「ただいま〜」
「おかえり、ユウ。随分疲れているね」
「うん、なんか分からないけど凄い疲れた……」
「お風呂はもう沸いているから着替えた後入ってきたら?」
「そうするよ。ありがとう、フェイト」

フェイトと挨拶をして自分の部屋に向かった後、着替えもしないで直ぐにベットに倒れた。今までの疲れがどっと出てきた気がする。着替えもしないで寝たらフェイト達に怒られそうだな〜。でも…もう…眠いや―――








今から3年前―――僕は元の自分の世界の地球で過ごしていた。その時にはエクスやソウルとはまだ会っていなくて普通に小学6年生として過ごしていた。

「ユウー、早く学校行こうぜー」

外から友達が呼ぶ声が聞こえ、その声で僕は目を覚ました。ぼーっとする頭で時計に向くと一気に頭の中が覚醒する。

「やばっ、もうこんな時間!?」

見ればあと15分で遅刻という時間だ。急いで洗面所で顔を洗ってリビングに出る。リビングには1人分の朝食が置いてあった。台所から女性が顔を出す。

「おはよう悠木、今日は遅かったのね」
「おはよう、母さん。遅かったのねって…起こしてくれても良いじゃん!」
「何度も起こしたわよ。そうしたら大丈夫大丈夫って言うんだもん」
「眠っている人の言葉を真に受けないでよー!」

並べられている食事を横に置いてある牛乳を駆使して流し込む。味がごちゃ混ぜになってよく分からない味になっていたけど味わう余裕はない。

「ごちそうさま!」
「新記録ね。お皿は洗っておくから急いでらっしゃい」
「うん、よろしく!」

洗い物を母さんに頼み、階段をダダッと駆け上がって僕の部屋に戻る。机の上に置いてある鞄を取って再び階段を駆け下りた。階段を下りると中年の男性と会う。

「おはよう、父さん」
「おはよう。今日は随分のんびりしているな」
「のんびりし過ぎたよ、結構危険な状態」
「ふむ、急ぐのは良いがパジャマで学校に行くつもりか?」
「へ?」

言われて近くの鏡を見ると、パジャマ姿で鞄を背負った僕の姿――

「忘れてたぁぁぁぁl!!」
「転ぶなよ〜」
「転ばないよ、って――!」

言った傍からつるっと滑って階段に顔面を打ち付ける。

「痛〜〜〜〜〜〜!」
「慌てて行くからだ」

父さんが呆れながら救急箱を持ってくるのが見える。こういうのが咄嗟に出来るのは既に予想していたからかな?

「ほら、じっとしろ」

目の前に来て、絆創膏を赤くなっている部分に張られた。鼻のてっぺんの少し上の部分だ。よく漫画であるやんちゃ坊主みたいだな〜とか思っていると父さんが立ち上がる。

「これで良し。早く着替えて来い。友達が待っているぞ」
「あ、うん。ありがとう!」

すぐさま僕の部屋に戻って着替える。そして鞄を持って部屋から出ようとした時、隣の部屋から小5ぐらいの少女がひょいと顔を出した。

「お兄ちゃん、大丈夫?さっき顔ぶつけてたけど…」
「大丈夫だよ美奈。鼻血が出かけていたけど」
「もう…気をつけてよね」
「うん、心配かけてごめん」

洗面所に再び行って歯を磨いた。こうしている間にも時間はこくこくと過ぎていく。残り時間はあと6分。学校まで全速力で走って、5分だから今すぐ出れば1分の余裕があると頭をフル回転させた。歯の中の歯磨き粉をうがいで流すとすぐさま玄関を飛び出す。

「行ってきます!」
「「「いってらっしゃい」」」

家の前では腕を組んで待っていた僕の悪友、健吾がいた。

「遅ぇぞ」
「ごめんごめん。さっ、走ろう」
「全く」

健吾は軽くため息ついて先に走った僕を追いかけてくる。それで学校にぎりぎりで着いて2人で先生に注意を受けた。こんな日が毎日続いていたんだ。あの日、小学校の卒業式の日までは―――




