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“出会う前より愛色な”へ
“拍手SSもどき”へ
“『寄り添う』二人”へ
“電波、ダークシチュエーション”へ
“寂しがりやな義妹は怖がりで”へ






*注 この作品は『親密に見える二人』とは関係ありません。
  独立したものとしてお楽しみください。











ふいに降り出すどしゃ降りの雨

管理局の仕事で、なのはとはやてを欠いた仲良し5人組ならぬ、仲良し3人組は、降り出した時に一番近い位置にあったフェイトの家に駆け込んだ。






「まったく、参っちゃったわね。うわー、びしょびしょ」

「……体拭かないと風邪引いちゃうね…待ってて、タオル持ってくるから」

「ありがとー、フェイト」

フェイトに礼を言うアリサ、対して、すずかはその声が聞こえないかのように玄関の靴を見ていた。

「いや、もう持ってきてるよ。フェイト」

「クロノ!?もう、仕事終わったの?」

目の前の兄は、提督業務のためにすでに何日もアースラにつめていた筈だった。

「ああ、僕も少なくとも今日の夜までは向こうにいるつもりだったんだが……他のスタッフに怒られてね。早めにあがったんだ」

「……もう、何日も付きっ切りだったもんね。みんな、クロノが心配だったんだよ」

「……まぁ、僕の話はいいんだ。それより、早く体を拭くなり、暖かくするなりしないと…風呂も用意するよ」

「あ、おにーさん、そこまでしてもらわなくても」

「出来るだけのことはしておいたほうがいい、体調を崩してからじゃ遅いからね」

「クロノは一度言い出すと聞かないから、言うとおりにしたほうがいいよ。風邪引かないことはいいことだし」

「君には言われたくないな」

『君も、言い出したら聞かないだろう』と、そんなことを言いたげな表情をしながら、クロノはフェイト達を家の中へ促す。

フェイトは、クロノの後を笑いながらついて行き、アリサはクロノにお礼を言いついて行く

そんな中、すずかだけは、少し拗ねた様な表情をしながら何も言わず、クロノをじっと見つめていた。






クロノは彼女達に風呂を薦めて、それからリビングに戻り彼女達が家に来るまでそうしていたようにくつろいでいた。

しばらくして、浴室の方で音がして、足音が義妹の部屋へと移動していく。

その動きを当然のことと思っていたから、クロノは音でそれを察しても特に何も思わなかった。

なぜなら、身体を暖めても濡れた制服を着ては意味がない。

そして、彼女達が代えに出来そうな服は、義妹の部屋にしかないからだ。

だから、彼女達の動きは当然のことで―――彼の横に近づいてきた気配の方が、完全に驚きで、予想外だった。

気配にとっさに振り向くと、そこにはバスタオル一枚という悩ましげな格好の、すずかの姿

「―――っ!?」

先ほどをはるかに上回る驚きに息が止まる。

叫びたいほど驚いているのに、その驚きで声が出ない。

「なに、を……!?」

ようやく出たのは、擦れた…目的の半分も表していないような、そんな言葉

「帰ってきてるなんて、知りませんでした……」

彼女の身体が火照っているのが分かる。

まぁ、風呂上りだからな…と、まともにはたらかない思考で結論づける

顔どころか、首まで…特に真っ赤に染まっているのは何故だろうか

今のクロノにそこまで思考が回る余裕はない。

「連絡、してくれませんでしたから」

少し、怒っているような、そんな声音

少し、拗ねているような、そんな表情

「心配してたんですよ」

年齢と雰囲気に不釣合いな、扇情的な体躯

それを覆うのは、薄い布一枚

「ごめん……でも、その格好は……」

「……見たく、ないですか?」

彼女らしからぬ、大胆な行動、反応

「どうしたんだ…すずか……」

どもりながら、何とかそれだけは問いかける。

「お仕置きです」

「え……?」

「クロノさんが、忙しいのは知ってます。大事な…尊いことをしてるって、分かってるつもりです。でも、やっぱり危ないお仕事だから……」

彼女の身体が擦り寄ってくる。

水気を帯びた肌の感触は紙一枚の距離で感じられず、しかし、肌から立ち上る熱と香りだけで、クロノは拘束される。

「約束、しましたよね」

『約束』その言葉で思い出すことは一つしかない。

二人の関係が『特別』なものに変わった時に交わされた約束

「会えなくても我慢します。私のために疲れた身体で、時間を割いたりしなくてもいいです。その代わり、帰ってきたら一言だけでいいから
無事帰ってきたことを教えてください……そう、お願いしましたよね」

