旅を続けているのは良いのだが、どうにも目的が定まらない。
 目的は定まらなくても腹減る。
 というわけで小金稼ぎに、俺は盗賊団を一つ、壊滅させていた。目の前に居る奴で最後の1人。敵はやけに少なかったが、気にしない。
 結構子気味良い音を響かせて、盗賊を気絶させる。そして溜め込んでいたお宝を持っていくためにアジトに入っていく。
 ――お、結構あるじゃん。
 といっても重たくしてもしょうがないので、宝石の類のみ。傷のついているものは売れないので傷のついていないものを奪って旅をするための必須道具、持ち物袋の中に入れていく。
 後は、と、剣? か、コレ?
 なんだか不思議な形状の剣を見つけたので、拾い上げる。
 何時か見た骨の短刀に酷似しているが、違う。刀身の色が紫だ。柄もそれなりに装飾が施されている。魔剣などの類じゃないが、なんだか形が不思議だ。
「…おや、壊滅していますね」
「あ?」
 声が聞こえたので、反射的に振り向いた。
 そして、俺は思わず目を見開き、反射的に身構える。宝石は手持ちの袋に詰め込んだが、剣だけは手に持っていた。
 だから、反射的にその剣を相手に向けてしまう。意味など無いと解っている。あれが本当にアイツなら、この程度の武器では叶わない。
 その容姿は、何時か見た銀色の悪魔そのまま。
 羽もなく、顔に模様も無いし、服装だって全然違うが、その顔と銀色の長い髪の毛だけは間違えようが無い。
 俺の村を崩壊させた、あの銀色の悪魔と、容姿が瓜二つなんだ。そりゃ警戒もするさ。


『世界平和を望む者』=デバイスファイト=
 ストーリー『3-1――闇と水色』


 銀色の悪魔。
 今話題になっている、村潰しの最強の敵。かく言う俺にも縁がある。俺の村、アルフィルクはあの悪魔に潰された。
 生き残ったのは、俺を含めて僅か数名。
 その悪魔と、全く同じ容姿をした女性が、俺の目の前に居る。
「その物騒な武器を仕舞っていただけますか、私は敵ではありませんよ」
「…そうなのか?」
 見た目云々以前に此処にいるだけでお前ここの盗賊と関係あるのかと思っちまうんだが。
「まあ商売敵ではありますか…私には必要ないとはいえ、普通に生活して行く文には金は必要らしいですから」
 彼女は軽くため息をついて、腰元に手を当てる。
 服装は、長いマントに軽装。両手には魔力増幅のアミュレットがついていて、彼女を魔術師だと教えてくれる。肩のショルダーガードがどういうものなのかは知らないが、容姿を見る限り、旅人らしい。腰元には持ち物袋に、短刀。――短刀? 
 この容姿から見るに、魔術師だというのに? 何か待機技術のための道具も持っている様子も無いのに、短刀だけ持っているってどういうことよ?
「ああ、これですか? 貰い物で、捨てられないんですよ」
 俺の視線に気づいたのか、彼女はその短刀を取り出す。
 黒い鞘に収まっているので、それがどういう短刀なのかは解らない。
「旅行、ってわけじゃないんだな」
「それなら電車を使えば良い、生活費を稼ごうと思いましてね、此処に盗賊が出るというので潰せばいいかなと思ったのですが、貴方が早かったようだ」
「そりゃ、悪い」
 剣を仕舞い、傍にあった鞘に入れて、袋に入れる。
「目ぼしいもの貰ったけど、あと嵩張りそうだから俺いらねーんだわ、持ってって良いよ、純正の魔法使いならなんか欲しそうなものとかありそうでねぇ?」
「ええ、傷ついた宝石も護符にできますから、結構高値で売れるんですよ」
 くすくすと笑いながら俺の後ろを指差す彼女。
 …うむ、そうなのか。生憎俺にはそういう技術は無いからな。
 俺の傍をあっさり通り過ぎて、物色を始める彼女。
「墓場ドロボウみたいで気分は悪いですね」
 そんなことをのたまった。知ったこっちゃ無い。
 ていうか、誰なんだ、そういえば。何か容姿はまんまあの悪魔なんだが、違うようだし。
 あの時感じた威圧感をまるで感じない。
 これは、誰なんだろう。
「名前、聞いてませんね、貴方は?」
「…デュランダル=ハラオウンだけど、アンタは?」
「ってそういえば私名前無いんでした、ええと、そうですね…ダークネス、ダークネスで結構です」
 宝石や石像など、色々と持った後、彼女は立ち上がりながら一礼する。
 ダークネス、ねぇ?
