ユノフェ応援SS



〜優しい時間〜



もうじき5月も終えようかという、ある日。

「司書長!ハラオウン提督から頼まれていた資料あがりました!」

「ご苦労様!悪いけど追加で来たから引き続きよろしく!」

「うぇーーーい!?そんな!?あの鬼畜めがぁぁぁ!!」

「八神捜査官に頼まれてたロストロギア“アマダム”の資料どこでしたっけ!?」

「2000-09-G-Aの棚にあります!」

「助かりました司書長!」

「どういたしまして!それ終わったら次は“ワイズマンモノリス”の資料編纂してく
ださい!」

「合点承知!・・・ってギャー!!?」

「うおっ!?誰か本の雪崩れに巻き込まれた!?」

「えーせーへー!!衛生兵を呼べー!!」

「私を殺さない限り、私は何度でも黄泉返る!!」

ギャーギャーと悲鳴と怒号が響き渡る無限書庫のいつもどおりの仕事風景。

「・・・相変わらず、大変そうだね」

いつも思うのだが、無限書庫って常にこんな状況なのだろうか。

任務の度に利用させてもらっているこちらとしては、正直申し訳ないと思う。

「あ、フェイト。いらっしゃい」

こちらに気付いた司書長―ユーノ―はひらひらと手を振ってくれた。

私も彼に微笑みながら手を振る。

彼は作業を一旦中断してこっちに向かって飛ぶ。

「そういえば、もうそんな時間だったっけ?ごめん」

「いいよ、急だったし。だから迎えにきたんだ」

と、ここで何故か大量の視線を感じた。

見ると、先ほどまで作業をしていた人たちがこちら―私とユーノ―を凝視していた。


なんだか視線が恐い。

そんな視線をユーノは意にも介さずに。

「ごめん、みんな。今から抜けるけど頑張ってね」

苦笑いしつつ言ったのだ。



―――瞬間。



「この裏切り者ー!鬼ー!!」

「オンドゥルルラギッタンディスカァァァ!!!!」

「逃げるな!!仕事する方が戦いだっ!!」

「あんたってひとはぁぁぁぁぁっ!!!」

「ずるいぞ司書長!!一人だけこの地獄から逃げるなんて!!」

「そうだそうだ!司書長が逃げ出したら俺達の命はどうなるんです!?」

「ただでさえ仕事が多いのに、今ハラオウン提督からまた連絡来たんですよ!?」

「げ、マジかよ!?あの外道、俺達をマジで殺す気か!?」

「そんなことより何故執務官が来たら抜けるんですか!?」

「しかも今『迎えに来た』って言ったぞ!?デートかこのやろう!!?」

「羨ましくなんか無いぞ・・・羨ましくなんか無いやい・・・!!」

悲痛な響きを含む司書たちの叫びの数々。

む?今なんかすごいこと言われなかったか?

