この話は最後の方に微グロ(?)が含まれています。何か食べながら読むことは推奨しません。なお、どこからグロくなるかは止めませんのでご了承ください。
それではどうぞ。byカークス



















ユウ達は転送を終え目を開くと、そこは辺り一面が荒野だった。後ろを振り返っても同じ景色が広がっている。

「はぁ〜〜、何にも無いですぅ」
「寂しい場所ですね」

リインとゼロが率直な感想をこぼす。前方の荒野を眺めているとエイミィから通信が入った。

『そこから北に進むと渓谷があるの。その奥に遺跡があるよ』
「北って……」
「どっちが北か分かんないよ〜」
『バルディッシュのエリアサーチでどっちが北か探してみて』

エイミィの言葉にフェイトはアサルトフォームのバルディッシュに訊ねる。

「バルディッシュ、お願い」
『Yes,sir』

明滅して約30秒後にバルディッシュが答え、ユウ達は示された方向に飛んで向かった。道中、廃墟や岩が連なって出来た道があったがそれを難なく抜ける。10分ほど飛んだ時、はやてが何気なく呟く。

「それにしてもほんまに何も無い場所やな…街はないんか?」
「あるけど、この付近にはないんじゃないの?」

はやての呟きにユウが答え、右を見るとオアシスが見えそこには水を汲みに来ていた人たちがいた。

「ほら、あそこに人がいるくらいだし」
「ほんまや―――ってここは魔法が知られてないから飛ぶのはまずいんやないか!?」
「向こうは気づいていないみたいだし、スピード出してすぐにいなくなれば分からないよ」

そう言うとユウはスピードを上げ、はやて達も慌ててそれに合わせてスピードを上げた。




魔法少女リリカルなのはLOC
第13話「謎の少女登場!?渦巻く不安」


それからさらに10分ほど飛んだ後、一同は渓谷についた。底には川がもの凄い勢いで流れており壁の部分にはところどころ岩が突き出ているという変わった渓谷だった。ユウ達はエイミィに念話を繋ごうとしたが、途中でやめる。はやて達はその様子を見て首を傾げた。

「どないしたんユウ君?」
「エクス、ソウル。気づいている?」
「うん」
「どうやらお客さんのようだな」

ソウルの言葉に皆一斉に戦闘態勢を整える。その直後、一同に向かって真上から魔力の槍が打ち出された。数はおよそ50。その槍がはやて達に迫り当たろうとした瞬間、はやて達の目の前で全て弾かれた。そこにはソードフォームになったソウルを持ったユウとレヴァンティンを構えたシグナムがいる。2人は槍が打ち出された空を見上げる。空には10人の男が佇んでいる。それぞれ杖を片手に持ち、もう片方の手をこちらに向けていた。1人のリーダー格の中年がユウ達を見据え言葉を発する。

「ウィル殿の命でここから先は通さない」

ウィルの名に全員に緊張が走る。やはりここに来た。そして既にウィルは遺跡に向かったようだ。ユウはエクスとゼロに何か小声で告げ、飛行魔法を使って彼らと高度を合わせる。ゼロは驚愕の声を上げた。

「そんな…マスターユウ!」
「エクス、ユウは何だって?」
「『ここは僕とソウルが抑えるから皆は遺跡に向かって』ってさ」

呆れたように言うエクスの言葉を聞いてフェイト達は驚愕した。

「ユウ、何を言っているの!?」
「そや、そんなの無茶やで!」
「僕も一緒に戦います!」

ゼロが飛んでユウに向かう。はやてとフェイトの声を背中に受け、ユウはリーダー格の男を見据えた。男が表情を変えずに武器を構える。

「我々がここをそう易々と通すとでも?」
「――――あなた達はここを通さざるを得ません」

ユウはそう言うとソウルに魔力を込め、闇色の結界を発動させた。結界が飛んできたゼロを拒むようにユウと男達のいる空間を包む。外からは中の様子が見えない。

「「ユウ(君)!」」
「マスターユウ!!」
「行きましょう、主はやて、テスタロッサ」
「ゼロもだよ」
「だけど…!」
「ユウ君を置いて…」
「見たところ彼らはユウより実力は劣っています。何人束になってもユウには敵わないでしょう」

シグナムの言葉に少し安堵したフェイトとはやては少し心配気に結界を振り返り、吹っ切ったように前を向いた。だが、ゼロはマスターのいる場所を見離せずにいる。リインがそんなゼロに声をかける。

