嘱託試験を合格したユウは試験の翌日、リオに会うべくアースラへ行った。

「んで、お前は次に奴らが現れるのはその2つの世界だっていいたいのか?」
「はい。第44管理世界『ワイルダーネス』、第77管理外世界『ブリザード』。これらの世界に彼らは必ず現れます」
「根拠は?」
「彼らは現れた世界から近い世界に現れています。そうしたら次に現れるのがこの2つの世界ということになります」
「なんで今まで黙っていたんだ」
「確証が無かったので…皆も忙しくて頼める雰囲気ではないし」
「だから嘱託魔導師になって動こうとしたのか…。やれやれ、1人で動くには執務官ぐらいじゃねぇと厳しいぞ、と」

リオはそういうと席を立ち、戸棚から資料を取り出した。ユウは資料を取り出した後の本棚に漫画がずらりと並んでいるのが見えたがあえて突っ込まないことにする。リオは資料を開くとユウに見せるように机に並べる。

「これは?」
「その2つの世界の資料だ。それが無くちゃ辛いだろう。資料によると『ワイルダーネス』はその名の通り荒野の世界だな。文明レベルはC−。地球で言うと10世紀のアフリカ辺りだな」
「そして、『ブリザード』も名前の通り極寒の地ですね。文明レベルはB。地球で言うと、17世紀のロシア、カナダ辺りですね」
「ふぅ、それが分かったら俺はクロノにアースラクルーの招集を頼むか」
「え、どうしてですか?」
「相手が来る場所が分かっているんだ。それなら罠を張らないわけないだろう」
「はぁ…」
「お前はアルとかエドガー殿を呼んでおいてくれ」
「分かりました」
「準備が出来次第呼ぶ。それまでに頼んだぞ」
「はい」

リオはそれだけ言うと通信画面を開き、クロノに連絡を取る。ユウはアル達を呼ぶために部屋を退出した。




魔法少女リリカルなのはLOC
第12話「ユウVSアル 剣と杖の舞」




「よし、みんな集まったな」

クロノが会議室にいる面々を見回す。集まったのはアースラクルーと八神家一同、並行世界組だ。見回した後クロノはそれぞれの前にモニターを表示させた。

「今回集まってもらったのは今僕達が追っている奴らの次の出現世界が分かったからだ。そこで僕らはそれぞれの世界に向かうため2組に分けようと思う。各自の世界の様子はそこに置いてある資料を読んでくれ」

クロノの言葉に皆一斉に資料をめくり、思い思いに読んでいく。それから数分後皆が資料を読み終えた時を計り、クロノが組分けを発表する。

「これからそれぞれのグループのメンバーを発表する。何か意見があったらその場で言ってくれ。まず『ワイルダーネス』に向かうのがユウ、ソウル、エクス、フェイト、はやて、シグナム、アルフ、アルだ」
「あー、悪い。俺はちょっと『ブリザード』の方に回してくれねぇか?そっちの方が都合が良いんだ」

クロノはアルの言葉を聞くとちらっとユウの方を見る。ユウはアルのことを信頼しているので大丈夫だろうと思い、頷いた。

「分かった。それじゃあ、アルは『ブリザード』班に回ってくれ」
「おう」
「そして『ブリザード』へ向かうのは、なのは、ヴィータ、シャマル、僕、ユーノ、ザフィーラ、そしてアルだ」
「僕とリインはどっちに行けばいいんですか?」
「ゼロとリインは僕達と同じ『ワイルダーネス』だよ」
「そうしたらわしはどうなるのだ?」
「エドガーさんはアースラに残っていてください」

クロノがそう言うとエドガーは頷き、席を立ち上がった。クロノが首を傾げ呼び止める。

「エドガーさん、どちらに行かれるのですか?」
「なに、少し気になったことがあったので調べに行くんじゃ。わしはアースラに残るんじゃからここに居なくても変わらないじゃろう?」
「はぁ…」
「では、失礼するぞ」

エドガーは皆に背を向け、会議室を後にする。残された並行世界組はため息をついた。

「ごめんね、何だか我侭で…」
「いや、別にいいんだが」
「あの爺さんは自分が気になることを見つけるとすぐに行動に移して調べるからな」
「本当、あれで俺らは何度振り回されたか…」
「直してくれると助かるんだけど、直してくれないからね〜」

