「ごめんなさい、遅れました」 カイルが既に集合場所に集まっている仲間に申し訳なさそうに言い、セルマが軽い口調で返す。 「いいよ別に。あと準備は私とセルマちゃんで済ませたから」 「すみません。ウィル兄ぃは?」 「まだ……」 イリアの言葉にカイルは少し驚いた。ウィルはいつも指定した時間の30分前には指定された場所にいる。カイルが知っている限りでウィルが遅れたことは一度も無かった。どうしたのだろう、と首を傾げているとウィルがカイルが来た別方向からやってくるのが見えた。 「済まない、遅れた」 「珍しいね、ウィル兄ぃが遅れるなんて」 「……そうね、何かあったの?」 「いや、何でもない」 「何でもないわけないじゃない。そんなに汗びっしょりで」 よく観察すればウィルの顔には幾筋もの汗が垂れている。ウィルはセルマの指摘に初めて自分が汗を掻いていることに気が付いたようで汗を拭い始めた。カイルが心配そうな表情で訊ねる。 「ねぇ、本当に何があったの?」 「いや。本当に何でもないんだ。……ただ夢見が悪かっただけで」 どうやらウィルは集合直前まで睡眠をとっていたようだ。だが出かけるギリギリまで悪夢から覚めず、時計のアラームの音で目が覚めてシャワーを浴びる間もなく出てきたということだ。 「そう。作戦行動に支障は?」 「いや、問題ない」 汗を拭いきったウィルは頷いて返す。カイルはまだ心配そうにしているがそれを気にしている暇は無い。―――なにせこれから混沌の王の力を頂くのだから。 「セルマ」 「ん、どうやら向こうもこっちを補足したらしいね」 イリアの声に頷いたセルマは青い空を見上げる。セルマにつられて見ると遥か上空には一つの黒い点があった。目を細めるとかろうじて船らしき物だと確認できる。 「さて……鬼が出るか蛇がでるか……」 「何それ?」 「要するに『どうなるんだろうな〜』ってこと」 ウィルの言葉にカイルが首を傾げて、セルマが解説した。 魔法少女リリカルなのはLOC 第20話「捕らわれし者達」 アースラが降り立った次元世界は以前ディメンションリンクの強奪を阻止するために来た『ワイルダーネス』だった。アースラはワイルダーネスの成層圏ギリギリで留まって姿勢を維持する。余り地上に近づきすぎると現地の人に見つかる可能性があるためだ。 ユウ達はセルマ達のいる場所の座標を設定して、転送ポートに乗っていく。1人ずつ転送していく中、クロノは不安げなフェイトを見つけた。始めは敵のグループを前にして緊張しているのかと思ったが、どうもそれとは違うらしい。 「フェイト、どうしたんだ?」 「クロノ……」 「何だか緊張しているわけじゃなさそうだが……」 「うん、緊張しているわけじゃないんだけど……ただ嫌な予感がするの」 フェイトの言葉にクロノは眉を顰める。フェイトは少しの間俯いていたが、やがて顔を上げてクロノに笑顔を浮かべた。 「ごめんね、多分気のせいだと思う。今回で終わらせようね、クロノ」 そう言うとフェイトは軽い足取りで転送ポートに入った。ただクロノは気のせいだとは思えない。フェイトのあの明らかに無理して浮かべた笑顔が頭にこびりついて離れなかった。 --------------------------------------------------------- 転送が終わって目を開くとそこには見覚えのある顔が4つあった。確かオレンジの髪の女がセルマ、赤髪の青年がウィル。実際に見たことは無いが、薄い桃色の髪をツインテールにしている少女がイリア、黄土色の髪の少年がカイル、と呼ばれていた筈だ。 こちらの戦力はユウ、エクス、ソウル、ゼロ、マリア、アル、なのは、フェイト、はやて、クロノ、シグナム、ヴィータだ。リインは既にはやてとユニゾンしている。12対4という数では圧倒的に勝っているがまだ敵も本気で向かってきているわけではないので油断は出来ない。セルマがユウに声をかける。 