普段より大増しの戦闘スペシャルなss・それ行け久遠ちゃん

 その後、夕飯をご相伴になったユーノは、再びなのはと一緒に縁側に座っていた。
 そのひざの上にはおなかいっぱいになった子狐も一緒だ。
 ちなみに子狐の夕飯は稲荷寿司。

「それにしても、この子誰の飼い狐なのかな?」

 ユーノは狐の頭を撫でてやりながらポツリとつぶやいた。
 夕飯時に、狐の名前を聞いてみるとわからないと答えられたのだ。
 何で決めてない、じゃなくてわからないなのか聞いてみると。

「うん。首輪には何も書いてないしね」

 なのはが子狐にわずかな嫉妬を混ぜながら、首に視線を向ける。
 そこには鈴のついた赤い首輪が巻かれていた。

「丘の上で倒れてたから、あの辺りまできたことのある人だと思うんだけど………」
「誰かに捨てられたって事はないのかな?」

 うとうとしかけている子狐の顔を見下ろしながら、なのはのほうを向くユーノ。

「それはないんじゃないかな。だってこの子本当に倒れてただけだもん」

 なのはが首を振ってユーノの考えを否定する。

《ですが、体力低下を起こしていたのは事実です》

 レイジングハートが今朝の状態を踏まえて意見する。

《えさを与えずに放置しており、その上で野ざらしにしていたのではないでしょうか》
「なるほど………」
「確かに言われてみれば、汚れたままだったもんね………」

 わずかな時間で品位を落とされる飼い主。
 きっと草葉の陰でないてることだろう。
 と。

「くぅ?」

 眠りに落ちかけていた子狐が、何かを見つけたように顔を上げた。
 耳がぴくぴくと小刻みに動く。

「っと?」
「どうしたの?」

 なのはとユーノがいぶかしげに子狐を見る。
 だが子狐は答えない。
 声をかければすぐに鳴いてくれるこの子が。

「くぅ!」
「あっ!?」

 それどころか、自ら定位置と決めていたユーノのひざから脱し、そのままどこかへ駆け出していってしまった。

「どうしたんだろ?」
「すぐに追いかけなくちゃ!」

 首を傾げるユーノの腕を引っ張るようになのはが立ち上がった。

「え、ちょ、なのは!?」
「む、二人ともこんな時間にどこへ行くんだ?」
「もう、恭ちゃんたら、野暮なことはいいっこなしだよ〜♪」
「なのは〜! お父さんは許しませ(ガゴッ!)」
「気をつけてね〜♪」

 にこやかに末娘を見送る高町家一同(約一名は気絶中だが)。

「………いいのか、それで」

 思わずユーノはつぶやいてしまった。





 凶介はいない。
 でも、あいつは出てきた。
 だったら自分が何とかしないといけない。
 あいつらは、見境鳴く人を襲うから。
 せめて凶介があいつに気づくまで!



 子狐は決意も新たにそいつに相対した。
 場所は公園。時間はすでに夜の帳の下りる頃。
 圧倒的に不利な状況で、子狐はそいつに立ち向かっていった。





「どこにいっちゃったんだろう………」

 なのはが心配そうに辺りを見回す。
 急いで後を追ったものの、さすがに動物の足にはかなうべくもなかった。

「あれだけ小さいと、探査魔法も一苦労だね………」

 子狐を探すために、探査魔法を行使していたユーノは、術式を消してつぶやいた。

「飼い主さんの所に帰ったのかな………」

 なのはが悲しそうにつぶやくが、ユーノはそれを否定する。

「違うと思うよ。飼い主を発見したんなら、もう少し嬉しそうに走ると思う。でもあのときのあの子はどこか真剣な感じがした」
「うん………。そうだね」

 なのはは思い直したように、うなずいた。

《………マスター》

 主とその友人のどこか理論を超越した会話に閉口していたレイジングハートが、異常を感知した。

《付近の公園で、何らかの戦闘反応があります》
「戦闘反応!? あれ? でもなんらかのって………」
《はい》

 レイジングハートはしばし迷った後、結局こう答えた。

《魔力反応ではなく、何かが衝突する衝撃反応があったんです》
「でも音もしてないけど………」
「とにかくいってみよう!」

 不可解そうな表情のユーノを引っ張って、なのははレイジングハートの先導の元公園へとひた走る。
 そこには。

「キツネちゃん!?」

 探していた子狐の姿と、

「なんなんだあれは………?」

 ゲル状の不定形生物の姿があった。
 見た目は、生物を取り込んでいないジュエルシードの暴走体に近いものがあったが、あちらが生物を模倣したものであるのに対し、こちらは完全に泥といった様相だ。
 瞳も何もなく、ただそこにあるだけの存在。
 子狐はそんな存在に一匹で立ち向かっていたのだろうか?
 ゲル状生物が動く。