はぁ、ともう一度大きなため息をつく。

「ま、まぁこれで話は終わりだ。出発は明日にしたいんだが問題ないか?」

一同は頷く。

「それじゃあ、これで話は終わりだ。明日に備えて今日はゆっくりしていてくれ」




「さてと…」
「おいユウ、これからどうするつもりだ?」

ユウが席を立ち、ハラオウン家に戻ろうとするとアルが呼び止めた。

「アル…んー、エクス達の整備とかかな…」
「そうか…少し時間もらえないか?」
「どうしたの?」
「少し身体を慣らしたいんだ。お前と別れた後あんまり戦っていなかったからな」
「別に構わないけど、訓練室使うには許可が必要だよ」
「そこら辺は問題ない。既に許可は貰ってある」
「……僕がダメって言っていたらどうしたの…」
「そこら辺は気にするな。さ、行くぞ」

アルはユウに言うと先に会議室を出た。ユウは軽くため息をついてアルを追いかけようとしたが、はやてに呼び止められる。

「ユウ君、アルさんと模擬戦するん?」
「そうだよ」
「私たちも見に行ってええか?」
「構わないけど、面白いものじゃないよ」
「かまへんよ、ほんなら行こ」
「あ、うん」

はやてがユウの手を掴み、ユウはそれに引っ張られるようにして出て行った。

「――――――」
「フェイトちゃん、どうしたの?」
「なのは…ううん何でもないよ」
「でも、難しい顔していたよ?」
「本当になんでもないから、気にしないで」

そういってフェイトはユウ達の後を追い、なのは達もそれに続いた。




結局エドガーを除く全員が訓練室に集まっていた。

「何だかシグナムさんとの模擬戦の時と同じだね…」
「違うところと言えば相手がアルでソウルの代わりが私になっているところだね〜」

呟くユウにエクスがのほほんとした声で返す。向かい側にはアルは自分の白をベースにしたローブを着て、自身のデバイス「エーテルフローズン」を起動させて構えている。アルのデバイスはクロノのS2Uに似た杖だが、先端に三日月を催したオブジェが付いている。

「で、ここでは“あれ”は使えないでしょう。どうするの?」
「ああ、ルールはお互い剣技のみ。魔法は一切無しだ。体術もな」
《“あれ”?》

なのは達が首を傾げるのを無視して二人は話を進める。

「それじゃあゼロシフトも駄目なの?」
「いや、あれは特別に良い。あれを使われると俺としても結構訓練になるからな」
「分かった。それじゃあ――行くよ!」

ユウが姿を掻き消し、一瞬でアルの後ろへと回る。剣が銀色の残像を残しながらアルへと迫る。

「――ワンパターンだな」

アルはそれを振り向きざまに弾いた。ユウは弾かれた反動を使いアルから離れ、エクスを構える。

「お前が姿を消した時は大体後ろに回りこんでいる。初めての相手のときは有効だが何度も戦っていると先を読まれてやられるぞ」

ユウはそれに答えずにアルを見据える。それは自分でも自覚していることだった。後ろに回りこめば大体の敵は反応できずにそのままやられる。だが、アルの言ったとおり何度も戦っているとその癖を読まれる。最悪、相手の実力がある場合は最初の一戦で読まれることもある。
ユウは掻き消えずアルに向かって走り出し、そこから剣技へと繋ぐ。上中下、三方向から攻撃を繰り出し下から切り上げた後にそのまま剣を返し振り下ろす。

「ふっ!」

小さく息を吐きアルは全ての攻撃を弾く。そこから突きを繰り出し、先端の月でユウを串刺しにしようとする。ユウは目を細めると再び姿を消した。

「―――――」

アルは全ての注意を耳に向ける。左から風を切る音が聞こえ、右に跳んだ後すぐに杖を鎌のように振るう。ユウはそれを剣を振り下ろした勢いを殺さずそのままにし身体を前に傾けてかわす。宙に茶色の毛が数本舞った。

「ちっ…」

アルは小さく舌打ちをしてバックステップをする。下がると同時にユウを両断せんと杖を振り下ろす。ユウは身体を捻りそれをかわす。

「はぁっ!」
「っ……」

捻った勢いでアルを横に薙ぎ払う。アルは柄を逆手に持ち替え、柄を剣の軌道に割り込ませた。

ガキィン!

