出会いが夢でしかないのなら、せめてそれを忘れないように1日1日をかみ締めて生きていこう。 人と人との関係は、まず別れを前提に成り立っているのだから。 生き別れ、死に別れ。それは誰とて例外は無い。あるとするならば、それはきっと不老不死。ありえないと断言する。それは既に人ではない。 人は1人では生きられないが。 人は1人でしか生きられない。 『光の子』―Aura.― 第九話『6日目(3)――1日目終了』 戦場が混沌を極めていた。 数で劣る犯罪者群たちは、それぞれ自分たちの実力で局員を落としていく。 混乱している間はこちらの有利。 混乱が収まれば間違いなくあちらが有利になる。 「…開戦より6時間」 戦場を遠くから眺めて、アゲハは呟く。 そして続けて呟く。 「残り、4時間」 此処は、戦場だ。 本来ならば観覧席、閲覧席は存在しない。 だが彼は戦士だ。それは疑いようが無い。彼の周りには、多くの敵が倒れている。 気絶し、折り重なっている彼らの上に腰を下ろし、彼は一つ息をついた。 結構無理をした。 しかしそれでもまだ、この混乱を収められるわけには行かない。 こちらの戦力はまだ1つも落ちてはいない――筈だ。念話妨害は良いことばかりではない。自分たちの状況もわからない。 管理局は、教えられた限り落とされたのは2千名ほど。見た限りでは、もう少々落ちている。 相手の全戦力の、これでまだ10分の1。先は、長い。時間が経てば経つほどこちらの不利になるのは間違いが無いし、これでもまだ時空管理局地上本部は全戦力で無いから困る。 日が昇ったら大変だろうな、と彼はぼんやりと呟く。 血は流れていないゆえ、凄惨さはあまり無いが、あたりに上がる火の手は十分惨状をあらわしている。 とりあえずこちら、犯罪者チームは楽しんでやっているらしい。 そもそも時空管理局に恨みを持つ人物が予想以上に多かった。 多くて700名程度だろうと思っていたのだが、1000名以上集まった。 ――だからといって困るわけではない。戦力に異常なさがあるのは変わらないのだから。 100の相手に1が2になったところで同じこと。 「…鬼、竜は残り4匹、悪くないペースだ…鵺はまだ暴れてるか」 目を閉じて彼は呟く。 あたりに倒れている人たちを見て、彼はかすかにため息をつく。 イロ、エル、シクルドの戦闘は終わりそうに無い。いや、イロはとりあえず適当に落としてはいるようだが。 ミカエルはどこかを走り回っている。恐らく機器を破壊して回っているのだろう。 ならば自分はどうするべきか。 「睡眠時間6時間取るとして、次回行動は2時か、そろそろ戻りを伝えないと」 首を鳴らしながら、夜空を見上げる。 雲が出てきていた。火が出ていた影響だろう。きっと近いうちに雨が降るだろう。 「よおーっす、アゲハ」 「あれ? イロ?」 適当にベースを担ぎながら、笑ってイロがアゲハの横に降り立つ。頬が一筋切れていた。血があまり流れていないのは、時間が経過しているからか。 全身に負傷はあまり無く、目立つ傷は4つほど。そのどれもがあまり深くは無い。というかバリアジャケットが切れているだけのようにも見える。 「5,6人ばかり魔力ランクが上の連中落としてきた、明日どうする? 俺出るか?」 「出なくても良い、ていうか下手うって死なれたら困るから、出るな」 座り込み、ため息交じりにアゲハが答えた。 あいよ、と苦笑しつつその隣に腰を下ろすイロ。上空で、誰かと局員が交差し、そして離れていく。速すぎて軌跡にしか見えない。 混戦状態になっているところも多いが、しかしそれでもまだ犯罪者たちはよく頑張っている。 「お、2人居たか」 「エル? 八神はどうしたんだよ」 「飽きたから戦闘放棄してきた、弱いんだもんあれ」 黒い十字架を地面に突き刺してエルは座り込む。 へらへら笑ってるけど其れって結構問題ありなんじゃないのか、と聞くかどうか悩み、しかし結局アゲハは何も聞かないままに再び上空を見上げる。 「おす」 「ミカエル、お疲れ様――あれ、何か集まってきたな」 「あー、あれお前かあ、鬼でも竜でもないし何かなーとは思っていたんだけど」 金色の長い髪の毛を揺らし、軽く息を切らしながらミカエルがそこに現れる。 