魔法少女リリカルなのはLOC外伝
「悪夢、そして旅の始まり」〜前編〜





僕達の学校の小学校は正装をして卒業式をするんだ。いつもと違う黒と白を使った色のセーターやらズボンを穿く。汚しちゃダメらしいからいつも通り動けなくて面倒だな〜、とか思いながら今日は余裕を持って登校する。僕が早く起きた時はいつも健吾の家に行っているから健吾の家に向かうとちょうど健吾が出てきた。健吾も黒と白で身を固めている。

「おはよう、健吾」
「おお、ユウ。今日は早いな」
「いつも僕が遅刻ばかりしているような言い方しないでよね」

ぶすっとして答えると健吾はけらけら笑う。そう言えばこいつはよく笑っていたな。

「まぁいいや。とにかく学校行こうよ」
「OK、行こうぜ」

僕達は並んで学校へと歩き出した。いつもと同じ景色を眺めながら歩いているとのんびりし過ぎたせいかもう時間が無かった。

「健吾、もう時間ないよ」
「マジかっ!? どんだけのんびりしてたんだよ俺ら!」

そう言って走り出す健吾に僕はついていこうと走り出した時に、急に健吾が止まった。

「どうしたの?」
「焦る必要なかったな。ユウ、こっち来いよ」

脇道に入る健吾を見て首を傾げながらついていく。そこは林で辺りには木がたくさん立っていた。

「健吾、こっちは?」
「こっちはな学校の裏側に出る秘密のルートなんだ、しかも普通に歩くより早い」
「普段からこっち使えば良かったじゃん」

卒業式の日に知っても意味ないよとぶつくさ文句言いながら歩くと、右手側に神社の鳥居が見えた。鳥居の近くには白の車が駐車されている。

「こんなところに神社?」
「ああ、その神社普通の神社じゃないらしいぜ」
「普通のじゃないって?」
「さあ? お父さんに聞いても分からなかったからな」
「この神社に興味があるのか?」

僕や健吾じゃない人の声が聞こえた。声のした方向を向くと、鳥居から青年が出てきた。普通にどこにでもいるような高校生だ。

「あなたは?」
「俺は付近の高校生だよ。名前は教えないぞ」

人差し指を口に当てて答える青年を見て僕達は口を揃える。

「「キモ」」
「ってストレートに言うなよ!」
「いやだって…ねぇ?」
「ああ、女の人や不思議な旅人がそれをやるならいいけどあんたがやってもなあ…」
「お前本当に小学生か?」

青年の突っ込みを軽くスルーして質問をする。

「この神社は一体なんであるんですか?」
「この神社にはな、ある者の魂が封印されているんだよ」
「ある者の?」
「魂が?」

僕と健吾は同時に首を傾げる。青年はそう、と頷いた。

「昔、とある世界の王様が目的を果たすために死ぬ直前に自分の魂を壺に封印してもらったんだ。それがこの神社には納められている」
「だからこんな人目につかないところにあったんですね、何かの間違いで勝手に開けられたりしないように」
「鋭いな〜。そういうことだ。―――ところでお前ら学校はいいのか?もう8時5分だけど」
「「へ?」」

僕と健吾は同時に声を上げる。卒業式の開始時間は8時15分だが準備やら何かがあるから10分には集まるように言われていた。

「し、しまったぁぁぁぁ! 急ぐぞ、ユウ!」
「うん!」

ダッシュで林を通り抜けて行く様子を青年は楽しそうに見つめていた。




チャイムが鳴った瞬間に教室に滑り込んだ僕達は結局先生に注意を受けた。ちなみに遅刻のところしか出てきていないけど普段は遅刻していないからね。
そのままずるずると卒業式が開始された。周りの保護者の所を見ると父さんや母さんがいたから嬉しかったなぁ。後はお約束の校歌斉唱や卒業証書受賞式とかやって卒業式は終わった。
僕と健吾は卒業式が終わった後、時間がかなり余ったので学校の校庭でサッカーに混ぜてもらった。そんなこんなで時間が過ぎていって6時、もう辺りは暗くなっており皆解散ということになった。僕と健吾は朝通った林を通って帰る。神社の鳥居の前に来ると健吾が突然止まった。

