『世界平和を望むもの』=デバイスファイト=
 ストーリー『2-Ex ―― 残光(終)』


 その晩は――。
 月が綺麗で。
 星が輝いていて。
 街は明るく。
 そして、年に一度の散歩の日。
 気分が良いから散歩に出た。
 予感があったから散歩に出た。
 こういう日はどうせ何かと出会う。

 今年の出会いは何だろう?


■□■□■


「デアボリック・エミッション!」
 その一撃がどれだけヤバイかなんて、その声だけでわかってた。
 あの悪魔を中心に広がる黒い闇。
 あれに触れれば吹飛んで死ぬしかない。しかも最悪なことに、俺の後ろにはシュベルトがいる。こいつを失っては勝てなくなるのだ。
 で、バルディッシュの旦那は何か悪魔の近くで一番最初に被害にあってるっぽいし。
 レヴァンティンとかクラールヴィントさん、そしてソングもシュベルトの前に立っちゃいるが、この4人で何処まで持つのか。
 先ずレヴァンティンが出た。
 あっという間に吹飛んだ。
 死んではいないらしい。役にも立たない。触れれば吹っ飛ぶことが解ったくらい。
 確かにアレは壁だ。
 壁が迫ってくるが、中に入り込めることができれば中身なんぞスカスカである。風船と考えれば一番イメージしやすい。膨らまして膨らまして、針で穴を開けられない風船。
 つまり中に入り込めれば大丈夫だが。
 入り込むためには死を覚悟しろということだ。
「すまん、リタイアだ」
 そしてソングも吹っ飛んだ。というより中に入った。――魔力が全部解析できているアイツにとって、“防ぐ”ことは難しくても“すり抜ける”ことは難しくないらしい。でも何か中で吹っ飛んだ。2重構造?
 クラールヴィントさんも魔力を盾代わりにするも――ああ、無理か。結構勢い良く転がった。
 つまりこれは魔力だけじゃ防ぎきれないってことで。
 後ろを振り返る。そこには――。
 すんげぇ不安そうな顔をしたシュベルトクロイツ。
「…」
 軽く舌打ち。コレで逃げ道は塞がれた。シュベルトクロイツはコア砕きの魔法を準備している。コア砕きの魔法を準備しながらシールドなど無謀のきわみだ。
 …まあ、どうせこのまま生きててもなあ、とは思う。
 どうしようもないとは思うのだし、此処で一発死んでも構いやしないか。
 氷の足で体を支え、思い切り息を吐く。形ばかりの右腕を消して、全身に全魔力を浸透させる。
 体ごとコイツの盾にする。
 何が何でも、守りきってみせるさ。どうせ手に入らぬもの。ならばせめて、あの悪魔には幸せになってほしいと。
 先が無いからこそ、せめて幸せになってほしいと願った。
 俺と同じ。俺に先は無い。あの悪魔を倒せばそれで終わりだ。
 言ってしまえばあの悪魔と同類。先の無さという点では50歩100歩といったところ。
 まあこの体を使えば一回は守れるだろう。リィンフォース。お前は幸せになれないのなら、せめて此処で死ね。奇跡に手を貸せ。お前は決して幸せになれないことくらい、お前だって承知しているだろう。
 此処で足掻いている人間たちに、せめて手を貸してやってくれ。
「は――きっちり仕事しろよ、シュベルト」
 奇跡を起こすのは何時だっては人間の力。小さく呟いて、魔力を全開。この肉体を支え、吹き飛ばされないように必死に堪える。全身でコイツの盾になろう。
 そうしなくちゃ勝てないのだし、それ以外に俺が此処にいる理由、今は無いし。
 秒速何メートルかで迫ってくる壁に勢いよく壁にぶつかる。
「あー、損な役回りだ、毎度毎度」
 しっかし強すぎだろ、オイ。何だこのわけの解らん質量は。ソングが吹っ飛んだのはこの質量に後で殴り飛ばされたのか。魔力だけではなく質量の威力。そりゃあ吹っ飛ぶってモンである。
「っぎぃいいいいいいいあああああああ!」
 全力で何とか耐えて――後ろのシュベルトだけは、守れたか?
 最後にふと、後ろを振り向く。ああ、無事だ、良かった。
 これで、勝てる。
 悪魔を。
 俺の欲しかった奴を、倒せるんだ。
「――!」
 なんだか俺のコトを呼んでいるようだけど、悪い。
 全然聞こえないわ。
 そうして、俺の意識が暗転する。
 最後に見た光景が、なぜか空を飛んでいた。頭の隅で考える。
 ――ああ。
 俺は、吹っ飛ばされたのか。


