なんと言うか無軌道なss・それ行け久遠ちゃん

 その後、その場にいる一同と滞りなく仲良くなった久遠は(約一名微妙に対抗意識を燃やしているようだったが)なのはとフェイトにかわるがわる撫でられていた。
 ちなみにユーノは泣く泣く職場へと出勤していった。

「久遠って本当にやわらかいよね〜」
「うんうん♪ すっごく気持ちいいよね〜」

 ほにゃほにゃと崩れた顔でそんなことを言い合うフェイトとなのは。
 と。

「フェイト!」

 隅っこのほうで何かをやっていたアルフが、声高にフェイトを呼んだ。

「なに、アル……フ……?」

 フェイトは相棒の姿を見て、目を丸くした。
 何しろ、アルフの姿が七歳前後に縮んでいたからである。

「新形態子どもフォ」
「………」

 フェイトは無言でアルフに抱きついた。
 どうもアルフの今の姿が心の琴線に触れたらしい。

「フェ、フェイト〜。苦しいよ〜」

 アルフが嬉しそうな悲鳴を上げるが、フェイトは何も言わずアルフを抱きしめる。
 だが、その顔を見ればすさまじく嬉しそうなのは一目瞭然だった。

「フェイトちゃんニヤニヤしてる………」

 久遠をひざの上に乗せながら、なのはは親友の新たな一面に呆然としていた。

「あ、そういえばクロノくん。使い魔さんって、あんな風に姿を変えられるものなの?」

 ぼりぼりとせんべいを租借しているクロノに、なのはは質問してみた。

「ん? ああ、可能だぞ。使い魔の成長は主か使い魔本人が望んだ時期で止まる。これは逆に言えば成長の度合いをコントロールできるということだ。前にも子犬フォームを完成させたアルフなら、小さくなるくらいお手の物だろう」
「ふーん」

 なのはは納得したようにうなずいて、久遠を目の高さまで持ち上げた。

「久遠ちゃんも、変身できるんだよね?」
「くぅ」

 久遠はうなずいて、少しだけ身じろいだ。
 どうやら下ろしてといっているようだ。
 なのはは畳の上にそっと久遠を下ろしてやると、久遠がぽんと軽い音を立てて昨日見た巫女服姿に変身した。

「久遠、狐の妖怪。一応何にでも変身できる」
「へ〜」

 なのはは感心したようにうなずくが、久遠は少しだけ恥ずかしそうに頭の耳を手の平で覆った。

「でも、久遠まだちっちゃいから、狐の特徴が出ちゃう」
「ふえ?」
「耳と尻尾のことじゃないか?」

 なのはが不思議そうな顔をすると、クロノが緑茶をすすりながらそう指摘した。
 確かに久遠のお尻の辺りから金色の太い尻尾が伸びているし、耳は言わずもがなだ。

「おかーさん、本物の人間になれたけど、久遠まだ無理」
「そうなんだ………」

 なのははうなずくと、少しだけうずうずし始めた。

「? なのは?」
「あ、あのね、久遠ちゃん。尻尾触ってみてもいいかな?」

 どうも左右に振られる久遠の尻尾に気をとられているらしい。

「ん〜」

 久遠は少しだけ難しそうな顔をした後、くるりと後ろを向いて尻尾をなのはに向けた。

「ちょっと、だけなら」
「ほ、本当!?」

 久遠はこくんとうなずく。

「そ、それでは………」

 なのははお言葉に甘えて、久遠の尻尾を触ってみる。

 モフモフ。

「うわ〜………。ふかふかだよ〜………」

 まるでお日様に干した布団のような感触に、なのははすさまじく感動した。

 モフモフ。モフモフモフモフ。

「くぅ」

 そのまま触り続けていると、久遠が一声鳴いて尻尾を取り戻した。

「久遠ちゃん?」
「くぅ。尻尾、すごくくすぐったい………」

 久遠は少しだけ顔を赤くして、恥ずかしそうにそう答えた。

「そうなんだ」
「まあ、体内に源素とやらを取り込む器官らしいらな。敏感になるのは当たり前だろう」

 今度はどこからか持ってきた大福を食べつつ、クロノが言った。

「時に久遠。君の能力は変身らしいが、源素が切れると基本的にどうなるんだ?」

 クロノが興味本位で質問すると、久遠は少しだけ難しそうな顔をした。

「くぅ。久遠、まだそうなったことないからわかんない。でも、凶介は息が出来ないみたいにすごく苦しいって言ってた」
「ほう。じゃあ、変身している今は常に源素を消費している状態だろう? そのうち苦しくなるんじゃないか?」

 さらに質問を重ねると、久遠はなんでもないように答えた。

「久遠のこの変身、そんなに力使わない。だから、力はなくならない」
「へ〜」

 今度はなのはが質問する。

「じゃあ、昨日の、えっと、幻妖にぶつけた雷はどうやって出したの?」

 久遠は尻尾をフリフリ答えた。

「久遠のおかーさん、雷操るのが得意だった。久遠、おかーさんに少しだけ習った」

 そういうと、手の平同士を合わせるように向け、放電現象のようなものを起こしてみせる。

「今の久遠、これが精一杯。でも、おかーさんもっとすごかった」
「魔導師で言う所の魔力変換機能か………?」

 クロノは難しそうな顔をして唸るが、なのはは久遠と会話を続ける。

「じゃあじゃあ、久遠ちゃんって食べ物は何が好きなの?」
「くぅ。前にいたところで食べた“だいふく”と“あまざけ”が好き」
「油揚げじゃないんだ?」
「くぅ。油揚げ、いつも食べてたから」

 飽きるだろう、それは。

「ふ〜ん。じゃあ、どんな遊びが好き?」
「久遠、遊んだことない」
「え、そうなの?」
「いつも凶介と一緒だったから」

 なんというか、凶介が例の言葉を言われてもしょうがなさそうだ。

「じゃあさ、ババ抜きしよっか」
「ばばぬき?」
「ルールはやりながら教えてあげる。フェイトちゃん、ババ抜きしよ〜」

 なのはは、いまだ陶酔状態に陥っている親友に声をかけながら、トランプの準備を始めた。





 その頃の凶介。

「では行くぞ!」
「何でこんなことに………」

 その後、シグナムに有無言わされずに近所の道場に叩き込まれた凶介は、なぜかシグナムと闘うことになった。
 獲物は木刀。

「はあっ!」

 魔力強化により、常人には視認すら不可能な速度で凶介に迫るシグナム。

「うぉっ!?」

 それを、源素による身体強化で避ける凶介。
 わずかに、凶介のほうが早いか。

「ちょこざいなっ!」

 更なる踏み込みでもって凶介を打倒せんとするシグナム。

「いや、ちょっ!?」

 討たれてはかなわんと、全身全霊で逃げる凶介。

「逃げるな!」
「いや、無理!」

 追うシグナム。追われる凶介。
 この、道場を使った二人の鬼ごっこを、一般人の視点から見ると。

「う〜ん。何にも見えへん」

 所々で床が爆ぜ、窓ガラスにヒビが入り、そして天井から木片が降り注ぐ。
 まさしく某格闘漫画の域の闘いだった。



 ちなみに。
 久遠の能力が変身であるように、凶介の能力は身体強化である。
 しかし久遠の変身に比べ、源素消費量が激しいのが難点。
 故に。

「立て! まだ終わってないぞ!」
「も………、無理………」

 三十分ほど後に、何もされてないのに半死半生の凶介が道場に横たわっていたという。





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