魔法少女リリカルなのは-After determination-

act02:蒼天



空が青い。


通学の途中自転車を押しながらそんなことをふと思う。
雲がところどころ白く伸びていてなかなかにさわやかな晴れ模様だ。
今年の課題曲のマーチにそんな名実ともにそんな感じの曲があったな。

と、思考をしつつ。

「重いにーもつをー、枕にーしたらー」
某特撮のEDテーマを口ずさむ。
マルチタスクができる魔道士ならではの芸当だ。

「僕はー、青空にー、なーるー。」

そのEDテーマを歌いきり、今度はOPだとブレスを深くしようとしたその時。

トンッ

「――!?」
わき腹に突き抜ける衝撃が走り、軽い呼吸困難に陥る。

ガッシャーン

無論平行感覚も失うわけで、漫画みたいな音を立てながらそのまま転倒する。

「っ、ごふっ、げふっ・・・っ護・・てめぇ・・・・。」
倒れこんだ姿勢のまま掌底を放った体制の相手をにらむ。


「朝から鼻歌なんかうたって油断してるから僕程度の人間に襲われるんだろう?
まったく、母さんに報告したらどうなるだろうね?」
「・・・・それだけは勘弁してくれ。」
惨劇程度じゃすまされないからな。

「あっはは、だろうね。」
他人事だと思いやがって。
自転車を起こし移動を再開する。
「ってかさ、昨日どこ行ってたの?部活は無かったのに。」
「お前のお袋さんに呼び出されてたんだよ。」
「そーだったのかー。」
隣で間抜けな返答をしているこの男は高町護、つまり師匠の息子である。
同い年であり、私立聖祥大学附属中学校に通っている。
親が俺の師匠であり、それ以前から付き合いがあるいわゆる腐れ縁だ。

「まぁ確かにいい天気だよね、歌いたくなるのもわかる。ただ往来で仮面ライダーはまずいよ。」
「うるさい、いい曲だろうが。それに誰もわからねぇよ。」
「そんなことないと思うけどなぁ。」

そんな他愛のない会話をしているうちに学校到着する。
「じゃ、後で教室でね。」
「おう。」
短く返事をして一旦別れる。
護は図書委員なので毎朝図書館を開けにいく。
あの親ありにしてというか、蛙の子はというか、まぁそんな感じだ。

かくいう俺は朝練のために練習室へと向かう、あまり人が来ていないようで楽器の音はぼつぼつとしか聞こえない。
ドアから入るといろいろ面倒なので窓から侵入する。

「あ、先輩おはようございます。」
「ん、おはよう。」
後輩の女子生徒が挨拶をしてくる。
「今日も屋上ですか?」
「ああ。」
「ついてっていいですか?」
「断る。」
「え〜。」
駄々をこねている後輩を一蹴し、練習台とメトロノームとスティックを持ち、屋上へ向かう。
朝は基礎練習のみを行う。ついでに魔法の基礎トレもしてしまうので他人は寄せ付けないようにしている。
にも関わらず先程のようについてこようとする人間がいるのが謎である。

スティックで準備運動及び柔軟を済ませたあとメトロノームをつける。
テンポ80から四分、八分、三連譜、十六分、六連譜などなどを無心に行う。
この時間がどうしてなかなか至福なのだ。

テンポ208を終えてメトロノームを止め、懐から愛機を取り出し時間をみる。
「うわ、もうこんな時間かよ。」
背面ディスプレイに表示された時刻は予鈴三分前を示している。
「道ばたで寝転んでいたのが敗因ですね。」
「あれは護がだな、」
「口より身体を動かしたほうが懸命かと。」

相棒に諌められ急いで片付けをすませ、教室へと滑り込む。
ギリギリHRには間に合ったようだ。
息を整えつつ席につくと護が話しかけてくる。

「遅かったね。」
「お前のせいで予定が狂っただけだ。」
「あは、ゴメンゴメン。」

「高町ぃ、サクヤ、男同士でコソコソやってるのは気持ちわるいからやめろ。」
担任から注意をうけ、会話を中断する。

出席確認もすませ、あまり意味のない連絡事項を右から左以下略にしていると念話がだれからかつながる。

「やっほー、おきてる?サクちゃん。」
「ハルミか、起きてるよ、どこかの誰かさんとは違って。」
そういって隣の居眠り男を横目で見やる。
「お昼の時間は空いてる?」
「特に何もなかったと思うが。」
「じゃあ大丈夫だね、いつもの場所でいいね。」
「いいけど何があるんだ?」
「それは後で口頭で伝えに行きまーす。じゃねっ。」
「は?ちょっ、まっ。」