「ごめんね、昨日の夜に急に連絡貰ったんだ。その時にはもう休み取れなかったか
ら、

ぎりぎりまで仕事して、途中から抜けることにしたんだ。言わなかったっけ?」

「聞いてませんよ!」

「・・・ごめんなさい。今日の分は明日するから」

ユーノは申し訳なさそうにしている。

「あの・・・私、悪いことした、かな・・・?」

なんだか急に、ユーノを誘ったこっちも申し訳なくなってきた。

「フェイトは悪くないよ、僕が言い忘れてたせいだし。

それにさっきも言ったけど、今日出来ない仕事の分は、明日の仕事で巻き返せばい
いしね」

それが出来るのはユーノだからである。

若干15歳でこの巨大データベース『無限書庫』の管理を任されている彼。

6年前のある事件を境に、この施設の利用者が増えたのはひとえに彼の力があったか
らこそである。

当時10歳にも満たない子供が資料を次々に整理し、流れるようにあらゆる情報を正確
に提示する様子は、

その手の魔法が苦手で、よくわからない私たちから見ても圧巻の一言に尽きた。

彼らもユーノのその能力の高さは理解しているはずなので、

「わかりました・・・今ある分は頑張りますけど追加の分はよろしく頼みますよ、司書
長」

「特にハラオウン提督のやつは任せます。あの人のは半端じゃないんで」

「だよなぁ。殺意すら感じるよな、あの量」

みんなしてうんうんと頷いている。

・・・何をしているんだろうか、義兄さんは。

「それじゃあ、後は頼みます」

「了解です。せいぜい楽しんできやがれこんちくしょう」

「お土産持ってこなかったら、こっそり仕事増やしてやるんで覚悟してください」

と、憎まれ口を叩きつつ総出でユーノを送り出す司書さんたち。

ユーノも手をひらひらと振って無限書庫から出る。

「それじゃ、行こうか?」

ユーノが微笑みながら入り口に立っている私に手を差し出してくる。

「・・・うん」

少し恥ずかしいと思ったけれど、私も手を伸ばして彼の手を握った。

二人、手を繋いで歩く。

私とユーノはそんな色っぽい関係じゃあないけど。

なんだか、それが自然に感じられた。




☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆




「しかし、司書長とハラオウン執務官がなぁ・・・」

「俺はてっきり高町教導官あたりかと思ったんだがな・・・」

「最近は八神捜査官と仲が良いと思ったんだが」

「いや、まだ司書長にそういう人がいるとは限らんだろ」

「いやでも、さっき手を・・・」

「司書長はわりとしてるぞ?手を握るとか。

この前も高町教導官が転びそうになった時、抱きとめてたしな」

「あ、俺も見た。

八神捜査官と一緒に楽しそうに食事してたな」

「なるほど・・・そんで今度はハラオウン執務官とデート、と・・・」

「いや、司書長はそういう色恋沙汰はあまり意識してない気もしないでもないな」

「いつも鋭いくせに、変なところで鈍いからな、司書長」

「案外、『こんど義兄さんの誕生日だからプレゼントしようと思うんだけど、意見を
聞きたい』

みたいな、味気ない理由で付いてったかもしれんな」

「まっさかー。ありえんだろ」

「だよなぁ。はははははははは」

「さぁて、無駄話は終わりにして。

司書長がいない間に仕事全部捌くぞてめえら!!」

「応よ!帰ってきたら仕事が無くて、びっくりさせてやろうぜ!」

「やるぞゴルァ!!」



ちなみに。

『義兄にプレゼント』のくだりは当たらずも遠からず、といったところを彼らは知る
由も無かった。




☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆




「それにしても、『結婚祝いにプレゼント』ねぇ・・・」

「その、ね?ユーノは義兄さんと仲いいから、参考にできないかなって・・・」

海鳴市の大手デパート入り口付近での僕達の会話である。

この度、めでたいことにクロノが結婚することになった。

相手は士官学校時代からの付き合いで二つ年上のエイミィさんだ。

ついこの間まで『姉と弟』のような関係だった二人は、

いつの間にやら『恋人関係』にまでなっていた。

そして結婚と相成ったわけだ。

そこで兄思いなフェイトは結婚祝いに何かプレゼントしたい、

と昨日の夜、僕にこっそりと連絡してきた。

クロノとはいつも喧嘩ばかりしている僕だけど、

たまに愚痴を聞かされたり、聞いてもらったりする。

まぁ、僕とクロノは互いの苦労を暴露しあうことが出来る、言うならば相談相手みた
いな関係だ。

それなりにアイツのことを知っているし、知られていると思う。

それに、女の子の感性と男の感性は違う。

