「出来ないことばかりに慌ててもしょうがないでしょう 今は出来ることを精一杯、いいね――絶対に、生き残りなさい、最初の目的は、それなんだから…!」 「――解った、出来ないことには挑戦しないよ でも、いざとなったら使う、俺は…兄貴だから、弟を守らなくちゃ」 『光の子』―Aura.― 第二十一話『7日目――喜劇的戦争≪悲劇的抗争≫』 数回金属音。1度、2度、3度と規則正しく鳴る。それにあわせて光が軌跡を描く。 片方は赤く、片方は金色の光。 文庫本を片手に、キリエはその光景を見ていた。 「あくっ!」 吹き飛ばされ壁にたたきつけられたのは金色の光。紅蓮の光が追撃する。 慌てて金色の光、フェイトは転がり大鎌の一撃を回避する。 「優勢だね、エア」 笑いながらスフィアを放ち、2人に当たらないようにノーバディに直撃させるキリエ。 別に大した技術ではない。これくらいならばなのはでも、フェイトでもやれるだろう。最もキリエの視線は常に文庫本に注がれているが。 辺りのノーバディはこれで全滅した。 「よく避けますねぇ、貴女…」 呆れた風にエルは言い、大釜を構える。 紅蓮の炎が鎌に纏われる。 ――フェイトの息はやや切れているが、エアの息は余裕だ。互いに傷は無いが、追い詰められているのはフェイトの方だろう。 「は、は…!」 息を切らし、それでもバルディッシュを構えるフェイト。 まだ負けていないとでも言うかのように、戦いを続ける。 「クス、頑張りますね、でもそろそろ負けを認めていただいては?」 「ふむ、そうだな」 エアの言葉に、応えたのはキリエだった。 驚愕に息を止め、慌ててフェイトは後ろを見やる。文庫本を閉じて、彼女は立ち上がっていた。 「下がりな、フェイト、充分解っただろう、今のままじゃお前は勝てないよ」 「――キリエ、さん」 「私がやる、体力を回復しておきな、傷は無いし問題はあるまい、辺りの連中は片付けたから放っといていい」 フェイトの前に出て、その手にS2Aを構えるキリエ。 カードリッジシステムを搭載したS2Uの新型だが、キリエの能力には追いつかないだろう。専用のデバイスが必要のはずだ。だというのに、彼女はソレを好んで使っていた。 彼女の能力を全開で使うには、それではどうしても足りない。 「さて、私が相手だ、エア」 「…そうですか、では、死になさい」 キリエの言葉と同時に、エアは言いながら跳ねる。 僅か一歩。ほんの一瞬。それだけでキリエとの距離をつめて、その大鎌を横なぎに振るった。当然その線上にはキリエの首がある。 それを受け止めようともしないでキリエは微笑む。 「キリエさ――!」 「エア、幾らなんでも私も彼女のように“捕まえる”つもりで戦ってるんじゃないぞ」 フェイトの声と同時に、キリエが踏み込む。 そして沈み込み、そのまま杖で彼女の顎を殴りつけた。吹っ飛ぶエア。空中で一回転して、受身を取る。空中に立ち、顎の調子を確かめるように手を当てて、エアは笑った。 「…失礼、確かに侮っていました」 「私はキリエ、キリエ=アルヴァニア=トワイライト、百鬼夜行のキリエでもいい、見ての通り、お前を倒すために戦っている、つまりは戦うために戦っている」 顎の調子を確認し、エアは軽く頭を下げる。 大鎌を構えて、彼女は飛行した。紅蓮の光が複雑な軌跡を描き、キリエに向かう。 対してキリエは動かない。スフィアも何も出現させず、完全に無手。 だが、嘗めてかかってはいけないことくらいエアは解っている。 フェイトはそれらを固唾を呑んで見守っていた。 「まあ見ていろ、フェイト――戦うために、戦う姿を」 軽く後ろを振り向きながらキリエが笑う。 「え?」 フェイトの疑問符と同時に、キリエが跳んだ。 同時に放たれるキリエの射撃魔法。何も無い空間から、完全に無音で一発。エアが驚愕した表情をして身を捻った。その隙に、あっさりとキリエは距離をつめる。 「っ!」 振り上げられた拳をぎりぎりで回避する。その不安定な体制のままエアは右腕を振り回した。軽くキリエの頭を叩き、怯ませる。僅かに互いに距離をとり、再びキリエが無言のままに射撃魔法を一発はなった。 無音、そして気配も無い。こうなれば避けるのは見てからか、あるいは直感に頼るしかない。