隠せぬ苛立ちと、立ち尽くす自分を見詰め直す。

迷いながら、悩みながら、悔やみながら、僕は決める。

キミがくれた、優しい言葉を一つだけ胸に秘めて。

たったそれ一つで、戸惑いは消え去って。

空っぽだった、僕の心に光が射したんだ。

見上げた大空が蒼く澄み切っていく。

閉ざした心の窓を開くことを決めた。

自分を、世界さえも変えてしまえそうな。

瞬間はいつも直ぐ傍に感じられる。

柔らかな光へと手を伸ばして。

心を吹き抜け、香るのは祝福の風。

眼に映るのは、優しいキミの空の色。






人の繋がりがもたらす出会い・アフター
ROUTE2・はやてルート
〜愛しさと優しさと〜






「はやて・・・」

ゆっくりとした足取りで近づいてきて、はやては僕と同じようにフェンスに凭れ掛かる。
互いの距離は一メートルあるか無いかのそんな近くも遠くも無い、微妙な距離。
特に何も無い、近くも遠くも無い互いの距離が、何処か安心できるのは何故だろうか。

「えらい辛気臭い顔やな、ユーノくん。それやと心配してくれ、って言っとるようなもんやで?」

きっちりと陸士の制服に身を包んだ幼馴染の彼女は、ちょっとだけ不機嫌そうな声で僕に告げる。

「・・・そんなに酷い顔してるかい?」

僕自身にはあまり実感が湧かないのだけれど、他人の心に対してすごく敏感な彼女は至極あっさりと頷く。

「詳しいことは知らへんけど、何か悩んでるってことくらいなら一発で分かるで」

そんなに分かりやすい顔を、僕はしていたのだろうか。
だとすると、随分と気を抜いてしまっているものだと思う。
今まで彼女らに迷惑をかけまいと、いつだって平気な顔をした仮面を被ってきたというのに。
意外に脆い仮面だったらしい。
一人でそんなくだらないことを考えていると、はやてが口を開いた。

「・・・あん時のことでも、考えとった?」

唐突に掛けられたはやての声は、何処か不甲斐無さが滲んだ声で。
僕には彼女の言う『あの時』が最初、何を指しているのか分からなかったけど、一つだけ思い当たる節があった。

――――――まさか。

「・・・なんのことかな?」
「普段は鉄面皮やけど、こういう嘘は下手なんやな、ユーノくん。とぼけんでええよ。もう全部知っとるから」


私らが考え無しやったせいで、周りの人間に陰湿な嫌がらせ受けとったこと、な。


うっすらと悔しさが滲んだ彼女の言葉に、嘘を感じることはできなくて。
本当にもう知られているんだな、という一種の絶望感があった。

「・・・いったいいつからだい?」
「この前のユーノくんのお見合いん時、な・・・こっそり覗いとって・・・リンディさんが話してくれてん」

―――まったく、どうして彼女はこうも御転婆というか、なんというか。
全く、知られたくなかった秘密を、知られてしまったモノだ。

「いや、アレはもう関係無いよ。直に消えてくだろうし」

隠しても無駄だと悟った僕はしっかりと答えを返した。
アレはもう昔の話だ。
どうでもいいつまらないことで、くだらないやっかみを受けていた、なんてことは。
悪意に満ちていた根も葉もない噂も、根元から断ち切ったわけだし。
だからもう、アレは過去の話だ。

「・・・私はな」
「うん?」

ぽつりと呟くようにはやては言う。
其れは独り言のように、けれど語り掛けるようにして紡がれる、彼女自身の思いだ。

彼女は、心からの喜びと感謝の混じった、嬉しそうな顔をしていて。

「ユーノくんにはすっごい感謝しとる。ユーノくんがいろいろやってくれへんかったら今、此処にリインはおらへんだ。ユーノくんは私ら『家族』のために、ものすっごく頑張ってくれた」