一方的に念話が遮断される。不可解だがかけなおすのも面倒なので放置しておく。
「昨日に引き続き嫌な予感ばっかするんだが・・・・」
「ハル姉から?」
「起きたのか。」
「寝てません、寝てませんよ?」
「その寝跡をなんとかしてから言いやがれ。」
「う〜、で、なんだって?」
頬をについたあとをゴシゴシとこすりながら護がたずねる。
「なんか昼に話しがあるらしい。」
「ふ〜ん、たしかに嫌な予感だね。」
「的中したらお前も道連れな。」
「え〜。」
むしろお前も巻き込まれるのは必至な気がするが。

「で、一時間目ってなんだっけ?」
HRが終わり、また隣で船を漕いでいる護に起こしついでに質問する。
「・・・うにゃ?えーっとnってサクヤ!後ろ!後ろ!」
「?」
なにやら喚いているので振り返ろうとしたその時――
「数学だよっ」
背後から声を投げかけられそのまま視界が逆転する。
有体に言えば押し倒される。
「そうか、数学か、ありがとう冷泉。」
俺を押し倒した張本人、冷泉翠風に声をかける。
「どういたいしましてっ。」
「それはそうと早くどいてくれないか?」
「まだ授業は始まらないよ?」
「そういう問題じゃなくてだな・・・」
流石に重いとかデリカシーのカケラも無い台詞を吐くほどサクヤも野暮ではない。
むしろ、クラスの皆様から発せられる殺気が恐ろしい。
たまにベキッとかいう破壊音も聞こえる。
仕方が無いので冷泉の身体を持ち上げ、ストンと床に下ろし立ち上がる。
「む〜。」
なにかよくわからないがうなっているのは無視しておく。

席にもどり嘆息する。
さっき押し倒してきた生徒は冷泉翠風、同じクラスの女子だ。
中学からの編入なのだが、当時からよくこのように過剰な対応をされる。
その理由はまったくもってわからない。
非常に不可解である。

「毎度ながらあいつのアクションはオーバーを通り越して暴力の域だな。」
「全員にそうしているわけじゃないみたいだけどね。」
「俺なんか恨み買うようなことしたか?」
「・・・サクヤ、そのうち刺されるよ?」
「?」

こちらも不可解である。


「はーい、じゃあそこでくっちゃべってる二人にはこれ解いてもらおうかなぁ。」
げ、授業始まってたのかよ。

そういうと先生は数式を二つ書き出す。
しぶしぶ黒板の前に立ち、数式を眺める。

二次方程式か・・・・うわ、虚数解だよ、こんなん中学生にやらせんなって。
ちらと横を見ると護はグラフを書いている、そっちは三角関数ですか、ご愁傷様。

そんなこんなで授業は進んでいき、昼休みへと突入する。
ちなみに護は二回ほど居眠りをして怒られていたがそれは割愛させていただこう。




再び屋上へと上がり、弁当を開く。
「いつ見てもおいしそうだよね、サクヤの弁当。」
「まぁお袋は9歳そこらで料理ができたらしいからな、年季がちがうんだろう。」
「そーなのかー。」
「なんだその間抜けな返事は、それに師匠は料理が下手なわけじゃないだろ。」
「母さんはお菓子の方が得意だからね。」
「喫茶の娘は伊達じゃないか。」
喫茶翠屋には幾度となく足を運んでいる。
小学校に入ってからは大の甘党である姉によく連れてこられたし、修行中も何度か来た。
姉が甘党なのはおそらく祖母の影響だと思われるが。

弁当箱も空になり、昼寝でもしようかと話をしていると背後に殺気を感じたので軽く身体をそらす。
するとさっきまで頭があった位置、しかもこめかみの位置に拳が通り過ぎる。

「・・・今日は本当にどつかれる日だな。」
「避けちゃだめじゃん、麗しきお姉さまの愛情を受け止めなきゃ。」
「そんな愛情はいらん!そもそも麗しいひとはこめかみなんか狙いません!!」
「ちょっと三半規管を揺らそうと思っただけだよ。」
そんなことをしたらしばらく立てないでしょうが!
「ハルミ、流石に食後にそれは、まずいよ・・・」

そうハルミの背後で微妙に突っ込むところを違えているのは、
ルナサ・T・ハラオウン、親父の義妹の娘、つまり俺たちの従兄妹にあたる。
ちなみに学年はひとつ下になる。

「で、何に付き合えばいいんだ?」
「そうそう、さてサクヤくん、今日は何日でしょうか?」
「質問を質問で返すな・・・五月の一日だが?」
「そう!昨日局のほうからお給料が支給されました!」

