魔法少女リリカルなのはLOC
第9話「学校」




屋上での訓練を終え、家に戻ったユウ達を待っていたのは食欲をそそられる良いにおいの朝ごはんとクロノ達だった。

「お疲れさま」
「毎朝よくやるね〜」
「朝ぐらいしか時間がとれないから」
「さぁ、朝ごはんを食べましょう」
「待っていました!」

クロノとエイミィがねぎらいの言葉を掛け、フェイトがそれに答え、リンディが朝ごはんの準備をし、アルフがそれに飛びつく。それはどこにでもある一般の家庭の光景だった。その光景を前にユウは微笑を浮かべる。

「なんか、久しぶりだね」
「うん…」
「ここ2、3ヶ月はそんなことが無かったからな」
「何のことですか?」
「なんでもないよ。さて、僕らも朝ごはんを食べよう」




朝は特に何も起きなかった。強いていうならエクスとソウル、ゼロがリンディの抹茶に挑戦してエクスは絶賛、ソウルとゼロは待機状態に戻ってしばらく塞ぎこんでしまったぐらいだ。午前からユウ達以外は皆管理局の仕事やら学校やら遊びにやら行ってしまって、家にはユウ達しかいなくなってしまった。そして現在、ユウはかなり退屈にしている。テレビを点けてみても特に面白いこと番組もやっておらず、リビングのソファーでごろごろしていた。

「う〜ん、退屈だ……」

エクス達の整備も昨日終え、魔法の練習をしようかと思ったけど未だにソウルとゼロは待機状態から言葉を一言も発さない。思わず出た言葉に人間形態のエクスが反応した。

「それなら、行ってみたいところがあるんだけど!」
「何処?」
「フェイトちゃん達の学校!」

ユウは顔を顰める。何の用も無いのに自分達が行っては勉強やその他もろもろの邪魔になってしまうと考えたのだ。エクスはそんなことを気にせずに言葉を続ける。

「私、学校に行った事ないから見てみたいの!」
「でも、邪魔になっちゃうでしょ」
「遠くから見たりするのは大丈夫でしょ。それにユウも数年前は行っていたんでしょ?」

ユウは現在15歳だ。エクスの言うとおり、数年前には学校にも行っていた。

「どんなところか教えてよ」
「でも――」
「あー、もう!どうせ家にいても暇なんだからどっか出かけようよ!」

本音が出た。大方行きたい場所はどこでもいいのだろう。しかし、ユウ達は海鳴の町をまだあまり知らない。地図を見ながらだったら問題ないだろうが、地図を見てまで行きたい場所もユウには無い。エクスの言うとおり、家にいても仕方ないので学校に行くことにした。

「じゃあ、行ってみようか」
「うんうん、そうしようそうしよう!」

エクスが喜びで跳ね回っている横でユウは待機状態のソウルとゼロを身につけ、家を出た。

「あっ、待ってよ〜」




私立聖祥大学付属小学校に来たユウ達はとりあえずその広さに驚いていた。

「はぁ〜〜」
「おっきいね〜」
「僕のところはここまで広くなかったよ…」

ユウ達が呆然としているとそこに監視員が来た。

「どうかしましたか?」
「あ、いえ。何でもありません」

不審な眼差しを向けてくる監視員を背に学校を後にしようとした。しかし――

「えー、もっと色々なところ見たいよー」
「えっ!?」
「失礼ですが、あなた達は一体…?」
「申し遅れました。私はこの度私立聖祥大学付属小学校に転校しようと思っている者です。でもまだこの学校のことをよく分からないので見学がしたいのです。あっ、こちらは私の兄です」
「へっ!?」
「そうでしたか、それならどうぞお通りください」
「はい!?」

監視員に対して、急に態度を翻して堂々と嘘を並べるエクスとそれにあっさり信じてしまっている監視員のやり取りにユウは間抜けな声しかでなかった。

「ありがとうございます。ほら行こう、お兄ちゃん」

呆然とするユウを引きずりながら、エクスは学校の敷地内に入っていった。その時ユウと監視員は気づかなかったが、エクスは敷地内に入った後舌をチロッと出していた。

「やったね!」
「何をやっているんだろう、僕は……」
「ほら、ぼうっとしてないで行こ!」

敷地内に入ったユウ達はとりあえずなのは達を探すことにした。校舎内は後回しにして、校庭に出てみたらそこでは体育が行われていた。ボールを投げ合っているところからドッチボールだろう。ボールが飛び交う中になのは、フェイト、はやての三人を見つけた。なのはとはやては既に外野におり、内野に残っているのはフェイトのみだった。
ユウ達はなのはとはやてと向き合うように立っている。向かい側のなのはがこちらを見た。なのはと目が合った瞬間、ユウは音速をも超えるんじゃないかと思うスピードでエクスを抱きかかえ近くの茂みに隠れた。