そう言って、一旦大きく息を吐くはやて。
次に上げたときの表情は、どうしようもない怒りと情けなさが入り混じった、悔しそうな表情で。

「だからこそ、私はユーノくんがあんな理不尽な中傷を受けとんのに気付けへんだのが悔しいんよ」

普段の柔らかな印象を持つ空色の瞳が、今は鋭く尖って、僕を見据えている。
僕はその鋭い視線を、真っ向から受け止める。

はやては、多分僕の知ってる人の誰よりも他人に対して敏感な人だと思う。
温かくて優しい。陳腐で使い古された台詞かもしれないけど、彼女は確かにそうだと言える女性なんだ。

不意に、あのくだらない下世話な噂が囁かれていた時のことを思い出した。



――――――――――――――――――――――――――――――――――



若くて女というだけでなのはやフェイトたちを口汚く罵っていた馬鹿な連中が居た。
その中でも特にはやてたち八神一家に関する話は酷かった。
彼女たちが前科持ちだというだけで、やれアイツラは牢獄に送るべきだの裁いて永久追放したほうがいいだのと、つまらないことを言っていて、中には口にするのも躊躇われるような話もあった。
確かに彼女たちは罪を犯した。
けれど、もう十分に罰は受けて、償いもした。
管理局任務に従事し、数々の功績を上げてきた彼女たちのことを、何もせずに椅子に座って踏ん反り返っているだけの能無し共が口を出す権利など無かったはずなのに。
連中は何かに付けて彼女たちを糾弾し、胸糞の悪くなる悦に浸っていたのだ。
彼女らが担当した任務で怪我人が出れば、「アイツラは自分たちの身が可愛いが為に仲間を犠牲にした」だの、
彼女らに宛がわれた捜査が滞ってしまえば、「アイツラは壊すことしか能の無い兵器でしかない」だの、
本当に頭が悪いのでは無いかと疑いたくなるような話ばかり聞こえてきた。
まぁそんな悪い話も、彼女たちが着々と実績を重ねるに連れて少なくはなったが・・・

けど、もう一度だけ燃え上がったことがあった。
それは、あの娘が―――リインフォースUが―――生まれてから少し経ってからだった。

はやてに頼まれて、まだまだ不安定なリインフォースに必要なデータを(確か三日間くらい貫徹で)纏めていた僕の耳に入ってきたのは、こんな話だ。

「スクライア司書長は、まさしくパシリの鏡だな」
「エースたちの友達だとかいうけど、結局は本読んでるだけのヒッキーだしなぁ」
「もう三日連続で徹夜だぜ、司書長。脅されてんのか?」
「あんな犯罪者連中の仲間を増やすことなんて無いのに」
「人が良すぎるんじゃね?あんな犯罪者共にすら騙されてるんじゃ」

正直な話、僕にはどうでも良かった。
僕がみんなの中で最も地味なことは承知だったし、本を読んでるだけのヒッキーなのも自覚していたからだ。
ただ、僕を絡めて彼女たちを貶すことだけは、許せないと思った。
この事は僕の胸の内にのみ留めて置こうとしたのだが・・・
間の悪いことに、僕の隣には偶然やって来ていたヴィータが居たのだ。
彼女は何も気付かなかったようにして普通に振舞ってはいたが、その動きがぎこちなかったのは明らかだった。

翌日、僕を絡めた彼女たち・・・主にヴォルケンリッターの面々と、それに追従するような僕に対する下世話な噂は激化していた。

曰く「脅迫が得意なプログラムども」
曰く「スクライア司書長は八神の便利屋」
曰く「ヴォルケンリッターの腰巾着」
曰く「近い将来、犯罪の片棒を担ぐことが目に見える」

便利屋?腰巾着?上等じゃないか。
それは誰かに必要とされているということなのだから。
お前らのように何もせずに給料泥棒してるわけじゃないんだから。
けど、脅迫が得意、犯罪の片棒を担ぐ、だと?
コレは流石に酷い、と思った。
もう彼女らは昔の彼女らとは違う。
優しい、誰かを思い遣る事のできる温かいヒトなんだ。
彼女たちは、もう見つけたから。
自分たちの一番大切なモノを。
優しい、家族思いのあの子を。
そう、僕は秘かに思っていた。

