「おーい、ちょっと匿ってくれ」
「あれ? ミカエルじゃねーか」
「召喚失敗したら管理局から追われてな、集中どころじゃねえよ」
「馬鹿か、アゲハー、寝床開けてくれ、俺が寝る」
「ああ、2日貫徹お疲れ」
「全くだ、じゃなミカエル――此処で召喚するなよ」
「ああ、失敗はしない」
「召喚すんな!」
「アゲハ、とりあえず30匹ほどストックできたけど、こっからどうする?」
「んー…? ああ、ミカエルか…
 そうだな、とりあえず作戦続行で構わないだろう、じゃあ、俺街に行くよ」
「ああ、また後で――おいイロ、ちょっとネット使って良いか?」


『光の子』―Aura.―
 四話『3日目(2)――虚の番犬について』


 時刻は夜。空には満月がかかっている。
 その中。闇に溶け込むように、彼は存在していた。
 辺りには鉄さびの匂い。
 古い場所だ。これくらいの匂いは別に珍しくも無い。

「…――気に食わん」

 彼は静かに呟く。
 月に照らされる彼の姿は幻想的ともいえる。
 上から下まで黒一色のその姿。手にはハーフフィンガーグローブ。靴は安全靴。
 腰元には大振りのナイフが2本、刺さっている。緑色をした右目だけが、闇夜の下にその姿を主張していた。
 何処からどう見ても人を殺す――その一点に特化したその姿に、しかし異を唱えるものはコノ場には居ない。
 そもそも彼以外の人間が居ない。
 彼は一つため息をつくと、腰元のナイフに手を伸ばした。
「おい、何時まで隠れている、鬱陶しいぞ」
 そしてそのナイフを引き抜いた。
 両手にナイフを構える様は、何処か人間ですらないように見える。
 辺りは廃棄された工場跡。
 ミッドチルダ市街の郊外に、こういう施設は多い。
「…おい」
 声を低くして凄む。
 辺りに殺気が渦巻いていく。
 何処か遠くで、鉄が倒れる鋭い音がした。
「“そこ”か」
 その音を受けて――。
 彼はその場でナイフを横凪に振るう。
 綺麗な軌跡を描いた其れは、その軌跡延直線上にある廃工場を切り裂いた。
「なっ!?」
「ほう、見たことも無い顔だな」
 上がった声が聞こえた次の瞬間、彼はその背後に現れる。
 声を上げたのは若い男性だった。月明かりの下で、彼にはよく見えそうに無いが。
「ふん…なんだお前、このまま殺されるか、それとも全て吐いて俺に逃されるか、どっちがいい?」
 現れた男性の喉元に刃を突きつけて、彼はそうやって尋ねる。
「へ、へへへ…シクルド、だよな? “虚の番犬”の――飼い犬」
「ああそうだ、それがどうかしたか」
 相手の揶揄に怒りすら見せることなくシクルドは尋ね返す。
 その喉元に突きつけられたナイフも、微動だにしない。
「とっとと答えろ、死にたいか、何が目的で5時間も6時間も付回していやがった」
 むしろ別の事で逆鱗に触れているようだ。
「へ、へへ――アンタに良い儲け話が合ってさ」
「あ?」
 恐怖にか笑いを漏らしながら、それでも男はしっかりと言葉をつむぐ。
 その言葉を聴いて、シクルドは――。
 大げさに、ため息をついた。
「き、聞く気に――」
「ならん、死にたくなければうせろ、退屈至極」
 男を突き飛ばし、詰まらなさそうに言ってナイフをしまいこむ。
 その視線は既に男を見ていないが、右目の緑色の光だけが、なぜか男を捕らえていた。
「そ、そうかいそりゃあ残念だ、へ、へへへへ…!」
 言いながら男は震える指を鳴らす。
 乾いた音が辺りに響き、同時に辺りに十人を超える人影が現れた。全員が全員、それぞれ殺気を発している。
 それらを見て、彼は再びため息をつく。
「退屈至極也、従わなければ力ずくということか」
「わ、悪いな、けど今回はちょっと面白いことになりそうでさぁ、あんたの力を借りたいんだ」
 シクルドはため息をつき――ふと、一瞬考え込む。
 面白いコトと、男は言った。まだ起こっていないらしい。
 此処最近でそんなものに該当する情報を、彼は一つだけ知っていた。
「その面白そうなことというのは、まさか管理局進攻のことか」
「あれ? 知ってんのか?」
 男の震えが止まる。辺りに広がっていた殺気が霧散していく。
 其れを聞いて、シクルドは再び「退屈至極」とだけ呟く。
「それなら“虚の番犬”が筆頭だ、なるほど、大体俺を追跡していた筋書きは読めた」
 つまり、これから起こるであろうお祭りの前にシクルドの姿を発見した。
 そして彼の力を借りられないかと彼らは思索した。その結果がコレだ。シクルドという人物の力は、相当広く知れ渡っているらしい。
「退屈至極、阿保共が、第一何処からその情報を入手した」
「い、いや匿名希望のメールだったんだが…」
「アドレスは」
 彼は次々と男に質問を浴びさせる。
 そして男がそのアドレスを――よく覚えているものだと僅かに感心する――言った次の瞬間、大げさにため息をつく。
「退屈至極、コレにて御免」
「あ、ま、待ってくれよ、あんたも参加するのか!?」
「当然だ、俺には殺すべき奴がいる、故に参戦、コレで良いか――安心しろ、貴様らの邪魔はしないし協力は出来る限りしよう」
 囁く様に言いながら、シクルドはその場を去っていく。
 辺りの人物たちは、既に彼を襲うつもりなど無いらしく、彼は悠々とその場を去っていく。
 最後にまた聞こえた台詞は、「退屈至極」という簡素なものだった。


