私たちは知りました

敵、彼らもまた私たちと同じ

強い想いを宿した人だということを



同じ大切な想いでも
          道が違えば敵になる

たとえ、嘗てどれ程信じあった仲でも
                  互いに牙を向けなければならない

カノンさん達はその全てを理解してこれまで戦ってきた

そして、これからは私達も


魔法少女リリカルなのは light and darkness


   始まります



イメージOP:カルマ〔BUMP OF CHICKEN〕


カーテンの隙間から入り込む日の光に照らされ、カノンは目を覚ます
辺りを見渡すと、普段こっちで使っているマンションの自室ではない

『……そっか、昨日はミリアの部屋で寝たんだった…』

次第に頭が冴えだし、隣から直に感じる温もりに目を向ける。
もぞもぞと動き、寝返りを打ち、寝顔がカノンの目に入る。

『やっぱ、可愛いな、ミリアは』

早朝1発、思いっきり惚気だすカノン。恋人の寝顔なのだから当然と言えば当然だが…。
自惚れかな、そんな事を思いながら隣で気持ち良さそうに寝ている彼女の髪をそっと撫でてみる。

「…ん……あ、カノン?」
「お?悪い、起こしたか?」

くすぐったそうに身をよじた後、目を覚ましたミリアに、謝罪するカノン。

「ううん、大丈夫」

ミリアは片手でシーツを掴み胸元を押さえながら上半身を起こす。
う〜〜ん、と伸びてみる。

「ハハ、昨日はごめんな。つい…」
「ホントよ////もう!」

ぷいっ、とそっぽを向く。そんな彼女の仕草が可愛らしくて、後ろからそっと抱きしめる。
暫くそのまま、お互いの温もりを感じあう。

「おはよう、ミリア」
「おはよう、カノン」

そのまま、どちらからともなく唇を合わせた。


着替えたカノンとミリアは食堂へ向かう。
因みに、ミリアの家はアリサやすずか並みの豪邸である。
食堂にはすでに着いている者が居た。

「おはよう御座います、お母様、お父様」
「おはよう御座います」

ミリアの両親、グレン=クラウゼンとその妻、フェンナである。

「おはよう、ミリア、カノンさん」
「おはよう、二人とも」

朝の挨拶をすませ、席に着き朝食を摂る。

「カノンさん、今日からお仕事なんですよね?」
「はい。すみません、また、暫く空けます」
「今度はいつ帰られるんですか?」
「……来月になりそうです」

申し訳なさそうに答えるカノン。また、ミリアに寂しい想いをさせてしまうと思っているのだ。

「まぁ、どんなことがあってもカノン君は必ず帰って来てくれるからな。なぁ、ミリア」
「お、お父様////」

突然話を振られ顔を赤くするミリア。
程なく、食事は終わり、ミリアはシャワーを浴びに風呂場に向かった。
リビングにはグレンとカノンの二人だけである。

「カノン君。先日のゾディアック襲撃の報告は聞いている。その後の進展は?」
「現在、シフォンに頼んで調査中です。そろそろ、何か掴めそうですが…」
「そうか…。兎に角、無理だけはできるだけ避けてくれ。ミリアには知られる訳にはいかない」
「ええ、わかっています。すみません、こちらこそ無理を言って」
「気にしないでくれ。ミリアに余計な心配を掛けさせるわけにはいかんし、君の気持ちも理解しているつもりだよ」

ありがとうございます、そう言って、深々と頭を下げた。



カノンは準備を終え、庭に置いていたライドチェーサーを押し外へ行く。ミリアは見送りのため付いていく。

「ごめんな。今日、折角のバレンタインなのに…」
「いいのよ。チョコは渡せたし…」

因みに、渡したのは日付が今日になって直ぐ。その後は…。
夜のことを思い出し、顔を赤くするミリア。
カノンはそんな彼女の顔にそっと手を添える。

「じゃぁ、行って来る」
「ええ、いってらっしゃい」

そして、ゆっくりと唇を合わせる。
本当なら、ずっとここに居たいと願うカノン。でも、それはまだ叶わない。
名残押しみながら離れる二人。
カノンはバイクに跨り、ヘルメットを被る。

「ホワイトデーは、なんとかするよ」
「ええ、楽しみにしてる」
「じゃ」

軽く手を振り走り出したカノン。
ミリアは次第に視界から小さくなっていく愛しい人を消えるまで見つめていた。


≪『辛いか?』≫
『俺よりもミリアだ。ああ見えて、寂しがり屋だからな…』

ミリアから見えなくなった所で停止したカノン。
白い魔法陣を展開し、トランスポーターの準備に入る。

「必ず、帰ってくるから…」

クラウゼン家の屋敷に向かって…ミリアに向かって小さな声で呟いたカノンは光に包まれ転移した。

第4話「伝えたい想いと血塗られた両手なの」




2月14日。7時30分。
ここは聖祥大学付属中学。現在、3年の教室で遠くを見つめながら溜息を付いている少女がいる。

「ねぇ、なのは。最近、フェイトどうしたの?」
「何だか元気ないよ、フェイトちゃん」
「えっと…実は」


フェイトの悩みの原因は先月の終わりに起こった。

その日、管理局本局に緊急のサイレンが鳴り響いた。
突然の自体に、観測官達は我が目を疑った。

本局に無数の熱源が接近している。直ぐさま、接近中の物体を映像に映すと、それは、

15メートル前後の人型の機械が、その手に重火器を装備していた。
カノン達のデータにもあった闇の使徒のFTMである。その数、約70機。

本局司令官はすぐさまディストーションフィールドの展開を命じた。
だが、敵の多さに防戦一方。

その時、

敵FTM数体が撃墜された。残りの機体は一方向にメインカメラを向ける。そこには、

1隻の戦艦と、4体のFTMがいた。カノン率いるアーカムである。


「じゃぁ、カノンさん達が倒したんだね」
「さっすがカノンお兄さま、素敵♪」
「でもね…」


戦闘の途中、任務を終えたアースラが本局周辺に転移してきた。そのため、敵のFTMに狙われてしまったのだ。
そこを、トウヤが助けに入ったのだが…。


「なんでも、トウヤさんの機体はどうしても解決できない欠陥があって、その所為でトウヤさんにすっごい負荷が掛かって…」
「え?その…FTMって乗ってる人も影響が出るの?!」
「カノンさん達の機体は特別製で、魔力を使った機能があるんだけど、トウヤさんの機体だけそのシステムのバランスが悪くて…。で、結局、終わった後、トウヤさん倒れちゃって…」
「そうだったんだ…」
「で、その人のことが心配で、ああなってるわけだ」

3人はフェイトの方に目を向ける。話が聞こえていたのか、いっそう重くなっている。

「…心配…するよ…あんな顔したら…」

フェイトは倒れた時のトウヤの顔を思い出した。
両脇をカノンとキリトに抱えられ、運ばれていくところで駆けつけたフェイトに、

「…大丈夫だよ…」

青ざめた顔で力の無い声でそう言った。

はぁ、と盛大に溜息を溢した。

「重症だね」
「うん」

ふとアリサがフェイトに近づく。

「ねぇ、フェイト。チョコ作った?」
「え?うん。いつもお世話になってる人と、兄さんとユーノに」
「あのさ、せっかく今日バレンタインなんだから、チョコ渡せば?」
「?誰に?」
「トウヤさん」

その言葉に、さっきまでの落ち込んだ顔は一気に赤くなり慌てだす。

「え、な、何言ってるの!アリサ!」
「へぇ〜そうなんだ〜トウヤさんは義理チョコすらあげる価値がないんだぁ〜。トウヤさんかわいそう〜」

わざと、意地悪に言うアリサ。それを見ているなのはとすずかは内心ヒヤヒヤしている。
フェイトは声を荒立て反論する。

「そんなことない!私はトウヤさんのこと、す…好きだもん////…でも」
「でも?」
「チョコ…もう余り無いし……今からじゃもう間に合わないし…」

再びズーンと沈むフェイト。いつかの女に間違えられたカノンのように。
因みに、本日の出勤は午後1時からである。しかも、この二週間近く互いの都合のせいで全く会っていないのである。

「はぁ〜。じゃあ、この際市販でもいいじゃない」
「え?でも…」
「こういうもんは想いが篭ってればいいの!行くとき、買っていきなさい。いいわね」

わかった、とアリサの勢いに圧倒され了承したフェイト。そこへ、

「おっはよ〜!って、みんなどないしたん?」
「あ、はやてちゃん」
「はやてちゃん、フェイトちゃんが…」

はやてはフェイトの名を聞いて、ああ、と認識した。先日からのフェイトの恋の病は皆承知の話なのだ。
そんなフェイトにニヤニヤしながら近づくはやて、

「フェ〜イトちゃ〜ん♪」
「な、何はやて?」

あからさまに怪しいはやてに、警戒心を剥き出しにするフェイト。

「いやね、ある情報筋から聞いたんやけど、今日トウヤさんオフやって」
「え?」
「で、オフの日は大体本局の自室に篭ってるんやて。よかったなぁ」

そこに、なのはが近づき、

「はやてちゃん。その情報筋って?」
「リムさんや。今じゃもうすっかり家の家族にも溶け込んでんねん。ヴィータとも仲良くなれてるし」

なるほど、と納得したなのは。以前のミロの件以来、リムエナとヴィータが仲良くなっているのだ。
現在のヴィータの好きな人ランキングは、1位はやて、2位カノン、3位リムエナ、である。

