「わりぃね。わざわざ付き合ってもらっちゃって」 「いえ。個人的にも、あなたの強さに興味がありました。むしろ幸いでしょう」 「そいつはありがたいね」 平坦で、特にこれといった障害物のない普通の訓練室。 その中央でヴォルケンリッター、剣の騎士シグナムと、スクライア一族の自警団、ハルス・ライ・スクライアが向かい合っていた。 すでにバリアジャケットは展開済み。互いの獲物も準備万端である。 二人の表情に険はなく、むしろ穏やかといっても差し支えなかった。 「バトルマニアがまた………」 呆れたような表情でヴィータがつぶやいた。 「でも、今まで申し込むことはあっても、申し込まれることはなかったからねぇ」 困ったようにシャマルが頬に手を当てて二人を見つめる。 「ところで、あのハルスという男それほどの腕なのか?」 大型犬のままのザフィーラが、隣のアルフに顔を向けて問う。 「さあ? あたしはよく知らないけど、なのはがずいぶん褒めてたよね?」 アルフがフェイトに問うと、彼女はこくんとうなずいた。 「うん。暇があるときは接近戦の稽古をつけてもらってるって」 その評を受け、はやてが難しそうな顔で唸った。 「そやかて、あのシグナムと戦えるとは思われへんのやけどなぁ………」 事の起こりは、すずか・アリサ誘拐事件から数日立ったある日のこと。 「お」 ようやく例の製薬会社の摘発が終了し、ひとまず管理局に帰ってきたはやてたちを迎えたのは、ユーノの兄貴分であるハルスだった。 「よう、二人とも。無事で何よりだ」 「当たり前だろ。何しろはやてはあたしたちが守ってるんだからな」 「フェイトだってそんじょそこらの魔導師と一緒にしてもらっちゃ困るね」 ヴィータとアルフがわざわざ偉そうに胸を張ってハルスに答える。 「ははは。そりゃそうか。なにしおうヴォルケンリッターが一緒なら早々滅多なことはねえわな」 「………それで、お前はわざわざこんな所で何をしているのだ?」 ザフィーラがそう問いただすと、ハルスは楽しそうな表情のまま、こんなことをのたまった。 「ああ。シグナムさん、一度俺と思いっきり戦ってもらえねえか?」 「「「「「「…………」」」」」」 なんというか、ものすごい空耳が聞こえたような気がした。 「あのー、ハルスさん。今なんて?」 「え? やっぱり脱いだ手袋叩き付けないとダメ?」 「いや、なんで決闘を申し込むねんな」 はやてが投げやり気味にハルスに裏手ツッコミをかますと、シグナムがうなずいた。 「いいでしょう。その勝負、お受けしましょう」 「ちょ、シグナム!?」 シャマルが驚くが、勝負を申し込んだ当人が嬉しそうに指を鳴らした。 「よしっ! 決まりだ! 日取りはそちらの都合に合わせるぜ!」 「では、三日後はどうでしょう。その日ならば、特に任務もありません。場所は、私が訓練室を申請しておきます」 「おお、すまねえな。それじゃあ、三日後になー」 言うことだけ言ってしまうと、ハルスは上機嫌でどこかへといってしまった。 「ちょお、シグナム!? アンタ本気なん!?」 「いくらなんでも、その、本気ではやりませんよね………?」 はやてに詰め寄られ、さらにはフェイトにも伺うように問われ、シグナムは不思議そうな顔をした。 「彼が望んで申し込んできたのです。それに受けねば彼に恥をかかせてしまうことになる」 「そやけど………」 なおも言い募ろうとするはやてを制し、シグナムがハルスの去っていったほうを見る。 「それに、彼にはあまり遠慮は要らないようですし」 「シグナム………?」 あまり見ないライバルの真剣な様子に、フェイトは怪訝そうな表情を浮かべた。 というようなやり取りがあり、そしてきっちり三日後の今日。