■□■□■


「んー、眠い…流石に深夜から動き回るものじゃないな――まあ3時間眠れたんだし良しとしましょうか」
 大きく息をつきながら、アゲハは伸びをする。
 そこはミッドチルダではない。ある意味、一番危険な世界ともいえる場所だった。
 辺りに見えるのは荒野。スラムと呼んで差し支えないような場所だろう。
 少なくとも、彼のような柔な外見をしたものが容易に入り込んで良い場所ではない。それくらい、此処の空気は淀んでいて――矛盾するように、澄み渡っていた。
 大きくコートを揺らして、彼は大いに笑う。
「さて、今回何処にいるだろ」
 左目の眼帯を外し、彼は辺りを見回す。
 銀色の光は、やはり別に不備があるようには見えない。それでも、彼は直ぐに眼帯を結びなおした。
 音を立てて歩き出す。
 その左腕には既にルヴィカンテが装備されていた。
『Master.』
「ん、人か――ああ、ガラの悪いそうな連中だ」
 彼は皮肉気に口元をゆがめながら、辺りを見回す。
 辺りには10名以上の人間が居た。服装はどれも、あまり宜しくない。
 彼の格好は確かに裕福そうだ。こういう状況ならば、襲われても仕方ないととられるだろう。
「一応聞くけど、此処に“爺”いないか? 前回此処だったんだけどな」
 彼の言葉に誰も答えない。只その瞳の色は、相当危なかった。
 1秒先には襲われてしまいそうな感じだ。口元に浮かぶ笑みも凶悪だし、誰も彼も体は相当鍛えているように見える。喧嘩なれしているとでも言うのか。
 その中でも、彼は涼しい顔で居た。
「せめて答えてくれよ――それともあんた等爺さんに改造でもされたか? やりそうだよなあ、あの爺さんならさ」
 くく、っと笑い、同時に辺りに居る男たちが一斉に襲い掛かってくる。
 空には満月がかかっていた。
 あっさりと左目の眼帯を外し、彼は優雅に微笑む。
「やろうか、ルヴィカンテ――」
 ゆらりと蜃気楼めいた彼の動きに誰も気づくことなく。
 数分後。
 その場に立っているのは、彼一人となっていた。
「だらしない、爺さん何処だろ」
 一言だけ観想を言って、彼は再び歩き出す。
 血の一滴も流されていない。皆気絶しているだけだ。
 彼は眼帯をまきつけながら辺りを見回す。とりあえず先ほどのような無法者は見える範囲には、居ない。
 だからといって油断できないのも事実。荒野だが、隠れられそうな場所は幾つもある。
 辺りにある残骸。岩の山々。隠れられそうだ。
 そして何より眼帯をしている左の視界は全く利かない。
 故に。
 左から来襲した獣の一撃を、彼がどのようにしてのしたのか、解る人物は居ない。
 あっさりと獣の爪を弾き、その顎に一撃。さらに腹、頭と連続で打撃を加えていく。3秒で決着はついた。
「居ないな」
「おう、誰を探しとるんだ」
 彼のため息交じりの諦めの声とともに、軽快な声が聞こえてくる。
 聞こえた方向に、彼は笑顔で振り向いた。
「やあ、爺さん!」
 アゲハは実に楽しそうにその人物に話しかける。
 大きな岩に腰掛けた老人。頭に赤いバンダナを巻き、顎から白いひげを生やしている。髪の毛も真っ白い。
 しかしそれと反比例するように、全身の肉は引き締まっていた。明らかに老人だが、しかし若々しい。シャツはノースリーブの白いものだったはずだが、既にぼろぼろ。ズボンには工具が幾つも納まっていた。
