―時空管理局本局、その最深部の廊下を、クロノ・ハラオウンは歩いていた。
いつもの漆黒のバリアジャケットではなく、管理局の制服である。
このエリアに入れるのはよほどの高官でないと入れない。
クロノ自身、このエリアに初めて入ったのは11歳の時、執務官試験に合格したときであり、
その後提督になっても両手で数えられる程度の回数しかここまで足を踏み入れた試しはない。
ではなぜ今ここにいるのであろうか?

クロノはある一室の前で歩みをとめる。
核シェルタークラスの分厚い合金でできた扉に、

「時空管理局局長執務室」

という金色のプレートが張り付いている。

程なく無機質な電子音声がどこからか聞こえてくる。
『氏名、所属及び階級を述べてください。』
「クロノ・ハラオウン、次元航行部隊所属の提督だ。」
『声紋照合、クロノ・ハラオウン、次元航行部隊、提督長のデータと一致。』

軽い振動を起こしつつ扉が開き、小さな部屋に通される。
白いこれまた無機質な部屋で、端末とちいさなロッカーがある。
クロノは迷わず端末に歩み寄り、右手をかざす。
『静脈紋照合―― 一致。デバイスをそちらのロッカーにお預けください。』
懐から二枚のカード、待機状態のS2Uとデュランダルを取り出し預ける。
するとどう見ても壁にしか見えない壁に切り込みが入ったように縦に線がはしり、
そこから左右に開いていく。
その先にこれまでとは打って変わり、木製の重厚な扉が現れる。

扉を軽くノックし、改めて名を告げる。
「クロノ・ハラオウンです。」
「入りたまえ。」
扉の向こうから厳格かつ驕りのない返事が返ってくる。
「失礼します。」




魔法少女リリカルなのは-After determination-

act03:始動



扉を開けると、落ち着いていてかつ高級感を漂わせる調度品の数々が視界に飛び込んでくる。
広さは小さな会議室ほどもあり、床には心地のよい絨毯が敷かれている。

「久しぶりだな、ハラオウン。」
正面の大きなオークの机に肘をつき、手を顔の前であわせている男が声をかける。
「お変わりないようで、局長。」
時空管理局局長、その素性は最高機密である。わかっているのは男性であるということ程度だ。
しかし、相当な年齢であろうにも関わらず、その容姿はかなり若々しい。
今のクロノと同年齢、もしくはそれより若干若いといっても通じるであろう。

「お前こそ相変わらずお堅いな、まぁとりあえずそこにかけろ。」
先ほどの厳格さを微塵も感じさせぬ物言いでクロノに着座を促す。
クロノは促されるままにソファに腰をかけ、その対面に局長も座る。

「今日はどのようなご用件でしょうか?」
「チェスの相手が欲しくてな。」
その言葉を裏付けるように、両者の間にはチェス盤がある。
「・・・失礼させていただきます。」
あからさまに嫌な顔をしてクロノは立ち去ろうとする。
「まぁまて、今回は冗談ではない。」
立ち上がりかけたところを制し、局長は本題に入る。

「お前にひとつ頼みたいことがあってな。」
「それとチェスとなんの関係が?」
「頼もうとしている人間がいうのも何だがな、かなり厄介ごとでな、
この勝負に勝てたらお前に断る権利をやろうかと。」
「・・・とりあえずそれが何なのかお聞かせ願いたいです。」
「長くなるからな、戦りつつ話すとしよう。」
そういうと局長は不敵な笑みを浮かべ、駒を動かした。


