「え? 地上本部と連絡が繋がらない?」 「そうなんですよ、頼まれてた資料とかこれ渡せなくてどうしましょう」 「…困ったな、クロノの奴に頼まれた資料もあるんだけど、しかし何だったんだろう、ウリアさんの調書って、数枚分で終わるような量だぞコレ、普段のアイツからは考えられないなあ」 「司書長、どれくらい寝てませんか?」 「3日と4時間」 「リアルな数字だ…ああまた栄養ドリンクが、早死にしますよー」 「いやそれはどうでもいいんだけど、地上本部と連絡が繋がらないのは」 「よくありませんが、クラッキングやら何やら受けて地上本部大変だそうですが」 「困ったな…この調書、どうしようか、いい加減置き場がないんだけど …って、何? クラッキング? え、どうなってんの?」 『光の子』―Aura.― 第話『7日目――時空管理局特別提督』 げほっと思い切り煙を吐く。 ぶへっと思い切り煙を吐く。 そして2人同時に瓦礫の下から出てきた。 「死ぬかと思った…! 後0.2秒シールドはるのが遅かったら死んでた…!」 「ギリギリでシールドが張れてよかった――よし、被害も最小限に抑えられたな、喰らったのは我々くらいだ良かった、良かった」 同時にキリエとウリアは立ち上がりながら、助かった、と口々に言う。 連携魔法“竜の咆哮”の被害にあったのだ。といっても、破壊された中央議事堂の瓦礫が落ちてきただけだが、それでも充分被害甚大である。とっさにキリエが巨大なシールドを張り、ウリアが自分たちの周りにシールドを張ってことを逃れた。 実際、死ぬような目にあったのだが、余裕綽々である。辺りに余り被害を出さず、且つ彼らも生き残っている。大した成果だ。 「あぶねぇなあいつ等、何考えてんだよったく!」 「地上本部に余り被害を出さずに済んだ、まあ――酷い状態なのは疑いようがないが」 崩れた中央議事堂の瓦礫が、丁度彼らの上に降り注いだ。 気づいた瞬間にキリエとウリアはシールドを張り、戦線を離脱。ウツロギとキジも戦闘を止めて2人の間に割って入った。 「あ、中央議事堂に穴開いてる」 「うわ、どうしようかアレ――アゲハの奴そろそろ上に跳んで貰わないと、下に戦技教導隊が降りてくる前に決着をつけてもらわないとなあ」 「上にいたら…ってああ、そういやそうか、6割がた館の産物だったなあいつ等」 上空を見上げながら言い合うキリエとウリア。 そして槍を構えて、ウリアは隣に目をやる。瓦礫を押しのけて、ウツロギが出てくる。隣には仮面の剣士キジが同じように。 「よう、生きてたか」 「あんたらに助けられたカタチだけどな、キジの刀折れちまった、俺ら下がるわ」 「ヴォヴ…」 「いーんだって! 大丈夫大丈夫! どーせ明日までパーティ続くからさ!」 ばんばんとキジの肩を叩きながらウツロギが笑う。 そしてそんなやり取りを見て、懐かしそうにキリエは笑った。 何時か同じ光景を見た。 もちろん状況は全然違うけれど。 「…明日にはノーバディが大量出現するな、私は地上本部の中に行くよ、まだパーティは続いているようだし」 「おっけい、お前らもさっさと帰れよ、ブラックルームまでいけるな?」 おう、と頷きウツロギとキジは駆け出す。地上本部ではなく別の場所へと向けて。 本当に帰れるのかやや心配だが、しかし其れを心配してもしょうがない。ウリアは大人しく、地上本部へと足を向けた。 一部が完全に瓦礫と化しているのはご愛嬌だろう。あの砲撃の余波を食らったようなものだ。これで済んでむしろ幸いである。 彼らは再び戦場へと戻る。 例えそこがどんな地獄だろうが、関係ないといわんばかりに歩き出す。 「明日は盛大にパーティだ、武装を用意しておく必要がありそうだなあ」 「どっちに付くよ、キリエ」 「んー、まあ別にどっちでも、多分管理局側じゃないかな、まあどっちについてもノーバディと戦うのは変わらないけどさ――」 笑いながらのんびりと地上本部へと戻っていく2人。 暢気なものだ。中では未だに戦闘が続いているというのに、この2人にとっては此処は日常なのだろうか。 