「よう、若人、何か用事かー」
「ねぐら変えてなかったんだ、ありがたい――用事って言うかアレだ、必要なものがあるんでね」
 肩をすくめながら老人の言葉に答えるアゲハ。
 ほう、と興味深そうに呟きながら老人は岩を降りる。その動作は、軽快だ。とても老人には見えない。
「ふむ、何だ、何かあったけっか?」
「管理局を攻略しなくちゃならないからね、必要最低限の準備は要る、万策尽きても尚俺たちが生きて逃げ延びられるような武装がね」
 砕けた調子でアゲハは老人に向かって言葉をつむいだ。
 ふむ、と老人はあごひげに手を当てて、何かを考え込むようにする。
「そりゃああれか、デバイスでも居るのか」
「いや、其れは良いんだ、俺らには専用デバイスがあるから」
 言いながら自分の腕についているデバイス、ルヴィカンテを晒す。
 そうだったな、と老人は笑った。
「ふむ、じゃあこいつはどうだ? 此処最近の最高傑作だぞ、シクルドだったか、アイツに使わせてやれ」
 岩の一部を扉のように開き、中から一本の長剣を取り出す。
 片刃の剣は、鞘に収まりながらその禍々しさが解る。一概に刀、と呼ばれる類の剣。
「どうだ、出来の良さは保障するぞ」
「有難う、持って行くよ」
 受け取りながら、アゲハは答える。
 鞘から抜き放ち其れを一度振り、へぇ、と軽く感心したような声を上げた。
「大したものだな、これは良い剣だ」
「はっはっは、解るか! 坊主、流石だっ!」
 思いっきり彼の肩を叩きながら老人は豪快に笑う。
 少しだけアゲハは苦笑した。その剣を、鞘にしまいこむ。
「ワシの渾身の一振り! 銘は無いが最高傑作だと自負しておる! そんじょそこいらの攻撃では折れんぞそれは!」
「ああ、よく解る」
 老人の言葉を聴きながら、彼はゆっくりと微笑む。
 その剣にどれだけの執念がこめられているかが、よく解る。
 月に照らされ尚消えない禍々しい輝き。長さはシクルドに合わせられて作られているのだろう。彼にはやや短い。
 だがそれでも尚、アゲハにすらわかる。
 これは最高傑作の一本だ。
「うん、これがあればフェイトとも対等に渡り合えるだろう――よし、後は頼まれてくれ爺さん、残党の“虚の番犬”を脱出させられるような武装を」
 にやりと笑いながらアゲハは言う。
 皮肉気な笑みは、彼の心の現われだろうか。
「ふん、まあいいだろ、それで使いは誰が来る?」
「“虚の番犬”よりイロをこっちに回す、出来次第念話を頼んだ、どうせ3日後には管理局地上本部自体混乱のきわみだ」
 それだけを呟いて、老人に背を向けるアゲハ。
 ふん、と老人の実に楽しそうな声が聞こえていた。
「ところで聞いてなかったが、今度は管理局相手に喧嘩売ってんのか?」
「そーだよ、大体誰からの依頼かは解ってるけど、まあちょっと踊らされてやろうかな、と、まあ最後には依頼した人が頭の中身ぐっちゃぐちゃにされて転がってるって光景が一番良い」
 くすくすと、彼は笑う。
 一瞬だけ老人の笑みが引きつったが、彼に其れは見えていなかったらしい。
「どうせ最後に俺は死んでるからさ、爺さん、虚の番犬の事よろしく頼むよ――光の子も、よろしく頼む、お互い『黄昏の館』の最後の生き残りとして」
 歌うように彼は囁く。
 空にある月光が、彼のその姿を祝福しているように見えた。


