風を切りながら飛び続ける。

向かっている場所では桜色の光がいくつも飛び回っている。

高町なのはが戦闘を行っているのは間違いが無い。

結界内に転送は出来たが、戦闘が行われている場所とはかなり離れている。


―――しかし、この結界は変だ。


シグナムは飛びながらそんなことを考えていた。

封鎖結界と同じ効力なのは間違いが無いが、変な感覚が場を支配している。


『ヴィータ、何か妙な感覚がしないか?』


念話での会話、少し後ろを飛ぶヴィータにもこの感覚があるかどうかを。


『シグナムもか、なんだかモヤモヤして気持ちわりーよ』

『まあいい、急ぐぞ』

『ああ、なのはばかりに戦わせておけるか』


さらにスピードを上げて飛ぶが、近づいてくる二つの人影。


『シグナム!』

『ああ!』


スピードを緩めて止まる。


「管理局だな」


視認できる距離に来ると鎧の男が声をかけてきた。


「お前たちは何者だ」

「私の名はケーファ、そして彼女が」

「ネーベルですよ、よろしく」


ケーファと名乗った鎧の大男は赤毛の短髪で体格が良い。

ネーベルと言った法衣の女性は青の髪と瞳、髪をウルフヘアにしている。


「そこを退いてもらおうか」

「私たちが名乗ったのだそちらも名乗るのが礼儀ではないのか?」


相変わらず敵意を向けてきてはいるが、それは正しい。


「それは失礼した、私は剣の騎士シグナムそして」

「・・・・・・鉄槌の騎士ヴィータだ」

「シグナム、ヴィータか」


確認をするように名前を復唱した。


「悪いが、ここを通す訳にはいかないのでな」


男が右手を前にかざす。

籠手に付いている装飾がよく見えた。


「行くぞ、テュルフィング!」

Zu befehl


飾りが光り、鞘に納まった剣が現れた。

形状は何の変哲も無いが、禍々しさだけは強い。


「強引だねぇ〜、まぁ、いいけど。行くよキューレヘルト」

Verstehen


ブレスレットを着けた左腕を払うように大きく振ると、その手には錫杖が握られている。


「剣の騎士よ、手合せ願おうか」


剣先をこちらに向けて、そう言い放った。

いつのまにか、敵意は殺気に変わっている。


「お前たちを倒さなければ先には進めないようだな」

「そゆこと、じゃあ私はこっちのお嬢ちゃんだね」

「だれがお嬢ちゃんだ!だれが!」


ヴィータのその発言でそちらを向く。

全員の視線が集中しているようで少したじろいだ。


「し、シグナムまでなんだよ」

「・・・・・・いや、なにも」

「いいよ、とっとと叩き潰してやるから!アイゼン!」

Raketenform


皮肉にも、それが激突の合図になった。










                  2話      フェスティナー・レンテ










「・・・・・・ドラウプニルどう?」


ドラウプニルと呼ばれた金色きんの腕輪の周りには翡翠色の環状魔法陣が回転している。


≪敵魔導師二名、ケーファ・ネーベル両名と交戦開始≫

「・・・・・・そう」

「そろそろ、私の出番ですかね」


と、コンクリートの屋上から五十cmほど、宙に浮かんでいるフードの男・エルンストが言った。


≪転移確認。魔導師五名≫

「やはり、私の出番ですね、転送お願いします」


翡翠色の球体がエルンストごと周りの空間を包む。


「・・・・・・転送」

Raum uebergang


球体が小さく、中央に集束してゆく。


「いってきま」


すよ、と言いたかったのだろうが言葉が切れた。


≪転移確認。魔導師五名≫

「・・・・・・・・・」


さらに五人追加、だが、こちらには切れる手札が既に無い。


≪敵魔導師、ナハトに接近≫


結界の基点を護っているナハト、もしも基点が破壊されたらこの結界が消えてしまう。

一応、そのことを告げておく。


「・・・・・・ナハト?」

『ん?なんだい?』

「・・・・・・そっちに五人」

『ん、りょうかいりょうかい』


短いやり取り、それだけで言いたかったことが分かったようだ。











全てがナハトの魔力光・灰色に染まっているセカイ。













なんとなく気に食わなかった。


















「隊長、総員転移確認しました」

「ああ」


アースラにいた武装局員十名を半分に分けた一隊が結界内に転送できた。


(……それにしてもなんだこの空間は)