 そりゃあんまり良い名前じゃないんだが、それより名前が無いって、それどういう意味なんだよ。
「お気になさらぬよう、ところで次の街までご一緒しますか? 1人での旅も、いい加減飽きてまいりました」
「幾つか気になるところはあるんだが、それには賛成」
 彼女の言うとおり、1人での旅には飽きてきていた。
 だからその意見には賛成である。まあ、容姿に問題はあれど美人には間違いないし、何より幾つか聞きたいこともあるのだ。
 だから、まあ良いだろう。
 そのまま洞窟を出て、軽く驚く。
「おや、全滅させなかったのですか?」
「いやいや、洞窟の中は全滅してただろ、やけに少ないなとは思ってたんだが…」
 こういうことか。外には、40人強の盗賊が存在していた。辺りを取り囲んでいるし、ひょっとしたらもっと多いかも。
 リーダーらしき人物が笑って立っている。口頭を何か言っているが、とりあえずそれは聞こえないことにした。ダークネスに向き直って、尋ねる。
「どうする?」
「一撃で全滅させるような魔法もありますが、あなたを対象の外に置きながら」
「じゃ、それで」
「時間稼ぎを」
 了解。
 適当に答えて、俺はさっさと敵陣へと切り込んだ。顔面を打ち貫き、一人を気絶させる。右から一撃が加えられるが、それは余裕で回避。
 避けたその勢いでそのまま避けて、首を狩るように1人に蹴りを加える。
「氷河伐採」
 小さく呟いて氷の刃を3本出現。それらを適当に打ち出し、ダークネスに向かっていた奴を遠慮なく殺した。血が吹き出る。
 更に魔力を充填。
 数が多い、つーのは強みだな。1人で戦ってても無理か、コレは。
 じゃ、仕方ない。
「夢幻氷」
 呟いて、辺りから充填した魔力を開放。氷で己の幻影を作り上げる。
 氷の塊なので、殴られれば当然壊れる。
 だが、ほぼ俺と同じように、動く氷の塊だ。そう簡単にはやられない。
 その氷の塊も戦い始める。俺も無言で次々敵を倒していく。冷静に冷静に、戦いでは厚くなったら負けだ。
「お気を付けを、行きます」
 魔力が溜まったのか、ダークネスが叫ぶ。――早いな。
 見れば、その手には真っ黒い塊。
 あれがアイツの魔法か。
「“デアボリック・エミッション”、球体バージョン!」
 彼女の呟きと同時に、その黒い塊が膨れ上がった――って、何?
「うおおおおおおおい!?」
 これ絶対俺も巻き込まれるだろ! 何が俺を対象から外せるだ!
 慌てて腕を伸ばし、辺りの盗賊を盾にしてその一撃の襲来に備える。
 ぶつかった。衝撃が来る。そして、ダークネスの声が聞こえた。
「そのまま前に跳んで下さい」
「うわ無茶を!」
 結構衝撃きついんだが…! だが、何とか思い切り前に跳ぶ!
