このSSはPSP用ソフト『魔法少女リリカルなのはA`s Battle Of Ace』の後日談的なものになっております。
そのため、ゲーム本編のネタバレなど多数含まれますので、
そういうのが嫌な方は戻る事をオススメします。大丈夫な方は下の本編へどうぞ。



























































魔法少女リリカルなのはA`s アナザーストーリー

----Days Of Materials----









とある日曜日の午前。日曜日にしては珍しく人影の少ない道路の路上に二人分の影があった。

「今日はええ天気やねー」

車椅子の背もたれにもたれかかって、はやては青い空を見上げてのんびりと呟いた。視界一杯に広がる雲ひとつない青天とこの時期には珍しく暖かな陽気のおかげで若干目蓋が重く感じる。

「はい、気持ちのいい空ですね」

そんなはやての言葉に背中から礼儀正しいが、少しのんびりしたように答えが返ってくる。静かで透き通るような、それでいて生気に溢れている声。はやてはそんな声を聞いて、彼女ののんびりした様子に少し意外性を感じながらも嬉しく思い、更に首を上げて車椅子を押してくれている家族の姿を見る。

「皆も連れて行ければ良かったんやけどな」
「将は道場の講師、ヴィータは地域の方々とゲートボール大会、シャマルとザフィーラは局からの呼び出し。皆、それぞれ予定がありますから・・・・・・」

代わりに私がお傍にいますので、と柔らかく答えた彼女の宝石のように透き通った紅い瞳がはやてを映す。同時に彼女が下を向いた際におりてきた綺麗な銀髪がはやての顔にかかり、

「へ、へっくち!」
「我が主、外は冷えますか? もし寒いなら――」
「あー、戻らなくてええよ。ただリインフォースの髪がくすぐったかっただけやから」

慌てて車椅子を止めて方向転換しようとする彼女――――リインフォースを止めて、はやてはたはは、と苦笑する。
どうにも彼女は自分の体に異常があったりすると過剰に反応する傾向がある。心配してくれるのは嬉しいけど、顔に出るくらい心配されると逆にこっちもうっかり風邪を引けない。もし引いたりしたら多分リインフォースが慌てすぎて家の中を走り回る姿が思い浮かんだ。いやもしかしたら、水とタオルが入った洗面器を持って困ったようにあちこちうろうろするかもしれない。
はやてがくしゃみをしたのは自分の髪のせいだと知って、リインフォースは若干しゅんとなった。

「申し訳ありません、我が主」
「気にせんでええよ。リインフォースの髪がくすぐったかったのは、リインフォースの髪が柔らかいってことやよ」
「柔らかい、ですか?」

そうでしょうか? と言いながら片手で自分の髪の先っぽをいじくるリインフォース。まんざらでもなさそうだ。

「うん、自身持ってええよ。でな、顔にかかっただけじゃあよう分からんかったから、少し触らせてもらえへん?」
「あ。はい、いくらでもどうぞ」

そう言うとリインフォースは車椅子を道の横道に動かし、はやてが髪を触りやすくするため正面に回ってしゃがみ、はやてと視線を合わせる。

「おおきにな」

機嫌良さげに手を伸ばして、リインフォースの髪を撫でるように触れる。太陽が降り注ぐ公園を歩いており、かつはやての車椅子を押していたリインフォースの髪は丁度良いぐらいに温かく、また本当に柔らかかった。何と言うか、シャンプーのCMで出てくる女優さんのような柔らかさだった。実際に触った事は無いが。

「いやー、気持ちええわー」
「ありがとうございます」

笑顔で髪を撫で続けるはやてにリインフォースもまたつられて表情が緩む。
主の幸せこそがリインフォースの幸せ。その主が笑顔でいてくれると自分もまた嬉しくなる。その笑顔の理由が自分の髪だと嬉しさも倍増するというものだ。