イロの言うあれとは、黒煙の吹き上がる大地に未だに座して暴れる化け物のコトだ。 巨大な化け物の骨を繋ぎ合わせたかのような巨体。一凪ぎ一振りで局員を次々沈める破壊力。 背骨に竜のものを使い、他の巨体の骨を次々繋ぎ合わせたちぐはぐな体。肉などまるでついていない。骨ばかりだ。 それでも尚動いているあたり、あの巨体は相応に異常だった。 「鵺の本体だ、まあ初日飾るには最高の召喚獣だろ」 ミカエルが解説しながら座り込む。 遠くでは未だに鵺が暴れていた。“愚者の鵺”の周りには多くの局員が居座っている。鵺が落とされるのもそう遠くあるまい。 「良いのか?」 「――ああ、別に落ちないとは、思う、鵺はあれで生き残るのは得意だし…」 アゲハの言葉に、やや悲しそうにミカエルは返す。 被害は覚悟の上。その上で、彼らはアゲハと共に戦っている。 足音が一つ響く。一斉に全員がそちらを振り向くと、シクルドが見えた。全身にやや深い傷が伺える。服が破れまくっている。 「うぃーっす、ケリついたか?」 「…あのフェイトじゃ殺してもしょうがない、俺が殺したいのは家族を殺したときのフェイトだ、優しく笑う雷の化身だよ」 不機嫌にシクルドは答えて、壁に背を預ける。 そこは路地。いくらでも民家の壁があった。あまり破壊もされていないし、休憩するならばうってつけの場所だ。 同時に、実は結構見つけられやすい場所でもある。 「あ、管理局だ、見つかってらー、けらけら」 「貴様ら、何をしている!?」 「休憩、つっても通じねえか」 詰まらなさそうに言ってナイフを構えるシクルド。 大きく伸びをしてエルが立ち上がり、同じようにイロが立ち上がった。ミカエルとアゲハは未だに座りっぱなしだ。 上空に見える局員は凡そ10名。普通ならば恐れる数だが、しかし今は恐れる所ではない。 「お前らは休んでろ、適当に片付けてくる」 「ストレス発散――ああ、これ終わったらウリアの側に戻るから、また明日」 「じゃ、ちょいちょいと、やりますかあ」 口々に言いながら、余裕の態度で3人が飛翔する。 残されたミカエルとアゲハは座り込んだまま、空を見上げた。 赤い光に照らされた空は、少しだけ綺麗に思えた。 “虚の番犬”イロ、シクルド、エル。 管理局員10名。 交戦開始。 鬼、竜残り4体。 管理局、人数不明。 犯罪者15チーム。残り1224名。(後方支援除く) ■□■□■ 「鋲撃ち!」 《ホワイトラッド――術士ウェア》 叫びと同時に手から数本の釘が飛び、それらが空間に固定される。 同時に彼は両手を合わせ、一息の元に叫ぶ。 「封!」 ――はじけた。 鋲の間に居る局員が1人、墜ちていく。その後ろを誰かが駆け抜けていく。 「うっるああああああ! 大焔斬!」 《ルカリ――ホムロ : リーダー》 巨大な斧を振り回し、腹を局員にたたきつける。斧からは炎が噴出し、空気ごと局員を焼いていく。 どちらにしても死んでは居ない。あくまで非殺傷設定。彼らに殺す気は毛頭無い。 「ふっ――!」 更に彼は斧を振り回し、シールドを張った局員をその上から叩き潰していく。 離れてください、と何処から声を聞き、彼らは躊躇わずその場を離脱していく。 「“天”の槍、投槍“ヴァジュランダ”――!」 《孤燐――砲撃魔法士ククゥ》 巨大な砲撃魔法が辺りを掃討して行く。 一つ大きく息をついて、砲撃を放った彼はそのローブの下に腕をしまいこむ。 魔法を溜め込み、それを放つ。彼の着ているローブには特殊な魔法が織り込んである。 「虚の番犬から連絡ー! 撤退命令撤退命令!」 「あいよ! どうせこれ以上は無理あるしな――“ルカリ”、リーダーホムロ! 殿を務める! 行けお前らっ!」 「付き添います」 《エンディミオ――2番隊隊長 空戦特化型魔法士カギカ》 「ああ! 混ぜろ混ぜろっ! いくぞおらぁっ!」 《“エイズル”――近接格闘士 ファーラント》 次々叫び、彼らは局員へと向かっていく。 戦線を離脱するもの、戦闘へと向かっていくものと、その行動はさまざまだ。しかし撤退といわれたからには最終的には全員撤退せねばならない。 急ぐ必要がある、と誰かが呟いた。 当然それくらいは承知の上だ。 