「健吾?」
「なぁ、ユウ。お前今朝の話覚えているか?」
「今朝のって、あのキモい人の?」

本人がいたら猛抗議しそうだが健吾は頷いて続ける。

「そう、昔の王様が壺に封印されてこの神社に納められているって」
「―――まさか」
「そう、見てみようぜ!」

顔をキラキラさせて手をグッと握る健吾に僕は思わず一歩引く。

「な、なんで?」
「なんでって、気にならないのかよ!? 昔の王様の魂なんて面白そうじゃねぇか!」
「いや、別にそう思わないし」
「かぁぁぁぁ! なんでだよ、ロマンのない奴だな!」

頭を抱える健吾からさらに一歩引く。

「そんなに気になるなら君1人で見てみなよ」
「それはなぁ…やっぱ怖いじゃん?」
「僕を道連れにするってこと?」
「頼む、この通り!」

手を合わせて頭を下げる健吾を見て、多少気まずくなる。

「――――」
「頼む!」

ここで断ったらどう出るか分からないし―――。

「分かったよ」
「サンキュー、心の友よ!」
「さっさと見て帰ろうよ」

どこのガキ大将だよと突っ込みたい衝動を抑えながら鳥居をくぐる。健吾も後に続いた。神社は林で囲まれており、街灯が無いため月の明かりが建物を照らしている。それはどこか神秘的なものを感じた。

「やっぱそれっぽいな」

何を期待しているのかわくわくしながら神社の建物へと進む健吾。真っ直ぐ進んで行くと扉にたどり着く。しかし扉には鍵がかかっていた。

「鍵がかかっているのかよ…」
「ま、当然だろうね」
「なんでだよ! 普通こんなところに忍び込むやつなんていねぇんだから鍵なんて必要ねぇだろ!?」

君のような人がいるから鍵を掛けているんじゃないの? という突っ込みを抑えて鳥居へと向き直る。

「鍵がかかっているんだから中に入るのは無理だよ、あきらめよ」
「ぐぐ………」

健吾は扉を穴が開くほど見つめ、やがて諦めたように肩を落とした。

「ちっくしょー、ついてねぇな…」
「ドンマイ」

健吾の肩を叩きながら僕達は帰った。家に帰って後はいつも通り風呂に入ってご飯を食べて、歯を磨いてベットに入る。明日から春休みだなぁとわくわくしながら目を閉じる。そして眠りに落ちた――






眠っている時、突然変な感覚が襲ってきてがばっと上半身を起こす。時計を見ればまだ午前2時。だが眠気は感じなかった。変わりに汗で背中にパジャマがべっとり張り付く嫌な感触がある。

「一体何――?」

嫌な予感がして、他の部屋で寝ている両親を起こさないように着替える。物音を立てずに1階に下り靴を履いて外に出た。嫌な感覚は外に出た途端急に強くなる。

「くっ…これは…あっちから?」

直感で発生源があるだろう元へ向かう。そしてどんどん嫌な感覚が強くなっていくとある場所に行き着いた。

「ここって―――」

僕は今朝変な人とあった場所―――神社の鳥居の前に来ていた。林の中は不気味なほど闇に包まれており、禍々しい空気が渦巻いている。足が踏み出されるのが躊躇われる。だが―――

「行こう」

ここに何があるのかという好奇心が勝った。僕はその神社の空気で震える足を叱咤して一歩、鳥居をくぐった。直後――

「ぐっ!!」

すさまじい力が当てられた。とてつもない波動、この世のものとは思えないほどだ。境内に入っただけでこの違和感―いや、既に違和感だけでは済ませられなくなっている。境内の中だけ既に別世界と言っても全くおかしくはない。頭の中で本能が告げる。

――逃げろ。これは普通じゃない。ここに入ったら死ぬ――

普段は本能が感じたことにはすぐさま従うようにしているがどうしてかこの時は従う気にならなかった。呻きながらも先に進む。開けた場所に出ると先ほど健吾と一緒に調べた神社があった。だがそこには先ほどのような神秘的なものは一切なく、ただ視認できるほどに黒い霧が出ている。
立っているだけでも苦しくなるが、それを堪えて扉の前まで行く。何故か扉の鍵が開いていた。大きな南京錠は扉の前に落ちている。