この程度なら艱難辛苦と呼ぶには至らない。 そう呟いて、キリエとウリアは地上本部へと戻って行った。 戦場へと、戻って行った。 ■□■□■ なのはの砲撃魔法が放たれる。非殺傷設定が笑い話にしか思えないような破壊力。 流石に狭い通路でコレは避けきれないのか、エイムは皮肉気に口元をゆがめて、腕を顔面の前で交差させる。そして、直撃。 エクセリオンバスター。 高町なのはの決め手の一つである。超長距離を砲撃するにあたり、コレは相当利便性が高い魔法だった。無論近接で放てば放つほど威力が高まることも変わらない。 「…」 「あ、がはっ…!」 だが、立っている。 その直撃を受けて彼は立っている。全身ガタガタと震わせて、満身創痍には違いないが、立っている。 意志の強い目でなのはを見やるエイム。 だが戦うことはもう出来ないだろう。彼らの武器はその肉体。故に、傷が付けば一瞬にして崩れ去るのだ。だから彼らは攻撃に当たろうとしない。全て回避する。 「は――無理か、くそ、何度か惜しいトコまで行ったんだが…! スフィアの威力、高いな、アンタ…!」 「レイジングハート、バインド!」 『了解、マスター』 なのはが素早くバインドをかける。全身に一つ、両手両足にそれぞれ4つ。一つ巨大な輪が現れ、それが収縮して全てを拘束した。 普段の彼らならば楽に回避し、その一瞬で相手を殺せる魔法。 今の彼では避けることも叶わない。 「っ、かあー! 捕まっちまった…息切れした、疲れた、寝たい、腹減った」 不調を訴えまくる彼である。 なのははそんな彼の前に降り立って、にこりと優しく笑った。状況が状況でなければ、あるいは目の前に居るのが彼のような異常者でなければ、確実に目を奪われるような笑顔だ。 その笑顔を受けてか、彼もにぃっと凶悪に笑う。 「よぉ、管理局、何か聞きたいことでもあるのか」 「それは沢山あるの、でもとりあえず捕らえたから、貴方たちを捕らえるのも不可能じゃないって解ったから次を捕らえる」 「へ? ああ――そっか、アンタ上位5名とは戦ってないんだ、あいつ等魔法基本的に効かないぞ、まさっきの遠慮無しの砲撃とかなら別だけど、魔法コーティングしてあるし」 なのはの言葉に、彼はぺらぺらと情報を渡す。 ――そんな簡単に渡してもいいものなのか、それとも渡した所でたいした支障はないのか、堂々とベラベラと彼は喋っていく。 「特にバインド系統は壊滅的、捉えられるのは俺みたいな下位クラスだけ、つってもその1人は常に出てこれないんだが」 「…あの、そんなに喋っちゃっていいの?」 「かまいやしねー、どうせこっちが負ける勝負だ、娯楽で一々隠し事してたら楽しめないだろーが、どうせ最後の切り札、最後の一人については一切の情報を渡さないんだ、これくらいは許されるさ」 かはは、と笑いながらとんでもないことを言う彼。 どうせ負ける勝負とわかっている。 最初から負けるつもりで挑んでいる。――確かに戦力差は絶望的だが、そこまでいえる材料があるのだろうか。 そして、何より。 「娯楽?」 その一言が、なのはの頭に血を昇らせた。 「娯楽、娯楽って言ったの!? 何人も死んでるのに!?」 「はぁ? これくらい娯楽の範疇じゃねーかよ、何人もって何言ってんだ、高々5千を突破しないような数だぜ? 一山幾らの人間――」 乾いた音が響き、エイムの言葉が強制的に中断される。なのはが彼の頬を思い切り叩いた。軽く息を荒げている彼女を見て、彼は大きく笑う。 ぐるんと、頭を元の位置に戻して言葉を続ける。 「何怒ってんだよくっだらねえ、戦いは死が前提だろうが、何勘違いしてんだよアンタ、非殺傷設定とかふざけたこと言ってる時点でな、あんたたちの戦いはそもそも娯楽なんだよ」 「違う! 私たちは死者を出さないために戦ってるの! それを殺しちゃったら意味が無い!」 「そして捕らえる、きははは、阿保かっ! 捕らえた連中がどうなってるか知らないわけじゃないだろうが! 更正何て無理に決まってる、どうせ同じようなことを繰り返すさ! そして今度は殺すんだ! 