■□■□■


 血が辺りに溢れた。
 流れた血を大地は貪欲に吸い取り、血に濡れたその人物を月が照らす。
「く、くふふふふふふ」
 その人物が微笑んだ。
 その手に持つのは長い刀。
 全身を血に濡らしながら、それでも彼は微笑んだ。
「はぁっはっはっは!」
 そして哄笑。
 血に濡れた刀を放り出し、その場に腰を下ろす。水が跳ねる、音がした。
「あーやっぱりダメだ、刀じゃ話になんねぇなあおい!」
 彼は大きく笑いながら叫ぶ。
「ったく、何で俺が殲滅戦なんだよ、まーこういう役どころは高町にゃきついし――汚れ役は上の役目だし、信用は得ないとなあ」
 はぁ、と大げさにため息をつきながら彼、ウリアは笑う。
 腰元から一つデバイスを取り出し、それを黒い鉄の棒へと変化させる。鉄の棒の先には更に交差するように一本の鉄の棒があり、それは大き目の十字架にも見える。
「まあ、お前使うまでも無かったからな――」
 言いながら十字架を待機形態へと戻し、ウリアは空を見上げた。
 辺りには無数の人の死体。血にまみれた大地が、月光に照らされていた。
 つい最近、上から言い渡された任務の一つ。――鬱陶しいから、排除しろ。誰からも気づかれないように。
「ふん、気に入らねぇ」
 要するに裏方だ。
 どうあっても管理局の忠告に従わず、また表立って武力で制圧することも出来ないような連中。
 あるいは管理局にとっての邪魔な存在。
 そういった連中を壊滅させる。刑務所への投獄など生ぬるい。情状酌量の余地無しであろうがどうだろうが関係は無い。殺して壊滅させろ。
 実力のある人物は、特に管理局本局に勤めている人物は、度々こういう仕事を任される。
「――どうせ最後には、高町だってこういうことをやるってのにな、何偽善者ぶってんだか――」
 ウリアはため息をついて、辺りの死体の一つを蹴り飛ばした。
 刀は彼らが持っていた代物だ。――時空管理局に従わず、それなりの実力を有している時空犯罪者。普通に表立って壊滅させようとすれば、結構な時間がかかるだろう。
 彼は、1日で、しかも1人でそれを成し遂げた。奇襲と時間を利用すれば、容易いこととはいわないが、出来ないことではない。少なくとも、彼はそう判断した。
 最初に1人を無音で殺した。
 そいつから武器を奪った。
 後はなし崩しに50人を切り殺した。
 いつもの事で、それだけだ。
 戦技教導隊副長という立場から、彼はよくこういう仕事を任される。
「あーあ」
 退屈そうに呟きながらその場に座り込む。
 政治には綺麗ごとばかりではない。いや、むしろ綺麗ごとのほうが少ないくらいだ。
 こういう事も、その一環。
[終わりましたかー?]
「お、アリーゼ…終わったよ、何時もの通りで、それだけだ」
 届いた念話に、彼は笑って答える。
 無造作にその場に寝転がり、空にかかる月を見上げた。
 月は、血を吸ったかのごとく真っ赤だった。
「何時もの通り、な、人を一人殺すごとにココロがごっそり欠けていくのも、何時もどおりさぁな」
[詩人ですね、転送サポートしますので、いつでもどうぞ]
 アリーゼは簡潔に言い、それで念話は途切れる。
 寝そべったままに、彼は口笛を吹き始めた。
 静かな旋律は夜に流れて消えていく。
 その、束の間。

