ここ最近、みんなの様子がおかしい。
 フェイトのこの思いは、日増しに強くなっていった。
 つい先日、なのはの様子は以前のそれになった。いや、戻った。
 このこと自体はじつに喜ぶべきことなのだが、そのなのはとアリサ、すずかの間の様子がおかしくなり始めているのだ。
 現に。

「おはよー♪ すずかちゃん、アリサちゃん」
「おはよう、なのはちゃん」
「遅かったわねー、なのは」

 言葉だけ聞けば、別になんでもない普通の友達同士の挨拶かもしれない。
 だが、彼女たちが互いの姿を見た途端、フェイトの耳には確かな音が聞こえた。
 ピキーン………、という空気の張り詰める音が。

「(は、はやて………)」
「(耐えるんや、フェイトちゃん! ていうかむしろ空気に! 空気になるんや!)」

 共にこの緊迫感を味わうことになっている友人に救援を求めるが、彼女もいっぱいいっぱいらしい。
 表面上はにこやかに、だがけして穏やかならざる奇妙な登校時間。
 フェイトとはやては、クロノの言った「こんなはずじゃない現実」という言葉をよくかみしめていた。





 ここ最近、みんなの様子がおかしい。
 ユーノは無限書庫内で資料検索を行いながら、内心首を傾げていた。
 みんな、というのはなのは、アリサ、すずかの三人のことである。
 彼女たちは仲の良い友人たちだが、ここ最近無限書庫、というよりユーノ個人の元へやってくる頻度が増えているのだ。
 すずかは本を借りに。アリサは魔法の勉強に。なのはは書庫の仕事の手伝いに。
 個人的なことを言えば、みんなが自分の元へ尋ねてきてくれるのは非常に嬉しい。
 だが、どうも各人自分の時間を削ってまで尋ねてくるようなのだ。

「一体どうしたんだろ?」

 本気でいぶかしげなユーノを、遠くのほうからハルスが見つめていた。

「………マジで言ってるから始末に負えねえよな、アレ」

 ため息をつくハルスの隣で、未分類書庫の整理をしている眼鏡の少女が本を棚に戻しながらつぶやいた。

「しょうがないでしょ。あの子、好意は好意してしか受け取らないし」
「まあな〜。おかげで苦労するのは俺やお前だもんな、ルナ」

 ショートヘアの少女――ルナ・スクライアは再び未分類書庫を取り出して、情報を整理し始める。

「しかし何でボクまでこんなことしなくちゃいけないんだ………」
「いいじゃん、別に。お前だってこの無限書庫に興味はあるだろ?」
「そうだけど………」
「それにトランスポーターの整備が終了するまでの間だ。それまでかわいい弟分の仕事を手伝ってやるものいいもんだろうが」
「だったら仕事して」