「さてさて、予告通り『混沌の王』の力を頂きに来たよ〜」 「……随分と簡単に言いますね」 「ん〜、まぁ実際簡単だしね」 セルマが口元に指を当てて笑顔を向けてくる。 ―――緊迫した場面でこの表情、舐められているようで不愉快だ。 「一体どうする気ですか?」 「そっちはこっちに従う気は無いんでしょ?」 「ええ」 「それなら、力尽くってことで!」 セルマは言い切ると同時に後方に下がって詠唱を始める。ウィルとイリアが前に出て、カイルはその中間地点に位置して隊列を作った。 「エクス! ソウル!」 「「ソードフォーム!」」 エクスとソウルの身が輝いて光はユウの手の中に納まる。光が収まった後にはユウの手に二振りの剣が握られていた。 「散開!」 クロノの一声に皆一斉に散らばる。纏めてではなく各個撃破に移るつもりだ。アルが後方に下がって詠唱を開始する。なのはとヴィータとゼロがイリアを、アルとクロノとはやてがセルマを、フェイトとマリアとシグナムがカイルを、そしてユウとエクスとソウルがウィルと対峙する形となった。 --------------------------------------------------------- 「ふっ!」 「チッ!」 ガガガギギギギギ! 一呼吸するたびに幾つもの金属音が響く。ユウとウィルは互角の勝負をしていた。 ユウがウィルの後ろに回り込めば残像を残して更にウィルが後ろに回り込む。剣を振り下ろせば槍の刃で止められ、もう一本振り下ろせば柄の部分で受け止められる。槍が突き出されればユウは剣を十字に構えてこれを受け止める。 「はぁ!」 「ふっ!」 突きを出しても、槍を回転させて弾かれる。神速ともいえる槍の連撃を両手で剣を翻して弾くが、やがて槍のスピードに追いつかなくなってバック転で回避した。その隙を見逃す筈も無く、ウィルは間合いをそのまま詰める。 本来、槍というのはそのリーチを武器にして戦うもの。剣等を持った相手のリーチ外から攻撃するが、その長さ故に取り回しが欠点となる。 だが、ウィルはそのリーチを武器にはせず、柄を持って槍を長く持つ時があれば、槍を短く持って剣のようにも扱った。そこに欠点である長さ故の取り回しに苦戦する様子は微塵も無い。まるで槍を自身の体の一部のように使っている。 槍を短く持って懐に潜ったウィルは槍で切り上げた。ユウはそれをソウルイーターの刃の腹で受ける。ギリギリのところで攻撃を止めたユウは刃を押し返すことも出来ずにそのまま後ろへ大きく飛ばされた。 「がっ!?」 『ユウ!』 エクスカリバーの声を聞いてユウは視界の端にウィルが接近してくるのを捉える。飛ばされながらも空中で無理矢理身体を捻ってソウルイーターをウィルに投げる。無理矢理やったせいか身体が悲鳴を上げるが気にしている余裕は無い。 「自らの武器を放棄するとはな……見損なったぞ」 ウィルは小さく呟いて、回転しながら迫るソウルイーターを走りながら弾いた。ソウルイーターはあらぬ方向へと飛ぶがウィルはそんなものには目もくれない。ただ目標である目の前の少年に接近する。ユウはまだ地に降り立っていない。このまま行けばユウが地面に触れる前に勝負をつける事が出来る。ウィルは槍を深く引いてユウに突き出す準備をする。 (取った!) そう確信した瞬間、 ゾワッ、と背筋に悪寒が走って考える前に横に跳んだ。走っている最中に進路を変更したため、常人なら足を挫いたりするがウィルは身体が少し悲鳴を上げる程度で済んだ。跳んだ瞬間、赤黒い槍がウィルのいた場所を通過していった。先ほどそのまま走っていたら串刺しになっていただろう。槍はユウに真っ直ぐ伸びていき、ユウが串刺しになるかと思ったが、ちょうどユウの目の前で槍は霧散した。 ウィルが呆然としている間にユウは着地し、エクスカリバーを構える。槍の飛んできた方向に向くとそこには手をかざしているソウルの姿があった。