――――
「今度管理局発足以来最大級の艦ができるのは知っているよな?」
「クラウヴィアの数倍の規模を持つ新造艦ですか、一応耳には入っていますが。」
「その艦の艦長をお前に頼みたい。」
「自分は既に艦を降りて久しいですが?」
「そうだな。」
「そもそも自分が降りた理由は局長が、『お前がいると若いのが育たない』とかいって降ろされた気がしますが。」
「そうだったっけ?」
「こんのジジイは・・・・」
相手に聞こえない声で悪態をつく。
「なんか言ったか?」
「いえ、なにも。」
「で、だ。お前にもう一度艦に乗ってもらいたい理由は二つある。」
「拝聴いたしましょう。」
盤上の戦況は五分五分、本来なら息もつかせぬ状況である。
「まず今の提督クラスの人間に適任がいないということだ。」
「提督権限を持ち優秀な人間なら知り合いに五万といますが。」
「それはお前の母親やロウランのことだろう、あいつらは少し歳が過ぎる。」
本人たちが聞いたら、と思うようなことを平然と口にする。
「現役の連中はほとんど自分の艦の業務があるし、提督試験に合格するのも年に1,2人いればいいほうだ。」
「故に自分に押し付けようと。」
「有体にいえばそういうことになるな、それともうひとつ。」
「何でしょう?」
「こっちのほうが本命なんだがな、最近ミッドで質量兵器による小、中規模な事件が多発しているのを知っているか?」
「ええ、例年の比にならないほどだとか。」
「最近で言えばお前の嫁の管轄でお前の息子とその師匠が関わったのがそうだな。」
「士官学校に大量の無人兵器が出たという話をはやてから聞きましたが。」
「どうもその辺りに動きがにおってな、聖王教会の占い師さんに占ってもらった。」
「騎士カリムに?」
「そうだ、占いの原文は覚えてないので割愛するが、教会と我々が審議して出した解釈がこれだ。」
そういうと一枚の書類を放ってよこす。
それに目を落としたクロノの顔に驚愕とにわかに信じがたいといった表情が現れる。
「旧暦以来の戦争が!?」
「そうだ、正確には質量兵器を有した大規模な犯罪組織、もしくは次元世界と、我々魔法世界の戦争に発展する可能性があるということだ。」
「まさか、なぜそんな組織や次元世界が今まで確認されていないんです!?」
「らしくないなハラオウン、それこそお前の畑の話だろう。」
「!?」
「・・・すこし落ち着け、占い師殿はロストロギアが噛んでいる可能性を示唆した。」
「ロストロギア?」
「あぁ、俺もその可能性は大いにあると思っている。だからお前さんに頼みたい。」
「ロストロギアで大量の質量兵器の生産が可能になったと?」
「その可能性もあるがな、俺はもう少しスケールのでかい物だと睨んでいる。」
「新造艦はいつ完成ですか?」
「もう最終調整段階に入っている、本来は全艦船のブレーンにする予定だったが、俺の権限で一部隊として動かせるようにする。」
「僭越ながら、大丈夫なんですか?」
「これが杞憂ですめば俺の首がひとつ飛ぶだけだ。」
「老人たちが黙っていないでしょう。」
「お前がそれを心配するにはまだ早い、それに俺の勘はそう外れん、占いもあることだしな。」
「失礼しました、新造艦のクルーは?」
「これからこっちの方で選出する、まぁ悪いようにはならん、決まり次第追って連絡する。」
「・・・・・あ。」
「ん?どうした?」
「すいません、チェックです。」
「・・・マジで?」

いつの間にか盤上では局長側のキングが詰んでいる。
信じられないというように口をパクパクさせている局長をみて、
クロノはひとつ溜息をつき、
「了解しました、その命をお受けいたしましょう。」
「悪いな、負ける気はしなかったんだが。」
「ではまた後日。」
「ああ、・・・よろしく頼む。」
そういうとクロノは執務室を後にした。




――――同時刻 
「後悔先に立たずとはよくいったもんだな?護よ。」
「やめようサクヤ、言うだけ悲しくなるってもんだよ。」

クラナガンに隣接する都市にできたショッピングモール、
先日の約束を反故にしなかったことによりサクヤと護は荷物もちをさせられていた。
女性二人は非常に楽しそうに買い物を満喫している。

「だいたいなんで服買うのにそんなに時間がかかるんだよ?」
「しかも何件も出入りを繰り返してるしね・・・」

まっこと女性の買い物は不可解である、あまりサクヤは衣服に興味がないのでその不可解さは増すばかりである。
あまり衣服に関心がないので、今日もジーパンに黒いYシャツと至極簡単な服装でここまでやってきた。
それを見咎めたハルミとルナサによって自分用の服まで買わさる羽目になった。
それが運の尽きで、連れまわしては着せ替え人形のごとく試着させられるので疲労は増し増しである。
荷物もそれにつれ重くなるのでたまったもんではない。

「ん〜、そろそろお昼にしよっか?」
「そうですね、おなかもすいてきましたし。」
ハルミとルナサは買い物を満喫しているようで、心なしかツヤツヤしている。

「このままじゃ僕らご飯たべれないから一旦ロッカーかどこかに預けてくるよ?」
「あぁ、それと午後は俺たちのしたい買い物もさせてくれ。」
「仕方ないなぁ、早くしてね?」
「了解、なんなら先に食ってろ。」