殺さずに済む例外はほとんどいねぇよ!」 げらげら笑いながら彼は言葉を続ける。 なのはが歯を食いしばり――だが、手を挙げずに、その手を下ろす。 こんな所でこんな事をしている場合ではない。速めに気絶させる必要がある。 「第一俺たちにあんな実験下しといて、じゃねえ、あんたは関係ないのか…そういや此処にいる大半、もう“館”のコトは知らないんだな…」 大笑いして、唐突に彼は表情を沈める。なのはの怒りも何処吹く風のように、彼は少しだけ悲しそうな表情になる。 其れを見て、一瞬なのはの怒りも沈んだ。無論、その程度では収まりきらないが。 「…は、そうだなあ、機会があるならこの世界の地下の地下の、また地下へ潜ってみるといい、どうせ残っちゃいないだろうが館の名残が見られるぜ。戦いは娯楽、命は玩具、夢も希望もありはしない――それを俺たちに叩き込んだ世界が、見られるぞ」 元はあんな場所じゃなかったんだが、と笑いながら。 なのはの疑惑の視線も他所に、彼は唯一自由になる口で、自分の舌を思い切り噛み千切った。 「っ!?」 「げぷっ!」 筋肉が収縮し、あっという間に喉をつめる。呼吸が出来なくなれば人の体は十数秒で死ぬように出来ている。脳に酸素がいかなければそれだけでも死ぬ。 「っ! この、また勝手に死ぬなんて許さないの…!」 バインドを解除し、慌てて手を伸ばして彼の口の中に手を突っ込もうとする。 だが彼は口を閉じてそれを拒否する。自由になった両手両足で、その場を一歩で離れた。 そしてそのまま崩れ落ちる。 「――、――!」 最後の最後まで大笑いをしていたのか、彼は笑いながら倒れこむ。 そしてそのまま、ピクリとも動かなくなる。死んだのは間違いないだろう。 どのような状況でアレ、彼らは死ぬことが出来る。 その全身が封じられていようと、極端な話、彼らは指一本ですら自殺が可能だ。絶対に捕まらない理想の兵士。どのような情報をも、有益なものは一切受け渡さない。 「…また、そうやって簡単に! 命は玩具じゃないの、に…!」 膝を突いて、床を思い切り叩くなのは。レイジングハートは無言のまま、何も喋らない。 彼らは酷く簡単に命を捨てる。 それをどれだけ望んでも、手に入らない人たちだっているはずなのだ。 立ち上がり、無言で飛行を開始する。その顔には悲しみと怒りとがごちゃ混ぜになった表情が浮かんでいた。 「行こう、レイジングハート…まだ、戦いは続いてるの…」 『イエス、マスター』 彼女の言葉にレイジングハートは無機質に応える。 振り返ることなく、彼女はその場を離れて行った。 だが、彼女は知らない。 彼ら“みなしご”がどれだけ苛酷な環境にいたかを。 彼らの身体能力が、どのような状況で培われたかを、彼女は知るはずも無い。 ■□■□■ 「…酷い振動が、続けざまに2つ、1つは解ってるけど残りは何だろう…」 言いながら局内を駆ける蒼い人影。 眼帯をつけていて、ナイフを持っている。 彼の名前はアゲハ。 アゲハ=ウィスプ=トワイライト。 「やれやれ、と、結構みな好き勝手やってるなあ、コレ放っといて大丈夫かな」 「あれ、アゲハさん? アゲハさんですか!?」 「うん?」 ぶつぶつと独り言を呟きながら駆けていると、ふと声をかけられる。 その声に聞き覚えがあり、彼は足を止めた。そして彼に向かってくる影が、1つ。 「あ、クロノ提督、お久しぶりです」 「こんな所で何やってるんですか、今ちょっと此処酷い状況ですよ、直ぐに離れてください!」 走ってきた人影はクロノだ。その手にはデュランダルを持ち、その全身はバリアジャケットで包まれている。 クロノは、彼のコトを知っている。 アゲハも、彼のコトを知っている。 「いやぁ休暇とってミッドチルダにきたらコレだよ、僕もう休暇取らないほうがいいのかなあ、毎度毎度不幸になるし」 やや肩を落としながらアゲハは愚痴る。まるで当然のように、クロノに向かって愚痴を言う。 クロノも僅かに苦笑した。彼のコトを良く知っているような対応。 