「ああ…」

「約束、破りました」

「ごめん……」

「だから、お仕置きです。私も少しだけ約束破っちゃいます」

ぎりぎりの距離で離れていたすずかの肌がクロノに触れる。

もはや、二人の間を隔てるものは、互いが纏う布だけ

「我侭、言っちゃいます。甘えさせてください」

「それはいいんだが…その格好は……」

「恥ずかしいですけど……フェイトちゃんの部屋に行くと、クロノさんに甘えられませんから……」

実のところ、二人の『関係』は他の人達には知られていない。

別に隠しているわけではないが、クロノが多忙なためお互いが会うこともままならないこの二人

『関係』が『特別』になってから、かしこまってそれを周りの人間に報告するような機会がなかなかとれず、そうではないのに、まるで秘密なような間柄になっていた。

「クロノさん……」

「す、すずか」

すずかの唇がクロノの頬に触れる。

胸に添えられていた両の手が背中に回る。

ぎゅっと、痛いぐらいにしっかりと抱きしめられる。

しっかりと抱きしめられて、触れていた肌が沈み込むほどに密着する。

添えられていた細い指の代わりに年のわりに熟れた果実が二つ、胸板に押し付けられる。

「う、あ……」

纏まらない思考すら、白くなる。

ただ、痛いほど抱きしめてくるほどに、彼女が寂しかったことと

意識が飛んでしまいそうなほどに、彼女が魅力的なことしか分からない。

「すずか……」

言葉が浮かばない。

彼女の名しか、しゃべれない

本当に、自分はすずかのこと以外忘れてしまったのではないか…そんなことを考えながら、クロノはすずかの行為に応えるように、すずかを抱きしめた。

「くろのさん」

すずかは、身体に回される腕の感触と、引き寄せてくれるクロノの力に、嬉しげに声を上げて

「あったかい……うれしぃ……」

クロノの身体に頬擦りをする。

二人の身体が擦れるたび、すずかの身体を隠す物は、わずかにずれる。

それは、ひどく扇情的な事態だったが、二人は気にも留めていないかのように互いを触れ合わせた。

唇を味わうように軽く重ねた。

胸も脚も触れるように身体を重ね合わせた。

互いの頬にキスをした。

肩を抱いたり、首に手を回したりして、互いをかき抱いた。

「ん……んっ……」

「…んぁ……ん…あぁ…く、ろ……ん、んっ……」

しっかり抱きしめあったまま、息が続かなくなるまで深く、長く、口内を合わせて、味わって…それを何回も繰り返した。








「ねぇ……くろのさん……」

互いの身体をそんな風に何回も触れ合わせて、どれくらい時間が経ったかも曖昧になった頃

すずかは、クロノの胸に頬を合わせたまま、甘くささやいた。

「なに、すずか……」

「初めてですね。こんなに、私の身体を触ってくれたの……」

「……なにか、僕ばかり得しているような気がするよ」

「そんなことないですよ。得してるのは、私です」

「そうかな?」

「そうですよ」

そう言って、笑うすずか

顔を肌に触れ合わせたまま、舌でチロリと、クロノの鎖骨を舐める。

「…ん…くすぐったいよ。すずか」

「……クロノさんの肌、熱いです」

「すずかのせいだよ……」

「私のですか…?うれしいです……私も……」

すずかは、クロノの手を取って、自らの鎖骨部分に導く。

「……熱いね、さっきから何回も触ってるのに、飽きないよ」

「もっと、触ってほしいです…欲張りです。私」

「ねぇ…すずか、フェイト達に僕たちのことうちあけようか」

「え」

「今日、こうして二人でいるんだし…フェイトもここにいるし」

その言葉に、嬉しそうにすずかは微笑んで、クロノの首に顔を埋める。

「ねぇ、クロノさん……フェイトちゃん達に無事、私たちのこと報告したら…私、今日泊まっていっていいですか?」

「え…!?それは……」

「だめですか?」

「いや、そういうわけではないんだが…君の方からそんなことを言ってくるなんて思わなかったから」

「クロノさんだけですよ。クロノさんのことを思うと…私、おかしくなっちゃうんです。独りでいると、自分でも驚いちゃうようなこと考えちゃうんです……」

そう言うすずかの、恥ずかしげな瞳に、クロノは射抜かれて

愛しくなって、まだ瑞々しい綺麗な長い髪を撫でる。

「……でも、今は言えないな。こんなところを見られたら、何を言われるか分からないし」

「ふふ…そうですね」

二人は、笑いあう。

そして、そのまま…もう何度目か、数えるのもバカらしいほどに繰り返したキスをした。








だが、そんな二人の心配はすでに遅い事柄であった。

なぜなら、いつまでも部屋に来ないすずかを不審に思ったフェイトとアリサがリビングの外にいたのだから

……クロノとすずかの関係をうちあけた時の二人は、どう反応していいか分からず、歯切れの悪い反応をすることしかできなかったそうである。






あとがき


SSSぐらいのつもりで、軽い気持ちで書き始めたらまた長くなったーーー!

まったく、この見通しの甘さはどうにかならないものか。

あと、今回の作品は軽い気持ちでお読みください、お願いします。

SSSのつもりだったので、設定等より『萌え』や『エロ』というものを僕なりに追求したつもりなのですが……

みごとに玉砕したような気がしないでもない……orz




 クロノ・ハラオウンは他人より就業経験が豊富でちょっと丈夫なだけ(?)の普通の高校生
しかし、ある日、育ての親のアリアロッテとリーゼロッテが仕事で公共物を壊したとかで唐突に1億5000万の借金が出来てしまう。
あまりのことに途方にくれ、町をさまようクロノ
しかし、何の因果かいろいろあって、お金持ちの少女ヴィータに拾われ執事として働く事になったクロノ
その後、執事の仕事とは思えないような大変なことを体験しながら同じように屋敷で働く『凄く美人』のメイドさん、シャマル
頻繁に迷子になりながら、なにか霊能力がある天然おろおろ少女シグナム
お嬢様だけど、いろいろできてしっかりもの関西弁の自称ヴィータのお姉ちゃん八神はやて
普通っ子、クロノが好きな元クラスメート、エイミィ
ヴィータが通うエスカレーター式巨大学園の生徒会長、元ネタとの好みの合致でこの役どころお泊りイベントとか誕生日イベントとかあります。月村すずか
モブ組3人娘の一人、モブとは思えない人気、僕も実は好きだったり、クラス委員長、高町なのは
とフラグを立てつつ、日常を過ごしていく、そんなギャク話