「ゼロ、行きましょう?」
「僕は…」
「ユウさんを信用しましょう。あの人は絶対に負けないです」

リインの言葉にゼロは悔しげに結界を見つめると、先に飛んでいったエクス達をリインと共に追った。




一同は遺跡に着いた。遺跡は渓谷の水が流れていない部分に佇んでいる。そしてそこでもはやて達は驚愕することになった。

「ウィル!」

遺跡の前には『ルイン』で会った青年―ウィル―が立っていた。既に武器を持ち構えはやて達を待ち伏せしていたように見える。ウィルははやて達を見据えた。

「来たか…」
「間に合ったの?」
「そやとええな」

はやてとフェイトは言葉を交わしてそれぞれのデバイスを構える。はやては遺跡にたどり着く前に戦闘になることを予測して既にリインとユニゾンは済ませてある。後ろではエクスとシグナム、アルフ、ゼロが戦闘態勢を取っている。

「そう言えば名前を聞いていなかったな」
「時空管理局執務官候補生フェイト=テスタロッサ=ハラオウン。ロストロギア“ディメンションリンク”の強奪とその破壊の罪であなたを逮捕します」
「時空管理局特別捜査官八神はやてや。抵抗しなければ弁護の余地はあるで」

フェイト達は決まりでもある言葉を言いデバイスをウィルへと向ける。後ろでシグナムとアルフの話が聞こえた。

「なんとかここのディメンションリンクは護れそうだな」
「ああ、ここでこいつを抑えて後はクロノ達が上手くやれば…」
「ふっ」

シグナムとアルフの言葉を小さく笑うウィルを見て、はやて達は怪訝に思った。

「何がおかしいんや?」
「いや……私は簡単には捕まらないぞ」
「やってみなきゃ分かりません」

次の瞬間に攻撃を繰り出そうとするお互いの間を割って入るようにバルディッシュの声が響いた。

『サー、遺跡内部に動体反応があります』
「っ、ガーディアンじゃなくて?」
『いえ、リンカーコアを所有しています。恐らく人間かと』
「仲間がいたのかい…」

アルフが呟き、ぎりっと歯軋りする音が聞こえた。ウィルは笑みを浮かべたまま遺跡の入り口に立ちはだかっている。

「どいてもらおう」
「断る」
「ならば力尽くにでも退いてもらうよ!」

地を蹴り、アルフはウィルに飛び掛った。ウィルは顔から笑みを消し、襲い掛かる女をシールドで阻む。アルフはにっと笑うと拳をシールドに叩き込む。

「バリア…ブレイク!」
「っ!」

張っていたシールドがあっさり砕け驚愕の表情を浮かべるウィル。横に跳びアルフの攻撃をかわす。そこにアルフの後ろからシグナムが追撃する。銀の残像を残しながらレヴァンティンが迫る。ウィルはそれを槍で弾き、反撃で槍を突き出した。最低限の動作で槍をかわしウィルの懐に踏み出す。再びレヴァンティンが迫った。ウィル小さく舌打ちをしてシールドを張る。

「無駄だ!」
「そうかな?」

シグナムはシールドごとウィルをなぎ払う。―――しかし刃はウィルに届かなかった。

『Burst』
「何!?」

ウィルはシールドを爆破させシグナムとの距離を開ける。そして再び槍を構えた。

「くっ…」
「シグナム、大丈夫か!?」
「問題ありません、主はやて」

再び剣を構えるシグナム。その様子を見たアルフはフェイト達に提案をする。

「フェイト、ここはシグナムに任せて遺跡内部に行こう」
「え?」
「そうしろ、テスタロッサ。内部にこいつの仲間がいるならそいつにディメンションリンクを破壊される訳にはいかない」
「ここで壊されたら元も子もないんだから」
「―――うん、すみません。シグナム」
「頼んだよ」

はやてとフェイト、アルフは遺跡内部に向かって走り出した。エクスとゼロもそれに続く。シグナムはレヴァンティンを構え直しウィルを見据える。

「ヴォルケンリッターの将、シグナム」
「ウィル=ハルフォード」

「「参る」」





結界を張ってから5分…ユウは男達を圧倒していた。砲撃が撃たれれば回避して即座に反撃。だが傷つけずに相手に衝撃を与えるだけに止めていた。男数人が毒づく。

「くそ…なんて強さだ…」
「10対1なのにこの差かよ…」

ユウはソウルを構え、男達を見つめた。

「あなた方が手を出さなければ僕達は攻撃をしません。攻撃を中止してください」

ユウの言葉にリーダー格の男が鼻を鳴らす。

「ふん、そんなこと出来るものか」
「あなた方と僕達の力の差は歴然です。それが分からない訳ではないでしょう?」
「ウィル殿と契約を結んだ以上、それを破るわけにはいかない。例え力の差があってもな!」

