「う゛ぅ〜・・・」

それはある日の午後の出来事だった。
外は良く晴れているというのに自分の心は全く晴れない。
あの出来事から”どうやってユーノ君を振り向かせるか”についてずっと考えていた。考
えれば考えるほどわからなくなって、もう何がなんだかわからなくなったときもあった。
私には魅力がないのだろうか、と落ち込んだりもしたが、でもそうやって彼のこと考える
と自分がどれだけ彼のことを好きなのかが分かってなんだか嬉しくもあった。
そしてようやく自分なりに解決策を導いたのだ。
その解決策の実行日が今日である。

「どうかな?」

”裾”をもって広げてみる。バリアジャケットだったらいつも着ているけど、こんな服は
初めてだ。

「やっぱりだめかな?」

鏡の前でポーズをとってみる。

「うーん。自信ないよ」

でもこのためにすずかちゃんにも無理を言ったし今更やめるわけにもいかない。
それになにより

「なのはーどうしたの?」

もう彼がそこにいるのだ。

「なのはー?」

自分から呼び出しておいて今更やっぱり帰ってはないだろう。
それに私はユーノくんに会いたい。会って話をしたい。肌に触れていたいと思うし、少し
でも長く一緒にいたいと思う。
自分たちは恋人同士なのだ。それぐらい普通だろう。

「なのは? いるんでしょ? そっちに行っていい?」

でも着たこともない服だし、もし似合わないと言われたらどうしよう?
それにちょっと恥ずかしいし・・・・。
あ〜ドキドキするよ〜!
でもでもユーノくんを振り向かせるためだもん。
がんばらなくちゃダメだよね。
うん、がんばれ私!
そーっとドアを開いてユーノくんを見てみる。
うぅ・・・やっぱりちょっと恥ずかしい・・・・。
幸いまだ気づいていないみたいだけど・・・。
・・・・・ここまで来たんだから、がんばらないと!
そして私はドアを開けた。





「なのは遅いなぁ・・・どうしたんだろう?」

ユーノ・スクライアはずっと高町なのはを待っていた。
一人でポツンといるところを見ると小動物のようである。
その彼が実は時空管理局に勤めている魔導師だとはだれも思わないだろう。
彼は今日、彼の恋人である高町なのはが見せたいモノがあると言ってきたので仕事を休ん
できたのだ。
彼自身が高町なのはに会いたかったのもあるのだが・・・・。
彼ら二人は恋人同士だというのに、二人とも仕事でほとんど会うことができない。
だからこうやって久しぶりに会う日はとても嬉しいのだ。
しかも今日は彼が誘ったのではなく、なのはの方から誘ってきたのだ。
彼が嬉しくないはずがない。
しかし今、彼の前に彼女は一向に現れなかった。
たとえ彼女を呼んでみても。

「なのはー?」

「ちょっとまって! 今行くから!」

さっきからこの調子である。
彼も健全なやはり健全な男の子だ。好きな子が壁一枚をはさんで向こう側にいるというの
にずっと待ち続けるというのは少々堪える。
短時間なら大丈夫だが、もう我慢の限界だ。
ほんの少し、ほんの少し覗くだけだ。
そもそも自分たちは恋人同士だから多少のことは大丈夫なはず。
もう一度言うが、ユーノ・スクライアは健全な男の子である。

「な〜の〜は〜」

「ユーノくんお待たせ!」

その瞬間勢いよく扉が開き、中からなかなか姿を現さなかった彼の恋人が現れた。
なのはが現れた時にユーノは「僕はなんてことをしようとしていたんだろう」と軽く自己
嫌悪に陥ったのだが、そんなことは次の瞬間、すぐに忘れてしまった。
なぜなら、現れたなのはが着ていた服が・・・・・