 …と、まぁ…こんなのを思いついてしまいました。
リーゼとアリアのファンの皆さん、こんな役どころでごめんなさい。
あと、シグナムがミスキャストだと言う声が聞こえてきそうですが…始めはフェイトだったのです。
ただ、迷子になっておろおろしてるシグナムさんを思い浮かべたら、すごくモエナムさんだったという、そんな理由(死)
元ネタが、分からなかった場合は、後日ネタばらしします。







前書き

この作品は、勢いで製作されたネタでございます。
広い心と軽い気持ちでどうぞ。






彼と彼女が出会ったのは、互いのことを何も知らない、他人同士の時

まだ、何も知らない町…でも、自分の義妹になるであろう少女が好きな人たちが住んでいる町で

その人たちが好きな町

そんな町のことを知りたくて、目的も無くその町を歩く。

彼が彼女を始めて見たのは、そんな時だった。

湖の見える公園

そんな美しい情景の中で、少しだけ不釣合いなその少女の暗い表情が、何故か少年―――クロノの目に付いた。





「どうしたの?」

それが彼女が始めて聞いた彼の声

遠慮がちな、戸惑った様なその声に、振り返ると

声音と同じように困ったような顔をして黒い服を身に纏った、おそらく自分より年上の少年の姿

「隣…いいですか?」

「……はい」

「……あの、差し出がましいようだけど……聞いてもいいかな?」

「はい?」

「どうして、悲しそうな顔、してるのかな…って…」

「そんな顔、してました?私」

「うん」

「……大したことじゃないんです…ましてや、悲しいことなんかじゃないんです。ただ……」

そう言って、少女―――すずかは、手に持っていたものをクロノに見せる。

「チケット?」

「はい、そこの福引で当たった4名様、温泉の招待券なんです…これを家族にプレゼントしようかなって思ったんですけど」

「けど?」

「家族と姉の恋人のお兄さんにちょうど4人で数も合うんですが…お姉ちゃんとお兄さんはともかく残りの二人は受け取ってくれない気がして…どうやって渡そうか、考えてたんです」






その後、途切れる会話

なんとなく二人とも気まずくなってベンチを立つ。

無言で歩いていたら、クロノが口を開いた。

「……無責任なことを言うようだけど、とにかく言ってみるしかないんじゃないかな…行動しないと何も変わらないし、言わないと、何も伝わらない」

すずかは首を傾け、声の方向を見る。

「僕は君のことを何も知らないし、君の家族と会ったこともない…でも、家族を想う君を見ていると、きっとその家族も君の事を好きなんだと思うんだ」

名前も知らない少年の横顔は、真剣で、優しげで

「その君の好意は、その人達にとってきっと嬉しいものだよ」

名も知らない、会ったばかりの人にそんな表情で、何かを言えて、考えれるのが何故か分からなくて

ただ一つだけ、その横顔を見て、思うこと…分かることは

「優しいんですね…貴方は」

「とんでもない、僕は出会ったばかりの女の子に根拠も責任も無いことを言う変な男だよ。それにこんなことを言いながら、僕自身は僕の大事な人達の好意を忙しさにかまけてなかなか受け止められないしね」