ソウルはウィルに弾かれた後、人間形態になってウィルにブラッディランスを放ったのだ。当たらないということを予測してちょうどユウの目の前で消えるように設定して。 「なるほど、中々楽しめるな」 「こっちこそ。貴方がここまで出来るとは思いませんでしたよ」 「ふっ」 ユウの言葉に思わず笑いが出る。もしも2人が敵として出会わなければ、良い好敵手という関係になっただろう。ユウはソウルをソードフォームにして手元に呼び寄せた。ユウの身体には幾つもの切り傷が刻まれている。しかしウィルはユウと比べてほとんど傷が無い。ユウの攻撃をほとんど躱しているのだ。 それはユウとウィルの技量の差を表している。しかし、少しでも隙ができれば敗北に直結する――――そんな死闘を彼らは楽しんでいた。 「決着をつけるのが惜しいな」 「同感です」 「しかし―――」 「―――そういうわけにもいかない!」 2人は互いの獲物を構えて、同時に地を踏み砕く勢いで駆け出した。 --------------------------------------------------------- カイルは一振りの短剣を手にして、シグナムと切り結んでいる。傍からみれば実力差は圧倒的だった。 「ふっ!」 「くっ!?」 シグナムの一撃を受け止めるが剣圧に耐えられずに大きく後退する。動きが止まったカイルに蒼の魔力弾が容赦なく叩き込まれる。カイルはそれを紙一重で躱すと残像を残してマリアの背後へと回り込んだ。が、視界の端で金色の帯がこちらの背後に回り込んだのを捉える。 「な!?」 「ごめんね」 フェイトは小さく呟くと、バルディッシュを振り下ろす。咄嗟に横に跳ぶが、回避しきれずに左手が刃に切り裂かれた。 「ぐっ!?」 非殺傷設定のため傷は無かったが、魔力をかなり持っていかれた。一度体勢を立て直すためにマリアとフェイトから大きく離れる。2人を見据えながら左手の感覚を試しているとシグナムもフェイト達と合流した。 「なんつースピード……俺についてくるなんて……」 「高速戦闘はユウに色々と教えてもらったからね」 フェイトがカイルの感想に答える。だがそれでもカイルの『瞬移』についてこれるのはカイルが知っている限りでウィルとユウぐらいだろう。それについてこれるということは―――、 (ちょっと拙いかも……) カイルは額から流れる汗を拭う。一対一ならば近距離で勝てるかもしれないが、向こうにはシグナムがいる。シグナムとカイルでは剣の腕に違いがありすぎた。やはり長年のベルカの騎士の経験にとってたった3年の経験など紙切れも同然だ。 防御に徹すれば負ける確率は多少減るが、それも一対一の場合のみだ。シグナムと刃を結び合って、少しでも隙が出てしまうと多数の魔力弾が飛んで来る。厄介なことに実弾と魔力弾が混じって飛んでくるから本当に鬱陶しい。 (あんまり長くは持たない。セルマさん、早めに頼みますよ) カイルはふー、と大きく深呼吸すると再び腰を低くして自らの獲物『含光』を構えた。マリアとシグナムも構えるが、フェイトは構えない。疑問に思っているとフェイトはそのまま一歩前に出る。 「ねぇ、話を聞かせてもらえないかな?」 「え?」 「貴方達が何でディメンションリンクを強奪するのか、何でユウの――混沌の王の力を求めるのか」 「……、」 思いがけない行動にカイルは唖然とした。マリアも同じように驚愕の表情でフェイトを見ていたが、シグナムはやはりな、という表情でフェイトを見た。フェイトが過去になのはと戦ったPT事件の際、なのははフェイトに何度も呼びかけていた。【話を聞かせて!】、【どうしてこんなことをするの?】と。 そのおかげで最後にはフェイトはなのはと共闘することとなり、彼女と友達になることが出来た。フェイトは今、なのはが自分にしてくれたことをしようとしている。無駄な争いはしたくない、もしかしたらこの人達は良い事をしていてそれを手伝って上げられるかもしれない。