 その瞬間、衝撃が無くなった。
「…ん?」
「ご苦労様です、敵が多かったですから必ず盾にすると思いました」
 くすくす笑うダークネス。対象から外せる、というのはそういう意味だったのか、ひょっとして。こいつめ。
 しかしさっきの魔法――すげぇな。
 不意に後ろを振り向く。全ての盗賊が倒れていて、一緒に辺りの木々も倒れていた。衝撃波を作り上げて、それを広げる魔法か。すげぇ威力だ。
「まあ本来なら衝撃波をつくり、自分を中心に一気に放つだけの魔法なんですが、ちょっと術式を変更して溜め込んでみました、対して威力に変わりはないなあ」
「使い勝手はよくなるだろ」
 適当に言って、立ち上がる。盾にした奴は、死んでない。骨とかは折れてるけど、まだ死んでナイっぽい。良かったな。どうかは知らんが。
「衝撃波で吹き飛ばすだけの魔法ですからね、辺りを更地にしたり、敵との間合いを取ったりするのに便利です」
 言いながら黒い玉を一つ出現させる。
 …なんか、それは見たこと在るような。
「ま、私の本来の魔法なんですが」
 言いながらその黒い弾を打ち出す。地面に辺り、はじけさせた。
「さっきの魔法と同じ要領で、衝撃波の塊です、展開するほどの威力は無いんですがぶつけて、上手いことやれば相手を殺せるくらいですね」
 それは充分威力がある。
 悪魔の弾とよく似ているが、少し違った。悪魔の弾は、触れたものを全て破壊する。衝撃のようなものも生み出すが、それは単純に魔力が開放されただけだ。
 衝撃波を生み出すわけではない。悪魔のは、魔力の塊を投げ出しているだけの魔法とすら呼べない代物である。弾を生み出し、投げつけ、ぶつかったら貫通する。あるいはぶつかったら固めてある魔力が開放される。
 後者のが、今のダークネスの魔法っぽい。
 というかなんで見せてくれたんだろう。
「いえ、特に他意はありません、只街まで少しあります、その間に共同戦線を張らないとも限りませんから」
「なるほど、教えておいてくれれば俺のほうで対応できると」
「はい」
 それくらいの実力在るでしょうといわれている気分だ
 まあ、確かに対応できない魔法じゃない。正体がわかっていればの話ではあるが、一応は対処できる範囲内だ。
「しかし悪魔の魔法と似てるな、真似事?」
「悪魔? 何ですかソレ?」
 …知らないのだろうか。いや、知らないわけが無いと思うんだが。
「いや、今噂になってるあいつだよ、村崩壊させてる悪魔」
「ああ噂のアレですか、こんなのを使う――?」
 少しだけ疑問符を浮かべるダークネス。
 というか、敵意のようなものすら浮かべている。何だ、どうしたんだ。あの悪魔のコトが不味かったのか。
 その姿を5秒ほど続けた後、ダークネスは笑う。
「行きましょうか」
 そして端的に言う。先程の敵意の陰りすら見せない。
 ――なんだったんだ?
 彼女がさっさと先に行ってしまうので、まあ付いて行く必要はないんだが、俺も何となく付いて行く。

 さて、このときの俺は知る由も無いのだが。
 この出会いは、実は数年後、無茶苦茶重要な出会いだったと知るのだ。


■□■□■


 街について、ダークネスと別れる。特に何も問題は無かった。
 とりあえず一番大きいであろう店へ。宝石を金に換えてもらう。
 締めて20万ほどの代金。まあ、旅をしている分には3ヶ月ほどは生活できるだろうという金額だ。とりあえず今夜は良いものを喰おう。
 宿へと向かう。
 この街はそれなりに警備もしっかりしていて、それなりに大きい。そりゃ教団街とか首都とかに比べれば小さいが、そもそもあんな場所と比べるのが間違ってるんだ。
 教団街アルデラミン、首都アスピディスケ、この2つが世界で最も大きな2つの街だろう。他にも幾つか村や街はあれど、この2つに敵う大きさの街は無い。