そのどちらかは解らないが、兎に角エアは回避した。 「百鬼夜行のキリエ、でしたか」 油断無く鎌を構え、うっすらと彼女は笑った。 長い髪の毛を鬱陶しそうに掃って、ふぅ、と一息つく。 「デバイス…便利ですね、其れ」 ふと、呟く。 圧倒的な殺気が篭っているのは、端で見ているフェイトにすら解る。真っ当な人間ならその殺気だけでも、死ぬだろう。エアの真正面に立っているキリエなど、死すら微温湯としか感じられまい。 だが、それでもキリエは笑顔をフェイトに見せた。 態々振り向いて、ひらひらと手を振る余裕ぶり。すぐさまエアに向き直ったものの、今のはそれなりに致命的な隙ではなかったか。 「余裕ですね、キリエ」 「ん? ああ――余裕じゃなかったんだがね、そういう風に見えたか」 くるくるとS2Aを回しながら笑うキリエ。 「私はキリエ=“グノーム”=トワイライト、アルヴァニアでも構わないがやはりグノームのほうがいい感じだな、これは気分の問題だろうがね」 魔力が――溢れる。 その魔力に当てられてか、エアの顔から軽く血の気が引いた。 後ろで見ているだけのフェイトにすら解る。アレは、殺意だ。 純粋な殺意。混じりけの無い本物。あんなモノ、見ているだけで気が狂う。エアの放つ殺気になど比べ物にならない。辺りに霧散させるそれなど、何と生易しかったことか。 殺される。 間違いなく殺される。 彼女の正面に立った者、全てが全て、何のためらいも無く殺される。 「…は、え?」 「何を驚いている、鬼の主が鬼より弱くて勤まるか、我は鬼の主――エア、お前に敬意を称して全力で相手をしてやろう、百鬼夜行の祈り、参る」 言葉を投げかけ、キリエは無造作に距離を一歩つめる。 あと一歩でエアの武装の間合い。それを知りながら、更に一歩距離をつめた。 慌ててエアが大鎌を振るう。一撃でキリエの首を刈り取らんと、その一撃を振るう。 そしてキリエは、その一撃を上空に跳ねることであっさりと回避する。 「炎弾!」 『Shield.』 エアの放った炎の弾と、S2Aがシールドを張るのはほぼ同時。 そのままキリエは更に前に跳び、エアの後ろに降り立つ。 「くっ!」 「S2A!」 そして振り向きざまに何も無い空間と、更に自分の掌から2つの光線を放つ。 それらを片方を防ぎ、片方を回避してエアはキリエとの距離をとった。後ろに下がったその反動をものともせずに、再びエアはキリエへと向かう。 フェイトを狙わないのは当然だ。僅かでも隙を見せればその瞬間に倒される。 「せあぁっ!」 「いや、そりゃ悪手だよ、アリーゼやウリアに比べたら私は目立たないだろうけど」 ぶつくさ何かを言いながらキリエも前に出る。 豪、という風を切る音と共に振るわれた大鎌は、しかしキリエの影すら踏むことは無い。間合いからキリエは一歩はずれていた。 そして再び、何も無い空間と掌から2つ、いや、合計して今回は3本の光線がエアに向かう。それらのうち2本を防いで、更に一本を回避する。 それと同時に、フェイトは目をむいた。 「――え?」 「これでも百鬼夜行を名乗る身だ 幾らなんでも敗北は許されん、エア、おめでとう、君は見事私と対等に戦った」 声を上げたのは、フェイトだ。 エアは気を失って倒れている。 いつの間にか、遠くで見ていたフェイトにすら解らないほどいつの間にか、キリエはエアの後ろで立っていた。 そして急所を一撃。それだけでエアを撃退した。 「何を驚いているんだ、鬼の主が鬼の行動を掌握しきれないでどうする…って行っても解らないな、多分」 言いながらキリエはフェイトの傍による。 座り込んでいるフェイトに手を差し出して、フェイトがほぼ無意識のうちに手を取った瞬間、立ち上がらせた。 「さ、次にいこう」 「…あの、さっきの何ですか? 遠めで見ていた私にも解らなかった」 純粋に好奇心からの質問である。フェイトにも解らなかったし、恐らく対峙していたエアにも何が何だか解らなかっただろう。 だが、キリエは一瞬疑問符を浮かべた後、フェイトの望む回答より圧倒的にかけ離れた位置の言葉を紡ぎだした。 「おいおい、敵に回る可能性が1パーセントでもある奴においそれと話すと思っているのかよ?」 その言葉を聴いて、フェイトは芯から凍りついた。 ――敵に回る可能性がある奴。 彼女は確かにそういった。それが全く、どういう意味なのかが解らない。頭の中が真っ白になってしまったような感覚に襲われる。 「お前どうもちぐはぐだよな、目の前に敵が居るときは臨戦態勢なのに“戦う”気がしない、だが敵が居なければそれだけで安堵して常に何かを探している風だ、おかしな話だがお前は常に“戦闘”をしていない」 その言葉をどこか遠くに聞いていた。 「お前にとって、戦場はまるで逃げ場だな」 そして、その言葉で意識が現実に引き戻された。 ――逃げ場。 逃げ場のように、見えるのだろうか。解るほどに、動揺してしまう。 「図星か、はははっ! そうか凄いなお前、お前のような奴に会えるとは私の人生もまだまだ捨てたものじゃない!」 急に大きく笑い出すキリエ。その変貌ぶり、というか既に先程の言動からフェイトは混乱しっぱなしでまともに言葉も喋れて居ない。 エアとの戦いで消耗もしている。 彼女は強かった。技術的にもフェイトより優れていると言い切って良い。それを、キリエはあっさりと撃破した。それもまた、消耗の原因だった。 「よし次に行こう! 私はヤル気ができた! 次もフェイトに戦ってもらうよ!」 「あの、何でキリエさんそんなに楽しそうなんですか?」 「そりゃ勿論、楽しいからさ」 酷くシンプルにそうやって答えて、キリエは歩き出す。フェイトは慌てて、それについていった。 ――逃げ場のように見えるのだろうか。 フェイトは再び考える。その言葉を。逃げ場という意味を。 「…母さん…」 ふと、フェイト自信の唇からこぼれた呟きは誰にも聞こえなかった。 文字通り、誰にも。 ――それは、フェイトにも聞こえていないほど小さな呟きだった。 ■□■□■ 壁が砕ける。床が粉砕する。通路はあっという間に“部屋”になっていた。 互いが互いに攻める手段、戦闘パターンが似ている。 真っ向から打ち砕く。 それだけしか、ここにいる2人には無い。 高町なのは、そして彼女と戦っているのは、リュウビと呼ばれた黒い男。 その手に持つ鎖は長く、その先には鉄球が着いている。コレこそが彼の武装だ。 「強いな」 リュウビは特に感慨も無く呟いた。 辺りの瓦礫に混じって、実はノーバディが10体ほどつぶれている。再起不能だろう。 「で、出鱈目なの…! レイジングハート、何発くらい直撃させたっけ?」 『…スフィアならば、50発以上、ディバインバスター3発、エクセリオンバスター、2発ですね』 なのはの呟きに冷静に答えるレイジングハート。機械はこういう時、強い。 ――というか、強くなければやっていられない。 あの男は出鱈目が過ぎる。高町なのはの決め手を2発以上喰らって立っていた敵など、これまでの経験にはほとんど居ない。 それらの敵にしても、立っているのが精精と言う状況だったと言うのに、彼は平然と立っていた。ぴんぴんしている。 「何者なんですか、貴方…!」 「さぁな」 なのはの質問に、ふざけているワケでもなく、真面目に答えるでもなく、只自分でも本当にわからない、という風にリュウビは答える。 自分でも解らない。自分が何者なのか。 彼の声音からは解らない為なのはには何を行っているのか解らない。彼の声音は、本当に一定しているのだ。 「だが、そういう貴様こそ、その矮躯でこれだけの力を出せるなど他の例には無い、世の中には常に例外が存在する、俺もそういう奴らの一端だろう」 リュウビは言いながら鉄球を振り回す。 なのははそれが壁にめり込まないようにスフィアをぶつけ、強制的に床に落とす。それから溜め込んだ魔力を一撃の下、開放した。放った魔法は、ディバインバスター。 再び直撃。だが、それでも彼は平然としている。鎖にすら傷がつかない。あの鎖と鉄球も何で出来ているのか気になった。 「レニウムだ」 「…え?」 「恐らくは世界最重の金属、レニウム鋼で出来ている、戦況は硬直状態だ、お前には決め手が無いが俺にはお前に与えられる攻撃が無い」 言いながら彼はそれを平然と振り回す。 それをなのはに、今度は一直線に向かわせる。それを再び逸らし、弾き飛ばしながらなのはは疑問符を顔に浮かべた。 確かに戦況は硬直状態だ。