そんなことを話して歩く二人の耳に甲高い騒音ともとれる鳴き声がとどく。

何事かと見てみると、そこには取っ組み合いのケンカをする二匹のネコがいた。

周りを動く人々は、我関せずとばかりに、気に止める人間はいない。

クロノは、互いを傷つけあうネコ達を見て、とっさに身体を動かして

それより早く隣の少女が飛び出して、二匹を引き離し

「やめて!」

語りかけながら、抱きかかえる。

「落ち着いて、ね……傷つけあっても痛いだけだから……」

二匹のネコは、興奮のままにすずかの腕の中で暴れる。

そんなネコ達をすずかはキュッと抱きしめて、互いに傷つけないように気をつけながら、体温を分ける。

その体温で落ち着いたのか、それともすずかの心が伝わったのか、ネコ達はしだいに落ち着いていった。

すずかは、ホッとしたように息をついて、微笑む

クロノはそんな彼女を少しの驚きと共に見つめていて

誰も動かぬ中でのその彼女の行動に、心に温かいものが生まれて、彼女に近づいた。

「……」

そして、あることに気づいて、クロノは彼女の手を取った。

「えっ!?」

唐突な感触に、とっさにすずかは驚きの声をあげた。

「ごめん、でも…血が出ているから」

そう言って、クロノは彼女を水飲み場まで連れて行き、手を握ったままネコの爪でついた傷口を洗う。

「……」

冷たい水があたっているはずなのに、触れ合う手はとても温かかった。





傷口を洗って、クロノはハンカチを差し出す。

すずかは『そこまでしてもらわなくてもいい』と断るが、クロノは『いいから』と半ば強引にすずかの手を拭いた。

そして、傷口を見ると、血は止まり、何故か痛みもひいていた。

「?」

こんなに、小さな傷だったかと、すずかは少し不思議がる。

そう深い傷ではなかったが、すぐ痛みがひくような傷でもなかったと思う。

しかし、事実としてまるで魔法のように、痛みはひいていた。




その後、二人はお互いに『ありがとう』と言い合って別れた。

少女はその言葉に『お礼を言われることなど何もないのに』と微笑み

少年は『お礼を言われるほどのことなど何もしていない』と微笑んだ

互いの名も知らぬ少年少女の逢瀬はこうして終わりを告げた。






かに見えたのだが……





その日の夜

「クロノ、今日、友達が家に泊まるから紹介するね」

というフェイトの言葉と共に、部屋に入ってきた少女を見たとき、少年と少女は言葉を失った。

「あのね、家族が旅行に行く間、家に泊まる事になって……」

そんなフェイトの説明が、驚きのせいか少し遠くに聞こえる。

でも、それほど大きな驚きも、フェイトの言葉が終わるころには、小さくなっていって

会えた嬉しさへと変わっていった。






「月村すずかと言います。よろしくお願いします」

「フェイトの兄…と言うのは少し早いけど、クロノ・ハラオウン…それが、僕の名前だよ……よろしく、月……すずか」

「はい、あの…数日間、よろしくお願いします。クロノさん」






町で出会った、少年少女、そこで終わるはずだった二人の関係

なんの因果か、神の悪戯か、二人は、数日寝食を共にすることになる。

その数日…少女と少年はどんな時を共有し、どんなことを想うのか。







「私…もう嘘はつけないみたいです。たとえ住む世界まで違っても…私は、貴方が好きです」

「僕は、権力や地位なんかいらない…そんなものなくても僕は、僕の護りたいものを護ってみせる…ただ一つ、その時に君がそばにいてくれると嬉しい」







恋愛シュミレーションゲーム『出会う前より愛色な』 20005年9月22日発売予定





あとがき


唐突な思いつきネタ

……ラジオに投稿したネタが全然まとまらず、代わりにこんなのできました。(ぉ

始まりは、12月20日夜のコンさんの日記より

発売予定日より察せると思いますがこれより先はありません。








海鳴の家の自室

この世界で、暦の中の一年という括りが終わるこの日に

クロノは恋人の肌に指を這わす。

しばらく避けられていたとすら思っていた彼女に、突然こんな行為をせがまれた驚きは

指が肌に触れた瞬間に消え去っていた。

ベットに横たえていた身体を、完全にそこから離して立ち上がる。

目の前にある恋人の頬に手を添えて

乱暴にならないように気をつけながら口付ける。

一瞬の感触

だけど、久しぶりのソレは、今の状況と相まってクロノの理性を溶けさせるには十分だった。

その心のままに彼女を、痛くならないように最後の理性で力を抑えながら、しかし深く抱きしめる。

彼女も、深くクロノとふれあいを望む気持ちを表すように、身体をクロノに密着させる。

首筋には、さきほど触れた唇の感触

そこからコクコクと何かを飲むような可愛らしい音がする。

「君にそうされるの…久しぶりな気がする」

「ごめんなさい、我慢できなくて……」

「いいよ、いくらでも君にあげる……そのかわり、僕は君のそばにいていいかな?すずか」

「もちろんです。そばにいてくれなくなったら……私、泣いちゃいます」

「そのわりには、最近避けられていたようだけど?」