[ハロ、いよいよ作戦決行が3日後に迫ったぜぃ、お前も決着つける準備しとけよ、念入りに念入りに、そんじゃねー]

 明るく朗らかな声でそんな念話が彼の頭に響く。
「へーいへい…」
 その声に楽な声で答えながら、彼は転送魔法を開始する。
 向かう先は、アリーゼのサポートに従い時空管理局地上部隊本部。
 血の海の中、月光の降り注ぐ真夜中に穏やかな顔で彼は消えていった。


■□■□■


「ダイスロール――っと、7か、妥当な数字だな」
 2つのサイコロを振りながらイロは呟く。
 彼の対面にはミカエルが座っている。彼らの間には、一つのゲームボードがあった。
「7ターン夏ね、種まき――はいいか、貯蓄あるし今回は攻めることにしよう」
「げ、マジかよ、ポイント3つ使ってカードドロー」
 自らの側にある銀色のコインを3つミカエルに放り投げ、ボードの横にあるカードを引く。
 それを自分の目の前に置き、それからまたコインを1枚投げた。
「種まくわ、判定――は、確か4以上で成功だったよな」
 言いながらサイコロを転がす。出た目は、2つ合わせて8。
「成功、それじゃあ西領土に、貯蓄も少ないし、今回は攻めるのは見送りだな」
 苦笑しながら、手元にある最後のコイン2枚を、ミカエルに放り投げた。
「種まき、2つとも」
 それからサイコロを振る。目は、一回目が6で2回目が3.ほぼ最低数値。
 それを見て更に苦笑するイロ。一回は失敗に終わった。
 月は高いが、2人にはまるで眠る気配が無い。イロの後ろでは、相変わらずパソコンが動き続けていた。
「んー、俺のターンね…とりあえず種まく、ほい」
 コインをイロに放り投げて、ミカエルが呟く。
 それを空中で受け取って、ダイスロール、と気の無い声でイロは呟いた。
「成功」
「よし、攻め込むか、コイン2枚で軍隊一個作る、貯蓄も足りてるし冬には何とか城一個落とせるだろ」
 ミカエルは淡々と呟きながら、次々動作を進めていく。
 それをぼーっと眺めながら、イロは空を見上げた。
 この部屋に電気はついていない。月明かりだけで、彼らはこのボードゲームを行っていた。
 空にかかる月は半月。冷たい月光だが、それは半分だけ。
「おーい、イロ、イロ、どうするんだ? 東領土に攻め込むぞ」
「――ん、ダイス判定、こっち拠点だから無条件で6が一個、部隊1個しか置いてないからなー、4以上出るかなー」
 言いながらダイスを振るうイロ。
 乾いた音を立てて、其れはボードの上に転がる。
 同時に、パソコンが一つ音を立てた。
「…中断、ゲームこのままとっとこう――全部終わった時に、奇跡的に残ってたら途中からやろう」
「それこそ奇跡だ、そうだろう? この世界そのものが地獄と化すのに、何故これだけが残っていられるのか」
 笑いながらミカエルは立ち上がる。イロは、さっさとパソコンと向き合った。
 最後に見たダイス。
 それが3の目を指していることに、彼らは僅かに苦笑した。
 流れる穏やかな空気が今だけのものと彼らは知っている。
 ミカエルは振り返ることなくその部屋を出て行く。