「よかったじゃない、フェイト。いい、絶対渡すのよ」
「う、うん!」

好きな人に想いを伝えるため、気合を入れるフェイトだった。


時間が過ぎるのは速いもので、もう昼。

「じゃぁね」
「吉報、期待してるわよ」

すずかとアリサに送り出される三人。フェイトはアリサの言葉を変に意識しているため、顔が赤い。

「フェイトちゃんもそうやけど…恋する乙女は綺麗やね」
「そうだね」
「シグナムも最近可愛くなってきたし、シャマルもなんよ」
「え?なんでシャマルさんが?」
「こないだからキリトさんのこと、意識してるみたいなんよ。で、これもリムさん情報やけど、キリトさんもそうみたいなんよ」

へ〜、と関心しているなのは。もっとも、つい2年前まで自分もそうだったのだが。今は大分落ち着いているが、当時はすぐに取り乱していたのだ。
そんな他人の恋話は聞こえないのか、フェイトはこれからのプランで頭が一杯だった。
名称“トウヤにチョコを渡し気持ちを伝えるぞ”計画(ネーミングは気にしないでもらおう)。



同時刻、こちらは時空管理局本局。ここの1室に1人の青年が悩んでいた。

「は〜、なんでだろ。あの時の彼女の顔が頭から離れない」

トウヤだ。現在、休暇を利用して溜めていた本を読んでいるのだが、集中できていない。

「泣きそうな顔してたもんな、フェイト」

原因はアレだよね、と二週間前のことを思い出す。
確かにちょっと無茶をしたなと思っているのだが、それは飽く迄、本人視点。第三者から見れば、相当無茶をしている。

「……僕は…彼女を失いたくないのかもしれない…」

それはつまり…。

「でも、僕は…」

何か思いつめて、自分の両手を見つめるトウヤ。
はぁ〜、と溜息を付き、その手を握り締めると立ち上がり、

「考えてもしょうがない。ラセンのメンテナンス状況見に行こうかな。ちょうど、ヴァルファーレもメンテナンスに入ったって言ってたし、愚痴でも聞こうかな」

そして、宛がわれている自室を後にした。



「はぁ〜、大丈夫かな」

不安で一杯のフェイト。
トウヤの部屋は教えてもらったし、チョコも買った。他の渡す人には渡した。それでも不安はある。

≪サー、大丈夫です≫
「でも、バルディッシュ…」
≪これまでの言動でキリシマに問題はないと思われます。もっと自信を持ってください≫

相棒の思いがけない激励を受け、少し不安が軽くなったフェイト。

すると、

≪サー!≫
「バルディッシュ?」

何事かと思い前を向くと、此方に近づいてくる人がいた。
黒い髪に、自分のような制服とは違う私服姿。ユーノではない。そう、トウヤだ。

「と、トウヤさん」
「ふぇ、フェイト」

呼ばれて気付いたのか、トウヤも驚いてる。
微妙な空気が二人を包んでいる。

「え、えと、その…」

何とかこの状態を打破しようと思うフェイトだが、口が回らない。
そんな現状を変えたのは、


「ねぇ、フェイト」

トウヤだった。

「は、はい」
「これからラセンのメンテナンス状況を見に行くんだけど、もし良かったら一緒にどう?」
「え…い、いいんですか?」
「うん」

トウヤは笑顔だった。そんな彼を見るなり顔を赤くするフェイト。だが、嬉しいのは確かである。当然、断るはずも無いフェイトは、

「じゃあ、お願いします」


二人は一緒に歩いている。
何故だが、いつものメンテナンスルームに行くときよりも遅く感じているフェイト。恐らく、トウヤもそうだろう。

「ラセンは兄さんが使ってたS2Uとは違うんですか?」
「そうだね。僕の符術はデバイスを想定してないからね。専ら打撃用にしか使ってないよ」
「トウヤさんが作ったんですか?」
「作ったっていうか…アレは元々一般の武装局員用のストレージの余りを僕用の錫杖型にカスタマイズしたヤツなんだ」
「そうなんですか」

何ともない会話をしているが、フェイトは内心心臓をバクバクさせている。
同時に、いつ渡そうかとマルチタクスをフルに使って考えている。
ふと、前方からの気配に気付いたフェイト。そこには、

仲良さそうに歩いているアルフとザフィーラだった。

「アルフ、ザフィーラさん」
「あ、フェイト」
「ハラオウン執務官」

向こうも此方に気付き、近づいてくる。

「アルフ、今日は非番でしょ?どうして…って、聞く必要ないか…」
「う、うん////」
「…」

横目でチラチラとザフィーラを見るアルフ。その顔は穂のかに赤かった。
二人は恋人同士だ。そして、今日はそういう日だから…。

「そ、そう言う、フェイトは…って、そうか!アンタがトウヤだね」
「そうだけど?君は?」
「あたしはアルフ。フェイトの使い魔だ。普段はもっとちっちゃい格好なんだけどね。で、こっちでの仕事はユーノの手伝い」
「なるほど。…アーカム所属のトウヤ三等空尉だよ。よろしく」

そう言い手を差し出すトウヤ。挨拶の握手だろう。そう判断したアルフは何の躊躇いもなくその手を取ろうとした。

だが、

「待て、アルフ!そいつから離れろ!!」

突然、ザフィーラが叫ぶ。フェイトとアルフは何事かと思い、

「ざ、ザフィーラさん?!」
「ザフィーラ!何言い出すんだい?!」

冗談かと思っても、彼の顔は臨戦態勢に入っているかの如く険しくなっている。
ザフィーラは無言でトウヤに近づく。

「貴様…最初に会ったときから、気になっていた…


…何故両手から常に血の臭いがするのだ?」



ザフィーラの言葉にフェイトは、

「な、何を言ってるんですか?!トウヤさんは…」
「俺は元が狼だ。それ故嗅覚は優れている。アルフ…お前も分かるはずだ」

そう言われたアルフも、トウヤの手から感じるものがあった。

「アンタ…」
「貴様、まさか…」

一歩下がるアルフと攻撃態勢に入るザフィーラ。
そして、信じられないといった顔でトウヤを見ているフェイト。
当のトウヤは、

「…」

黙っている。
その顔は一切の感情を消し去った、完全な無表情だ。


「…気付いてしまったんだね…」

沈黙を破ったトウヤ。アルフとザフィーラはいつでも攻撃できる状態だ。

だが、トウヤは何もせず、ただ自分の手を見ている。

その時、

ドクンッ!

「ッ!!」

ドクンッ!!

「ぐぅ!!」

突然苦しみだしたトウヤ。その苦しみようは以前のものよりも激しかった。
トウヤは恐る恐る自分の手に再び目を向けると、それは、



血に染まっていた…


「わあぁぁぁぁっ!!」

慟哭を上げ、更に激しく苦しみだした。




「ヴァルファーレのメンテに約2時間か…まぁ、アイツに大層なメンテはいらないけど…」

カノンはブラブラ歩いていると、

「があぁぁぁぁっ!!」
「トウヤさん!!どうしたんですか?!!」

ハッ、と思い声のほうへ走り出すカノン。そこには、苦しみのた打ち回るトウヤがいた。

「あぁぁぁぁ!!」
「トウヤ!!」

直ぐにトウヤに駆け寄る。

「落ち着け!!トウヤ!!」
「ぐあぁぁぁ!!」
「トウヤぁ!!」

トウヤはようやくカノンの存在に気付き、

「…に…兄…さん…」

一言だけ言い、過呼吸状態になり、目も白目を向いてしまっている。

「フェイトちゃん!!」
「は、はい!」
「医務室に連絡!!CIV74型のトランキライザーの準備を!!速く!!」
「わかりました!」

フェイトはカノンの指示道理、急いで医務室に向かう。

「…リコルヌ」
「あ、あのさぁ…」

何か言いたそうな二人だが、

「今は手伝ってくれ。大体の予想は付く」

思い詰めたカノンの言葉に黙り込んでしまった。

「…誰も悪くない」

その言葉が静かに響いた。


医務室に担ぎこまれたトウヤはすぐにトランキライザーを投与され、眠りについている。
運悪くこの時、医務室には誰も居らず、カノンが自分で投与したのだった。

「カノンさん。教えて下さい。トウヤさんは一体…」

4人は医務室近くの待合室にいる。
トウヤには騒ぎを聞きつけて着てくれたエイミィがついている。
クロノは闇の使徒の対策要請を再び提案するため上層部に掛け合っている。

「アレは…呪いなんだ」
「呪い?」

フェイトは聞き返す。一体どういうことなのかと、

「そう、トウヤが無意識に自分に科した呪い」

カノンはトウヤの過去を語りだす。


トウヤは“テセラ”という世界の主要惑星“オールドラント”の山奥に住んでいたキリシマ一族の末裔である。
その一族は“テセラ式符術”と人体学に秀でた一族であった。人体学、特に解剖技術についてはその世界の最高峰の技術を持ち、政府から遺体の人体解剖の依頼を多く受けていた。
それが何百年と続いていく内に先天的、遺伝的な才能として受け継がれていくようになっていった。
トウヤはその影響を強く受け、歴代最高の才能を持って生まれた。
5歳で解剖技術の殆どを身につけるほどに。

そして9歳…遺伝子からの本能に負け、親を含むすべての一族を殺し解剖するという最悪の結果を招いてしまった。

偶然訪れたカノンは解剖を続けているトウヤを正気に戻し、錯乱した彼を保護した。
それ以来、トウヤはカノンを兄として思うようになり、共にアーカムを作り、償いのため戦うことを決めた。