 ルナが半目になって告げると、ハルスはあさっての方向を向きながら口笛を吹き始める。

「まったく………」

 ルナは呆れたようにつぶやいて、未分類書庫の整理を続ける。
 と、無限書庫に来客を告げるベルが鳴った。

「あ、お客さん………」
「じゃあ、俺が出るわ」

 そういってハルスは書庫の出入り口に向かっていく。
 果たしてそこで待っていたのは。

「………よう、なのはちゃん」
「あ、ハルスさん」

 高町なのはその人だった。

「調子はどうだい?」
「ええ、もうばっちりです! この間はありがとうございました!」

 勢いよくぺこんと頭を下げるなのは。
 と、今度はすぐに頭を上げて辺りをうかがうように周囲を見回す。

「………あの二人なら今日はいないぜ?」
「本当ですか!?」
「ああ。まあ、あとで来るかもしれないって聞けよおーい………」

 ハルスの言うことなど一言も聞かずに、一目散にユーノの所へと向かっていくなのは。

「………ちぃと焚き付けすぎちまったかね?」

 頭をかきつつルナのいる付近に戻ろうとすると、またベルが。

「………」

 嫌な予感がするが、応対しないわけにも行かない。

「………よう、すずかちゃん」
「こんにちは、ハルスさん」

 扉の向こうでにっこり微笑んでいたのは、両手いっぱいに本を抱えたすずかだった。

「本、読み終わったんでお返しに上がりました」
「あ、そうなの」

 ハルスは少し安心したようにすずかから本を受け取る。
 とりあえず今日はこれで。

「それで、ユーノくんはいらっしゃいますか? 新しい本を借りていこうと思うんですけど」

 ………帰ってくれる、わけがなかった。

「………いるよ。向こうで資料検索やってる」
「そうですか」

 ハルスの指差すほうを見て、すずかの瞳が一瞬強い輝きを帯びる。

「ありがとうございます」
「どーいたまして」

 すずかはもはやハルスになど目をくれず、一直線にユーノのほうに向かってゆく。

「………」

 なんとなく、また誰か来そうな気がするのでドアを開けたままその場に待機していると。

「こんにちは、ハルスさん!」
「………よう、アリサ」

 元気いっぱいにアリサが無限書庫に飛び込んできた。

「今日はお稽古の日じゃなかったのかい?」
「あれ、キャンセルしちゃいました。身に付けてもあんまり役に立ちそうじゃなかったんで」

 ケロッと言い放つアリサ。よくもまあ堂々とそんなことが言えるものだ。

「それで………」
「ユーノなら、いつものごとく仕事してるよ」

 先手を取って教えてやると、アリサは律儀に頭を下げた。

「ありがとうございます」
「でもまあ、今のアイツに君の相手が出来るほどの余裕があるとも思えないけど」

 疑問符を浮かべるアリサに、何も言わずにユーノのほうを指差してやる。
 アリサの髪の毛が、一瞬だけ紅く染まったように見えた。

「………それじゃあ」
「ああ、ユーノによろしく」

 アリサは一足飛びにユーノのほうに駆けてゆく。
 ハルスは軽く首を鳴らすと、そのまま本を抱えてルナの所へ飛んでいく。

「………いいの? アレを放っておいても」
「どうにかなるんなら、とっくに何とかしてるさ」

 ルナが呆れの裏にわずかな心配の色を滲ませるが、ハルスはなんでもないように本をルナに押し付ける。
 そしてルナの視線の先では、ユーノが三人の少女に詰め寄られて四苦八苦している光景が繰り広げられていた。





「―――というわけだ。例の資料は明日までに挙げてくれ」
『………確約できそうにないけど、わかった』

 何故か日増しに顔色が悪くなっていくユーノに通信しながら、クロノはいぶかしげな表情を作った。

「………ところでユーノ、何があった? 昨日より確実に顔色が悪くなってるぞ」
『別にたいしたことじゃないよ………』

 いや、そんな今にも死にそうな声で言われても。

「………頼んでおいて今更だが、今回の仕事は先延ばしにするというのもありだぞ? 今君に倒れてもらっては元も子もないしな」

 ユーノに頼んでいるのは、現在クロノが担当している仕事の捜査資料だ。
 実際は一週間くらいの猶予があるのだが、なるべく早く上げてもらったほうが事件に早くケリが付く。
 ユーノの実力から言っても問題なさそうだから頼んだのだが………。