「そや、リインフォース。ちょうそこでくるっと回ってみてくれるか?」
「?」

主の意図が読めず首を傾げたリインフォースは立ち上がって言われるがままくるっと回る。回る際にちらっと全体を見たが、どこかおかしいところは無いはずだが。

「ああ、リインフォース早い早い。もうちょっとゆっくりとや」
「こう、ですか?」

はやての言うとおりにもう一度、速度を抑えてくるっと回る。しかしもう一度回ってみてもはやてが何を考えているのか理解が出来ない。
回った際に髪が広がり、音も無くまた同じように戻るとはやては、おお、やっぱりと言う風に手を合わせて笑顔を浮かべた。

「まるでシャンプーのCMみたいやわー」
「え?」

言われた意味が良く分からず、もう一度くるっと回って理解しようとするが、やはり良く分からない。はやてはもう一度おお、と感嘆の声を漏らして、今度は小さく拍手する。

「綺麗やよ、リインフォース」
「あの、我が主?」
「ほら、昨日のテレビのCMでシャンプーのCMやってたやろ?」
「ええ」

言われて、昨日夕飯の後の出来事を思い出す。
はやてとヴィータ、その隣にリインフォースがソファーに座って、とあるお笑い番組を見ており、丁度良い所でCMに入りヴィータが文句を垂れていたときに流れた映像。
そしてその時にはやてが呟いた言葉も。

「リインフォースが回るとまるでその女優さんみたいや、ってことやよ」
「え・・・・・・」

【きれいやな〜】

ポツリと呟いた何気ない言葉。リインフォースはその言葉を思い出して、瞬時に先ほどの行為とはやての感想の意味を理解して、顔を赤く染めた。

「そんな・・・・・・」
「謙遜せんでええって。リインフォースはとっても綺麗やよ」

更に褒められてますます顔を赤らめるリインフォース。体温がぐんぐん上昇しているのが分かるほど、彼女は顔を赤くしていた。元々雪のように白い肌が羞恥で赤く染まっていく様子にはやては、ちょっとおもろいな〜と内心にやにやしながら、表面上はニコニコと笑顔をリインフォースに向けている。

「・・・・・・君達は何をやっているんだ?」
「ふぇ!?」

羞恥心で身体を小さくして、周囲への注意を怠っていたリインフォースは背後からの声にビクンと身体を仰け反らせてなんとも情けない声を上げる。まさか今の行動の一部始終を見られたのでは、と嫌な予感が走り恐る恐る後ろを振り向くと、声の主を認識する前にはやてがその人物の名を呼んだ。

「あ、クロノ君や」
「し、執務官!?」

よりにもよって見られたくない人物に見られてしまった。見てしまった本人はどう反応したものか、と頬をポリポリとかいて困ったようにこちらを見ていた。彼は「あー」とどの言葉をかけようか迷ったように前置きをし、

「その、少し見ない内に随分面白くなったな、リインフォース」





「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

晴れた空の下、太陽の光を反射して眩しく輝く海面から潮の匂いが漂う海鳴臨海公園には二人の少女が海を見ているだけで、他には誰もいない。
どちらも言葉を発さず沈黙がずっと続くと思われたが、沈黙に耐えられなくなったはやてが気まずそうに、無表情で海を見つめているリインフォースに謝った。

「あ、あはは。ごめんな、リインフォース」
「・・・・・・いえ、良いんです」

ふっ、と何か諦めたように自嘲的な笑いを浮かべ、リインフォースは顔に影を落とす。



あの後、リインフォースはクロノに対して必死に誤解だと弁明をしたが、訴えられている本人は、

「ああ、分かってる。大丈夫だ、ちゃんと分かっている。うん、分かっていた事だ」

としきりに自分に言い聞かせるように繰り返し、悟っているようだが必死にリインフォースから目線を逸らして合わせないようにしていた。
ダメだ、自分から言ってもムダだ、と早急に判断を下したリインフォースははやてに弁明してもらおうと、さっと振り返った。彼に誤解だと言うことを伝えてくださいという思いを視線に乗せて。

「そやろー。リインフォース綺麗やろー?」

わがあるじぃぃぃいいいいいい!!!

