術だよ。私とサクヤくんでこのクラス全員を一度に相手するの。」
いやいやいやいや、それはないでしょう、死人が出ます。
というかまず俺が死にます、そしてあなたに向かっていった候補生が死にます。玉砕です。
つか何の必要性があって人海戦術なんぞの訓練を。
「大丈夫だよ、私リミッターかかってるし。」
リミッターかけていても多分死にます、つか非殺傷設定でも死にますって。

「じゃ、始めようか。」
「・・・・了解しました。」
何を考えているかわからないが、おそらくは大丈夫だろうと折り合いをつける。
少なくともこの人は教えることに関してはこれ以上ないプロフェッショナルなのだから。



訓練室といっても部屋でない。
地球における軍隊の演習場と比べてなんら変わりのないだだっ広い空間である。

候補生は既に整列をしている。
向かう途中にふと疑問を投げかける。

「そういえば今日は旦那さん結界張りに来てないんですか?」
「うん、リミッターかけてるし、今日は蔵書整理でユーノくんは忙しいみたいだしね。」

ユーノ・スクライア
時空管理局無限書庫司書長にして希代の結界魔道士。
そして高町なのはの夫。
おそらく彼女の全力全開を受け止めきれる結界を張れるのは彼だけであろう。
その彼が来ていないということは、
SLBとディバインバスターは封じられるということか。
死人がでる確立がぐっと下がったことに胸をなでおろしている間に整列している候補生の下へたどり着く。

「高町なのは一等空佐です、今日はよろしくお願いします。」
お願いします、と一糸乱れぬ挨拶が返ってくる。さすがは士官学校。
「そしてこちらが」
「助手のサクヤ・I・ハラオウン三等空尉です。よろしく。」
そう挨拶すると今度は少しどよめきが起こった。
まぁ自分でいうのもアレだが仕方がないだろう。
執務官資格保有の提督、今は本局勤務であるがその実績は文句のつけようが無いほど立派なものである父。
古代ベルカ式魔法継承者、および指揮官資格保有の敏腕捜査官である母。
その二人の子供というだけで噂の種には少なからずなっているのである。


「それでは講習を始めます、午前中は二人ないし三人一組を作ってください。」
どよめきを鎮めるかのごとく師匠は指示を出し始める。

少々嘆息しつつも準備をするため、懐から携帯電話、もとい愛機であるデバイスを取り出す。
「Intelligent device Alkaon start up」
起動ワードを声に出し、スタンバイモードからデバイスモードへと移行させる。
「Standby ready」
内蔵された人工知能が返答をし、自らの姿を変える。
それと同時に俺も武装局員の制服から蒼きバリアジャケットへと装いを変える。
「complete」
「今日は少ししんどいぞ、アルケイオン。」
「No problem my lord.」
インテリジェントデバイス「アルケイオン」二つ名を氷結の魔槍。
俺が師匠に弟子入りするときに親父がフレームを組んで、兄貴がAIをくみ上げて俺に渡してくれた相棒である。
無論その後の整備及びアップデートは俺がやっているのだが。

午前中は一グループ五分以内に連携を駆使してターゲットを鎮圧するという内容だった、
が、あまりこういった訓練を受けてはいなかったようで、連携がとれるわけも無く、足を引っ張り合って五分もったグループは無かった。
見かねた師匠は訓練内容を変更、午前中を講義形の授業にし、午後はそのままの予定で行くことにした。

「本当にここ士官学校ですかね?」
昼食を取ったあとの休憩時間に小声で聞いてみる。
「ここの生徒は実戦投入をされたことが無いんだよ。」
「つまり場数が足りない、と。」
「うん、だから私が呼ばれたんだけど・・・」
「予想以上にひどかったと・・・・」
「でも個々の力はなかなかのレベルだよね。」
「ええ、先ほどはそれが災いしていましたが。」
確かにエリートだけあって個人の技量は高かった。
「だから午後はがんばってね♪」
「死なないようにします。」

再び演習場にでて、上空へ飛翔する。
「とりあえず最初はありったけ弾幕張ろうか。」
背中合わせにした師匠が言う。
「それで反応をみたらあとは各個撃破なりなんなりサクヤくんの好きにしていいよ。」
「・・・了解」
まったく意図が読めないがまぁいいか。

「全員、自分の思うように戦ってください。特攻、協力、手段はサボらない限り不問とします。
頭部、胸部等の急所に攻撃が当たった、もしくはダメージカウントが一定の数値を超えると強制退場になります。
私たち二人にクリーンヒットを一撃でも当てて撃破できればあなた方の勝ちです。では・・・・」