アーカム初期メンバー
カノン=リコルヌ 当時12歳。
トウヤ=キリシマ 当時9歳。

2年後キリト入隊、副隊長に。翌年、エドワルドとその使い魔を含む3人と戦艦エルザを加え、更に、2年後リムエナ入隊。そして、現在に至る。

だが、後遺症としてふとした拍子に過去の記憶がフラッシュバックしたとき激しい引付けを起こすようになり、また両手に本人または鋭い嗅覚を持った者のみ嗅ぐことができる血の臭いが残ってしまい、時より手に血が付いているように見えるようになってしまった。



「「「…」」」

フェイト達は黙っていた。いや、声が出せないのだ。余りにも重いトウヤの過去を知ってしまったから。
カノンはさらに話を続ける。

「アイツは…いつも戦ってる。もう1人の自分…解剖を、人を殺すことを喜びとする自分を絶えず抑えながら日々を送ってる。最近は大分落ち着いてきたけど、酷いときは連日ああなって、毎日夢でうなされてたよ。それでも、アイツは泣かず、逃げ出さず、戦ってる。敵とも、自分とも。それでも、行く先々で怪我した人や病気の人の治療は最優先でしてるし、死因を知らないといけないときは解剖もした。その都度、治ってない心の生傷が疼くのにな」

フェイトは考えていた。トウヤは若干9歳でとてつもない業を背負ってしまった。自分はどうだろうか、9歳といえば丁度なのはやはやて達と出会ったころ、そのころ人の命を奪う重みはまだ理解できるかどうか微妙なころだ。
だが、トウヤはまだ心が未発達の年頃に深い傷を負ってしまっているのだ。

「トウヤは昔こんなこと言ってた『僕は死ぬまでこの苦しみを味わわないといけない。それは、僕に科せられた罰、家族を…一族を殺した僕の責任だ。でも、それでも、もう1人の僕は血を求めてる。カノン、もしもう1人の僕がみんなに危害を加えるようなことがあれば…その時は、殺してでも止めてくれ』って」
「トウヤ…さん」

フェイトの声は涙で震えていた。大切な人の背負っている覚悟の重さ、辛さに。

「今のトウヤには…癒してくれる人が必要なんだよ。アイツのすべてを受け入れてくれる人が…」

静まった空間に突然、ピピピピピピ〜♪、とカノンの通信機のアラームが成った。

「もしもし?」
『あ、カノン!』
「ベーグル?どうした、慌てて?」

ベーグル=ド=サンド
時空調査機構シフォンのメンバーで、以前名前が出たプレツェルもそこに所属している。
彼からの緊急連絡ということは、

『たった今入った情報なんだが、第29指定世界の廃墟区画で演習している管理局の武装隊が襲われてる!』
「何?!どこの部隊だ?」
『詳しいことはわからない。ただ、その部隊に高町二等空尉が同行しているとかで…』
「なのはちゃんの部隊か…」

なのはの名が出て、フェイト達は立ち上がる。カノンは話を続ける。

「で、どこのどいつが襲ってるって?」
『破壊規模からして多分、タウラスだと…』
「アトスか…あぁんの力バカ」

カノンが名前を知っているということは、相手は闇の使徒だろうと判断したフェイトは、駆け出す。

「ふぇ、フェイト?」
「カノンさんのヴァルファーレは整備中です。だから、私が行きます!」
「ならば、俺も行こう」
「ザフィーラ?」

ザフィーラが名乗り出た。

「これでキリシマに対して、謝罪できるとは思ってはいない。だが、ケジメはつける」
「…そうだね。あたしも行くよ」

三人は互いに頷き、カノンに目を向ける。カノンも肯定の意を示し、三人は出動する。

『カノン?俺が行くか?』
「いや、今助っ人が行ったよ。こっちで何とかする」
『分かった。気を付けろよ』

そう言って、ベーグルは通信を切った。
カノンは応接室を出て、エイミィに念話を送る。

『エミ姉』
『カノン君?』
『ちょっと、なのはちゃんがピンチだから助っ人に行ってくるわ』
『え?でも、ヴァルファーレ…』
『何とかする。じゃ、トウヤ頼んだ』

そう言って、どこかへ向かったカノンだった。




ドッガアァァァァンッ!!

「高町教導官!!」
「皆さんは逃げてください!!ここは私が食い止めます!!」
「しかし!」
「速く!死んでしまったら、意味がありません!!」
「……わかりましたっ!ご無事で!!」

苦渋の決断をした部下達はなのはに敬礼をし、急いで転送ポートへ向かい、転移した。

「健気だねぇ〜、部下の為に1人残ってよぉ、お嬢ちゃん」
「何者ですか?!何故いきなり攻撃を?!」

なのはは男に問いかける。
その男は全身に鎧を纏いバトルアックス型の斧を担いで悠々と歩いてくる。

「何故って言われてもなぁ…こっちも色々あるのさ。そんなことより、戦うんだろ?お嬢ちゃん!」

そう言うと、男は構え飛び上がり、なのはにその斧を力任せに振り下ろす。

フラッシュムーブ

ブゥンッ!!

回避することができたが、なのはは冷や汗を流した。
風切り音だけで、今の攻撃の破壊力がわかる。直撃したら一溜まりもない。
即座にバスターモードに変形させたレイジングハートを向け、

「カートリッジロード!」
ディバイバスター・エクステンション

―桜色の魔力が光の槍となって一直線に突き進み、男に直撃した―

ドガァァン!

「…」

なのはは巻き起こる煙を凝視している。すると、

「いいねぇ、さっきよりも威力があがってんなぁ。だが、届かねぇな」

その男は平然とそこに居た。

『どうして…さっきもディバインバスターが直撃したのにピンピンしてる。この間のミロさんみたいに、瞬間的に魔力障壁を張ったわけじゃないのに…』

なのはは焦っていた。その男はバリアを張ったわけではなく、全身に魔力を纏っているわけでもなく、ただその体でディバインバスターを受け止めたのだ。
理解できず、頭を抱えていると、

「まだ終わってねぇぜぇ!!」

再び突撃してくる男。身構えるなのは、その時、

フォトンランサー

金色の光弾が男の背中に直撃する。

「っとぉ、誰だぁ?」

停止しその方向を見ると、

「フェイトちゃん!」
≪バルディッシュ!≫

さらに、

チェーンバインド!

アルフのオレンジ色の鎖が、男に巻き付き縛り、

「うおぉぉぉ!」

ザフィーラの鉄拳が男の顔面に入る。

「アルフさん、ザフィーラさんも!」
「なのは!大丈夫かい!」

フェイト達が駆け付け、安心するなのは。

だが、

「いいねぇ、結構効いた。…ふん!」

男は力任せにチェーンバインドを振りほどき、

「おぉらぁ!!」

ザフィーラの土手っ腹に左拳の強烈な一撃を食らわせた。

「ごふぁっ!」
「ザフィーラ!」

吹き飛ばされ、地面に叩きつけられるザフィーラ。
すぐさまアルフが駆け付ける。

「…だ、大丈夫かい?」
「ごほっ、も、問題ない。まだやれる」

なのはとフェイトも二人に近寄る。
フェイトはキッと男の方を向く。

「あなたは…アトスさん…ですね?」
「なんだぁ?俺のこと知ってんのか?」
「カノンさんに聞きました」
「なぁるほど、なら不思議はねぇな。改めて、自己紹介するぜ、俺の名はアトス=ゾラシス。闇の使徒ゾディアックブレイブ、タウラスだ。昔はベルカの騎士をやってたかな」

ベルカと聞いていち早く反応したのは、当然、

「貴様、誇り高きベルカの騎士が…闇に堕ちたかっ!」
「おやぁ、お前さんどっかの守護獣か?なら、いい思い出になるな」

どういうことだ?と思っていたら、アトスはニヤけて、

「元同僚をぶちのめすってなぁ!」

なのは達は理解した。この男…アトスは戦うこと、人を殺すことを何とも思っていない。
ただのゲーム。その程度にしか思っていないのだと。

フェイトは前に出て、

「時空管理局執務官フェイト=T=ハラオウンです。先ほどの攻撃を管理局への敵対行為とみなしあなたを逮捕します。抵抗するなら…」
「するなら?」
「…命の保障はありません」

フェイトの目は今まで見たこともない程鋭かった。
不思議に思ったなのははアルフに念話を送った。

『アルフさん。フェイトちゃんどうしたんですか?』
『この状況じゃ話せないんだけど…しいて言えば、トウヤのためかな』
『トウヤさんの…ため…』



「はっはっは、威勢が良いな金髪のお譲ちゃん。なら…思いっきり抵抗させてもらおうかぁ!!」

アトスは叫び上げると、戦斧を高々と掲げ、魔力が注がれる。

「受けなぁ!地烈斬!!

渾身の力で振り下ろされ、

ドゴオォォォォッ!!

地面に真っ直ぐ亀裂が走り、強力な衝撃波が襲ってきた。

「飛べ!!」

ザフィーラの合図で一斉に飛び上がる。

「な、なんてバカ力だい…」

アルフを含め皆絶句していた。先ほどのなのはへの攻撃など比較になっていない。
ここが、無人地区であることが不幸中の幸いだった。そんな中、

「行くよ!バルディッシュ!!」

突っ込んでいくフェイトがいた。

「ふぇ、フェイト!」
「フェイトちゃん!」
「執務官!」

急いで追いかける三人。


「はぁぁぁ!」

自身の戦斧を振り下ろすフェイト。

ガキンッ!

