とある日の海鳴市。街は人で溢れており、平和な時を過ごしていた。その中のとある喫茶店『翠屋』でも甘いものを目当てに来る人も多い。3時のおやつタイムでたくさんの人の出入りに合わせて店員が忙しく働いている。

「いらっしゃいませー」

店のドアが開かれると同時にドアに付いた鈴が鳴って来客を知らせる。近くにいた店員が少し小走りでドアへと向かい決まりの挨拶をして空いているテーブルへと案内する。しばらくして水が運ばれ注文を聞かれた。

「ご、ご注文はお決まりでしょうか?」

青年と女性のカップルの客は注文を言おうとしてその店員に違和感を覚えた。店員は確かに翠屋の制服を着ている。黒の長髪の少女は制服が似合っているがどこか慣れていないような感じがする。その違和感は直ぐに分かった。口元の引き攣った笑みだ。その様子は今まさに初めて接客をするという感じがして初々しさを覚える。カップルは微笑ましく思いながら注文を言った。店員は言われた順に注文を取り、全て取り終えた後2人に軽くお辞儀をして下がる。そしてそのまま厨房へと向かって注文を伝えた。

「桃子殿、5番テーブルにアイスコーヒーと季節のケーキを2つずつです」
「分かったわ、直ぐに準備しちゃうから少し待っててね、ソウル君♪」

厨房で手伝いをしていた桃子は、先ほど注文を伝えに来たウェイトレスの格好で仏頂面を浮かべている少女、もとい少年―――ソウルに笑顔で返した。




魔法少女リリカルなのはLOC
第17話「ソウルのどたばた休日」





どうしてこんなことになったのか、それは数時間前の出来事が原因だった。ユウ達は管理局に入って一度も休暇を貰っていないということから昨日いきなり休日を言い渡された。
いつも通り早朝訓練をして朝食をとった後、学校へ向かうフェイトと遊びに出るアルフ、本局へと向かうクロノを送り出してちょうど同じ日に休日を貰ったリンディと共に家にいた。リンディが部屋の掃除をするため掃除機をかけているときょとんとした声を上げた。

「あら?」
「どうしたんですか?」

自室の掃除をしていたユウとゼロが顔を出す。風呂場と玄関を掃除していたエクスとソウルもそちらを覗くように首だけ出している。リンディの視線を追うとそこには可愛らしいキャラクターがプリントされている布地に包まれた直方体の物が―――。

「フェイトったらお弁当を忘れたらしいの」
「あらら。僕が届けましょうか?」
「う〜ん、そうしたいのは山々なんだけどねぇ。ユウ君にはちょっと重いものを運んだりするのを手伝って欲しいのよ」
「それじゃあ、私が行くよ!」
「エクスちゃんにもユウ君じゃあ入れないところの掃除をして欲しいのよ」

家主であるリンディを行かせるなんてのは論外だ。会話を一旦区切ると皆ソウルの方を向いた。ソウルがその視線の意味を感じ取って信じられないと言うように汗を流しながら訊ねる。

「まさか……俺が行くのか?」
「他にいないしね」
「お願いしたいけれど、駄目かしら?」
「いや駄目というわけでは―――」
「じゃあ大丈夫だね」

にっこり笑ってソウルの肩を叩くエクスにむすっとした表情を作った。

「俺1人で行くのか?」
「え〜、ソウルってば1人で行けないの〜? まだまだお子ちゃまだね♪」
「ええい、お前は黙ってろ!」
「ユウ君とエクスちゃんはお掃除の手伝いをして欲しいからね」
「僕もユウの手伝いをするので、頑張って下さい!」

