暗く、帳の落ちた病室。


――もう少し


外から入る光で中は明るい。


――もう少し、だが


棚の上にある花瓶には花が活けてある。


――もう少し、だが、まだ


花は瑞々しく、常に人の手が加えられているのが分かる。


――もう少し、だが、まだ足りない


手を伸ばし眠る少女の額に触れる。


――もう少しで・・・・・・




一瞬、病室が光で溢れ、室内は外の光だけになった。




眠る少女の吐息だけが病室で唯一聞こえる音。










「そうだね。まだ足りない」




闇が呟いた。










                  5話      それぞれの休息〜前編〜











巡航L級8番艦アースラの医務室。

その扉の前には管理局の制服に着替えたシグナムとヴィータ、そして、艦長のクロノがいた。


サッと扉が開き、金の髪の女性・湖の騎士シャマルが出てきて、全員がそちらを向いた。


「シャマル!なのはは!?」

「怪我自体は大した事はないわ。
 骨には異常がないし、しばらく安静にしておけばすぐに動かせますよ」


ヴィータはほっと息をつくが、あとの三人は訝しげな表情のままだ。


「リンカーコアにも以上はなかったんですけど、魔力が半分以上減少しています」

「つまり、いままでと同じ状況だと」


シャマルは静かに頷き話を続ける。


「昔、私達が行った蒐集は一人からは一度きりでした」


それにはシグナムとヴィータも頷く。



蒐集、夜天の魔導書が闇の書に改変させられてから行われていた行為。

闇の書を完成させるまで魔力を他者から搾取し、場合によっては命をも奪っていた行為。

時には闇の書の主に仕えるヴォルケンリッターからさえも奪っていた。



「ですが、この魔力を奪う魔法は対象がいさえすれば何度でも蒐集をできるのだと思います」


それは極端に言ってしまえば一人を幽閉して、生かしておけばどうにでもなることだろう。

しかし、それをしないのは何か理由があるのかそれとも・・・・・・・・


「厄介だな・・・・・・・・・・・・それでなのはは?」

「・・・・・今は眠り続けてます。失った魔力を回復させようとしているのでしょう」


現在のアースラの保有戦力は魔導師ランクAAA+のシグナムとヴィータ、そしてSのクロノ。

しかし、艦長がおいそれと船を降りるわけにも行かないので、実質二人だけになる。

この状況、あの人数で次の事件を起こされたら対処ができない。


「・・・・・・・わかった、何かあったら教えてくれ」


そう言い、踵を返し、艦長室に戻る。





ギシリと自室の椅子に体重を預ける。


「エイミィ」

『何でしょうか、艦長』

「他の艦は今どこにいる?」


この任務にはアースラと他数隻がついていて、
他艦との連携が執れるはず。


『アルクィンとマティアだね』


M級艦のアルクィンとマティア、他数隻の内の二隻。


「それと、はやてに通信を繋げてくれ」

『久しぶりに全員が集まるのかな』

「エイミィ」

『申し訳ありません、通信を繋げます』


そう言って、ブリッジとの通信が切れた。















最初に見えたのは、白い見慣れた天井。

ぼんやりと眺めていると横から女性の声が聞こえた。

それで霞のかかっていた頭がハッキリと晴れた。


「なのはちゃん、目が覚めましたか?」

「シャマル・・・・・さん?」


声をかけた女性ははやての守護騎士の一人のシャマルだった。

シャマルは安心したように胸を撫で下ろした。


「事件はどうなってます?」

「五日経ちましたがいっさ・・・・・」

「五日ですか!」


それほどの長い時間を自分が眠り続けていたことに思わず大きな声が出る。

ここが病室だと言うことを忘れていて、咎められるような視線を受け、首をひっこめた。