それを受け止めるアトス。

「ほう、お嬢ちゃんも同じ得物か。でもよぉ、軽いぜ!」

バルディッシュを弾き、さらに、

「っおらぁ!」

追撃を与える。が、

ブリッツラッシュ

後ろに後退し、回避する。そこへ、

フォトンランサー・マルチショット!

間髪入れずに攻撃を入れるアルフ。さらに、

「縛れ、鋼の軛!!

ザフィーラが放つ無数の軛が動きを止める。
そして、なのはがフェイトの近くへ行き、互いに矛先をアトスへ向ける。

サンダー…
ディバイン…

「「バスタァァー!!」」

2つの砲撃が無防備なアトスへ、直撃する。

「やったぁ!」

噴煙の上がる方を見て、歓喜の声を上げるアルフ。だが、

「……まだだ!」

ザフィーラが叫ぶ。その視線の先には、


「中々良いコンビネーションだな。だが、無駄だ、この程度じゃぁ殺られねぇ」

煙の中からアトスが出てきた。しかも、大したダメージは受けていないようだ。

「そ、そんな…」

信じたくない現実に思わず一歩後退してしまうアルフ。
その目の前で、1発の弾丸がロードされた。

ハーケンフォーム
「はぁぁぁっ!」

フェイトが、バルディッシュを鎌に変え、再び突撃する。

「やっぱ、そうこなくちゃなぁ!!」

アトスもまた、フェイト目掛け突っ込んでいく。

―フェイトの動きに合わせ斧を横に振りぬく。が、姿が消えた。上かと思い見上げるがいない。と同時に、左腕の妙な重みに気付いたアトスは左後ろに視線を向けると、自分の斧の腹にフェイトが立っていた。フェイトはそこから跳び上がり、ハーケンスラッシュをそのままアトスの左肩に振り下ろす―

入った、皆思った。が、

「え?」

鎌が刺さらない。いくら力を込めても刃は肩に触れているだけでそのまま微動だにしない。

「残念♪」

ニンマリと笑い、そのまま、

ドスッ!!

右の拳をフェイトに叩き込んだ。

「あぁぁぁ!!」

なす術も無く、突き飛ばされた。

「フェイト!」

―反対から跳びかかるアルフ。それをアトスは、左手の斧を逆手に持ち替え、そのまま柄を振り、アルフを突き飛ばす。突き飛ばされたアルフはザフィーラに受け止められてた。だが、アトスへの攻撃は止まない。20発のアクセルシューターが一斉に襲い掛かる。しかしそれを、斧を自身から見て垂直にし、そのまま真横に思いっきり振り回し、強力な衝撃波〔衝裂波〕でアルフ達ごと吹き飛ばした―

「きゃぁぁ!」
「わぁぁぁ!」
「っ!」

三人はさらにフェイトから離された。

「ふう、さて、向こうのお嬢ちゃんはへたばったか……っ!」

アトスはフェイトの方を向くと、驚かされた。

「ハァ、ハァ、ハァ…」

立っていた。その2本の足で、息を荒立てさせながら。
アトスは、無言で彼女に向かって歩いていく。

近づき、斧を向けると、

「なぁ、1つ聞いていいかい?」
「…なんですか?」
「何で逃げねぇんだい?さっきまでのでわかったろ?俺にはどんな攻撃も効かねぇ。なのになんでだ?なんで、戦う?」

アトスにはわからなかった。決して勝てない相手になんで戦いを挑むのか。
まして、自分よりも遥かに年下の女の子が。
フェイトはその重い口を開いた。

「…知ったから」
「は?」
「あなた達が敵対している人の過去を知ったから…その人は、自分では背負いきれないぐらいの辛い過去を背負って、自分から罰を受けて、苦しんで…それでも、何一つ逃げずに戦ってる。自分と、自分よりも強いあなた達と!どんなに痛くても決して逃げずに!だがら、逃げない。こんな痛み、あの人の痛みに比べたら…」

腹部を押さえながらフェイトは、アトスの目を見て、言い放った。

「トウヤさんの痛みに比べたら!!」

自分の想いを…


「そうかい…残念だな」

アトスはゆっくりと斧を振り上げ、

「逃げねぇんなら仕方ねぇ……最初に死ねよ!!」

フェイトに巨大な刃が振り下ろされた。


が、

「テメェがなっ!」
「な?!」

ドガッ!!

フェイトに当たる寸前、顔面を蹴飛ばされ、アトスは近くのビルに突っ込んだ。

「俺、参上!!」

そこに居た男は、

「か、カノンさん…」
「悪い、遅くなった」

カノンが駆け付けたのだ。

「フェイトぉ!」
「フェイトちゃん、カノンさん!」

なのは達はカノンとフェイトに近づいた。アルフはフェイトの無事を喜ぶ余り、抱きついてしまう。

「リコルヌ。デバイスは整備中では…」
「ああ、何とか間に合った。もっとも、この後もっかいメンテ行きは決定だけど」

左腕を見せる。そこには確かに待機状態のヴァルファーレが着いていた。

バァンッ!!

建物の瓦礫を吹き飛ばし、アトスが出てきた。

「ふぅ〜、ったく相変わらずの力バカだな。え、アトスよぉ。マジで脳ミソ筋肉で出来てんじゃねぇの?」
「けっ、テメェこそ、その減らず口は変わらねぇな、カノン…鳥剣ちょうけんの錬金術師さんよぉ」
「お前にその名で呼ばれると、結構ムカつくな…」

ヴァルファーレを装着して引き抜き、それをアトスに向け、

「殺すぞ」
「へっ、やってみな!」

カノンの殺気をアトスは心地よく感じているのか笑っている。
なのは達ははじめてカノンの本気の殺気を感じ、少し悪寒が走った。ただ、1人を除いて。

「カノンさん」
「なんだい?」

フェイトは冷静にカノンに尋ねていた。今のフェイトはそんなことお構いなしのようだ。

「あの人にはどんな攻撃も通じません。一体…」
「それは、アイツの鎧が原因だ」

全員、アトスの鎧に目を向ける。

「あれはただの鎧じゃない。装着型セミロストロギアユルムンガルドの外皮”。神話に出てくる大地を這う巨大な蛇、ユルムンガルドから作られたとされるその鎧は如何なる攻撃を受け付けない防御力を誇る。アトスの取得はパワーじゃなくてガード、あの鉄壁の防御力」
「そう、そしてこの俺の相棒“ガイアグリーヴァ”が合わされば…俺は無敵んだよ!!」

斧を振り下ろし、衝撃波を放つ。
カノン達は飛び上がり、回避する。

「じゃぁ、どうするんだい?!」
「攻めるしかない」

ザフィーラの答えに、え?、と驚くアルフとなのは。

「そう、兎に角攻めるしかない。アルフちゃんはバインドの類をメインにサポートを。ザフィーラは俺とフェイトちゃんの防御を。フェイトちゃんはスピードを生かしてヒット&アウェイを繰り返してくれ。なのはちゃんはタイミングが合えば砲撃魔法をぶっ放してくれ」

全員が了解し、それぞれ散る。
カノンは真っ直ぐアトスに突っ込む。

「先手必勝!閃光一閃!エリアルブレード!
「なんの!!」

―カノンの一撃を左手で受け止めた。そのまま、ガイアグリーヴァをカノンの胴に向け振るが、そこにザフィーラが入り斧を一点集中させたパンツァーヒンダネスで受け止めた。さらに、アトスの後ろからフェイトがハーケンセイバーを放ち、背中に命中させる。その隙にカノンとザフィーラが離脱する―

「おらぁぁ!!」

金色の光の刃を弾くと、両手足にリングバインドを掛けられた。

「何ぃ?!」

身動きとれずジタバタするアトス。
更に、彼の周囲3箇所に、なのは、フェイト、カノンが陣取った。

「「カートリッジロード」」
≪≪ロードカートリッジ≫≫
「ヴァルファーレ」
≪チャージアップ≫

フェイトとカノンは互いの掌に、なのははレイジングハートに魔力が集中する。
その最中、カノンは頭の中で即座に考えた。

『これが効かなかったら、即効で変身しないと…俺の砲撃魔法、アーマー状態のチャージアップできないからなぁ』

自分の魔法の欠点と愚痴っていた。そして、

ディバインバスター!!
プラズマスマッシャー!!
シューティングレイ!!

ピンク、金、白の3つの砲撃がアトス目掛け放たれ、

ドッガアァァァァンッ!!

見事に三色すべて直撃した。

「ど、どうですか?カノンさん」
「これで…何とも無かったら…」
「…」

カノンは黙って、噴煙を見つめている。そして、

アーマースフィア、セット!!」
≪チェンジ、アーマーモード

え?とカノンの方を向いていると、煙の中から大きな影が出てきた。

「うおぁぁぁ!!」

アトスだ。しかも、向かっているのはカノン。

変身!!
「おりゃぁぁぁ!!」

ガイアグリーヴァを振り下ろす。が、変身中に発生する魔力に遮られ、弾かれた。

「ハァ!!」

纏わり付く魔力を振り払い、変身を完了させたカノン。そのまま駆け出す。
弾かれたアトスも同様。

二人がぶつかる。

「ぬおあぁぁ!!」
「ぬうぅ、…へっ、俺と力比べか?無駄だっぜぇ!!」

両手で持っている斧から片手を離し、カノンのボディに豪腕の一撃を食らわせる。

「がはぁっ!」

アーマー状態のカノンでさえ、アトスの攻撃は強烈で、後ろに吹っ飛ばされた。

アトスは向きをカノンから変えた。

「やっぱ、最初に殺すのは………最初に宣言した…金髪のお嬢ちゃん…だよなぁ!!」

フェイトに向かって、斧を振り下ろし地烈斬を放った。
迫り来る衝撃波に身構えるフェイト。


そこに、


ヒュゥ……ドガァァンッ!

