忘れた頃にやってくるss・それ行け久遠ちゃん

 だいぶ子狐に慣れてもらえ、今はひざに乗せても大丈夫なくらいになった。

「えっへへ〜」
「くぅ〜ん」

 なのはの頬は緩みっぱなしである。

「こんにちは〜」

 そんなことをやっていると、玄関から聞きなれた男の子の声が聞こえてきた、

「あ、ユーノくんだ」
「くぅ?」

 子狐が見上げてくるので、ゆっくりと撫でてやる。

「大丈夫だよ〜。優しい人だからね〜」
「なのは〜」

 なんだか別な風に緩み始めたなのはに、声がかけられる。

「ユーノくん!」

 さっと表情が変わり、緩みっぱなしだった頬がしゃきっとして満面の笑みに変わる。
 どう違うんだといわれそうだが、はっきりいって違う。具体的には頬の緩み具合。

「いらっしゃいユーノくん」
「お邪魔します。あれ? その子、どうしたの?」

 ユーノはなのはの隣に座ると、覗き込むようにそのひざの上の子狐を見つめた。

「くぅん………」

 子狐は怯えたように縮こまる。

「あ〜。ユーノくん怖がらせちゃダメだよ〜」
「え、あ。ごめんね」

 なのはが注意すると、すぐに謝って離れるユーノ。

「ふふふ。冗談だよ。ほら、撫でてあげて」

 なのはは軽く笑うと、子狐の体をユーノに渡す。
 がちがちに固まる子狐だが、ユーノはその体をまず優しく受け取り、

「………」

 ひざの上に乗せると、何も言わずにゆっくり撫でた。
 子狐はこの撫で方を知っていた。

「くぅ……」

 この撫で方は、もう今はいない彼女の母親の撫で方によく似ていた。
 優しさと暖かさ。そして安心感たっぷりの撫で方だ。
 知らぬうちに、子狐の全身から力が抜け、その身を完全にユーノに預けていた。

「アハ。本当にかわいいね」

 ユーノはユーノで子狐のやわらかさや暖かさに顔を緩め始める。

「なのは、この子の名前はなんていうの?」

 ユーノはなのはのほうに顔を向けるが、なのははつまらさそうな顔をしているばかりだった。

「な、なのは? どうしたの?」
「ユーノくん、キツネちゃんばっかりかまってる〜」

 無論これはなのはの主観であり、実際には一分も時間はたっていない。

「私もかまって〜!」
「うわっ、なのは!?」
「くぅっ!?」

 いきなりのしかかられ、苦しそうな声を上げる子狐。
 慌ててユーノが床に下ろす。

「む〜」
「も、もう。なのはったら〜」

 なんのかんの言いながら頬を緩ませつつ、なのはの頭を撫で始めるユーノ。

「にゃはは〜」

 幸せそうに頬を緩ませるなのは。

「くぅ〜ん」

 ちょっとうらやましそうな子狐。
 高町家の縁側はずいぶんとゆったりな空気が流れ始めていた。





 その頃の飼い主。

「どうもごめんなさいね。うちの子たちが乱暴しちゃって」
「いえいえ。間違えちゃった俺が悪いんですから」

 頭をコンクリートの角にぶつけて一時危篤状態に陥ったが、何とか三途の川から帰還し、現在はハラオウン家リビングにてリンディより謝罪を受けているところだった。

「何もないところだけど、お茶をどうぞ」
「これはご丁寧に」

 しきりに頭を下げながら、リンディの差し出した茶碗を受け取り、そのまま一気にあおる。

「お茶が入りましたよー」

 そこへ、コーヒーの入ったかコップを持ったフェイトがやってきた。
 が、青年は茶碗をあおったまま動かない。

「あの………?」

 不審に思ったフェイトが、肩を触ってみる。
 青年はそのまま後方に倒れてしまった。

「キャー!? ちょ、どうしたんですか!?」

 慌てて介抱するフェイト。

「か、母さん! どうしたんですか、この人!?」
「持病持ちだったのかしら? とにかく客間に布団を敷いて!」
「は、はい!」

 慌てて客間に行くフェイト。
 その様子を、廊下の端のほうでこっそり観察していたアルフが一人ごちる。

「リンディ茶………。まさかこんなに威力があるとは………!」

 実はさっき。

「どうせもてなすんだったらさ、リンディの特製のお茶飲ませたら?」

 と吹き込んでいたりする。

 合掌。





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