それはやや、おかしい。 アゲハは“虚の番犬”の筆頭。今回の侵攻作戦の頭である。対してクロノはそれの敵だ。それらが馴れ合うなど、おかしいにも程がある。 「いえそれは偶然かと思いますが…兎に角本部へ! あなたに死なれたら困る!」 「いや別に僕が死んでも誰も困らないけどね、はっきり邪魔と言っていいよ、所詮魔力E+ランクの超小物だから僕は、で、トランスポートどっち? 迷ったよ」 クロノの言葉に自分を卑下するかのように言うアゲハ。しかし彼の言葉に賛成なのか、堂々と道を尋ねる。 「こちらです、案内します、アゲハ管理局特別提督」 そして、彼をそう呼びながら、彼は道案内を買って出る。 確かに彼は弱い。守ってあげなければならないほどに、弱い。クロノの申し出も決して間違ってはいない。 「畏まらなくていいのに、僕より君のほうがよっぽど有能じゃない」 「ご謙遜を、貴方に指揮で勝てる人はいませんよ、魔力ランクや戦闘経歴がそのまま強さじゃないでしょう」 「うーん、例えばリンディさんとか、あの人凄いよなあ、ジュエルシード事件に闇の書事件、僕なんかじゃ及びも付かない」 「…訂正はしません、ぶっちゃけると母は僕でも怖いです」 笑いながら駆け抜ける。アゲハの歩幅に比べてクロノの歩幅は狭い。故に、彼は飛行した。そのまま向かう先はトランスポート。 彼は弱い。 確かに弱い。 誰かが守らなければ直ぐに死んでしまうほどに、弱いだろう。だからクロノが守っている。何も間違っていない。 間違っているのは認識だ。 ――彼は敵ではないという、その認識が間違っている。 だが、それは一切間違っていない。 アゲハ=ウィスプ=トワイライト。 時空管理局特別提督という地位についているのは、誰もが知っている事実だ。 彼の指揮能力はきわめて高い。管理局より与えられた地位に間違いなど無い。 つまり、何が間違っているのか、知っているのは彼だけである。 仲間すら知らない事実を、彼は抱えていた。 「ところで下、僕が指揮しなくていいの? 何なら指揮するけど――」 「…それは望みたい所ですが、生憎連携が取れていませんから、連絡網と念話が復活次第上に救援を頼みます、それまではまだ必要になりません」 「ああ、成る程、指揮能力ってのは1000人以上居て始めて発揮されるからなあ、うん――まあ、いいんじゃないか? じゃちょっと上で言っておくよ、戦闘員はなるべく送るように頼む」 「あ、それは助かります、お願いします、アゲハさん」 ■□■□■ 管理局内を飛行する。目指す先は調整室。目的の部屋は直ぐに見つかる。何処にあるかくらいは、彼女は全て把握していた。 扉を開き、その部屋に入った瞬間に絶句した。 真っ先にしたのは、血の匂い。目に入ったのは転がった死体。千切れ跳んだ肉片。光を喪った瞳には永劫の闇が称えられている。 ――部屋の誰も彼もが、死んでいた。 その中でたたずむ、恐らくは生きている人影が一つ。 「…人…ああ、誰か来たの、ごめん、もう目が見えなくて…」 椅子に座りながらその人物は何事かを呟く。 明らかに管理局員でないとわかるその人物は、とっくの当に死に体だった。 腕が一本なくなっている。腹に穴が開いている。肩の肉が抉れている。血がダラダラと溢れている。 間違いなくもう直ぐ死ぬだろう。目が見えなくなっているのも、血が流れすぎている影響なのは疑いようが無い。 「…アンタが、やったんか」 呆然としながらも彼女、はやては尋ねる。 この部屋の惨状は、椅子にかかっている彼女がやったのかと、尋ねる。 「うん、この部屋をやったら次に行こうと思ってた、そしたらなんか来てこの状況、あれなんだろう、人の形はしてたみたい…なんだけど」 「…?」 彼女の話は要領を得ない。 だが、それでもはやては必死になって纏める。彼女 「あ、そうだ、見たことがある、私は…ノーバディ、館の、産物じゃなかったか」 「のーばでぃ?」 「そう、気をつけろアンタ、あれに敵と味方の区別は無い、躊躇い無く殺し続けるぞ、油断した、油断した油断した油断した…! 