前回までのあらすじ。
 Dノエルの火砲の前になすすべのないアースラ一行。
 なのはがファリンを人質にとるが、逆に姉妹の美しき愛を見せ付けられることに。
 そして一瞬の隙を突いたアリサが、バニングス流の奥義を解き放つ。

「おお。今回はマジメに進行してるじゃないか」

 まあ、たまには悪くあるまい。こういうのも。
 というわけで、バーニングアリサ始まるよー。





 魔法少女バーニングアリサ/!! 「冥王の覚醒」





「お姉さまー!?」

 悲痛な叫び声をあげるファリン。
 その足元に首だけになったノエルが転がっていった。

「ああ!? お姉さま!!」
「うわー、すぷらったー」
「ていうか遠慮なしか!?」

 クロノの叫び声に、アリサが反論する。

「人形なら、殺傷設定解除しなきゃ行動不能にできないでしょ?」
「いや、それはそうだが………」
「無事だったんですね!!」
「え?」

 喜びの声を上げるファリン。
 その腕の中で、ノエルは平然と声を上げる。

「はい。忍お嬢様の仕掛けてくださっていた緊急脱出装置が役に立ちました」
「なんで首だけで動けるんだよ!?」
「まあ、いわゆるひとつのお約束でしょう」

 ノエルは、ファリンに抱えてもらいながらクロノたちに顔を向ける。

「しかしすっかりやられてしまいましたね。これではあなた方をお止めすることはできません。というわけで中へどうぞ」
「どうぞー」
「いいの? すずかの命令を破ることになっちゃうんだよ?」

 フェイトが不安そうに声を上げるが、ノエルはあっけらかんと答える。

「私の正式なマスターは忍様ですから」
「じゃあ、なんですずかちゃんの命令聞いてたん?」
「忍様に先程の装備のテストをやって欲しいと言われ、途方にくれていた所を頼まれたものでしたから」
「つまり僕たちは、実験台か」

 クロノがあきれた声を上げるが、ノエルは平然としている。

「仕事ですから」



 月村邸内に入ると、デンドロ○ウム装備の開発者、月村忍が出迎えてくれた。

「いらっしゃい、みんな。……って、ノエル。あんた負けちゃったの?」
「申し訳ございません」
「あちゃー………。ってことはボディから何から造り直しかー………。今度はもっと頑丈に造ろ」

 言いながら、ファリンからノエルを受け取る忍。
 なかなかシュールな光景だ。

「さて。みんながここに来たのは、ユーノくんを取り戻しに来たってことでいいのかな?」
「ええ。あいつがいないと、仕事になりませんから」
「ユーノくんは私のものなの!! 絶対に誰にも渡さないの!!」
「寝言言ってんじゃないわよ。ユーノと私が結ばれるのは、前世からの定めなのよ?」
「ええと。私たちは付き添いです………」
「同じくですー」
「しかし、お二人の発言が輪をかけて激しくなっておりますな」

 こうしてみると、なんともまとまりの欠けたパーティーだ。
 忍はそんな彼らを見て非常にほほえましそうな顔になった。

「もてるねー、ユーノくんも。じゃあすずかは地下室にいるから、案内してあげてファリン」
「はーい」

 そういうと、ファリンはそばにあった怪しげな紐を引っ張った。

 ガシャン。

「へっ?」
「地下室に六名様、ごあんな〜い」

 唐突に消えうせた足元に落下しながら、クロノはつっこんだ。

「これは案内じゃなぁあああいぃぃぃぃぃぃぃ……………」
「律儀ですね執務官んんんんんん…………」

 しばらくの浮遊体験後、各人は自分で飛行魔法を行使して穴のそこに落ちる。

「ふべらっ!!」

 ただ一人局員だけを除いて。

「さて、これで地下室到達なわけだ」
「さすが月村家、お屋敷の地下にも部屋があるなんてリッチやわ〜」
「なんだか、どきどきするね」
「そんなことどうでもいいの。ユーノくんは渡さないの」
「さっさとこの茶番にけりをつけましょう」
「皆さん外道ですね。少しも心配してくれないなんて」

 無傷で立ち上がる局員をシカトしながら、みんなを代表してクロノが目の前の扉を開ける。

ギギイィィィィィ…………。

 その先に広がっていたのは、地下とは思えないほど広大な空間だった。

「………いやちょっと待ってくれ。僕ら地下に落ちてきたんだよな?」
「うん」
「それで、滞空時間はどのくらいだった?」
「よう覚えてへんよ。私ら飛行魔法使ったし」
「え〜、体感時間ですが五秒とちょっとだったかと」
「たまには役に立つな、局員。では重力加速度を9.8として………」