 アルファルドという名前の街もこの2つに匹敵するほど大きいと聞いたことがある。何時か行って見たい。
 石畳の上を歩いて行く。街の人々は活気に溢れていて、見ているだけでも愉しくなる。大通りには幾つか露天商が立ち並び、良い匂いがする食べ物や、服、それに宝石などが売っていた。紛い物も幾つか在るよな、絶対。
 適当によさそうな宿を選んで、部屋を取る。名前を記入して、部屋の鍵を貰う。鍵を返すときに一緒に代金を払うことになるシステムだ。まあ、一般的といえる。
 部屋に入って、荷物を置いて、大きく一つため息をつく。
 ――とりあえず、疲れた。
 魔力も足りてない。結構派手に使ったからな…。
 金を持って、袋の中身を確認する。と――ありゃ。
 鞘に収まった剣が出てきた。
 引き抜くと、紫色の刀身が見える。綺麗なのは確かだが、これについた模様、あの骨の短刀によく似ている。
 柄は似ても似つかないものの、何となく気になって持ってきてしまったのか。
 やっぱ売り飛ばすべきかな。しかし何か気になるんだよな、このマーク。
 あの骨の短刀、確か悪魔も殺せるとか大言壮語を吐いていた。俺に背中を預けて、俺の背中を預けて、敵を打ち倒した記憶もあった。
 確か名前は、ガジェット。
 人間相手に俺は無敵だとかほざいてたっけ。同属が何を言っているんだろう。しかもその言い方だと子猫とか相手にも負けるのか。なさけねえ。
 で、問題のこの剣。装飾は綺麗だし、刀身も綺麗だし、相当高値で売れると思うんだが、どうしようか。
 まあ、とりあえず今は売らなくて良いだろう。
 それを鞘に仕舞って、袋の中に放り込む。財布だけを持って、部屋を出た。鍵は無論閉めるし、袋の中にある程度の金は入れてある。流石に現金で常に全額を持ち歩くつもりは無い。
 鍵をフロントに預けて、街へ。
 流れ行く人を眺めて、俺は軽くため息をついた。まさかこんな所に銀色の悪魔が居るわけでもあるまい。それに俺、別にあれが倒したいわけじゃないし。色々と買い食いしたりするだけでも、気はまぎれるだろうと街に出てきたのだが。
「…ん?」
 ふと、人の流れの中に異質なモノを見つける。
 真っ黒な長髪。いや、むしろ全身が黒い。マント、つーか真っ黒なコート着てるし。暑くねえのか。腰元には剣。いや、別にその姿自体は不思議でもなんでもないんだが――。
 何だろう。
 どっかで見た気がする。
 でその隣には金髪の女性。あっちは本当に知らん。誰だ?
 しかも何が異質なんだ、俺。別に不思議でもなんでもないのだが、ああいう奴らは。
「んん?」
 しかしどうにも気になるのだ。
 どこかであった?
 いや、それも違うような気がする。俺だけが一方的に知っているような気がする。
「おや、デュランダル君、何を?」
「あ? …ダークネス?」
 ふと、声をかけられてそちらを向いてしまう。視線だけを先程の2人組みにやるが、しかしそこにはもう居ない。
 探せば居るかもしれないが、探す気にもなれない。
 どうせまた会える、そんな確信があった。
「なにやってんだ、アンタこそ」
「いえいえ、これから換金に、ほら、宝石の護符、どうです一つ?」
「いらね、生まれてこの方護符に頼ったことは無いんだ」
 師匠の教えだからな。
 そんなものに守られるくらいなら自分で自分を守れるほどに強くなれと。
 何者にも犯されない強さを手に入れろ。
 敗北することは許さない。
 ――そんな所か。ウチの師匠の教えは。
「へぇ…でもこれは持っておいて損は無いと思うけどなあ、じゃ、お近づきの印に一個差し上げます」
「いらねえって、とと」
 否定したのだが投げられたので反射的に受け取ってしまう。
 …あれ?