ゼロが両手で握りこぶしを作ってソウルに笑顔を向ける。ああ、いつもの明るく元気が出る笑顔が今では生気を奪う悪魔の笑顔に見えてきた―――。

「むぅ………」
「それじゃあ、よろしくね!」

エクスに弁当箱を押し付けられ、渋々家を後にしてフェイト達の学校―――私立聖祥大学付属小学校へと向かった。





お昼の時間になって鞄を開くとフェイトは弁当を忘れたことに気がついた。

「あ、お弁当忘れちゃった」
「そうなの? 分けてあげるよ」
「うん、ごめんね」
「ううん、気にしないで」


なのはの気遣いを嬉しく思いながら鞄を閉めてアリサ、すずか、はやてを含めた仲良し5人組で屋上へと向かうと途中念話が急に入ってきた。

〈フェイト〉
〈え、ソウル!?〉

普段話さない人から念話が来て驚くフェイトを無視してソウルが訊ねる。

〈君達はいつもどこで昼食を取る?〉
〈え、お、屋上だけど?〉
〈そうか。リンディ殿に頼まれた君の昼食を届けに行くからそこで待っていてくれ〉
〈あ、持ってきてくれるんだ。ごめんね〉
〈気にするな、それではな〉

念話を切って、どうしたの、と見てくる4人にソウルのことを話す。

「ソウルがお弁当を持ってきてくれるんだって」
「え、ソウル君が!?」
「これまた意外やな〜」

なのはとはやてが意外そうな声を上げる。アリサとすずかは以前会った時の記憶を引っ張り出して思い出しているところだ。

「えっと、ソウルって言うのは……」
「この前会った黒い髪の人だよね?」
「すずかちゃん、1回会っただけでよく覚えとるな〜」

はやてが感心の声を上げてなのはとフェイトがうんうんと頷いていた。すずかはくすりと笑うと屋上へと促す。

「さ、屋上に行こう」

すずかに続いて屋上に出るとそこはまだこれから訪れる冬の寒さとまだ残っている夏の暑さが混じって丁度いい気温だった。既に幾つかのベンチに座って食べている生徒もいる。

「さぁ、食べよう!」

アリサがベンチを確保して膝の上に弁当を広げる。なのはとすずかとはやてもそれに続いて弁当を広げた。

「お、はやてその唐揚げ美味しそうじゃない。後でこれと交換してよ」
「ええよ〜」
「わぁ……すずかちゃん、その太巻き美味しそうだね」
「なのはちゃんのフルーツの盛り合わせも美味しそうだよ」
「にゃはは、それじゃあ一緒に食べよう」
「うん」

それぞれ自分の弁当の品を交換していく友達の様子を見ながらフェイトはうずうずしていた。忘れた自分が悪いのはもちろん分かっているがやはり楽しそうにしている光景を見ると自分もそれに混ざりたいという気持ちが出てくる。まだかなまだかなと待っていると屋上の扉が音を立てて開かれた。
そちらに顔を向けると向けたものから動きが止まる。

「…………」

扉を開けて出てきたのは黒髪の少女だった。その少女は顔立ちが整っており、見るものを見惚れされる魅力を持っている。街中ですれ違えば十人中九人は振り返るだろう。体は長身で腰も細くモデルに劣らないものがあるが、残念なことに胸がほとんどペタンコだった。明るい色の無地のワンピースを着て右手には可愛らしいキャラクターがプリントされた布地に包まれた直方体のものを持っている。少女は首を回してフェイト達を見つけるとすたすたと歩いてきてフェイト達の目の前に来た。

「あ、あの……どなたですか?」

少女の美貌に見惚れているとフェイトが我に帰って尋ねる。尋ねられた少女は悲しそうな顔をするとずいっとフェイトの目の前に右手に持っていたものを持ってきた。
フェイトはそれをまじまじと見て、それが自分の忘れた弁当だと気づく。同時に信じられない考えが頭をよぎった。いや、まさか彼がそんな―――。

「あの、まさか……ソウル?」
「……そうだ」

少女に見間違えられた少年、ソウルが嘆息を交えながら呟いた。

「え……」

フェイトとソウルの会話を聞いた他の4人は信じられないものを見るような目でソウルを見て屋上に驚愕の声を響かせた。

「「「「えええええええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?!?」」」」
「え、ソウル君、なんて格好してんねん!」