「何で隠れるの〜もがもが」
「ちょっと黙ってて」

ユウは茂みの中から様子を見ると、なのはがこちらを見て首を傾げながらはやてと話している様子が見えた。首を傾げている辺りから多分こちらには気が付いていないのだろう。ユウはほっと息をついた。

「っぷは!何で隠れるの〜」
「あのね、僕達は嘘をついてここに入ったんだよ。もしなのは達にばれたらそれが広まって嘘がばれるかもしれないでしょ」
「なのはちゃん達はそんなことしないよ!」
「彼女達がそうじゃなくても、何かの拍子にばれるかもしれないの」
「ぶ〜〜」

不貞腐れるエクスをため息をつきながらなだめ、一緒に様子を見ることにした。なのはとはやてはもう既にこちらを見ていない。フェイトの相手側にいる金髪の少女がボールを振り回しながら叫んだ。

「今日こそ絶対勝つわよ!」
「いつでもいいよ、アリサ」
「せーの、うりゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

アリサと呼ばれた少女は助走をつけ、渾身の力をこめてボールを投げた。フェイトはそれを後ろに飛んで取った。後ろに飛んだことによってボールの勢いを少し弱めたフェイトはキャッチと同時にカウンターでアリサにボールを投げた。渾身の一撃を返されて反応できないアリサにボールが当たった。

「だぁぁぁぁぁぁ!くやし〜〜い〜」
「アリサちゃんの敵は私が討ってあげるよ」
「頼んだわよ、すずか!」

地団太を踏むアリサをすずかと呼ばれた紫色の髪の少女がなだめ、傍に落ちているボールを拾った。ボールを拾ったすずかはフェイトに向き直る。

「ということで行くよ、フェイトちゃん」

無言で身構えるフェイトに、すずかは最低限の動作でボールを投げた。フェイトはそれをキャッチ、アリサの時と同じようにカウンターをする。しかしすずかは勢いの付いたボールをキャッチしたかと思うとその瞬間に身体を一回転させてボールの勢いを殺さないままフェイトに返した。ボールはフェイトの時の勢いにすずかの投げの分もプラスされて、かなりの速さでフェイトに迫った。フェイトはそれをバチンという音を立ててキャッチした。皆が驚愕する中、フェイトの手からボールが離れて地面に落ちた。よく見れば、フェイトの手は赤くなっている。一瞬の沈黙の後、すずか・アリサチームが歓声を上げた。なのは達のチームはあ〜、と残念そうな声を上げた。フェイトはまいったとばかりにすずかを見る。すずかはにこにこしながらフェイトに近づく。

「私の勝ちだね」
「そうだね、私の負けだよ」
「手、大丈夫?」
「大丈夫だよ、これくらいのことは慣れているから」

フェイトとすずかが微笑みながら握手を交わす。その光景に周りの生徒は拍手を送った。拍手を送られたフェイトとすずかは照れて下を向いてしまった。

「えっ、何?この雰囲気」
「何だか1つ重大な対決が終わったような雰囲気に似ている気がするよ」

ユウとエクスは急な展開について行けずに目を点にしていた。




体育の授業後、なのは達は教室に戻ったがさすがに校舎内についていくのはまずいだろうと思い、近くの木に隠れて授業の様子を見ることにした。

「へぇ〜、意外だな〜。フェイトちゃん漢字苦手だったんだ〜」
「なのはやはやてと違って、フェイトはミッドの人だからね」
「ふ〜ん…」
『う、う〜ん…』

ユウとエクスが雑談している最中にゼロが目を覚ました。

『あれ?ここは?』
「目が覚めた?」
『あ、マス…ユウ』
「おはよう」
『エクスも…あれ?ソウルはどうしたんですか?』
「忘れたの?君達はリンディさんの抹茶を飲んだら待機状態になったんだよ」
『………あ』

嫌なことを思い出したかのようにゼロが唸った。

『う〜、もう抹茶は要りません…』
「それが普通の反応だよ」
「何だか私が普通じゃないって言っているように聞こえるんだけど…」
「気のせいだよ」

ユウがしれっと言うのにエクスが唸っていると、ゼロがブレスレットから出てきた。ゼロは出てくると直ぐに伸びをした。

「う〜…ところで、ここはどこですか?」
「ここはなのは達の学校だよ」
「学校、ですか?」
「そう、簡単に言えば勉強をする所だよ」
「何故ここに来たんですか?」

ゼロの問いにユウがゼロがブレスレットに入ってから今に至るまでの経歴を説明した。それを聞いたゼロは少し呆れた様だった。経歴を説明し終わる頃にはチャイムが鳴り、お昼休みに入るところだった。それから放課後まではずっと木の中で過ごし、途中ソウルも目を覚ましたが、ほとんどゼロと同じ様子だったので割愛させていただく。