 受け取った、よな? 今? 右手でこう、反射的に受け取ったはずなのだが、何度右手を開いても、無い。
 落としたかな? いや、しかし辺りを見ても無い。一応左手も見てみるが、当然無い。
「いえ、それでいいんです、何となくあなたは見込みがありそうなので本来の力を使って見ました、私の護符の本来の使い方はそういうもの何です」
「は?」
 何の話? そういう風に聞き返したつもりだが、いえいえ、とダークネスは笑うだけだ。
 なんのこっちゃ。
「まあまあ、それより付き合ってくださいよ、これ魔法道具何で普通の宝石店じゃ売れないんですよね」
「そうなのか? へぇ…?」
 言いながら袋を開くダークネス。
 袋のなかには一杯になった宝石の護符。中央に六捧星の文様が飾られていて、酷く綺麗だ。いや、それはいいんだが、コレ本当に護符になるのか?
 護符って持ってるだけでそれなりの効果を発揮しなくちゃダメだよな?
「ま、気休め程度の防御魔法よりは役に立ちますよ、生き残るにはね、先程の貴方の話を聞いてちょっと気も変わりましたし」
 …さっきの話って、どれだ。此処に来るまでに交わした話の中にダークネスの気を変えるような話があったのか。
 まあ、どうでもいいや。
「ジュエルならもうちょっと上手いこと作れるんでしょうが、此処から彼女の所に行ってたら間に合いませんし…キャリバーに借りは作りたくないし…」
「ジュエル?」
「知り合いです…って言っても多分、貴方知ってますよ? 何か、貴方私たちに縁があるんですよね、その内キャリバーにも会うんじゃないですか?」
 …益々ワケのわからないことを言う。何のことなんだ、一体。
「気にしないでください、ジュエルシード、こう言えば誰か解りますか?」
 その名前を聞いて、思い浮かんだのは真っ赤な三日月。
 ――じょわっと全身があわ立った。正直此処までの疑問とか出てきた名前とかさっきの2人組みとかなんで旅してるのかとかどうでもよくなるくらいの衝撃だ。一瞬例の悪魔も頭の名から消えたぞ。
「あ、アイツか!? 何で知ってんだお前!?」
 いや正直何であいつのコト知ってるとかどうでもよくて。
 よくも思い出させてくれた。
 ジュエルシード、俺の村に住んでいた、多分俺の人生の中で最低最悪にして最強の魔法使い。そんでもって無敵。あれは絶対誰も倒せない。
 何でコイツが知ってるんだよ! しかも結構親しそうだし!
 あの、1を借りれば100返せとかいう悪魔のことを何で知ってるんだ!
「やだな、そんなに悪い子じゃないんですよ?」
「信じられねえ…! あいつ捕まえて悪い子じゃないとかアンタ大丈夫か!? ちょっと神経疑うぞ!」
 いや正直な話それ以外の言葉は思い浮かばない。
 あれは最悪の権化だ。
 あれより悪い奴を想像しろといわれて、俺には思い浮かばない。
「酷いな、デュランダル、それよりマジックショップってどこですか? これ売らないとなりません」
 それよりで片付けられた。どうでもいいらしい。
 いい。俺としてもこれ以上思い出したくない。だから、さっさと案内することにする。そして忘れよう。忘れてしまえ、俺!