はやてが声を上げてから即座に裏手ツッコミをする。この辺りはさすがとしか言いようが無い。

「な、なんでそんな格好しているの?」
「アルがこの格好の方がいいと教えてくれた」
「………は?」

ソウルの言葉にアリサが眉を顰める。ソウルの話をまとめるとこうだ。学校へ行くのはいいが普段の黒ベースの服で行くと怪しい人で捕まる可能性がある、だからアルに服を借りに行ったら商店街で服を買ってくれてそのままで来たらしい。すずかが少し躊躇いがちに訊ねた。

「……ソウル君、女装が趣味だったの?」
「そんなわけ無いだろう! 俺だって嫌だったさ! そうしたら奴はなんと言ったと思う?」

アルのことを知っている3人はアルがソウルの格好を見て大笑いするのを堪えている姿を思い浮かべてソウルに言った言葉を思い浮かべた。

[だってよ、その方が面白いじゃねぇか]

うん、こんなところかな――――。

「[だってよ、その方が面白いじゃねぇか]と言ったんだ」

完答だった。一文字も間違えずに―――。

「その後、俺を学校前に放り出して奴はそのまま帰っていってしまった。仕方無しに校内に入れば皆を俺を見てくる。きっと女装している俺を変な目で見ているに違いない……」

それはきっとソウルを女子と勘違いしてその美貌に見惚れたんだと思う。誰もが心の中で同じ突込みをした。ソウルは髪型や服装だけで男にも女にも変身出来る。ワンピースを脱いでジーンズやジャンパーを着たら女性からは凛々しい少年、男性からはボーイッシュな少女に見えないことは無いだろう。

「そのアルって人、話を聞く限りじゃあろくな人じゃなさそうね」
「ソウル君もご愁傷様」

アリサが呆れてため息をつき、すずかがソウルに労わりの言葉をかけた。なのはが下を向いているソウルを見たときに綺麗な黒髪が眼に入って撫でてみる。

「でも、ソウル君って髪の毛さらさらだよね〜」
「そういえばそやな。私なんて毎日枝毛チェックしとるのに……ソウル君、なんかやっとるんか?」

はやての言葉に皆が少し目を輝かせながらソウルを見る。ちょっとした威圧感を感じたソウルは少し後ろに引きながら答えた。

「と、特に何もやっていないが…」
「嘘や!」

はやてが即座に反論する。反論されて困ったように腕を組むソウルにはやては指を突きつけた。

「何もせんでそんなさらさらな筈がない!」
「でも、はやてはまだいいよ。私なんか髪が長いから手入れが大変だし……」
「その分、フェイトのは綺麗じゃない。私は枝毛が最近多くて困っているのよ!」
「私はノエルやファリンが手伝ってくれるからそこまで大変じゃないけど……」
「ふぇ〜、すずかちゃん羨ましいな〜。私はお姉ちゃんが時々手伝ってくれるけど大体1人でやっているよ」

いつの間にか髪の手入れの話やら何やらの話へと変わっていた。仲良し5人組は普段気にしているせいか会話が止まることはなかったが、普段全く髪に気を使わないソウルはなのは達の悩みを聞いて疑問符を浮かべるばかりだ。多分エクスがこの場にいたら普段髪を気にしていないにも関わらず話に加わることが出来るのだろうな、と思いながら空を見上げた。空は快晴でどこまでも蒼く澄んでいる。

(……帰りたい)

胸中でため息をついて議論している5人組を放って逃げ出したい気持ちになったが、そんなことをしたら後でどうなるか怖くて出来ない。こんな格好をさせたアルに復讐を誓いながら昼休みが終わるまでなのは達の言葉を左から右へと聞き流した。





昼休みの途中、なのは達の議論を遠目で見ているときにユウから『帰りに翠屋でケーキを買ってきてくれ』という念話が入ったので昼休みが終わって直ぐに翠屋へと向かった。翠屋はなのはの家だということで食べ終わったなのはとフェイトの空の弁当箱も持って、だ。ちなみに格好は依然と女性のまんまで街中歩いていると男性だけではなく女性までも振り向くので溜まったもんじゃない。