「開始!!」

いっせいに候補生たちが攻撃行動に出始める。
呪文詠唱をはじめるもの、一気に距離を詰めて近接戦闘を仕掛けようとするものと様々である。

「行くぞアルケイオン。」
「Yes,my lord.」
「はじめるよ、レイジングハート。」
「Ok,master.」
「アクセルシューター」「スティンガースナイプ」
「「Fire!!」」

桜色の光弾と蒼い槍が降り注ぐ。
候補生たちはその圧倒的な弾幕に目を見張り、慌てて魔法障壁を展開する。
五分ほど撃ち続けていると、業煮やしたのか、攻撃に転ずるものが出てきた。

「・・・よし、行くぞ!」
スティンガースナイプへの魔力出力をとめ、地上に向かって急降下をする。
その間に一気に詠唱を済ませ
「ディバインッ・・・・」
地上に降り立ち
「バスターァァァァ!!」
師匠直伝の砲撃魔法を叩き込む。
本家に比べると十分の一の威力も出ていなかったようだが、それなりに効果はあったようで数人が強制転送された。

「とばしてるなぁ、サクヤくん。私もいこうかな。」
「Please be easy master.」
「わかってるってば。」

桜色の弾幕も止み、白い魔王が降臨する。
こりゃ三十分もつかな?


しかしまぁ意外なことに三十分たっても十人ほど生き残っていた。
いい加減砲撃の軌道も読め始めたのだろう、師匠もだいぶ手加減をしているようだし。
設定戦闘時間は残り少々、かなりいっぱいいっぱいであるがワンランク上の術を行使するために愛機へ魔力を注ぎ込む。

詠唱を開始しようとしたそのとき、目の前で対峙していた候補生が肩口から血を噴出して倒れる。
「なっ!?」
まて、俺は攻撃してないぞ。師匠の魔力も感知しなかった。
そもそも魔力を感じない、流れ弾なら非殺傷設定のはずだ、「出血」などありえない。
考えろ、状況把握をしろ。
違う!その前に候補生の退避が先だ。
「アルケイオン!!あと何人だ!?」
「視認可能範囲で八人です。」
(なのはさん!!聞こえますか!?)
演習場のどこかにいる師匠に念話で呼びかける。
(サクヤくん!?その分だとそっちにも出たみたいだね・・・・)
いつもの声と打って変わって声に緊張感が見られる、驚愕の色も少し混じっているようだ。
(そっちは何人残ってる?)
(八名です、うち一名負傷!)
(こっちは三人だね、一旦合流しよう。こっちがそっちに行くからそれまでお願い!!)
(了解!)
念話を切り、指示を飛ばす。
「総員フィールド防御を最大出力で展開、魔力が枯渇してるやつはこっちにこい!!」
しかし恐怖で耳にはいらないようだ。負傷者の下に駆け寄りつつ怒号をとばす。



「死にたくなかったら動け!!」



やっと反応し、指示通り動きはじめる。
・・・怒号をとばすのは精神衛生上よくないんだがなあ。
負傷した候補生の様子をみる。同い年くらいの女生徒だ、意識がないようなのでバイタルチェックをする。
この際セクハラだなんだとはいってられない。
「アルケイオン、出血量は?」
「まだ大丈夫です。」
バリアジャケットを解除して止血作業をする。傷口はあきらかに弾痕だった。
(なんで弾丸が?)
疑問を持ちつつも負傷者+魔力が枯渇した三人の周りにドーム型のシールドを張ると、師匠が合流する。

「全員無事?」
「はい、負傷者も止血をしましたので病院に搬送すれば問題ありません。」
「結構魔力が枯渇してる子がいるね・・・じゃあ退避および増援要請、校舎の方の確認をしに行こう、
私が先行して誘導するから着いてきて!!」
「俺はどうしましょう?」
「しんがりをお願いできる?」
「・・・・大役ですね。」
「大丈夫だよ。」
そういうと耳打ちをする。
「まだ本気だしてないでしょ?」
よく見ていらっしゃる。
「じゃあ行きます!!」
そういって師匠は負傷者を抱えて低空飛行を始める。
枯渇した候補生には魔力を分け与えたようだ。

