そろそろ表題の危機なんじゃないかと思うss・それ行け久遠ちゃん

 高町家の縁側で、久遠が子狐モードで丸くなっている。
 が、眠っているわけではない。
 なんとなく不機嫌オーラが出ているのがわかる。
 なのはたちはそんな久遠の様子を眺めながら苦笑していた。

「凶介さんの気持ちもわかるけど………」
「あの言い方はちょっとひどかったよね」

 つい一時間ほど前。

「それじゃあ、俺はこの辺で」
「もう行くんですか?」
「ええ。幻妖があそこに出たって事は、あの近くに奴もいるってことですからね」

 凶介がゆっくり立ち上がると、久遠もチョコチョコ付いていこうとする。

「あ、久遠はお留守番ね」
「くぅ!?」

 突然の凶介の宣言に、ガーンと効果音を背負いながらショックを受ける久遠。

「え、どうしてですか?」
「んー、久遠はまだ子どもだから、はっきり言っちゃうとあんまり強くないですからねー」

 久遠を抱き上げ、なのはに手渡す。

「というわけで、しばらく預かっておいてください」
「はあ………」

 なのははあいまいにうなずくが、久遠はその腕の中で暴れる。

「くうっ! くー!!」
「じゃあ、久遠。いい子にしてるんだぞー」

 それだけ言うと、そのまま高町家を後にする凶介。
 こうして機嫌の悪い久遠と、凶介から説明を受けた面々が残されたということだ。

「そういえば、クロノくんにユーノくんお仕事は?」
「僕は今日は非番だ」
「えー、後ちょっとで出勤です………」

 クロノはのんびりとつぶやき、ユーノは逆にテンション低く沈んだ。

「よしよし♪」

 なのはが実に嬉しそうにユーノの頭を撫でて慰める。

「うう。なのは~」
「………なんだかなのはに何かが乗り移ってるように見える」

 フェイトはその様子を見て一言つぶやいた後、改めて縁側で丸くなる久遠に目をやった。

「それにしてもかわいいね」
「そうだね~。ああいう子狐ってなんか食べちゃいたくなるよね~」

 アルフが冗談とも本気とも取れないセリフを吐く。

「………ダメだからね?」
「じょ、冗談だって………」
「その割には目が本気だったが」

 ボソッと余計なことを言うクロノにコブラツイストを決めだすアルフを放っておいて、フェイトは久遠に近づいていった。
 なのはたちから、久遠は非常に撫で心地がいいと聞いているからである。
 が。

「くぅ!?」

 久遠はフェイトが近づくと、いきなり立ち上がって柱の影に隠れてしまった。

「あ………」

 フェイトが悲しそうにつぶやくのを、柱の影から見つめる久遠。

「ちょっと! どういうつもりだい、この狐っ子!」
「ちょ、落ち着いてアルフ!」
「久遠ちゃんはちょっと人見知りが激しいんです! だからある意味しょうがないんです!」

 ドタバタと暴れるアルフをかろうじて押さえ込むなのはとユーノ。

「………えっと」

 いきなり人見知られてしまったが、何とか仲良くなりたい。

「は、始めまして、久遠」

 とりあえず会話を試みる。

「わ、私の名前はフェイトって言うんだ」
「………」
「仲良くしてくれると、その、嬉しいなぁ………」

 ぎこちなく微笑みながら、ゆっくりと久遠に手を伸ばすフェイト。
 久遠はしばらくそんなフェイトをじっと見つめていたが、やがてゆっくりとフェイトに向かって歩き出す。

「………」

 固唾を呑んで見守る一同。
 そしてフェイトの手の匂いを少し嗅いだ久遠は、ぺろりとフェイトの手を舐めた。

「ひゃっ!」

 その感触に一瞬びっくりするフェイト。
 だが、そのまま久遠がびっくりしないようにゆっくりと撫で始める。

「くぅ………」

 気持ちよさそうに久遠が鳴いた。

「うわぁ………。本当にふわふわだぁ………」

 感動したようにつぶやくフェイト。
 うっとりとした瞳は、久遠の毛皮の感触に完全に虜になっているようだ。

「うー………」

 それを面白くなさそうに見つめる使い魔が一匹。

「どうしたんですか、アルフさん」
「フェイトがあんなに嬉しそうに狐っ子を撫でてるー………」

 アルフはどこからか取り出したハンカチを噛み締める。
 そういえば、少し忘れがちになりそうだがアルフは実年齢が確か五歳くらいだったはず。

「うう~。フェイト~」
「あははは………」

 どうやら久遠に嫉妬しているようだ。
 そんなこんなでなにやらほんわかした空気が流れ始める高町家だった。





 その頃の凶介。

「さって、昨日の出現ポイントはこの辺か」

 昨日の公園までやってきた凶介は、そのままあたりを適当に散策してみることにした。
 実際手がかりがないのだ。どうしようもない。
 と。

「んー、いい天気や! こうしてお散歩してると気持ちええなー」
「ええ。たまにはこういう風に過ごすのも悪くありません」

 向こうのほうから車椅子の少女と、それを押すポニーテールの女性がやってきた。

「を? あなた………」
「へ?」

 すれ違う寸前、車椅子の少女が凶介の顔を見てなにやら唸り始めた。

「あの、なにか?」
「ん~」

 少女はしばらく唸った後、何か思い出したような顔になった。

「間違いない! 昨日フェイトちゃんに迫っとったおにーさんや!」
「なにぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?」

 何故か車椅子を押していたポニーテールの女性が大声を上げ、凶介の胸倉をつかんだ。

「貴様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 一体どういう目的でテスタロッサに近づいたぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「ええ!? 何この理不尽な状況!? 誰か助けてー!」

 あまりの状況に涙声になる凶介。
 車椅子の少女――はやてはそんなプチ修羅場をどこからか取り出したビデオカメラで撮影していた。

「んー。やっぱりシグナムは百合属性持ちなんかなー?」

 見てないで助けろ。





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