超勇者戦機・コンブレイバー ―とある世界の錯乱編― 響き渡る轟音。個々では掻き消されて然るべきだが積み重なって消えることのない絶叫…いや、何故かそれは聞こえない。しかし、今、ここに地獄があった…。 この地獄を現出させたのは…針鼠のように、否、その身全てに余すところなく何らかの武装で固めた巨大な、そう、巨大な… 土管の武装はまさに多種多様、ミサイルや機関砲といった現代兵器が火を噴いたかと思えば、安っぽい効果音とともに原理もわからない怪光線を放つ。あまりの巨体ゆえ、ただ歩くだけでも周囲にとにかく洒落にならない被害を与えていく。少しでも知識のあるものが見れば、その馬鹿馬鹿しさにまず呆れ、次に疑問に思うことだろう。どうやって自重を支えていられるのかと。 とにかく、みんなの町は危険でピンチだった。 大惨事にもかかわらず、どこかこの光景をしらけたものにしているのは轟音に負けない大音量で垂れ流される音の羅列によるのだろう。おそらく元は勇壮な曲だろうがどこか調子外れの微妙な空気をかもし出す演奏を背後に、音の羅列は続く。 「政府は直ちに降伏し、 「官僚機構は直ちに私の決定に従い、国家公民を戦時非常体制に配置せよ」 「国境をあますところなく兵士と兵器で埋め尽くせ、陸には戦車を、空には戦闘機を、海には戦艦を」 「威嚇、抑止などという惰弱な駆引きは必要ない」 「全弾命中、やるからには全力射撃、全弾必中である」 「私の辞書に平和の文字は無い、和平の文字もない」 「ホップ・ステップ・玉砕である」 音の羅列はもちろん言語である。抑揚を抑えた口調でつむがれているこの言語には当然意味がある。しかし、それを理解することは、少なくとも自身を常識的であると自認する者にははばかられた。内容があまりにも、そう、正気の沙汰ではないからだ。 実はこの音の羅列、聞いている者は少ない。いい気になって語っている当人はそのことに気づいていないが…。というのも、この世界において明らかにオーバーテクノロジーであるこのふざけた土管は、ロストロギアの可能性を考えた時空管理局によって結界の中に閉じ込められているからである。尋常でない破壊を撒き散らす土管という非常識な光景でありながら、人の気配がほとんど無いのはそういう理由だった。 土管の破壊力が脅威であることは確かであり、それゆえに迂闊に手出しできないのは確かである。しかし、現場の局員が積極的に動かないのはそれ以上に…正気の沙汰ではない言語の垂れ流しにあった。 「ナントカには近づきたくない」 というのが大方の本音だった。 事態が膠着したかに見えた時、結界内の建造物は破壊されまくっているがとりあえず置いておこう、変化は突然現れた。 「コンブレイバー参上!!言っておくが、俺は最初からクライマッ…」 変化をもたらした者は、段階とかお約束とかいろいろ無視して最初から合体完了した状態で現れ… 「イタッイタッイタッ」 いきなり土管が展開した一見して安物のようなロボットアーム (?)に装備されたドリルによって削られていた。 「フンッ…悪のインテリたる私、マスター『さぁ。』の発案によって作られたハイパー素敵ロボ三十八号に挑むには、お前はあまりに…未熟であるぅ!」 ドリルで削るのにも飽きたのか、土管はコンブレイバーに搭載火器の斉射で尻餅をつかせた。しかし、まがりなりにも勇者を名乗るコンブレイバーに目立った損傷は無いようだ。何気に頑丈らしい…。 「痛いじゃないか(泣き声)、頑丈なんだけど痛覚と直結してるから平気じゃないんだからなぁ〜」 …なにか、自分で弱点を晒してるコンブレイバー。雰囲気がさらに痛いものになる。 「みんなの思いが素敵ロボに集まってくるのだ!!」 相変わらず抑揚の抑えられた声と共に、土管はドリルアームをパージして大推力で強引に、しかし鈍重に飛び上がる。土管の頭頂部にドリルがニョッキリはえてきたのは、まぁ、ベタではあるが見間違いではないだろう。 「いっけぇぇぇぇえええぇ〜〜〜っ」 文字にするとなんとも勇ましいが、やっぱり声に抑揚はない。 「えっ、何?理不尽だ〜とか言いながらこの先作ってないからエンディングを選んでくださいとかいうネタなのか〜!?」 あぁ、コンブレイバー、絶体絶命…しかし、いかに無視しようと世界は法則をそう簡単に覆さないように出来ているのである。 「…君はやり過ぎた…」 突如、第三の声が土管から響く。どうやら土管コックピットに装備された通信機の音声が漏れているらしい。その言葉と共に土管に異変が生じる。これまで高度な処理能力によって土管を制御していた機器(S○NY製)が誤作動を起こし、すでに空中に飛び立っていたその機動を無茶苦茶なものにする。 「こんな時にタイマーなのか?」 やっぱり抑揚の無い声がぼやく。 