「ここか……」

なのはに道を教えてもらって1つの喫茶店に来た。中々繁盛しているようで人の出入りは頻繁だ。店の前でずっと立っているのもなんなので店の中に入ることにした。
ドアを開けると同時に来客を知らせる鈴が鳴り、レジの前にいた女性が挨拶をする。

「いらっしゃいませー、お客様お1人ですか?」
「あ、そうですが……」
「それではこちらにお座りください」
「あ、いえその……こちらに高町なのはの親族はいらっしゃいますか?」
「あら、私がそうですよ。高町桃子。なのはの母です」

なのはと同じ亜麻色の髪をした女性――高町桃子はソウルに軽くお辞儀をすると首を傾げて訊ねた。

「なのはのお友達?」
「そんなものです」
「なのはがお世話になっています。今日はどうしたのかしら?」
「ここで買い物をするついでになのはの弁当箱を届けに来ました」
「あら、そうなの? わざわざごめんね」
「いえ」

桃子になのはの弁当箱を渡してケーキを買おうとするが、ポケットを探った時に財布を忘れたことに気づき固まる。桃子が察して苦笑しながら訊ねた。

「もしかして、財布忘れた?」
「ぬぅ……」

呻きながら他のポケットも探すが、やはりどこにもなく肩を落とす。桃子は人差し指を口元に当てて虚空を見上げてなにやら考え事をしていたが直ぐにうん、と頷いてソウルの肩を軽く叩いた。

「もし良かったらうちで働かない? 働き終わった後にケーキは渡すから」





そして冒頭に戻る。

「随分長かったな」

文章をまとめるのが難しくて。

「ふん」

こうしてソウルは翠屋のウエイトレスとして働くことになった。ちなみにソウルは桃子に男だということを明かしたが桃子が、そっちの方が可愛いからということでウェイトレスの格好をしている。

「はい、ソウル君。アイスコーヒーと季節のケーキ2つずつ。持っていける?」
「問題ありません」

ソウルは桃子からアイスコーヒーとケーキを受け取ると手と腕を器用に使って持って行った。ちなみにソウルは桃子の要望で客の前では声や仕草等なるべく女の子らしくしている。ソウルの手際の良さに感心していると旦那の高町士郎もソウルの様子を見る。

「彼は凄いな」
「本当、助かるわ〜」
「彼のおかげでこっちの負担が大分減ったからな」

ソウルは普通のウェイターが持っていくメニューの2倍を持って行っているためその分他のウェイターの負担が減っているのだ。厨房側としても早めに注文を持って行ってくれれば次の注文に集中できるのでソウルには感謝している。
ソウルが働き始めてから数時間後、眼鏡をかけた女性が入ってくる。

「ただいま〜」
「いらっしゃいませー」

近くにいたソウルが出迎え、席へ案内しようとするが女性はあれ、という表情でソウルを見る。

「初めましてだね、高町美由紀です。ここの家の子だから私のことは気にしないでいいよ」
「そうですか」

なるべく女の子らしくするソウルに美由紀は首を傾げて――――いきなりソウルの胸を触った。
ソウルは固まって触られている様子を呆然と見ており、美由紀は無い胸をまさぐるように触っている。自分が何をされているのか理解すると即座に後ろに跳び、胸を腕で隠して驚愕の表情で美由紀を見た。

「ななななななななな――――!?」
「あー、やっぱり男の人か」

美由紀は納得すると同時に複雑な表情で腕を組んで首を捻る。

「う〜ん、胸がほとんど無いからもしやと思ったけどまさか本当に男だったとは」
「だ、だからって――――!」
「でも女として複雑だな〜」
「は?」

美由紀の発言にソウルは胸を隠したまま怪訝な表情で美由紀を見た。

「だって胸を除いたら私よりスタイルいいんだもん」
「はぁ……(今度はスタイルか!)」

屋上で似たような出来事が繰り返されそうな気がして厨房に逃げ込もうとしたソウルを美由紀が腕をがっちり掴んで逃げられないようにする。美由紀は深刻な表情でソウルのことを真っ直ぐ見つめる。