「魔力をほとんど失ってましたからその所為でしょう」

「・・・・・事件のほうはどうなっています?」

「それについては、クロノさんに連絡を入れてきますから直接聞いてください」

「あ、はい。わかりました」


トコトコとブリッジに連絡を入れるために離れていった。

急にやることが無くなってぽけっとしていると、医務室の扉が開いた。


「シャマル、なのはは・・・・・」

「ヴィータちゃん!」

「なのは!目が覚めたんだな!」


入ってきたのは管理局の制服に着替えているヴィータだった。

その手には、色とりどりの花を包んだ花束が握られている。


「これは・・だな!はやてが持っていけって言ったんだからな!」

「そっか・・・ありがとう、ヴィータちゃん」

「お・・おう・・・」


照れながらも手に持った花束を渡し、明後日の方向を向く。

花束は優しく抱かれている。


「ヴィータちゃん、来てましたか」

「おぅ、シャマル」


向いた方向から行きと同じような足音を立ててシャマルが戻ってきた。

その視線はなのはが抱きしめている花束に向いている。


「・・・・なのはちゃん、この花束は?」

「ヴィータちゃんが持ってきてくれました」


一瞬、それを聞いたシャマルの顔がいたずらを思いついた猫のように見えたのは気のせいか・・・・


「ブリッジに通信を入れて来ましたからすぐに皆さんが来ますよ」


と、タイミングよく、通路から大きな足音が聞こえてきて、

大きな音を立てて足音の主は勢いよく扉を押し開けた。


「なのは!」

「フェイトちゃん・・・・・・・」


心配して連絡が入ったとたん全速で走ってきたらしく肩を上下させている。


「大丈夫?なのは、痛いところとかない?怪我は?」

「にゃはは〜、大丈夫だよ、フェイトちゃん」


親友同士、心配しあっている中でシャマルは笑顔のまま、


(・・・・・・・・どうして、押し戸になっているんでしょう?)


などと考えていた。


「なのは、起きたのか」

「なのはちゃん大丈夫か〜」


今度はちゃんと自動で開いた扉からクロノとはやてが入ってきた。


「集まりましたね、なのはちゃんの怪我の説明をしてもいいですか?」

「ああ頼む、シャマル」


そうして、なのはの左手に巻かれた包帯を替えながら話し出した。


「魔力に関しては完全に回復していますが、左手には負荷をかけないようにして下さい」

「どういうことです?」


左手首に巻き直された包帯に視線を落としてなのはが聞き返した。


「少し筋が痛んでいます。しかし、安静にしていればあと一週間もすれば良くなりますよ」


一週間、それだけの戦線離脱は厳しいものがある。

今まで一ヶ月間ほど休み無く襲撃が行われていた。

一週間はどれだけの被害が出るかは想像に難くない。


「・・・・・・・事件の方はどうなっています?」


自分が眠っていた五日間、その短い時間だけでも被害者が増えているのかもしれない・・・・


「・・・・・今までの頻度が嘘のように静まっている・・・・・不気味なほどにね・・・・」


と、口を開いたのはクロノだった。


一ヶ月、ほぼ休みなく行われていた無所属の魔導師への襲撃、管理局員の任務終了時を狙った襲撃。

そのどちらも沈黙している。

依然、どちらにも注意は怠ってはいないが現場の緊張が高まりすぎていてストレスが溜まってきている状態だ。

このままではいずれは支障が出てくる。

だからと言って襲撃されても良い訳ではない。

結局のところ、向こうのアクション待ちか、ユーノからの無限書庫からの情報待ちだ。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・風の便りで聞いたところによると無限書庫ではあの『書』の資料を探しながら 他の依頼を捌いている状態らしく、まさに鬼気迫った修羅場になっているらしい。