丁度再び太陽の陽気に当てられてのほほんとしているはやての見当違いな返答にリインフォースは思わず心の中で絶叫した。いや、現実でも頭を抱えているのだが。
目の前で頭を抱えたリインフォースを見ていられなくなったのか、クロノは困ったように苦笑いした後、

「まぁ、その、何だ。たまには羽目を外すのも悪くないさ。僕は偶々通りかかっただけだから、ここらで失礼するよ。ああリインフォース、今日のことは他言はしないでおくから安心して」

それじゃあ、とシュタッと手を上げて歩き去っていくクロノ。反論する暇さえ与えてもらえなかった。余程気まずかったのだろうか・・・・・・。というか確かに誰にも知られないのは助かるが、そもそもクロノの誤解を解かなければ彼の脳内で『リインフォースは休みのときはくるくる回っている』という何とも痛々しい女になってしまう。
早いうちになんとかしなければ。

「んー? クロノ君忙しいんかな?」

そして主は主で何だか見当違いの事を言っているし。はぁ、とはやてに気づかれない程度にため息をついて車椅子の後ろに回って押すための取っ手を掴む。

「我が主。とりあえず臨海公園の方にでも行きますか?」
「お、そやねえ。ほんならお願いな」



そして事情を説明して、先ほどのクロノの反応を思い出したリインフォースが海を見つめて、今の状態に至る。

「うー、ほんまにごめんなぁ」
「・・・・・・ふぅ」

しょんぼりした様子のはやてに小さく息をつく。はやても悪気があってやった訳ではないのだ。それに誤解は解けばいいだけの話。幸いにもクロノは『誰にも話さない』と言ってくれたので、被害はまぁ最小限に抑えられている。ならば、それほど気にすることではない。

「お気になさらないでください、我が主。執務官は良識ある人物故、説明すればきっと誤解もとける筈です。ですから、主が気にする必要はありませんよ」
「ごめんなぁ、そう言ってくれると助かるわぁ」
「せっかく天気も良いので、気持ちを切り替えて散歩を楽しみましょう」
「うん、そやね」

元気を取り戻したはやてと微笑みあって、また車椅子を押し始める。特に行く先は決めてないが、特に決めることでもない。気の向くままにのんびりとした空気を堪能するとしよう。





そしてのんびり散歩を楽しんだ後、お昼を回った辺りで近くの木陰で昼食をとることにした。シーツを敷いて風で飛ばないように近くの大きめな石を四隅に置いた後にはやてを車椅子からシーツの上へ移す。

「ありがと、リインフォース」

はやての言葉に笑顔で返して、持ってきていた弁当箱を開く。野菜が中心で隅っこの方にハムやミニハンバーグが詰められている、そこそこ大きい弁当箱。三人では足りないけど、二人では少し多いかなというぐらいだ。

「今日はな、ちょう野菜を多くしてみたんよ」
「身体に良さそうですね」
「いっぱい食べてな」
「はい。それでは、我が主」
「うん。それじゃあ、せーの」
「「いただきます」」

二人とも両手を合わせてお辞儀して食べ始める。リインフォースはまず近くにあったハムカツに食べようとすると、はやてがピクンと反応した。

「どうかなさいましたか?」
「ああ、いやいや。なんでもあらへんよ」

はっ、と気づいて自分もサラダに手を出すはやて。主の少しそわそわした様子に疑問を持ち、原因は手を出そうとしたハムカツだろうとちらっと見てみる。
見た感じ、特におかしいところは無い。他の弁当箱に入っているやつを見ても多少焦げている部分はあるが、それでも別段気にするほどのことでもない。

(となると、味? 新しい味付けにでも挑戦したのだろうか?)