ホムロが斧を振り回し、局員を沈め――同時に放たれる幾重もの多重射撃魔法。防ぎきれないと判断したか、その顔に焦りが浮かぶ。 それでも斧を前に突き出し、シールドを展開し――。 彼に当たる前に、それらの射撃魔法が全て弾かれた。 「ちぃっす! 無茶してんな“ルカリ”」 「…“ABYSS”か、悪い、助かった」 高速機動型機動兵器、クレルコーン。 所々で傷ついているものの、まだまだ戦えそうだ。少なくとも、先ほどの射撃魔法を弾くようならば十分だろう。 軽く息をついて、搭乗者のユイッキは笑う。 「いや参った参った、一発も被弾するつもりは無かったんだが、高町なのはにガリガリ削られたぜ」 「おい、後ろ」 ユイッキが暢気に何事かを呟いていると、ホムロが後ろを呆れて指差す。 彼が疑問符と共にそちらを振り向けば、砲撃魔法と射撃魔法の嵐が撃ち放たれようとしているところだ。 「うわっ!?」 「暢気に喋ってる奴があるか馬鹿! 何とかしろ何とか!」 出来るか、などと叫びながらそれでもクレルコーンを起動させるユイッキ。 しかしそれで終わりだ。クレルコーン等の機動兵器は起動させてから行動に至るまで多少のタイムラグがある。本来ならば傷がつかないはずの戦闘で傷がつくのはそういうタイミングを見切られたからだ。 僅かに舌打ちして、シールドを全開で張る。だが不出来。短時間で編んだ魔法ではこれらの収束砲撃魔法は防げない。 収束砲撃魔法がシールドに着弾し――そして全部防ぎきった。 「…ふぅ」 微かにため息をつくユイッキ。 後ろを振り向きながら、彼は楽しそうに笑う。 「遅いよ、お前ら」 砲撃を防ぎきったシールドは彼の代物ではない。 彼と同じように空を飛ぶ機動兵器が、2つそこに点在していた。 「はっ、なーにが遅いだボケ、てめぇ一人で勝手に突っ走りやがって、元はといえばお前のせいだお前の」 《“ABYSS”――第三の騎士グラハット》 「…」 《“ABYSS”――第六の騎士ナギラ》 愚痴文句を垂れつつ、ガリガリと頭を掻くグラハットと、完全に無言のナギラ。 ふん、と鼻を鳴らし、それからグラハットはホムロたちに向き直る。 「“ルカリ”“エンディミオ”“エイズル”――殿はアタシ達で勤める、行きな」 「悪い、助かる…そんじゃ、また後で会おう」 素直に例を述べ、ホムロ達は戦線を離脱した。 状況によっては、殿は掃討戦の対称になる。この状況、確かに彼ら以上の殿を務める存在はいないだろう。 僅か11名からなる次元間犯罪者のチーム、“ABYSS”。未だに彼らが捕まらない理由は、これらの機動兵器が彼らの手元に10個存在しているからだ。 単に、彼らの持つそれはロストロギアと呼ばれる。“ABYSS”の彼らは、それをそうは呼ばない。 「そうそう、第一の騎士もご立腹でしたよ、命が惜しければ近付かないほうがよろしいかと」 「えぇー!? 黙っててくれるって言ったじゃん! ひでぇっ!」 「だーれがてめえとの約束なんざ守るか、勝手に行動したツケくらい自分で払え」 悪態をついて、グラハットが動く。 機動兵器ヴィスニス。防御に特化したそれは、先ほどの収束砲撃くらいならば容易に防ぐ。 すっと腕を振り上げ、同時にナギラも無言のままに動いた。 「王機機動! ――後で覚えてろ、第三の騎士」 「王機機動、はん、忘れたよ第八の騎士」 「…機動」 3つの王機が動く。 殿を勤める彼らが、1日目最後の戦線に赴いた。 “ABYSS”第三、第六、第八の騎士。 撤退戦殿、交戦開始。 鬼、竜残り4体。 管理局、人数不明。 犯罪者15チーム。残り1224名。(後方支援除く) ■□■□■ クロノが鬼を一撃で落とす。 混乱に乗じて大分局員が落とされた。おかしなことに、誰一人として死んではいないようだが。 鬼と竜は残り3体。急いで落としていく必要がある。 暴れているのは鬼と竜だけではない。少し遠めに見える場所で暴れている何か。あれが一番厄介だというのは、解っていた。 「…焦ってもしょうがないか」 足並みは揃っていないが、しかし戦力差で何とか圧倒できる。 ――どうせこのまま終わりはしないだろうが、とりあえずの危機は回避できるだろう。 相手も段々と戦線を引いてきている。数の出てきた管理局相手に流石に真っ向から挑んでくるわけは無い。