『大丈夫だよ。今はルナ姉さんもいるからだいぶ楽に仕事も出来るし』
「………彼女たちにはあと数日でポーターの整備が完了すると伝えておいてくれ。それじゃあな」

 クロノはそれだけ言うと、ユーノとの通信を切った。

「しかし、ユーノの奴ずいぶん無理をしているようだったな」
「そうだねー。なんか今にも倒れそうな顔してたしね」

 今まで通信をつないでくれていたエイミィがクロノに同意しながら伸びをした。

「あーあー。向こうはどんな風に楽しそうなことになってるんだろーなー」
「? 何があるんだ?」

 クロノは不思議そうな顔をするが、エイミィは舌を出して答えた。

「クロノくんには一生かかってもわからないことー」
「何だそれは」

 憮然とした表情を作るクロノ。
 しかしいつもなら朗らかな笑みを浮かべているリンディが、どこか浮かない表情を作っていることに気がついた。

「艦長? どうかしたんですか?」
「ええ、ちょっとね………」

 リンディは困ったような笑みを浮かべながら、クロノにそう答えた。

「………あの子達にも、困ったものね」

 クロノは、リンディが苦笑するようにそうつぶやいたのが確かに聞いた。





 そして次の日。
 ある意味予想通りにユーノは身体の体調を崩して倒れた。

「まあ、当たり前っちゃあ当たり前だわな」

 ハルスはそうつぶやくながら、ユーノの額の上のタオルを交換してやる。

「ごめん、兄さん………」
「気にすんな。執務官にはルナの奴が連絡してるから」

 二人では手狭な局員用の寮は、どこか煩雑とした様子を呈していた。
 ここ最近、様子を見ると称したハルスの飯たかりのせいでこんな感じになっているのだが、それでもユーノは毎日の掃除を欠かすことはなかった。

「(なのにこんなことになってるってことは、実は相当まいってたって事か)」

 ハルスはひっそりとため息をつきながら、ユーノの様子を見る。
 だが、落ち着いていられるのも今の内だろう。
 そのうちユーノが倒れたのを聞きつけて。

 ピンポーン。

 ………ストレスの原因のほうからやってくるのだろうから。

「あ………」
「お前は寝てろって。俺が出るから」

 昨日同じようなこといってたよな、などとどうでもいい事を考えながら、ユーノの部屋のドアを開ける。
 その向こうには、それぞれのお見舞い道具を持参した三人娘が、無言で睨み合っている光景があった。

「………よう、三人とも」

 ハルスは廊下に一歩出て、そのまま後ろ手に扉を閉めた。

「あ、ハルスさん」
「ユーノくん、具合悪いんですよね?」
「大丈夫なんですか?」

 三人娘はそれぞれに口を開いて心配そうな声を出す。

「ん、まあたいしたことはないさ。一日寝てりゃよくなるだろうし」
「あ、じゃあ」

 なのはが手に持った箱をハルスに差し出す。

「これ、うちのお店のケーキなんです。よかったらハルスさんもどうぞ」
「お、悪いね」

 ハルスが受け取ると、次はすずかが何かを差し出した。

「………なにこれ?」
「ユーノくん退屈かな、って思って。私たちの世界にある面白い本です」

 童話か何からしい分厚い本を受け取ると、最後にアリサが一枚の紙を差し出した。

「こんなときにアレかな、って思ったんですけど、どうしてもユーノに私の作った術式見て欲しくて。治ったあとでいいですから、渡してもらえますか?」
「………わかった」

 むしろユーノなら治ってなくても喜んでみるだろうが。
 ハルスは両手に三人のお見舞いを抱えながら、それぞれの顔を見回した。
 三人とも、ユーノの部屋に入りたそうにうずうずしている。

