転送が終わるとまず最初にきたのは雪を交えた突風だった。

「わっぷ!」
「きゃあ!」

誰かが悲鳴を上げる。突風はすぐに収まると目の前は一面の銀世界が広がっていた。

「わあ…」

なのはが感嘆の声を上げる。だが直ぐに寒さが身体を襲って震えた。

「うう、綺麗だけど寒い…」
「まぁ、雪の世界だからね」

なのはの言葉にユーノが苦笑する。ユーノの方に向くと彼はフェレットに変身していた。

「あ、いいな〜ユーノ君。毛皮温かそう…」
「人の姿じゃここは寒いからね」

他の皆を見るとザフィーラは狼形態になっており、アルも黒猫に変身している。

「動物に変身できる奴はいいよな〜」

ヴィータが羨ましそうな声を上げてザフィーラの上に乗った。

「……なんのつもりだ? ヴィータ」
「へへっ、温かいから乗せてくれよ。あたしは軽いから大丈夫だろ?」

ヴィータが笑いながら顔をザフィーラの背中にうずめる。ザフィーラは小さくため息をついてそれから何も言わなくなった。

「いいな〜ヴィータちゃん」
「なのは、僕で良かったら首にいるよ」
「いいの?」
「うん」

ユーノはなのはの腕を伝って首まで行き、マフラーのように首に巻きついた。

「わぁ、温か〜い。ありがとう、ユーノ君」
「どういたしまして」

にっこりと笑って御礼を言うなのはと笑い返すユーノを見て、シャマルはアルを見つめて後ろからそっと抱きかかえた。

「うおっ! ちょ、一体何を!?」
「私も寒いから抱かせて♪ ん〜、やっぱり温か〜い」
「…………(まぁ、ラッキーだからいいか)」

背中に当たっているなにかボリュームのあるやわらかいものの感触を堪能しながら黙るアルをシャマルは幸せそうに抱きかかえる。

「さぁ、馬鹿なことはやっていないで行こう。遺跡はここから南の方角だ」

クロノはデュランダルでエリアサーチを済ませ、待機状態に戻して歩き始めた。なのはがあれ、と思いついてクロノに訊ねる。

「飛んで行かないの? ここは管理世界だから魔法の存在が知られているんじゃ…」
「管理世界と言っても秘密裏にだ。この世界にはディメンションリンクの他に魔力を込めている物がある。この世界に魔法の存在が知られていないのにも関わらずに、な」
「いわゆるオーパーツだよ。ロストロギア程の魔力は無いけど何故ここにあるのか分からない代物」

クロノの説明にユーノが補足した。要約するとこの世界は管理世界だけど魔法の存在が知られていないから飛べない、ということだ。

「そうなんだ……」
「分かったら行こう。彼等より早く遺跡にたどり着かなければいけない」

さっさと歩いていくクロノを見て皆疑問に思うところがあった。

「クロノ君、寒くないのかな?」
「使う魔法の属性が氷だから、とか?」
「それは関係ないんじゃないかしら、多分あのバリアジャケットに何か秘密があるのよ」

シャマルの言葉に皆クロノのバリアジャケットをじーっと見つめる。肌を露出しないように体全体を包んでいるけど特別なにかあるようには見えない。

「そうかな? 何か秘密があるようには見えないよ」
「実はバリアジャケットにの下に温度調節装置でもあったりしてな〜」

アルの言葉に皆動きをぴたりと止める。アルは首を傾げて、どうした? と訊ねる。ちなみにこの時でもザフィーラとヴィータは会話に加わっておらず、ザフィーラは無言でなのは達の後ろにつき、ヴィータは、ぽえ〜〜とした表情でザフィーラのふさふさの毛を満喫していた。

「多分それだよ! クロノ君、以前一緒に任務で夏みたいな暑さの中で汗1つかかずに平然としてたもん!」
「私も一緒にいたときに、密林の次元世界で汗は流していたけどそれでも他の隊員さんよりも量が少なかったわ!」
「僕もここほどじゃないけど寒い地域の資料作成を頼まれたんだけど、エイミィさんの話じゃクロノはその資料を見ながら寒さに顔色1つ変えなかったって言ってたよ」
「…………(それは単に寒さや暑さに強いだけじゃ…)」