「そ、それは……」

すずかの表情に羞恥が混じる。

「うん…『発情期』だったよね?」

意地の悪い微笑と共に、クロノはすずかを見つめる。

「イジワルです。クロノさん……」

「ごめん、でも君が辛そうにしているのに、僕を避けて、会ってくれなかったんだから…これくらいの意地悪は言いたくなるんだ」

「だって…あんなこと初めてで…クロノさんに会ったら、貴方のことなんか考えずに襲ってしまいそうで……」

恥ずかしげにそう言うすずかに、クロノは微笑む。

「ひどいです。どうして笑うんですか」

「……僕の恋人は可愛いなぁって…そう思ってね」

クロノはその言葉と共に、彼女をソッと押し倒す。

ベットの軋む音が、いやに大きく響いて

でも、五感は目の前の愛しい人から離れない。

確か、今日は…こちらの世界で煩悩を討ち払う日では無かったかと、クロノはにわか知識で考えるが

目の前のコトにそんな考えは無力で

むしろ煩悩は、泉のように沸いてくる。

「すずか…できるだけ、優しくするから……」

「……乱暴にしても、かまいませんよ」

「でも……」

「全部、受け止めます……そのつもりで来たんですから……」

「すずか……」

「大好きです。クロノさん」

「僕も、大好きだよ。すずか」

「私を、クロノさんの好きなようにしてください。その代わり、クロノさんを全部、私にください」

その言葉に、クロノは堪らなくなって

今度は、痛いほどに強く、すずかを抱きしめる。

彼女との思い出を想いながら―――










初めは、ただの妹の友人で、自分とは関わりのない人だった。

普通に、綺麗だと思うだけの年下の女の子だった。

でも…1年、2年と時は経ち、自分も変わり、彼女も成長するその中で

より美しくなっていく彼女を、いつの間にか目が追うようになっていった。

でも初め、自分のその行動にクロノは気づかなくて

周りの人間にからかわれて、やっと気がついた。

それから、その理由をわりと長い時間考えて

彼女を好きだと、そう気づいて

気持ちを伝えて、逃げられて

振られたのかと、そう思ったりしたこともあった。







彼に告白された時の複雑な感情は今でもはっきり覚えている。

出会う前から、友人たちから、いろいろな話を聞いて、どんな人だろうと興味はあった。

会う機会は少なかったけど、よく話に出てくるせいか、そんな気はあまりしなくて

でも、会うたびに伸びていく背や大人っぽくなっていく顔立ちに驚いたりもして

よく知りもしないのに、自分の常識では考えられないようなことを若くして成し遂げる彼に、憧れを抱いたりもした。

そんな人に好きだと言われた時、信じられなくて

でも、とても嬉しくて

だけど、その気持ちに応えるのが怖くて、すずかは逃げ出した。

だって、彼女には秘密があったから

他の人とは違うから

だから、この秘密を知ったら、彼は離れていくかもしれないと思ったから

でも、秘密のままで彼の真摯な想いに応えることはすずかにはできなくて

怖かったけど、彼女は全てを明かして

「こんな私でも、好きでいてくれますか?」

と、震える声で問いかけた。

クロノは、そんなすずかを抱きしめて、腕と自身の体温で包んで

「すずか…僕は、魔法使いだよ」

あんな秘密を明かされた後とは思えないほどに自然に優しく、穏やかに…耳元で、囁いた。

「だから、こんなことで驚いたりしないし、ましてや…君を嫌いになったりしない」

その言葉に、すずかは言葉を失って

「もう一度言うよ…すずか…僕は、君が好きだよ」

二度目の告白は嬉しさだけが溢れてきて

「私も…私もクロノさんが好きです」

涙といっしょに、その気持ちは自然に言葉となって、溢れた。







抱擁の終わりと共に、お互いを想う浅い回想も終わりを告げて

でも、もっとお互いを想うために、二人はお互いに手を伸ばす。

静かな部屋に衣擦れの音が響く。

その夜、二人は世界の動きも何も関係なく

ただ、お互いのコトだけを感じて、想って……夜を明かした。






あの人と出会って、初めてのバレンタインデー

まだ義理チョコだったそれを受け取ったあの人は

『この世界には変わった風習があるんだな』と、少し困惑したような表情の後

「ありがとう、嬉しいよ」

そう言ってあの人は、本当に綺麗に笑った。






目を開ける。

すずかは辺りに広がる朝日の光で、今が朝なのだと悟る。

なにか、懐かしい夢を見ていたような気がしたが、よく思い出せなかった。

でも、そんなことはすぐにどうでもよくなった。

横にある温もり

それが今あるだけで、十分だと思ったから






手を伸ばす

手の平に、体温が伝わってくる。

彼の存在が伝わってくる。

愛しい人がここにいると、それを確かに感じられる。

肌を撫でる。

そして、いつも思う。

彼は見た目よりもずっとたくましくて…そして、傷だらけだ。

でも、その痛ましいはずの傷の数や、その位置を誰よりも自分が知っていることを、すずかは少し嬉しく思う。

そして、そんな自分を少し恥じて

『ごめんなさい』と、謝る代わりに、癒すように彼の傷にキスをして、舌を這わせる。