「………わりぃが今日は勘弁してやってくれ。あいつも疲れてるからよ」

 誰かが何かを言い出す前に、ハルスはそう告げた。

「「「………はい」」」

 反論してくるかとも思ったが、存外おとなしくうなずいて三人はとぼとぼと局の廊下を歩いていった。

「………何とかしてやりたいけど、こればっかりはなぁ」

 ユーノのためにも、そしてあの子達のためにも。





 局の自販機前の休憩スペースを陣取った三人は、そのまま無言でうつむいていた。
 誰も何も言わず、ただ黙ってそこにいる。

「………ユーノくん、大丈夫かな」

 ややしてポツリとつぶやいたのはなのは。

「大丈夫じゃないかな。もしひどかったら、病院にいってるだろうし」

 それに答えたのはすずか。

「ユーノがああなったのって………私たちのせいよね」

 アリサの一言は、本人も含めて皆の胸の奥に突き刺さった。

「ユーノくん………自分がつらくても、人の頼みを断らないからね」
「だから私の話も聞いてくれるし」
「あたしの魔法講義も受けてくれるしね」

 三人は顔を見合わせずに話をする。

「ねえ、アリサちゃん、すずかちゃん」

 やがてなのはが確認のためにつぶやく。

「二人とも………ユーノくんのこと、好き?」

 アリサとすずかは、しばらく沈黙したあと。

「………うん」
「そうね」

 それぞれにうなずいた。

「それって、like? それともlove?」

 重ねて、なのはが問いかける。

「………」
「そういうアンタはどうなの?」

 すずかは黙り、アリサはなのはの気持ちを問う。

「私は………ユーノくんのことが好き。もちろんloveだよ」

 なのはははっきりと答えた。

「いつ好きになったのかはわからない。でも、この間ようやく気づけたの」
「………」
「そのおかげで、ちょっとだけ苦しかったけど………でも今はそうでもないかな?」

 なのははそう言って嬉しそうに笑った。

「………あたしとはやっぱり違うわね」

 アリサはそう言ってなのはのほうを見る。

「あたしもユーノの奴が好き。一目ぼれだけどね」
「アリサちゃん………」

 なのはがアリサを見つめ返す。

「でも、あいつに会うたびに、あいつのことを新しく知るたびに、好きって気持ちは膨らんでいって………」

 アリサは服の下にしまっているペンダントを握り締めた。

「アイツのこと、愛してるってはっきり言えるくらい好きになった」
「………」

 アリサとなのはは見つめ合う。

「すごいね、二人とも………」

 そんな二人をすずかがまぶしそうに見つめていた。

「たぶんユーノくんのことをそういう風に見始めたのは、私が一番新しいんだろうな」

 すずかはそういいながら、天井を見つめた。

「………すずか。アンタにとってアイツは何?」
「………不思議と暖かな人だった。でも、その暖かさが心地よかった。おかげで、私は今こうしてここにいられる………。そんな風に思えるんだ」