自分が言い出したことに三人とも納得してしまったのでツッコミ辛くなったアルはそのまま黙ることにした。

「どうしたんだ? 早く行くぞ」

クロノの方を向けば仏頂面でこちらを見ている。謝りながら走って追いついて、一同は歩き出した。





魔法少女リリカルなのはLOC
第13話B編「精霊VS精霊 雷の少女」





歩くこと20分、前方に遺跡が見えた。そしてそこで暇そうに立っている女性―セルマ―もいる。

「お前は…」
「あら、坊や達…タイミング悪いなぁ」

セルマはちぇっ、とばかりに呟く。既に臨戦態勢を整えているクロノが前に出た。

「時空管理局執務官クロノ=ハラオウンだ。セルマ、貴方をディメンションリンクの強奪、およびその破壊の罪で逮捕する。投降すれば弁護が貴方にもつく」
「何それ、お決まりの台詞? 面倒くさいね〜、そういうの」
「大人しく投降してください」

なのはが前に出てもう一度投降勧告を出す。ちなみにユーノを巻いたままだと格好悪いので既にユーノ達変身可能組は人間になっている。

「嫌よ。というかそんな風に言われて大人しく投降する奴がいんの? もしいたらそいつ相当な馬鹿よ」
「てめぇ……」

軽くあしらう態度にヴィータの怒りがボルテージを上げる。他の皆もこの女には好感を抱けないようだ。

「だってそうでしょ? 追われることを分かって罪を犯しているのになんでわざわざ自分から捕まりに行くの?」
「そんな御託はいいって。さっさと大人しく捕まれってことだよ」

アルが杖を構えてセルマに軽い口調で呼びかける。セルマは軽い態度を消して少し真面目な顔つきになる。

「嫌だと言ったら?」
「力尽くで捕まえる」

クロノの言葉と同時にセルマは飛び上がり遺跡の上に降り立つ。そのまま懐から札を出して構えた。クロノ達もその間に構えを取る。沈黙が続く―――。その沈黙を誰かの行動ではなく、電子音が破った。

『マスター、遺跡内部に動体反応。これは……人間です』
「本当!? レイジングハート」
『はい、数は1。近くにディメンションリンクと同反応の魔力が確認されました』
「クロノ君!」
「っ、仲間がいたのか」

なのはとレイジングハートの言葉にクロノが舌打ちする。セルマはにやにや笑いながら空に舞い上がり、遺跡に結界を張った。

「さて、これで貴方達は私を倒さなきゃ遺跡の中に入れなくなりました。あの子があれを破壊するのが先か、私を倒してそれを阻止するのが先か、面白いかもね」
「くそっ、厄介な…」
「……なぁクロノ、こいつは俺に任せて遺跡の中に入れ」

アルが杖を構えてクロノに伝える。クロノは驚愕してアルに振り向いた。

「何を―――!」
「結界はユーノとシャマル、ヴィータがいれば破壊できる。足止めぐらいは俺1人で十分だ。まずはディメンションリンクの安全を確保しろって」
「っ、だが―――」
「急げって。こうしている内にも破壊されるかもしれないんだぜ? そうならここで足止め喰らうわけにはいかないだろ」

クロノは苦渋で顔を染め、結界に向き直る。

「頼む」
「頼まれました、っと」
「ユーノ、シャマル、結界の解析を急いでくれ。僕も手伝う。ヴィータ、君は結界の解析が終了次第一番効果がある攻撃で結界をぶち破ってくれ」
「うん!」
「はい!」
「おう!」

三者三様の返答をし、それぞれの作業に取り掛かる。残されたなのはは一体どうしたものかと思い、アルの隣についた。

「どうしたんだ?」
「遺跡に入れるようになるまで援護します」
「………分かった、よろしく頼む」

2人でセルマを見据える。セルマはふむと顎に手をやって考えていた。

「う〜ん、ディメンションリンク破壊があと5分かかるとして、結界破られるのが2分、最深部に到達するのが2分、かな……。これはちょっと不味いかもね」

言葉と裏腹にセルマは笑いながらアル達に対峙する。

「ま、いっか。ウィルとカイルがやってくれるでしょ」
「もう1つの世界はフェイトちゃん達が向かっています」
「ありゃ、そうなの? ん〜、じゃあここでなんとかやらなきゃ、ね!」

おどけた声を上げて札をクロノ達に向け、雷撃を発した。バチバチと音を立てながらクロノ達に近づく―――が、

「ヴォルト」

それは進行方向に現れた雷を帯びた杖によって阻まれた。同時に杖を纏っていた雷も相殺される。へぇ、とセルマが感嘆の声を上げた。

「あなたも精霊使い?」
「―――召喚士だ」

聞きなれない言葉になのはは首を傾げる。2人はなのはを置いてきぼりにしてお互いを見据えた。

「本格的に面白くなってきたね、どっちが上なのか気になる」
「俺はそんなの気にしないけどな。面倒なのは嫌いだ、そっちの勝ちってことでいいぞ」
「私、不戦勝って嫌いなの」
「俺は好きだ」
「そう、それなら―――」