「くぅ!」

 子狐がよけると同時に、そこに激突する。
 しかし音はしない。

「な、何で音がしないんだ!?」

 しかも音がしないくせに、ぶつかった部分が破壊されている。
 ………いや。

「まさか取り込んでるのか………?」

 ゲル状生物のぶつかったあとは、まるで抉り取られたようになっていた。
 しばしゲル状生物が身を震わせたあと、ユーノの推測を裏付けるようにコンクリート片を体から吐き出した。

「一体なんなんだあの生き物は………」
「そんなことより助けなきゃ! レイジングハート!」
《Yes》

 呼び声に答え、杖の姿に変わるレイジングハート。
 バリアジャケットに身を包んだなのはは、一撃であの生物を倒さんと、頼れる己の相棒に魔力を注ぎ込む。

「行くよ!」
《Divine Buster》

 バスターモードから放たれる桜色の砲撃が、ゲル状生物に命中する。

「やった!」
「待って! 様子がおかしい………」

 なのはは喜ぶが、ゲル状生物はそんな彼女を裏切った。
 なんとその体積が二倍近くに膨れ上がったのだ。

「ええぇぇぇ!? なにそれ!!」
「まさかなのはの魔力を吸収した!?」

 今まではせいぜい人間一人分だったゲル状生物は、いまや大人なら軽く飲み込める大きさに成長していた。
 そして、ゲル状生物はその体をなのはたちのほうにすさまじい速度で伸ばした。

「ラウンドシールド!」

 ユーノが障壁を張って防ぐが、それすらも飲み込む。

「そ、そんな!」
「ユーノくん逃げてぇ!」

 なのはが涙声で叫ぶが、ゲル状生物は彼女をあざ笑うように触手を伸ばし、

「雷っ!」

 不意に横手から放たれた稲妻に撃たれて、その触手を引っ込めた。

「い、今のは………?」

 なのはがそちらに顔を向けると、見知らぬ少女がそこ立っていた。
 白い上着に赤いスカートのような様相、いわゆる巫女装束だろう。そして頭部には髪の毛と同色の金色のふさふさした獣耳を生やし、尻尾は今まで見たことがないくらい太い。
 少女は青い瞳をゲル状生物に向けた。

「お前の相手は、私。なのはにも、ユーノにも、手出しはさせない………」
「え?」
「どうして僕たちの名前を………」

 なのはたちの質問が届くより早く、ゲル状生物の触手が少女に向けられる。

「雷っ!」

 少女は手のひらから放たれる稲妻で、それを迎撃するがいかんせん数が多すぎる。

「も、もう一度バスターで………」
「ダメだよ! また吸収されちゃったらどうするの!?」

 ユーノがレイジングハートを下げさせるが、なのはが涙目で彼をにらむ。

「じゃあどうすればいいの!? このままじゃあの子が………!」
「それは………」

 なのはの不安は現実になった。

「くぅ!?」

 触手の動きを読みきれず、少女の体が触手に絡めとられたのだ。

「ああっ!?」

 なのはが悲鳴を上げる。
 ゲル状生物は、何を思ったのか少女を取り込むのではなく、何度か地面に叩きつけた後少女の体を持ち上げ触手を締め付け始める。

「く、くうぅぅぅ………!」

 少女の顔が苦痛にゆがむ。

「だめ、だめえぇぇぇ!」

 なのはが泣き叫んで、レイジングハートをゲル状生物に向けるがそれより早く少女が声を上げる。

「ダメ………! 撃ったら、また強くなっちゃう………」
「そんな………!」

 なのはの顔が絶望に染まる。
 さらに強くなる締め付けが、少女の体に襲い掛かる。

「くぅ……ああぁぁぁ!!」
「いや――――っ!」

 なのはが顔を覆って泣き崩れる。
 ユーノが自身のふがいなさに唇を噛む。
 ゲル状生物はそんな二人に見向きもせず、淡々と少女を締め上げる。
 そして少女は。





(凶介………)

 痛みで涙が出そうになるのをこらえながら、たった一人の姿を思い浮かべていた。

(凶介………)

 普段からひどい目にあい、それでもなお笑顔でいる、少し不思議な青年の姿。

(凶介………)

 今どこにいるかわからない、自身の飼い主。

「きょうすけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 最後になるかもしれない。そう思って渾身の力でその名を叫ぶ。

「呼んだかくおんんんんんんんんんっ!!!」

 それに、答えがあった。

「えっ!?」

 ただし、空中からの神風特攻という形だが。

「はあっ!」

 金色の刃を構えた少女が、ゲル状生物の触手を断ち切る。

「おおっと!」

 そして落下していた自分の体を、自分にそっくりな匂いのする女がキャッチした。

「大丈夫、アルフ?」
「ああ。しっかし………」

 アルフは自分の体を下ろしながら、呆れたように青年――凶介の姿を見た。

「あたしがやったとはいえ、正気の沙汰じゃないね、こりゃ」





 その頃の飼い主。
 自らの身を省みず、抱えてもらっていたアルフに頼んでゲル状生物に特攻。そのまま突き刺さっている。





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