三日後、ヴィータが僕に対して不器用な土下座までして、謝りに来て。
なんでも、この間の話の元を独自に嗅ぎ付けたヴィータ自身が、脅しをかけたらしい。
本人は「コレでもう馬鹿なこと言う奴はいなくなるだろう」と思ったらしいのだが。
んで結果。噂は静まるどころか激化していて。

「ゴメン!あたしが勝手なことしたばっかりに・・・!」

滅多に見られないだろう、ヴィータは涙すら浮かべていた。

「駄目だよヴィータ。僕の事でいざこざなんて、あんなの放っておけばいいんだから」

そう、優しく言い聞かせていながら、彼女たちを貶めすような内容の話に、そして本当なら彼女の涙を見ることなど無かった筈だろうと考えて。
すごく嫌だった。
僕なんかのせいで、本当は誰より優しい彼女たちが悲しんだりするのなんて、見たくなかったから。
彼女たちの主が、辛い目に遭うのが嫌だったから。
僕は心がどす黒く染まっていくのを感じていて。

後日、話の根源は断ち切るどころか根絶やしにしておいた。
まぁ、次の月くらいに、管理局のお偉いさん数名が不祥事発覚でクビにされた、とだけ言っておこう。



――――――――――――――――――――――――――――――――――



・・・・・・昔の話だ。

もうあんな汚くて悪意に満ちた噂は、既に風前の灯状態にまでなった。
あと半年くらい経てば、その火は消えてなくなるだろうと思う程度には。

「もう、昔のことだよ」

そう言って、僕ははやてに向かって微笑した。
一瞬だけ驚いたような表情を見せて、それはすぐにくすぐったそうな表情に変わって、はやては柔らかな笑みを浮かべた。

―――心が落ち着く。
彼女のこんな表情が、僕は好きだった。
無条件に安心感を与えてくれる、慈母のような笑みは『家族』というモノに渇いている僕に潤いをくれる気がする。

静かで柔らかな風が吹き抜ける、穏やかで静かな時間が流れて。

「あんな・・・」
「うん?」

それは風でも吹いたら攫われてしまいそうなほど、小さな呟き。
けれど、その声は風に攫われる事無く、僕の耳にしっかりと届いて。
彼女は、僕をしっかりと見据えている。

「私は、ユーノくんのこと、さ・・・」

若干言いづらそうに、恥ずかしそうに口篭る彼女の頬は、少しだけ赤みが射している。
その赤は、朱金の輝く夕日とか、水に反射した光のせいとかじゃなくて。

「『家族』やって、思っとる・・・リインは私の大事な『娘』や」

ほんの少し、恥ずかしげに。
けれどとても、誇らしげに。

「ユーノくんは、リインが生まれるために一番手を貸してくれた・・・ううん、私の次くらいに当事者やった」

それは、そうかもしれない。
リインフォースが生まれる最初から最後まで、ずっと僕は関わっていた。

―――あぁ、そうだ。

あの頃はずっと、彼女のコトばかり見ていた。

彼女が不安そうな顔をするたびに、僕は彼女を励まして。

彼女が安心したような表情を浮かべると、僕まで安心できて。

彼女が悲しそうな顔をするたびに、僕は彼女を慰めて。

彼女が嬉しそうな表情を浮かべると、僕まで嬉しくなって。

八年前、一番僕と彼女の距離が近かった、あの頃。

そして今、彼女の治める機動六課で、僕は彼女を見ていて。

彼女の楽しそうな笑顔が、ずっと僕の頭に焼き付いていて。

彼女の『家族』が、生き生きとした姿をしているのを見て、心がすごく温かくなったのを覚えている。

「誰がなんと言おうと、ユーノくんはリインの『お父さん』やから」

この僕が、エゴイズムに塗れた自分勝手な僕が。
『父親』などという、そんな重責を背負って、これ以上進めるのだろうか。
胸が熱いナニカで満たされて、溢れてくるのを感じる。

