そろそろ戦闘に決着をつけんといかんと思ったss・それ行け久遠ちゃん

「さて、問題はあいつをどう倒すか………」
「だいじょうぶだよ」

 アルフがつぶやくと、その腕に抱えられている少女が嬉しそうに尻尾を振りながらそれに答えた。

「凶介がやっつけてくれるから」
「凶介?」
「それって………」

 フェイトが不安そうに目を向けると、ゲル物質に突き刺さっていた青年がペッとこちらに向かって吐き出された所だった。

 ズサー。

「………この人のこと?」
「うん」

 土煙を上げながらこちらに転がってきた青年――凶介は、身体の土を払いながら立ち上がった。

「うう。自業自得とは言え、苦しかった………」
「というか大丈夫なんですか?」

 いぶかしげなユーノに対し、凶介はなんでもないように答えた。

「ああ、大丈夫。あいつらにとって俺は天敵だから」
「それってどういう………」

 意味ですかとなのはが問うより早く、凶介の左手がなのはに向かっていたゲル物質の触手をつかんだ。

「ッ!?」
「お手々が早い奴はこうだ!」

 叫んで凶介は触手をつかんで一本背負いの要領で投げつける。

「おりゃぁぁぁぁぁ!!」

 ゲル物質はなすすべもなく投げられる、かと思いきやブチッと触手を切って脱出した。

 ゴスッ。

「〜〜〜〜〜!」
「あの。大丈夫ですか?」

 逆に勢いあまって地面に顔をぶつけた凶介に、なんだか哀れなものを見る目でフェイトが声をかけた。

「チクショー。なんかいつもより重いんですけど………」
「なのはがおっきくしちゃった」
「え、私のせい!?」

 少女の一言にまともに動揺するなのは。

「なにやったのかは後で聞くとして、やたらでかいのはそのせいか」
「うう………」

 落ち込むなのはを無視したまま、凶介は背中に背負っていた細長い包みを持ち直した。

「なら、こいつで………」

 そして凶介が取り出したのは、一本の刀。
 蒼い刃を持つ、つばのない無骨な刀身。
 想像しづらい人は、黒い鬼の持つ母親の形見を想像してもらえばオッケーだ。(あのゲームやったことない人、ごめんなさい)

「真っ二つにしてやる!」
「ゲル状だから意味ないんじゃないですか?」
「それ以前にアンタにまかせっきりにするのすごく不安なんだけど」

 気合を入れる凶介に反して、外野側の不安は高くなっていく一方だ。

「だいじょうぶだよ。だって凶介だから」

 ただ一人、獣耳を持つ少女だけが凶介のことを信じて疑っていなかった。

「そうはいうけど………」

 ユーノは不安そうにいって、再び凶介に視線を向ける。

「………」

 凶介は無言のまま、手に持った刀を掲げるように頭の高さまで持ち上げていた。

「あれは………?」
「示現流の構え………」

 凶介の構えを、フェイトがそう断じた。

「示現流?」
「日本の九州地方にある流派のひとつで、二の太刀いらず、つまり二撃目が必要ないくらいの剛剣で有名なんだ。シグナムがその構えを一度だけ取ったことがあるんだけど………」

 その時の様子を思い出したのか、フェイトが冷や汗を流した。

「本当に二の太刀いらずだった」
「………」
「でも、アイツにそこまでの技量があるのかねぇ?」

 それでもアルフは懐疑的だった。
 そもそも示現流は剛剣の性質でわかるように、恵まれた体躯を持っていて初めて威力を発揮する剣術。凶介は平均的な体格こそ持っているものの、鍛えられた剣客のそれには程遠いように見えるのだが………。

「チェストォォォォォォ!!」

 そんな周囲の不安をよそに、凶介は一気にゲル物質に駆け出していった。
 当然ゲル物質も触手で応戦するが。

「うえぇっ!?」
「速い!」

 凶介は突撃の勢いを殺しことなく左右に蛇行しながらそれを回避。
 そしてゲル物質に渾身の一太刀を浴びせかけた。

 ズシャァァァッ!!

 驚くべきことに、凶介の刀は二回りも大きいゲル物質を真っ二つにしていた。

「うそっ!?」
「まだだ!!」

 驚愕はまだ続く。
 なんと凶介は、ゲル物質の向こうまで駆け抜けた勢いを利用して身体を反転させ、ゲル物質を四つに分断したのだ。

「うわぁ………」

 あまりのことに、開いた口がふさがらない四人。
 凶介は斬り裂いたゲル物質が霧状になっていくのを確認して、右手をそれに向かって突き出した。
 すると、凶介の右手に向かって霧が集まっていくのが見えた。

「? 何してるんだろ?」
「あ、凶介ー。久遠もー」

 そう言って少女――久遠がアルフの腕の中から抜け出すと、自分の尻尾を両手で持って霧のほうに向けた。
 すると久遠の尻尾にも霧が集まっていく。

「………本当になにやってるんだろ」

 やがて、公園を満たしそうだった霧は二人の腕と尻尾に完全に消えてなくなった。

「さて………」

 凶介はいそいそと刀を袋の中にしまい、背中に背負いなおすと。

「久遠ー!」
「凶介ー!」

 勢いよく駆け出して、久遠と思いっきり抱きしめ合った。

「どこいってたんだよ、こいつめー!」
「えへへ。ごめんなさーい」

 嬉しそうに互いの顔に頬ずりし合うその光景は、図らずもその場にいた四人にまったく同じ言葉を連想させた。

「………ロリコン?」

 ぼそっとつぶやいたはずのアルフの一言は、いろいろあってボロボロな凶介のガラスのハートにクリーンヒットした。

「ぐっは」
「きょうすけー!?」

 ばったりと倒れふす凶介を、慌てて揺さぶる久遠。

「………」
「………」
「………」
「な、なんだよ! あたし何も間違ったこと言ってないだろ!?」

 他の三人から非難の視線を向けられて、慌てて弁解に走るアルフ。

「きょうすけ、きょうすけー!!」

 がくがくと凶介の身体を揺さぶる久遠。
 そして涙を流す凶介。



 そんな一行の様子を、明るい満月が見下ろしていた。





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