プレゼントするのに意見を聞くには僕は絶好の相手、というわけだ。

「・・・やっぱり、迷惑だった?」

フェイトは俯いていて、申し訳なさそうに言う。

「とんでもない。僕でよければ力になるよ」

そう言って、僕は無意識に彼女の頭を撫でる。

さらさらした金の髪からほのかに香るシャンプーの匂いは、とてもいい匂いがした。


「あっ・・・」

今度は恥ずかしそうに顔を赤らめるフェイト。

あぁ、なんだかこっちまで恥ずかしくなってきた。

お互いの顔はきっと真っ赤だろうけど。

僕の左手は、彼女の右手と繋がれたままだった。

彼女はそのことについて、何も言わない。

僕も、そのことはあまり意識しない。

「・・・行こうか、フェイト」

「・・・そうだね、ユーノ」

僕達は、手を繋いだままデパートに入っていった。





☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆





「それで、何を贈ろうと思ってるの?」

「そうだね・・・義兄さんの性格上、仕事でも私生活でも使えるものが良いと思うんだ
けど」

「それには賛成。どちらかというと私生活より仕事の割合が強い気がするね」

そんな会話をしながら、僕とフェイトは雑貨コーナーを見て回る。

しかしデパートって広い上になんでも置いてあるなぁ。

どうでも良いことを頭の隅で考えつつ、クロノに合いそうなプレゼントを絞ってい
く。

「アクセサリーの類は問題外だね。邪魔、とか言い出しかねない」

「なら、デバイスのパーツ・・・味気ないね」

「そうだね・・・まぁ正直、キミが贈ればどんなモノでもアイツは喜んで受け取るだろ
うけど」

これは言い切れる。クロノはなんだかんだでフェイトには甘いから。

「そうかな?」

どうやらフェイトはそうでも無いらしく、不安げだ。

「そうだよ。可愛い妹からのプレゼントを喜ばないのは兄失格だと思うよ?」

これも言い切る。というか経験談だ。



昔、一族にいた時に妹分がプレゼント、と称して食べ物を分けてくれたことがあっ
た。

だが、その時の僕は食事を一足先に終えた後でおなかがいっぱいだったため、

謝りつつ、丁重に断った。

そしたら、大泣きされたのである。極め付けに、

「ユーノ兄なんか大っ嫌い!!」

と叫ばれた。いや、アレは応えた。

次の日、もう一回同じことをされたので、頑張って食べた。

そしたら大喜び。以来、彼女からなんらかの形でプレゼントがあった場合、喜んで受
け取った。



閑話休題。



「・・・?顔が赤いけど、どうかした?」

「ううん、なんでもない、なんでもないから・・・」

いや、ものすごくなにかありそうなんですけど。

しかしこの場合、下手に詮索すると妙なことになりかねないので自粛しよう。

しかし、何がいいだろうか。クロノの結婚祝い。

どうせならエイミィさんにも・・・

「あ」

「どしたの?」

閃いた。クロノ一人に拘るんじゃなくて。

「エイミィさんとセットで何か贈る、っていうのはどうだろう?」

「なるほど・・・その発想は無かった。うん、その線で行こう」

フェイトも納得してくれたようだ。

この方式ならクロノとエイミィさん、どちらかが喜べば良し。

そういう風に言うと、なんだか聞こえは悪いけど。

そして、視界に入るあるモノ。

なんてタイミングのいい。

「アレなんかどうだろう?」

「どれ?・・・あっ」

指を指した先にあったのは、大小のマグカップ。

大きいほうは青色で、小さいほうはピンク系統の色。

あからさまにペアな感じが漂うが、これぞ正にうってつけの代物だ。

しかも値札の横には『結婚祝いに是非!』などと御誂え向きの文字が。

「『結婚祝い』だし、ちょうどいいんじゃないかな?」

「うん。アレなら仕事でもプライベートでも使えるしね」

そんなわけで、プレゼント購入は無事完了しました。




―――かに見えたのだが。




「迂闊だった・・・」

「うん・・・」

お互い、顔は真っ赤だ。これ以上無いぐらいに。

レジでマグカップを4つ袋に詰めてもらって、デパートを後にする僕達。

いや、まさか。

『ウエディングキャンペーン実施中に付き、カップルのお客様の輝かしい未来にもう
一組プレゼント!』

などと言われるとは思わなかった。




そういえばこの世界―地球―では“六月の花嫁”とかいう伝承があったっけ。

もうじき6月だし、それのキャンペーンなんだろうなぁ。

確か内容は・・・6月に結婚した花嫁は幸せになれるという、もともとはヨーロッパから
の伝承らしい。

由来は諸説あって、一つ目は6月・・・すなわちJune という月名が、

ローマ神話の結婚をつかさどる女神であるジューノ "Juno"(ギリシア神話では女神