一隊を任された彼はこの結界に違和感を感じていた。

灰色で満たされた空間。

何の変哲も無いはずだが……


「高町教官の下に急ぐぞ」

「「「「了解!」」」」


すぐさま飛び出そうとしたときに、


「すよ」


そんな変な単語が聞こえた。

全員、声のした方へ視線が向く。

そこには、翡翠色の光の残滓を舞わせた、フードを目深に被っていて顔は見えないが、ローブ姿の男がいた。

首から意匠の施されたペンダントを着けている。


「ああ、ちょうどいい場所でしたね」

「お前が魔導師襲撃事件の犯人か!」

「犯人…と言われたら違います。共犯者と言われたらそうです」


ならこいつも。


「ならば、魔導師襲撃事件の重要参考人として拘束させてもらう」

「拘束……ですか…、私の仕事は足止めなので少し動かないでいて貰いましょうか」

「なにを……」


おもむろにローブの男は右手を前にかざした。


「……シュバルヒルデ」

Starkerdruck


ペンダントのデバイスが術名を紡いだ。すると、


「がっ……」


立っていられないくらいの重圧が圧し掛かってきた。

耐え切れず、両膝をつく。

後ろの皆も動けなくなっているようだ。


「……じ…ゅう……りょ…く…ま……ほう…だと」


周りのコンクリートに罅が入っていく、後ろでは既に倒れ伏している者がいるみたいだ。


「ああ、これで当分は時間が稼げそうですね」


なにかを言ってはいるが、よく聞こえない。


「圧し潰しはしませんから、死にはしませんよ。安心してください」











意識が遠くなっていくのがハッキリと感じた。






















「さぁて、どうしようか」


念話での通信を終え、感覚を広げる。

確かに五人ほど結構高い魔力が近づいてくる。


「契約主さんも遊んでるみたいだし楽しもうか」



ニヤリ、と、妖艶な顔が酷薄の笑みを浮かべた。














目の前のビルの屋上にはこの結界と同じ色の魔法陣が存在している。

そして、フェンスの上には女性が立っている。

幅は十cmあるかどうかの細いフェンスだが直立不動で立っている様は異様だった。


「管理局武装局員だ、ここにいるということは関係者だな」


女性は笑みを浮かべたままこちらを見ている。

右手には金色のコインが握られている。


「手を上げて武器を捨てろ、話を聞かせて貰う」

「上げればいいのね」


はいはーいと、高々と両手を上げた。

その手から金色のコインが零れ落ちた。


――回りながら重力にしたがっておちていくコイン。


―――なぜか、それは妙な雰囲気で。


――――しかし、目を離すことが出来なくて。


―――――フェンスにぶつかって硬い音を立てた。


そして気付いた。

女性がいつの間にか消えていたことに。


黒い影が疾った。



屋上の上、宙には後ろにいたはずの仲間たちの襟首を片手に二人ずつ。

手が爪状に硬質化した女性が掴まえていた。

その表情は先程と変わらずに嗤っていた


無造作に四人を手放して屋上に放り落とした。


「キッサマァ!」


デバイスに登録された射撃魔法を選択し、使用する。


仲間には当たらないように屋上ごと撃ち抜く。


が、女性は直撃する前に再び消えた。


「なかなかに強いけど、弱いね」


背後でそんな声が聞こえたが、振り返ることは出来なかった。


デバイスがバラバラに崩れ、防護服は切り裂かれ、血が噴き出した。



ぐらりと、力が抜け、屋上に向かって落ちた。


このまま激突したら痛いななどと考えながら掠れる意識の中で女性のことが見えた。


その姿はまるで猛禽のように爪が伸び、翼が生えていた気がした。



爪からは血が自分と仲間の血が滴り落ちていた。























「やってくれるじゃないか」


苦々しくナハトが呟いた。


屋上にあった結界の基点はさっきの魔法で一点が破壊され、掻き消えていった。


「あー、ごめん、基点を壊された。数分もしないうちに結界が消えるから」


広域の念話で全員に告げる。


『すぐに終わる』

『……ちゃんと護りなさいよ』

『分かった』

『そうか』

『そうですか』


五者五様の返答が届く。

あとはここに倒れている五人から魔力を頂くだけだ。


Beraubung


五人の体から魔力が右手に流れ、魔力の塊の淡い球体を作り出した。



「十〜二十ページくらいかな?」


たいした質ではないが量はある。



「さて、どうするのかな?」




離れた場所で桜色と交差する姿を眺めながら笑みを浮かべていた。






完成!そして、放心したカタナです。
題名はすべてラテン語の格言になるかと思います。
1話の意味は「涙の日」。今回は「ゆっくりと急げ」です。
では、魔法の設定を。

Zu befehl
意味:御意
これもデバイスの起動時の掛け声。

Verstehen
意味:了解
同上

Raum uebergang
意味:空間転移
二つの空間を入れ替える。
知っている空間に限定。

Starkerdruck
意味:強い重圧
強い重力を上からかけて圧し潰す。
または、吹き飛ばす。

Beraubung
意味:奪取
魔力を奪い取る


こんなとこですね。結界についてはまた次に・・・・・・
それでは次回にまた。





BACK

inserted by FC2 system