〜巨槌と鋼の右手〜



「・・・ったく、こうもうじゃうじゃ出てくると流石に面倒だな!!」

「あーんもー!!いい加減にしてほしいよー!!」

赤いゴシックロリータ調のドレス染みた服に身を包み、服と同じく赤い髪を二房の三
つ編みにして結ってある。
幼児とさえ言える様な小柄な身体には不釣合い極まりない鉄の槌を持った少女が口悪
く悪態を吐く。
その少女の声に答えるのもまた少女。
青いホットパンツと腹部を晒す黒地に青いラインの入ったシャツに白いジャケットを
羽織り腰からプレート付きのロングコートの裾がはためいていて、藍色の髪はショー
トカットで鉢巻のようなリボンが風に揺れている。
膝間接にはサポーターを付けており、蒼い宝石をあしらったローラーブーツを履いて
いるが、何よりも印象的なのは右手に装着された無骨な鋼の拳だった。

赤い少女の名は八神ヴィータ。
蒼い少女の名はスバル・ナカジマ。

二人は本来、さる部隊の分隊の副隊長と部下の間柄である。
事実、現在は仕事中だった。イレギュラーな状況ではあったが。

話は少し遡る。
最近では日常茶飯事になりつつある、
ロストロギアに釣られて出現したガジェットドローンの撃退、或いは破壊任務。

スターズ、ライトニングの両分隊は今日もまたその仕事に出向いていて。
途中まではよかったのだ。

いきなりなんの前触れも無く残骸から転送魔法なんてものが発動されなければ。

そうして真近に居たヴィータとスバルの二人は巻き込まれ、深い樹海に飛ばされて。

樹海の中から溢れんばかりに出てくるガジェットドローン、やむなく撃退する二人。

まさしく千切っては投げ、千切っては投げの展開を繰り返し、今に至る。

すでに二人の足元には十や二十で利くような数ではない残骸が堆く積まれているにも
関わらず、まだまだ沸いて出てくるガジェットドローン。
本当に限が無い。あちらは疲労なんてものは無いだろうが、こちらにはあるのだ。
いつかは限界が来てしまう。
それまでになんとか逃げるか、元を叩くかしないと拙い。

その時である。

『スターズ2、並びにスターズ3!聞こえますか!?』

二人の頭に直接響く女性の声。
それは任務の度に彼女から説明を受ける者たちにとっては、とても聞き慣れた声。

「シャーリーか!?」

『はい!ご無事ですか!?』

「大丈夫です・・・けどなんとかしてくださーい!!」

半分泣きそうな、情けない声を上げるスバル。
それを助長するかのように、厳しい一言がオペレーターから告げられる。

『今救援が向かっていますけど・・・もう少しかかります!』

その声に反応したのは、情けない声を上げるスバルではなくて。

「・・・おいシャーリー、アタシのリミッター外せるか?」

酷く落ち着いた、ヴィータの声だった。
そしてヴィータの言った言葉の意味を理解したシャーリーは、その権利を握った人物
へと向き直る。
司令室の中央デスクに座る、機動六課部隊長・八神はやてへと。

『スターズ2、リミッター解除要請しています』

厳かに告げるシャーリーの声が通信越しにも伝わる。
そして、はやてはすぐに答えた。

『聞こえるかーヴィータ?』

ちゃんと繋がっているかを確認するかのような、割と暢気な声。
普段なら偉い人にお小言でも貰いそうな声だが、今の状況でその声は安心感を与えて
くれる。

「うん、聞こえるよはやて」

応える紅い少女の声は、自然に落ち着いていた。
その様子が分かったのか、はやてはついさっきとは裏腹に厳しさを含んだ声で告げ
る。

『・・・今の状態でリミッター外しても、制御だけで魔力全部持ってかれるで?』

長々と戦い続けていた結果が、直接告げられる。
ヴィータ曰く『まだまだひよっこ』なフロントアタッカーと二人で休憩も無しに戦い
続けていたから。
もう自身が持ちうる残存魔力もカートリッジも底をつきかけている。
今の状態で最大出力を行使しようと思えば、身体のほうが持たないのは少女自身が分
かりきっていた。
けれど、紅い少女は穏やかに言う。

「それだけ出来りゃ十分。後は・・・」

自分は一人ではないからだ。
隣には涙目の情けない姿の蒼い少女。
『まだまだひよっこ』だ。
戦場での知識も、実戦の経験も、戦において必要な何もかもが不足している雛だ。
けれど、信じられる部下なのだ、ヴィータにとっては。
だからこそ、ヴィータは絶対の自信を持って、託すのだ。