そんな想いで、フェイトは再びカイルに訊ねる。 「ねぇ、聞かせて?」 「……知らないよ」 「え?」 「知らないよ。俺はウィル兄がすることを手伝っているだけ。目的なんてどうでもいい。俺はただウィル兄についていくだけだ」 自分を拾ってくれた恩人についていく。 そのためならなんだってする。 例え、この身が汚れようと――――。 カイルは感情の篭っていない声で答えると『含光』を構えて、地を蹴った。 --------------------------------------------------------- ガギィ!! グラーフアイゼンと鎚が鈍い音を立ててぶつかり合う。イリアは魔力を込めて鎚を通してヴィータに雷撃を流す。ヴィータは雷撃が自分に向かってくるのを視認すると即座にイリアから離れた。行き場を失った雷撃は鎚から放射されて辺りの地面を抉る。 直後、上空から白銀の槍がイリアに襲い掛かった。イリアは避けずに鎚を上に振るうことによって掻き消す。更に背後から桃色のスフィアも迫ってくるが、これは横に飛んで紙一重で躱した。桃色のスフィアはイリアのいた場所を通り過ぎると進路を変えて、再びイリアへと襲い掛かる。イリアはこれを鎚を振って生じた雷撃を当てて打ち消した。 「何て奴だ……」 ヴィータが苦々しげに呟く。イリアはヴィータとなのはとゼロの波状攻撃を見事裁ききったのだ。ヴィータが近距離、ゼロが中距離、なのはが遠距離から攻撃を仕掛けるも全て躱される。もっとも向こうも防御で手一杯のようなので、こちらにはほとんど攻撃は来ないが。 「勝てるんですか……?」 「勝てるかじゃねぇ、勝つんだ」 ゼロの不安げな声にヴィータがイリアを見据えて答えた。なのはは戦闘を開始してから一度も表情を変えないイリアを見て、何か頭の中によぎる。 (あれ?) イリアの様子はどこかで見たことがある。過去に、どこかで――――。 「にしてもあいつ、全く表情を変えねぇな」 ヴィータがぼやくように呟いた言葉でなのははようやく思い出した。イリアの表情、それは初めてフェイトと会った時と似ているのだ。 感情表現がほとんど無い。 無口で話すときも感情が篭っていない言葉。 それはまさしく初めてなのはが会ったフェイトと同じだった。ただ違うとすれば当時フェイトは寂しげな目をしていたが目の前の少女の瞳には何の感情も浮かんでいない。 なのはは自分でも知らないうちに一歩前に踏み出していた。 「ねぇ、どうしてこんなことをするの?」 「…………」 フェイトと似ている部分があるということは、もしかしたら話しかければ答えてくれるかもしれない。そう期待して掛けた声だが、返答は無言だった。 「何か、訳があるんでしょ?」 「……何でそんなことを訊くの?」 なのはの問いにイリアが小さな声で答える。その言葉にも感情は篭ってなく、ただ淡々としたものだった。手応えを感じたなのはは言葉を続けた。 「だって貴方、悲しい目をしているもん」 なのはの言葉にヴィータとゼロが驚愕の表情でなのはに振り向いた。なのははただイリアの瞳をずっと見据えている。一見、イリアの瞳は何の感情も浮かんでいないように見えるが、なのははイリアの瞳の奥にある悲しい感情を見抜いたのだ。 「悪いことをする人はそんな目をしないよ。だから教えて、どうしてこんなことをするの?」 「…………答えても、きっと意味は無い」 イリアはそう呟くと、己の武器『ミョルニル』を構えた。ヴィータとゼロがイリアの行動を見てなのはの前に出る。 「どうする、なのは? 取り付く島もねぇぞ」 「ううん、そんなこと無いよ」 イリアを見据えながら、なのははレイジングハートを構えた。 「ちゃんと、話を聞かせてもらうから!」 なのははイリアに高々と宣言すると、イリアは表情を変えずになのは達に向かって駆け出した。 --------------------------------------------------------- 「冷徹なる氷の少女よ、凍える吐息にて目前の敵を凍てつかせよ!」 風に乗って聞こえるセルマの詠唱にアルは眉を顰めた。 「(この荒野で氷の精霊だと?)」 『ワイルダーネス』はその名の通り、星の約80%が荒野で成り立っている。アル達がいる場所でもやはり辺りは荒野しかないので、ここで氷の精霊を召喚するのは、場の環境に合わせて精霊を召喚する召喚士にとってはおかしなことだった。 「(何かあるのか……?)」 セルマへ警戒心を高めながらもアルは自分の詠唱を完成させる。 「気高き母なる大地よ、地上を汚す者どもに怒りの波動を! 契約者の名の元にその力を我が前に示せ!」 そして同時にお互いが呼び出す精霊の名を呼んだ。 「フラウ!」 「ガイア!」 精霊の名を呼ぶと同時に2人の傍に男女が現れた。セルマの傍には『ブリザード』で一度見たフラウが、アルの傍には茶髪で中肉中背の青年が立っている。 「何を望む? 契約者」 「向こうの精霊の相手を頼む。俺達はその間に向こうの精霊使いを叩く」 「御意」 精霊使いという名は以前『ブリザード』で会った時、彼女が自分のことをそう呼んでいたからだ。ガイアは短く答えると地を踏み砕いてフラウへと向かった。 武器は無い。己の肉体と魔法が彼の武器なのだ。 「それじゃあ、覚悟してもらうぜ」 「貴方達ごときで私を倒せるとは思えないけど?」 「僕達を舐めない方が良いぞ!」 アルとクロノが同時に上空にいるセルマへと向かう。はやては広範囲の攻撃魔法の詠唱に移り、途中、視界に入ったものが気になりそちらを振り向いた。 「え、エドガーさん!? 何でそないなところにおるんや!?」 はやての言葉にその場にいた全員が振り向く。そこにはいつもと変わらない笑みを浮かべているエドガーがいた。皆が呆然としている中、エドガーがゆっくりと手をはやてに向ける。 「え?」 「はやて!!」 ドン、という衝撃。続いてバチ、という音。 「ぐぁ!!」 『『ユウ!?』』 「(――――え?)」 何が起こったのか分からない。ただ目の前にはぐったりとしたユウが地に落ちていく光景。 ユウが地に着く前にウィルがその身体を受け止めた。エクスとソウルが人間形態になろうとするが、遠目でそれを見ていたセルマがバインドを使って封じ込める。 「あそこからここまで一瞬で来るとは。全く、大したスピードだ」 ウィルが呆れた声で呟いた。未だに状況が理解できていない者達の中、1人の少年がウィルに向かって飛び掛る。 「マスターユウ!」 マスターの危機を感じたゼロがウィルに一直線へと飛ぶ。右手に白銀の槍を創り出してウィルへ放った。―――が、それは直後に間に割り込んできたカイルによって掻き消される。ウィルはユウを抱えたまま俊足でゼロの後ろに回ると手刀を首元に入れた。 「っ、マスター…ユウ……」 意識を失って落ちるゼロをカイルが受け止める。エドガーが2人にゆっくりと歩み寄った。 「ご苦労様」 「不意打ちとは、貴方も卑怯ですね」 「しかも、この兄ちゃんが間に合うのと庇うのを予測してるから余計性質(たち)が悪いよ」 「どういうことかしら?」 マリアがエドガーにグラビティアクセルを向ける。エドガーがゆっくりと振り向いた。そこには不適な笑みが浮かんでいる。 「見て分からんか? 私はこの者達とは知り合いだ」 信じたくないことをあっさりと口に出されて、歯を噛み締める。 「知り合い、って簡単に済ますけどもっと言えば仲間ってことだろ?」 「そういうことだ」 一歩踏み出してアルがエドガーにエーテルフローズンを向けた。 「ユウ達を返してもらうぞ」 「それは出来ない。こいつは私達の目的の成就には必要な存在だ」 「目的?」 アルが眉を顰める。その間にセルマとイリアが向こうに合流し、他の皆もこちらに合流してきた。 「ユウ!」 「ユウ君!」 なのはとフェイトが声を掛けるが、ユウはぐったりとしたままウィルに担がれている。 