既知ではあると思うが、俺は管理局武装局員だ。
つまり一応給料が出る。学生をやっている身なのでさして多くはないが。
しかし一介の中学生が持つには十分過ぎる額である。
またハルミも管理局に勤める身であり、同様に給料が出る。
ちなみにというか必然的ではあるが護もルナも同様だ。

「そうだな、で、給料が出たからどうするってんだ?」
「そうしたらやることはひとつじゃない。」
「貯金か?」
「お買い物に決まってるでしょ!」
「やっと話が見えたぞ。荷物もちをしろってんだろ?」
「ご名答!!」

フフーンと上機嫌そうに我が姉はくるくると回転している。

「悪いが今日は空いてないぞ。」
「あ、今日じゃなくて今度のGWに行こうと思ってるんです。」
「もちろん護君も一緒にね。」
「やっぱりそうなるの〜?」
「そもそも俺らとじゃなくて友達と行けよ、この前だってそうだったろ?」
「残念!今回はミッドに新しくできたショッピングセンターに行こうと思うの。」

そういえばCMでも盛んにやっていた気がする。
クラナガンに隣接する都市にできるのだとか。
テーマパークと自然公園を併設した相当大規模なものらしい。
ただ家からも遠い上に買い物は近所でこと足りるのでさして興味は無かった。
そもそも我が家の男子は物欲はあまりないのだ。
親父がもっとも顕著で、給料と有給が溜まる一方のようだ。
兄貴はちょくちょく本を買っているようだがそれ以外に散財をしているところは見たことが無い。
それに対して母さんとハルミ、フェイトさん(叔母さんと呼ぶと殺られる。)とルナサ、それに師匠と、
女性陣の購買意欲は非常に高い、買い物時間も常軌を逸しているほど長い。

「GWはまぁ空いてるが・・・・」
「僕は無限書庫に引きこもっていようと思ったんだけど。」
「GWまで仕事する気かお前!?」
「はいは〜い!じゃあ二人ともOKだね!」
「よろしくお願いします。」
ハルミはビシッと指を突きつけ、ルナサは頭を軽く下げるといそいそと校舎にもどっていく。

「・・・・はぁ。」
「なんかこう、既に気疲れが・・・・」
「俺もだ、次の授業はたたっ斬ることにしよう。」
「あー、僕もそうしよう。」
「じゃあ人払いの結界頼む。」
「了解。」

眠気があちらの世界へ迎えに来てくれたのでそのまま身をゆだねる。
日光で程よく温まった床に臥し、目を閉じる。
ものの数分で意識が飛んだ。

―――――放課後


部活を終えて、図書館へと向かう。
閉館時刻はとうに過ぎているのに図書館に明かりがついていたからだ。
ノックをする、返事が無いので勝手に入らせてもらう。
図書館特有の、いわば「本のにおい」が脳に伝達される。
本来なら司書が座っている席に護がいた。
嘆息しつつ声をかける。

「あと五分で下校時刻だぞ。」
「・・・・。」

けっして無視されたわけではない、単に周りの音が聞こえないだけだ。
こうなると念話もつながらないので実力行使にでる。
手にしていたハードカバーをとりあげる。

「あれ?もうそんな時間?」
「そうだ、まったく、本ならお前の職場に死ぬほどあるだろ。」
「こっちの本は数が少ないんだよ、特に文学となるとね。」
「わかったわかった、さっさとこの本の牙城を片付けろ。」

足元から腰の高さほどまでつみあがった文庫やハードカバーの山を横目にいう。
 
「あー!!」
「なんだ、どっかの文学少女が本でも喰ってたのか?」
「しおり挟まずに閉じたね!?」
「ん?・・・あぁ、すまん。」
「まったくサクヤはその辺が抜けてるんだから。」
「悪かったって。」
それでもなおぶつぶつと文句をいっている護をなだめつつ、校舎をでる。
よく晴れていたので夕陽がなかなかにきれいだった。


「この後サクヤはどうする?」
「一旦局の方に寄るつもりだ、昨日の時間外勤務の申請もしなきゃいけないしな。」
「そんな申請必要なの?」
「しないと総務課から怒られる、去年親父が年末に殺されかけてた。」
「そーなのかー。じゃあ今日はここでお別れだね。」
「クラナガンに帰らないのか?」
「今日は翠屋で手伝い、GWに向けての仕込みもあるってさ。」
「そいつはご苦労なことで。」
「じゃあ、また明日。」
おう、と短く返事をすると転送ポートのあるマンションへと向かう。
そのマンションは親父が仕事をこっちでしたときに使っていたらしい。
確かその時に母さんとも知り合ったとか。
執務官時代というからかなり前の話になる。
・・・まてよ?執務官時代って今の俺とそう変わらないよな?
それで五歳下の母さんってことは若干九歳かそこら・・・・
父がとんでもないロリコンだったことにいまさら気づく。
ひどいな、これは犯罪に等しいぞ?