とそのままパクリと食べる。よく味わおうとしっかり噛み締めるが、やはり特に変わったところも無く普段どおりだ。強いて言うなら若干生っぽいところもあるかな? と首を傾げる程度で気をつけてようやく気づける程度だ。

「あー、リインフォース。そのハムカツどうや?」
「おいしいですよ。少し生の部分もあるかなと思うところはありますけど・・・・・・」
「あ、ほんまか?」
「はい。生の部分も気をつけないと気づけない位です。このハムカツは何か工夫を加えたのですか?」
「実はな。そのハムカツ作ったん、シャマルなんやよ」

はやての口からもたらされた事実に素直に驚愕する。

「これを、シャマルが?」
「うん。私が隣で見ながらやったけどな。そうかぁ、美味しかったんや。シャマルも喜ぶよ」

自分のことのように喜ぶはやて。リインフォースはと言うと、驚きと同時に感心も覚えていた。
先日、闇の欠片事件が終息した後、シャマルが一度料理を担当したのだが―――

【わわわわ!? 火が、火がァ〜〜!?】
【ああ、シャマル。火ィ止めて。火】
【は、はいぃ〜!】

とてもとは言えないが、料理が出来るほどとは思えなかった。しかし、目の前のハムカツははやてが言うにはシャマルが全て作ったらしい。まだアレから少ししか経ってないというのに。

「凄い成長速度ですね」
「シャマルはな、飲み込みはええんやよ。ただちょっと慌てんぼさんやからな〜」
「それは、確かに・・・・・・」

キッチンの前で慌てふためいてオロオロするシャマルを思い浮かべて二人とも苦笑した。




お昼ごはんも丁度終盤に差し掛かり、お互いに少しお腹が膨れてきた頃。
持参した水筒のお茶を飲んでのんびりしてたはやてが急にはっと顔を上げて、辺りをきょろきょろと見回し始めた。

「我が主、どうかなさいましたか?」
「いや、気のせいかな。何か妙な感じがしたから……」
「妙な感じ、ですか?」
「うん。何か、『あの時』と同じような……リインフォースは感じへん?」

『あの時』と言われてリインフォースは思い当たるものが一つあった。それは、先日終息したはずの闇の欠片事件。あれからまだ少ししか経ってない。幾ら早期に解決したとはいえ、楽観視するのはまだ早かったのだ。
リインフォースは目を閉じて、海鳴市全体の魔力反応に探知をかける。頭の中に海鳴市の地図が浮かび上がり、そこで魔力反応を持ったものの位置を把握する。見知ったものが多くあるなか、3つほど奇妙な反応を見つけた。

「見慣れない反応を探知しました。数は三つ、場所は商店街です。ですが……」
「どうしたん?」
「魔力量が、少なすぎるのです。マテリアルよりも、コピーよりも」

そう、探知した魔力反応はあまりにも小さいものだった。正確な数値は計測できないが、およそ一般人が持っている程度。
地球には魔力を持っているものはほとんどいない、なのはやはやてのような例外を除けば。その例外が偶々街を訪れたというのならそれまでだ。しかし、

(どうも、胸騒ぎがする……)
「気になるん? リインフォース」
「……気にならないと言えば嘘になります」
「そうか……よし、ほんなら私が調べてくる」
「我が主、それなら私が……」

行きますと言いかけたところで、すっとはやてがリインフォースの手に手を重ね、そしてじっとリインフォースの目を真正面から見つめた。

「私は、リインフォースともっと長く一緒に居たいんや。せやから、リインフォースにあまり無理はしてほしくないんよ」
「ですが、もしも貴女に危険が及んだら・・・・・・」
「出来る事は私がやって、それでも無理やったら手伝ってもらうから、な?」
「我が主・・・・・・」

だから、お願いという風にぎゅっと握り締める。手のぬくもりを通してはやての想いが伝わってくる。どれだけ一緒にいたくても、期限が決まっているから、だからせめてその時間を少しでも延ばせる様にという想いが。

「分かりました。ですが、」

包まれていた手を今度ははやての手を包み込むようにする。この手のように自分の想いが最愛の主の身を守ってくれるように。

「無茶だけはしないでください」
「うん。ありがと、リインフォース」





1人で商店街に向かうと結構な数の人が溢れていた。やはり日曜日ということもあって買出しに出かける人が多く見られる。
ちなみにリインフォースには先に家に戻ってもらい、シグナム達に連絡を取ってもらっている。魔力量から判断して、闇の欠片ではないと思われるが、万が一ということも考えてだ。

