これは既に終了した物語である。


『世界平和を望む者』―デバイスファイト―
 ストーリー『2−5――残光(D)』


 機関銃のような黒い弾の乱射。
 当たれば確実に命を文字通り吹き飛ばすそれを――。
「瞬華・閃――神撃」
 グラムの一振りで、バルディッシュは全て弾き飛ばす。
 既に決着はついている。
 バルディッシュがグラムを操れたその瞬間から、この戦いはバルディッシュの勝利で終わりを告げると解っているのだ。
 彼が悪魔の防御を全て取っ払えたその瞬間に、勝負はつく。
 彼らの後ろでは既に戦闘状態を解除した5人が居る。最も悪魔と善戦していたレヴァンティンを筆頭に、デュランダル、クラールヴィント、ソング、そして今回の作戦の要シュベルトクロイツだ。
 あの只噴出しているだけの魔力。あれをどうにかしなければリンカーコアを砕くことも出来はしない。
 そしてアレはグラムをもってしてもそう簡単には突破できないのだ。
 グラムは全ての防御を突破する。全ての、防御魔法を。
 アレは魔法などではない。只の魔力だ。噴出しているそれに魔法など無い。種も仕掛けもありはしない。
「っづぁっ!」
 バルディッシュが力任せにグラムを振るい、魔力の滝を突破し、その体に傷をつけていく。
 顔に模様が浮かび始めている。腕にも半分模様が浮かんでいる。
 アレはもう直ぐ覚醒する。完全に、悪魔として。
「硬い――!」
 これでも今のバルディッシュはレヴァンティンと戦ったときより、レイジングハートと旅していたときより遥かに強くなっている。
 彼の体術、魔術は神代より伝わるもの。
 彼の祖先アリシア=テスタロッサが伝える雷の体術は、ある要素をもってして完成となる。
 その要素が、今彼が握っているグラム。
 バルディッシュの体術と同じく神代より伝わる伝説の魔剣。
 元々、神代の時代は今で言うグラムと同等の代物の魔剣がポンポン転がっていたのだ。神代の体術や魔術はそれにあわせて作られている。バルディッシュが以前使っていた魔剣程度ではその能力を発揮すれば、魔剣が悲鳴を上げるだろう。
 故に今の彼こそ、正真正銘、掛け値なしの全力全開。
 神代の力を今に伝える最強の戦士である。
「…なのだがな」
 ――あの魔力防御は、未だに突破できていない。
 彼の全能力をもってしても未だに、だ。どれだけの魔力だというのか。しかも未だに溢れ続けている。循環しているようには見えないのだが、体内にどれだけ魔力を溜め込んでいるのだろう。
「凄いなお前、我を完全に扱うとは」
「いっただろう、神代より業を伝え続けると、これはその力だ」
 なるほど、と頷くグラム。
 彼の力もグラムの力も凄まじい。
 だというのに、悪魔はそれ以上の力を持って彼を叩きふしに掛かる。彼女の周りに浮かぶ黒い玉の数は増え続けていた。
 髪の毛が銀色に染まり、瞳は真紅。顔の模様が浮かび上がっていた。
 後は、背中に黒い羽が生え、その服装が入れ替われば完全に覚醒だ。
 恐らくはそうなっても、今のバルディッシュならば互角かそれ以上に戦えるだろう。ただし後ろに居る者にまでは確実に気を配れなくなる。
「…ちぃ、強いな」
「主、何か魔法は使えんのか」
「使えんこともないが…余りお勧めは出来んな、悪魔と大差ない被害を繰り出す類の魔法だ、神代の魔法はどうしてこうも被害が大きいのだ」
 愚痴るバルディッシュ。これで攻撃方法は体術に限定された。
「…いいことを教えてやろう、主、神代の時代、神々は大地を傷つけても直ぐに治せる術があったのだ」
「…そうか」
 少しため息をつく。伝説にもある天変地異のような魔法。あれもグラムの言い分からすると、全くの嘘ではないらしい。
 確かに此処にグラムがあり、ジークフリートが居た。“りゅうおう”ファーヴニルも存在していたらしいし、それならばオーディンもトールも居ただろう。
 そしてそこには敵も居たのだ。
 “真性悪魔”、神々の敵。今まさに、彼が戦っている敵と同じ敵が。
「グラム、一応尋ねるが、真性悪魔と戦った経験は?」
「無いな、我はジーク様とずっと居られた、戦った経緯は多くあるものの…邪竜ファーヴニル以上の敵は、味方だけだったな」
 吐き捨てるようにいうグラム。確かにジークの伝説でも、グラムの伝説でも、“悪魔”と戦った文章はない。
 最後に戦い、そして殺された相手は味方だというのが英雄らしい死に方といえば死に方だ。強大すぎる力は味方に怨嗟を生む。その見本が、彼のような人生だろう。
「ふっ!」
 しかして悪魔、リィンフォースの攻撃も単調だ。
 先ほどから黒い弾を生み出し、放つことしかしていない。それだけで本来ならば充分すぎる破壊力があるが、今回は相手が悪い。
 彼女の能力は破壊に特化しているが、逆に言えばそれ以外が出来ない。
 そして、グラムの能力はリィンフォースのそれを凌駕する。
 グラムは彼女の攻撃を全ていなし、弾くことができるのだ。
 故に、この物語に既に決着はついている。
 後は時間との勝負だ。
 既に8割がた覚醒したリィンフォース。全て覚醒する前にこの防御を突き破れれば、バルディッシュ達の勝利である。
「…ええいままよ、レイジングハートを取り戻すためだ…!」
「その意気だ主、奴の防御力の突破は出来んが――意気消沈していては勝てるものも、勝てん」
 グラムに鼓舞されながら、バルディッシュは進む。
 バルディッシュの体に目立った外傷は見られないが、しかし内部で着々と傷が増えていた。
 グラムを扱っている時間が短すぎる。
 せめて後1ヶ月、いや、1週間時間があれば完全に使いこなして見せるが、まだ経験が足りない。バルディッシュが実戦において、全力で力を扱うのも実は初めてだ。
 鈍っているわけではない。そもそも鍛錬においてバルディッシュの右に出るものは居ない。
 ただ、負担が大きすぎる。
 全身の骨が、肉が既に悲鳴を上げていた。
「――だが、な」
 地面を滑りながら、何時もと同じ、全く同じ口調で彼は喋る。
 そんなものたいしたことはない。
 今、レイジングハートが受けている責め苦に比べれば、なんともない。
 悪魔が吼える。吹き出る魔力が全て攻撃に転換されていくのが目に見えてわかった。既に防御を考えない。防御を考えれば敗北すると解っているのか。
 全力で攻撃すれば、いくらグラムを持っているバルディッシュといえど、死は免れないだろう。
 防御を考えない全力での攻撃であるのなら、だが。
「っ――いかん、明確に死がイメージできる」
「うむ、アレの全力の攻撃を無防備で受けたら、我も折れるな」
 同意するグラム。
 だが、その程度の恐怖などねじ伏せればいい。
 というか、ねじ伏せなければやっていられない。
「逝くぞグラム
 あれを打ち倒し、見事彼女の心を取り戻して見せよう――!」