 すずかはそう言って、楽しそうに笑った。

「だから、その暖かさを独り占めしたくなったんだ」
「………ユーノくんが好きって事?」

 なのはが再び問いかけると、すずかははっきりうなずいた。

「はい」
「それはどういう意味での好き?」

 反論を許さぬ真剣さのアリサに、すずかも真剣に答える。

「………私、月村すずかは、ユーノ・スクライアのことが異性として好きです」
「………そう」

 うなずいて、アリサは立ち上がった。

「それじゃあ、あたしたちは敵同士ってわけね」
「………」
「アリサちゃん………」

 なのはのつぶやきに、アリサが振り返る。

「だってそうでしょ? 私たちの知るユーノ・スクライアはただ一人。ひとつしかないものを三人で分けることは出来ない………。なら、あたしたちは敵同士でしょ?」

 しばし、場に沈黙が下りる。

「………そうだね」

 すずかもそう言って立ち上がった。

「すずかちゃん………」
「ユーノくんは誰にも渡したくない………。その想いはみんな一緒だもんね。それじゃあ、私たちは敵同士だね」

 なのははそんな二人を見て、少しだけ躊躇したあと立ち上がった。

「………渡したくない。ううん、渡さない。ユーノくんは誰にも………!」
「なのは………」
「なのはちゃん………」

 痛いほどの緊張感がその場を包み込み。

「でも、友達をやめることはないでしょう?」

 場違いなほど優しい声が、その場の緊張感を解いた。

「「「え………?」」」

 三人が慌てて振り返ると、そこには偉大な主婦の姿があった。

「お、お母さん!?」
「桃子さん?」
「桃子おば様?」
「こんにちは。アリサちゃん、すずかちゃん♪」

 桃子は笑って手を振ると、なのはの傍まで近づいてその頭に手を置いた。

「なのはも、そんなに怖い顔しないの」
「でも………」

 なのはは顔をゆがめて、アリサとすずかを見る。
 二人も顔をこわばらせて、桃子のほうを見た。

「桃子さんはなのはの味方をするんですか?」
「私は誰の味方でもないわ」

 桃子はそう言って、アリサとすずかの頭を撫でる。

「恋は闘い。確かにそういうこともあるけれど、それで互いを傷つけあうのは間違ってるわ」

 桃子の瞳に浮かぶのは、かすかな悲しみ。

「好きな人が誰かに取られちゃうって怖がる気持ちもわかるわ。でもね、あなたたちは一番大事なことを忘れてる」
「一番、大事なこと?」

 なのはが問いかけると、桃子は三人の顔を見渡して言った。

「相手の気持ちよ」
「「「あ………」」」
「恋愛はね、一方通行じゃ届かないの。お互いの気持ちを通じ合わせてはじめて実るものなの」

 桃子は実感を込めてつぶやいた。

「気持ちが通い合って、初めて気持ちよくなれるものなの」
「「「………」」」

 三人は黙って、これまでの自分の行動を振り返った。
 一方的にユーノのところへいって、ただ自分のやりたいようにする。
 ユーノは笑顔で迎え入れてくれたが、果たしてそれで彼は自分たちと気持ちをつないでくれていただろうか。

「ほーら。三人ともそんな風に泣きそうな顔しないの!」

 桃子はそう言って、三人まとめてその身体に抱き寄せる。

「今はまだ、そんな風にはなれないかもしれない。だから、少しづつ歩み寄っていくの」
「「「………」」」
「それなのに、あなたたちがお互いを傷つけあってたら元も子もないでしょ?」

 桃子は満面の笑みで、三人の顔を見下ろした。

「ユーノくんはいい子だから、三人の笑顔が一番のご馳走なの。だから、みんなは今までどおりのみんなでいなさい」
「お母さん………」
「桃子さん………」
「桃子おば様………」

 三人が偉大な主婦をそれぞれの呼び方で呼ぶ。

「で、でも、ユーノくんは一人しかいないんだよ?」

 なのはが不安そうにそういった。
 確かにその通りだ。
 ユーノは一人しかいない。そしてユーノの隣に立てるのは一人だけ。
 これでは争いにならないほうがおかしいだろう。

「そうね。じゃあ、こんなのはどうかしら♪」

 なのはと同じように不安そうな顔をするアリサとすずかを見ながら、桃子は楽しそうに提案した。

「まずはみんなで一緒にユーノくんに告白するの!」
「「「えぇっ!?」」」
「それで、そのあとはユーノくんの自由。誰を選ぼうが恨みっこなしでね」

 桃子は茶目っ気たっぷりにウィンクをする。

「あなたたちが奪うんじゃない。ユーノくんが選ぶの。これなら、文句のつけようがないでしょ?」

 桃子の提案に、三人はショックのあまり硬直してしまった。
 だが、一理ある。この方法ならば、決定権をユーノにゆだねてしまうゆえ、三人が互いに文句を言う筋合いはなくなってしまう。