二人はこうして訓練室の一つで模擬戦闘を行うこととなったのだ。 「ハルス・ライ・スクライア。十四歳、男。所属はスクライア一族。しかし一族には珍しい、戦闘系列の魔導資質持ちで現在は一族の自警団に所属。しかしお世辞にも資質は高いとは言えず、現時点での魔導師ランクはC−………」 シャマルが軽く探りを入れたハルスのパーソナルデータだ。提供先はユーノ。 「一個もハルスって奴が勝てる要素ねえな」 ヴィータはつまらなさそうにそういった。 「せやねぇ。ランクCゆうたら、訓練生とそう変わらんランクゆうことやし」 はやては胸元にかけたシュベルトクロイツをいじりながらつぶやいた。 いざとなったら割り込んででも二人を止めるつもりだ。 「うん。防御も薄いみたいだし、下手したらハルスさん大怪我しちゃうかも」 自分もバルディッシュを握りながら、フェイトが二人の動向に注意を払う。 「でもさ、だったらなんでシグナムはこの勝負を受けたんだい? アイツだって、見境なく勝負を吹っかけるようなバカじゃないだろ?」 アルフが首をかしげながら不思議そうに言う。 「確かに、シグナムが相手の力量を見誤るとも思えん」 ザフィーラはザフィーラで思うことでもあるのか、地面に寝そべったまま泰然と二人を見据えていた。 いろんな意味で、この模擬戦は謎な組み合わせだった。 一方、皆から微妙な評価を受けているハルス本人は、勝負を始める前にシグナムへ質問を済ませておく事にした。 「そういえばさ、今更俺が言うのもなんだけど何でこの勝負受けてくれたんだい?」 シグナムはしばし瞑目したあと、はっきりと答えた。 「………そうですね。久方ぶりに“騎士”の闘いを見たせいでしょうか」 シグナムがそういうと、ハルスは嬉しそうに笑った。 「うれしいねぇ。そういってもらえると」 しばしの沈黙。 「………合図は?」 「お好きに」 その会話自体が、勝負の合図となった。 掛け声もなく、横なぎに振るわれるゲシュペンストを、鞘に収めたままのレヴァンテインで受ける。 即座に抜刀。鞘で槍斧をはじき返し、一刃を見舞う。 が、ハルスは一歩引いてそれを回避。お返しとばかりに強化した拳で裏拳を見舞う。 シグナムは少ししゃがんでそれをやり過ごし、一歩踏み込んで斬りかかる。 ハルスはゲシュペンストで受け、真っ向から鍔迫り合いの体勢になる。 「レヴァンテイン!」 掛け声と同時に、カートリッジロード。 一瞬でレヴァンテインが業火をまとう。 「っと!」 だがハルスは、カートリッジがロードされると同時にゲシュペンストを引いて、身体を横回転させながらシグナムの横に回る。 そしてついでとばかりに叩き込まれる蹴りを、シグナムはまたしゃがんで避ける。 軸足を狙った斬撃を放つが、ハルスは一瞬早く跳躍。 「ぜあぁぁぁぁ!!」 そのまま一気にゲシュペンストを振り下ろす。 「フッ!」 シグナムは受けるのではなく、レヴァンテインを斬り上げる。 ぶつかり合うのは一瞬。 はじかれた勢いを利用して、二人は互いに距離を開けた。 ………一連の動作が終了するまで、一分とかからなかったろう。 完全に置いていかれたギャラリーは、ポカーンと間抜けに口をあけてハルスを眺めていた。 「つ、強かったんやね、ほんまに………」 信じられないような口調で、はやてがそうこぼした。 「ランクCってウソなんじゃねえの?」 ヴィータがそういうと、シャマルが首を振った。 「でも、今の所魔法が使われてないわ」 「魔法が撃たれれば、ハルスの不利は免れんな」 ザフィーラがそう締める。 二人の闘いは、続いて乱打戦へと移行していた。 ガギッギギッガギインッ! 断続的に金属音が聞こえ、それは止むことなく一つの旋律を生み出す。 「その長い獲物でよくそこまで動けますね!」 