■□■□■


 ――空には満月が掛かる。
 その光景を、彼女はぼんやりと見ていた。

「贋物は贋物なりに良く頑張る
 けれどもうお仕舞いだな、あのグラムには私たちでも敵わない
 …それにあの体術、アリシア――かな、神代と呼ばれた頃の体術、じゃああの子が最強のテスタロッサか、とうとう街に出てきたんだね、オメデトウ
 あの2つが噛みあっては、贋物如きではどうにもなるまい、只の力の塊など所詮子供だましだ、より強い力に叩きふされるだけの話」

 ああくだらない。
 森の奥で彼女はその街の戦闘を視界に入れている。
 火の手が上がっている上に破壊もされている。確かに此処からは、街の様子が良く見える。
「――あれ、殺すつもりないのかな? ふぅん…コア砕きか、あれも頑張るなあ」
 ぼそりと呟く彼女。
 街ではバルディッシュの後ろで、子猫、シュベルトクロイツが魔法を準備していた。
 その魔力は此処では感知できないが、実際の所、彼女は魔力だけならば悪魔にだって劣らないのだ。
「…さて、どうなるかな、実際あの贋物随分と定着してるからなあ、壊したら憑いてる人も壊れそう、まあ、頑張れ」
 適当に声援を送りながら、彼女はそばにおいてあった酒瓶とガラスのコップを手に取り、酒を注ぐ。
 鈴、と涼しげな音を立てそうなほど、その酒は美しい色をしていた。
 くいっとそれを一口。
 戦場が佳境に入っても、彼女は全然余裕であった。
 下手をすれば世界が崩壊しかねないというのに、まるで余裕だった。