 目をつぶって暗算開始。

「………時に、この空間、ぱっと見で良いからだいたいの高さを言ってみてくれ」
「えー…………」

 上を見上げると、果てしなく広大な穴が広がっている。天井らしきものは見えない。

「だめですね。わかりません」
「そうか。もういい加減つっこむ気も失せるが、一応言っておこう。どうやったらこんな空間が造れるんだ?」

 完全に投げやりなクロノのツッコミに、答えるものがいた。

「ちょっとした魔術の応用で、このくらいはできるんですよ?」
「!!」

 声のしたほうに目を向けると、闇の向こうからすずかが歩いてくるのが見えた。
 彼女は皆から十五メートルほど離れた所で立ち止まり、長いスカートをつまんで優雅にお辞儀をする。

「こんにちは皆さん」
「すずか。魔術の応用とは?」
「空間転移系の応用で……」
「そんなことはどうでも良いわ」
「さあ、ユーノくんを返すがいいの」

 クロノの質問をぶった切ってバーサーカーが二人、己の武器を敵に向ける。

「なのは……アリサ……」
「二人とも……もう戻ってけぇへんのやね……」
「というよりユーノくんを帰すではなく返すである点に俺はつっこみたいですね」

 黄昏れるフェイトとはやて、さらには局員。
 目の前にもいる三人にも目を向け、すずかは困ったように眉根を寄せる。

「それにしてもみんな、そんなにユーノくんが好きなの?」
「当たり前なの」
「何をいまさら」
「待て。今の“みんな”には僕らも入るのか?」

 クロノのセリフは無視して、すずかは悲しそうにため息をつく。

「困ったね。ユーノくんは一人しかいないから、みんなには分けてあげられないの」
「もう私たちもユーノが好きって前提になってるね」
「恋は盲目って言うけど、これはどうなんやろうか」
「というか分けられるんなら分けるんですか、ユーノくん」

 すずかが、だんだん陰を帯び始める。

「どうしても帰ってくれない?」
「何度も同じこと言わすな」
「Dead or alive、なの」

 だが、クロノは違和感を覚えた。

「そう、じゃあしかたないね」

 これは漫画的技法で陰影が付いているだけなのか? いや、違う。

「手加減はしないよ?」
「――みんな伏せろ!」

 クロノの合図と同時に、複数の光線が皆に襲い掛かる。

「なに!? 今の!!」
「ガンスレイブだよ?」

 にっこり微笑むすずかの周囲に、蝙蝠のようなものが浮遊していた。
 皮膜を上下に動かして飛んでいるのだが、胴体部分は明らかに拳銃のようなフォルムである。

「ヤバイですよ、執務官!! あれメチャクチャかっこいいです!!」
「もういいから黙れ、お前」
《Stinger Snipe》

 情け容赦なく吹っ飛ぶ局員。
 こんなアホな事やっている間にも、ガンスレイブは縦横無尽に駆け巡って、クロノたちを攻撃してくる。

「すずか、違うの!! 私たちはただクロノについてきただけなの!!」
「そ、そうや!! 別にユーノくんなんか欲しくないっちゅーか、別にどうでもいいねん」
「クスクス。ユーノくんが素敵じゃない?」

 ビシュビシュビシュー。

「墓穴掘ったー!!」

 はやての失言と同時に、集中砲火が襲い掛かる。
 ついでにアリサやなのはからも攻撃がやってくる。

「ちょい待ってー!! 訂正する! 訂正するから命だけはお助けをー!!」
「はやて、そのまま!!」

 クロノははやてに鞭打つ発言をして、己の魔法を行使する。

「クロノくんヒドッ!? まあ、デート一回で許したろうかな?」
「それで済むなら安いものだ」
「クロノッ!?」

 フェイトの悲鳴に気づくことなく、トリガーヴォイスを叫ぶ。

「ブレイズキャノン!!」

 直射砲撃がすずかに迫るが、すずかはよけようともせずただ受けた。

「なに!?」
「これなら、避ける事もありませんね」

 平然と言ってのけ、すずかはガンスレイブをクロノに向けて飛ばす。

「ちぃっ!」

 さすがに、高速機動にはついてこれないようだが、恐るべき射撃精度だ。
 何しろさっきからガンスレイブの攻撃がヒットしまくっている局員が、攻撃を受けるたびに、実に苦しそうに痙攣するのだから。