『エクス! どうしたのですか!?』 『ソウル! 応答しろ!』 レイジングハートとバルディッシュもエクスとソウルに呼びかけるが、全く反応が無い。 「私のバインドは特別製でね〜、一時的だけど武器の機能を失わせるの」 「ゼロ! 返事をしてください!」 はやてとユニゾンを解いたリインが瞳に涙をためてゼロに呼びかけた。しかし、その掛け声も気を失っているゼロには届かない。 「無駄だ」 「そんな……」 「それなら、ここで貴方たちを捕まえれば良いわ」 マリアがグラビティアクセルを構えて、エドガー達に照準を定める。しかし――――、 「そうはさせないわよ」 セルマが指を弾くと同時に地が揺れた。激しい揺れがその場にいる全員に襲い掛かる。 「な、何だ!?」 「ちっ、大地の精霊を召喚しなかったのはこういうことか!」 「正解〜」 激しい揺れの中にいるにも関わらずセルマが軽い口調で答えて、転移魔法を始めた。 「こんのやろぉー!」 ヴィータが揺れの中で何とか踏ん張り、飛行魔法を駆使してセルマ達に接近する。狙いは転移魔法を使っているセルマ。 「でぇぇぇりゃぁぁぁぁ!」 グラーフアイゼンをセルマに勢い良く振り下ろす。 ガキィン、と鈍い音が響き渡った。それはヴィータの攻撃がセルマを打ち抜いた音ではなく、誰かに受け止められた音だった。一連を見ていたなのは達が驚愕する。 ヴィータの攻撃を受け止めたのはエドガー。しかし、どこからどう見てもそれを止めたのはしわがれた2本の指だ。 「なっ!?」 「まだまだ甘いな」 止めた2本の指でグラーフアイゼンを弾く。弾かれてよろけたヴィータの無防備な腹に蹴りが叩き込まれた。 「がっ!?」 蹴られると同時にヴィータは吹き飛ばされる。4、5メートル程飛ばされて、何度もバウンドしながらはやて達の足元に転がった。 「ヴィータ……」 「く、ぅ……」 「ヴィータちゃん!」 足元に転がってきたヴィータを見てはやては呆然と呟き、苦しそうに呻くヴィータになのはが駆け寄る。セルマ達の足元の魔法陣が光り輝く。 「準備完了、いつでもOKよ」 「ふむ、それでは行くか」 「待て、貴様等はユウを使って何を企んでいる?」 アルの言葉にエドガーは少し考える素振りを見せて、頷いた。 「うむ、それならば土産話として教えてやるか。私達の目的は、混沌の王の力によるある世界の消滅だ」 「ある、世界?」 フェイトが首を傾げる。しかしエドガーはそれに答えずそのままセルマに転移を促した。 「このまま逃がすと思うか?」 「私達をこのまま追いかけていいのかしら?」 「どういうことだ?」 セルマの言葉にクロノが食いつく。セルマは軽く鼻を鳴らした。 「分かんないの? 私が何の目的もなく、ただ地震を起こしたとでも思っているの? それだけで貴方達が止まるわけないのに」 「……! まさか……お前!」 クロノが頭の中でセルマの言ったことを整理し、一つの結論にたどり着く。アルも同じ結論に至ったようで顔が真っ青だ。 〈エイミィ! 僕達のいる場所の付近にある、人が暮らしている集落を教えてくれ!〉 〈ちょっと待って、――――1つだけだけどあった! この世界で一番大きな街だよ! 位置は北西に30キロ!〉 クロノの念話にエイミィが直ぐに焦りの感情を込めて答えた。突然の事態にまだ混乱しているフェイトがクロノに訊ねる。 「ど、どういうこと? クロノ」 「奴らは、この地震で街一つを潰す気だ!」 吐き捨てるように答えたクロノの言葉にフェイト達は目を見開く。だがフェイト達が抗議の声を上げる前に別の声がその場に響いた。 「どういうことだ!」 突然の怒声に驚き、そちらを見るとそこにはユウを担いだままセルマに憤っているウィルの姿があった。対してセルマは何でもないかのように首を傾げる。 「どういうことって?」 「この世界の人間を巻き込むことだ! 何故無関係な人々を巻き込む!」 