■□■□■


 機関銃の乱射。打ち出す球は一発一発が、ミサイル。
 一致するイメージはそんな感じ。
 回避し、撃ち落し、バルディッシュは善戦する。
 殺すつもりであるのならとっくに勝負はついている。だが、殺すつもりがないから苦戦しているのだ。
「うおっ! ちょ、バルディッシュ後ろアブねえ! 後ろ!」
「ぬ、いかん」
 後ろからレヴァンティンの声が跳ぶ。
 何とか弾けるものは弾くが、いかんせん弾の数が多すぎる。全てを弾くのは無理だし、そんなことをしていてはグラムが折れる。
「くそ、防御の魔力は――よし、消えている、が」
「近づけん、変わってないぞ?」
 むしろ状況は悪化している。
 確かに溢れ出る魔力は消えていたが、それが全部攻撃に宛がわれているのだ。一撃一撃がミサイル並み。機関銃のような連射。
 グラムは接近戦用の劔だ。近づけなければどうしようもない。
 否――バルディッシュであるのならば、近付くことは用意だ。
 この程度の嵐ならば、全て回避しながらでも近づける。
 だが、近付くことは即ち攻撃すること。
 そして今のままでは、確実に相手を殺してしまう。
「っ、これではコア砕きも成らん、何とかならんか」
「アイツの目標は今は主だ、素直に後ろの連中に横かアイツの後ろに回ってもらえ」
「…」
 見も蓋もないグラムの一言。
 だが、その通りである。今あの悪魔はバルディッシュ意外を敵視していない。
 仕方ない、と軽く嘆息して、バルディッシュは後ろに向かって僅かに手を振った。
 軽い指示を出すだけ。それだけで解ってもらえなければダメだ。
「ん、行くわよ、横に回るわ、シュベルトだけは絶対に守って」
「了解、そっとだな」
「四の五の言っている場合じゃないしな」
「だね、じゃ…」
「お、そういうこと、全軍突撃、続けー!」
 最後だけ大声だ。
 無論いうまでもなくレヴァンティンの声である。
「態々声をあげるか馬鹿者! 貴様この戦いが終わったら覚悟していろ殺人鬼ぃっ!」
 そして一々突っかかるバルディッシュ。
 その間にも、弾は放たれる。そして全部避ける。
 豪、と一陣の風。
 それが濃密な魔力だと気づき、バルディッシュは慌てて悪魔を見やる。その片手に巨大な黒い弾。触れれば消滅させるあの機関銃が、核ミサイルになっている。 
 先ほどまで使っていた黒い弾を、只巨大に膨れ上がらせただけの代物――だが、それは充分凶悪だ。
「いかん、“雷神の左腕”セットアップ」
 唐突に、辺りの魔力が凍りつく。
 辺りの魔力が全て、彼の支配下にあった。
 無論悪魔にそれは関係ない。悪魔の魔法は全て内からあふれ出るもの。辺りの魔力などかのものには必要ないのだ。
 左腕にその魔力が全て収束する。今悪魔が持っている黒い弾にすら匹敵する魔力。
「行くぞ、神代の魔法、食らわせてくれる――!」
 ぐん、と思い切り左腕を振りかぶるバルディッシュ。
 同時に悪魔がその右腕を振りかぶった。
 両者の一撃が放たれたのは全くの同時。
「“パーシファルの槍”プラズマザンバー・ブレイカー!」
「がぁああああああああああ!」
 2人の濃密な魔力が解き放たれる。空中で交差するそれらは恐ろしいほどの衝撃を辺りに撒き散らす。
 片や、辺りから集めた魔力を雷に変換し放つ魔法使いに。
 片や、内から溢れる魔力をそのまま放つ、正しく力の塊。
 衝撃が大地を抉り、瓦礫を、死体を吹き飛ばし――唐突に、それが止んだ。
 そして、1秒後。
 溜まりに溜まったエネルギーがうねり、爆発し、あたり一体を吹き飛ばす。
「く、これでも無理か」
 瓦礫が飛び散り、辺り半径50メートル程度までは只の荒野に成り果てた。
 その中でもエネルギーが爆発した中心は酷く、爆心地そのものである。
 レヴァンティンやクラールヴィントがどうなっているかなど、見る余裕はない。そんな隙を見せれば殺される。
 駆け出す。既に背中に黒い羽まで見えているが、まだ完全覚醒はしていない。
「ああああああああああ!」
 悪魔が吼える。その吼え声は、怯えからのものだと誰が気づいただろう。
 辺りに浮かぶ無数の黒い弾。それらを解き放ち、更に今度は悪魔そのものが急降下してくる。
「っ! 来るかレイジングハート!」
 黒い弾全てを受け流し回避し、彼女だけを迎え撃つバルディッシュ。
 接近した所で、悪魔がその腕を両側に突き出す。形だけ見ればバルディッシュを抱きしめようとしていると勘違いしたかもしれない。場所が、場所でなければだが。
「雷神閃、神式!」
「デアボリック・エミッション!」
 そして高らかに叫ぶ悪魔。叫びと同時に彼女の周りに、球状に黒い壁が出来上がった。彼女を中心に一気に広がり、辺りの荒野を埋め尽くしていく。
「な、んだとぉっ!」
 既に剣を振るモーションにはいっていたバルディッシュには、それは避けられない。先ほどまで只魔力を集め、乱射していただけの相手だからこそ、その一撃が信じられなかった。
 先ほどまでの一撃はこれを小さくしただけの代物か。本来ならばこのように使う業だったか。
 魔力を、彼女を中心に球状に辺りに広げていく大技。先ほどの弾に比べて避けられにくい上に威力もある。弾は本当に、只のお遊びというわけか。
 広がりきった所で消えて、その中心で悪魔だけが立っていた。
 バルディッシュも吹き飛ばされ、少し離れた所で倒れている。
「オ、オオオオオオオオ!」
 悪魔が吼える。勝利の雄叫びを叫ぶように。
 だが、残念ながらそれはまだ気が早い。
「く、くくく…」
 金属音を響かせ、鋭い音を立て、笑いながらバルディッシュが立ち上がる。
 グラムを杖に、思い切り息を切らし、それでもその目に闘志を燃やしながら、立ち上がる。
「まだ、死んでないぞ…!」
「が、ぎぎ」
 大胆不敵に笑うバルディッシュと、悔しそうに鳴く悪魔。
 辺りを風が吹きぬけ、2人が構えを取る。
 そして、次の瞬間。