二ヶ月前、暦が変わるあの夜に、彼と初めて結ばれた時から、肌を見せ合うたびに決まって行われる…儀式のような、しかし、溢れるほどの愛しさを込めた触れ合い

その触れ合いと共に、すずかは、想う。

人に聞いた、そのあまりの優しさと気高さに、彼女が憧れた彼を

彼女の全てを受け入れて、それでも好きだと言ってくれた彼を

そして、そんな自分と同じように、多くの人々を救ってきた彼を

誰よりも、愛しい彼を……想う。

その触れ合いに何の意味があるのだろう。

いくら想って、慈しんで触れても、彼の傷は消えない。

いくら彼が愛しくても、すずかには、想うことしかできない。

彼女の親友たちのように、実際に彼を助けることはできていない。

でも、だからこそ彼女は想う。

こんなに愛しくて、でも、それしかできないからこそ、彼への愛しさが、尊さが、心配が

少しでも、彼に伝わるようにと

そんなことをしていたら、暖かい手の感触を髪に感じた。

「起きてたんですか」

「今起きたところだよ。くすぐったくて」

そう言って、クロノは笑う。

「あ、ごめんなさい」

「いいよ、そのままで…くすぐったいけど、なんか落ち着くし……」

そう言いながら、クロノもすずかの髪を撫で続ける。

クロノの手の体温と髪をすく感触が心地よくて、すずかは目を細める。

『ずっとこうしていたい』『他に何もいらない』そんなことを思ってしまうほど、すずかはクロノを感じて、想う。

でも、彼をずっと感じていることはできない。

だって、クロノ・ハラオウンは強くて優しい人だから

その強さや優しさで、誰かの悲しさを無くすことを、我慢できない人だから

だから、すずかはその思いのままにクロノを縛ることはできない。

今日だって、すずかはクロノを待つだけのはずだったのだ。

それが、こうして同じベッドで朝を迎えて二人で触れ合えるのは、クロノが訪ねてきてくれたから

昨日、2月13日…この世界の、この国で、甘いチョコと一緒に愛しさを伝える前日に、クロノは仕事を片付けて恋人を訪ねた。

すずかはクロノの不意な訪問に驚いて、彼が無理をしたんじゃないかと少し不安で

でも、彼は恥ずかしがって、訪問の理由を『会いたかったから』としか言わないけれど、この日に訪ねてきてくれたことは嬉しくて

そして、照れ隠しの言葉も嬉しくて

だって、それは、クロノがすずかを好きだということだから

月村すずかはクロノ・ハラオウンが好きだから、彼の思うままに誰かを救ってほしくて

でも、月村すずかはクロノ・ハラオウンが好きだから、彼が自分を求めてくれることが望んでいないことのはずがなくて

だから、彼のその『好き』をほんの少し言い訳にして、クロノに語りかける。

「クロノさん」

「何?すずか」

「大好き」

言葉と共に、クロノを抱きしめている手をしっかりと肌に触れさせて

クロノの瞳をしっかりと見つめて、微笑んで

そして、頬にキスをした。

ゆっくりと唇を離す。

すずかの瞳に映るクロノは、嬉しそうに微笑んで

「僕も大好きだよ。すずか」

そう答えた。

すずかは、その言葉に満たされて、その微笑みが嬉しかった。

「大好き」

もう一度、言う。

だって、いくら言っても足りないから、どうすればこんなに溢れてくるいっぱいの想いを伝えられるか分からないから

すずかはクロノに会うたびに、何度も、何度も『大好き』を繰り返す。

その声で、その身体で、その感触で、その体温で、その唇で、すずかがクロノに伝えられる全てのもので

クロノが抱きしめてくれるかぎり、髪を撫でてくれてくれるかぎり、求めてくれるかぎり、幸せそうに微笑んでくれるかぎり

何度でも、気持ちを形にして伝える。

だって、クロノ・ハラオウンは人の幸福を望むのに、自分への幸福を受け取るのはすごく下手な人だから

こんなに優しい彼なのに

こんなに彼が好きなのに

それが彼に伝わらないなんて、すずかはイヤだから

せめて『恋人』である自分の想いだけでも彼に伝わりますようにと、今、飽きるほどにクロノに『好き』と伝えて

そして、これからも、それを繰り返すだろうとすずかは思う。

たとえば、今日、この後も

彼に、朝食を作ったり、とびっきりの想いと手間ひまを込めたチョコレートを渡そうと考える。

でも今は、そんな先のことよりも今できる『好き』を伝えようと、今度はクロノの頬に自分のそれを擦り付けて、そのままもう一度、頬にキスをする。

溢れる自分の気持ちで、自分と同じように彼が満たされてほしい

たとえどれだけ傷ついても、それを覆い隠してしまうほど、彼に幸せになってほしいから

他でもない自分自身で、彼を幸せにするのだ。







「今日は、ずっと一緒にいれるんですよね?クロノさん」

「うん」

「一緒にいろいろしたい事、あります。覚悟してくださいね」










月村すずかはクロノ・ハラオウンの恋人で

何度も何度も何度も言うが、何度言っても足りないほどに、彼が『大好き』だから






あとがき


いまさらバレンタインネタ、しかも内容的にバレンタインあまり重要じゃない。

……スランプ継続中ー!