「「「………」」」

 三人はしばらく迷ったあと、お互いの顔を見合わせた。

「アリサちゃん、すずかちゃん」
「うん」
「あたしもそれでいいわよ」

 三人の互いを見る目は今までのように敵を見るものではない。
 正々堂々ぶつかり合う、スポーツマンのような輝きがそこにはあった。

「よしっ! それでこそ私の娘よ!」

 桃子はそう言ってなのはの頭を撫でさすり始めた。

「にゃ、にゃ〜! お母さん苦しいよ〜!」
「あはは………」
「それにしても、桃子さんなんで局のほうに?」

 すずかはそんな桃子の様子に苦笑し、アリサは疑問を口にした。

「それはね………」
「それは………?」

 桃子は人差し指を口元まで持っていって、こういうときのお約束のセリフを言った。

「秘密よ♪」





 桜台の丘の上は、今日も気持ちのいい風が吹いている。

「ユーノくん、来てくれるかな?」

 空を見上げながら、すずかがつぶやく。

「来なくてもいいわよ。そのときはみんなでユーノのところに乗り込めばいいんだから」

 すずかと同じように、雲が流れるさまを見つめながらアリサが言う。

「にゃはは。心配しなくても、ユーノくんは来てくれるよ」

なのはは笑って、隣に座っている親友たちを見つめる。

「………だね」
「そうね」

 二人も笑ってなのはを見つめ返す。
 その後、ユーノが無事に感知したことを知った三人は、ハルスを介してユーノにこう伝えた。



「海鳴市、いつも魔法を練習してる丘の上で待っています………だとさ」
「なのはが、そういったの?」
「なのはちゃん個人というより、三人一緒にだったな」

 無限書庫の中、ハルスは伝えられた伝言をしっかりユーノに届けた。

「つーわけで、今すぐ行け」
「今から?」
「そー」
「でも仕事が………」
「いいから行けぃ!」

 ハルスはじれたように叫んで、ユーノを無限書庫からたたき出した。

「うわぁ!? な、何するのさ兄さん!」
「仕事なら安心しろ。ルナの奴がきっちり終わらせるから」
「て・つ・だ・え!」

 後ろからルナが首根っこ引っつかんでハルスを引きずっていく。

「つーわけだから、三人によろしくうぅぅぅ………」
「………はあ」

 ユーノは呆然と書庫の置くへ消えていくハルスを見送ったあと、しかたなく海鳴市へと向かうことにした。

「でも何の用なんだろう、三人とも?」



「………それじゃあ、恨みっこなしだからね?」

 なのはが笑顔でそういった。

「もちろんだよ。だってユーノくんが決めることだから」

 すずかも嬉しそうにそれに応じる。

「ま、ユーノに選ばれるのはあたしだろうけどね」

 アリサが自信満々にそういうと、二人はもう抗議する。

「違うよ、なのはだよ!」
「アリサちゃん、うぬぼれるのは感心しないよ?」
「いったわね!? 見てなさいよ!」

 顔を付き合わせる三人だが、その間に数日前までの冷たさはない。
 ただ純粋にた友達との会話を楽しむ少女たちの姿が、そこにはあった。

「………あ!」

 なのはが声を上げる。
 二人がそちらのほうを向くと、みんなの想い人がゆっくりと歩いてくる所だった。
 三人は互いにうなずき合うと、一目散に駆け出していった。
 自分の想いを伝えるために。





 少女たちは想いを告げる。
 だがこれは始まりに過ぎない。
 少年にとって、皆が大事な人だったからだ。
 だからこれはスタートライン。

 三人の少女たちの、大切な恋の物語の………。










―あとがき―
作者「リーベ・エアツェールング 〜Stand by ready〜 完成ー!」
ハルス「はいご苦労様」
作者「そして、今作品を持ちましてリーベ・エアツェールングシリーズ、一区切りとさせていただきます!」
ハルス「つーことはこれで終いか?」
作者「いや。あくまで一区切りだ。このほかにも外伝やら、個別ルートに入った場合のその後やら、三人娘の成長やらいろいろ出来るしな。ただネタが………」
ハルス「だから一区切り。あくまで第一部完であって、これで終了というわけじゃないんだな?」
作者「そーそー」
ハルス「まあ、そのまま第二部が始まらない場合もあるわけだが」
作者「言うんじゃありません! ほんとにそうなりそうなんだから」
ハルス「ヲイヲイ」
作者「そしてここでネタばらしー!」
ハルス「唐突なのはいつものことだが、なんかばらすようなネタあったか?」
作者「題名のこと。お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、今回の表題である“リーベ・エアツェールグ”、これはドイツ語で“恋の物語”という意味です」
ハルス「そのまんまだな」
作者「いいだろわかりやすくて。そしてなのはにとっては恋に気がつく話、すずかにとっては恋を実らせる話、アリサにとっては恋を育てる話に構成したつもりですが………」
ハルス「読み手にゃどう受け取られたかはわからんな」
作者「まあ、その辺は読者さんしだいだろ」
ハルス「まあな」
作者「さて、これ以上特に語ることもありませんし、今回はこの辺りでお暇させていただきましょう!」
ハルス「今作品をわざわざここまで読んでくださり、本当にありがとうございました」
作者「それでは、次回! またお会いしましょう!」










ハルス「………ところでさ、俺主役の外伝、マジでやるの?」
作者「やる」
ハルス「やめてマジお願いだから!?」
作者「やる。あくまでやる」
ハルス「イーヤー!?」





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