剣と杖がぶつかり合いそのまま硬直状態になる。剣と柄がぎちぎちと音を立てている中、ユウとアルはお互い笑みを浮かべた。

「結構上達しているな」
「別れた後も精進していたからね」
『夜遅くまでやっていたからね〜』
「――それは言わなくても…」
「まぁ、そうでなくちゃ面白くねぇからな」

緊迫した空気の中、ユウとエクスとアルは普段の様子で何気なく会話を続ける。実際模擬戦の最中、ユウとアルは時々楽しそうに笑っていた。

「それじゃあ―――」
「うん」

どちらからともなく相手の武器を弾き、お互い間合いを取る。構えた後2人の顔には真剣さが帯びていた。そして次はアルから走り出した。長い杖の特徴を生かして先端の月と柄、両方を使って攻撃を繰り出す。ユウは様々な方向から繰り出される攻撃を剣一本で全て捌いている。だが連続で繰り出される攻撃を一本で相手するには限界があり、反撃が出来ず防戦一方だった。

「ほらほら、どうした?」
「くっ…」
「何も出来ないのか?」

アルが挑発しながら連撃の速度を速めていく。それは既に視認するには困難な域に達していた。月と柄が弧を描きながら様々な方向からユウへ襲い掛かる。それをユウは全て弾いていく。
なのは達はその様子に見惚れていた。舞うように銀色の月と剣がぶつかり合う光景は一種の芸術と言っても過言ではないだろう。一際大きな金属音が響いた後剣戟が突然止み、なのは達は我に返った。2人を見るとお互いの首本にはそれぞれの武器が添えられている。少し手首を捻れば簡単に首が飛ぶくらいの近さだ。

「引き分け…かな?」
「ああ、そうだな」

アルは答えるとユウから杖を離した。ユウもそれに続いてエクスを離す。

「まだまだ精進するんだな」
「そうだね…幾ら制限があっても君を越えなきゃ話にならないね」
「言ってろ。でも確かに上達している部分はあるぞ」
「そうかな?自分じゃあよく分からないよ」

ユウは少し照れ気味に答えた後、なのは達の所へと戻った。なのは達もユウ達に駆け寄る。

「お疲れさんや」
「凄かったよ」
「それに綺麗だったよ!」

口々に感想を言われアルとユウは顔を見合わせて、苦笑した。

「どうしたの?」
「あ、いや、模擬戦をし終わった後、綺麗だったっという感想は初めてだったから」
「でも本当に綺麗だったよ」
「そうだな、まるで舞っているかのようだった」

ユーノとクロノにまで褒められて苦笑から微笑に変える。2人の自然な関係にシグナムは気になる点が浮かんだ。

「今まで思っていたんだが2人は一体どういう関係なのだ?ただの仲間にしては相手のことをよく知っているが」
「ああ、アルは僕の剣の師匠ですよ」

さらっと言うユウの言葉に並行世界組を除く全員が固まった。一瞬生まれた沈黙をはやてが破る。

「え、剣の師匠って…」
「まぁそんな風に見えないのは当然だよね。僕でも時々忘れるよ」
「ちゃんと教えてやってんのに冷たいな〜」
「だって普段の性格がこれじゃあ誰も分からないよ〜」

いつの間にか人間になったエクスもアルの弁護をせず、素直な感想を口にする。

「皆ひでぇな〜。それじゃあ俺が遊び人みたいじゃねぇか」
《だってそう(でしょorだろ)》

ユウとエクスとソウルが口を揃えて言う。アルは口を尖らせた。

「習いたての時は可愛かったのに、いまじゃこんなになっちまいやがって…」
「今も昔も僕は僕だよ」

呆れながら答えるユウにシグナムが訊ねる。

「剣術に関してはどちらが上なのだ?魔法無しでは引き分けのようだが」
「うーん、ゼロシフトが使えるなら僕が多少有利で、使えないなら不利ってところかな」
「実力的にはあまり変わらないってことですか?」
「そういうこった」

ふむと頷くシグナムを見て、ゼロとアルを除く全員が直感的に悟った。

――――やばい、あれは試合を申し込む目だ。――――

「アル殿、もし良かったら私とも手合わせをしてくれないか?」

ああっ、と周りが頭を抱えたくなるほどの発言をシグナムがした。だがそれをアルはやんわり断った。

「いや〜ここであんたとやったら明日の分のエネルギーが無くなりそうだから遠慮しておく」

そうか、とシグナムが残念そうな顔をする。だがしかし、という風に顔を上げ、

「いつか時間があったらその時はいいか?」
「ん〜、時間があったらな」

よし約束したぞ、と頷くシグナムに対してヴィータがぼそりと呟いた。

「やっぱりこいつ生粋のバトルマニアだ…」




模擬戦を終え、それぞれの自宅に帰ろうとする時ゼロがユウに訊ねた。

「ところでユウ、1ついいですか?」
「ん、何?」
「アルさんはユウの剣の師匠なんですよね?」
「そうだよ」
「それじゃあ何故アルさんは剣じゃなくて杖を使っているんですか?」
「彼の使う術は杖の方が雰囲気出るんだって」
「雰囲気って…」

