モニターにまた一つの報告が届く。

最近、何人もの魔導師が襲われ魔力を奪われている。

任務を終えて消耗した局員から休暇をとっていた局員。

さらには民間やフリーランスの魔導師までもが襲撃を受けている。

どの魔導師もランクA以上、犯人の技量の高さがうかがえる。

奪われた魔力の量も半分ほどだが、人数が人数だ。

管理局の一部では「闇の書」の再来との噂が出始めている。

全ての部隊には警戒を呼びかけているがそれすらも効果が出ていない。

先月から魔力を奪われた人数は三十人を超えている。

神出鬼没そんな言葉が似合う。

時間・タイミングが完全にランダムと言っていい。

これでは対処のしようが無い。

襲撃にあった人達の証言は、


―――武装局員ミッド式魔導師A
『任務が終わって一息ついたら結界が張られたんですよ。
 そうしたら、長剣を持ったやつが現れて、気付いたら医務室だったんです』

―――民間ミッド式魔導師B
『剣を持ったやつと対峙したんッス、けど、
 なんだか魔力の収束が悪くって溜めてる隙に一撃喰らってこのザマッス』

―――武装局員近代ベルカ式魔導師C
『常なら一発のカートリッジで済むんだが、その時は同じ魔法を使うのに二発。
 剣の使い方も妙で回転させながら斬りかかってきたな』