とりあえず被害は抑えられそうだ。 街からは火の手が上がり、辺りは壊滅し放題。地上本部は被害を殆ど被っては居ないが――これで被害が無いというのは、嘘になる。 被害は出た。 圧倒的な被害が。 「…しかしこれだけ被害が出てて、あまり凄惨さは無いな」 呟く。原因はわかりきっていた。 血の匂いが少しもしないのだ。 これだけ破壊をしておきながら、まるで血の一滴も流してないというのか。 意味が解らない。相手は一体何を目的としているのか。 しかしどちらにしても、面白い話にはなっていない。 誰も死んではいないとはいえ、これだけの大事だ。管理局本部との連絡が取れれば直ぐにでも増援を頼みたいくらいだ。 それも今は適わない。 念話妨害だけではない。電波の妨害も行われている。局内の通信機器は全部ダメだが、流石に携帯電話の類は使えるだろうということに対する策だ。 増援どころの話ではない。 連携もまともに取れていないのだ。 「…クロアゲハ、こういう意味があったのか――だが、本当にこれだけか?」 例のクロアゲハの喋っていたことを小さく口の中で呟くクロノ。 敵は隣にいるものぞ。 つまりは、こういうことらしい。 ろくに連携が取れていない。 疲れも溜まっているだろう。視覚的にも、聴覚的にもこれは辛い。精神的といえばなおさらだ。 だが、本当にクロアゲハの意味はこれだけだろうか。 何か他にもありそうな気がしてならない。 これだけのコトをした以上、これから先クロアゲハは役に立たないだろう。誰もが見れば撃退するはずだ。アレは敵だと認識された。 「――解らん、何をしたいんだ、虚の番犬は」 これだけの数の犯罪者群を集めて――中には次元犯罪者も居る。此処、ミッドチルダのチームもあれば、時空管理局が総出をあげて追っている次元犯罪のチームもあった。 これだけ地上を混乱に陥れて。 未だ一人の死人すら出さず、一体何がしたいのか。 「…待て」 ぴたりと、クロノは思考を止める。 今自分は何を考えていた。死人が出ていないと、思っていた。 これだけの大事で、血の匂いがしていない。死人が出ていないからだろう。 これだけの大事が起きていて――。 住民にすら被害が出ていない、というのか。 慌ててクロノは地上に降りる。 民家の一つに入り込み、中を調べる。誰も居ない。 それが彼らの張った催眠結界によるものだと知らないクロノは只混乱する。 いや、彼ならば何れはその結論に至れるだろう。 問題は何故そんなことになっているかである。 「――人を殺すわけでもない、狙って破壊しているわけでもない! 集めるだけ集めて何をする気だ、もうワケがわからん!」 叫びながらクロノは家を出る。 この状況。確かにクロノ達時空管理局には不可解だろう。 彼らの目的は至極単純だった。 時空管理局に一泡吹かせてやろう。 それだけを目標として、彼らは集まったのだから。 犯罪者全15チーム、総数1282名。 墜ちたのは未だ、1名。 ■□■□■ 「バックホーム! いぃっよっしゃあああああ! ってか鬼とか竜とかまだ暴れてるー、いいのかあれ?」 「お疲れー! 食事できてるよー!」 「あれ? 部屋広くなってねーか」 「そりゃ拡張したよ、流石にあの部屋で1200名強は入らないから」 騒ぎながら彼らはそこに舞い戻る。 全身傷ついたもの、服装がぼろぼろなもの、機動兵器が一部破壊されているもの――。 状況はさまざまだが、一様にみな満足そうな顔をしている。 「1人墜ちたって聞いたけど?」 「あ、ウチの奴だ、ウェステが墜ちたんだよ、まあありゃトロイの木馬だから大丈夫だ」 「何其れ?」 「知らん知らん、何か言ってたんだよ」 ブラックルームで笑いあう、彼ら。 クリムゾンファミリーの1名が墜ちたが、それくらいならば十分だ。相手は2000名弱が落ちたのだから。 そして彼にしても平気だと、リーダーのエッジが笑っている。 予想以上の戦果だった。 そして、相手は誰一人として死んでいない。 ――これは最上級で上手く行くかもしれない、とアゲハは笑う。 辺りでは既に酒が入り、物凄い笑い声が響いていた。 「あれ? おい虚の番犬――シクルド? お前なんでこの刀つかってねーの?」 