「な、なのは・・・・?」

「ぅ・・・・うん」

「どうしたの、それ」

至ってシンプルなその服はシックな黒のワンピースドレスの上から白いエプロンをつけた
だけのシンプルな服であるにもかかわらず、何処となく気品があふれてきている。
スネまであるスカートが彼女が動くたびにふわりと揺れ動き、
その上に乗っている白いエプロンには可愛らしいフリルがスカートの裾にに沿って付いて
いて、
スカートの裾のシワまでも可愛らしく彩っている。
背中にはフリル付きの肩掛けがクロスして腰まで続いている。
背中の腰あたりにはエプロンの白いリボンが大きく蝶々結びをされていて、きつく結びす
ぎたのだろうか、もともと華奢だった彼女の腰周りがさらにキュッと細くなっておりその
せいで彼女の胸の二つの膨らみがエプロンの上からだというのに形がハッキリと分かる。
しかも腰あたりから付いている少し大きめの白いフリルがさらにそれを強調しているのだ。
少し長いらしい袖は可愛いらしい彼女の手がちょこんと出ており、落ち着かないのか裾の
先を握っている。
白い襟の隙間からは彼女の滑らかで柔らかそうな首筋が少し見えていて、
顔は恥ずかしいのだろうか少し下を向いて顔を赤らめ、上目使いでこっちを見ている。
そして彼女のトレードマークである左右のツインテールは今日は下ろしていて、
代わりに頭にはフリルの付いたカチューシャをつけていてとても可愛らしい。
俗に言うメイド服というやつを彼女は着ていた。

「ど、どうか、な?」

「う、うん。いいと思うよ・・・」

「ほんと、かな・・・」

「なのは・・・可愛いよ」

「えへへ・・・恥ずかしいよ」

ダメだ。なのはが可愛すぎる。僕はもうダメだ。あぁ、だんだん自分をコントロールでき
なくなっていくのが分かる。
むしろこれは誘っているのだろうか?
周りには誰もいないしなんか二人っきりだしむしろ二人っきりだし当然二人っきりという
ことはやっぱり二人っきりにならないとできないようなことを誘っているということな
の?!

「なのは!」

改めて言おう。ユーノくんは健全な男の子だ。目の前に好きな女の子が可愛らしい服を着
てしかも周りには誰もいない。我慢できるほうがおかしいのだ。

「ユーノくん危ない!」

世の中そんなうまく行くわけないということをこの少年は今身をもって知った。
なのはに飛びつこうとした瞬間足を滑らせて顔面から床に突っ込んだ。
いわゆるドジである。
きっと天罰が起きたのだろう。悪いことはやっぱりダメだと再確認するユーノだった。

「いたた・・・・」

「だ、大丈夫? ユーノ君」

「う、うん」

そしてふとなのはの方を床に張り付いたまま見上げると彼は凍りついた。
しゃがんだなのはの脚のの間から微かに何かが見える。
いや、実際には暗くてよくは見えないのだがフェレットで鍛えたその目は見逃さなかった
ようだ。
役得である。怪我の功名というやつだ。

「ねぇ、ユーノくん。ホントに大丈夫? 顔赤いよ?」

なのはがそう言って顔を近づけてくる。
彼女の息遣いが聞こえる。
うぅ、なんかそう見つめられているとなんだか恥ずかしいなとユーノは思った。

その後二人でイスに座ってなのはの話を聞いたりした。
なんだろ、このぎこちない雰囲気は・・・・? とユーノは思った。
理由は簡単だ。なのはの格好だ。それのせいで妙になのはが緊張しているのだ。

「ねぇ、なのは。その服どうしたの?」

「すずかちゃんに借りたんだよ」

「そうじゃなくて・・・。なんで着ようと思ったの?」

「・・・・だって、ユーノくんが・・・」

「僕が?」

「ファリンさんのこと見てたんだもん」

一瞬ユーノには何を言われたのか分からなかった。
それは彼が始めて見る彼女の嫉妬という一面。

「え、あ、それはその」

「その?」

彼女の言葉に一瞬影がよぎったのは気のせいではないだろう。

「なんか、危なっかしくて見ていられなかったんだ」

「・・・それだけ?」

「うん」

「ホントに?」

「ホントだよ」

「ホントなの?」

「うん」

「ホントにホント?」

「ホントにホント」

「私に誓って?」

「なのはに誓って・・・・って、え、なのンッ」

そのとたん唇に柔らかい感触がして次の言葉をふさがれた。
体全体に柔らかい感触と甘い匂い。
目の前には愛しい彼女の顔があった。

「・・・・ん・・」

軽く優しい口づけ。

「特別に許してあげるね♪」

感触がなくなったあともしばらくユーノは動くことができなかった。

「でもね、一つだけお願いがあるの」

「な、なに?」

「あのね、もう私以外の女の人を見ないで欲しい、な」

「それは」

「うん、それは無理って分かってるの。だからね、じっと見ないで欲しいと言います私だ
けを見て欲しいと言いますかそのあの、ね」

「なのは」

「なに?」

「ん・・・・・」

今度はユーノからの口づけ。
優しく触れるだけのキス。
今まで幾度となくしてきた行為。
だけどいくらやっても飽きない。
それに”相手に触れている”だけで幸せで穏やかな気持ちになれる。

