今回は解説編ss・それ行け久遠ちゃん あのあと、凶介はハラオウン家で、久遠は高町家でそれぞれお世話になり、翌日改めて高町家で事情説明を行うことになった。 「昨日はうちの久遠を保護してくださってありがとうございます」 正座し、深々と頭を下げる凶介。 久遠は狐の状態で凶介の隣にお座りしている。 「いえいえ、そんなご丁寧に」 「なにぶんこの子はこういった身の上ですので、いろいろと誤解やら厄介ごとやら引き起こしやすいんです」 凶介は頭を上げ、少しだけ泣きそうな表情を作る。 「それで大体俺が後処理させられるんです」 「はあ………」 「それはともかく、昨日のあれはなんだったんですか?」 ユーノが質問すると、凶介はなんでもないように答えた。 「妖怪です」 「………は?」 「英語で言えばモンスター」 「いやそういうことじゃなくて」 何故かまじめな顔で言い直す凶介を見つめつつ、ユーノは半信半疑に聞きなおした。 「ええっと。妖怪、ですか………」 「正確には幻妖って言うんですけどね」 「幻妖?」 なのはが首を傾げると、凶介はしたり顔で説明を始めた。 「まず妖怪の定義ですが、これは世界に散らばる力を吸収して我が物に出来る生き物を差してそう呼びます」 「魔導師みたいに魔力を生めるということですか?」 「まあ、そんな感じですか。違いをあげるのなら、妖怪は力……我々はこれを源素と呼びますが、源素がなければ生きていけないという点ですね」 凶介は久遠を抱きかかえながら、説明を続ける。 「源素を取り込むことが出来るようになると、その生き物の体構造に大なり小なり変化が生じ、場合によっては高度な知識を得ることが出来ます。もっともそこに至るまでが偉く長かったりしますが」 「へ〜」 アルフは興味半分、といった調子で耳をほじる。 「久遠、そして俺もそんな妖怪の一種です」 「ほうほう………へ?」 一緒についてきたクロノがうなずきかけ、間抜けな顔をした。 「きょ、凶介さんも妖怪なんですか?」 「ええ。まあ詳しい説明は後にしましょう。ともかく我々のように物理的な身体を持ち、源素を積極的に取り込むことで力を得る妖怪を真妖と呼びます」 凶介が久遠の頭を軽く叩くと、ポンと軽い音がして久遠が昨日見せた少女の姿をとった。 「あ」 「久遠、狐の妖怪。だから、こっちの姿は本当じゃない」 「このように身体を変化させたり、強力な身体能力を誇るのが真妖の特徴です」 もう一度頭を叩くと、久遠は元の狐に戻った。 「さて、それでは幻妖についてですが、こいつらはいわゆる怨念の塊です」 「お、怨念ですか」 フェイトがややおびえたように言う。 「こいつらは源素に人の意思が入り混じった存在で、源素の塊のようなものです。故に、源素をたたきつけるだけでは倒すことは出来ません」 「あ、だから私のバスターが通用しなかったんだ」 なのはがようやく納得がいったという風に手を叩いた。 「魔法については昨日フェイトさんに聞きましたが、原因はそれだけではありません。幻妖はいわば指向性をもった力の塊で、ある程度の意思も存在します。貴方がたが利用する魔力素がちょうど我々の言う源素らしいのですが、昨日の使い方を見る限りなんら方向性のない力の塊でしかありません」 「どういう意味ですか?」 「詳しい原理は省きますが、源素にある程度の意思、方向性が生まれると他の源素を取り込んで大きくなるという性質があります。例えるなら幻妖が摂氏−1000度の氷で、貴方がたの魔法が普通の水ですか」 −1000度の水に、いくら氷をかけたところでより大きな氷になるだけだ。 「故に幻妖を倒すには、その幻妖とは真逆の方向性を持つ源素をぶつけるか、あるいは同じ方向性の源素でもってその身体を破壊するかのどちらかしかありません」 真逆の方向性というのがいわゆる祝詞や退魔の術の類。そして同じ方向性というのが真妖による幻妖の捕食だそうだ。 「た、食べちゃうんですか………?」 「捕食といっても力の塊ですからねえ。味はしませんし、そもそも口から摂取するものでもないですよ」 そう言って凶介は自分の右腕を見せてみる。 「亀裂のようなものが見えますか?」 「はい。これは………?」 「昨日の幻妖はここから取り込んだんですよ」 手の平に入る一本の亀裂。よく見ると闇色に染まったそこはかすかに息づいているような気がした。 「ちなみに久遠は尻尾から取り込みます」 そう言って久遠の尻尾をつまんでみせる凶介。 久遠はちょっと嫌がってするりと尻尾を凶介から取り戻す。 「なんていうか、幻妖がかわいそうな気が………」 「とんでもない。あの連中、隙あらば我々の体をのっとろうとするんですよ?」 フェイトがつぶやくと、凶介は即座に反論した。 「どういう意味ですか?」 「幻妖の持つある種の方向性。それは生き返ることです」 幻妖の持つ意思とは、死して尚生き延びようとする人間の意志。 そういったものが形を成したのが幻妖で、彼らは常に自分を入れられる器、人間であったり真妖であったりの身体を狙っているのだという。 「うかつに取り込まれると、そのまま身体をのっとられます」 「じゃ、昨日の凶介さんかなり危なかったんじゃないですか!?」 「真妖の場合は源素を取り込む生き物ですからね。下手にのっとろうとすると逆に食われるんで、まず相手を殺してから改めてのっとるんですよ」 昨日の俺は天敵、というのはそういうことだったのだ。 「俺たちにとって幻妖は格好のえさですからね。ま、こんな所ですか」 「いやまだだ」 説明を終えようとする凶介を、クロノが押しとどめた。 「ん? まだなにか?」 「そもそも君たちがここに来た訳を聞いていない」 クロノがそういうと、凶介は少しだけ黙ったあとすぐに口を開いた。 「………幻妖にしろ、真妖にしろ生まれるのはごくわずか。世界中をひっくるめても百人いるかいないかです」 が、何事にも例外はある。 幻妖を生み、そして人を襲わせる真妖。 「そいつに名前はなく、俺たちは“名の亡き混沌”と読んでいるそいつ。俺はそいつを追ってこの町に来たんです」 凶介は真剣な表情で、そういった。 |