「だから、私はユーノくんのこと、『家族』やって思っとる」

そう言ってから、はやては少しだけ顔を俯けて。

「・・・ううん、ちゃうな・・・」

その時に僅かに動いた唇の動きは、否定の言葉。
次に顔を上げたときは、はっきりと頬を赤く染めて、こう告げた。

「・・・異性として好きやから・・・私らの『本当の家族』になってほしい」



―――その言葉はきっと、

―――僕自身が一番欲しかったモノだったのかもしれないし、

―――僕自身が一番贈りたかったモノだったのかもしれない。



そのことに思い当たって、ようやく解った。
僕は、はやてのことを『家族』として考えたいのだと。

どれぐらいの時間が経ったのだろう。
気が付けば、朱金の夕日はその姿を暗い海の底に隠して、天には半分の月が冷たく輝いていて。

気が付けば、僕とはやての距離は、さっきよりもずっと近くなっていた。

手を伸ばせばすぐに触れ合えそうな、そんな距離。
僕は彼女の眼を見ていて、彼女は僕の眼を見ていて。

「・・・今のはプロポーズ、ってやつかな?」
「えっ、あっ、あ、いや、その、ええっとやな・・・!!」

夜の闇の中でなお赤いと分かるはやての顔。
なんだか可笑しくて、つい零れてしまう言葉に、はやては耳まで真っ赤に染めて言葉にならない言葉を重ねる。
まだ僕たちは恋人とか、そんな甘い関係じゃないのに、いきなりコレは飛躍が過ぎるとは思う。

でもさ、はやて。

「そういうのってさ・・・」

そっと、手を伸ばす。
行き先は、彼女の真っ赤に染まった、ふっくらと柔らかそうな頬。

「えっ・・・?」

いきなり触れられたからなのか、不意に上がった彼女の声には戸惑いと驚きが滲んでいて。
僕はそれを意に介さずに、彼女の頬に滑らせるようにして手を這わせる。
掌に伝わる感触は思ったとおりとても柔らかで、小さくて。

「僕の方から、言うモノじゃないのかな?」

―――たまらなく愛しかった。

「それ、って・・・」

彼女の言わんとすることは分かる。
あぁ、なんか今更だけど顔が熱くなってきたかもしれない。
多分今の僕の顔は鏡で見たら朱が射しているに違いない。

「流石に、話は飛躍し過ぎだとは思うけど・・・心の何処かで、僕はキミと『家族』になりたい、って思ってる」

はっきりと告げる。
僕自身が心の奥でずっと抱いていた欲望と背中合わせの願望を。
『家族』に飢えていた僕を、唯一満たしてくれるであろう願いを。

僕はずっと、はやてを通して『家族』というものに憧れていた。

10年前に一族から放逐が決まった時・・・それまでの『スクライア』っていう『家族』を自分から棄てた僕は、例え血の繋がりが無くても円満な『家族』をやっているはやてが羨ましかったのだ。
その気持ちはみんなにはずっと、ずっと黙ってきたことだ。
僕自身の自分勝手な考えだったし、仕事や学校で忙しかったみんなに心配をかけたくなかったから。
でも、一番大きかったのはやはりはやての存在だったのだと、今は思う。
こんな気持ちを知られたら、きっと彼女は黙ってないと思ったから。
僕が『スクライア』という『家族』を失った一方で、彼女は新たな『家族』を得ていたのだから。
それを知られれば、きっとどんな手段を用いても、彼女は、彼女の『家族』が、僕に手を差し伸べてくると思ったから。
優しい彼女は、絶対にそうしただろうと思うから。
正直、それは僕が望んでいたことでもあったけれど、やっぱりダメだった。
もしも、僕がその手を取ってしまったら、きっと、彼女の夢の足枷になってしまっただろうから。
もう、誰かのお荷物になるのは嫌だったから。