「だって、そうでもしないと逃げられないじゃない」 「だが――――!」 「あー、もう。文句は後で聞くから。そんじゃね〜、早くしないと街は壊滅よ」 にこやかに手を振ってセルマは転移魔法を発動させた。その場にいたエドガー達が一瞬で姿を消す――――ユウとゼロを連れたまま。 「ガイアッ!」 「御意」 アルの呼びかけにガイアは短く答え、地に手を付ける。揺れは徐々に収まっていき、地震は完全に止まった。大地とシンクロして地震の原因の大地の精霊を追い出したのだ。 〈エイミィ。追えるか?〉 〈駄目、複数転移している。多分直ぐに振り切られちゃう!〉 エイミィの報告に少し歯軋りすると、クロノはそのままフェイト達に呼びかけた。 「このままこの世界の住人の救助に当たる!」 「奴らは追わなくて良いのか?」 「人命救助が最優先だ!」 それだけ答えるとクロノは単身で街の方向へと飛ぶ。他の皆も慌ててクロノの後を追いかける。ヴィータもなのはに手を借りながら飛んだ。 地震が止まった大地から被害が出ている街へと次々と飛び立っていく光。――――大地には一人の少女が残された。 「ユウ君、なんで私なんかを庇ったんや……」 ぎゅっとかみ締めた唇からは赤い雫が垂れる。血がにじむほど拳を握ったはやては黒翼を羽ばたかせてクロノ達の後を追った。 ----後書き---- カークス:「この作品を読んでいただきありがとうございます。今回はゼロが連れ去られて不在なので、アルとマリアをゲストに呼びました」 アル :「エドガーの不意打ちを喰らったからな」 カークス:「にしては余り驚いていないようだったけど?」 アル :「あの爺さんはどこか胡散臭い部分はあったからな。ユウとは違ってあいつは信用していない」 マリア :「私もね。あの人はいつも不自然なほど笑顔を浮かべているから逆に分かりやすかったわ」 カークス:「ということは信用していたのはユウだけ、と」 アル :「そういうことになるな。つかお前が決めたことだろ」 マリア :「そんなことより、そろそろ溜め込んでいたものを吐いた方が良いんじゃないかしら?」 アル :「敵キャラ解説だな。いい加減に出さないと分かんねぇだろ」 カークス:「ということで解説〜」 ウィル=ハルフォード 性別:男 年齢:20歳 魔導師ランク:空戦S+相当 魔力光:赤 使用武器:『グーングニル』 魔力変換資質:炎 備考:ユウ達の世界のとある平穏な村で農業をしていた青年。しかし突如現れたエドガーに出会い、自分たちの世界が危機に瀕していると知らされてエドガーに手を貸すことに。無駄な殺生を好まず、無関係な人間を巻き込むことを嫌う。しかし敵対した人間には容赦が無く、殺さないまでも武器を向ける。実力の程はクロス・ミドルレンジのみでいえばユウを凌駕し、アルと同等の力量を持つ。 カークス:「というわけでウィルの解説でした〜」 アル :「敵メンバーの中では結構まともな部類に入るな」 マリア :「実力はアルと同等というけどユウは勝てないのかしら?」 カークス:「ユウとの実力差は魔法無し(ゼロシフト有り)ではウィルが上で、魔法を含むとギリギリユウが劣るかな。アルに対しては互角ということで」 アル :「敵メンバーの中ではかなり強いな。分かりやすくすると、シグナム≦ユウ<ウィル=俺 だな。んでそれに対応できる俺は凄いってことで」 マリア :「(無視)さて、次はカイルの説明でも行きましょう」 カイル 性別:男 年齢:12歳 魔導師ランク:陸戦AA+相当 魔力光:黄緑 使用武器:『含光』『承影』、投擲ナイフ+α 魔力変換資質:風 備考:9歳の頃、ある街の郊外で倒れていたところをウィルに助けられた。それ以来ウィルと行動を共にし、彼を『ウィル兄ぃ』と呼んで慕う。ウィルのことを尊敬して彼の為なら例えどんなに汚いことであろうとする。とは言うものの余り血を見るようなことは、その前にウィルが止めるか撤退を促すので決意するまでに留まっている。 