リーダー格の男は杖を持ってユウに接近した。ユウはそれを迎撃するように構え、呟いた。

「何とかゼロ達が戻るまで耐えなきゃ…ソウル、殺しちゃダメだよ」
『お前の性格上それはよく分かっている』
「ありがとう」

男は上から杖をユウに振り下ろす。ユウはそれを弾き、蹴りを食らわす。―――男は弾かれた後すぐに後退してユウの一撃の威力を落とす。妙に思うユウの背後から砲撃が放たれる。ユウはそれを回避して砲撃を放った男の後ろに回り込み剣の振りによる衝撃波をぶつけた。
衝撃波をぶつけられた男は毒づく。その言葉が男達の命を散らすもの知らずに――――

      ・・・
「くそっ……化け物め!」

ドクン

―――心音が突然大きく聞こえる―――

『っ!!―馬鹿者!早く逃げろ!!』

―――ソウルの焦った声が聞こえる―――

身体が燃える様に熱くなっていく。身体の中から魔力が溢れ出ていく。黒い魔力が自分の身体から出てきていた。

―――止められない―――

意識が他の者に乗っ取られる感覚に陥る。

「ソウルイーター、非殺傷設定解除」

自分の口から自分の声…だけど自分の意思じゃない声が聞こえる。言葉には聞いたものを凍りつかせる程の冷酷さが含まれていた。

―――止めろ―――

ソウルが非殺傷設定を解除したのが分かる。意識が白くなっていく。周りの男達が顔面蒼白になっていくのが分かった。でも――もうどうしようもない。男達の命運は既に尽きてしまったのだから。

―――止めろ―――

自分の口が歪むのが分かる。他人から見たらきっと冷酷な笑みを浮かべているのだろう。その口から言葉が発せられる。

―――止めろ!―――

「その名の通り魂を喰らえ。魂喰らい(ソウルイーター)」

そこで僕の意識は落ちた―――――





遺跡内部はほとんどの仕掛けが解除されていたため、はやて達はすんなり進めた。奥に進むと同時に奇妙な音も聞こえてくる。金属音と銃声に似た様な音だ。フェイトは少し奇妙に思い、バルディッシュにサーチを頼む。

『サーチ完了。最深部で動体反応があります。数は2つ。動きから戦闘を行っていると予測できます』
「戦闘…?」
「一体どういうことや?」

ふと耳を澄ませば音は聞こえなくなっていた。戦闘が終わったのかと思い、さらに早く行きエクスとゼロを置いていくぐらいの速さで奥まで向かう。
狭い廊下から広い部屋にでる。そこはユウが出現した遺跡と同じように台座が1つ、部屋の中央にありそれ以外は何もなかった。違うことと言えば部屋の壁が所々穴が開いていたり切り裂かれたりしていること。そして少年が少女のものと思われるバインドに捕まっており、少女に銃型のデバイスを突きつけられているということだった。

「な…」
「これは…」

はやてとフェイトの驚愕の声に少年と少女は三人をちらりと見る。少年は黄土色の髪に黒い瞳。緑がベースの動きやすい服装をしていた。見た感じなのは達と同年代で活発そうな顔つきだ。少女は青い長髪(ストレート)でダークグリーンの瞳、少年とは反対にプレストガード等それ相応の防具を着込んでいた。見た感じユウと同年代で整った顔立ちで可愛いと言うより綺麗という方が似合うだろう。瞳には冷たい感情が灯っており冷酷と思わせる程だった。
少女はフェイト、アルフ、はやての順で見ていき、はやての姿を見たとき一瞬驚愕の表情を変えた後、憎々しげにはやてを見つめる。殺意さえ含むその視線にはやては怯んだ。アルフがはやて達の前に盾になるように立つ。少女の口からゆっくりと言葉が発される。

「何故…あなたがそれを持っているの…」
「え?」
『Two-hand Mode』

はやてが疑問の声を上げると同時に少女ははやてにもう一丁少年に向けている銃と同じ銃を生成しはやてに向ける。3人は思わず構えた。―――そこに遅れてエクスとゼロがやってきた。