「喰らうのぉおおおおおおお!!」

 一瞬の隙を突いて、なのはが砲撃を放つ。

「これは痛そうだから、避けるね」

 こともなげにかわし、なのはに肉薄するすずか。

「もうこのオチは飽きたの!!」
《Protection Powered》

 ヴィータのラケーテンハンマーを受けきった防御で迎え撃つ。
 だが。

「えい♪」

 ズガン! という鼓膜を破る音とともに、なのはの防御があっさり砕ける。

「なのぉおおおおおお!?」

 そのまま後方に吹っ飛ばされるなのは。

「純銀マケドニウム加工水銀弾頭弾殻。マーベルス科学薬筒NNA9。全長39cm。重量16kg。13mm炸裂鉄鋼弾」

 その右腕には、黒金の拳銃。

「“ジャッカル”。完璧だよ、ファリン……」

 愛おしそうに“ジャッカル”に頬ずりするその姿は、まるで恋人に甘えるようなしぐさだった。

「ていうかなんだあの物騒な装備は。またお前か局員」
「失敬な。私はあくまで魔導師。あんな野蛮で無骨なものなんて造りませんよ」

 ひどく心外そうに局員はこういった。

「趣味以外では」
「作ってんだろ。ああやっぱりそうだと思ったよっていうかお前しかそんな妖しいもの作る奴いないだろコノヤロー!!」
「クロノ。落ち着いてってば、クロノ!!」
「さっきファリンて、すずかちゃん言うてたやんか。なんかもー、この家との付き合い、真剣に考えなあかんのかなー」

 クロノが局員にネッグハンギングツリーを決めている間に、アリサとすずかが相対する。

「なかなかいいもの持ってんじゃないの」
「フフフ。いいでしょ」
「でも、ユーノは渡さないし、それじゃあ私には勝てないわよ?」
「試してみる?」

 言うなりすずかは、ジャッカルを無造作に連射する。
 アリサは完全に弾道を見切って、弾丸をはじき返す。

「すずかが弾切れを起こした瞬間が勝負だな」
「いやー。それはどうでしょう。さっきのデンドロ○ウム・コンテナの例がありますからねー。きっとあれも弾数∞のコスモガンですよ」
「うるさい黙れなんで首絞めてるのにしゃべってるんだお前は」

 そして、完全にその場から置いていかれている少女が立ち上がった。

「……………」
《マスター?》
「……………ジ、ロー…」
《えっ?》
「カートリッジロード……」
《マス》
「カートリッジロォオオオオオオドッ!! 全部、全部消し飛ばすノォオオオオオオオオ!!!」
《………All、right》

 廃莢音に、四人が振り返る。

「なのは?」
「見せてやるノォオオオオオオオオ!! この私の真の力をぉおオオオオオオ!!!」
《Pluto、mode》

 レイジングハートのコール音とともに、辺りに異常にして異質な魔力が満ち溢れる。

「な、何やこれは!?」
「なのは!?」
「ク、これは……!!」
「おお、目覚めるぞ!! 我らが冥王様が!!」
「いいから死ねぇええええええええええ!!!」

 局員をブレイズキャノンで吹っ飛ばした瞬間、全てが終わり、

「フ、フフフフフ………」

 そして、新たな幕が上がる。

「アッハハハハハハハハハハハハッハハハハハ!!!! 始めからこうすればよかったのぉおオオ!! かわいいキャラなんか全部捨てて、この力でユーノくん以外をみんな塵に変えればよかったのぉオオオオオオ!!!」

 新たなるレイジングハートの姿は、まるで装甲服だった。
 本体たるコアは、なのはの胸元で停止し、その周辺から根を伸ばすように上半身を白い装甲が覆い、両手の甲には新たな水晶体がついている。
 まさしくどこぞの冥王を模倣した姿と言えよう。

「なのは………」
「なのはちゃん………」
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」

アリサとすずかが呆然とした声を上げる中、ただなのはの哄笑だけが空間の中に満ち溢れていた………。










 ついに覚醒した冥王。
 だが、やがてその覚醒は輪廻の狭間に浮かぶ最悪の兵器を招き、
 そして、この世の終わりを告げる煉獄の王すらも呼び覚ます。

 次回、魔法少女バーニングアリサ/!! 「終焉」

 各所のバレンタインssに期待しつつ待て!!





―あとがき―
「もはや定番となりつつある次回予告。これって結構ネタに苦労するもんだね」
「あ? 次回予告なのにか?」
「いやいや。最後の『〜〜〜しつつ待て!!』って奴だよ」
「あー、なるほどな」
「これって、某娯楽小説のリスペクトなんだけどさ、ほんと面倒なんだよね〜」
「だったらなんで予告なんか書いてんだよ?」
「ノリと勢い。そんでもって一回やってみたかったから」
「いつもそうだよな、お前……」
「さーて、各所のバレンタインssに胸を膨らせながらこれを書いてるわけですが、俺もひとつバレンタインssに挑戦してみようかと思います」
「……………アレ? これは?」
「もちろんやるさ」
「…………………………まさかとは思うが」
「うん。同時投稿」
「やめろよオイ、自分の首を絞めるまねは!?」
「それではまた〜」
「またこれか!! おい、だから人のこと無視すんなっつーの!!」



「あ、ちなみにまだこいつの名前は募集してますから」
「いい加減にしとけ!!」





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