「ねぇ……それを保つのにどんなことをしている?」

またか、と胸中で嘆息しつつ屋上で答えたときと同じように答える。

「特に何も―――」
「嘘!」

予測どおりの答えが返って来て本日何度目か分からないため息をつく。ふと奥の方に目をやれば桃子と士郎が面白そうにこちらを見ていた。見ているなら助けてくれ―――。こんな所ユウやエクス達には見せられないなと思いながら美由紀にもの凄い顔で凄まれていると、ちりんと鈴が鳴って来客を知らせる。

「いらっしゃいま――――」

挨拶をしようとして客の姿を美由紀の肩越しに除くと石像にされたようにソウルは固まった。何事かと思い、美由紀はドアへ振り返るとそこにはぽかんとした表情で立ち尽くしているなのは達仲良し五人組とマリアとユウががいた。ちなみに後ろの方でアルもいたが、彼は後ろの方で大笑いするのを堪えるのに必死だった。それを見た瞬間ソウルは自分でも殺意が沸いたのが感じられた。

「ソウル―――」
「あなた……」

ユウとマリアが奇怪なものを見るような目でソウルを見ている。―――最悪だ。見られたくない人に見られてしまった。幸いといえばこの場にエクスとゼロがいないことだろう。エクスがいれば即座にからかわれ、ゼロがいたら自分に対しての見る目が変わる可能性があるからだ。
ソウルは軽く諦めた感じで上を見上げて自嘲気味に笑った。―――そんな彼に最悪な、悪魔のような声が聞こえた。

「へぇ〜、意外と似合っているじゃん」

ぎぎぎ、と音を立てそうな動きで首を顔を正面に向ける。目の前には―――良いものを見たという感じでにやにやしているエクスと困ったように目を伏せているゼロがユウの後ろから出てきたところだった。

「あ、あ……」
「ソウルもそんな趣味があったんだね〜。どう思う? ゼロ」

弁明しようにも声を出すことが出来ず半歩後ろに下がって、信じられないものを見るように2人を見る。ゼロはソウルの姿を見ては直ぐに視線を下に落としての繰り返しだ。

「え、と…その…」

ゼロは困ったようにソウルとエクスを交互に見て目を伏せた。

「……ノーコメントです」
「ふ〜ん、じゃあリインちゃんは?」

エクスは不意にはやての傍でフルサイズになっていたリインに話を振った。リインはじーっとソウルを見てきょとんと首を傾げる。

「可愛いですけど、何か問題あるんですか?」

褒められるのは嬉しいが男の身としては正直複雑だ。リインの言葉にエクスはまたもやふ〜ん、と答えてソウルをまじまじと見る。

「確かに可愛いとは思うけど……男が着るのはどうだろうね〜」
「い、いや…これは桃子殿が……」
「あら、ソウル君ったら別にこれを着るの嫌がってなかったじゃない」

桃子が明らかに誤解を招く言い方をした。だが、嘘は言っていない。確かにソウルは着るのを嫌がったりはしなかった。ただもう否定するのに疲れて好きにしろという気持ちだっただけだ。

「そうなの?」
「ええ」

桃子の言葉をもう一度訊ねてエクスは満面の笑顔でソウルの前まで来て、耳元まで口を寄せてソウルにしか聞こえない声で絶望の言葉を口にした。

「へ・ん・た・い♪」





ユウ達が翠屋に来たのはいつになっても帰ってこないソウルを心配して迎えに行くつもりだったからだ。そして翠屋の前でアルの耳を引っ張りながら歩いてきたマリアと合流をして、入ったということになる。マリアは本局の休憩室で思い出し笑いをしているアルに問い詰めて謝らせようと連れてきたらしい。
弁当を届けに行ってからの経緯を聞いたユウ達は桃子達にお礼を言ってケーキを頂いた。夕食を誘われたが家にリンディが待っているということで今はフェイトと共に帰路についているところだ。ちなみに今ソウルの服装ははいつも着ている黒ベースの服だ。明るい色のワンピースはせっかくだからということで桃子に包んでもらってユウが運んでいる。
エクス達と翠屋で会って以来、ソウルは存在に影を落としたままで、放っておくとそのまま影に消えそうな感じでとぼとぼと一行の後ろを歩いている。