――――――いや、やめよう。

もう、頭で考えるのは止めよう。
今はただ、僕が望むまま、願うままに行動しよう。

――――――答えは得た。

「ぁっ・・・」

抱き寄せたはやての身体は、僕よりもずっと小さい。
けど、はやての精神は、きっと誰よりも広く大きいんだろう。

「ユーノくん・・・」

もごもごと、少しだけくぐもった声が僕の腕の中から上がる。
いきなり抱き締められたというのに、はやては割と落ち着いているらしい。
ともすると、むしろ安心していると言ってしまってもいいぐらい。
その証拠に、はやての声には戸惑いとか拒絶とか、そういう否定のモノを感じられなくて。

「改めて言うよ」
「ん・・・」

すぅ、と深呼吸。
少しの緊張と多くの恥ずかしさで早くなった鼓動が、身体に熱い血を送る。
その熱がはやての柔らかな熱と合わさって、僕の身体はさらに熱くなる。
そのことが、身体が酷く落ち着かせ、同時に心を酷く落ち着かなくさせる。
それでも、言う。
ゆっくりと、一語一語を語り聞かせるように。

「僕は、キミと、『本当の家族』に、なりたい」

抱き締める僕の腕に力が篭る。
抱き締めてくる彼女の腕に力が篭る。

それだけだ。
たったそれだけで、いいのだ。

今はただ、出来たばかりの『家族』の温もりに触れていたいから。

小さくて、大きくて、包んでいるような、包まれているような。
そんな不思議な温かさと柔らかさがあれば、それでいい。
半分の月に照らされて、僕とはやてはずっと、互いを抱き締め続けた。

それは1分だったのかもしれないし、10分だったのかもしれない。
正確な時間など、知る由も無い。
ただ、腕の中の彼女の温もりだけが、確かなものだった。

「んっ・・・」

腕の中で彼女が動く。
僕の胸に顔を埋めるように頬を寄せていた彼女の顔が上がる。
ぶつかり合った互いの視線に映るのは、大切な人。

もう、言葉は要らなかった。

顔が熱くなるのを自覚しながら、僕はそっと彼女に顔を近づける。
彼女もまた、少しだけ背伸びをして、頬を朱に染めながら顔を寄せる。

あと10センチ。

心臓の鼓動が早く、速く、迅くなっていく。
それはとても心地良く、とても激しい血の巡り。

あと5センチ。

密着した互いの衣服越しに、温かな熱が伝わる。
それはとても穏やかで、とても静かな命の温もり。

あと3センチ。

彼女の甘く、灼けてしまいそうに熱い吐息が顔に触れる。
それは掛け替えの無い、世界で一つだけの大切なキミの熱。

あと1センチ。

たったそれだけの距離。
もう一秒もいらないだろう、ゆっくりと彼女の唇に僕の唇が重なる―――はずだった。

「ユーノさーん?はやてちゃーん?」

「「うわあああああああああっ!!!?」」

突如横合いから掛けられた声に、僕とはやては見事に仰け反った。
それはもう素晴らしい具合のユニゾンでだ。
見られた、見られた!?
酷く顔が熱い。
きっと今の僕の顔は羞恥のせいで真っ赤に染まっているに違いない。
そんなことを自覚しながら、僕は声のした方を振り返る。

其処に居たのは―――

「・・・お二人とも、びっくりしすぎです」

ぷかぷかと浮遊する、小さな少女で。

「リイ、ン・・・?」
「はい、リインです」

やれやれ、と言わんばかりに肩を竦めてみせるリイン。

「仲がいいのは良いことですけど、ちょっとは考えてくださいよー」
「あ、ぇあ・・・」

全く持って呂律の回っていない腕の中の彼女。
うん、まぁ気持ちは分かる。
自分の娘に等しい存在にこんなシーンを目撃されれば固まって当然だ。

「まぁいいです。はやてちゃんがユーノさんのこと好きなのはみーんな知ってましたしねー」

何処となく聞き捨てなら無い言葉を、さらっとなんでもなさそうに言い切る目の前の少女は笑みを浮かべている。
例えるなら、太陽のような朗らかな笑み。
だがその笑みは、僕と視線が交わった途端、その明るい姿を潜めてしまった。
いったい、どうしたというのだろうか?