しかし、いつまでも音信不通も不味かろうと書いてみましたが、今回特にお目汚しかもしれない……。

ううむ、書きたいことがうまく纏まってない感じが自分でもするなぁ…しかし、あまり言い訳しても仕方ない。

タイトルにあるネタが隠れてます。

分かった人はエロい人です。(ぉ

しかしコンさんなら分かるかもしれない…。

あと、分かりにくいですが、この作品は年末から年始にかけて送った拍手SSもどきの後の時間軸になってます。






目の前で、寝ている子を見つめる。

自主訓練で疲れて眠ってしまったようだ。

管理局に入るだけでも心配なのに、頑張りすぎな気がする。

 ―――そんな姿が、義兄と重なる。

「……クロノ」

もう、私の近くにはいない。

私の好きだった―――好きな人の名前を呟くそれは、この子の名前ではない。

髪の色も、瞳の色も、何も似つかないのにどうして、出会ったころの彼が、私の脳裏にちらつくのだろう。

「くろのぉ……」

これは、イケナイことだ。

でも、そんなこと知らない。

もう浮ばない、止まらない。

ついばむように、唇を触れさせる。

もう、我を忘れている。

起きるのも構わず、深く口内を蹂躙するように変わるのは、時間の問題だろう。

 ―――彼は、私のだ、こんどこそ誰にも渡さない。

『今度こそ』という言葉を打ち消すように、狂った口づけに没頭した。






大切な人がいるという事は幸せだ。

それは、家族だったり、友達だったりいろいろだが

ともかくそんな人達と笑いあえて、楽しくて、幸せだと思えることは良いことだ。

最近、ハラオウン姓を名乗るようになったフェイトは、それを実感していた。





寂しがりやな義妹は怖がりで



名前を呼んでくれる大切な友達

その友達のおかげで、友達がまた増えて

皆で過ごす、日常は慣れない事も多いけど楽しくて

家に帰れば、いつも一緒にいた使い魔や、新しい家族がいて

その家族は、仕事が忙しくて家にいないことも多いけど、朝はおはようを言ってくれて

帰ってきたときは、お帰りを言ってくれて

それだけのことなのに、それが凄く幸せで

仕事は、少し大変だけど、やりがいがあって

なにより、同じ職場で働く友達を見ていると彼女のようにがんばろうとか

頼りになる義兄を見ていると、彼のようになりたいとか

そんなことを思って

目標に向かって進むその日々は、たとえ大変なことでも張り合いが感じられて

そんなとても満たされた、幸せで、充実した日々

でも、その幸せを幸せだとはっきりと感じるほど、ふと怖くなる時がフェイトにはあった。

この幸せを失くしてしまったらと、根拠もない未来予想をふとしてしまう。

それはネガティブで、意味がなくて、むしろ悪いことだとフェイトも分かっている。

でも、一人でいるとき、急にそんな怖い想像が頭を過ぎることが、たまにあった。





今まさに、そんな考えにフェイトは支配されていた。

時刻は、深夜12時過ぎ

場所は、海鳴の家の自室

先ほどまで眠っていたため、室内は真っ暗だった。

夢は見なかった。

ただ、不意に目が覚めて、視界に広がったのは深い闇で

何の音もなく、辺りは静かで

不意に、世界に一人きり、取り残されたような錯覚を、フェイトは覚えた。

そんなことはない、とフェイトは思う。

理性は、この恐怖は錯覚だと分かってる。

でも、怖い。

恐怖は、晴れない。

何も感じないように、眠ってしまおうと、布団を頭にかぶす。

でも、晴らそうとしている恐怖が邪魔して、眠りに落ちれない。

眠ろうとしばらくあがいて、そして、眠れないと悟ったところで

フェイトは、たまらなくなってベットを抜け出した。

部屋のドアを開け廊下に出る。

しかし、そこもやはり真っ暗で

世界に一人きり取り残されたような、錯覚はさらに強くなる。

漠然とした不安に身体が強張る。

泣きたくなる。

あてもなく、廊下を歩く。

普段、暮らしているはずの家が、暗闇の中、未開の洞窟のように思えた。

だから、暗闇を割く光が見えたとき、フェイトはそこに向かって自然に走っていた。







「あれ?フェイト、まだ起きてたのか」

そこには、フェイトが床についたころにはまだ仕事で家にいなかったはずの、クロノの姿

日付が変わる少し前に、ようやく家に帰ってきた彼は、シャワーで汗を流し、短い自宅での時間をすごし、そろそろ寝ようか、と思っていたところであったのだが

そんなクロノの事情が分かるほど、今のフェイトは冷静ではなかった。

強張ったフェイトの表情が、迷子の子供が親を見つけて、我慢していたものが溢れた時のようにクシャリと、一瞬歪んで

ポロリ、ポロリと涙がこぼれた。

その突然の涙に、クロノは目を見開いて固まる。

足が自然と進んで、フェイトはクロノに近づく。

フラフラと歩くような速度から、小走りの速度になった瞬間に、フェイトの小さな身体はクロノの胸に飛び込んだ。

クロノは咄嗟にフェイトを抱きとめる。

でも、当然のように、彼は混乱していた。

フェイトの涙の理由も、行動の意味も分からない。

呆然とするクロノ

しかしそれは、手と、指先から伝わってくる感触を理解することで終わった。

震えが、指先から伝わってきた。

クロノには、自分の腕の中のフェイトの表情は分からない。

でも、今、腕の中で震えるフェイトは、とても小さくて、弱弱しくて

普段の凛々しく、クロノですら頼もしいと思ってしまうような、彼女とは思えなくて

だからこそ、その姿が年相応に感じられて、たとえどんなに強く見えても、フェイトが小さな女の子なんだと感じられて

クロノは、そんな彼女の震えが治まるように、そっと、背中を抱いた。






しばらくそうしていると、フェイトの震えも止まってきて

少しずつ、気持ちが落ち着いてきた。

それと同時に、フェイトは気恥ずかしさを感じていく。

だって、義兄の前で、初めて泣いてしまって

しかも、情けなく震えて、しかも抱きしめて慰めてもらうなんて、かっこ悪すぎる。

もう、死んでしまいたいぐらいに恥ずかしい。

そう思っているのに