「――――――」

息を呑み、意を決して扉を開けた。扉を開けた途端、またすさまじい力を当てられて気を失いかける。だが扉に寄りかかって倒れるのを防いだ。息を荒くして中の様子を確認する。中はどこの家にもある和室のような部屋で中央に台座があった。そしてその台座の上には明らかにこの事態の原因であろう壺が置いてある。壺からは黒い霧みたいなものが出て台座の下に落ちている。イメージとしてはドライアイスだ。

「あ――――」

壺を見た途端に理解した。これは人の手に渡ってはいけないし、見ることすらいけない。存在すること自体が罪である物だ。ここにいたら確実に死ぬ。
入る前に何度も恐怖を感じたが、これは既にそんな領域では表すことはできない。頭の中で本能が警告を発している。

――――逃げろ。今ならまだ間に合う。逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ―――

扉から離れ出口から出ようとする。だが―――

バタン!

扉から離れた瞬間、大きな音を立てて扉が閉められた。開けて出ようとするが扉は開かない。接着剤で固められたかのように全く動かない。殴っても蹴っても全く動かない。
周りを見渡したが窓などは一切なく、出口は閉められた扉しかないようだ。絶望とした状況の中、僕の頭の中に声が響いた。

―――ようやくだ…―――

急に聞こえた声に怯え、周りを見回す。だが自分以外に人はいない。声は淡々と呟く。

―――長い年月をかけてようやく見つけた―――

「な、何を!?」

ただ聞こえるだけの声に怖くなって紛らわすために声を上げる。その言葉に声は律儀にも答えてくれ、絶望の言葉を吐いた。

―――我の器だ―――

その言葉を聞いた瞬間、壺から出てきていた闇が僕に襲い掛かり僕の身体を包み込んだ。僕は叫び声を上げる前に闇に覆われそのまま意識を失った。意識を失う前に1つ分かったことがあった。何故本能に従わなかったか、それは境内に入った瞬間にこの雰囲気に取り込まれていたからだった。



熱い……身体が熱されているようだ。パチパチという音が聞こえ目を開く。目を開けた先には夜空が広がっており、星と満月が見える。だがいつもはたくさんの星が見えるのにその数が少ない気がする。パチパチという音が耳元で聞こえ、そちらに顔だけ向ける。目の前には火が燃え上がっていた。

「!!」

驚いて咄嗟に起き上がる。すると目に入ったのは普段見慣れていた学校が炎に包まれている光景だった。後ろを振り向くと炎に包まれた街の光景が―――
あまりの光景に呆然としていたが周りも燃えていることに気がつき、一目散にそこから離れた。足が軽くいつもより早く走ることが出来た。走りながら現状を確認する。いつの間にか神社から学校の校庭に移動していたらしい。辺りを見るも全て炎に包まれており、無事な建物は一軒としてなかった。一軒も無事な家がないことに自分の家がどうなっているのか気になりそちらに向かう。父さん、母さん、無事でいてくれ……
―――現実は残酷なものだった。家の原型はまるでなく、他の家と同様に炎に包まれている。

「―――、ああ」

呆然と呟く。数秒焼けている家を見つめた後、両親は大丈夫か探す。すると家の柱に下敷きなった2人の姿が見つかった。

「父さん! 母さん!」

慌てて駆け寄って柱をどかそうとする。柱はまだ熱かったがそんなのは全く気にならなかった。柱をどかした後、2人を見つめる。

「父さん、母さん…」

―――下半身がなかったのだ。腰から下がなく上半身は所々焦げていて特有の嫌な臭いが漂ってくる。最後の苦悶の表情が顔に張り付いており痛々しさを増している。目の前の惨状に呆然として膝をついた。涙が頬を伝う。頭にまだ姿を見ていない家族の顔が浮かんだ。

「そう言えば…美奈は!?」

周りを慌てて見回した。玄関だったところを見ると少女―美奈―が倒れている。美奈は茶色の髪の毛を所々焦がし、服も焼けて小さい穴がいくつも開いている。むき出しの肌は熱で赤くなったり焦げていたりしていた。

