椅子に座って机の上に置いた時計の針を目で追っている。
壁のカレンダーには赤い丸と二重の丸。
今日の丸は大好きなお母さんが帰ってくる日。
二重丸の日はお母さんと一緒にピクニックに行く日。
仕事は外国でいっつも長い間帰って来ない。
だから、仕事に行く前にいつも帰ってきてから何をするかを決めておく。
そうすれば、一人でお留守番をしている時だってさびしくない。
今日はあいにくの雨空だけど明日からの天気予報は晴れのマークを映している。

短い針がまた一周したときにインターホンが鳴った。
大きな音を立てて椅子から飛び降りる。
玄関まで一直線に走る。
早く「おかえり」と言いたい。
逸る気持ちを抑えながら急ぐ。
玄関の扉の前にたどり着き、鍵を開ける。
扉の前の相手を確認しないで勢いよく開ける。
しかし、目の前にいたのは知らない人だった。
着ている物はお母さんと同じようなものだけど、知らない人。

「君が朱雀ちゃんかな?」

知らない男の人に名前を呼ばれて頷く。
端正な顔立ちの男の人と翠の綺麗なポニーテールのたぶんお母さんと同じ位の歳の女の人。
男の人はなにか躊躇うように言おうとしている。

「落ち着いて聞いて欲しいんだ」

何でこのときにこの話を聞いてしまったのだろう。
何でちゃんと開ける前に確認しなかったのだろう。
何で、何で、何で、何で何で何で何で何でなんでなんでナンデナンデナンデナンデ――――――

「実は君のお母さんは―――」

この先の言葉が耳に入ったとき、私は弾けるように走り出していた。
告げられた言葉が信じられなかったのと信じたくなかったから。

走って走って泥に足をとられて転んで気付いた。
いつのまにかお母さんとよく遊びに来てた公園にいることを。
ゆっくりと起き上がって泥を払おうとしたけどやめた。
すでにずぶ濡れになっていた。
泥を払ったところでもう遅い。

雨に打たれながらとぼとぼと歩くとブランコの前まで来ていた。
静かにブランコに座って空を見上げる。
頬をつたって落ちる雨の雫が何かの代わりをしてくれているようだった。

「朱雀ちゃん!」

声のした方向、公園の入り口に顔を向けるとさっきの翠の髪の人がいた。
その人は傘もささないで私と同じようにずぶ濡れになっている。
ゆっくりと近づいてくる。
目の前まで来たその人は目線の高さまでしゃがみ、私は抱きしめられた。




これが私の“ハジマリ”の物語。




0話 ハジマリ





......To be continued



あとがき

主人公の火乃朱雀はとある掲示板の企画、「朱雀さん魔法少女計画」の産物です。
企画自体は4ヶ月近く前に立ち上がったものですでに消滅しています。
自分はネタとしてプロローグだけを書いたら結構面白くなりそうでプロローグ書き直し+設定製作でこれになりました。
最初はフェイトと一番最初に会うという話でした。
自分の書くモノはほとんど最初に“喪失”がある気がします。
王道だからこそ書きやすいのでしょうが、それを乗り越えることのできる話を書きたいと思っています。
最後に0話を読んでくださりありがとうございます。
次の話からのあとがきははっちゃけますね。
堅苦しいのは苦手なんで。

2007年12月21日 初稿





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