―――――――他。


そして、犯人を見た被害者達の犯人の姿は、

漆黒の軽装甲冑、身の丈以上の幅の狭い長剣、そして、


「……一冊の本…か」


全て同じ人物だと思うが、一人で行っているとは考えづらい。

なぜなら、あまりにも範囲が広すぎるからだ。

そして、特殊な魔力の収束を妨害する結界魔法・結界内での転送魔法。

一人で戦うにしてはバリエーションに富みすぎている魔法。

結界・転送、最低でも二人は仲間がいることになる。


慣れた動作で艦内の一室に通信をつなげる。


「クロノくん?また事件の報告が来たよ」

『こちらに送ってくれるか?エイミィ』


いつの間にか身長が追い越されていた幼馴染の提督殿。

あまりにも謎が多すぎるこの事件の対策を任されている。


『エイミィ、シグナム達に連絡はつくか?』

「おっなにか思いついたの?」

『これぐらいしか出来ない状況だがな』


それで通信が切れた。

クロノの声は常の状態よりも幾分か弱々しかった。










                  1話      ラクリモーサ










シトシトとずっと降り続けている梅雨の雨。

当たると冷たく、なぜか悲しい感じがして、まるで誰かが泣いているようで。


「なのは!」

「ふぇ!あっ何?アリサちゃん?」

「なにボーっとしてるのよ」


隣を歩く小学校からの親友のアリサ・バニングスにとがめられた。


「ちょっと、この雨がなんだか悲しい感じで誰かが泣いているのかなって」

「なんだか詩人みたいだね」

「あはは、そうかも」


アリサの隣を歩くのは同じく親友の月村すずかだ。


「それにしても、長いわよねこの雨もフェイト達の仕事も」

「うん、大変な事件みたいだからね」


いつもは一緒にいるフェイトとはやては今多発している魔導師襲撃事件のために飛び回っている。

かなりの数の魔導師が被害にあっていて、しかも、手がかりがほとんど無いらしい。


「なのはは大丈夫なの?」

「うん、なるべく武装局員の人は任務に出ないように言われているの」


任務後の局員の人が集中して狙われているらしく、武装局員には任務が回されないように手回しがなされているらしい。

ユーノ君も無限書庫にカンヅメ状態だし。


「あれ?あの人」

「どうしたの?すずか?」


横断歩道の向こう側には顔は見えないがおそらく同い年ぐらいの男の人が傘もささずに立っていた。

すれ違うときに見えた右腕には黒い手錠がつけられていた。

なんらかのファッションなのだろうか。



その後姿はあまりにも希薄でこの雨のように悲しそうだった。






















「アラストル」

≪なんだ≫


黒い手錠の青年、リースは手錠の先につながった剣の形をしたアクセサリーに話しかけた。


「さっきの娘」

≪ああ、かなりの魔力を持っている≫


一切感情のこもらない声、一月前からの彼の相棒だ。


『ナハト』

『はいよ、なんだい?』


音に出ない会話、念話でここにはいない、この世界に導いた女性に話しかける。


『魔導師がいた、今までもやつよりも遥かに強い、AAランクかそれ以上』

『へぇ、似てる世界だから休息に寄っただけなのに運がいいじゃん』


家の作り、街の雰囲気、どれも住んでいたところに似ていてすごしやすい。

違うところは機械、特にコンピューター関連の発展の差だろう。


『みんなをこっちに送ってくれ』

『それほど強いの?』

『そろそろ管理局も対策を思いつく頃だ』

『りょうかいりょうかい』


それで念話が終わった。


「アラストル」

≪なんだ≫

「さっき読んだこの世界の伝説とか伝承の本に君の名前があったよ」

≪ほぅ≫

「死の世界で罪人を裁く執行官らしいよ」

≪ほぅ≫

「君とは真逆だな、罪人と供にいる執行官か」

≪自嘲はよせ≫


窘められた。


「だけど、君がなんと言おうと俺は罪人で、だからこその手錠だよ」

≪………≫


たった一月の付き合いだが、思慮深く、感情を表に出さない相棒が黙ってしまった。


『ハローハロー、コチラソウイントウチャク』

『ふざけるな、ナハト』

『やだなー、ちょっとした冗談だよ』

この女性とも会ってから一月、あの雨の日からの覚悟。

全てを犠牲にしてでも望みを叶える。


『合流はどうする?』

『そっちに行くから待ってろ』

『リョーカーイ』






罪を重ね続ける、それは一つの望みのために。

リーシャを助ける。

そのためにはなにも、なにもいらない。















シトシトと降る雨はあの時に似ていた。



















「みんな、集まったな」


アースラの一室にシグナム、ヴィータ、そして、十人ほどの武装局員が集められていた。


「なあ、クロノ、こんなに集めて何しようってんだ」


ヴィータがそんなことを口にした。

おそらく、この場にいる全員が思っていることだろう。


「魔導師襲撃事件、なにか進展があったのか?」


ヴィータの隣に座るシグナムが期待しているが、


「何も進展は無い、先日も三人、魔力を奪われている」

「……そうか」

「今日、集まってもらったのは、犯人の目的・正体を知るために一つの対策のためだ」


局員達の中でざわめきが起こった。


「対策とはいえない対策だが、とらないよりはマシなことだ」

「それで、その対策は」

「全巡回中の艦艇全てに数人の魔導師を待機させる、それだけだ」

「しかし提督、それだけでは犯人を捕まえることは出来ないのではないでしょうか」


一人の武装局員が率直に聞いてきた。


「今回の目的の大部分は、被害者の証言で共通している本の確認することだ」

「本……ですか?」

「ああ、犯人の戦闘は完全に剣術と格闘だ。
 その本はロストロギアの可能性もある」


局員の間に動揺が走った。

ロストロギア、滅び去った世界の遺産。

ジュエルシードや、闇の書のように強大な力を持つが制御が極めて難しい、
または、完全に不可能な危険物。

それが今回の事件に関係している可能性があると言うのだ。


「対策というのはこうだ」


クロノの口から紡がれる。

結界を確認した艦艇で待機していた局員をすぐに結界内、
または、外に転送し、結界を破壊し、映像に本を残すものだ。


「これから、全ての魔導師に遭遇した場合、必ず回避と防御に専念するように通達を出す。
 ここに集まってもらったみんなはアースラ待機に………」

「クロノくん!」


突然のエイミィの声で場が止まった。


「結界を確認!場所は……地球!海鳴市!」


海鳴市、フェイトとはやては任務に着いている、ならば………


「狙いはなのはか………、シグナム!ヴィータ!先にトランスポーターで向かってくれ」

「「分かった!」」


そう言い、トランスポーターに向かっていった。


「みんなも戦闘準備!シグナム達が転送後順次海鳴市へ向かってくれ!」

「「「「「「了解!」」」」」」


結界が発動してからかなり時間が経っていると見てもいい。

時間の問題だと慌しく動く中でクロノは思った。


















摩天楼、雨に打たれているが、一切濡れることのない六人。


「ナハト、書は?」

「ここにあるよ」


何も無いはずの空間から取り出したのは一冊の本。

全てが深い黒だけの魔導書。


「今、どのあたり?」

「四割ほどかな」


魔力を与えて開いていくページ。

全てのページを開いたら望みがかなうと言われた。


「ケーファとネーベルは援護に来たやつの妨害」

「ああ」

「はい」


甲冑を着込んだ大男と青い法衣の女性がうなずいた。


「エルンストとケニーは周囲の警戒」

「わかりました」

「……はい」


フードを目深に被ったローブの男と黒と白のゴシックロリータの服の少女が答えた。


「ナハト、結界と書を」

「了解、行ってらっしゃい」


ナハトから書を渡される。


Hindernis kafig


灰色の三角形の魔方陣、ベルカ式の術が紡がれる。

この場を中心に結界が広がり外界と遮断する。


「アラストル」

Fliegen


アラストルの一言で体が浮き上がる。


「仕事を任せたよ」


返答は無かったが肯定ということだろう。



書を左手に持って高く飛び上がる。

目標のすれ違った少女の位置はつかんでいる。





管理局が手を打つ前に終わらせたいものだ。























「結界!?」

≪マスター、接近する魔力反応があります≫


レイジングハートが接敵を知らせる。

この結界を張ったのは今、魔導師を襲っている人に違いないだろう。


「レイジングハート、行くよ」

≪イエス、マスター≫




家から外に出るとすぐにその人と遭遇した。

右腕につけた黒い手錠が印象深かいさっきの男の人。


「あなた、さっきの」


歩道ですれ違った男の人。

この人が魔導師襲撃事件の………


「あなたが魔導師を襲っているの?」

「………」

「何でそんなことをするの!」

「……アラストル、スタンダップ」

右腕を前にかざすと、袖の中から剣の形をしたアクセサリーが出てきた。


(デバイス!)


Anlassen


一拍おいて現れたのは身の丈の二倍以上の刀身を持つ鍔の無い長剣。


「……甲冑を」


現れたのは漆黒の騎士甲冑に似た鎧だった。


「レイジングハートお願い!」

Stand by ready. Set up.


自らもバリアジャケットを生成する。










対峙するは奇しくも白の魔導師と、黒の剣士。













これが立ち止まることの出来ない剣士との最初の出会いだった。







読んでくれている人がいるとなぜか筆が進みますね。
あとがきに書くことが無いので出てきた魔法の説明でも(重要なの無しで)。

Fliegen
意味:飛翔
空を飛ぶための最初の魔法。
他に高速移動用の魔法もある。

Anlassen
意味:起動
魔法ではない。
デバイス起動時の掛け声のようなもの。


結界のほうは次当たりに書きます。
では。





BACK

inserted by FC2 system