放課後。なのは達は教室で5人揃ってなにやら話している。なのは、フェイト、はやて、アリサ、すずかは教室に5人以外誰もいなくなったのを確認した後、ベランダに向かってきた。どうしたのかなと思ってみていたが、はやてが木に向かって声を掛けた。

「ユウ君、もう出てきても大丈夫やよ」
「!?」

いきなり声を掛けられたユウに動揺が走った。ユウは静かに木から下り、ベランダに飛び降りた。なのはとフェイト、はやては少し呆れた表情で、アリサとすずかは少し驚きの表情で彼らを見た。

「なんでばれたの?」
「当たり前や、授業している最中にいきなりゼロの魔力を感じたからな。ゼロ1人で行動することはまだ無理やろうからユウ君も近くにおると思ったんやよ」
「あうう…」

ゼロが申し訳なさそうに俯く。はやての胸の剣十字から光が発されリインが出てきて、ゼロを慰めた。その様子を横にユウはアリサとすずかに視線を向けた。

「彼女らはもう知っているようだね」
「そら、一応紹介はしたからな」
「そう。それじゃあ改めて、僕は城島ユウ。色々あってなのは達と知り合いました。これからよろしく」
「私はアリサ・バニングス。この三人の友達よ。よろしく」
「私は月村すずかです。私も皆の友達だよ」

アリサとすずかと握手すると、フェイトが持っていた疑問を訊ねた。

「何でここにいるの?」

ユウは家でフェイト達が出たあとの出来事を説明し、現在に至るまでの経歴を話した。なのはが驚きの声を上げた。

「よく監視員さんを誤魔化せたね」
「あたしのおかげだね!」
「胸を張って言うことではないだろう」

えっへんと胸を張るエクスにソウルはやれやれと首を振る。そこでなのはがあれ、と声を上げた。

「それじゃあ、体育の時の人影って」
「ああ、多分僕らだよ」
「急にいなくなったから、気のせいかと思ったんだけど」
「ユウってば、使える力全部使ったからね〜」
「それだけ慌てたんだよ」

ユウが口を尖らせる。すずかがほんわりとした空気でユウに訊ねる。

「ユウ君はこの後、何か予定とかある?」
「いや、ないけど…」
「それなら私が海鳴の町を案内してあげるよ。この後暇だし」
「本当?」
「私達も付き合うよ」
「どうせ家に戻ってもやることないしな」
「やったぁ!」

エクスが飛び跳ねて喜ぶ。直ぐに行くことになって、皆は校舎を出た。しかし、校舎を出た直後ユウに思念通話が来た。ユウはなのは達に断りを入れると回線を開いた。

「もしもし、あっユーノ。どうしたの?」

どうやらユーノが連絡を入れてきたらしい。念話は回線を繋いでいなければ、本人同士しか聞こえないのでなのは達はユウの様子で話の内容を判断するしかない。ユウを観察していると、ユウが急に大声を上げた。

「何だって!?それ、本当!?」

なのは達はユウの突然の大声にびくっと身を小さくした。ユウは険しい表情で話を続けた。

「…分かった、急いでそっちに行く。えっ、なのは達も?分かった、それじゃあ待ってて」

ユウは念話を終わらせるとまずすずかとアリサにすまなそうに向き直る。

「ごめん、ちょっと急用が入ったから行けなくなっちゃった」
「ううん、気にしないで」
「また今度行こうね」
「ごめんね」

ユウは最後にアリサ達に謝るとなのは達に真剣な表情で向き直った。

「ちょっと緊急事態が発生、今から一緒に本局に来て」
「一体どうしたの?」

フェイトの問いにユウは苦虫を噛み潰したように答える。

「ディメンションリンクが盗まれたらしい……」




----後書き----

カークス:「皆さん、読んでいただきありがとうございます」

ゼロ  :「ようやく物語が進みますね」

カークス:「今までは日常編だったからね〜」

ゼロ  :「また日常編を挟むんですか?」

カークス:「ネタが無い限りそれは無いかな。短編や外伝で出す可能性はあるけど」

ゼロ  :「本編が終わっていないのに外伝や短編を出すことが出来るんですか?」

カークス:「何とかなるでしょ」

ゼロ  :「やれやれ。ところでユウも学校に行っていたんですね」

カークス:「まぁね〜、彼は小学校まで行っていたんだけど、卒業式の時にある出来事があったんだよ」

ゼロ  :「ある出来事?」

カークス:「本編か外伝で明かされるよ」

ゼロ  :「そうですか…今後の展開はどうなるんですか?」

カークス:「ようやくバトルに入るかな〜、次がそうかはわかんないけど。そして名前だけだった彼(ら)も出ます」

ゼロ  :「敵も出ますけど、設定があまり決まっていない状態でどうやるつもりなんですかね〜」

カークス:「まぁなんとかなるでしょ。今後も頑張りますのでよろしくお願いします」

カ&ゼ :「「それでは、失礼します」」





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