『では、これより!アルカディアメイジ西地区代表大会決勝戦を行います!!』


その声とともに会場全体が揺れるような歓声が起こった。

アルカディアメイジはプレイヤーが仮想空間で魔法使いになり、
クリーチャーを従え、スペルを唱え、対戦相手を先に倒したほうが勝つゲームだ。

一定時間に供給される魔力を使って、手札のカードを使用。
または、蓄積して大呪文を使うかどうか考えさせる。


『その戦い方はまさに烈火の怒涛!亡国の騎士を従えるその男は!』


スモークから出てきたのは、
長めの黒の後ろ髪を小さく束ねた青年。


『【荒野の火陣】!リース・フィビラル!!』


デッキを持ってステージに上がると歓声がさらに膨れ上がってきた。


『対するのはなんと妹!司るのは天界騎士と水の力!』


反対側も同じようにスモークが噴出し、彼女の顔が見えてきた。
肩よりも長い白に近い金色の髪をなびかせた幼さの残る少女。


『【流氷の天使】リーシャ・フィビラル!!』


会場のボルテージが最高潮に達する。

向かい側のリィと目が合った。

その目は緊張こそしているが勝つ意思がハッキリと見て取れた。


『さぁ!興奮冷めやらぬうちに準備をどうぞ!』


促され、デッキをスキャナーに入れ、ポッドに入り、FD(フェイスディスプレイ)をかぶる。

すると、ポッドが閉まり、全ての音が聞こえなくなった。

聞こえるのはデッキを読み取っている機械音と。


『そっちはどう?兄さん』


義妹の声だけだ。


『やっと戦えるね』

「そうだな、負けるつもりはないからな」

『こっちこそ負けないよ』


会話に割り込んで読み込みの終了音が聞こえた。


『それじゃ、行くよ』


目の前が明るくなり、広い決闘場が現れた。



『「デュエルスタート!」』




会場が震えた。





                  0話      プロローグ





「残念だったな」


夕日が明るい大会の帰り道。
試合後の考察をするためいつもの店に向かう途中。


「どうしたの?」


理由を分かっているはずなのに聞き返してきた。


「先に【デュラハン】を引けてたら勝てたのに」


大会はリィの優勝。

切り札のカードを先に引かれ、負けてしまった。


「運も実力のうちですよ」


隣を歩く義妹がニコリと笑顔を見せた。

その笑顔を見れば10人が10人声をかけるなどをしてくるだろう。

無論、許さないが。


「あ、着いたよ」


いつの間にかいつもの店に着いていた。

大会後の今なら待ち構えている連中がいても不思議ではないが、
店の中からは人の気配がしない。


「まだ誰も戻ってきてないのかな」

「中に入って待ってましょ」


常連の人は勝手に入ることを許可されている。

店の人がいなくてもゲームを出来るようにするためだ。

鍵はなぜか開いている。

入ると、いつもは騒がしい店内だが、今日は薄暗く静か過ぎる。


「珍しい、機材も稼動してない」

「こんなこともあるんですね」

「やあ、こんにちは」

「「!」」


一番奥の席に女の人が座っていた。

ダークグレーの男物のスーツでショートカットの妖艶な雰囲気の女性が。


「驚かなくていいよ。
 それよりも、大会すごかったねー。」

「あなたは?」


リィを背に隠して聞く。


「ああ、そうだねぇ。
 ナハト、とでも呼んでよ」


スーツの女性―――ナハトが答えた。


「ナハトさん?」


鸚鵡返しにリーシャが聞いた。


「ああ、呼び捨てでかまわないよ」


艶やかさというか、不思議な怪しさがでている。


「それでね、キミタチ」


怪しさを醸し出しながら、聞き返してきた。


「次回バージョンのテストをしてみない?」

「「テスト?」」

「そう、テスト。
 さらにリアルさを追求したバージョンのテストをしてみない?」

「今ですか?」

「いいや、明日、この店でだよ。
 興味があるなら昼ごろにここに来てね」

「分かりました」

「それじゃ、今日も遅いから帰りなよ」


ほんの数分しか話してなかったはずなのに、
外は既に暗く、月が明るく輝いていた。