「お前がやれ。いいな?」

自分たちの命運を。

「・・・了解!!」

蒼い少女は一瞬呆気に取られながらも、すぐに強く頷いた。
それを確認したヴィータは、威勢のいい声で告げた。

「よっしゃあっ!はやて!!」

『・・・了解や!』

その声と同時に、互いに通信を一旦切り離す。
その時の八神はやての表情に、迷いは無かった。

「スターズ2、リミッター解除承認や!!」

そういってはやては懐からカードを取り出す。
薄いカードだ。そこから割って出てくるかのように、金の鍵が一つ突き出す。
その鍵は、文字通り勝利への鍵だ。
はやては鍵をデスクの中心に穿たれた鍵穴へと突き刺し、回した。
応えるのは、オペレーター席に座ったシャーリー。
彼女もまた、懐からカードキーを取り出す。
目に映るのは、細長いカードスロット。
その頭頂部に、カードキーを宛がう。

「了解!グラーフアイゼン!セーフティデバイス、リリーヴッ!!」

宣誓のような声と共に、カードスロットを勢いよく通過していくカード。
それは、リミッタープログラムの解除のための、最後のロックだ。
自らの束縛を解除されたのを感じた紅い少女は、獣のような声で相棒を呼ぶ。

「アイゼンッ!!」

『Explosion!!GigantForm!!』

勢いよく排出されるカートリッジ、爆発的に膨れ上がる魔力。
そして、鋼の槌は、巨大な鉄槌として再構築される。

「轟、天、爆砕!!」

持ち主である紅い少女の何倍も大きな巨槌。
其の魔法の名は、ギガント・シュラーク。
巨人の振るうに相応しい巨大な鋼の鉄槌は、小さな少女の意のままに振り上げられ
て。

「スバル!アタシは制御だけで手一杯だ。後はお前がぶち当てろ!!いいな!?」

そう。紅い少女はもう制御だけしか出来ないほど弱っている。
だからこそ、蒼の少女は言うのだ。

「・・・はいっ!!」

蒼の少女の力強い肯きに、紅い少女は満足そうに頷いて。
その小さな手に握った鉄槌を、空高く放り上げた。

「さぁ、やれスバル!」

紅い少女は叫ぶ。
全幅の信頼を蒼い部下に託して、強く。

「ハンマーァァァ・コネクトオォッ!!」

蒼い少女も叫ぶ。
紅い上司の期待に応えるべく、雄雄しく。

ガシャン、というカートリッジの俳莢音の音。
右手のリボルバーからカートリッジが宙に躍り出る。
同時に蒼い少女の全身に漲る、力強い魔力の波動。
ガチン、と歯車がしっかりと噛み合ったような高く強い音。
ソレは、蒼の少女の鋼の右手に、紅い少女の鋼の鉄槌がしっかりと握られた音だっ
た。

『Verbindung.(接続)』

響くのは、鋼の鉄槌の力強い言葉と、

『Conmplate.(完了)』

音速の剣が発する、安心感に満たされた声だ。
そして紅い少女から力を継いだ蒼の少女は叫ぶ。

「ギガントォ、アイゼエエェェェンッ!!」

掲げた巨大な鉄槌は真紅と蒼の閃光を放って、握った少女は威風堂々と佇む。
そして雄雄しく、強く、逞しくその鉄槌を振り上げる少女。
高らかに告げるのは、目の前に群がる機械どもに対するトドメの一言だ。

「ガジェットドローン!お前ら全部纏めて、光になれええええぇぇえぇっ!!!」

今、裁きの鉄槌が下される――――――!!



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「っていう夢を見たんですけどね?」
「・・・少し頭を冷やそうか」
「あ、いやぁなのはさん、ちょっと待ってくださいよ冗談ですよ冗談・・・あ、いや、
やめ、まっ、あ、アッーーー!!」

初夏の日差しの下、冷めた表情で桜の砲撃を撃ち続ける隊長と必死の形相で逃げ回る
フロントアタッカー。

「・・・馬鹿だな、アイツ」
「全くですよね・・・あっ、アタリだ」
「え、マジか?」

初夏の日差しの下、溶けかけたアイスを舐める副隊長とアタリ棒を珍しそうに見るセ
ンターガードであった。

あぁ、今日もスターズは平和である。






懺悔部屋。

馬鹿なのは俺です。
なんとなくやってみたかったんです。
ガッガッガッガ、ガーオガーイガー!!





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