「さっきは、すみませんでした」

唐突に、頭を深々と下げて謝罪の言葉を紡ぐリイン。
だが僕は、いきなり謝られる理由があったかと思案している。
腕の中のはやてからも怪訝そうな視線が突き刺さるが、僕自身にも解らない問題故に応えようが無い。
だが、行き着く先の見当たらぬ少女の問いに対する答えは、少女自身の口から告げられた。

「いきなり『おとうさん』って呼んでもいいか、なんて。変なこと言っちゃって。ご迷惑でしたよね・・・?」

そこでようやく合点がいった。
昼過ぎに交わされた、リインのあの言葉がリフレインする。


――『おとうさん』って呼んでみてもいいですか?――


あの時の僕は、ただその言葉に戸惑ってばかりで、逃げ出した。

―――けれど、もう今は違う。

もう、迷いも悩みも無い。

「リイン」
「・・・はい?なんですかユーノさん」

つい、と僕の目の前に滑るように浮かぶリイン。
僕はそんな彼女の頭に優しく手を乗せて、告げた。

「―――いいよ。『おとうさん』で」


キミは、僕とはやての、大切な『娘』だから。


「あっ、なら私もいっぺん『おかあさん』って呼んでみてくれへん?」

なんだかちゃっかりと付け足しているはやて。
それがなんだか可笑しくて、自然に頬が緩んで笑みを作る。


僕は目の前の『娘』に笑いかける。
はやても、同じように『娘』に笑顔を向ける。
僕らの『娘』は、驚いたような顔をした後―――



「―――はいっ、『おとうさん』、『おかあさん』!!」



僕とはやての間に、うっすらと涙を浮かべながら飛び込んできた。






手を繋いで歩く。

半分の月に照らされながら、三人で歩く。

『娘』の右手を、『父親』は左手で握る。

『娘』の左手を、『母親』は右手で握る。

手に小さな温もりを感じながら、歩いていく。

それはきっと、何処にでもある幸せ。

『家族』という名の、一つの幸せ。

僕が手に入れた、『本当の家族』。






Hayate Route FAMILY END


――――――――――――――――――――――――――――――――――

懺悔部屋。

展開の無茶苦茶加減は相変わらずです。
そして絶対に日本語がおかしいです。
途中でネタが尽きちゃったせいで中途半端だよ。
終わり方もなんか変だよ。
アレか。二回も嘘予告なんかで力使ったからか。すみませんでした。

本編は糖分も控えめだよ。でもね。

おまけがあるんだ。
若干エロイと思います。



見たい方はスクロールで。































――おまけ――



あれ?とはやては思った。
自分は今、夜空に浮かぶ半月の光だけが光源の青白い居室のベッドの上で、何も着ていない。
横に居るユーノはまだ完全に服を脱ぎきってはいないが、

「・・・なんで、こんなことに?」

二人でリインと手を繋いで部屋に戻り、自分とリインが寝巻きに着替えた後で半ば添い寝(いや、川の字?)するような形でベッドに倒れこんだのが悪かった。
慣れない状況下での睡眠に対する耐性はある程度持っていたと思ったが、今回はアウトだったらしい。
浅い眠りに眼を覚まし、気が付けばリインが居らず、置手紙のような形でメッセージが一つ。

『おやすみなさい、おとうさん、おかあさん』

と、かなり意味深な内容の文書があった。
取り様によってはなんだが、とてつもなくアレな感じが漂う。
・・・・・・いや、まぁ現在の状況から見てもアレだけれど。

「ま、大丈夫だよはやて。悪いことにはならないだろうから」
「というか、なんで私だけ先に脱いでるん?」
「―――枚数の少ない寝巻きだからじゃない?」
「今の間はなんなんやっ!?」