「そうしますよ」

「いい返事を期待するよ」


そう言い残して店を後にする。

これからの選択が全てを変えるとは気付かずに。
















「父さん母さん、行っちゃだめかな?」


家でのひと時にリィが聞いていた。


「私は構わないが、母さんはどうだ?」

「危険がなければいいけど?」

「あるはずがないよ、兄さんも行くんだし」


確かに危険なことはない。

あるはずがない。


「それじゃ、オッケーだね」


そう言って腕を引いて行く。


「明日の準備をしないといけないからおやすみなさい」


とたとたと、リーシャはリィの部屋に引きずり込まれていった。






残された父母は。


「仲のいい兄妹に育ってくれて良かったよ」

「そうね、血は繋がらなくてもね」


十数年前、長らく子を授からなかった二人は、一人の赤子を引き取った。

そして、一年後に実の娘を授かることができた。


「願わくばずっとね」

「ああ、そうだな」


ずっとこのまま、仲のいい家族のままで。



しかし、その願いは届かない。

















「はい、初めまして。チャリオット・レーゲナーです。
 チャーリーでいいよ」


店には常連が数人と白衣の開発者らしき男がいた。

少し見回したが昨日のナハトとかいう人の姿が見当たらない。


「すみません、ナハトって人は?」

「ナハト?う〜ん、そんな名前のはいなかったはずだけど?」


なぜ、あの女性がいないのか、知りたかったが今は。


「それじゃ、昨日の続きしよ。
 リベンジを受けてあげるよ」

「そうだな、最初にやってみるか」


そう言ってポッドの前に立つ。

周りの白衣の人たちの動きが活発になり、言葉が飛び交い始める。


「それじゃ、開始は今までと変わらないから始めてくれ」


いつも通りにFDをかぶり、セットする。


『ふふん、今日も負けないからね』

「こっちの台詞だ、今日は勝たせてもらう」


いつもよりも早く開始の音声が聞こえた。

感覚が広がっていく。


『あらかじめ言っておくが、痛覚は心配ない。
 触覚を感じるようになっているリアルさを感じてくれ』


触覚がプラスされていると言った。

今まで以上に感覚がリアルになっているのだろう。


『それでは、始めてくれ』


目の前に草原が広がり、風を肌で感じれた。






「はは、来たね」


ありえるはずのない第三者。

スーツの女性が見下ろしている。


「それじゃ、仕事といこうか」


右腕が、データとしての空に浸み込んでいく。

人ならざる者が自分よりも幼稚なシステムを書き換えていく。






最初の手札は初手としては悪くはない。

いつも通りにその中の一枚を選択する。


「早速行くよ、兄さん」


向かい合ったリィは青と白の装いで、軽装の甲冑を着ている。

自分もいつもの漆黒の軽装甲冑である。


「セット、サモン、【剣を執る天使】」

「セット、サモン、【亡国の槍騎兵】」


一体の天使がが出現する。

一体の騎士が出現する。


「「攻撃!!」」






おかしい。

なんだこれは?

なぜこれほど無駄なターンがないんだ?

どんなに上級者でも手が揃わなくて何も出来ない時があるはずなのに、

今、モニターに映っている二人の戦いには一切の無駄がない。

これではまるで――――――。


「レーゲナー主任!」

「どうした!?」

「感覚変換システムがこちらのコントロールを離れました!」

「な!!」


感覚変換システム、その名の通りゲーム内で起こった五感を実際に感じるようにしているシステムだ。

安全を考慮して痛覚だけは起きないようにしているが……………。


「シャットダウン!そして、一から立ち上げを!」

「……駄目です!こちらのコントロールを受け付けません!」


このままではプレイヤーに痛覚が起こってしまう。

擬似的な痛みでも現実の肉体にはどんな影響が起こるかわからない。


モニターには二人の戦いが映し出されている。

その戦い方はまるで――――――。






なんだ?