セルマの顔が多少険しくなる。札をクロノ達ではなくアルに向けた。

「―――無理やりでも戦ってもらうわ! 冷徹なる氷の少女よ、凍える吐息にて目前の敵を凍てつかせよ!」
「っ! 蒼ざめし永久凍結の使徒よ、契約者の名の元にその力をここに示せ!」

セルマの呪文詠唱に合わせアルも詠唱を始める。詠唱が完了した時、アルの右中指にはまっていた青色のサファイアが、セルマの水色の札が青白く輝く。そして同時に呼び寄せる者の名を呼んだ。

「フラウ!」
「セルシウス!」

両者の背後に小さな雪の渦が出来、そこから少女が2人現れた。セルマの後ろに現れた少女は見た目十歳程度、水色の髪(ショートカット)で身長はなのは達ぐらい、氷の翼を生やしていた。対してアルの後ろにいる少女は見た目16歳程、青髪で赤茶色のヘアバンドをしていた。

「セルシウス……ああ、あそこの世界の精霊ね」
「フラウ……別次元の精霊か…、クロノ! まだか?!」
「今終わった!」
「ヴィータちゃん、ラケーテンハンマー!」
「おうよ! アイゼン!」
『Explosion! Raketenform!』

ヴィータの掛け声にグラーフアイゼンは応え、カートリッジを1つ消費してラケーテンフォルムへと変形する。

「ラケーテン――」

推進剤噴射口に火をつけてその場でぐるぐる回り始め、カートリッジをさらに1つ消費して加速時間を長くした。

「ハンマーー!」

猛スピードで突っ込んで行き、結界にハンマーヘッドのスパイクを叩き込む。スパイクが入った場所を中心に皹がちょうど2人分入れるぐらいの大きさに広がっていった。

「――ぶち抜けぇぇぇぇぇ!!」

ヴィータの声と同時に結界の一部が硝子が割れる音を立てて崩れる。

「よし、皆行くぞ!」
「おう!」

ヴィータは結界を割った直後にも関わらず一番に遺跡に入っていった。クロノ達もそれに続く。

「結界を破ったか…なのは、 行け!」
「……はい!」

少し俯いたが直ぐに顔を上げ、返事をしたなのはは直ぐに遺跡へと入っていった。

「可愛い子ね〜」

和んだ声を出したセルマはなのはが入った後直ぐに結界を修復する。

「ああ、あんたもそんな性格じゃなきゃ結構良い線いっていると思うけどな」
「あら、ありがと」

軽く言葉を交し合った後お互いを真正面から見据える、後ろに精霊をつかせながら。

「さて、行くか」
「ええ」

どちらからともなく地を又は空を蹴った。





遺跡に入ると同時に魔力の濃度の濃さに気がついた。最深部で魔力の収束が感じられる。この濃さは遺跡中の魔力が最深部に向かっているからだろう。

「くそっ、んだよこのバカ魔力……」
「全ての魔力が最深部に向かっている…ディメンションリンク一個の破壊にここまでやるとは……」

ヴィータとクロノが毒づく。それもそうだ、この魔力はなのはのディバインバスター・エクステンション並だ。たかが宝石一個にここまで――と思ったがディメンションリンクもロストロギアだということも思い出した。

「クロノ君、最深部まであとどれくらい?」

後ろからなのはが訊ねてくる。デュランダルにエリアサーチを頼み、5秒ほどで返答された。

『あと30秒ほどです』
「急ぎましょう、魔力がどんどん高くなっています」

デュランダルの言葉にシャマルが焦ったように速度を上げ、それを追いかけるように皆も足を速める。そして三十秒ほど走った後、1つの部屋の前に来た。そこには遺跡の入り口の倍の魔力が集っている。意を決して扉を開けると中は台座が中央にあり、その上にディメンションリンクが置いてあった。それはユウと初めて会った時ととてもよく似ていた―――この馬鹿でかい魔力と台座の傍にいる少女を除いては。
少女はディメンションリンクに向かい鎚らしき物を振り上げていたが扉が開いたことに気づくと斧を下ろしてこちらを振り向いた。鎚がずん、と音を立てて落ちる。少女は見かけなのは達と同年代だ。薄い桃色の髪を二つに縛っており、所々に白いラインが入った紺色の長ズボン、紺一色のシャツ、少し赤みがかかったジャンパーを着ている。瞳は黒いが何かを映しているわけではなくただ虚ろだ。右手に持っている鎚はヴィータのグラーフアイゼンと酷似していたがどこかしら色や形が違っていた。