「そっちこそ、何でそれっぽっちの長さで、それだけの間合いが取れるんだよっ!」 互いに軽口を叩き合いながら、嬉しそうに刃を重ねあう。 二人の相棒たちは今の所、無口に振るわれている。 「そろそろ、行きますよっ!」 「なにをっ!?」 答えは、左手に顕現した鞘。 「ハッ!」 刃を振るうように、鞘がハルスに向かって振るわれる。 一気にシグナムの手数が増えた。 「おおっ!?」 鞘と剣の二刀流。ハルスは必死にゲシュペンストで応戦するが、やはり長槍斧では限界があった。 「もらった!」 隙をかいくぐって、レヴァンテインがハルスの脇に放たれる。 ハルスはそれをあろうことか左手で受けた。 「!?」 「そう簡単にやれないね!」 次の瞬間、ハルスの腕が動いていないにも関わらずレヴァンテインが勢いよくはじき返される。 「なっ!?」 「おおぉぉぉ!!」 ハルスは雄たけびと共に、今度はゲシュペンストではなく自身の拳をシグナムに叩き込む。 《Panzer schild》 主の危機を察したレヴァンテインがベルカ式のシールド、パンツァーシルトを展開する。 「無駄ぁ!」 だが、ハルスは一声吼えて一つの術式を開放した。 《zweit stos》 ゲシュペンストのコマンドと同時に、パンツァーシルトが砕け散り、シグナムに強烈といっていいほどのダメージが入る。 「カハッ!?」 「まだまだ!」 さらに追いすがるハルス。 シグナムはレヴァンテインを横薙ぎにふるって応戦するが、その一撃は深く沈みこんだハルスの頭上を通り過ぎるだけ。 そして沈んだ勢いを利用した後ろ蹴りが放たれる。 「クッ、レヴァンテイン!」 《Panzergeist》 腹部に防御を集中。 「もいっちょ!」 《zweit stos》 だが、ハルスの一撃はパンツァーガイストすら容易に打ち破る。 「ゴッ………!」 今度こそまともに受けてしまい、そのまま吹き飛ぶシグナム。 「へっ………!」 ハルスは不敵に笑うと、そのまま追いすがるようにシグナムを追いかけた。 「な、なんやのん、今のは!?」 またもや信じられないような声を上げるはやて。 当然だろう。下手すると砲撃ですら防ぐシグナムの防御魔法、パンツァーガイストがカートリッジの供給に頼らないハルスの打撃で粉砕されているのだから。 「ツヴァイト・シュトースだわ………」 シャマルは驚いたような声を上げ、ハルスの行使した魔法を看破した。 「なんですかそれ?」 「ベルカの打撃魔法の一つで、コンマ秒の差で強力な衝撃を二回相手に叩きつけるんです。物質への衝撃を徹底的に通す魔法だから、生半な防御じゃあっさり破られる威力があるんです」 「へー、じゃああたしもあとで習おうかな」 「止めといたほうがいいぜ」 アルフがそう言うと、ヴィータはすぐに止めに入った。 「なんで? 便利そうじゃないか」 「便利は、便利なんですけど………」 「ツヴァイト・シュトースってのは発動が早い分、相手に打ち込むと腕がスンゲーしびれちまうくらい反動がきつい魔法なんだ。下手に連発したら腕が壊れちまうくらいな」 「え、じゃあ」 「リターンより、リスクのほうがきつい魔法なのだ」 また使いでのない魔法だ。 「うわ………」 「だが、あの男は自己鍛錬の結果、自在に使いこなせるまでに自身の肉体を強化しているようだな」 ザフィーラは目を眇めてハルスを見つめた。 「本来あれは拳撃専用。足での使用は想定されていない。おそらくアヤツはその気になれば頭突きでも撃てるのではないか?」 「まあ、なんしろシグナム有利は動かないわけだけどな」 ヴィータがそういった瞬間、シグナムがレヴァンテインをチェンジした。 《Schlange form》 「っ!? とっ!」 