フェイトの前に何かが落下し、衝撃波から守った。

「何だと?!……っ!!」

ダダダダダッ!!

さらに、アトスに何かが撃たれた。

「こ、コイツは…」


フェイトを守ったそれは、緑の体で柄が長く刃の幅の広い剣を持ち、アトスに攻撃したのは、青い体で手に重々しい銃火器を装備している。
そして、共通するのは、



そう言っていいのか…だが、一番近いイメージはそれだろう。そんな者が来たのだ。
すると、カノンが、

「トウヤ!」
「えぇぇ?!」
「うそ?!」
「何?!」

三者三様の驚きのなのは達、あの鬼達がトウヤとはどういうことなのか。そして、

「…トウヤ…さん?」

フェイトは恐る恐る自分の前にいる鬼に尋ねた。

≪…ダメだよ、フェイト。我を忘れたら意味が無い≫
「…っ!!」

フェイトは息を呑んだ。その声…デバイスのように響く声は確かにトウヤだった。

「テメェ…あの血生臭ぇプリーストの式神か!!」
「……っよくも…!」

トウヤを馬鹿にされたフェイトは飛び出そうとしたが、それを式神が止めた。

≪言ったでしょ、我を忘れちゃダメ。それじゃぁ、相手の思う壺だよ。皆もそう、もっと冷静になって≫

トウヤの式神は全員を冷静にさせ、アトスに向き直す。

≪そう、彼らは僕の式神。護符を媒介にし、僕の魔力で作り出した。近接型の“斬鬼ざんき”、遠距離型の“射鬼いぬき”。両方ともランクはA以下≫
「へっ、そんな雑魚でどうするんだ?さっさと本体が出て来い!」
≪はぁ〜、もっと考えなよ、僕がわざわざ式神だけこっちに送ったってことは、僕は今そっちに行けないって事。それに、負けるつもりで式神を使う程、僕は愚かじゃない。君の頭の悪さはゾディアック1じゃないのかな?≫
「テェンメェェ!!」

トウヤの挑発に怒り心頭のアトス。
因みに、その毒舌にフェイトを含む皆さっきまでの怒りが抜き取られた。

≪さてと、皆!飛んで!≫

トウヤの合図で全員その場から飛ぶ。カノンを除き。

≪カノン!≫
「あいよ!」

両手を合わせ、片手を地面に付ける

無数のつるぎよ、我が眼前に現れよ!ブレードペイン!!

カノンを中心に大量の刃が突き出し、アトスを剣の海に埋めた。

「なんなんだい、アレ?!」
≪ブレードペイン。地上戦用の広範囲魔法。もっとも、錬金術を使ってるわけで、別に詠唱はいらないんだけどね…≫
「っと、雰囲気作りは重要なのだよ。トウヤ君」

カノンが戻ってきた。そして、トウヤに尋ねた。

「ところで、お前なんで起きてんだよ」
≪はぁ〜、カノン。CV74型、あと1.02t足りないよ≫
「へ?」

素っ頓狂な声を上げたカノン。

≪いつも、誤差は±0.5以下にしてって言ってるのに。僕が体内に投与された薬物の分量がわかること知ってるでしょ≫

カノンはバツが悪そうに頬を掻いている。他の皆はトウヤの新たな能力に驚いてるが…
とにかく、6人(式神ありで7人)は作戦を考える。

≪カノン。どれくらい持ってくれそう?≫
「従来の半分の範囲20メートルにして、剣の密度を高めたけど…5分持てば上等かな?」
「トウヤさん、なにか対策はないんですか?」

フェイトの問いかけに暫し黙るトウヤ。そして、

≪衝撃を与えての撲殺。今のとこそれしかない。生半可な魔力攻撃は意味が無い。使うならフルドライブ状態の魔法じゃないと…≫
「とは言っても、なのはちゃんのエクセリオンモードはチャージに時間が掛かるし、フェイトちゃんのザンバーフォームは大振りで隙が出来やすい…」

全員う〜んと唸る。アルフも何時ぞやの『ズバッとぶっ飛ばす』と言う訳にはいかないので真剣に考える。

「しゃ〜ない。何とかしますか…」
≪カノン?≫

カノンの提案、それは…


ドバァァァンッ!

「っだあぁぁ!!…くっそう!あの野郎!」

無数の剣を吹き飛ばし、姿を現したアトス。
カノン達は上空に留まっている。
なのはとフェイトは互いのデバイスをフルドライブ形態に移行させている。

『トウヤ。お前どれだけ持つ?』
≪『さぁね、僕自身がその場で戦ってるわけじゃないからなんとも言えないよ』≫
『珍しいな、お前が無茶するなんてな』
≪『……折角、手に入りそうなんだ。こういう時ぐらい意地張らないとね』≫

言いたいことがわかったのか、カノンはそれ以上追求するのをやめた。
大きく深呼吸し、号令を掛ける。

「行くぜ!!」

全員一斉に飛び出す。

≪食らえ!≫

トウヤの射鬼がアトスに向かって直進しながら牽制射撃を行う。

「効くかよ!」

全く動じず攻撃しようとするアトスだが、

「やらせん!鋼の軛!

大量の軛が再び動きを止める。そして、

「バルディッシュ、カートリッジロード!」
≪ロードカートリッジ≫
撃ち抜け、雷神!ジェットザンバー!!

衝撃波を放ち、ひるんだところでザンバーの魔力刃を伸ばし振り下ろす。

見事に直撃している。
だが、刺さらず、

「ぐぬぬぅぅ!なめんなぁぁ!!」

ガイアグリーヴァを地面に突き立て、手を離した。
そして、ザンバーを直接掴み、

「をらぁぁぁ!」

フェイトごと投げ飛ばした。

「っと、ナイス、フェイトちゃん」
「カノンさん」

が、カノンがナイスキャッチ。

「ちぃっ!」
≪余所見は禁物!≫

何?と声の方を振り向くと、

≪はぁ!≫

斬鬼が斬り付ける。効いてはいないが、目的が違った。

チェーンバインド!

アルフのチェーンバインドによる拘束。さらに、

A.C.Sモード、ストライクフレーム展開、アクセルチャージャー起動!
A.C.S、ドライブイグニッション
A.C.Sドライブ!!

真正面からなのはが突撃してくる。
アルフはタイミングを合わせバインドを解き、レイジングハートの刃がアトスに突き立つが、刺さらない。
だが、それでいい。

エクセリオンバスター!!

零距離からの必殺の砲撃。これにはアトスでさえ耐え切れず、吹き飛ばされる。
なのはは、アルフに受け止めてもらっている。

「くっそっ…零距離砲撃たぁ…クレイジーなことしてくれるぜ!」

ガイアグリーヴァを杖代わりに立ち上がる。
だが、そんな隙をこの男が見逃すはずが無かった。
ガシッと柄を掴まれ、

「なのはちゃんナ〜イス!」
「なっ、テメッ!」
「ヴァルファーちゃん、チャージアップ♪」
≪チャージアップ。気色の悪い呼び方をするな(怒)≫

カノンの片方の拳に魔力が注がれる。

「行くぜっ、烈光拳撃!グランインパクト!!

一切の無駄を省いた瞬速の正拳突き…いや、“聖拳”突きと言うべきか…
もの見事に炸裂した。

ガリガリッと地面を擦りながら後退する。だが倒れない。
アトスは顔を上げたその時、

何かが体に撃ち込まれ、動けなくなった。

「な、何だ?こいつはぁっ?!」

それは金色の円錐状の魔力の塊だった。そして、

「食らえ!烈光蹴撃!ゴルドスマッシュ!!

その円錐の光に包まれながらのジャンプキックを見事に決め、アトスをぶっ飛ばした。


この作戦の目的は、3人のフルドライブ魔法を1ヵ所に集中的にぶつけること。
それにより、一点に掛かるダメージを増大させよう、という魂胆なのだ。

「上手くいきましたね、トウヤさん」
≪……いや、まだだ!≫

トウヤが言葉を荒立てると、アトスが立ち上がった。

「ハァハァハァ、流石に効いたぜ。ここまで、のめされるのは初めてだが…」

口から垂れている血を拭うと、斧を垂直にし、

「落とし前は付けるぜぇ!!衝裂波!!

思いっ切り振り回し、カノン達を吹き飛ばし、土煙が舞い上がる。
全員を分散され、視界も悪くなる。
アトスが最初に標的にしたのは、

≪誰を狙う?≫
「オメェだ、プリースト!!」

式神・射鬼の前にアトスが現れ、ガイアグリーヴァが振り下ろされ、

≪がぁぁぁっ!!≫

射鬼の左腕が方から切り落とされた。
苦しみだす射鬼、と同時にフェイトの近くにいる斬鬼も肩を押さえ苦しみだす。

≪くっ!≫
「トウヤさん!どうしたんですか?!」


アトスは射鬼に斧を向ける。

「思い出したんだよ。オメェは式神と神経繋いでるってことをよぅ!」
≪なるほど、でもね痛みの全てが来るわけじゃないんだっ、だから式神を消したぐらいじゃ死なないよっ≫
「別にいいぜ。取り合えず今はテメェを消したい気分だからなぁ!」

斧を再び振り下ろそうとした時、

「させねぇ!!ヴァルファーレ、ライジングソード!ダブルチャージ!!」
≪ダブルチャージアップ≫

二回分のチャージが掛かったライジングソードは、極光に輝く。

烈光一閃!エリアルブレード・ライジングブレイク!!