「美奈!!」

駆け寄って抱きかかえる。美奈はうつろな目で僕を見て泣きながら手を僕に伸ばした。

「お兄ちゃん……たす…け…て…。熱……熱いよ……いや…だよ…」
「美奈、しっかりしろ!」

伸ばしてきた手を掴んで声を掛ける。

「お…にい……ち…ゃ……――」

瞳がゆっくりと閉じられた。掴んでいた手から力が抜けて、重くなる。それが妹の死を示していた。脳内に妹の元気だった頃の姿が思い浮かぶ。僕の冗談に笑ってくれた、僕のことを心配しながらも叱ってくれた…でもそんなことはもう出来ない。目の前の少女はここで全ての生命活動を停止した。もう笑いあったり喧嘩したり、名前を呼び合ったりすることも、できない―――。

「ああ………」

言葉が出ない。頭の中が纏まらない。ただ涙を流しながら考えようとした。一体誰がこんなことを――。何故こんなことをしたんだ――。
考えれば疑問しか浮かばない。だが1つ分かったことがある。それは僕がこの惨状を引き起こした人物を憎んでいるということだ。きっとそいつが僕の目の前に現れたら僕はそいつを殺しにかかるだろう。僕は悲しみを込めて燃えさかる街の中で吼えた。

「ぅ、うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーー!!!!!!」

声が掠れても気にしない。ただ自分が発せられる最大の声量を口から発した。

「ごめん、ごめんね! 君に何もしてやれなかった…何も……」

泣きながら妹を抱きしめる。妹を想うことが出来なかった自分を恨めしく思う。その悲痛な叫びはただ黒い雲で覆われている空に吸い込まれた―――。




家族の死を悲しんでいるととふと頭の中に健吾の顔が浮かんだ。そういえば彼はどうなったのだ?妹を仰向けに寝かせ胸の前で手を組ませた後、気になって彼の家に走っていく。今は家族のことを忘れないと僕の精神が参ってしまうので全速力でここから離れた。
健吾の家も僕の家と同じく炎に包まれていた。だがそんなのは予測済みだ。問題は何処に健吾がいるか、そして無事かということだった。

「健吾!」

家の前に倒れている人物を見つけその名を叫ぶ。彼は何の下敷きにもなっておらず、ただ道路にうつぶせに倒れていた。走って寄る。健吾の身体は火傷が酷かったがどこかが取れているとか身体の一部が無いということはなかった。健吾はうつぶせのまま顔だけをこちらに向ける。

「ユウ……来るな!!」

思わず足を止める。彼が叫んだことに理解できない。何故拒絶されたのか分からない。だがその瞳は恐怖と憎しみを込めて僕を睨んでいた。

「来るな……!」
「健吾……?」

彼の言葉に思わず呟く。何故自分が拒絶されるのか分からない。僕と彼は親友の筈だ、それなのに何故――?

「俺の名前を口にすんな、この化け物!!」

思考が一瞬停止した。今彼はなんと言った?――化け物――。誰に対して?周りには健吾と僕以外に人はいない、ということは―――僕に?

「健吾……」
「返せよ……お母さんとお父さんを返せよ!」

彼が何を言っているんだ…。彼の父と母が死んだのだろうということは大体予測できた。だが…それは僕に言うことではない筈だ。

「健吾…僕は……」
「返してくれよユウ…俺が一体何をやったんだよ…」

涙しながら呟く健吾に錯乱していると思っていたから介抱しようと手を伸ばす。だが――――

キンッ、ドッ、ブシャァァァァァァァァ。

――――何が起こった……?――――

手から黒い光が出て…それが健吾に向かって一直線に伸びて…健吾の頭に当たって…頭が壊れて…首から血が吹き出た。
今僕の目の前には周りに首だったものがあちこちに飛んでいる首無しの親友の姿があった。血がこちらまで飛んでくる。その血が前に出していた手に付いた。震える手を顔の前に持ってくる。そこには乾いた血の上に新しい健吾の血がこびりついた僕の手があった。呆然としていると目の端で近くに光るものが映った。そちらを見るとひび割れた鏡がある。それは燃えさかる炎の中、僕の姿を映し出していた。
普段は茶色の髪が黒に変わっており、瞳も紫がかった黒に変わっている。そしてなにより、背中から白と黒の羽が生えていた。