「はあっ!」 慌てて後退するハルスを、蛇刃が追いかける。 うねる刃はハルスを捕らえて離さない。 「チッ!」 ハルスはゲシュペンストを払って蛇刃をかわそうとするが、しつこく追いすがってくる。 「この!」 「いかがかな、ハルス殿。我が蛇刃の舞は」 完全にハルスの間合いからはずれ、今はレヴァンテインの操作に集中しているシグナムがそんなことを言ってくる。 「ん、ああ! なかなか楽しいぜ!」 「そうか、ならば」 余裕なのか、空元気なのか判断しかねる声を上げるハルスに対し、シグナムは次の手に打って出る。 「これならばどうだろう?」 うねる刃は、やがてハルスを取り巻くように動きを変える。 「!」 「シュランゲバイセン・アングリフ………」 シュランゲフォルムの必殺技。 相手を動けぬように、蛇刃で動きを制限し、その上で魔力を載せた一撃を見舞う技だ。 「さて、いかがなさるかな?」 「降伏しろと?」 「安心していただきたい。シャマルは治療のエキスパート、いかな負傷も治療できます」 シグナムのその一言に、ハルスは豪快に笑った。 「あっはっはっはっはっ! ………そこまで期待されちゃあ、答えない訳にはいかないじゃねえの」 ハルスがゲシュペンストを構えなおすと、シグナムはかすかに笑った。 「………ハッ!!」 そして振り下ろされる腕。 ハルスは屈伸するように足を曲げ………。 すさまじいまでの轟音と共に、ハルスの姿が土煙の中へ消えた。 「………これで決着やね」 さらに、レヴァンテインの輪を縮めて止めを刺すシグナムを見ながら、はやてはひとりごちた。 「うん………」 「シグナムもひでーなー。あそこまですることねえのに」 フェイトもヴィータもシグナムの所業に呆れているようだ。 「さて、私の出番かしらね………」 シャマルが仕方ないという風に首を振っていこうとするが、 「―――待て」 ザフィーラがそれを止めた。 「どうしたんだい?」 「まだ終わっていないようだ」 アルフが尋ねると、ザフィーラはそういった。 「なに言うてん。どう考えても―――」 はやてが言おうとしたセリフは、途中で途切れることとなった。 土煙の中から聞こえる、カートリッジの撃発音によって。 「―――!!」 「オオオオオォォォォォォォ!!」 雄たけびと共に、レヴァンテインをはじき返しながらハルスがはるか上空に跳躍した。 その手に握られているゲシュペンストは、彼の魔力で紅く染まっている。 「喰らえやぁぁぁぁぁ!!」 気合と共に、魔力をまとった槍斧が虚空から解き放たれる。 シグナムは即座にレヴァンテインを引き戻すが、少しだけ時間が足りない。 「――クッ!」 止む終えずそのまま飛び上がってゲシュペンストから退避する。 ゲシュペンストは着弾点で容赦なく魔力を開放し、あたりを飲み込む。 シグナムはそのまま跳躍を続け、下降し始めたハルスを飛び越え。 そして二人はそのまま背中合わせに着地した。 「―――カートリッジはいつから?」 「ほぼ最初からだな。一応隠し種なんで、伏せさせてもらってたけど」 「なるほど。この三日はカートリッジの使用訓練を?」 「それもあるな。まあ大半が部族への土産探しに費やされていたんだけどな」 「ほう。よい土産は見つかりましたかな?」 「ぼちぼちだ。クラナガンにはミッドチルダ饅頭なるものがあるって聞いてたんだけどな。結局見つかってねえのが残念っちゃ残念だ」 「珍妙な品があるのだな………」 「まあ、それでも結構量がかさんじまってな。また新しく人を呼ぶ羽目になっちまった」 「宅配便にしては?」 「残念ながら金もないし、便の届かないところにいるんだわ、今うちの連中は」 「ほう。ところで、どうやってあの刃の中を?」 