一瞬の爆発、吹き上がる噴煙。 噴煙の中から現れる白の魔導師。 ≪リース、無事か?≫ 平淡な声の中にしっかりとした気遣いが聞いて取れた。 爆発の瞬間、アラストルが咄嗟に使った魔法。 高速移動用の魔法で離脱することができた。 効力自体は爆発の衝撃で消し飛んだが。 「なんとか」 そのおかげで衝撃をほとんど受けずに済んだ。 目の前、少し上方に浮かんでいる白い防護服の魔導師を見据える。 「アクセルシューター!」 ≪Accel Shooter≫ コマンドを紡いだのが聞こえ、砲にみたてた杖をこちらに向けている。 「シュート!」 放射状に十二個の桜色の魔力球が広がっていく。 数個、魔導師の周囲で停滞。 残りが高速でこちらに向かってくる。 ≪高速の 「どのくらいで消えると思う?」 ≪魔力密度から考えて約一分だろう≫ この灰色の結界の効力をあてにするなら回避・防御に専念するのが妥当だが、 あえて前に出る。 目の前に迫る桜色の弾丸が迫る。 「アラストル!」 ≪Lichtgitter≫ 光で編まれた格子が前方から迫り来る弾丸を破壊していく。 ≪4発、後方に≫ 「大丈夫、そろそろだ」 背後に迫る弾丸を意に関せず前進する。 一撃を当てようと迫っていた弾丸が掻き消えるように消滅した。 魔導師の周囲を浮遊していたものも同様に消滅したらしく、動揺している。 ≪Wirbelwind≫ 高速移動用の魔法。 効力は急停止・急加速。 さきほどよりも多く魔力を使用し、持続時間を底上げする。 剣を前に突き出し、手を右頬の側に持ってくる。 低く屈み、中空を踏みしめる。 ≪Landsknechtangreifen≫ 「っけぇ!」 溜めた魔力を強化に回し、一歩で最高速に入る。 目の前の魔導師のたぶん、リーシャと同じ位の年齢の少女。 桜色の盾が再び展開した。 4話 エト・アルマ・エト・ウェルバ・ウルネラント 異変はすぐに起こった。 高町なのはの代名詞であり、主砲のディバインバスターを撃とうとしたときに。 何の前触れも無く、周囲で浮遊していたアクセルシューターの弾丸が消滅した。 「レイジングハート、なにが起こったの?」 ≪分かりません。マスターも少しずつ魔力が減少しています≫ 「私からも!?」 ≪おそらく、この空間の所為だと思われます≫ 襲撃されてから張られている灰色の結界。 違和感は初めからしていた。 もしも、それが本当だったら時間が経てば経つほどこちらが不利になる。 「なら、早く脱出しないと」 ≪イエス、マスター≫ その前に彼を、易々と見逃すとは思えないから動きをとめて隙を作る。 ≪マスター!!≫ その彼はすでに至近にまで近づいていた。 「ラウンド!」 ≪Round Shield≫ 光と炎の集まる剣先と桜色の盾が触れ合い、火花を散す。 剣は盾を貫けない、盾が勝っている状況だ。 少しずつ加速が無くなっていくが、 「・・・・・・砕け!」 ≪Zerbrechen≫ 小さなコマンドボイス。 それだけで刃の触れる部分から術式が盾を侵し脆く劣化していき、 盾全体に罅が入り、砕け散った。 「っ!?」 腹部の鈍い衝撃と地面へ向かう強いベクトルは同時だった。 「っあ!」 意識が飛び掛ける。 道路にその勢いのまま叩きつけられ、全身に衝撃が走り、動くことができない。 「・・・・れい・・じんぐ・・・はー・・・・・っ!」 左手首からゴリッ!という嫌な音が聞こえた。 焦点の合わない目で見上げると、 いつの間にか結界が消え、雨が頬を濡らしていた。 「ごめん」 そんな小さな呟きと力が抜ける感覚。 そして、頬を濡らす二つの雨が最後に感じたものだった。 さっきまで静寂に包まれていた艦橋はラッシュ時の地下鉄のような喧騒に変わった。 「結界の消滅を確認!」 「みんなの位置の確認を急いで!」 「了解!」 目まぐるしく変化していくモニター。 次々と襲撃者の姿を映し出していく。 シグナムと甲冑の男。 ヴィータと法衣の女。 武装局員の側にいる二人の男女。 一人で佇む少女。 そして――――― 「こいつか!エイミィ!データの照会を!医療班を三班現地へ!」 「………ダメ!データに無い!」 モニターに映る襲撃者達を翡翠色の球体が包み込み、中央へ集束していく。 「転送!?………ああ!振り切られる!」 映っていた姿は消え、残されたのは負傷した局員となのはだけだ。 「……見失った」 連続転移にジャマーを付加させていた。 逃げ切られたのは必然といえるが、エイミィは自分への憤りを隠せずにいる。 「気にするな、エイミィの所為じゃない」 「でも………」 「あの本を映像に残せただけ収穫はあったさ」 現地にいるシグナムとヴィータはなのはのところに着いたようだ。 投入した魔導師は十人。 なのはを含めて十一人の魔導師がやられた。 結果的になのはを囮に使ったことになった。 回復魔法を受けている彼女らの姿を見ながら、クロノは自分の考えの甘さに嫌悪していた。 山奥の廃屋。 人の手がつかなくなって久しいこの場所に六人の男女の姿があった。 