「あの子が?」

ユーノが怪訝そうに少女を見つめる。少女はただ虚ろな瞳でこちらを見返してきた。

「……セルマは?」
「遺跡の外でアルと戦闘中だ。何者かは知らないがディメンションリンク破壊未遂の現行犯として君を逮捕する」

クロノが愛用の2本の杖を少女に向ける。だが少女は少しも表情を変えずにそう、と呟いた。

「それなら私の仕事もおしまい」
「え――?」

なのはが疑問の声を上げると同時に少女は動き、鎚を振りかぶった。魔力が鎚に収束していく。

「危ないからどいて」
「なっ、散れ!」

クロノの声が終わりみんなが散ると同時に少女が呟き、鎚を振り下ろした。

「お願い、ミョルニル」

呟いた言葉は振り下ろした時の勢いとは正反対で静かだった。振り下ろされた鎚から雷が迸る。雷はそのまま壁に当たり壁を這った。当てられた壁は崩壊し、雷が這ったあとは壁が抉れている。そのまま壁はどんどん崩壊をしていき、遺跡を支える柱さえも抉った。

「そんな!? みんな、遺跡から脱出するから集まって!」

ユーノの言葉に皆速やかにユーノのところへ集まる。ユーノはすぐさま転送魔法の準備をしてシャマルもそれを手伝った。もう既に部屋は完全に崩壊するまで僅かな状態となった。なのはがまだ少女がユーノの元に来ていないことに気づき呼びかける。

「何をしているの!? はやくこっちに来て! 崩壊に巻き込まれちゃう!」
「…………」

少女はただ何も答えずになのはを見据える。なのはは口で言っても無駄だと悟り連れてこようとした。だが、それはヴィータによって阻まれた。

「ヴィータちゃん!?」
「もう、間に合わねぇよ! お前死にに行くつもりか!?」
「でも、あの子が――!」

なのはが言い終わる前に足元の翡翠色の魔方陣がさらに輝く。準備が完了した証拠だ。

「転送するよ!」
「ユーノ君、あの子が!」
「構わない、やれ! ユーノ!」

なのはの言葉を遮ってクロノが声を上げる。その言葉に応じて魔方陣がさらに強く輝いた。なのはは転送の瞬間まで少女を連れ戻そうとしたがそれは全部クロノとヴィータに止められ、その様子を少女は無言でただ見ているだけだった―――。





なのは達が遺跡に入ってから3分間、アルとセルマは互角の勝負をしていた。セルシウスは徒手空拳と魔法を使って相手を攻め、フラウは身体に似合わず氷の大剣を振りかぶってこちらを攻める。
本来精霊というものは自然界の全ての物に宿っている。火だとか水だとかのようなのが分かりやすい例だ。そして精霊は自らが認めた者にだけ契約を結び、力となる。精霊との契約の際に精霊はシンボルとなる物を渡す。例えばセルシウスで言うと青のサファイアだ。シンボルとなるものは次元毎に違うがあの女の場合は札に力を入れてもらっているのだろう。シンボルと相応の魔力、そして詠唱の条件が全て揃った時に精霊が初めて契約者に力を貸す。

「…………」
「フラウ、あなたは囮になって引きつけて! 私がその隙を突く!」

だからアルはセルマを妙に感じていた。精霊というのはあくまで力を貸してくれる存在。だが、あの女は完全に使役している。精霊はプライドが高くそれこそ誰かの言いなりになるなんてことはほとんどない。

「マスター、どうしますか?」

フラウとセルマを一旦退けた後セルシウスが近づいて訊ねてきた。―――気になることは幾つもあるが今は戦闘に集中しよう。ふぅ、と軽く息を吐いて頭を切り替える。

「そろそろなのは達が戻ってくるだろう、面倒くさいだろうが『フェンリル』を呼んでくれ」
「分かりました、それでは――」

セルシウスが前に出て、相手を真正面から見据える。それに相手も合わせ1度動きを止める。セルシウスは右手を前に出し短く呟いた。

「出でよ、我が半身。フェンリル!」
「な、精霊がさらに召喚するの!?」

セルマの驚愕の声が聞こえる。セルシウスの右隣に氷の渦が巻き起こり、その中から狼によく似た獣が現れた。獲物を見つけて唸る獣をどうどう、と抑えるセルシウスを前にフラウとセルマに緊張が走る。相手の出方を待って構えていると遺跡からよく知った魔力反応を感知した。