「何でもないんならええけどな〜」
「あれ、はやてちゃん?」
「ん? ああ、なのはちゃん、フェイトちゃん」

後ろから聞き慣れた声が聞こえて、振り返ると私服に身を包んだなのはとフェイトの姿があった。

「なのはちゃん、フェイトちゃん。今日はお買い物かなんかか?」
「うーん、そういうわけじゃないけど・・・・・・」
「はやてはどうしたの?」
「私はちょう調べものやよ」

はやての調べ物という単語に、なのはとフェイトが神妙な顔つきで見合わせる。

「はやてちゃん、調べものってこの辺りで感じた魔力反応のこと?」
「……なのはちゃん達も知ってたん?」
「うん」

そこでなのははここまで至る経緯をはやてに伝えた。
なのはとフェイトが元々フェイトの家で遊んでいた事。昼ごはんを食べた辺りで、エイミィから商店街の方で見慣れない魔力反応をキャッチしたこと。そしてここではやてを見つけた事になったこと。

「そうやったんか。私もリインフォースが見つけてくれてな。私が調べに来たんやよ」
「リインフォースさんは?」
「今、家に戻って皆に連絡取ってもらってる」
「そっか・・・・・・とりあえず探そう? 何でもないならそれで良いけど、何かあったら急がなきゃいけないから」
「そやね」

答えて、前に進もうとすると先に出したフェイトが直ぐに立ち止まった。

「わわっ! フェイトちゃん、どないしたん?」
「あ、ごめん。でもあそこに人だかりがあるよ」
「人だかり? 本当だ、何かあったのかな?」

なのはが背伸びをして人だかりの中心を見ようとするが、遠くからでは中を覗けない。しかし何も見えない代わりに叫び声が聞こえてきた。聞き覚えのあるような、特に最近聞いたような声に3人は首を捻る。

「うーん、何を言うてるか聞こえへん……」
「近くに行ってみよ」

頷いて先に歩き出したなのは達に続く。人だかりに近づくとある程度声が聞き取れるようになってきた。

「は…、……トォーーッッ!! ……何を……平然とデバイスを……君はっ!」
『!?』

3人は先ほど聞こえた言葉に驚きを貼り付けた顔で見合わせた。三人の頭の中には同じ単語が浮かび上がっていた。すなわち『デバイス』 先ほどの声の中に合った単語だ。

「ま、まさか……」
「もっと近くに行ってみよう!」

更に中心部に近づく。人だかりの外側まで来てそこから先には入ることは出来なかったが、中を覗く事は出来た。
中では丁度、着ている服は違うが容姿がまるで鏡写しといえるほどなのは達三人と瓜二つの少女達と、そこそこ良い体格をした制服警官が対峙していた。正確には、警官が少女達を見下ろし、少女達がそれを見上げるような形だが。

「……なんだ貴様等。我を見下すとはいい度胸じゃのう……ここで滅するか塵芥ァ?」

そしてはやてそっくりの女の子が、滅茶苦茶不機嫌そうに国家権力に喧嘩を売り出した。

「なのはちゃん! 結界!」
「う、うん!」

言われて即座にレイジングハートに魔力を込めて結界を展開する。一瞬で周りの人だかりが消え、海鳴の街がゴーストタウンと化す。なのは達と目の前の3人の少女を除いては。

「ギリギリ、セーフ?」
《don't worry.Master》

レイジングハートが直ぐに結界を展開しくれたおかげで何とかひと悶着は避けられたようだ。しかしなのはの後ろでは、

「うう、警察の人、顔覚えてへんかったらええけど……」
「た、多分大丈夫だよ」
「急に家に来て署まで連れて行かれて、カツ丼食べるなんて嫌や〜……」
「そこだけ聞くと何か歓迎されてるみたいだよね」