「・・・・なのは・・・」

彼女の腰に手を回し抱きしめる。

「ユーノ、くん・・・・」

なのはがユーノの首に腕を回し、見詰め合う 。
もうお互い顔が真っ赤だ。

「久しぶり、だね」

「うん・・・」

「もっとこうしていたいな」

「私も、ずっとこのまま・・・」

どちらからともなく近づき、再び重なる唇と唇。
ついばむ様にしてお互いに求め合う。
もう止めるものもなければ止まる理由もない。

「ユーノくん、痛いよ・・・ん・・」

「あ、ごめんなのは・・・」

腕の力を弱める。

「でもね、ギュってされるの、嫌いじゃないよ。もっとしてほしい、かな」

「なのは・・・・」

「あ、あのね、その、久しぶりだからその・・・・いっぱい甘えたいな、って思っただけ
なの」

この少女はどうしてこんなにも可愛らしいのだろう、もう本当にどうにかなってしまう。

「だめ、かな?」

「なのは、ここに座って」

そう言ってユーノは自分のひざの上に座らせ、後ろから抱きしめた。

「あ、ユーノくんズルイよ」

「なのはをいっぱい可愛がれるからいいんだよ」

「私だってユーノくんに色々したいのにぃ。これじゃあ、何もできないよ」

「しなくていいよ、なのは」

ユーノは腕に少し力を入れて抱きしめた。
目の前にはなのはのさらさらとした髪の毛と彼女の滑らかな白い首筋がある。
首筋に口付けをすると、なのはが驚いてビクッと体を振るわせた。

「やぁん、くすぐったいよ〜」

そこから舌先を少しつけるようにしてみる。
服の襟が立っているのでやり辛い。

「ユーノくんくすぐったいってっばぁ」

「なのは、こっち向いて」

「んん」

なのはがこっちを見ようとしたときに口付けをする。
上と下の唇でなのはの上唇を挟むようにしてやると、なのはもユーノの下唇を挟むように
してきた。
お互いの唇を吸い付かせるように合わせる。
そうしてボーっと意識がしてくる。二人ともこの感覚が好きだった。
一緒に溶け合っていくようなそんな感覚。
体は二つあるのに心が一つになったような感じがするのだ。
それが堪らなく心地良い。

「ぅん」

名残惜しそうに唇を離すと、ユーノは少し緩まっていた腕をもう一度締めてなのはを強く
抱きしめる。
それはユーノからの「また後で」のサインだった。
なのはもそれが分かったのだろうか、また少し顔を赤らめたような気がした。

「なのはの耳、可愛いよ」

「ユーノくん、なんだか変態さんみたい・・・」

「なのはが悪いんだよ・・・」

そういうと彼はなのはの耳を口に咥え甘噛みした。なのはからは「ひゃん!」」と可愛い
声が上がり止めてよという少しくぐもった声が上がった気がしたが、ユーノは全部無視を
して甘噛みを続ける。

「ん・・・・ユーノくぅん、そこはやめて、よう」

「だーめ」

彼は今いじめっこになっている。あの小さい子が好きな子に意地悪するのと同じ理屈であ
る。
彼にとっては彼女の反応全てが嬉しく、また喜びでもある。
だからついついイジメてしまうのだ。
それに今日は久しぶりに会ったのだ。もっとなのはの反応を見たい。
もっとなのはを見ていたい。そんな欲求が彼の中を見たいしていた。
だが、

「もうっ、ユーノくんダメッ」

世の中そんなに自分の欲求だけが満たされることは少ない。

「ご、ごめんなのは。ついなのはのことイジメたくなっちゃって」

なのはがユーノの腕から脱出して今度はユーノと向き合った。

「今度は私の番だから、ね」

そのときの顔がユーノは忘れられなかった。

「な、なのは、ごめん!」

「もう遅いよユーノくん!」

今度はなのは攻手に回る番だ。
なのははゆーのを押し倒して自分が上になり、上からユーノの手首を押さえて動かないよ
うにして微笑んだ。
なんとなく怖い気がするのは気のせいではないはず。

「ユーノくんばっかりズルイんだからね」

なのはは少しずつ顔を近づけて

「私だってユーノくんをイジメるんだから」

彼女はそう言って彼にキスをした。







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