「始めの一撃はかろうじてかわした。あとはカートリッジを使ってバリアジャケットとジャンプ力を強化して一気にな」 二人はなんでもないように会話を始めた。 まるでこの一瞬をもっと楽しむように。 「―――時に。かすかに聞こえた撃発音は四発でしたが」 「一発はバリアジャケット。一発は脚力強化。そんで一発はさっきの一撃―――」 ハルスは、右拳を握り締めた。 「そんで、残りの一発は今この右手にある」 「ほう………」 シグナムは、レヴァンテインをさらに変形させる。 己の、最強を誇る形態に。 「ではそれを破れば、私の勝ちですな」 「そう簡単にいくかね?」 二人は、微笑んだまま機をうかがい始めた。 「ぼ、ボーゲンフォルム………」 フェイトがシグナムの選択を見て、よろりとよろめいた。 「なんでや………。何でそこまでする必要が………」 さすがのはやても頭痛がするのか、頭を抱え始めた。 「………なあ、なんかあれどこかで見たことあるんだけど」 ヴィータがそういうと、アルフがすぐに答えた。 「西部劇でよくあるよね、あんな感じの」 シャマルはそれを聞いて、首を傾げ始めた。 「じゃあ、何か合図が必要かしら」 ザフィーラは身体を起こしながら、顔をシャマルに向けた。 「ではカートリッジを上に投げてみるか?」 「何でみんなそんなに落ちついてんねんなー!!」 図らずも、それが合図となった。 「「!」」 ハルスは即座に腰の回転も利用して、シグナムに全力を賭した正拳を叩き込む。 シグナムは己の魔力で生み出した矢を引き絞り、狙いをハルスに定める。 「駆けよ、隼!」 《Sturm falken》 「ドリッドォォォ、シュトォォォォォォス!!」 真っ向からぶつかり合う、二人の一撃。 そして肌を焼く爆炎が散り、音を裂く衝撃が辺りに木霊した。 「―――っちゅーことがあってん………」 「なるほど」 ぐったりした二人を休憩室で発見したクロノは、その勝負の経緯を最初から最後までみっちり聞かされた。 「そんな勝負があったのなら、僕も見てみたかったな」 「何であの人はC−なんて評価受けてるの………」 二人の勝負に相当ショックを受けたのか、テーブルに突っ伏したフェイトがぼそぼそとそんなことを言っているのが聞こえる。 「そのランクは、純粋に彼の魔法技術を数値化したものだろう。だが、魔法技術と戦闘技術は必ずしもイコールにはならない。ちょうど僕なんかがいい例だな」 クロノは、魔力量こそそこそこあるがそれ以外の才能はないと師匠に太鼓判を押された男だ。 それでも今は魔導師ランクAAA+の評価を受けている。 「ハルスさんが正確に戦闘魔導師として計測すれば、ひょっとしたらAAAに届くかもしれないな」 クロノはじつに興味深そうにうんうんうなずいている。 「………ところで、その彼は今どこに?」 「ハルスさんやったら、今頃医務室にいるんとちゃうか?」 はやては疲れた表情をしながら、そうつぶやいた。 「医務室?」 「何でも最後に使った魔法は、最低でも腕にヒビの入ること確実らしいから」 目覚めてまず目に入ったのは。 何故かこちらに向かって弓を引く幼馴染の姿だった。 「まず何か言うことは?」 「………えーっと、オハヨウ?」 返事は魔力で出来た矢が三本。 「待って! いくらなんでもそんなので撃たれたら痛いから!」 「うるさい黙れ」 しばらく怖い顔でにらまれる。 乾いた笑顔を浮かべながら、ふと横を見ると毛布を突き破って深々と突き刺さる魔力矢の姿が。 「………殺傷設定ってひどくない?」 「どうせかわすでしょ」 返ってくる声は非常に冷たい。 「………まあいいか。それよりなんでここにいるわけ? ルナ」 そう問うと、部族の幼馴染――ルナ・スクライアはため息をついた。 