アルケイオンを構え、感覚を研ぎ澄ます。

「・・・っ、嘘だろっ!」
高速で飛来する弾丸を弾いてサクヤはつぶやく。


「後方より爆発物が飛来、距離60」
手に携えた愛機が淡々と危機を告げる。
振り返り目標を視界に捕らえると防御行動をとるべく詠唱を始める。
「氷獄の精よ、我に拒絶の壁を与えよ」
足元に円形の魔方陣が展開し、魔力を収束する。

「アイシクルフォール!!」
詠唱を完了すると同時に前方に氷の絶壁がそそり立ち、爆音を立てながら榴弾を防ぐ。

「なんで・・・」
前方で桜色の閃光が爆ぜる。
「なんでここに質量兵器があるんだよ!?」

ここミッドチルダでは旧暦にあったベルカとの戦争での反省から、
新暦になってからは質量兵器の使用を禁止、比較的クリーンで安全な魔法エネルギーが重用されてきた。

「前方注意」
短く警告が発せられる、それに伴い前方を注視する。
あまりの非現実な光景に思わず驚愕の声をもらす。

前方およそ一キロ先にあったのは

地球でいうところの大小様々な無人兵器の編隊だった。
「どっから出てきやがった・・・」
「微量の魔力反応があります、おそらく召喚魔法かと。」
「召喚士は近くにいないな。」
とりあえず目の前の敵を排除することを優先することにする。

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト」
こっちは親父直伝の広域攻撃魔法である。
制御可能なギリギリの数まで魔法刃を作り出し、撃ち込む。
が、着弾した感触がない。
「外した?なら土煙が・・・」
「目標はアンチマテリアルフィールドを展開しています。」
「早く言え!!」

貫通力のあるスティンガーブレイドも駄目となると
「物理効果を付随させるしかないか、すこし無理するぞ。」
「No problem my lord.」


深呼吸をして意識を集中させる。

「氷獄の王よ」

魔法陣を展開する。

「我、邪を掃討せんとする者なり」

自分の魔力をそのまま冷気に変換する。

「我にその息吹を貸し与えよ」

周囲の気温が急落し、無数の氷塊が現れる。

「リンガリングコールド!!」



氷塊が一斉に無人兵器を強襲する。
「よし、当たった!!」
氷塊は易々とAMFをつきぬけ、フレームを砕く。
これが氷結の魔槍の真髄である。

アルケイオンが熱を排気しつつ言う。
「ほぼ殲滅、新手の反応なし。」
それを聞くと崩れるようにひざをつく。
「はぁっ、はぁっ、きっつ・・・」
魔力をそれなりに消費したあとの大技だったので負担が大きかった。




三十分後、増援が来たがほとんど俺と師匠で片付けてしまったようなので実況検分をして帰っていった。

「ご苦労やったなぁサクヤ。」
捜査官として検分に来ていた母が声をかけてくる。
「でもこの程度でへばってるとクロノくんにおこられるでぇ。」
「言いつけちゃだめだよはやてちゃん、がんばってくれたんだから。」
師匠がフォローをいれる。
「冗談や、そもそもクロノくん子供には甘々やし。」

「なんで質量兵器がここにあったんだ?」
「それを今から調べるんよ、組織的なものだったら大問題やし。」
「サクヤくんの話だと誰かが召喚したものみたいだけど。」
確かに組織的犯行だとするといろいろ根底から覆す大問題である。

「とりあえずこの無人兵器を技術部で検証してからやなぁ。」
俺が破壊した残骸をつつきながら母が言う。
「AMFも搭載してるとなると魔道士が関わってる可能性も高いしね。」
「やな、さて後は任せて帰ろうか。」
「サクヤくん、今日は巻き込んじゃってごめんね。」
「いえ、まったく問題ありません。」
「またお礼とお詫びするから!」


そして母と一緒に帰路につく。
やれやれ、これで明日学校だというんだから嫌な話だ。


to be continued.....









後書き
どうも、jamiraです。ここまでよんでくれた方、本当にありがとうございます。
懲りもせずに続きを書きました。しかし自分の文章力のなさに無きたくなりますw
しかもかなり長い上に戦闘シーンなんかgdgd、精進します。
その上クロノがでて来てない・・・書きたいのに。
あ、それとサイモン・ユージさん、にゃ〜な人さん、文明さん、こんな稚拙なSSに感想をありがとうございます。
本当に感謝しています。
さて、次は少々軽め日常編を書こうかと思います。
あつかましいですが、もしよければ感想等をいただけるとうれしいです。
では。





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