クロノの腕の中は、そんな思いを抱きながらでも、離れがたいほどに心地よくて、暖かかった。








「落ち着いたか?フェイト」

クロノから離れないでいると、そんな声がかけられた。

「ぅん」

フェイトの照れなど意に介していないような、その穏やかで優しい声に、醜態をさらしているのと、ただ純粋に今の状況からくる恥ずかしさで

まともに声を出すことができず、聞こえるか、聞こえないかの呟きで、フェイトは答えた。

クロノの腕がフェイトから離れる。

「ぁ……」

身体を包んでいた優しい熱が、引くのをフェイトは確かに感じて

少し、後を追いかけるように、腕を出した。

でも、無意識のそんな行為では、その腕は捕まえられなくて

彼は離れてしまった。

さっきまで、確かに恥ずかしかったはずなのに、虚無感がフェイトを襲う。

もう暗い部屋や廊下にいるわけでもなく、一人でもないのに、寂しくなった。

「少し、待ってて」

クロノは、そう言って部屋を出て行ってしまった。

フェイトは、得体の知れない寂しさを抱えたまま、クロノの言葉通り彼を待つ。

「お待たせ」

そう言って、戻ってきたクロノの手にはマグカップ

「?」

不思議そうな顔をするフェイトに、そのマグカップが差し出される。

頬に触れる、温かい湯気と甘い香り

「ホットミルクだよ。これを飲んで、落ち着くといい」

『まだ、声に元気がないからね。無理しなくていいよ』と、クロノはそう言った。

実の所、さっきの声に元気がなかったのは、クロノの腕の中で感じた、得体の知れない照れのせいだったが、フェイトにそれを訂正することはできない。

でも、そう言うクロノの表情はとても優しくて

カップを受け取った時に触れた手の、さっきまで感じてた暖かさにホッとして

フェイトは、自分でも知らず、微笑んだ。

その微笑を見て、クロノは嬉しくて、さらに微笑を深くした。

「―――!?」

先ほどは穏やかさを生み出したその微笑に、今度は逆の効果を叩きつけられる。

体温が上昇して

自分の頬が紅くなっているのがはっきりと分かって

フェイトは、クロノの顔がまともに見れない。

その感情を隠すように、フェイトはクロノの用意してくれたミルクに口をつける。

クロノは、そんなフェイトをただ、見つめていて

フェイトはいくら落ち着こうと思っても、その視線から意識を外すことができなかった。







「ごめんね」

マグカップの中の、ミルクを全て飲んでしまって

しばらくたった頃

ポツリと、呟くようにフェイトは言った。

「訳分からないよね。私」

「いいよ、別に」

クロノは何も聞かない。

ただ、彼らしく静かに、でも少し優しくフェイトの行動を受け入れた。

そんなクロノの態度が、彼の気遣いがフェイトは嬉しくて

でも、責められないことが、少し、辛かった。

「あのね……」

だから、フェイトは自然と、彼に晒してしまった醜態の理由を、話し始めていた。






フェイト・T・ハラオウンはクロノ・ハラオウンが管理局執務官としてどれほど、自分に厳しくしているかよく知っていた。

だから、彼と同じ職場で働く立場でありながら、こんな理由で、泣いて、眠れないなんて、呆れられて当然だと思った。

彼の気遣いに、黙っていられなくて、理由を漏らしてしまったが、話したら話したで、今度は気まずさで顔を上げれなかった。

「―――!?」

でも身体を包んだのは、呆れや沈黙ではなく、さっきまで感じていた温かさだった。

「ク、クロノ……!?」

抱きしめていた、今度はクロノから、フェイトを

さっきのような、唐突な抱擁ではない、自然な抱擁

「フェイト、僕は、ここにいるよ」

「―――!」

「ずっと、そばにいるよ」

「ほんと……?」

「ああ、もちろん全てがずっと今のままという訳ではないかもしれない。変わっていくものは変わっていく…でも、少し、何かが変わっても僕は、フェイトのそばにいるよ」

『だって、僕は君の家族だから』そう言うクロノの声は、優しくて、でも、力強くて

ただの一言なのに、その一言がとても信じられた。

「ダメだね、私…悪いことばかり考えちゃって……」

「そうかもしれないな…それは君の悪いクセだ」

「きっと、変わっていく明日があっても、それは今日より幸せになれるよね」

「そうだな…君がそう信じているなら、明日は、きっと幸せな明日になるさ」

それは、そうあったらいいという夢想

そうはならないかもしれないと知っている。

でも、そう思うことから全ては始まると、そう思ったから

そして、今感じている互いの存在は、そんなことを信じてしまうほど、幸せを感じられるから

二人は、儚くも尊い希望を、信じて口にしていた。






どれくらい抱きしめあっていたかも分からないくらいの時間、二人は抱きしめあって、どちらともなく離れた。

「……大丈夫?」

クロノが聞いてくる。

フェイトの不安は、すでに塵も残さず消えていた。

それでも、その不安を消してくれた温もりが遠ざかってしまったことは、素直に寂しかったし

短い間に、深い不安と幸福を味わって、しかも幸福を求めた彼女は、少しおかしくなっていたのかもしれない。

だからだろう、少しぐらい、貪欲になってしまってもよいのではないかと、ふと思ってしまったのは

普段だったら、絶対に言えない言葉を言うために、嘘をついてしまったのは

「少し、まだ不安かも……」

「そうか……」

我侭でもいいから、温もりを離したくないと思ってしまったのは









「だから、ねぇ、クロノ……今日は、一緒に寝てほしいな……」





その言葉に、クロノは、フェイトが抱きついてきたとき以上の驚愕と共に、完全に固まった。







あとがき


前に、フェイトの電波を突発的に書いたのですが、それから、まともなフェイトものを書かなければとずっと思っておりました。

自分的には、正当派クロフェ狙ったつもりなのですが、いかがでしょう?





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