■□■□■


 森の中を只管歩く。やたらと魔力の密度が上がっている。誰か、危険な魔法でも使っているのか、それとも単純に魔力が阿呆のように高い人でもいるのか。
 しかしその程度のコト、彼女にとってはどうでもよかった。
 この森はお気に入りの庭だ。
 こつんこつんと一歩一歩成る足音が堪らなく素敵。
 そんなお気に入りの庭だった。
 気分良く散歩を続ける。何せ一年に一度だけ許された外出だ。これくらい気分よくしていても罰は当たるまい。
 月が真上に掛かるころまで、彼女の気分は良かった。
 月が真上に掛かるころ、彼女の前にべちゃりと何かが落ちてこなければ、きっと気分悪く終わっていただろう。
「…」
 それは一目で見て解る死体だった。
 全身の8割が吹飛び、頭は何とか残っているが、瞳に既に光は無い。喉と口は脊髄販社のように呼吸を続けるが、肺はすでに片方、しかも半分程度しか残っていない。
 下半身など丸々無く、残っているのは心臓と左腕が肩まで。あと左の肺が半分ほどと、残りの上。
 後はからっきし何も無い。
「…でも生きてるね、凄い凄い」
 奇跡のような生命力だ。
 それから彼女はふむ、と空を見上げ町を見る。
 物凄い激戦区だ。恐ろしいほどの濃密な魔力が放たれている。放っておけば、恐らくは世界が崩壊するほどの。
「や、でも私やジュエルちゃんはいなくならないワケですし…でもあれニセモンだよなあ、何か私たちより活躍してるなあ、何でだろう」
 適当に呟きながら目の前にある死体に目をやる。秒単位で命が無くなって行っているが、その程度どうでもいいのか暫く悩む彼女。
 放っておけば後数秒で死ぬ。というか、何時死んでもおかしくない。――というよりは、既に死体だ。
 そのときになって、ようやく彼女は言葉を紡いだ。

「ね、私の遊び相手になってよ
 それなら君を、助けてあげる」

 果たして彼に思考能力などあったのかは解らないが、とりあえず彼女の言葉に彼の首は縦に動く。
 コレは思わぬ拾い物をした、と彼女は周囲から魔力を回収した。
 構築魔法は彼女の最も得意とする分野だ。
 他のコトができないわけではないが、やはりこの自分が最も好きな分野は極めておきたい。誰にも追いつかれたくない。
 そして彼の体を作り上げる。
「…あれ?」
 しかし彼女は悩んだ。右腕と右足を構築できないのだ。
 魔力切れなどではない。断じて違う。そもそも彼女は自身の魔力に底がないことを知っている。
 だから、コレは何か別の理由だ。
 何かの理由で構築できないのだ。
「…ああ、なるほど、面白いなコレ、義手と義足は…どうだろう、おかしな形でつくらなくちゃダメか」
 1人で納得して、彼女は他の箇所を作り上げていく。
 左腕。左足。性器。ボロボロに成った髪の毛や爪を再構築。内臓。血液の一滴に至るまで、完全に彼を再現していく。
 作業が終わったとき、そこに居るのは1人の人間だった。
 ただし、右足と右腕が無い。
「よし、出来た! 我ながら会心の出来! 君の名前は帰ってから聞かせてもらおう、給料も出すし食事も当面は出すよ
 私の名前はマッハキャリバー、よろしくね」
 いまだ動かない彼にそうやって語りかけて、彼女は彼を担ぎあげる。

 これがデュランダルとマッハキャリバーの馴れ初め。
 以後数年続く、彼と彼女の腐れ縁の始まりだった。
 後にデュランダルは語る。
『何であの時首を縦に振ったんだろう――ていうか俺の意思じゃないよな』
 それにマッハキャリバーは答えた。

『大丈夫、例え君がなんと答えたとしても
 私の遊び相手は、君じゃなくちゃ務まらないだろうから』
『あ、結局治したんだ』
『当然、君の右足と右腕を治せないでは沽券にかかわる、何が何でも治すまで付き合ってもらっていたよ』


■□■□■


 その晩は――。
 月が綺麗で。
 星が輝いていて。
 街は明るく。
 そして、年に一度の散歩の日。
 気分が良いから散歩に出た。
 予感があったから散歩に出た。
 こういう日はどうせ何かと出会う。