前後の文でまるで脈絡が無いのはどうでもいいが、しかし不利なのはなのはだ。魔力が切れれば、それでおしまいなのだから。 「有利なのが俺であるのは承知している、だが何時までもこうしているわけにもいかん、こうしている間にも戦況は刻一刻と動いて行く」 リュウビは言いながら、その瞳をなのはから逸らす。 だからと言ってなのはは彼に攻撃したりはしない。意味が無いことくらいは承知している。 彼の横顔に感情は無い。彼の声からすら、感情を読み取ることはなのはには出来なかった。 「…一時停戦を求めたい、お前とて此処にかまり切っているわけには行くまい? …戦況が変わってきている」 「――」 一瞬、なのはは彼の言葉の真意を考えた。 だがそれも無駄だと気づく。この停戦はなのはにとっても益だ。倒せない相手と無理に相対する必要はない。 なのはに彼は倒せない。それどころか不利な位置に居る。 ならば、この停戦はありがたいのは確かだ。彼を見逃すと言うマイナス点があるが、ソレを差し引いても――まあ、プラスにはなるはずだ。 「解りました、その停戦、受けます」 「有難い、ではまた会おう…貴様の名前は」 「なのはです、高町なのは」 「そうか」 それだけの短い会話を交わして、彼はゆっくりとその場を離れて行く。 辺りを見回して、なのはは深いため息をついた。 彼の鉄球もさることながら、遠慮無しに魔法を放ちまくった影響が如実に現れている。こんな風にしたのは自分だと、決して誰にも言わないようにしよう。被害を事細かに誰かに伝えようにも伝えられないほどに破壊しつくされていた。 なのはも飛行を開始し、そのままリュウビが行ったのと逆の方向へ飛んでいく。 「にしてもとんでもない人だったの」 『…あれだけ当たれば、いくらなんでも普通は落ちるはずなのですが…』 経験論から言うならば、あれだけ当たった相手は確実に気絶している。少なくともあんなにぴんぴんしている人間は、今までの敵には居ない。 「ここにいる人たち皆強いね、ウリアさんとアリーゼさんは大丈夫として」 『マスターより強いですし、あのお二人は』 「うん、戦技教導隊最強と、戦技教導隊一番の問題児の名前は伊達じゃないよね」 『悪口ですよね、ソレ』 喋りながら飛び続ける。 辺りを見ると、死体になった局員や、あるいは犯罪者が居た。前者は殺され、後者は大体が自殺だ。目を背けるわけには行かないが、見ているのは辛い。 完全にこちらを潰すつもりだろうか。少なくともそう見える。 「ううん、それにしてはやや詰めが甘い…よね、コレは、敵の攻め方がなんだかおかしい気がする…」 ほんの少しだけ、自らの中に疑問を抱きながら、彼女は飛んでいく。 ノーバディが居たとしても相手の攻め方はおかしい。 何となくだが、こちらを完全に潰したいと言うような動きではない。只、戦いたいから戦っている、そんな感じ。 「その表現が一番しっくり来る、娯楽、とかも言ってたし…」 正面から戦わなくちゃ何の意味も無いだろうが、と叫んでいた。少なくとも、“みなしご”や今までなのはが戦った敵はそうである。 敵を殲滅するしか出来ないのだから、逃げられたら追うしかない。故に、なのはが自分に出来る限り有利なフィールドに移動したとき、敵は躊躇い無く追ってきた。 そんなことなど何の関係も無いといわんばかりに、追って来た。 彼らは彼らに有利なフィールドを選んだはずなのに、その最初の条件を無視して折ってきている。何かがかみ合わないような感覚が、なのはにはある。 「作戦とか無いのかなあ? 無理に追うな、とか…」 『いえ、あるようには思いますが、どうにも機能してないようですね、連携なども整っていないように見受けられます、個々人が自由に戦っているように』 「あ、そうか! だからおかしい感じがしたんだ、大雑把に作戦はあっても、其処から先は自由にしろって、そうやってるように見えるんだ!」 大雑把な作戦、例えばクロアゲハも管理局の連携能力を落とす為の作戦だったし、地上本部に大穴を明けたのも、作戦だろう。 だが、其処から先は完全な個人プレー。 後はお前ら自由に戦え。そういっているのだと、なのはは気づいた。 なのは達管理局は、連携が整っている上で、それなりに細かく作戦を決める。