「ブレイク」

 その悪魔の胸を、後ろから何かが貫いた。
 特に傷にはなっていない。だが、確かに何かが貫いた。
「…?」
 ゆっくりと、後ろを振り向く。バルディッシュも不思議そうな顔で、悪魔を見やっている。
 他の3人は吹飛んで倒れているが、彼女だけは倒れていない。
 シュベルトクロイツ。
 彼女だけは、燐と立っていた。
「…お…え?」
「――ブレイクシュート・リンカーコア、貴方のコアを砕きました」
 がくん、と悪魔の体が崩れる。両手を突いて、その体を地面に突っ伏す悪魔。
「が、あああああああああ!?」
「ダメだよ、もう立っていられるわけがない…勝った、勝った、けど――そこに君が居なくちゃ意味がない、のに…!」
 悔しそうにシュベルトクロイツが空を見上げて叫ぶ。
 悪魔の体が徐々に崩れ、色を失っていく。銀髪は元の金色に戻っていき、浮かんでいた模様が消えていく。羽は崩れ去り、辺りには何も残らない。
「あ、ああああああああああ!?」
「これで、終わり…」
「レイ、レイジングハート! おい!」
 シュベルトクロイツの言葉を遮って、バルディッシュが駆け出す。がらんがらんと金属的な、何かをほうったような音が響いた。
 無論、放り投げたのはグラムである。
 今のところ彼はそれ以外の武器を持っていない。
「うわおい主我をほうるなこら痛っ! 貴様武器を蔑ろにしていいとおもっとるのか!」
 抗議の声も無視して、レイジングハートに走り寄っていく。倒れている彼女を抱き上げ、その瞳に己の姿を映す。
 赤い瞳は、何も映していない。
 只くらい光を湛えるばかりだ。
「おい、おいレイジングハート! 起きろ! 起きてくれ! おい!」
 頬を叩くが、反応は無い。
 息をしているところから死んではいないようだが、どうなっているかバルディッシュにはわからない。
「シュベルトクロイツ! どうなっている、これは!」
「…悪魔、リィンフォースのコアを砕いた、それに連鎖してレイさんのコアも砕け掛かってる、呼びかければ戻ってくる…よ、きっと、あぅ…ひっく」
 ぼろぼろと、シュベルトクロイツも泣いている。それを見て、彼は一瞬で辺りを見回した。
 倒れているのは、レヴァンティン、クラールヴィント、ソング。
 その中に、デュランダルの姿が無い。
 辺りを見てバルディッシュは思わず臍をかむ。死んだ人が多すぎる。辺りには既に死体が殆ど転がっていなかった。
「レイ、レイジングハート! 何をしている…! お前がやったんだ、コレを! 責任を取れ、何時も何時も気ままに旅をしているだけではダメだといっていただろう!
 何時か――その責を負う事になると、私は言っていたはずだ! 覚悟はあったんじゃなかったのか! レイジングハート!」
 必死になって呼びかける。
 呼びかければ戻ってくると信じて、呼びかけ続ける。
「君は…! 何時だって、そうだ! 勝手に暴れて勝手に喚いて!」
 旅の記憶が蘇る。
 何時だったか、村を一つ崩壊させた。
 ――悪魔が崩壊させた、という意味では無い。宿から食事亭から、不味いという理由で全部叩き潰したのだ。同じ材料、同じ調理器で同じ物をより上手く作ることであらゆるプライドをずたずたにしていった。天才め。
 そのツケはバルディッシュに回ってきた。
 関係ないと思いたかった。
「私がどれだけ苦労したかも知らないで、なのに私は君についていった、なあ何時からだ――何時から、私は、君を好いていた」
 私でなければついていってないぞ、といつか言った。