「…銘が決まってない、銘が無ければどんな名刀も、ただの鈍だ」 ガラスのコップに酒を注ぎながら、シクルドが答える。 へぇー、とその刀を眺めながらファーラントは首をかしげた。 「そんじゃ名づけてやるよ」 「要らん」 「月祭、ってのはどうだ? 良い名前だろ」 ファーラントの言葉に、シクルドは僅かにため息をつく。彼の話など微塵も聞かれていない。 だが――。 「良い名前だ」 呆れ気味に、シクルドは呟いた。 そーだろー、とファーラントは無邪気に笑う。貸せ、と刀をファーラントから取り上げるシクルド。ナイフを取り出し、刀の鍔本に名前を掘り込んでいく。 月祭。 それらの光景を見て、アゲハが笑っていた。 「飲んでるか虚の番犬ー!」 「いや君ら明日も出撃でしょ、飲むなよ」 呆れ気味にアゲハが笑う。 相手は、クリムゾンファミリーのリーダー、エッジ。 「硬い事言うなって、ほら、あそこ思いっきり飲んでるぜ!」 「イロぉー!? …お約束は終わったよ、で、何か用事?」 「つめたっ!」 やけにテンションの高いエッジだが、どうでもいい。 アゲハは食事をしながら、ブラックルームから外を眺める。 破壊された家々。火の手の上がる大地。地獄に近い、この光景。 だが、まだ。 血は一適たりとて流れていない。 「いやぁー、ウチの奴が落ちちゃったからねえ」 「…下っ端だよね、よく名前を覚えてる」 「俺は、俺のチームの奴の名前は全部忘れない」 アゲハの揶揄に、彼は少しだけ力をこめて答える。 その口調は真剣そのもの。自然、アゲハも口を閉ざす。 「どんな屑でも、どんな間抜けでも、俺は忘れない、俺のチームの連中は俺の家族だ、誰が死のうが誰が入ろうが忘れるものか」 「…」 「そして俺が居る限り、そう簡単に死なせはしない、誰も見捨てるなというのが俺たちの家族、クリムゾンファミリーの掟だ」 酒が入っているということすら忘れさせるほど真面目な声。 クリムゾンファミリーだけではない。犯罪者群は、実際結構仲間意識が強い。 派閥も何も関係ない。 自由に集まった奴らだから、彼らの絆は何処までも強かった。 「――死んでも誰も恨まないよ、虚の番犬、安心しろ ここに集まった奴らは時空管理局に一泡吹かせられるなら、命を投げ出すさ 楽しいことが大好きなんだよ、結局は」 楽しそうに笑い、宴に戻っていくエッジ。 クリムゾンファミリーに限らず、彼らは楽しいことが大好きだった。 苦しいことも多い。 けれどそれ以上に楽しいことがあった。 「…“こんなの余興だよ、その余興だって楽しいけどね、けどこの後もっと楽しいことが待ってるじゃない、アンタも今日から友達だ、楽しいことを、一緒にしよう”――」 ぽつりとアゲハは呟き、から揚げを一個口に放り込む。 悲しそうに笑い、彼は腰元からナイフを一本取り出した。辺りを見回せば、楽しそうに笑う虚の番犬の面々。 此処に虚の番犬のエルは居ない。彼だけは時空管理局に戻っていった。 「アンタか! あいつら召喚したの! 何々、あんたが制御してんの?」 「半分以上してねえよ、俺が死んだらあれ勝手に暴れるから注意しろよ、だれかれ構わず殺し始めるぞ」 「こっち、皿たりねえー!」 「酒よこせ酒ー!」 「こっちは水だっ! 泡吹いてんぞ! 大丈夫かお前ー!」 「次の作戦何時開始ー!?」 「穴大丈夫だろな」 あたりからは多くの楽しそうな声。 意気は完璧。物質も大丈夫。彼らの体力も十分にみなぎっている。 否、此処にいる彼らは恐らく3日くらいならばぶっ通しで戦い続けられるだろう。 「つうかお前らちゃんと休めよ、明日までは奇襲だけど明後日からは全面戦争だぜ?」 「今悩んでもしかたねーって! 楽しもうぜ!」 「ぱ、ぱらっぽぷ…」 「やめてー! サラグはお酒弱いのー!」 「ふに、寝てた寝てた…あり? まだ夜? 寝るわ」 夜が更けていく。 楽しそうな嬌声。響く歌声。心地よいメロディー。 近所迷惑も考えなくて良いこの場所ならば、幾らでも騒ぐことが出来る。 そうして――。 今宵、1日目が終了した。 被害は犯罪者側1名、管理局2000名弱。 市街、東部全壊。 鬼、竜全滅。鵺、壊滅。 初日勝利、犯罪者連合。 《to be continued.》 |