 出会ったのは死体だった。
 治せそうな人形だった。
 だから治した。
 コレで暫く遊び相手には困らない。
 来年の散歩まで、ゆっくり楽しむことが出来そうだ。


■□■□■


「はちゃー、こらまた偉くぶっ壊れたなあ…朝になると益々見ごたえアリ、瓦礫とクレーターしかないけどね、死者総数幾つだっけクラール」
「そっちもちょっとした山ね、まぁ、ここはこれから上手くやっていくでしょう」
 早朝。瓦礫の駆除が始まっていた。
 そしてその中でいる6人の影。彼らは一様に全く持って働かない。満身創痍だから当たり前だ。
「…全く、こうやって寝ていれば年相応だな、私もこんなのに惚れるとはヤキが回ったか…」
 呆れた呟きを漏らすバルディッシュ。
 その足元では、レイジングハートがすやすやと寝息を立てて寝ている。
 毛布をかけて、バルディッシュがグラムを腰元に構えながらその護衛。まかり間違っても近付く輩はいない。
「うーむ、あの研究材料がいなくなってしまったのは、惜しい…」
 そして残念そうに唸るソング。
 惜しい、が、世界が破滅するより何十倍もマシだ。
 結局そうやって折り合いをつけて、ソングは辺りの瓦礫に混じった“悪魔”の魔力解析を始める。昨晩から続く戦闘で疲れているだろうに、学者の根性は凄まじい。
「…」
 そして、悲しそうに空を見上げるシュベルトクロイツ。
 ――デュランダルは彼女の目の前で消え去った。
 仮にも彼に恋心を抱いていた彼女である。その心中は、誰にも図れない。

「さてっ! バルディッシュ! 約束どおり俺は此処から見逃してもらいます! 次会うときは必ずあんたと同じくらいに強くなって見せるぜ! 生まれ変わった俺を楽しみに待っていて欲しい…! じゃーね、ばいばーい」

 唐突にレヴァンティンが立ち上がり、大きく伸びをして、徒手空拳のまま駆け出した。
 バルディッシュの返答も待たない。彼はそのまますったかたーと駆けていく。
「あ、ちょっと…! もう! また勝手にどっか行っちゃうんだから!」
 クラールヴィントが慌てるが、しかし時既に遅し。彼女が動き始めたときには既にレヴァンティンは姿が見えなくなっていた。
 恐ろしい速度だ。
 悪魔の弾もかくやという速度である。
「しかし凄い煽り文句だったな、生まれ変わった俺って」
「…まだ見逃すともなんとも言っていないが、仕方ない、コレで貸し借りはチャラだ」
 言いながら、バルディッシュはレイジングハートを背負う。
 ソングの言葉を気にしない辺りは、大物だった。
 というか、気にしないが吉か。
「シュベルトクロイツ、何時まで拗ねている、彼の犠牲が無ければ我々はここにいないんだ」
「…るさい」
「はぁ、解ったわかった、どうせ私も彼らも戻れば審議の山だ、それは流石に嫌だし、暫く此処で休むよ」
 仮にも好きだった人を失ったのだ。確かに心中複雑だろう。
 ソングはシュベルトの後ろに腰を下ろして、同じように空を見上げた。
 呆れるほどに晴れた空。
 世界はコレでもかというほど綺麗に染まっている。
 しかしこの空の下に、シュベルトクロイツが求めた人の影は無かった。
 それが何より、恨めしい。

「…馬鹿、此処がなくなれば、私が生きている意味、ないのに」

 シュベルトクロイツは悲しそうに呟いた。
 もちろん只の独り言で。
 意外なことに、返事は無かった。



≪The afterglow / (Demon) / END
to be contnued. → Next『Darkness and Light blue』 or 『Homeless cat Concert』≫


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後書き

 どーも、コトノハです
 略すとことっちです
 サイモン・ユージ原案『世界平和を望む者』の第二編、残光、これで終幕です
 ダラダラと長くなっちまいました
 後やっつけ仕事にも程がある
 …そのうち書き直します
 まあ今回の話は必要はないといえば必要ないんですが、マッハとデュラの出会いをかいておきたかった

 今後の予定
 時間軸にして先のコトを書くか過去のコトを書くか
 悩んでおります
 てなわけで依頼があればそちらへ
 無ければ気分で
 最終的な構造はしっかり見えてますんで
 後は作者のモチベーs(ry
 では、皆様また会いましょう

 今年の目標はとりあえず留年しないことかなー…じゃあレポートやれ、俺、馬鹿か






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