「なのは達が出てきたか―――なに!?」

姿を確認しようと遺跡を振り向いた瞬間、アルは驚愕で動きを止めた。遺跡が崩壊を始めている。なのは達は転送魔法を使って脱出を図ったらしいが、一体どうしたらそんな状況になるんだ―――。
彼女達は遺跡に張られている結界からやはり抜け出せないでいる。ヴィータのラケーテンハンマーでもう一度破れば問題ないだろうが、何故か皆遺跡の方を見ていて結界から脱出することを考えていない。どうしたんだ? と疑問に思いながら見ていると後ろからセルシウスの声がかかった。

「マスター、行きます」
「あ、ああ、済まない」

考えるのは後、とにかく目の前の敵に集中しよう。胸中で気合を入れなおし杖を構えた。





脱出した直後に遺跡は完全に崩壊した。柱という支えを失った建造物はだるま落としのように上から下へと潰れていく。中の少女を気遣いなのは達は心配そうに見ている。通常ならばこの遺跡に巻き込まれた人間は確実に死ぬ。上から落ちてきた石塊に押しつぶされ無残な最期になるだろう―――通常ならば。

ゴオオン!

突然響いた轟音に一同は目を見張る。遺跡から雷撃が空に向かって伸びていた。直後に1人の少女が飛行魔法で舞い上がってくるのが見える。なのは達は無事だったことに安堵すると同時に彼女が敵であること、そして強大な力を持っていることに戦慄を覚えた。少女はそのまま空に上がり、鎚を結界に叩きつける。打ち付けられた場所から見る見るうちに皹が結界全体まで広がっていき、結界が割れた。結界が割れたことを確認するとアル達の方へ飛んでいくのを見ると硬直から解けたようになのは達もアル達に向かって飛び始めた。
アルの傍には遺跡に入る前に見た一人の少女と初めて見る一匹の獣がいた。アルの傍まで飛んで身構え、目の前で話すエルマと少女を見据えた。

「お疲れ、イリアちゃん。どうだった?」
「ごめん、邪魔が入った。あと少しだったのに」
「ん〜、まぁ遺跡を崩したから結果オーライってことで」

全く調子を変えないイリアと呼ばれた少女と軽い調子で話すエルマはそのままさも当然のように転送魔法を準備する。

「っ、セルシウス!」
「はい、フェンリル!」

フェンリルが雄叫びを上げて2人に飛び掛った。―――だが間に少女が割り込み鎚を振るって邪魔をする。フェンリルは鎚をかわして狙いを少女に定めて再び飛び掛った。少女は防御魔法を行使して攻撃を受け止める。その防御ごと少女を飲み込もうとするフェンリルは口を大きく開いて少しずつ近づいていく。このまま食われるかと思った瞬間、フェンリルの進行が止まった。――いや、止めさせられた。見れば四肢と首がバインドで捕まっている。少女が防御魔法を解除して一旦離れ、表情を変えずに加速をつけて鎚をフェンリルに叩きつけた。ぎゃん、と悲鳴を上げ落ちていくフェンリルは粒子となって消えていった。

「……ありがとう、セルマ」
「転送魔法の準備中にバインドの使用なんてお茶の子さいさいよ」
「くっ、待て!」

クロノの声にセルマは思い出したように伝言を頼んできた。

「ああ、そうそう。ユウに言っておいて。近いうちにあなたの力を貰い受けますって」
「……それはどういう意味だ?」
「言葉どおりの意味なんだけどね、それはその時になってのお楽しみ♪」

それだけ言うとセルマと少女の身体は光に包まれて転送された。

「チッ、逃がしたか」
「ディメンションリンクの破壊を防いだだけでよしとしよう。あれもある意味一種の封印だからな」

遺跡の方を見てみると、見事なまでに倒壊していた。ディメンションリンクは見かけによらず意外と強度が高く、あれくらいじゃあ皹も入らない。破壊するためにはやはり相当の魔力が必要となる。