本局医務室は無限書庫司書及び、司書見習いたちで溢れかえっている。

目を覚ました者から何かにとり憑かれたかのようにふらついた足取りで書庫に戻っていくのを何人も目撃している。



「とりあえず、今は休むことだ」


現状の説明をし終え、一息ついたクロノが言った。


「え、でも・・・・・」

「今はフェイトもはやてもいる、君が休んでても文句を言うやつなんていないさ」


その言葉にはやてたちは頷く。


「でも、アースラにSランクがそんなに集まってもいいの?」


なのは・フェイトがSランク、はやてがS+、シグナム・ヴィータがAAA+。

明らかに高ランクが集中しすぎている。このままでは色々と問題があるはずだが。


「フェイトとはやては、同じ任務に着いているアルクィンとマティアにそれぞれ配属されている・・・・・・・・・・・・書類上はな」


そう言って小さく笑みを作ったが、その顔は悪知恵を働かせた黒い顔になっていると病室にいる全員が思った。


「あ、あははは・・・・・・・・・・はれ?」


クラリとなのはの視界が歪んだ。

頭がふらつき、倒れこもうとしたのをフェイトがかろうじて支えた。


「あ れ?ふぇいとちゃん?」


ゆらゆらと舟を漕いでいるらしく、視線が定まっていないようだ。


「なのは、もう少し休も?」

「う・・・・・ん・・・・・・・・」


ゆっくりと、寝かせると、すぐに寝息が聞こえてきた。


「それじゃ、僕はブリッジに戻るから」


なのはを起こさないようにクロノは小声でそう告げ、病室から退出した。

通路にはシグナムが壁に寄りかかって目を閉じていた。


「いたのか、シグナム」

「終わったのか」


静かに目を開き、二人は並んで歩き出した。


「この事件、どう思う?」


しばらく歩いて、最初に口を開いたのはクロノだった。


「どう・・・・・・・とは?」

「直接当事者達と会話をしたのはなのはと君とヴィータだけだからな」


歩きながら、腕を組み、右手で口元を隠すようにして考える。


少し経って、腕を解き、口を開いた。


「ヴィータたちが戦ったやつのことは分からないが、ケーファ、彼は私と同じくらいかそれ以上に腕がたつな」


謙遜も過大評価もしていない。

双剣の騎士、他にも明かしていない手の内があるのかもしれなかった。

シグナムはあの戦闘でシュツルムファルケン以外、ほぼ全てを使用した。

向こうはそれを知らないだろうが、それしか使わなかった場合、気付かれる可能性がある。

そのシュツルムファルケンも撃たせてくれるかどうかが怪しい。



『クロノ君』


突然、モニターが広がってエイミィの顔が大きく映った。


「エイミィ、どうした」

『ユーノ君から通信が来てるからそっちに回すよ』


画面がユーノと無限書庫に代わった。


『クロノ、あの『書』の資料がまとまったからそっちに持っていくよ』

「頼む」

『一部を今送るから、目を通しておいて』

「分かった」


別のモニターが開き、送られてきた資料が映し出されていく。


『それとクロノ、司書たちの有休届けを受領してくれ』

「は?」


今まさに送られた資料に目を通そうかとしたときにそんなことを言われた。


『本局の医療班は手配し終ったけど、そっちはまだだからついでに』

「いや、だからなんで僕が」

『だからついでだって』

「ふざけるなよ、そういうのはちゃんと本人たちにやらせるんだ」

『・・・・・・・・・この惨状を見るか?』


モニターのユーノが画面の外に移動し、無限書庫の中が見えるようになった。


「・・・・・・わかった、とりあえずは休ませておけ」

『僕もすぐにそっちに行くから、みんなを集めておいてくれ』


そう言って通信がきれた。

ようやく、資料に目を通したクロノはたった一つの名前に目を釘付けにされた。

それは、覗き見をしていたシグナムも同じことだった。










『夜天』と『黄昏』

それが、この事件の根底に潜むものだった。





座談会を見ますか?


YES?      はい











名の無き座談会?



リーシャ「みんな〜、座談会の時間だよ〜」

ノリノリだね。

リーシャ「あなたが書いた台本でしょ!」

さぁ、なんのことでしょう?

リーシャ「・・・・・・腑に落ちませんが、まぁいいでしょう」

それじゃ、自己紹介を。

リーシャ「リーシャ・フィビラル、14歳です」

自分は天の声のカタナです。

リーシャ「このコーナーのテーマはなんでしょう?」

それは、このSSに登場するキャラクターをゲストに呼び、雑談をするコーナーである。

リーシャ「では、今回のゲストは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ?控え室に誰もいないそうですが?」

それは、今回のゲストは君だからだよ。

リーシャ「・・・・・・・・・は?」

だから、君が今回のゲスト。

リーシャ「司会じゃなかったんですか?」

今回はゲストなの。最後まで出番のないキャラなんだから司会は当然でしょ。

リーシャ「・・・・・・・・で、なにを聞くんですか」

いきなりテンションが下がったね。でも、聞くことないんだよね。

リーシャ「なら呼ばないでください」

だから君は司会なんだって。

リーシャ「それなら、司会らしい仕事をくださいよ」

ちょっと待ってね・・・・・・・・・うん、今回は仕事ないや。

リーシャ「・・・・・・・・・・・・・・・・」

それじゃ、今回はこれまで、6話もよろしくね〜。

リーシャ「・・・・・・・・・・・・」(無言で横にあった人形を踏み続ける)

あっ痛!やめ!ちょっ!やめ・・・・・・・・・・・アーーーーーーーー!!!!





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