待たれては書くしかないss・それ行け久遠ちゃん

 子狐が目覚めると、そこは縁側だった。

「くぅ?」

 不思議そうに子狐は鳴いて、くんくんと辺りの匂いを嗅いでみる。
 辺りに満ちているのは、ぽかぽかと暖かいお日様の匂い。
 そして。

「くぅ?」

 香ばしい油揚げの香り。

「くぅ♪」

 子狐は一目散に駆け出し、油揚げを食べ始める。
 と、半分くらい食べてから気がついた。
 これってひょっとして人様のものなんじゃないだろうか。

「―――ッ!?」

 だとしたらいけない。怒られてしまう。
 そんな風に思い、思わずその辺りをうろうろしていると。

「あ、目が覚めたんだ」

 今度は見知らぬ人間がこちらにやってきた。

「くぅーん!?」

 さらにびっくりした子狐は逆走。そのまま柱の陰に隠れて人間の様子を伺った。

「ああ、いっちゃったぁ………」

 悲しそうに人間――高町なのはががっくり肩を落とす。

《野生動物であれば、警戒心が強いのは当たり前です》

 レイジングハートの忠告も、今は右から左へと抜けていく。

「うう………」

 なのはは柱の蔭から半分だけ顔を出してこちらを伺う子狐に触りたかったが、一方で冷静な部分が無理に近づくと絶対に逃げると告げていた。
 理性と欲望の間で板ばさみになっている(やや大げさ)なのはに、救いの神がやってきた。

「おー、目が覚めたんだー」

 高町美由紀である。

「おね〜ちゃ〜ん〜」
「おぉ、よしよし。そんなかわいそうななのはに、お姉ちゃんからプレゼント」

 はい、と手渡されたのは油揚げ。

「くぅ?」

 ピクンと子狐の耳が動く。どうやら匂いが届いたようだ。

「まずは自分が敵じゃないって、安心させてあげるんだよ!」
「う、うん!」

 姉の教えを受け、早速それを実行するなのは。

「おいでー。こっちにおいでー」

 具体的には餌付けだが。

「く、くぅん……」

 子狐は少しだけ迷う。
 それも日頃から一緒にいる凶介に「他人からいきなり物をもらっちゃダメだぞー。後でしっぺ返しが来るからな。主に俺に」といわれているからである。

 だが。

 きゅるるー。

「くぅ……」

 さすがに油揚げ半分ではおなかいっぱいにならない。
 結局食欲に負け、一歩一歩油揚げに近づく子狐。

「………(ドキドキ)」

 そんな子狐を刺激しないように、微動だにしないなのは。
 なんだか逆に怖い。

「…………」

 やがてしゃがみこんだなのはの足元まで来ると、子狐はゆっくりと油揚げを食べ始める。

「いっぱい食べてねー……」

 触りたいが、怖がらせるといけないから触らない。
 我慢の証拠に、振り上げた右手を左手で押さえ込んでいる。

「くぅ」

 子狐は油揚げを食べ終わると、ちょこんと座ってなのはを見上げ。

「わっ」
「おお」

 その足に体をこすりつけ始めた。

「さ、触っていいのかな?」
「いいんじゃない? これだけ近くにいるってことは警戒していないってことでしょ」

 美由紀の言葉を受け、なのははゆっくりと子狐の毛皮を撫で始めた。

「うわぁ………。ふわふわだよぉ〜………」

 感動のあまりほにゃぁ、と顔がだらしなく笑み崩れるなのは。

「フフフ。よかったね、なのは」
「うん!」

 美由紀も、もう大丈夫だろうと判断して一緒に子狐を撫で始める。
 と。

「おーい。二人とも、そろそろご飯だぞー」

 縁側にいる二人を呼びに来た恭也。
 その出現に驚いて、

「くぅーん!」
「わっ!?」
「ああ!?」

 また柱と一体化する子狐。

「………恭ちゃん」
「………お兄ちゃん〜!」
「な、なんだっ!? 俺が悪いのか!?」

 妹たちのいきなりの糾弾にたじろぐ長男。
 子狐はそんな三人をじっと見つめていた。



 ちなみに。
 子狐が高町家の皆さんに気を許したのはその三時間後。
 計三枚の油揚げを消耗しましたとさ。





 その頃の飼い主。

「久遠ー! 久遠ー!!」

 商店街に到着し、ゴミ箱の中やら路地裏やらを駆け回る。
 ぱっと見プチホームレスである。
 と、その目にとある後ろ姿が写る。

「ハッ!? あれは!!」

 あの長い金髪の後ろ姿は………!

「久遠ー!」

 大急ぎで追いついて肩をつかんでこちらを向かせる。

「キャッ!」

 だが。
 願いに反し、その少女は紅い瞳を潤ませ縮こまる、見知らぬ女の子だった。

「……………」

 しばしの沈黙の後、彼はこういった。

「すいません。間違えました」

 バキィッ!!

 セリフと同時に少女の後ろから放たれた二つの拳が顔面にクリーンヒット。
 薄れ逝く意識の中、彼が最後に目にしたのは。

「大丈夫、フェイト!? なんかへんなことされてない!?」

 泣きそうな少女に詰め寄る、やたら胸のでかい女と。

「うちの妹に何か?」

 薄ら寒い笑みと共に杖のようなものをこちらに向ける少年の姿だった。





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