流石に最先端のショッピングモールだけあって、トランスポーターが設置されていた。
とりあえず送り先をクラナガンのハラオウン家に設定し、送っておく。
送ったあとに今日は母が家にいることに気づく。

今日ここに出かけるといったら、
「うちも行く〜クロノくん連れてって〜!」
「悪い、今日呼び出しがかかってる。」
「誰や!誰に会いに行くん!?」
「相手の立場上ノーコメントだ。」
「浮気やな!浮気をしにいくんやな!?」
「何を馬鹿なことを・・・・」
「う〜、今度絶対連れてってぇな?」
「はいはい、わかったわかった。」
という心洗われる会話がなされていた。

もしかしたら送った荷物をみて大騒ぎをするかもしれないと思ったが、考えないことにした。

「僕もおなかすいたな、早く行こうサクヤ!」
「わかったからそんなに走るな、小学生じゃあるまい。」

近くにあったカフェテリアで軽く食事をとる。
これだけ膨大な敷地をもつだけあり、食事処は事欠かないのだが、
どこの店が美味いだとかいった情報がまだあまり無いため、手ごろな値段でたべれそうな所に入った。

「そういえばさ、この前サクちゃんが休みの日なのにいなかったときのことなんだけど。」
デザートのケーキをつつきながらハルミが口を開く。
「無人質量兵器がたくさんでたんだって?」
「あぁ、ST○R WARSに出てきそうな奴から、某核搭載二足歩行戦車みたいなのまで出てきたぞ。」
飲んでいたアールグレイのカップをソーサーと共にテーブルに戻しつつサクヤが答える。
「それがどうかしたのか?」
「陸士部隊の友達から聞いたんだけどね、今年に入ってから例年の比じゃないくらい質量兵器が絡んだ事件が起こってるんだって。」
「やはり組織ぐるみの反抗の可能性が高いってことか。」
「そういえばそんな感じの報告書をよく見かけるなぁ、一応機密書類だから父さんが整理しちゃうけど。」
「私も一月くらい前に突撃銃を持った犯罪者と一戦交えました。」
「で、近々その対策用の部隊が編成されるんだって。」
「ほう、コトがことだけに精鋭部隊になるんだろうな。」
「あくまで噂なんだけどね、もしかしたら兄さんあたりが選ばれるかもね。」
「ツカサさんですか?」
「ツカサ兄さんなら可能性はあるね、無限書庫のアクセス権もかなりハイランクだし。」
「あとはお袋とか師匠たちが選ばれるかどうかだな。」

そうはいってもそれぞれにかなり重要な役職についている。
はやては特別捜査官の長だし、なのはは教導隊の隊長を務めている、
フェイトはXV級艦船の艦長をしている、ユーノは司書長で前線とは無関係だし、クロノは提督長だ。

「ま、俺たちにはあまり関係はないだろうな。」
「母さんが忙しくなるとご飯が困るなぁ。」
「護、自炊はできんのか?」
「できないことも無いけど、父さんも僕も基本的にカロリーメイトとかで大丈夫な人種だから。」
「そしたら私たちが作りにいくよ。」

そんな中学生らしくない会話をひとしきりしたあと、それぞれの買い物をすることになった。
ハルミとルナサはまだインテリアやら服を見るつもりらしく、いそいそと行ってしまった。
護と一緒に文房具や、生活用品を補充したあとは、護は本屋へ、サクヤは電機製品が売っている一角へと足を向けた。


「なぁアルケイオン、最近お前をバラしてないんで心配なんだが、損傷はどんなもんだ?」
『先日の上級氷結魔法の行使によりフレーム強度がかなり落ちています』
「やっぱりな、この際だからメモリも変えて増設しちゃおう、CPUは新規格の情報が出揃うまで待ってみるか。」
『放熱機構もすこしガタがきてます。』
「うわ、どうりで最近熱の抜けが悪いと思った。雑誌で読んだ放熱フィンをためしてみるk」


ドンッ


大きな横揺れが店内を襲う、訓練を受けていたサクヤも踏みとどまれず転倒する。
商品がバラバラと棚から零れ落ち、五分ほどたっても揺れが収まらない。
悲鳴と何かが壊れる音が響き渡り、阿鼻叫喚である。