 空には半分の月がかかっていた。


■□■□■


「あー、つっかれたぁ…」
「お疲れ様でした、副長」
「シャワー浴びてきたけど、くそ、血の匂いまるで消えねぇ」
「そうでもないですよ、大丈夫です」
「はっ、結局の所魔法使いってのは血塗られた道しか歩けないんだろな
 どの世界に渡り、どの世界で、どの秩序であろうとそれだけは同じ、笑っちまわぁ」
「そうでもないんじゃないですか」
「いいや、変わらないさ」
「だって、なのはちゃんたちは未だに血の上は歩いていません」
「そーかい、時間の問題だ、それにあいつらだってもう人殺しくらいはやってる」
「…」
「何時だってそーさ、犯罪者って連中は、結局俺らが原因で死ぬんだ――自分で捕らえた連中がどうなってるか、あいつらが知らないわけじゃないだろ、極刑死刑終身刑、どれもこれも死の原因は捕らえた奴だ」
「副長、それは」
「ああ、解ってる解ってる、俺は犯罪者にはなりたくないんですよーっと」
「ならいいんですけど、下手すれば1級犯罪者の仲間入りですよ、発言には気をつけて」
「へっへっへ、解ってるさアリーゼ――次、何処の組織全滅させればいいんだ、俺は」
「339世界、スクライア司書が纏めてくれました、どうぞ」
「んー? はぁ、こりゃまた大規模な組織だな――どっかに協力仰ぐかな」
「信用できる仲間ならいいのでは? 口が堅く、信用できる、それが貴方と共に動く絶対条件でしょう」
「ならお前は却下」
「酷いっ!」
「酷くないっ! てめぇ俺の秘密ガンガンばらしやがって、お陰で俺の戦技教導隊としての位置はガタガタだっ!」
「えー、いいじゃないですかー、女性嫌いでも」
「んなわけあるかっ! いいか、次ある事無いこと言いふらしてみろ、お前首から下の自分の体を正面から見ることになるぞ…!」
「鏡に映すんですか?」
「首を切るんだよ!」
「やめてくださいよー」
「うるせぇっ! このヤロー!」
「良いじゃないですかー、別に、貴方の真実に触れるようなことは何一つ言いふらしてませんし」
「…お前自分の魔法がどれだけ危険か解ってるだろうな、俺以外にバれてみろ、間違いなくお前の後ろを守る奴はいなくなるぞ」
「でも、貴方が守ってくれるでしょう」
「いいや、俺はお前を近々守れなくなる」
「あれ?」
「敵になるんだよ、近々――俺は、此処を、敵に回す」
「…ウリアさん?」
「上に自由に言ってもらって良いぜ、今の一言、だって本気だからな」
「――」
「お前は逃げたほうがいいぜ――それじゃあな、次、行くわ」
「…はい、先ほどの一言、保留しておきますよ、私、貴方は気に入っていますから」
「そーかい、好きにしな」
「はい、好きにします、貴方もご自由に」
「あいよ――でも、サンキュな、アリーゼ」
「記録にも残らない言葉では信憑性に欠けますからね、そういうことにしておいてください」
「わぁったわぁった! ああ、そうそう高町教官には明日俺の分の相手もさせとけ、アイツ、叩けば伸びるから、明日は俺用事があるんだよ」
「わっかりました、明日は私も参加しますよ」
「やめろ、お前が参加すると戦闘不能者続出するぞ、どうせだしアイツの友人参加させろよ、最後の自由だ――」

「好きにやらしてやれ」


《to be continued.》





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