廃屋を中心に薄く灰色の光が時々走る。 「コレで半分……いや、六〜七割にはなったね」 手の内にあった光の球を本に喰わせ、今まで開くことの無かったページが動いた。 「しかし、キミが奪った魔力でかなり進んだんじゃない?」 話を振られた少年はただ“ああ”と返した。 「これで望みに一歩近づいた訳だ。 それじゃ、最初に話したとおりにこれからボクが魔力集めすればいいね」 再び“ああ”とだけ返した。 「ネーベル、どうした?」 「なにが?」 「これを見てみろ」 どこからともなく取り出したのは手鏡。 ネーベルはそれで自分の顔を見ると、 そこにあったのは眉間に力を入れていて、なにかが溢れるのを耐えているような表情があった。 「なにかあったのか?」 「なにもない」 「泣かないのか?」 「泣かないしその必要もない!」 「……泣いてもいいんだがな」 「だからぁ!」 上げた顔は目が潤み、いつものにこやかな表情とはうって変わって可愛いと思えた。 「ちょ!ケーファ!」 強くなく、弱くもなく、優しいつよさで抱きしめた。 「肩肘張らなくていい、誰も見てないんだ、泣いてスッキリしろ」 「ずるい……な、ケーファは」 ぎゅっと手を武骨な背中に回す。 「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 一度溢れ出した涙は止まることを知らず、 ぽろぽろと流れる落ちる雫は地面に吸い込まれていった。 時空管理局本局内無限書庫。 ここは、管理局が管理する世界の全てのデータを収めている超巨大データベース。 図書というものを扱う場所の例に洩れず、静寂に包まれ静かな、 「ししょちょー!しりょーがみつかりませーん!」 「そっちの棚のどこかに有ったはずだからがんばって!」 「スクライア司書長!過労で三人浮いてます!」 「医務室に連れてってあげて!」 静かな、 「ししょちょー!人数増やしてくださーい!」 「手の空いてる人を何人でも連れて行って!」 「司書長!過労者を運んでいたメンバーも倒れました!」 「医務室から誰かを呼んで!」 静、 「ししょちょー!ほんとにあるんですかー!」 「その依頼で今あるの終わりだから全員で探すよー!」 「司書長!別の棚にありましたが?」 「なんだってー!」 「それをさっさと持っていって、次が来る前に今日は終わるよー!」 「やったー!二日ぶりにまともに寝れるぞ!」 《オォーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!》 静寂に包まれる静かな空間のハズである。 「スクライア司書長、ハラオウン提督から連絡が入ってますが」 ピタリと時が止まった。 さきほどまでのうるささが嘘のように無限書庫内が静まり返った。 「……なんでしょうか、ハラオウン提督」 目一杯の不満を声に含めて返した。 『ユーノか、今から送る映像に映ったロストロギアの資料を探してくれ』 「今やっと仕事が終わって皆を帰らせるとこだったんだけど」 『それは悪いことをしたな、最優先で頼むぞ』 いけしゃあしゃあとそんなことをほざいてくれやがった。 「……悪いと思ってないだろ、大体君は一度になんであんな量を」 『なのはが怪我をしたと言ってもか?』 「………え?」 『なのはが例の事件の犯人グループに襲撃されて負傷した。 今送った映像はそのときのものだ』 「これか」 送られてきた映像には仰向けに倒れたなのはと、黒い本を持った少年が映っていた。 『最優先だが頼めるか』 「クロノ、最優先で持って行ってやるから待ってなよ」 『頼む』 通信終了。 後ろを向くと司書全員がこちらを見ていた。 「あー……みんなは帰ってもいいよ」 「なにいってんすか!」 「そうですよ!人数が増えればその分すぐ終わるじゃないですか!」 「一日二日で終わらせてあの鬼提督の鼻を明かしてやりましょう!」 《オォーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!》 無限書庫は今日も静寂とは程遠い場所に在った。 えー、時間がかかりましたが一応終わりました。 なのはさんが強くて強くて。 では、紹介を。 Lichtgitter 意味:光の格子 前方に格子状の光で防御。 縦横に広げることもできる。 Wirbelwind 意味:旋風 瞬発的にスピードを上げる。 または、止める。 負担を考えなければ、進行方向を急激に変えることも。 Landsknechtangreifen 意味:槍騎兵突撃する 上記魔法の効果を溜め、突破力を増やす。 Zerbrechen 意味:破砕 盾・バインド等の破壊。 Hindernis kaefig 意味:阻害 檻 指定人物以外から魔力を少しずつ吸い上げる。 結界の基点を破壊された場合消滅する。 魔力は術者の下に集まる。 次の話は少し日常を入れます。 フェイトとかはやてとかをちゃんと出そうかと思ってます。 自分的にはシグナムをもっと。 |