とっさに半球状のバリアを張り、視認できる他の客にも同様にバリアを張る。

「いくらなんでも長すぎるだろこの地震!」
『人為的なものにしては規模が大きすぎますが。』
「このままじゃ埒があかないな、一旦外にでる。」

バリアを解こうとた時に念話が飛び込んでくる。

「サクヤ!?」
「サクちゃん!?」
「サクヤ兄さん!?」

「三人同時に俺にかけてくるな!!」
「ごめん、それより今どこにいる!?」
護がいかにも切迫していますという声で問うてくる。
「東棟一階の電機製品売り場だ、そっちは?」
「僕は東棟三階の本屋だよ。」
「ハルミとルナは?」
「私たちは北棟だよ。」

このショッピングモールは東西南北および中央の棟に分かれており、
それぞれの棟に移るには一旦外から回るか中央棟を経由するしかない。

「災害救助は訓練でしかやってないんだがな・・・」
「とりあえずマニュアル道理でいいので動きましょう。」
「そうだね、埒があかないし。サクちゃん、どうしたらいい?」
「これだけデカい揺れなら救援部隊の一陣が五分もしないうちに着く、それまでにできるだけ客の安全確保をしつつ外に出てくれ。」
「わかった、じゃあ僕はサクヤと合流するから。」
「了解、じゃあ中央棟上空で合流しましょう。」
「気をつけろ、明らかに揺れ方がおかしい。」
「わかりました。」

念話を終えるとバリアを解き、店の外に躍り出る。
バリアジャケットを身にまとい、アルケイオンを起動する。
倒れたり頭を抱えている人々に防御障壁を展開しつつ、護が着くのをまつ。

「サクヤ!!」

階段が使えないので上からこちらもバリアジャケットをまとった護が降下してくる。

「護!この棟を囲めるだけの結界張れるか!?」
「できるけど、どうするつもり!?」
「天井ぶち抜いて脱出及び救助の進入経路をつくる。」
「発想が母さんとまるっきり一緒なんですけど!?」
「見たところ通常の出入り口は崩落してるし、弟子だからな!頼むぞ!」

護が結界を展開し始めたのを確認し、砲撃の準備をする。

「アルケイオン、悪いな、今度マザボごと交換してやる。」
『Don't worry my lord.』
「カートリッジロード!」
『Road cartridge』

魔槍から薬莢が廃莢される。

「ディバィィィィン!!!バスタァァァァァァァァァァァ!!!エクステンション!!!」

蒼い砲撃は天井をぶち抜き、青空をあらわにする。

「どんどん母さんみたいになってるよサクヤ・・・」

感想を漏らす護を無視し、空けた穴から上空へと飛び出す。
そこには既にハルミとルナサが居り、蒼白な顔をしている。

「サクちゃん!なんていう強引なやり方で出てくるの!?」
「魔力感知をしてとっさに回避しなければ今頃黒焦げですよ・・・」
「悪い悪い、進入経路も一緒に作りたくてな。」
「無視して飛んでくなよぉ。」

護も飛んできて文句をいっている。

「しかしまだ揺れてるな、これはなんだ?」
「中規模次元震だ、それも人為的な。」

上空から四人の声ではない声が上空から投げかけられる。

「!」
「!!」
「!?」
「?」
瞬時に四人ともデバイスを起動し、声のした方向に振り返る。
しかしそこにいた人物を確認すると四人とも表情を一変させる。

「GWは休みをとらないんじゃなかったのか?」
やっとのことでサクヤが口を開く。

そこには

「巡航中にこの次元震を観測してな、一番近くにいたうちの艦から飛んできたんだ。」


ツカサ・S・ハラオウン


ハラオウン家の長兄がいた。









to be continued.....







後書き
どうも、jamiraです。
また長くなってしまいました。
当初クロノと局長のシーンは無かったんですが、部活の合宿で山小屋にこもってたときに電波を受信しまして、
書いていたら長くなってしまいました。
故にこの次元震騒動は一話で終わらせようと思ったんですがしり切れトンボで終わってます。
すいません上手く文章まとめられなくて・・・・orz
ただバイト数でいけばたぶんact01とそんなにかわらない気がします。
ついに主要メンバーがほぼ出揃いました。
といっても管理局関連のメンバーだけなのでまだ少し出てきます。
質問、感想、批評等をいただければ幸いです。
では。





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