「どうしたの―――って、マリアちゃん!?」
「え、エクス!?」

マリアと呼ばれた少女はエクスを見て驚きに顔を染め、思わず2つの銃口を下ろす。その隙に少年はバインドを解きその場から出口に向かって走り出した。

「くっ…逃げる気!?」
「お姉ちゃんの相手はまた今度にするよ!」
「逃がさないよ!」

アルフが少年の進行方向に立ちふさがる。少年はアルフに向くと目を瞑り、姿を掻き消した。

「え…?」
「アルフ、後ろ!」

フェイトの声に振り向くと既に少年は廊下に出ており角を曲がったところだった。

「追うよ!」
『はいです!』

はやてとリインの声に皆廊下へと殺到した。部屋に少女とエクスが残る。

「エクス…どういうこと?ユウとソウルはどうしたの?」
「話は後。とにかく協力して。ユウ達もいるから」
「―――――分かったわ」

2人は頷くと出口目掛けて走り出した。




シグナムとウィルの戦いは双方が一歩も引かない互角の勝負だった。シグナムが踏み込めばウィルは一歩引いて一定の距離を保つ。ウィルが攻撃を繰り出せばシグナムが弾いて反撃で踏み込む。そしてウィルは一歩引いて距離を保つ。その繰り返しで中々勝負がつかないでいた。

「くっ…」
「はぁぁぁぁぁ!!」

ウィルが呻き、シグナムが裂帛の気合を込めながら間合いを詰める。本来剣の道では剣で自分より尺の長い武器を持っている相手に挑むには相手の三倍の実力を持つ必要があるが、シグナムはそれを無視するかのようにウィルを押す場面もあった。

「ウィル兄!」

遺跡から出てきた少年がウィルに声を上げた。ウィルはシグナムと刃を交えたまま答える。

「カイルか、破壊したか?」
「ごめん、邪魔が入った!」
「そうか……」

カイルと呼ばれた少年はそのまま短剣を両手に生成し、シグナムに斬りかかった。シグナムは突然の増援に驚き短剣を切り払った後、一旦ウィル達から間合いを取る。入り口を見ればはやて達が駆け足で出てきた。その中に見たことがない少女が混じっているが、今は目の前の敵に集中する。

「ここから撤退する」
「うん……ごめん」
「反省は後で聞く。いくぞ」
「うん…」

ウィルと少年はトランスポーターを行使し、それを阻止せんと少女が神速で銃を2人に向け撃つ。だが弾は既に転送し終わった2人の空間を通るだけだった。

「逃がしたか…」
「まあ、ディメンションリンクの破壊を防いだだけでも良しとしよか」
「はい」
「それでエクス、その人は―――」

フェイトがちらりと少女を見る。少女は2人のいた空間を見据えた後はやてにこちらに向き直り、憎々しげにはやてを見つめた。その剣幕は今にも銃を抜きかねない状態だ。シグナムははやてに危険が及ぶと感じ、はやてと少女の間に割って入った。

「主はやてに危害を加えるなら貴公も敵とみなす」
「――――あなたもいるということはそれは本物のようね…」
「――?、私と貴公は初対面のはずだが」
「あなた―――!」
「待ってマリアちゃん!今はそれどころじゃないよ!」

シグナムの言葉に少女は歯軋りをし、もの凄い剣幕で怒鳴ろうとしたがエクスの言葉に遮られた。少女は苛ただしくエクスに問いかける。

「何よ!」
「ユウの魔力が増えている。この魔力…ルシファーのだよ!」

エクスの言葉にマリアは驚愕で動きを止める。シグナムへの怒りも忘れて呆然としている。他の皆は何がなんだかよく分からなかったが、ユウの魔力が増えていることとエクスの慌てぶりで只事ではないと感じることは出来た。

「とにかく急いで行かなくちゃ!」
「位置は?!」
「渓谷を出ると結界が張ってあるから、そこ!」

エクスが位置を示すと直ぐにマリアをお姫様抱っこで抱えて飛んでいった。その様子にははやて達は見えていないようだ。はやて達もよく分からないがとにかく置いていかれまいと急いでエクス達を追った。飛ぶ瞬間エクスの声が風に乗って聞こえる。