雰囲気で武器の形状を決めているアルに呆れるゼロ。そこで今まで引っかかっていた疑問も訊ねる。

「あの人の使う術って何なんですか?訓練室でも使えないようでしたけど?」
「ん〜……秘密」
「ええっ!?」

驚くゼロをにこにこ見ながら歩いていく。

「ど、どうしてですか!?」
「黙っていたら分かった時に驚きが増すでしょう?」
「そ、そうですけど…気になりますよ!」
「我慢我慢〜」
「教えてくださいよ〜〜」

気楽な声で返答するユウに教えてくれとせがむゼロ。2人の様子を後ろからソウルとエクスが微笑を浮かべながら見た。

「ユウも結構意地悪だよね〜」
「だがあれは聞いただけでもかなり驚くだろうな」
「だよね〜。全然アルのイメージじゃないもん」

あの飄々とした性格から使う魔法が何なのか分かる者がいるのならそいつはきっと透視の能力でも持っているのだろう。2人は顔を見合わせてくすっと笑うとゼロとユウを追いかけた。




翌日、既にそれぞれバリアジャケットを着込んだ状態でそれぞれの世界に向かう直前の時。

「それじゃあ、そっちは任せたぞ」
「分かった、そっちも気をつけてね」

クロノとユウが言葉を交わし、転送ポートに入っていく。他の皆も続いて入っていった。

「エクス、ソウル」

エクスとソウルが入ろうとした時、アルから呼び止められた。2人が振り返るとアルはいつものへらへらした態度はどこか、真面目な顔でエクス達を見ている。

「何?」

いつもと違う状況に自然と気を引き締める。

「ユウを頼む」

その短い言葉にどんな意味があるのか―――だがエクス達は分かったとばかりに頷いた。そしてエクスもアルに忠告する。

「アル、“あれ”は絶対に使っちゃ駄目だよ」

エクスの言った“あれ”にはユウが訓練室で使ったものとは違う響きがあった。ソウルも同じ気持ちのようで隣でアルを見据えている。アルは頷きそのまま『ブリザード』に繋がる転送ポートに入っていった。エクスとソウルも『ワイルダーネス』へと繋がる転送ポートに入った。




----後書き----

カークス:「皆さん読んでいただきありがとうございます」

ゼロ  :「今回はユウとアルさんの模擬戦、後次の戦闘の準備みたいなものでしたね」

カークス:「元々は会議が終わった後『ブリザード』編に突入しようかと思ったけど中途半端に終わりそうだったからアルとの模擬戦を使いました」

ゼロ  :「前回の後書きではユウの意外な(?)一面が見れるかもしれないって言っていたのに…」

カークス:「いやもう本当に申し訳ありません」

ゼロ  :「全く…にしてもアルさんがユウの剣の師匠って驚きましたよ…」

カークス:「アルは『普段へらへらしているけど本当は凄い』って言うのをイメージにしていたからね」

ゼロ  :「それならユウと僕、エクスとソウルはどうだったんですか?」

カークス:「ユウは『温厚で凄い少年』。ゼロは『大人しくて意思が強い子』。エクスは『元気一杯』でソウルは『冷静沈着』って感じかな。それぞれの元になったキャラはいるけどそれはまた次の機会に」

ゼロ  :「溜め込んじゃって大丈夫なんですか?今の内の方が楽なんじゃ…」

カークス:「楽かもしれないけど、きりが良くないって言うか…それに次の話『ブリザード編』と『ワイルダーネス編』ではそれぞれ新キャラが出てくるからその時の方がついでだしいいかなって」

ゼロ  :「新キャラが出てくるんですか、一体どういう人ですか?」

カークス:「ヒントは『以前出てきました』。そろそろ出さないときついかなと…」

ゼロ  :「ちなみに後どのくらいで終わらせるつもりなんですか?」

カークス:「えーっと、この後の戦闘が最低3回あって、それから最終決戦かな」

ゼロ  :「持つんですか?そんなに…」

カークス:「そこら辺は心配なし。最初の二回は次のやつだし、最後の一回は投稿当初から決まっていたから」

ゼロ  :「はぁ…それなら良いですけど…今後はどうするんですか?」

カークス:「次の戦闘は『ブリザード編』と『ワイルダーネス編』と二つに分かれる(かもしれない)。これからも頑張っていくのでよろしくお願いします」

カ&ゼ :「「それでは、失礼します」」





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