はやてがずーんと落ち込んで、フェイトが慰めていた。自分と同じ顔の少女が警察に喧嘩売ったことが問題だったのだろう、既にはやての頭の中には留置所の中で囚人生活している様子が描かれている。

「貴方達は……」

なのはとそっくりな少女が呟いた言葉で彼女達に向き直るはやて達。
マテリアル。先日の闇の欠片事件で闇の書の残滓が『砕け得ぬ闇』として復活しようとした際に作った構成素体。先日消滅した筈の彼女達が何故ここにいるのか分からないが――

「あ、あーっ! おまえらはあの時の! また僕達の邪魔をしにきたんだなっ!」
「く、くははは。塵芥どもめ、このような場所で遭えるとはな……いつぞやの怨み、ここで晴らしてくれるわっ!」

やる気満々と言った風に各々のデバイスを構えるフェイトそっくりな少女とはやてそっくりな少女。確か、先日の事件ではそれぞれ『力のマテリアル』『闇統べる王』と名乗っていた気がする。
飛んで来た殺気にバリアジャケットを纏って戦闘態勢を整えるなのは達。どうして彼女達がまた復活したのか、理由を聞きたいところだが向こうは聞く気が無い。

(それなら、動きを止めてからお話を聞くしかないよね!)
「なんで消えた筈の君達が居るのかは解らないけど」
「さすがに見て見ぬフリはできそうにないなぁ……ちと、大人しぃして貰うで」


ジャキンとレイジングハートをシューティングモードに移行。照準を彼女達に合わせる。はやてとフェイトもそれぞれ構えて目の前の少女達を見据える。
高まる緊迫感。そんな中、他の二人とは別に無表情のまま構えない少女――なのはとそっくりな『理のマテリアル』――が棒立ち状態で、

「あの二人とも、お忘れかもしれませんが……」
「うおおおおっっ、我の真の力、今こそ眼に物見せてくれるわぁっ!」
「ああ、僕達の本当の戦いは、これからだぁっ!」

理のマテリアルを無視してなのは達に飛び掛る王と力のマテリアル。
先日の事件から、マテリアル達の戦闘能力はかなり高い事が分かっている。故に簡単には事は運ばないだろう。
とりあえず二人いっぺんにこられると厳しいので牽制でディバインバスターを撃つ。恐らく向こうはこれを避けて各個撃破に回るだろう。一対一ならまだ分がある。これがなのはの立てた戦術だったのだが、

チュドーン!

「うわああああああああっ!?」
「のわあああああああああああっ?!」

あっさり撃沈した。最初の一発で。牽制用に、避けられる事を前提に撃ったディバインバスターが綺麗に決まった。
あまりのあっけなさに呆然とするなのは達。とりあえず、フェイトとはやては逃げられないように力のマテリアルと王にバインドをかけて蓑虫状態にしておく。これまた簡単にバインドは決まったので、フェイトとはやては良いのかなぁ? とお互いに顔を見合わせる。
避けられると思っていたのでさほど出力は無く貫通性が無かったため、攻撃に参加しなかったおかげで被害を被らなかった理のマテリアルが変わらず無表情のまま、

「私達は今現在魔法が使えない状態なのですが……」

と諦めたようにため息をつき、無表情で二人を見下ろした。まだ意識があったのか、力のマテリアルは手足を拘束された状態で、

「こ、このぉー! ぼ、僕にこんなことしてただで済むと思うなよっ! こう見えても僕には百億万人のむくつけきし仲間がいて僕に何かあったらすぐさま駆けつけてくるんだぞっ!」

と威勢良く吼えている。あっけない結果を信じられなかったのか、なのは達は馬鹿正直にどこから来るかときょろきょろと見回す。しかし、どれだけ待ってもそんなものは来る気配も無い。というか百億も居たら海鳴の町が人口密度的に大変な事になるだろう。