納得がいかないと思うのと同時に、どこかで納得もしつつ、本当に大丈夫なんだろうかと思う。

「あ、あんなっ?」

少しだけ、考える。
思えば彼とはかなり飛躍した会話を行なっていた気がする、というか確実にした。
そのことについて、少し話をしたいと思って、

「ちょっと話そうか?」
「・・・先に言わんといてよ」

むっとして頬を膨らませるけど、その頬はすこしだけ赤い。
対照的に、ユーノは涼しい表情で横に寄り添ってくる。
はやては条件反射でシーツを寄せて身を隠すようにするが、

「んむっ・・・」

ユーノはソレを完全に無視した上で、はやてとユーノの唇が重なる。
しばらくそのままで居て、やがて艶を含んだ湿りが熱い吐息と共に離れて、身体と頬の熱が急激に上昇して引かなくなる。
ほう、と安堵の息を吐き、脚をもぞりと動かす。
細い脚が触れたのは、ユーノの意外に引き締まった身体だ。
そんな彼の身体を両の膝で淡く挟みながら腰の位置を整える。

「あ、あんな・・・?」

自分でもかなりテンパっているのが分かる。
今日の自分はどうかしている、と思いながらも口は止まらない。

「私、初めてやから・・・その、優しくな?」
「安心しなよ、はやて。僕もだから」

朗らかな笑顔と共に告げられるユーノの言葉に、そっか、と思わず頷いたが、

「―――って、あかんやん!?」

ごもっともである。
だがはやての魂の叫びも何処吹く風、といった調子でユーノは身を寄せる。
腰に手を回して抱き寄せ、後頭部をしっかりと支えて深く口付ける。

「んふ・・・はぁっ・・・あむ・・・」

鼓動が跳ね上がると同時、額からじわりと汗が滲んでくる。
自分に覆いかぶさる彼の肌の熱と、長い髪の触れるくすぐったさが、なんだか心地良い。
自分の意思とは裏腹に、身体の力が抜けていく。
そのまま溶け落ちてしまいそうだ、とありえないことを考えてしまった不安から彼の首と背に手を回してしがみつく。
直に触れる彼の熱は、酷く熱く、昂ぶっている。
熱に浮かされた思考が蕩けて定まらない。
身体の力はますます抜けていって、ベッドに沈み込んでいく。
一緒に沈み込んだ彼の身体は、ぴったりと自分の身体に重なっていて、その熱が心地良い。
唇に触れる彼の優しさと柔らかさが、銀糸を引いて離れていく。
荒く艶のある吐息が、互いの口から知らず知らず漏れる。

「・・・僕たち、『本当の家族』になれるかな?」

不意に告げられる彼の言葉。
はやては迷う事無く首を縦に振って頷く。
笑みが浮かんだ彼の顔が、はやては安心感を与えてくれるのを感じる。

「・・・なれるよ、絶対。だって私とユーノくんやで?」
「・・・そっか。じゃあ少なくとも七人家族からなのかな?」

そういえばそうか、とはやては思う。
自分の家はもう既に六人家族だ。
お母さんが自分、娘にリイン、お姉さんがシグナム、シャマル、ヴィータの三人でペットにザフィーラ。
そこにお父さんの彼が加わって七人。
彼にとってはいきなり大家族だ。

「そうやね。大家族やな」

はやては笑って、ユーノも笑う。

「家族は失っても、忘れへんし、また手に入るモンなんやからな?」
「うん・・・今、すごくそう思ってる・・・それに―――」

ユーノははやての腰に回した腕に力を籠めて、強く抱き寄せる。
下腹部に当たる硬い熱は、はやての心と身体を同じように熱く昂ぶらせて。

「―――作るコトだって、出来るから」
「―――うん」

くちゅ、と粘質な水音を立てて彼の熱と自分の熱が重なる。
湿り気というよりも、既に潤った雫を湛えたはやての秘所は、彼を微かな痛みと共に受け入れ、そして――――――





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