 じゃあついてこなくていいよ、とレイジングハートは笑った。
 少しだけ、悲しそうに。
 今思えば、きっとあの時解っていたのだ。自分の中に、何があるか。
「君が私をどう思っているかくらいは解っていた、けれど君は私を否定しなかった、席の無かった教団で、君が唯一の席だった、誰もが私を否定する中君だけは容認した」
 盗賊団を壊滅させた。なぜか、手伝わされた。
 正直な話、こんなことのために培ってきた力ではない。
 けれど、悪い気はしなかった。
 思えば、頼られたのは初めてだった。
「それだけで救われた、そうだ、結局私が欲しかったのは名誉でもなんでもない、肩を並べて戦う相手でもなく、私を認めてくれる人だった、君が初めてだったんだ」
 その手を握り、バルディッシュは語り続ける。
 初めて認めてくれた相手。
 だから、最後まで面倒を見ていこうと。
 世界を崩壊させるようなことになれば、私が殺そうと、彼は自分に誓いを立てた。
「ああ、好きだぞ、レイジングハート、君が私をどう思おうと――戻って来い、君にはこれから苦労が待っているが、君を支える人物が現れるまで、私がせめて支えていく――」
「って何恥ずかしい台詞惜しげもなく連発してんだ、この、馬鹿ーっ!」
 吹っ飛ばされた。
 恐ろしく綺麗なストレートからのアッパーカットだった。
 レイジングハートが起き上がって、顔を真っ赤にしている。慌てて立ち上がり肩で息をしてバルディッシュを指差して、頭を抱えて、目を閉じてと、実に挙動不審だ。
「こ、この…! 馬鹿ーっ! うわぁあああああああん!」
 そしてそのまま走り去っていく。シュベルトクロイツの傍で倒れこみ、そのまま同じようにえぐえぐと泣き始める。
 ――どうやら、戻ってきたらしい。
 リンカーコアがどうなっているかバルディッシュに判断する術は無いが、あの様子では大丈夫だろう。それより今はバルディッシュ自身がヤバイ。
「ぅ、うう…な、何が…!?」
「丁寧に吹き飛ばされたな、いや凄まじい台詞の連発、堪能させていただきました、なんかもージーク様も顔負けだねこりゃ」
 うんうんと勝手に頷くグラム。頭は無いが、そういう気配だ。
 顎に手を当て、立ち上がるバルディッシュ。割れては居ない。頭蓋骨も脳も平気だし、全身にある疲労感や傷を除けば全然平気だ。
「…ぬ、グラム、すまん」
「いや先ほどの台詞で充分清算された、くくく、はははは! 本当に全部救いおった! ジーク、ジークフリート様! しばしのお暇をいただきます! 我は、こやつが死ぬまで暫く付き合おうと思います!」
 ははは、と笑うグラム。
 それを拾い上げ、腰元に差す。鞘は無いので後で作る必要があるだろう。
 救った、といったが辺りの被害は甚大だ。
 死人は多く、修復作業だけでも暫く掛かるだろう。
 だが、それでも終わった。
 悪魔は居なくなったのだ。

「…ああ、暫くは大変だろうが
 これで、私が救いたかった者は全部救えたんだな…」

 満足そうに呟いて、バルディッシュは倒れこむ。
 これからどうなるかなど、彼には解らない。
 それでも、しばしの休息と安寧を。
 起き上がってからまた、どうせ大変だろうから。

 今だけは、休もうと。
 バルディッシュは笑顔で意識を闇に落としていった。



≪The afterglow / End
to be contnued. → Next『--』≫






BACK

inserted by FC2 system