「え………?」

僕の姿には所々血が付いている。顔、手、首。服にも付いていた。身体の中心には血がべっとりと付いており、腕や脚にも付いている。

「ああ………」

言葉が出ない…何も考えることが出来ない。足音が後ろから聞こえ振り向く。そこには朝出会った哀しそうに僕を見ている青年が立っていた。

「あなたは……」
「…………」

青年は僕を無言で見つめる。そして頭を下げて分からない言葉を呟いた。

「まさか…お前が器となるとは………済まない…」
「え…………?」

何も考えることが出来ない頭で考えようとするが無駄だった。青年は頭を上げずに口を開かない。その直後異常な事態が起こった。天から渦巻く黒い雲を貫いて金色に光り輝く剣が落ちてきた。その剣は僕と青年の間で地面に突き刺さる。さらに地面が黒くなり、黒くなった部分から剣が出てきた。剣は柄から出てきて、そのまま地面に突き刺さる形で止まった。その剣は刀身が悪魔の羽のようだった。剣は両方とも柄と刃の繋ぎ目に結晶がはまっており、交差した状態だ。
剣が輝いて語りかけるような声が青年と僕の頭の中に響く。

―――我等は貴公の力となる存在。さぁ、どちらを取るか選べ―――

銀の刀身の剣が金色に輝く。

―――我が名は聖剣“エクスカリバー”―――

悪魔の羽を催した剣が黒く輝く。

―――我が名は魔剣“ソウルイーター”―――

2つの剣が輝く。

―――聖剣と魔剣、どちらを取る? 混沌の王よ―――

それらが何を言っているのか僕には分からなかった。現状で分からないことばかりだ。だが2つの剣の内、どちらかを選べということだけは理解できた。おぼろげな足取りで剣に向かう。もう既に気を失いかけるほど疲れていた。このまま倒れたらすぐに気を失うだろう。そんなことを考えている間に剣の前に着いた。前を向くと青年は頭を上げてこちらを見ている。だけどそんなことは気にはならなかった。多分次の瞬間に僕は倒れているだろう。その前に選ばなくては――――

「僕は―――選ぶ」

自分でもどっちを選んだか分からずに剣の柄を握ってそのまま気を失った。





----後書き----

カークス:「皆さん読んでいただきありがとうございます」

ゼロ  :「外伝なのに暗いですね」

カークス:「ユウの過去だからね〜、一応一人称で書いてみたつもりなんだけどどうかな〜?」

ゼロ  :「他の作家様が書いている作品とはほとんど違いますね。地の文で『僕』と使われているところぐらいしか…」

カークス:「ぬぅ…色々と難しいんだよ」

ゼロ  :「はいはい。ユウのお母さんに悠木と呼ばれていましたが本名なんですか?」

カークス:「そう、この時彼の名前は『城島悠木』。読みは『きじまゆうき』ね」

ゼロ  :「どうして今はユウに変えたんですか?」

カークス:「それはまた後編の後書きで―――」

ゼロ  :「本編じゃないんですか……ところでどうしてこれを書く気になったんですか?」

カークス:「15話でユウが暴走した原因の話がちらっと出たからね。それの詳細というのかな?」

ゼロ  :「そうそう、どうしてユウが暴走したんですか?」

カークス:「これを見たら分かるかもしれませんけどユウは親友だった人に『化け物』呼ばわりされてから『化け物』と呼ばれたら暴走します」

ゼロ  :「ふぇぇ……親友に言われるのは辛いですね…」

カークス:「それが狙いだからね。自分のことを言う分にはいいけど、他人から言われるとまずいよ」

ゼロ  :「ところでユウには妹がいたんですね」

カークス:「実はこれは伏線だったりします。彼女の容姿、年齢をチェックすれば狙いが分かるかもしれません」

ゼロ  :「でもそうしたらあの人は報われないんじゃ…」

カークス:「おおっと、そろそろヤバイからこの話題はストップ!」

ゼロ  :「はい。後編はどういう風になるんですか?」

カークス:「ほのぼのしたのが書ければいいなあとか思っている。今後の頑張るのでよろしくお願いします」

カ&ゼ :「「それでは、失礼します」」





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