黄金に煌く剣を振り下ろす。が、

ガキンッ!!

「があぁぁぁ!」

ガイアグリーヴァの柄で受け止めたアトス。しかし、カノンの技の威力は凄まじくアトスが立っている地面に亀裂が走り、砕けだしている。

バチバチバチバチバチッ!!

カノンの魔力が豪快にスパークする。そして、

ピシッ

「なっにぃ?!」

ガイアグリーヴァに僅かにヒビが入りだした。
もう少し、だが、

「ふ、ふざけんなぁぁぁ!!オラァァァ!!!」
「は?!!」

アトスは渾身の力でカノンのライジングブレイクを弾き、更に、
ガシッとカノンの足を掴み、

「そらぁぁぁ!!」

豪腕から繰り出す力でカノンを投げ飛ばした。

「わあぁぁぁぁっ!!」

そして、

バァァンッ!!

遠くのビルに激突した。


「……ふぅ、さてと…」

アトスは更なる攻撃を開始する。



「っ痛ぅぅっ!」

バラバラッと、瓦礫の中から立ち上がるカノン。

「ハァ、ハァ、ハァ、…ったく、あんのバカ力…デタラメだって…ハァ、ハァ、ハァ、ヴァルファーレ!無事か?」
≪何とかな。ライジングのチャージは使い切った。もう使えんぞ≫
「くそっ!2倍のライジングブレイク弾くとか反則だぜ!規格外だな、あの力は」
≪やはり、剛に対し剛では無理か…≫

暫しの沈黙。そして、

「しゃ〜ない。やりますか…」

カノンはある決断を下した。




「お前らはよくやった。だが、もう終わりだな」

止めをささんと斧を構えるアトス。
限界に近いザフィーラをアルフ、片腕を失った射鬼をなのは、斬鬼をフェイトがそれぞれ庇う様に寄り添う。

「安心しな、皆一緒にあの世に送ってやるからよ!」

大きく振りかぶった。

その時、

バァァンッ!!

小規模の爆発音が鳴る。アトスはその方を向くと、

「俺を除者にすんな。まだ、死んでねぇんだよ」
「ちっ、しぶてぇ野郎だ!」

カノンが来た。しかし、先ほどのダメージが効いているのか頭から血が垂れている。

「こうなりゃ、テメェから殺してやるぜぇ!」

カノンに飛び掛るアトス。だが、カノンは、

「無理だ」

そう言って、左腕を横に広げ、

大空たいくう変身!!

そのまま腕を横に薙いだ。すると、

ヒュゥゥッ!!

と大量の風がカノンを包み込む。その風でアトスの攻撃は妨げられた。

「な、何だ。こいつは…」

風の回転は激しさを増し、そして、

「ハァ!」

手刀を振り下ろし風を裂くと、

先ほどの金の鎧が青く変わった。

「そ、そんなこけおどしにのるかよぉ!」

なんの躊躇いも無く斧を振り下ろすアトスだったが、

「だから、無理だって」

カノンが手を差し出すと、そこに風が集まり、アトスの攻撃を防いだ。

「ど、どうなってんだ?!」
「ふんっ!」

カノンが力を込めると、アトスは成す術も無く吹き飛ばされ、

ドバァン!!

とビルの屋上に激突した。


大空を舞う鳥は空を制する…≫
「え?」
≪ヴァルファーレ・アーマーモード第二形態。スカイグラスプアーマー。基本的な攻撃力と防御力はライジングを下回るけど、スピードは全アーマー中最速を誇る。また、風を用いた魔法を使うから、物理攻撃の類は受け流される≫

フェイトは納得した。
確かに、今のカノンのアーマーは前のよりも装甲部分が少なくなっているが、背中に折り畳まれている一対の羽がある。自分のソニックフォーム同様、速さを重視しているのだなと思った。
それに、“鳥”と言われ、ライジングアーマーも鳥を思わせる形になっていると思った。
先ほど、アトスの攻撃を防いだ魔法は“エアーフィールド”。ただの魔力のバリアではなく、大気の流れを操作した防御魔法である。

スカイランサー

その手に風の双刃槍を持ったカノンは、

ガシャンッ

と羽を広げ、

「ハイスピード。レディ……ゴー!!」

アトスに向かって飛び出す。


「くっそ、あの野郎…」

と立ち上がったその時、カノンはすでに目の前まで接近していた。

―慌てて上昇するが、今のカノンから逃れられるはずも無く追い抜かれ、槍の一撃を食らわされる。だが、それで終わるはずもなく、別方向から一撃、また別方向から一撃、を繰り返しアトスに攻撃の間を与えさせない―

「オラオラオラオラオラッ!」

その光景はまるで、何人ものカノンが一斉に攻撃しているかのようだ。

「すごい!フェイトちゃんのソニックフォームと同じぐらい!」
≪フェイト。君もやるんだ…。ああいうのカノンだけかと思った≫
「わ、私もあそこまでは…」

慌てて訂正するフェイト。悪い言い方だが、カノンと同じと思われたくないようだ。


「ハァ、ハァ、ハァ、こっこの野郎!」

程なく、攻撃を止めたカノン。だったが、

「ま〜だ終わってね〜♪チャージアップ」
≪チャージアップ≫

ベルトの青い輝きを発するスフィアからスカイランサーに魔力が注がれる。

唸れ烈風!大気の刃よ、切り刻め!コバルトハリケーン!!

槍を突き出し、そこから強烈な竜巻が放たれ、アトスを飲み込む。

「こっこんな…もんでぇぇ!!」

吹き飛ばされそうな体を必死に耐えるアトス。

だが、

「ヴァルファーレ、ダブルチャージ」
≪ダブルチャージアップ≫

コバルトハリケーンを中断し、更なる攻撃に移る。

巻き起これ!全てを飲み込む極限の嵐!

その詠唱を聞いて、トウヤが、

≪ま、マズイ。みんな!ここから離れるんだ!速く!!≫

慌てるトウヤの指示に、皆大急ぎでその場から離れる。そして、

ブラスタァァァテンペスト!!

ゴォォォォォォォッ!!

と局地的な大嵐を発生させ、

「のわぁぁぁ!」

アトスを巻き込んだ。


「な、何て嵐だい!!」
≪ブラスターテンペスト。2回分のチャージを使った大嵐。攻撃規模が広範囲な所為でターゲットの特定が出来ないのが難点なんだ。まったく、リムエナのこと、どうこう言ってられないよ≫

トウヤの言っていることはもっともだ。リムエナのミサイルと大差ない。寧ろ、こちらの方が規模がデカイように思える。

「ち、畜生が!こんな風ごときで…」

と、突然、

ベキンッ!

ガイアグリーヴァが折れた。

「な、なにぃぃぃ?!!」

さらには、

ピシッピシピシッピシピシピシッ!!

自身の鎧にヒビが入りだした。

「っしゃぁキタぁぁぁ!」

そう言って、嵐を止めたカノンは、

エアーバインド!

風のバインドでアトスの動きを止めた。

「テメェ!!俺に何しやがった?!!」
「は?何言ってんだよ。俺がじゃねぇ、俺達だ」

アトスは訳が分からなくなっている。


≪いくら驚異的な防御力を誇るユルムンガルドの外皮でも、所詮は物理。当然限界が来る。それを然も当たり前のように魔法障壁も張らずに攻撃を受けつづけ、挙句の果てフルドライブ系の魔法を1ヵ所に4発も受ければ異常が来ない方がおかしい≫

「そして、お前のガイアグリーヴァもヒビが入ってた。俺がわざわざこのスカイグラスプになったかわかるか?お前の鎧と斧に風を当て続けて破壊を促したんだよ。風は自然界で一番物理的な干渉を起こす。その気になれば、何百メートルの高層ビルを押し倒すことだってできる」

そう言って、カノンはスカイランサーを回しだした。

「この一撃に色んな怒りを乗せる。まず、なのはちゃんの部隊のみんなの分。次にそのなのはちゃんとフェイトちゃんアルフちゃんを痛めつけた分。あの子達は俺の妹分だからなぁ。そして、ザフィーラをぶっ飛ばした分。彼はアルフちゃんの恋人なんでね、黙ってらねぇんだ。んでもって、最後に俺の弟をバカにした分。因みに、これは俺の分よりもフェイトちゃんの分の方が圧倒的に多いけどな!」

そして、回転を止め、

「チャージアップ」

スカイランサーに魔力が注がれる。
さらに、その刃に大量の風が纏わり付く。

「ま、待ってくれ!お、俺は…!」

身動きがとれず恐れをなしたのか、突然命乞いをしだしたアトスだったが、カノンは失笑し、

「へっ…お前さぁ、そう言ってきた人たちに………どうしてきたんだよ?!」

カノンの瞳が殺気に満ち、アトスに向かって突撃する。

「う…うわぁぁぁぁ!!」
疾風一閃!スカイブレイク!!

怒りの風が駆け抜けた。


「あ、あっ、はっ」

壊れたラジカセのような声を上げるアトス。

「本当なら、貫くだけ…なんだけどな」

アトスの後方に立つカノンがそう言うと、

バンッ!!