失敗した場合、成功した場合、撤退する場合等と、状況状況に分けて作戦を練り上げる。 だが、彼らは“自由にしろ”の一点だ。 撤退も自殺も、殺しも何もかも、お前らの意志で決めろ。 特に連絡の必要はない。只一つ、“戦場において力無き者は死に絶えるのが断り也”だけを守って、戦え。 「だとすると、どうしよう、誰かを倒してもしょうがないってことだよね?」 『例え1人になっても戦い抜くでしょうね、そういう人たちを集めたようです』 胸中に暗いものが立ち込めた。 ――最後の最後まで、彼らは戦い抜くだろう。たとえ1人になり、武装が全部無くなり、万の敵に追い詰められても。 そういう手合いは、厄介だ。 気絶させて、無理矢理にでも捕らえるしかない。 「よし、頑張ろう」 軽く頬を叩いて、なのはは管理局内を飛翔して行く。 戦争は終わっていないのだ。考察など、後に回せば良い。今はこの戦争を止めるのが先だ。 例えどんなに相手が厄介でも、倒せない敵は居ないし、終わらない事柄は無いのだから。 ■□■□■ 「数、多っ!」 「諦めろって、お前武装は?」 適当な部屋に隠れている彼らは大きく息をつく。 それから武装を確認しあう2人。 「切れた切れた、後は体一つだな、お前は?」 「同じようなもんだな」 残っているのは質量兵器の拳銃が一丁。弾は一応全部残っているが、精々倒せて20人と言う所だろう 切れたといっている彼も、一応だがナイフを2本持っている。 気休めも良いところだ。倒せる相手など、これでは居まい。相手が戦いを知らない民間人ならともかく、此処には戦闘を行える奴らしかいない。 「後は、コイツ」 「そりゃ自殺要だろ、間違っても敵に投げつけるなよ」 彼らが持っているのは、手榴弾。 相手に情報を一切渡さないために、最後には自殺すると決めていた。 今回参加している犯罪者群は全員持っている。戦いに敗北し、戦えなくなれば捕まるしかない。戦力などは別に渡しても良いが、決して渡せない情報もいくつかある。 最後の矜持を守るためにも、“虚の番犬”から全員に渡されていた。 “みなしご”は全員使っていない。多分まだ、全員がそれぞれからだのどこかにしまってあるだろう。回収もなされていないのだ。 「じゃ、行きますか」 「タバコある?」 「おー? 飲むかぁ?」 答えながら、タバコのケースを取り出す彼ら。火を点けて、思い切り吸ってから吐く。 一度だけ。 一度だけそうしてから、2人同時に立ち上がった。 「じゃ、クリムゾンファミリーとして」 「おう、背中は任せた」 「あいよ」 一つ大きく手を打って、部屋を出る。 出た瞬間、局員と目があう。辺りには20人強の武装局員。――2人で相手をするには、やや多すぎる数だ。ここにいたのも偶然だろう。どちらかといえば、必然だが。 此処は時空管理局。連携が整い始めているのだ。時間が経ちすぎた。 それでもにぃっと2人同時にそっくりな笑みを浮かべて、躊躇い無く銃弾を放つ。それが開戦の合図だった。 2本のナイフを両手に構え、彼らは正面から戦いに行く。 「もうちょっとこう、相手に不利な空間を選んでも良いんじゃねえか?」 ふと、銃弾を放つ彼が呟く。 「これ以上相手に不利な空間選んでどうするんだっつーの、それに俺ら正面から戦うしかないだろうが、逃げるなら、有利な空間に身を運ばれてでも追うさ――!」 沈み込み、2本のナイフを振るいながら次々に局員を殺す。 一撃で、躊躇い無く。一瞬で、躊躇い無く。 躊躇っては倒される。どうせ倒されるとしても、なるべく倒していかなければならない。 後に戦う仲間のために。 後に戦う、味方のために。 「っ! が、いった!」 スフィアが直撃し、一瞬動きが止まる。同時に収束射撃魔法が直撃し、彼の体が吹っ飛んで行く。 「イファ! っ! がぁああああああああっ!」 それに気を取られ、あっという間に吹っ飛ばされるもう1人。 は、と思い切りにやりと笑い、ポケットから手榴弾を取り出す。 既に迷っている暇は無い。 「イファ! あの世でなっ!」 「――あいよ、カイナ」 同じように手榴弾を取り出し、同時にピンを外す二人。 当然、爆発した。 あっという間に、2人は死んだ。 ≪to be continued.≫ |