私が、私が殺して回っていたのに! 悔しい、悔しい悔しい…! 過去に呪い殺されるなんて…! あ、消える、私も、ノーバディになるのか…」 そうして彼女は死亡した。 この惨劇の中、何事かの呪いを言いながら彼女は倒れこむ。 惨劇の部屋の中。何が起こったのか、はやてには解らない。 ただ、彼女が惨劇を巻き起こし、そしてその後やってきた何者か、ノーバディに殺されたという解釈でいいのだろうか。 「…どないなってん、犯罪者連合だけや、無い…? 全く別の第三勢力…? つーか、リィン! リィンフォース! 平気か!?」 部屋の中に慌てて入り込む。辺りのディスプレイや器具はあらかた壊されているが、その魔力だけはしっかりと感知できた。 壊れた器具の隙間から小さな女性が出てくる。その女性ははやての胸に一直線に飛び込んでくる。 「はやてさん! うわーん、怖かったですよー!」 「良かった、まだ最悪の事態は免れたわ…! 何があったか詳しく――っ!?」 飛び込んできたリィンフォースを受け止めて、はやてはぞっとした空気を感じ取り横に跳ぶ。 先ほどまでいた場所が破砕される。 その“何者か”によって。 「あ、アレ! さっきの人を殺した奴!」 「コレか――って、え?」 その姿を見て、薄暗い部屋の中でもはっきりとはやては疑問をあらわにする。 目の前に現れた其れはどう見ても尋常な姿ではない。 ノーバディ。 誰でもない誰か。 姿形はやはり奇妙。腕が3本あり、足は2本。口が幾つも付いている。外にいたのより更に奇形となっている。 「な、何や、これ?」 「解りませんけど――見た目に相当グロいですよね」 はやての呟きに、リィンフォースは適当に答える。 確かにグロイ。 肌は土気色だしその癖口の中は赤い。変に人間らしい所が余計に嫌だ。 そしてそれが動いた。 「っ!?」 想像以上に速い。慌ててシールドをはり、それが間に合う。 確かに速いが、しかし“みなしご”と比べるほどではないかとはやては少しだけ安堵のため息をつく。だが、隙は見せない。 明らかに“みなしご”より遅い。強いか弱いかで言われれば、“みなしご”のほうが強いと彼女は言うだろう。 「それじゃあ、とりあえず、倒れてもらうでっ!」 明らかに人型をしていないのだから、手加減の必要も捉える必要もない。 はやてはそう判断して全力で魔法を放つ。 スフィアと射撃魔法。室内で扱える全力。それらの圧倒的火力をもってして、敵を沈黙させる。 あっさりと相手はつぶれて、沈黙した。 彼女の全力からすれば当たり前の話だ。 「っ! はやてさんっ!」 同時にリィンフォースの叫び声。声に従い慌てて振り向くと、そこには同じような奇形がもう一匹いる。 シールドが間に合わない。迎撃も無理である。リィンフォースがシールドを張るが、アレはどんな能力を備えているか解ったものではない。 「はやて! こいつら絶対単体じゃ行動しないっ! 油断するなっ!」 大声と同時に、ノーバディが吹き飛ばされる。 槌を思い切り振り回し、ヴィータはノーバディを吹き飛ばした。それこそ10tトラックにぶつかったんじゃないかというような勢いでノーバディは壁にたたきつけられる。 「間に合った! 無事かはやて! リィン!」 「ヴィ、ヴィータさぁん…助かりました、これでこの前の分はチャラですっ!」 「は?」 何この前の分ってとヴィータがリィンフォースを問い詰める間に、はやてはノーバディ2体を見やる。 はやては当然、非殺傷設定で彼らに向かった。殺傷設定に切り替えている暇は無かった。だから当然だ。 だというのに、その2体は両方ともばらばらになっている。 「…おかしいなあ、ヴィータはぶん殴ったからともかくとして、ウチは全部魔法や、人の体が何でばらばらになってん…?」 「ほらこの前の!」 「あんなもんクロアゲハのせいだろがっ!」 後ろで言い合っている二人を尻目に、はやては考える。 少しずつ、戦争がおかしくなり始めていることに気づいている人物は、少ない。 ≪to be cotinued.≫ |