「がはぁ!!」

横腹が吹き飛び、さらに、

ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!ザシュッ!

「がぁぁぁ!!」
「ここにいる人数分、斬っといた。お前の敗因は鎧の性能に溺れたことと、自身の魔力の知識メモリー不足……闇より出でし者、闇に帰れ

変身を解いたカノン。
コンマ1秒の垣間で突きと斬りを6発撃ち込んだのだ。
カノンの鍛え抜かれた動体視力とスカイグラスプのスピードが成せる技である。
だが、

「ふぅふぅふぅ、たっ確かに俺は死ぬ。だが!!」

虫の息のアトスはなのは達の方を向き、

「1人でも多く道連れだぁ!!」

飛び出す。

「はあぁぁぁぁ!!」

断末魔にも似た叫びを上げながら突撃して来る。

が、


ドシュ、

「な?!」
≪この世で一番怖いものは…“油断”という名の魔物≫

式神・斬鬼がアトスの心臓を貫いた。

≪そして、君は…人造魔獣と同様、強化を施されている。よって、死体も残らず散霧する≫
「はっ……はぁぁぁぁ!!」

バァァァンッ!!

アトスは跡形もなく消滅した。力に溺れた者は死体すら残る価値がない、そんなことを思わせる結果だった。

来世で、幸せに…≫

慈悲の言葉を投げかけるトウヤだが、ガクッと垂れ地面に落ちた。

「トウヤ!」
「トウヤさん!」

急いで斬鬼の元へ行くカノン達。

「トウヤさん、しっかり!」
≪もう、限界みたい≫

どういうことなのかと思っていたら、

「きゃあ!トウヤさん!」

フェイトは叫んだなのはの方を見ると、

次第に体が消えていく射鬼がいた。

「どうなってんだい?!」
≪これは飽く迄僕の式神。式神は僕の魔力供給が断たれるとそのまま消滅する。普段は、探索用の鳥型を使うんだけどね≫

そう言って、射鬼は消えていった。

≪フェイト≫
「はいっ!」

残っている斬鬼がフェイトに語りかける。その斬鬼自身ももう持ちそうにない。

≪帰ってきたら。話したいことがあるから…≫
「え?」
≪だから、僕の所に来てね≫

その時、フェイトは、消えていく斬鬼の少しおっかない顔が…トウヤの笑顔に一瞬見えた。

「トウヤさん!」

掴もうとしたが、寸前で消えてしまった。

黙り込んでしまったフェイト。だが、

「……!カノンさん、これ!」
「ん?」

フェイトは何かを見つけカノンに見せる。それは、

「トウヤさんの護符…ですよね…」
「確かに…でも、変だなぁ、何時もなら使ったら無くなるんだけどなぁ…」

射鬼の方はどうだ?となのはに聞くと、
そっちの護符は無くなっている。

「う〜ん、まっいいじゃん。持っとけば」
「え?でも…」
「気になるなら、後で聞けばいいだろ?」

そう言って、フェイトの頭に手を乗せ優しく撫でる。

「…はい!」
「よし!じゃ、帰るか!」

皆疲れきった表情で頷き、帰っていく。


待っている人達の下へ




第20管理世界。時空管理局駐屯基地。

ウィィィィィィンッ!

緊急のサイレンが鳴り響いている。
司令室に幾つもの無線連絡が来る。

『こ、こちら第二部隊!至急応援を!至急応えっ…ぎゃああああっ!!』
『こちら第三監視塔!敵はたった1人!繰り返す敵は…っぐああああぁぁ!!』
『司令室!どうなっている!敵の出現をそちらは索敵できてい…や、やめ、ぎゃぁぁぁ!!』

その基地の司令官は今の現実を受け止められていなかった。

『どうなっている…。出現警報が鳴って…たった20分も満たない時間で……ここには五百人の武装局員が居るのだぞ!それを』

バァァァンッ!!

司令室の扉が吹き飛ばされ、何者かが侵入してきた。

「な、何者だ!ここを時空管理局の基地と知っての…」
「黙れ」

その距離、約5メートル。それを、

「がはっ!」

0.1秒で縮め、司令官を刺し殺した。


外に出た男に連絡が入る。

『ゼロ』
「バルムンクか。どうした?」

男はゼロ。闇の使徒ゾディアックブレイブ、最強の剣士、サジタリアスである。

『アトスが死んだ』
「…誰が殺った」
『管理局の魔導師と…例のアーカムのセイバーだ』
「カノンか…元々アトスは力に溺れた愚者だ。負けて当然だ」

この男はアトスに慈悲の言葉はない。すでに、仲間からも見放されていたようだ。

『奴の後釜は?』
「暫くは要らん、内円部は俺達だけで十分だ。リオンは?」
『直に戻ると連絡が入った。これでレオは奴に決定だ』
外円部は埋まった…か。了解した。俺も直戻る」

連絡を切り、ある方に視線を向けると、

「はっはっはっ…」

生き残りがいた。

「俺の剣を見て…生きている資格があるか…」

右手の刀を逆手に持ち替えた。その刀は、鍔が龍の形をしており、中心に宝珠は填まっており、竜の翼がS字になっている。

「フツノ、解珠かいじゅ
≪御意≫

刀身に魔力が注がれる。

魔刀斬・虎鉄一式!

一気に間合いを詰め、

駆け抜ける。


「あ、はっ、」

両脇腹から両肩にかけ×字に光が走り、

「がぁぁぁ!」

ズバァァァンッ!!

そのまま、4つの肉片に寸断され死亡した。

お前に俺の剣を記憶する資格はない

刀の血を払い、鞘に収める。
ゼロは空を見上げた。

「お前は…また強くなったのか…なら、アトスごときに負けるはずもない。俺以外の誰にも殺されるな……いいな、カノン」

そして、消える。
ここにはいない、ライバルに向けて。

ゼロの剣を記憶している、数少ない男に向かって。



管理局本局医療施設。
そこの個室に1人の少年がベットで眠り、1人の少女が傍らで椅子に座っている。

「トウヤさん…」

トウヤの手を取り、フェイトは自分の額につけ祈る。
さっきまで、エイミィが診ていたが、フェイトが治療を終えて戻ってきたため交代した。
今はトウヤの目覚めるのを待つだけだ。


所変わって、こっちは食堂。 
エイミィとカノンが話をしている。

「お疲れ様、カノン君」
「ホント、つっかれた〜」

テーブルにグダァ〜となるカノンを見て苦笑するエイミィ。

「アハハッ、でも、これでようやく1人目倒したってことだね」
「でも、今回勝てたのはアイツがバカだったから。他のヤツじゃどうなってっかわかんねぇよ」
「ふ〜ん、ねぇ、カノン君。話は変わるんだけど」
「ん?」

だらけてる体を上げ、話を聞くカノン。

「フェイトちゃんとトウヤ君、上手くいくかな?」

そう、話とはフェイトとトウヤの話。フェイトがトウヤのことを好きだという事は仲間内は皆知っている。
だが、トウヤの方はどうなのか?そこのところをハッキリしておきたいのである。
エイミィにとってもうじきフェイトは義妹になるのだから、気になるのだろう。
よって、今のとこ一番トウヤを理解しているカノンに聞こうということなのだ。

「う〜ん…ま、問題ないだろ」
「なにぃ、そのあっさりした感じ」
「大体、あの計算高いトウヤが後先考えずに式神送ってまでフェイトちゃんを守るって事は…」
「守るって事は?」
「そういう事」



フェイトはトウヤの顔を見つめている。とても綺麗な寝顔。
だが、そんなトウヤにはとても重い過去がある。
それすら感じさせない普段の彼と、昼の苦しんでいた彼。

『守ってあげたい。トウヤさんを…苦しみから…』

そう思っていると、トウヤが目を覚まし始めた。

「トウヤさん!」
「…う……ん…フェイト?」
「はい!」

フェイトはトウヤの顔を見つめる。手をしっかり握ったまま。
そして、次第に目に涙が浮かんできた。
それに気付いたトウヤはそっと片方の手でフェイトの頬に触れた。

「泣かないで」
「ご、ごめんなさい。…でも……でもぉ…わたし…」

遂に涙がこぼれてしまったフェイト。そんな彼女を見かねたトウヤは上半身を起こし、

「だ、ダメです。まだ、寝てない…」

最後まで言えなかった。トウヤがフェイトを抱きしめたから。

「トウヤ…さん」
「フェイト…僕のことは…カノンから聞いたね?」

フェイトはトウヤの腕の中で無言で頷いた。

「なら、そのまま聞いて。僕は一族を…家族を殺した。それは許されることじゃない、たとえ遺伝子から来る無意識でも。だから、僕は償おうと思った。戦って、人を助けて、でも、それでも命を奪うこともある。今回のように。そして、僕の呪いはきっと死ぬまで続くと思う、だから、僕は1人で…誰かを好きにならなくていい、なっちゃいけないって思ってたけど…」