「お前が土産を買いすぎたから運ぶ人間をよこせといったから、ボクが来ることになったんだよ」 「あ、そうなの」 弓型のアームドデバイス、アルバレストをしまいながら、ルナは半目でこちらを睨んできた。 「それでこっちに来てみたらお前はユーノの部屋にはいない。居場所を聞いてみたら訓練室で模擬戦中。急いでいってみれば今度は医務室に搬送されました? 何でボクがたらい回しの目にあわなくちゃいけないんだ」 「アハハハ………」 空々しく笑いながらさりげなく視線をそらすと、ルナはすぐに追ってきた。 「まだあるぞ。お前、ユーノに付き合って何かの事件に首をつっこんだそうだね」 「無事解決したけどなー」 「怪我、したんだろ?」 笑顔のままのハルスの顔に、冷や汗が浮かび始める。 「………なんのことでせう?」 「それでなくともコレ! コレは一体なんだ!?」 言いながら叩くのは、ギブスに覆われたハルスの右手だ。 「………トンと記憶にございませんな」 「そうか………」 ルナの声のトーンが、一段階下がった。 (あ、やば) そう思った次の瞬間。 「この、バカァァァァァァァ!!」 耳元に、ルナが大声を叩き込んだ。 「いつもいつも言ってるだろ! お前は無茶ばかりするから、怪我をしやすいんだって! ただでさえ資質が低いのに魔導師とやりあうから、ボクはいつもハラハラさせられてるんだぞ! そこんとこわかってんのか!」 そのすさまじいまでの音量に、思わず耳をふさごうとするが、ルナは耳をつかんでそれを阻止。 「だいたい、いつまでもこっちにいて! 元々はユーノの様子見が目的なんだから日帰りでもいいだろう! なのにお土産を買うとか言って、いつまでもこっちでノラクラノラクラ………!」 「わ、わかった! ごめん! 謝るから、耳! 耳は引っ張らないでぇ!」 半分涙声になりながら慌てて抗議すると、存外あっさりと耳を離してもらえた。 「おー、イテェ………」 「………少しくらい」 耳をさすりながら痛がっていると、つぶやくようなルナの声が聞こえてきた。 「少しくらい待ってるボクの身にもなってみろ………」 少しうつむいてつぶやくルナの顔は、不安で押しつぶされそうなほどはかなげで。 少しでも叩くとガラスのように壊れてしまいそうだった。 「ルナ………」 ハルスはそんなルナを見て。 ムギュッ。 「!?」 遠慮なく抱きしめた。それはもう力一杯。 「そんなかわいい表情するなんて反則!」 力一杯抱きしめていると、彼女の眼鏡が胸に当たって痛いが、そんなことは気にしないことにする。 「ちょ、ハルス………」 「かわいすぎるから思わずこんなこともします!」 ハルスは言って、上半身をひねってそのままルナをベットに抱きこむ。 「! ちょちょちょちょ、ハルスぅ!?」 「あーもー、何でそんなかわいい顔するかな!? 会えなくて俺もさびしかった分、理性のメーターが一気に振り切れました!」 ぎゅーっと抱きしめながら、彼女の髪に顔をうずめる。 さらさらとした触感が、頬に気持ちいい。 「ちょ、ハルスぅ………! や、こんなとこ誰かに見られたら………!」 いやいやとルナは抵抗するが、力は入っていない。 意外とまんざらでもなさそうだ。 そのままゴロゴロとベッドの上で転がりあっていると。 カシャーン。 と何かが落ちる音が。 「「!?」」 慌てて起き上がってみると、出入り口にシャマルの姿が。 口を押さえて顔を真っ赤にしている。ということは。 「………あの。シャマルさん?」 「ご、ごめんなさい! 私、何も見てません! ウソじゃないですからぁ!」 慌てて頭を下げて、勢いよく医務室を飛び出していく。 ………ばっちり、見られたようだ。 「………まずったかな?」 