ヘラもしくはヘーラー)からきているため、

婚姻と女性の権利を守護するこの女神の月に結婚すれば、 きっと花嫁は幸せになる
だろう、とあやかってとする説。

二つ目はその昔、ヨーロッパでは3月、4月、5月の3ヵ月間は結婚することが禁止され
ていて6月は結婚が解禁になる月であるため、

6月になっていっせいにカップルたちが結婚し、 周りの人達からの祝福も最も多い月
だったとする説。

三つ目はヨーロッパの6月は1年中で最も雨が少なく良いお天気が続くため、

はつらつとした季節の始まり、若者の季節と呼ばれ季節的環境がベストな月であり、


加えて復活祭も行われる時期であることから、ヨーロッパ全体が祝福ムードで溢れ、
6月の花嫁は幸せになれるとする説。

この三つが有力であるらしい。




再び閑話休題。




もうそろそろ、日が暮れようとしている。

西の空には真っ赤な夕日。東にはうっすらと月が見える。

僕達は並んで歩く。

5月と言っても、日が暮れればさすがに冷える。

無意識に温もりを求めて、フェイトとの距離はほとんど無い。

そして彼女は手が冷えるのか、息を吐いて暖めるようにしている。

それをじっと見つめる僕。

視線に気付いたのか、フェイトは。

「なに?」

と小首を傾げる。

「ん、ちょっとね・・・・・・」

「どうかしたの?」

彼女は心配そうに僕の顔を覗くようにしてくる。

互いの距離は、ほぼ零。



傍から見れば、僕達のこの姿は『恋人』に見えるのだろうか?

正直な話、僕は誰が好きとかまだよくわからない。

自惚れているわけじゃあないけど、フェイトには好かれていると思う。

なのはや、はやてだって一緒だ。

だからこそ、友達と恋人の一線がわからない。

どこからどこまでが『友達』としての好きで、どこからどこまでが『異性』としての
好きなのか。

まだ、僕にはわからない。

今すぐに決めることでも無いし、相手の気持ちだって大事だ。



「・・・手、繋ごうか。冷えるし」

「・・・うん」

そっと、彼女の手を握る。

少し、冷たい。

ぎゅっ、と少し力を入れて握る。

彼女に、僕の熱を分けてあげるように。

「・・・あったかいね」

「そうだね」

僕達は手を繋いで歩く。




これから先、僕が誰を好きになって、誰が僕を好きになってくれるか。

そんなことは所詮、しっかりとした形の無い“未来”だ。

いつか、儚く脆く泡のように潰えてしまうのかもしれない。

僕は、今この瞬間にしっかりと存在する“現在”を生きている。

だからこそ、彼女と居るこの“現在”が何より大切だと、僕は思う。




彼女の手は、少しだけ冷たいけれど。

ほんのりと、優しい温かさが伝わってくる。



――――――願わくば、この優しい時間が続きますように。
















〜おまけ〜

「義兄さん、エイミィ。結婚おめでとう。コレ私から」

「おぉー!ありがとうフェイトちゃん」

「ありがとう、フェイト・・・その、なんだ。改めて言われると照れるな」

「もう、クロノくんってば照れ屋さんなんだからぁ。っていうかフェイトちゃん、
“義姉さん”って呼んでいいよ?むしろ呼んで?」

「からかうな、エイミィ・・・野暮かもしれないが、中身は?」

「ペアのマグカップだよ。仲良くしてね、義兄さん・・・義姉さん」

「・・・クロノくんが昔“お兄ちゃん”と言われて悶えていた理由が解かったよ、あた
し」

「人聞きの悪いことを言うな。・・・・・・ん?」

「どしたの、義兄さん?」

「フェイト、もう1セットあるみたいだが・・・」

「あ、あの、それは、その・・・!」

「そういえば海鳴デパートで『ウエディングキャンペーン』とかやってたっけ。

たしか結婚祝いの品物をカップルで購入したらもう一組プレゼント・・・クロノく
ん?」

「・・・誰だ?誰と買い物してきたんだフェイト?」

「え、あの、その、義兄さん・・・?」

「誰だ?」

「ユ、ユーノです・・・」

「・・・あぁ、ユーノか、ちょっと今から話があるんだが」

「ちょ、クロノくん!?なぜデュランダルとS2Uを構えるの!?」

「やめてー!!逃げてユーノー!!」

フェイトの叫びも虚しく、明朝・本局訓練室の一室が崩壊した。


















あとがきというか言い訳。

ごめんなさい。初SSが支離滅裂かつ超中途半端。
あれ、これ別にフェイトじゃなくても良くね?
これユノフェ応援SSだよな、俺?
死ねる・・・こんなダメ野郎ですが、今後ともよろしくお願いします。





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