変わって隣の王を見下ろす。かなり厳重にバインドされており、出てる部分は首だけという何とも間抜けな姿だが、

「クククッ、塵芥ども。まさかこの程度で王たる我を止められるとでも思っているのか……愚かっ! あまりにも愚か過ぎるぞ塵芥ァッ! このようなバインド我が本気を出せば三秒で解法することが可能よ! フフフ、しかし我は寛大よ。今すぐバインドを解除し泣いて謝るなら許してやらんこともないぞ……?」

滅茶苦茶偉そうに語っていた。なのは達はバインドが解かれるということをまたもや真に受けて、更に五重ほどバインドを強化する。王が小さくグェッと鳴いた気がするが、気のせいなのか王は直ぐに威勢を取り戻して、

「ク、ククク。甘い、甘いぞ塵芥ども。例えいかにバインドを強化しようとも貴様達の寿命が数秒伸びるだけだ! 5秒もあれば解法できるわこの程度! フフフ、しかし我は寛大故に二度目のチャンスをお前達にやろう。さぁ今すぐバインドを解除し泣いて謝り、許しを請うが良い! 今なら我も許すかも知れんぞ……?」

そんな様子の王を周りの4人は10秒近く待ってみたがバインドが解放される様子は微塵も無い。しかし王は変わらずフフフと笑みを浮かべて、こちらを見つめてくる。正直不気味だった。

最後に理のマテリアルと向き合うなのは達。理のマテリアルは何を考えているのか分からず、無表情のままこちらを見つめている。
無言のまますっと手を動かした彼女に警戒心を一応高めるなのは達だが、理のマテリアルは両腕を万歳のように上に上げて、

「貴方達に降伏しましょう。ご対応をよろしくお願いします」

と告げた。残されたなのはとフェイト、はやての3人は困った様子で視線を交し合って、

「ど、どうしよう……」





----後書き----

はい、どうも。初めましてな方は初めまして。お久しぶりな方はお久しぶりです。カークスです。
いやはや前回短編を投稿させていただいてもう1年経つのか、はやいものです。

さて今回送らせていただいたのは、現在発売中のPSPソフト『魔法少女リリカルなのはA`s Battle Of Ace』の後日談的なものです。
とはいっても正史じゃマテリアル達は完全に消滅しちゃったので、『何らかの形で生きていて、もし普通に日常を送ったら』というifの元でストーリーが進んでいきます。
ですので一番最初にも書きましたが、「PSPやってない」かつ「ゲームまだやってないからネタバレは嫌」と言う方にはオススメできませんのでご了承ください。

そして重要なお知らせ。
ここまで読んでいただいた方々は恐らく『あれ? これどっかで見たぞ?』的な台詞や場面があったかと思われます。
その通りです。
この作品は『PEACEKEEPER』の管理人、緑平和さんが現在執筆中の作品『リリカル☆マテリアル(以下リリマテ)』の設定をお借りしています。言ってしまえば、この小説はリリマテの三次創作と言う形になります。
一応自分なりのアレンジを加えている部分もございますので『こんな台詞なくね?』『ここ違うだろ』というところもご了承ください。
ただ一言、言わせて貰うとすればリリマテのストーリーに沿うのは最初のプロローグ部分だけで、あとは基本的には日常ネタを書いていくだけになります。

上記を纏めると『緑平和さんのリリマテの設定を借りて、マテリアルシリーズ&リインフォース達を含めた日常ネタをやろう!』ということです。
うん、最初からこう言えば良かったorz

本編ではいきなりマテリアル達が復活して訳分からない方がいらっしゃると思います。
その時はお手数をお掛けしますが、緑平和さんのリリマテシリーズをお読みいただくことをオススメします。設定をお借りしているので復活した経緯もリリマテ準拠です。
また、リリマテシリーズ以外にも緑平和さんのSSは笑いあり、涙あり、熱い展開ありの素晴らしい作品達ばかりですので是非是非、足を運んでみてください。


長くなりましたが、ここいらで筆を置かせていただきます。今後ともどうぞよろしくお願いします。それでは、失礼しました。

カークス

















































……え? 長編をさっさと終わらせろ? いやなんかモチベーションが(グシャア





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