「なんだか知らないが、ひょっとしてチャンス到来?」 コンブレイバーは体勢を立て直し、コンプラックに変形。起死回生の一撃必殺、Soul Blow(魂の一撃)魂全てを賭けて放つ一撃の構えをとる。 「いっけぇぇぇぇえええぇ〜〜〜っ」 先ほどとは逆に、とはいってもこちらは燃え上がる感情のままに、コンプラックの一撃が土管に迫る。そして… ゴキ!! 「フッ、決まっ………やべ、刀折れた(汗)…ていうかまた(泣)」 刀がドリルによってあっさりと折られた…。しかし、折れた刀身はドリルにより粉砕されただけでなく、稼動部分に目詰まりしてドリルの動きを止めた! 「くっ、ドリル回転につかう運動エネルギーが内に篭って…これでは!!」 焦りの、しかし、それでもやっぱり抑揚の無い声。そして、唐突に土管は爆発した。 「…フッ、計算どおり!!」 痛すぎる間を挟んで勝利を宣言するコンブレイバーに応える者は誰もいなかった。結界を維持する局員たちも事態の変化についていけないのか、ただただ無言だった。 ともかくも、君のおかげで脅威は去った。ありがとうコンサーン!! 負けるな、戦え、コンブレイバー!!(テンプレ) きっと君のまともな活躍を誰かが記してくれることもあるかもしれなくもないさ… それまでしばしの休息だ。 コンブレイバー。 …ところで… 土管のパイロットはかろうじて生きていた。本体とは別のメーカー製部品を使った脱出装置は正常に作動したらしい。 「くそ…ここで目立てばもう少し扱いも良くなるはずだったのに…」 先ほどまでと違い、声に抑揚がある。しかし、彼は確かに土管の中から抑揚の無い声で、その…正気の沙汰ではない内容の言語を音声で撒き散らしていた本人である。 「…君にメッセージがある…」 先ほど通信機からしたのと同じ声がどこからともなく聞こえてきて、彼はビクリッと身を震わせる。 僅かな雑音がした後、一人の老人が姿を現す。老人は品良く身形を整えてはいたが、堅苦しさを感じさせなかった。事情を知らずにこの老人を見た者ならば、誰もが好々爺という印象を持つことだろう。 「若者が無茶をするのはわかります。しかし、やるのなら自分の褌でやりなさい」 老人の雰囲気はあくまで温和であったが、声をかけられた側は傍目から見ても恐怖に震えていた。 「では、確か今は「さぁ。」と名乗っていたのだね…後をよろしく頼みます」 軽く会釈し老人は消えた。立体映像だったようだ。そして、老人の会釈に何者かが応えたのが気配で伝わってきた。 「人の名を騙り、チキンスキンなわかりやすい小悪党によくも貶めてくれたものだね…」 気配の主は存在感こそ明確にしたが、相変わらずどこにいるかは悟らせない。声に抑揚は無いが、それにどこか怒りを感じるのはおそらく勘違いではない。 「…お許し下さい、師匠…」 止まらない震えの中、彼は必死に言葉を紡ごうとするが、乾いた喉と緊張に震える声帯はまともに働かない。 徐々に気配の主は近づいて、そして彼の前に姿をあらわした。特に威圧感を感じる容姿ではない。というか、何も知らない者ならむしろ舐めてかかるだろう、そんな容姿だ。しかし、彼の震えはさらに大きくなる。 「師匠、お怒りをどうぞお鎮め下さい。そんな、まるで 『「私をあまり怒らせないほうがいい…」な特殊部隊出身の大統領』 とか 『聖祝日の精神が商業主義に《汚染》される現状に怒る某氏』 のような鬼気を背後に幽波紋のごとく揺らめかせないで…」 詳しくはあえて説明しない方が良いだろう…。 「愚者め…今、言ったソレらは多くの同志たちが現に戦っている相手だろうに」 先ほどよりも感情の色が見えた気配の主は、面倒そうにそれだけ言うとまた気配だけを残して存在感が希薄化する。彼の視覚で認識できなくなる直前、気配の主は何かしらの合図を手の動きだけで見せた。乾いた音がすぐに続き、そして、静寂が訪れる。 その後、「彼」の存在を見た者は…。 後書 枯れ木も山の賑わいと申します…コンブレイバーを応援する全ての皆さん、洒落と思ってお許し下さい。すみませんでした。 自称弟子の書きかけで放置したアイディアと下書きを素として、彼の同意を得て、何故か「さぁ。」の奴が書かされました。私もヒマじゃないのに、自称弟子は酷い奴です。さて、どんな制裁を選んだものか。 いくつかの部分を検閲してありますが、この御話はフィクションであり、コンブレイバー本編はもちろん、現実に存在するいかなる人物等と関係しないという名目です。あまり追求すると…アーモンドとか桃の香りとか注射器とか首切りとか車輪とか針とか…ゲフンゲフンッ。奇特にもこれを面白いと感じた誰とも知らぬ貴方、最近奇妙な視線を感じることはありませんか? それでは、なんかよくわからないけど「さぁ。」の奴でした。 |