マリア :「何故ファミリーネームが無いの?」 カークス:「理由は本編で明かされるから内緒。というか敵キャラでウィルとエドガー以外は皆ファミリーネームは無いよ」 アル :「そうなのか?」 カークス:「皆色々と過去があるということで流していただければ」 マリア :「それじゃあ武器の欄の+αは?」 カークス:「それも本編にて。カイルの秘密は本編で明かされるからとりあえず我慢していただければ……」 アル :「そうかい。次はセルマか」 セルマ 性別:女 年齢:20歳 魔導師ランク:総合AA相当 魔力光:不定 使用武器:札 魔力変換資質:無し 備考:小さい頃、とある管理外世界のスラムで暮らしていた。スラムの治安は悪く、生き抜くためには殺しや強奪など当たり前でセルマも幾つもの命を手にかけていた。そのため人の命には何の感傷も持たないようになる。19歳の時にエドガーに誘われて、召喚の才能を開花させた。利用できるものは何でも利用する性格でウィルとカイルから反感を買うこともしばしばある。セルマ自身は体術は使えるが、LOC内では最弱なので後衛に回ってロングレンジから攻撃する。 アル :「基本設定は俺と同じだな」 カークス:「精霊使いと召喚士の差だからね〜」 マリア :「ところで精霊使いと召喚士の差ってどんなところなの?」 カークス:「強いて言うなら精霊使いは文字通り精霊を使役して、召喚士は精霊と一緒に戦う又は力を借りるって感じかな」 アル :「要するに精霊に対する態度の差だな」 カークス:「次はイリア〜」 イリア 性別:女 年齢:12歳 魔導師ランク:空戦AAA+相当 魔力光:紫 使用武器:『ミョルニル』 魔力変換資質:電気 備考:LOC本編より1年前、とある管理外世界で意識を失っていたところをエドガーの仲間になったセルマが拾った。基本無口であまり表情の変化を見せない。何を考えているのかよく分からない。クロスレンジとミドルレンジが得意でヴィータと被る部分がある。 マリア :「管理外世界ってことはセルマとイリアはなのは達の世界の人間ってこと?」 カークス:「そういうこと。エドガーがこっちに来てからセルマを誘ってセルマがイリアを拾ったって経緯」 アル :「ってことはリンカーコア……だっけか? そいつも持っているってことか?」 カークス:「そういうこと。イリアとセルマはちゃんとリンカーコアを持っているし、魔力変換資質もあるってわけ」 マリア :「それじゃあウィルとカイルは何故あるの?」 カークス:「あの二人の場合は『例えるならこんな感じ』ってのが強いかな」 アル :「ほうほう。―――つーわけでいよいよ元凶のエドガーだな」 エドガー=レイヴァース 性別:男 年齢:65歳 魔導師ランク:総合S以上 魔力光:黒 使用武器:『ソウルキャリバー』『ソウルエッジ』 アル :「おい」 カークス:「何?」 アル :「なんだよこの紹介!」 カークス:「何って言われてもねぇ……」 アル :「ほとんど♯11の時と変わってねぇじゃねぇか!」 カークス:「失礼な。魔導師ランクより下は新規だぞ」 マリア :「備考と魔力変換資質が無いわね」 カークス:「一応、物語の本筋に関わってくるのでまだ明かせません」 カークス:「と、いうわけで敵キャラの解説でした〜」 アル :「武器名は神話に出てくるようなのが多いな」 カークス:「神話の武器とかって名前的にも格好いいから。それに『レヴァンティン』や『デュランダル』が出てるくらいだし良いかなって」 マリア :「出しすぎなのも問題ね」 カークス:「ほどほどにしておきます」 アル :「そうだな。んでそろそろ尺が足りなくなったから次回予告は?」 カークス:「次回はユウ達を連れ去られたはやて達と作戦を着々と進行させるエドガー達を書く予定です。今後も頑張るのでよろしくお願いします」 カ&ア&マ:《それでは、失礼します》 |