「あははははは、ほんの冗談だったのにソウルったら真に受けちゃって〜」
「うるさい……」

エクスが明るくソウルに話しかけるが対照的にソウルは暗いまま返す。ソウルの様子を見たエクスはくすっと笑うと後ろからそーっと近づいてソウルに跳び付いた。

「わっ!?」
「えへへ〜、嘘だよ、ソウルは変態なんかじゃないって分かっているからね」
「…………」
「だから元気出して、ね?」

肩越しにエクスの満面の笑みを見た。エクスの笑顔は暗い気持ちを明るくしてくれそうな元気な笑顔だ。そんな笑顔を見ていると心を覆っていた暗い気持ちが晴れてつい口元が綻ぶのが分かった。

「あ、いまソウル笑った?」
「気のせいだ」

エクスに気取られないように直ぐに前を向いて、エクスをおぶったままユウ達を追いかける。ユウ達は一連を見ていたようで笑顔を浮かべながら待っていた。

「済まないな」
「いや、いいよ」
「おなかすきました〜」
「それじゃあ、帰ろ。母さん達が待っているよ」






「あ、そうだ。ユウ、その服どうするの?」
「ん? 多分押し入れにでも閉まっておくかな」
「捨てないでね、それを着たソウルを見たいときに直ぐに見れるから」
「絶対に着ない!!」





----後書き----

カークス:「皆さん読んでいただいてありがとうございます」

ソウル :「闇に消えろぉぉぉおおお!」

カークス:「のわっと!(ギリギリ回避) いきなり危ないね〜」

ソウル :「どぅわぁむわぁれぇぇぇぇぇ!」

カークス:「エクスさん、よろしくお願いします」

エクス :「仕方ないのう。―――とう!」

ソウル :「はぅっ!(バタ)」

カークス:「首に手刀……お見事です」

エクス :「ふっ、またつまらぬものを斬ってしまった」

ゼロ  :「手ですから斬ってないですよね?」

エクス :「固いこと言わないの♪」

カークス:「さて、本題に入るか」

ゼロ  :「なんでこれを書く気になったんですか?」

カークス:「16話の後半にほのぼのしたのを入れようと思ったんだけどそれが出来なかったからこうして別に短編を用意した」

エクス :「というか、日常編にするか、短編とするか迷ったらしいね?」

カークス:「元々番外編のイメージで書いたから本編要素ほとんど無し。でも1つだけ短編というのも変かなと思って日常編としました」

ゼロ  :「ソウルが主演なのはなんでですか?」

カークス:「いじられているソウルの姿が思い浮かんだから。後はソウル丁度髪長いから女装ネタいけるかなと思った」

エクス :「ソウル、普段はクールだけど基本振り回されキャラだからね〜」

カークス:「振り回すのは基本、エクスかアルだね」

ゼロ  :「ものすごく納得出来ますね……。高町家は初登場ですね」

カークス:「出来れば恭也も出したかったんだけど出す機会が無かった……」

エクス :「多分出てきたらソウルに同情とかしてそこから友情が芽生えそうだよね」

カークス:「高町家の男子は皆不憫らしいからね―――ん? どうしたのゼロ、合掌なんかして」

ゼロ  :「いえ……何でもありません」

エクス :「変なゼロ。とりあえず、今後はどんな風に進めるの?」

カークス:「後2個くらい日常編やってから本筋。次の主演はマリアとはやてかな〜」

ゼロ  :「あの2人ですか……大丈夫なんですか?」

カークス:「2人の関係を緩和させる意味でもあるからね。それに今後の伏線を色々と張んなきゃいけないし」

エクス :「ちゃんと出来るの?」

カークス:「……まぁ何とかなると思う」

ゼロ  :「―――お願いしますよ?」

カークス:「が、頑張ります……。それでは今回はこの辺りで」

カ&エ&ゼ:「「「それでは、失礼します」」」















ゼロ  :「ところで、ソウルはあのままでいいんですか?」

エクス :「大丈夫大丈夫。きっとお腹がすいたら帰って来るよ」





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