「ああ、十分まずいだろう」 絶句しているルナを見ながらそうつぶやくと、今度は隣のほうからそんな声が聞こえてくる。 そろそろとそちらのほうを向くと、シグナムがカーテンを開けてこちらを見ていた。 「………シグナムさんも、いたんですか」 「ああ。………その、なんだ」 顔を真っ赤にしているルナを見ながら、咳払いをして一言。 「愛を語らうのもいいが、そういうのはきちんと周囲を確認したほうがいいぞ」 そう言って、カーテンを閉めなおすシグナム。 「あ、あ、あ、あ………」 「あー、いや、その」 涙さえ浮かべ始めるルナを見ながら、ハルスは必死でフォローの言葉を捜すが。 そんなものこの世界中探してもどこにもなさそうだったので、開き直ることにした。 「キスしてるとこ見られるよりよかったんじゃね?」 きっちり五秒後。 医務室の中から、すさまじい罵声と管理局を揺るがせるんじゃないかというほどの轟音が響き渡ったとか。 ―あとがき― 作者「フフフアハハハハハ。お気楽極楽! そんな言葉が最近気に入っている作者でーす」 ルナ「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」 作者「どぉぉぉぉぉっ!? アルバレスト乱れ撃ち!? 何、なんなの!? 今回の内容に何の不満が!?」 ルナ「何のっていうか最後の! あれは何だぁぁぁぁぁぁ!!」 作者「何が不満なのよ!? ハルスの恋人でしょ、アナタ! キッスシーンを見られなかっただけまだ感謝して欲しいわね!」 ルナ「ここぞとばかりに今まで伏字にしていた言葉を言うなぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 ハルス「…………えー。それでは今回出てきた創作魔法と俺たちのデバイスに関して簡単な説明を。 ツヴァイト・シュトース 圧縮型打撃魔法。二段階に分けて圧縮した魔力をコンマ秒差で開放、刹那の連打で相手の防御を粉砕する魔法。モトネタは例の剣客漫画の破壊の奥義。 ドリッド・シュトース 圧縮型打撃魔法。こちらは三段階に分けて魔力を圧縮するが、それ以外はツヴァイト・シュトースと変わらない。モトネタでは一度しか使用されない、喧嘩屋の最強攻撃。こちらでは一応連打も可能だが、使えば確実に腕の骨にひびが入る自爆魔法。 ゲシュペンスト 古代ベルカ式の歩兵用の量産型デバイス。カートリッジの搭載数は四発。一応フォームチェンジも出来る。魔法の使用よりも、武器としての性能のほうが比重として大きい典型的なアームドデバイス。 アルバレスト 古代ベルカ式の護身用デバイス。魔力矢を生成して撃ちだす機能しかなく、魔法媒体としては役立たず。だが、その簡便な機能ゆえ魔力のある人間になら使えるので、スクライア一族では女子どもの護身用道具として使われている。 ハルス「………以上かな。俺たちスクライア一族はこういったロストロギアに相当しない魔法技術やデバイスを、そのまま一族内で運用することが間々あるという設定です」 作者「フハハハハハハ! 当たらなければどうということはない!」 ルナ「堕ちろ、蚊ト○ボォォォォ!!」 ハルス「………さて、それではそろそろ俺もあちらのマンハントに参加しようと思います(ガチャ)」 作者「フハハハハハ! 何が違う! なぜ違う!? 君たちが愛し合っているのはすでに決まったことだろ!」 ハルス「そこじゃなくて、今回みたいな扱いに文句があるんじゃぁぁぁぁぁ!!」 作者「それでは今日はこの辺でお別れです。あ、希望があればこいつらの恋人になる経緯とか書こうかなぁ。じゃ!」 ハルス&ルナ「「こういうところでそんなことを聞くなぁぁぁぁぁぁ!!」」 |