そんなことを考えつつ歩いていると背後からに気配を感じとっさに飛びのく。
アルケイオンをポケットから引き抜きその気配の主と対峙する。


「携帯なんか構えてなにするの?」

――冷泉翠風だった。
制服から私服に着替え、買い物袋のようなものを提げている。
これから買い物にいく途中だったのだろうか?
だとしたらあの気配はなんだったんだ?殺気ではないがなにか違和感を感じた。

「どうしたの?」
ずいと顔を近づけてこちらを覗き込もうとしてくる。
「・・・なんでもない。」
相手の肩をつかみ引き離し、アルケイオンをポケットに戻すついでに尋ねる。
「これから買い物か?」
「うん、今日のお夕飯の材料をね。」
「飯はお前がつくってるのか。」
「ほとんどね、サクヤくんは料理するの?」
「最低限のものが作れる程度だ、あれは料理とは呼べない。」
「じゃあやっぱりお母さんが?」
「ああ、母さんが仕事でいない時はハルミが作るが。」
「・・・ふーん。」
「冷泉さん?なんか怖いんですけどその「ふーん」。」
「そんなことないよ?それよりお買い物付き合ってくれない?」
「なぜそうなる!?」
「ほら、サクヤくんの好物とかも知りたいし。」
「何のためにだ。」
「ん〜、いいからいこっ。」
そういうと冷泉は俺の制服の袖を引っ張りながら駆けていく。
総務課って何時まで開いてたっけ?


つれてこられたのは大手のスーパーである。
当たり前のようにカゴを持たされ、冷泉について回る。

「今日はパスタにしよう!、サクヤくんはどんなパスタが好き?」
「ロングパスタだったらクリーム系統以外なら何でもいけるが。」
「カルボナーラとかはだめ?」
「なるべくなら勘弁願いたいな。」
そんな会話をしながら重くなっていく買い物カゴを見つめる。
カットトマト缶にズッキーニ、ベーコンにマッシュルームか。
意外に俺の好みにマッチしている内容に驚く。偶然だろうが。
必要なものはもうそろえたらしく、レジへと向かう。

「こうしていると夫婦みたいだね。」
「なにを戯けたことをいっている、ほら、レジ空いたぞ。」
会計をすませ、食材を袋に移し変える。

「ここまで言っても気づかんか・・・・」
「ん?何か言ったか?」
「ううん、なんにも。そうだ!今日うちでご飯たべていかない?」
「あー、悪いが行かなきゃいけないところがあってな。」
「そうかぁ、残念。」
「またの機会によろしく頼む。」
「うん、今日は付き合ってくれてありがとう。」
「あぁ、またな。」

冷泉と別れ、今度こそ転送ポートへと向かう。
転送先の座標を本局に指定し、飛ぶ。
思ったよりも時間をかけずに手続きをすませ、クラナガンにある自宅へともどる。

帰るなり、遅かったことをハルミに詰問されたが軽くあしらい自室に入り、ベッドに身を投げる。

ふぅ、今日も今日で疲れたな。
まぁこんな疲れなら多く味わいたいものだ。
あー、でもGWが面倒だな。
そうしてうとうとしていると母にたたき起こされた。
さて、明日からどうなることやら――




to be continued.....










後書き
どうも、お久しぶりです、jamiraです。
あまりにも部活が忙しく、あまりPCに触るチャンスが無かった上に、
この回がかなり難産でして、遅々として筆がすすまなかったのでこんなんになってしまいました。
前二つをはるかにしのぐgdgd感満載でお送りいたしましたが、
もし読んでいただけたのでしたら幸いです。

新しくでてきた三人の子供たちの補足説明をいたしますと、
まず「高町護」、まもると読んでいただいてOKです。
言わずもがな、我らが魔王と司書長殿の嫡子です。
局で勤めているのは無論無限書庫です。
高町姓を名乗っているのはその方が便利だからです、いろいろと。

次は「ルナサ」この娘はフェイトの嫡子ではありません。
むしろフェイトさん独身ね。
とある事故での孤児をフェイトさんが保護。
そのまま養子に、という形です。
その辺についてはまたおいおい書いていきます。

最後に「冷泉翠風」れいぜいみどり、と読みます。
サクヤくん大好きっ娘です。ハルミとはサクヤを奪い合う程度の仲です。
かなりポジション的には重要ですが現時点ではここまで。

ちなみに冒頭にもあるようにjamiraは仮面ライダークウガが大好きです。
だれか同志はいまいか。

次はGW編になります、今度はgdgd感を抑えられるよう精進します。
では、また感想等いただけましたら幸いです。
それでは。





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