何だこの感覚は?

さっきから欲しいカードを引くことが出来る。

これはまるで!



鎧を着た天使が一体、三本の槍に貫かれて消滅した。

が、その三体の槍兵は巨大な氷の塊に圧し潰された。


氷が砕け、別の天使が突っ込んできた。



一閃。

背中を斬られた。



何だこの痛みは?



「セット、スペル、【紅蓮の嵐】!」


炎の嵐で全体を一掃する。


嵐が晴れたところには二人だけが立っていた。

顔を見合わせると次の手を同時に用意する。

互いの切り札。

最強クラスを。


「セット、サモン、来れ!天界騎士を束ねる者!【天使長レイグナント】!」

「セット、サモン、来れ!亡き国の総代騎士よ!【騎士団長デュラハン】!」


神々しさ、禍々しさを纏った騎士たちが現れる。


最後の激突が起こった。





























全てが白で埋め尽くされた病室。

規則正しい機械音だけが目の前のベッドで寝ている少女が生きていることを告げる。


病室の扉が開き両親が入ってきた。


「かあさ………」


パン、という乾いた音が病室に響いた。


「こんなことになるのだったら行かせなかったわよ」


その目は仇を見るような、怒りしか映っていない。


「原因不明の昏睡ですって、原因なんて分かっているじゃない」

「……かあ、さん?」


「うちの娘がこうなったのはあなたのせいなのよ!」


うちの娘?じゃあ自分は?


「父さん」


すがるように呼んだ父も昏々と眠り続けているリーシャを見ていてこちらを見ない。





この病室にいるのは一つの家族。

だが、自分の居場所ではなくなっている。












外は雨が冷たく降っていて、

雨の冷たさで外に出ていたことに気付いた。

仮想空間で受けた傷、存在するはずの無い現実の背中の傷。

血は流れていないが痛みが残っている。

しかし、背中の傷よりも母親だった人から受けた頬の熱さのほうが遥かに痛い。




自分の居場所は、あそこにはない。

なら、どこへ行けば?


「どうしたんだい?」


聞いたことのある声が聞こえた。


「家族と一緒にいなくて良いのかい?」

「……いらない………」


呟きは雨音に掻き消された。


「……もう…なにも、かぞくなんて」

「妹さんはどうするんだい?」


ビクリと体が震えた。

妹、リーシャ、なんで。

何であの時。

自分は………………。


















凄まじい激突だった。

上級カードのぶつかり合いで全てが吹き飛んだようだった。

次の手を。

突風の中でそのことしか頭になかった。

目の前の敵を倒す方法を。


「セット、アームド、【ブレイカーランス】」


あとは、この槍を突き立てるだけで。



そんなことが頭に浮かんで、駆けた。




ドズ、っと鈍い音がした。


目の前には胸部を貫かれた敵が、妹のリーシャの姿が。



「くくくっ、かっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは」


倒した、その高揚感だけが支配していた。


















なぜ自分はあのとき笑っていたんだ?

あのときの感覚。

まるで、まるで自分が本当の魔法使いになったかのような。


「助ける方法があるとしたらキミはどうする?」


その言葉に顔を上げた。

目の前の女性、ナハトは傘をささずに。

しかし、一切濡れずに。

かたわらで一冊の本が宙に浮いてる。


「一緒に来るかい?そうすればキミの望みはかなう」


手を差し出してきた。

その手は悪魔のものかもしれないが関係ない。


手を伸ばしてしっかりと握り返す。


「いいだろう、これで契約は完了だ」



灰色の光が足元で起きた。


















この世界から一人の罪人が消えた。




そして、別世界で魔力が奪われる事件が多発する。







はじめまして、リリなのssを書いてみたんですが、主役たちが一切出てきてませんね。
次の話からはちゃんとでるはずです。
プロローグなんで重要なキャラを。
あとのオリキャラは4人ほど……。
でわ、次もよろしく!





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