「アルに頼まれたのに…!」




ユウ達を包んだ結界は空中から地上へと移動していた。結界は依然と闇色で中の様子が全く見えない。

「結界が…」
「これじゃあ中の様子が分からない――」

エクスとマリアは悔しげに結界を見つめる。はやて達が追いつき、悔しそうな2人を見た。2人はどこか焦っているようだ。

「よく分からないけどこの結界を壊せばいいんだろ?」
「え?」

アルフが前に出て結界を見る。エクスがきょとんとした声を上げた。

「結界破壊はあたしの得意分野だよ」
「―――お願い」
「僕も手伝います」

ゼロがアルフの横に並ぶ。ゼロが左手に【月光の書】を出し右手を上げ、アルフが拳を構える。一瞬の静寂の後―――

「ムーンランス!」

ゼロが白銀の槍を打ち出し、そこにアルフが拳を打ち込んだ。拳が入った処を中心に皹が広がっていく。

「バリア……」

結界を破壊せんと拳を固め、魔力を込める。皹が結界全体に広がっていき――

「ブレイク!」

ガラスが割れる時の音を立てて結界が破壊された。ユウは無事かとみんな目を見張ってよく見る―――




――――そこには惨劇が広がっていた――――




「え…?」

誰かの声が上がる。死臭がこちらまで来る。結界で覆われていた部分の土は7割が血で染まっていた。辺りには砂に纏われた何かが転がっている。
――それは人の肉だった。腕、脚、手首、足首、そして頭――吐きたくなる様な匂いと光景を呆然と見つめる。
死臭が漂う惨劇の中心に1人、少年がこちらに背を向けて立っていた。目を凝らしてよく見る。漆黒の髪、黒をベースとし所々白いラインが入ったバリアジャケット。左手首に銀色だったブレスレット、右手に悪魔の羽を催した剣。それは前に見たことがあるユウの姿だった。だが今はバリアジャケットは血で赤と黒に変わっており、銀色のブレスレットも所々赤黒くなっていた。そして何よりユウと違う部分として白と黒の翼が背中から生えていた。
結界が破壊されたことに気づき、少年がゆっくりとこちらを振り向く。その目を見た瞬間、その場にいる全員が凍りついた。いつものユウの温かい瞳ではない。氷をイメージさせる冷たい感情を秘めた瞳だ。だが敵意や殺意はそこには無くつまらなさそうにこちらを見た。目で殺せるのならみんな瞬殺だろう。その瞳を見て直感した。

――――動いたら殺される――――

こんな状況に慣れていないはやてとフェイト、アルフ、ゼロは金縛りにあったかのように動けない。エクスと少女、シグナムは目を細めることは出来たが所詮そこまでだった。
視界の端で何かが動いた気がした。音を立ててその物体が高くなる。男が1人、杖を持って立ち上がったのだ。倒れていたものは皆死んだと思っていたがまだ息があるものもいたようだ。荒い息遣いで少年を見る。既に正気を失った瞳で何度も刺されたであろう足を叱咤して少年に向かって走りだした。少年は血で濡れた剣を構え………一閃する。
男は突撃した格好のまま首と体を両断された。首はドサッと音を立てて崩れ、体は立ち続け一秒後、血がスプリンクラーのように吹き出た。

「……おえっ」
「げほっ、げほっ」

フェイトとはやてがその場にへたり込み、吐いた。はやてとリインのユニゾンが解ける。リインは顔を真っ青にして地面にへたり込む。
吹き出た血が少年の顔や髪、体に付くが少年はそんなのを気にした様子もなく、首なしとなった体を蹴って倒し、その体に剣を突き立てた。剣を突き立てた場所からは血ではなく白い粒子が溢れてくる。白い粒子は剣に纏わり付き、そのまま剣の持ち主である少年の体へと伝わった。少年は目を瞑り、その感覚を試していた。白い粒子が全てで終わった後、少年は目を開きこちらを再度見る。そしてこちらに向かって歩き出した。
皆身構えようとするが、体が思うように動いてくれない。このまま殺されてしまうのか―――

「ぐっ…!」

誰もがそう思ったとき、少年が突如苦しみ始めた。剣を落として両手で自分の身体を包み込むように肩を掴む。足が耐えられずにしゃがみこんだ。少年は苦しそうにこちらを見て、

「くそ…」

そう呟くと意識がなくなったように倒れた。白と黒の羽は消え、髪は元の茶色へと戻っていた。凍りつかせた空気が溶け始める。最初にエクスと少女が動き始め、ユウへと歩いていく。だが何があったのか分からないはやて達は動くことが出来ない。