 というか本当にどこで知り合ったんだろう。凄まじく疑問だ。
「どこで知り合ったとか、知りたいですか?」
「やめてくれ正直もう思い出したくないんだ」
 頭を抱えて懇願する。
 今土下座しろといわれれば土下座するだろう。自殺してもおかしくないくらいの衝撃だった。あいつと仲の良い奴の神経がわからない。
 いや、別に認めてやって良いのだが、容認はするが擁護はしない、というところだ。
 ジュエルシードが居る。
 それは認めよう。
 ジュエルシードが襲われている。
 10中8,9、あいつが悪い。だから何もしません。というかまあ、ジュエルシードを襲う奴は居ないのだが。
 襲ったら襲ったで、確実にその100倍は酷いことが待っている。
 そういう奴なのだ。
「大きな街ですね」
 不意に、ダークネスが呟く。
「ああ、それがどうかしたか」
 適当に答えてみる。
 いいえ、とダークネスは被りを振った。
 少しだけ、悲しそうに。
「これ、一日でどれくらい売れますかね」
「マジックショップに置いたら鑑定とかでいろいろ日数も手間も掛かるだろう」
 俺の言葉に、ぴたりとダークネスは足を止めた。
 俺も同じように足を止めて、一歩ダークネスの前に出て彼女の顔を見る。
 やや難しい顔をしていた。
 それから、仕方ない、という風に肩を落として、言う。
「マジックショップは止めます、デュランダル、此処で露天は禁止されていますか?」
「は? いや、知らないぞ?」
 知るわけが無い上に、文体に脈絡が無い。
 何でいきなり露天の…ああ、なるほど、それを露天で売るのか。
「これくらいならどれくらいの代金で売れますかね、500くらいで…」
「格安だぞ、それだと」
 傷ついてても宝石は宝石。元々の宝石ならば、5000くらいで売れる。
 だというのにその10分の1。どれだけ得をするんだよ、消費者は。
「構いません、時間が掛かっては意味が無い、1000で売ります、どこか露天が出来る場所を確保してもらえませんか?」
「んー、露天商ならそこいらじゅうに在るが…」
 勝手に売って良いものなのだろうか。流石にそれを疑問に思う。
 しかし、そんなに何を急いでいるんだ? いや、俺が疑問に思ってもしょうがないのだが、気になることは気になるのだ。
 旅をしているのだし、なにか目的があるのかもしれない。それなら仕方ないが――ソレも少し、違う気がする。
 何だかこの焦り方は違う気がする。
 まあ、俺が気にすることじゃない。
 そういうわけで宝石の露天商の近場に来る。
「うぃっす、ちょっと良いかい」
「お、お兄さん、何か買うか?」
「いやそうじゃなくてさ、此処の露天商って許可居るの? ちと売りたいものがあって」
 一応尋ねる。食い物とかの所じゃ尋ねにくいし、宝石か服か、尋ねるのならばどちらかがいい。俺が選んだのは宝石店というだけだ。
「んん? まあ要るがね、こういっちゃ何だが俺もモグリだ、店構えてそういう面してればバレねえよ」
 いひひ、と笑うモグリ。まあそういうもんだろう。通報して良いかな、コイツ。
 …とりあえず放って置く。そして、それだと重要な問題が一つ。店が必要なのだ。
「つーわけだ、ダークネス、店が無いと無理だって」
「…コレを売れれば良いから方法はどうでも良いんですが」
「何だ、お兄ちゃんたちも何か売りたいのか?」
 と、露天商の人が言う。最初に言ったぞ、ソレ。
 はい、と頷いたのはダークネス。俺は肩をすくめるだけだ。
「モノは何だい? 宝石? 見せてくれるか…護符か、これなら売れるぜ」
「本当ですか!?」
「ああ、まあちと数が在るから全部は無理かもしれねえが、売れる」
 自信たっぷりに言う宝石の露天商。
 …いいのか、モグリがそんなこと言って。あとダークネス、食いつきすぎ。
 金になるより、売れることのほうが喜んでないか? まさか護符を作る家系とかなのか? それなら何となく納得できる。したくないけど。
「ならお願いします、代金は全部貴方に差し上げても構わない、売れるように徹底して安くで売ってください!」
 すげぇ剣幕。露天商も微かに引いている。しかし護符の入った袋を手放さないのはさすがというべきなのだろうか。
 暫く悩んでから――利益と不利益を計算してから――露天商は笑った。
「いいぜ、一個これなら1000、いや、2000でも飛ぶように売れる、アンタのご要望だし1000で売っちまうが、本当に代金は俺が全部貰って良いんだな?」
「あざとい…」
「いえ、構いません、優先的にソレを売り払ってください、貴方も一つ持っておいたほうが良い」
 俺の言葉を遮って、ダークネスが言う。
 やれやれ、何をそんなに固執するかね。
 ――なんでそんなに、固執しているのか俺には到底わからないのだが。

 何となく。
 コイツが、何かを守ろうとしていることくらいは、幾らなんでもわかってしまうのだった。


≪to be continued.≫

BACK

inserted by FC2 system