そう言って、フェイトを抱く力を緩め、顔を上げさせ見つめる。

「トウヤさん…」
「この想いは…きっと嘘じゃない。だから…伝える」

トウヤは一旦目を閉じ、気持ちを確認して間違いがないことを確信し、

「好きだよ、フェイト。君のことが…」
「トウヤ…さ…ん…」

フェイトの目からポロポロと涙が零れだした。トウヤはそんな彼女に微笑み。再び、深く抱きしめる。

「トウヤさん!」
「何?」
「私も…あなたが…好きです!」

涙で震えながら気持ちを伝えた。ずっと伝えたかった想いを。
すると、

「…え?」

トウヤは自分の異変に気付いた。
自分も泣いていることに。

「…どうして…今まで流れたことが無いのに。嬉しい筈なのに…」
「嬉しくても…泣きます…くすんっ…今の私みたいに…」
「そっか…」

そのまま二人は泣き止むまで抱きしめあった。


「ごめんね、なんだか今日はみっともない姿を見せてばっかりだ」
「そんなことないです。それに、今日は助けてもらいました」

ふと、一番重要なことを思い出したフェイトは実行に移す。

「あ、あのトウヤさん!」
「ん?何?」
「き、今日、バレンタインっていう日なんですけど…知ってますか////?」
「うん」

フェイトはホッとし、尚且つ顔を赤くして、チョコを差し出す。

「本当は、ちゃんとしたの作りたかったんですけど、間に合わなくて…市販になっちゃいましたけど…」
「いいよ、別に。ありがとう」

来月のお返し考えないと、などと言いながらチョコを頬張る。因みに、板チョコである。
パリッ、パクッ…だが、次第に険しい顔になるトウヤ。

「どうしました?」
「フェイトっ…これ…かなりビターだね」

無理な笑顔を作りながら言うトウヤ。
チョコの箱にはこうあった。

“カカオ90%”

これはかなり苦い。なぜなら、砂糖が殆ど入ってないのだから。

「ご、ごめんなさい!急いでたから…」
「はははっ、フェイトはうっかり屋なんだね」
「うぅ〜」

フェイトは恥ずかしくなり俯いてしまった。そんなフェイトにトウヤは、

「じゃぁ、フェイトに甘くしてもらおうかな」
「え?どういうことです…っ!!」

フェイトは再び最後まで言えなかった。今度は、唇で唇を塞がれて、

『これって!キ、キス?!』

さらには、

「んっ〜?!……ハァ……んっ…ちゅ……」

舌を入れフェイトのそれと絡ませだした。いわゆるディープキス。
フェイトも最初は驚いていたが、次第に自分からも絡ませるようになった。

約10秒後、互いに唇を離し、二人の間を唾液の糸が繋げ、プツンと切れた。

「うん。甘くなった」
「と、トウヤさん////!」
「ははは、ごめんね、はじめてだよね?僕もだけど」
「はい////でも、その…良かった…です////」

自分が言ったことが恥ずかしかったのか顔が真っ赤になっている。
トウヤは微笑むと、よしっ、とベットから降りた。

「トウヤさん!まだ寝たてた方が…」
「それなりに寝たからね…それより、行こう」
「?どこへですか?」

何のことだろうと思っていると、

「一緒にメンテナンスルームに行くって言ったでしょ。もう、ラセンの整備は終わってる筈だし」

そう言えばそうだった、とフェイトは思い出した。その矢先に今回の事件が起きたのだった。
フェイトはもう1つ思い出し、

「あのう、トウヤさん。コレ」
「?……僕の護符?」
「はい。式神の1体だけ残ったんです。それで、もし宜しければ…貰ってもいいですか?お守りにしたいんです」
「……いいよ。そんなのでいいなら」

フェイトは嬉しくなり、護符を抱きしめた。
トウヤは苦笑すると、あることを思いついた。

「ねぇ、フェイト。ラセン受け取った後、僕の部屋に行こうか。このチョコ使って何かお菓子でもご馳走するよ」
「え?!トウヤさん、料理できるんですか?」
「カノン程じゃないけどね…もし良かったら」
「はい!」

そして、二人は医療施設を後にする。

メンテナンスルームへ向かう間、二人の手は繋がれていた。

『僕の手は血に塗れて汚れている。彼女に触れるべきじゃない。でも、それでもフェイトは手を取って歩いてくれている。僕はようやく手に入れた、幸せを。だから護る。彼女を』

『トウヤさんは暖かくて優しい。そんな人の手を血で汚れてるなんて思いたくない。誰にもそんなこと言わせない。だから、私がトウヤさんを護る。彼の傷を癒す』


一度流れ出した水を止めることは難しい

それは心も同じである


二人の心も止めることはできないだろう




イメージED:ボクノート〔スキマスイッチ〕

オリジナルメインキャラクター・イメージCV(※登場順)

カノン=リコルヌ〔朴璐美:鋼の錬金術師・エド役など〕

ミリア=クラウゼン〔根谷美智子:スターオーシャン3・マリア役など〕

トウヤ=キリシマ〔保志総一郎:ガンダムSEED・キラ役など〕

アトス=ゾラシス〔玄田哲章:幽遊白書・戸愚呂(弟)役など〕

バルムンク=ジーラル〔置鮎龍太郎:ガンダムSEED・バルトフェルド役など〕

ゼロ〔石田彰:ガンダムSEED・アスラン役など〕

―次回予告―

「トウヤ君の機体が一番の問題なのよね」

「俺の属性は光だ」

「俺には才能がなかった…だから鍛えた」

「ハハハッ久しいな!」

「久しいな、ギル」


次回:第5話「鋼鉄の鎧とみんなでお勉強なの」


―あとがき―

メインのオリキャラのイメージCVも常に載せようと思います。まだ、いろいろ増えるかも(笑)

今回はトウヤ君の過去とフェイトの恋話でした。この後も、二人(殆どトウヤ)には困難が起こります。そこら辺も期待して下さい。

では、カノンの新魔法及び新アーマーの解説を。

広範囲魔法
ブレードペイン
術者を中心に半径40mの範囲から無数の剣を発生させ突き刺す錬金術。地上でのみ使用可能。詠唱(掛け声)は『無数の剣よ、我が眼前に現れよ!

ライジングアーマー装着時専用
ゴルドスマッシュ
脚から放たれる円錐状の光に包まて放つキック。脚を相手に向け(キックの用量)て魔力を放ち(捕獲・ロックオン)、ジャンプして決める。チャージアップ1回分。
掛け声は『烈光蹴撃!

グランインパクト
拳に魔力を溜めた渾身の一撃。ゴルドスマッシュ程の威力は無いが、出が速く、使いやすい。チャージアップ1回分。掛け声は『烈光拳撃!

スカイグラスプアーマー
大空を舞う鳥は空を制する』のとおり、スピードに特化した第二形態。トリガーは『大空変身!』。メインカラーは青。ライジングアーマーよりも鎧の部分が軽量化されており、攻撃力、防御力が低下するが、その分背部にスラスターを形成し高速戦闘を可能にする。スピードはフェイトのソニックフォームと互角。攻撃は風魔法を主体とする。武器は風の双刃槍「スカイランサー」。

スカイグラスプアーマー装着時専用
魔力付与攻撃魔法
スカイブレイク
エアーバインドで敵を拘束し、大量の風を纏ったスカイランサーで貫く魔法。物理攻撃力の低いスカイグラスプだがその分を風で補っている。が、発動までに時間が掛かるのと、一体しか当てれないのが難点。応用で、刺すだけでなく連続斬りを加えるときもある。1回分を消費する。掛け声は『疾風一閃!

砲撃魔法・直射型
コバルトハリケーン
一直線収束させた竜巻を放出する魔法。主に相手の動きを止めるときや吹き飛ばすときに使うが、物理的なモノを切り刻むまたは削るといったことも出来る。1回分消費。
詠唱は『唸れ烈風!大気の刃よ、切り刻め!

広範囲魔法
ブラスターテンペスト
人為的に大嵐を発生させる魔法。範囲内の全てのものを巻き込み吹き飛ばす。2回分消費。
詠唱は『巻き起これ!全てを飲み込む極限の嵐!

射撃魔法・高速直射弾
ウィンドスラッシュ
スカイランサーに纏わせた風を刃として打ち出す魔法。エリアルウィングよりも威力は劣るが、2連続で打ち出せる。チャージアップなしで撃てる。今回未登場ですが、ついでに…。

防御・補助魔法
エアーフィールド
スカイグラスプ専用バリア魔法。従来のものとは異なり、風の流れで攻撃を逸らすことができ、並の物理攻撃は完全に流すことができる。

エアーバインド
風のバインド。解くには普通のバインドブレイクでは無理。風をかき消すように全身から魔力を放出することが得策である。

トウヤの式神は……すみません、思いっ切り仮面ライダー響鬼からです。鬼と言えば彼らでしょう、ということで。

前回にも出た時空調査機関シフォンですが、民間の調査機関で、勿論、申請もしてある合法的な機関です。

余談ですが、カノン達の決め台詞をおさらいしてみましょう。
カノン  闇より出でし者、闇に帰れ
キリト  その痛み、地獄への手向けにするがいい
トウヤ  来世で幸せに
リムエナ ボクの勝ちは最初から決まってんの♪
ゼロ   お前に俺の剣を記憶する資格はない
なぜ、ゼロを入れてるかというと……さぁ?

ゾディアックのアトスに関して言えば、最初っから即・死にキャラ確定でした。
まぁ、巨漢・土属性・バカとこれだけ死亡フラグがあれば当然でしょう。
他のゾディアックはこんなバカではありません(ヒデーなおい!)

バルムンクの説明はいずれ。ちゃんと姿を現してからという事で。
ゼロの魔法及びデバイスに関してもいずれ。まだ、ちゃんと出来ていないキャラなので。
ただ、彼の魔法は、知ってる人は知っている。仮面ライダーファイズのカイザのゼノクラッシュです。カッコいいですよね!アレ。

では、第5話で。





投稿作品へ戻る

inserted by FC2 system