「ソウル、聞こえる?」
『…ああ……』

血で濡れたソウルがいつもより低い声で答える。その声には悲哀の感情がこもっている様に感じた。ソウルの声が聞こえたとき、ゼロが放心状態でユウに向かってゆっくり飛んだ。

「私はこれからディメンションリンクを取りに行ってくるよ。マリアちゃん、ユウとソウルをお願いね」
「ええ、分かったわ」

エクスは普段の明るい調子を失って、再度遺跡へと向かって飛んだ。少女はユウを仰向けにし膝枕をする。髪に付いた血が防具に付くが気にしない。目の前で意識を失った少年を無言で見つめた。ゼロがユウの傍に寄り顔を覗き込む。それは眠っているかのような顔だった。



エクスと少女のやり取りの間、只見ることしか出来なかった皆はエクスが飛んだ後、ようやく動くことが出来た。直後エイミィから通信が入る。

『皆、そっちは大丈夫――ってどうしたの!?』

佇んだ者の様子を見て、エイミィが狼狽した。フェイトはその様子に少し脳を回転させる。

「あ…ごめん」
『一体どうしたの?』
「……みんな集まった時に話すよ。とりあえず、医療班を用意してくれる?」
『―――分かった。直ぐに手配するよ』
「ありがとう、私たちも直ぐに戻るよ」
『うん…気をつけてね…』

通信を切った後、フェイトは周りを見回して現状を把握する。シグナムとアルフは既に持ち直していた。リインとはやても気分が悪そうだがなんとか動ける。ユウはまだ意識が戻らず、ゼロと少女が看ている。エクスは遺跡にディメンションリンクを取りに行きソウルは剣のまま戻らない。皆ボロボロの状態だ。
これから何が起こるのか、胸の中に嫌な予感が消えずにずっと残っていた。




----後書き----

カークス:「皆様読んでいただいてありがとうございます」

ゼロ  :「今回は後半がもの凄いですね」

カークス:「いや〜、ちょっとやりすぎた感があったかもです」

ゼロ :「最初に一応警告入れていましたけど大丈夫ですかね?」

カークス:「読む人によって変わるからいいかなって思ったけどね。もしこの話を読んで気分が悪くなったら申し訳ありません!」

ゼロ  :「それにしても…ユウの意外な一面というのはこれのことですか…」

カークス:「本編中でもあるように本人の意思じゃないけどね、そのあたりについては『ブリザード編』が終わったら説明が入るつもり」

ゼロ  :「ユウは一応嘱託魔導師ですけど、人殺しちゃって大丈夫なんですか?」

カークス:「そこら辺は抜かりない。ちゃんと部品を集めて、渓谷付近に埋めてお墓にしてあるよ」

ゼロ  :「…………そ、そして、敵味方の新キャラですね」

カークス:「簡単説明としてはカイルは性格は一部アギトをモデルにしています。マリアについてはモデルはS○3のマリア・トレイタ○と○・サードのパイフウ先生をモデルにしています。外見のイメージとしてはカイルはT○Eのシルフを、マリアはS○3のマリアそのまんまです」

ゼロ  :「マリアさんにいたってはほとんどクロスじゃないですか」

カークス:「なるべくオリジナル設定は加えていくつもりでもイメージはそのまんまだね」

ゼロ  :「これからも増えていくんですか?」

カークス:「後、2人オリキャラがいるけど1人は『ブリザード編』で出る」

ゼロ  :「ところで優柔不断を理由に逃げ続けてきたユウの相手ですけど結局フェイトさんとはやてさんどっちになるんですか?」

カークス:「今ははやて寄りになっているかな…フェイトも何とか絡ませたいんだけどどこで絡ませたら良いか…」

ゼロ  :「最後は一体どうなるんでしょうかね〜。この後はどういう風に進めるつもりなんですか?」

カークス:「次は『ブリザード編』を書き上げて、その次でユウの説明を入れる。んでそこで多分休憩としてユウの子供時代を書きたいな〜」

ゼロ  :「中編ですか?」

カークス:「いや、それは分からない。1話で終わるかもしれないし、前後編になるかもしれない。後は敵視点の話を書くかも」

ゼロ  :「ウィルさん達が出てくる場面少ないですからね〜」

カークス:「そういうこと、ちなみに僕としては敵陣で好きなのはウィルだね」

ゼロ  :「どうでもいいのでスルーします。今後も頑張らせますのでよろしくお願いします」

カ&ゼ :「「それでは、失礼します」」





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