「僕等も1度退こう」
「ああ。セルシウス、ご苦労さん」
「いえ」

セルシウスはクールな表情で答えると目を瞑りそのまま光となって消えた。皆の方に振り返ると奇怪なものを見るような目で見られていた。

「……アル、彼女は一体―――」
「それについては戻ったら話す。どうせなら皆いる時の方が良いだろうしな」
「―――分かった」

表情を曇らせながら一同はアースラへと帰還した。





----後書き----

カークス:「皆様読んでいただきありがとうございます」

ゼロ  :「今回はもう1つの世界『ブリザード編』ですね。新キャラも登場して」

カークス:「というわけで今回は今まで出てきたオリジナルキャラクターの解説といきます」



城島ユウ
年齢:15歳
性別:男
魔導師ランク:エクス・ソウル無時【S+】有時【SS+】ユニゾン時【???(測定不能)】
魔力光:通常は銀だが、魔法によって変わる(例:デルタレイは金、ブラッディランスは深紅など)
使用武器:聖剣“エクスカリバー”、魔剣“ソウルイーター”ユニゾンデバイス“ゼロ”、月光の書
備考:城島ユウと書いてきじまゆうと読む。体内にあるものを抱えており、日々彼の体を蝕んでいる。エクスとソウルの魔法も使える。混沌、闇、光属性の魔法を使うことが出来る。元となったキャラはスター○ーシャン3のフェイト・ラインゴット。

アル=ランチェスター
年齢:20歳
性別:男
魔導師ランク:AAA+
魔力光:特定の色なし、その時によって変わる。
使用武器:エーテルフローズン、各宝石
備考:性格の元となったのはFateのランサーだが思うように書けずに作者を悩ましている。召喚魔法を使うことが出来、地、水、火、風、雷、氷、光、闇の精霊を召喚することが出来る。一応同時に全ての精霊を召喚することも出来るが、滅多にそんなことにならないのと本人曰く「面倒くさい」とのこと。

マリア=クロムウェル
年齢:15歳
性別:女
魔導師ランク:S
魔力光:紫
使用武器:グラビティアクセル、足
備考:遠距離は銃、近距離は足技を使って相手を攻撃する。主に重力の魔法を行使する。元となったキャラはスター○ーシャン3のマリア=トレイター。姿もほとんど同じと考えてよい。

エドガー=レイヴァース
年齢:65歳
性別:男
備考:突如アルと共に現れた謎の老人。ユウ達が気を許しているため危険な人物ではない筈だが――?

聖剣“エクスカリバー”
性別:女
魔導師ランク:AA+
魔力光:金
使用武器:自身の魔力で作り出す光剣、又は徒手空拳。
備考:外見年齢は10歳だが変えることも出来る。性格の元はFateのイリヤスフィール。剣と人、両方になることが出来る。主に光属性の魔法を使う。

魔剣“ソウルイーター”
性別:男
魔導師ランク:AAA−
魔力光:黒
使用武器:自身の魔力で作りだす光剣、又は徒手空拳。
備考:外見年齢は15歳だが変えることも出来る。性格の元はなし。剣と人、両方になることが出来る。主に闇属性の魔法を使う。

ゼロ
年齢:外見年齢:10歳(実際はまだ1ヶ月に満たない)
性別:男
魔導師ランク:AA
魔力光:白銀
使用武器:月光の書、自身の魔力で作り出す光剣
備考:ユウのユニゾンデバイス。ユウの魔力とは完全に連結を絶っているのでユウの魔力供給がなくなっても活動可能。一応睡眠で魔力を回復できる。性格は男版リイン(?)。主に月属性の魔法を使うことが出来る。

リオ=ブレイズフォード
年齢:23歳
性別:男
備考:現アースラの艦長。先代艦長のリンディとは知り合いで今でも連絡を取っていたりする。一応提督の身なのでやれば出来るのだがほとんど仕事はクロノ任せ。


カークス:「とまぁ、こんなものでしょうか」

ゼロ  :「色々と納得のいかないところが……エドガーさんにいたっては何も書いてないじゃないですか」

カークス:「それだけ書きにくいんだよ。ちなみにまだ話は続くので隠すところは隠します」

ゼロ  :「うわ、思いっきり何かありますよ宣言しましたね」

カークス:「細かいことを気にしない」

ゼロ  :「ところで敵の詳細はどうしたんですか?」

カークス:「敵さんは1度ウィル達視線の物語でも書こうかなとか思ったからその時にでも書こうかなと」

ゼロ  :「はあ…なんだかたくさん溜め込んでいますね」

カークス:「色々と大変だけど何とかやっていく。さて次回は久々の戦闘なし。ユウとアルの秘密とマリアの解説が入ります」

カ&ゼ :「「それでは失礼します」」





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