今日は番外編なss・それ行け久遠ちゃん 「いや〜、ほんますんませんでした〜。うちの子が迷惑掛けて〜」 「いやいやそんな………うちの子?」 シグナムとの私闘(死闘とも言う)が終わった後、凶介は八神家へとご招待を預かっていた。 何しろ闘っていたらいきなり糸が切れたようにぶっ倒れてしまったのだ。はやてでなくとも心配になろう。 まあ、強化さえしていなければ自然と回復するものなので、凶介はいきなり激しい運動をしたせいでめまい息切れ動悸が起きたと説明した。 いくらなんでも苦しいだろと思わないでもなかったが、割合すんなりと受け入れてもらえた。 ちなみにシグナムはおでこに「反省中」と書かれた紙を張って窓辺に正座している。 「ええ。ちょう、詳しいことは説明できへんのですけど、とりあえずうちの子ということで」 「………お姉さんかなにかじゃ?」 ややこしい言い方に凶介がツッコミを入れると、はやてはにっこり笑った。 「うちの子です♪」 「………」 これ以上、深くつっこまないことに決めた。 「ただいまー」 と、中々元気のいい少女の声が玄関先から聞こえてきた。 「あ、ヴィータお帰りー」 「うん、はやてただい………ヴァッハッハッハッハッハッハッハ!!」 赤毛の少女――ヴィータは部屋に入ってくるなり、大口を開けて爆笑し始めた。 シグナムの姿がピンポイントでつぼに入ったらしい。 「は、はやてっ! 何だよシグナムのその格好はぁ!」 「んー、シグナムは悪いことしたから反省中やねん」 「………」 微動だにせず、沈黙を返すシグナム。 「反省中」はしゃべってはいけないルールらしい。 「悪いこと?」 「うん。このおにーさんにいきなり喧嘩売ってもうてなー」 「こんにちは」 はやてに示されたので、凶介はヴィータに頭を下げた。 「こんにちは。ふーん。何やったんだよ、あんた」 「これ、ヴィータ!」 「ああ、いいよ別に。理由に関しては聞かないでもらえるとありがたいかな。俺も説明できないから」 ヴィータの言葉遣いをいさめるはやてをなだめつつ、凶介はヴィータに苦笑を返した。 本当ははやてに理由らしいこと(フェイトについて)を聞かされているのだが、本人に名誉のために黙っておくことにする。 「そんでこいつなんでうちにいんの?」 「んもう。………シグナムと喧嘩しとったらいきなり倒れてしもうてな。うちが近かったし、慌てて運んだんや」 はやてが簡潔にここまでの経緯を話す。 「へー。その割には怪我してねーよな」 ヴィータがじろじろと凶介の身体を見つめる。 確かに凶介は外傷らしい外傷を受けていない。 「あ、そうや。ほんでな。凶介さん、シグナムの攻撃が全然当たらへんかったんやで」 「マジ? あ、でもシグナムだって手加減くらい………」 「それがな、ほんまの本気でやっててんやけど、かすりもせんかったんよ」 「うっそ、マジで!?」 シグナムの本気。それはつまり魔法を使って闘っていたということになる。 ヴィータは、そのシグナムの猛攻から逃げ切った凶介を化け物を見るような目で見つめ始めた。 「へー………」 「………なんだか著しく名誉が汚されてるような」 「でもさ。なら、なんだっていきなり倒れたりしたんだよ?」 ヴィータが不思議そうに首をかしげた。 「あー………。それはいきなり体動かしたせいで、めまい息切れ動悸がいっぺんに来ちゃってねー………」 とりあえずわざとらしくならないようにウソの理由を述べておく。 いきなり「源素切れの症状です」なんて言われても向こうの不信感をあおるだけだ。 「へー。そうなんだ」 「ただいまー」 と、今度は若い女性の声が聞こえてきた。 「あれ? シャマルじゃね、今の」 「そうやねー?」 不思議そうに二人が首をかしげている。 そして居間にやってきた金髪の女性――シャマルに問いかけた。 「あら? お客さんですか?」 「シャマル。アンタ、今日は新人さんの医療研修やッたんちゃうの?」 はやてがそういうと、ほんのわずかだがシャマルの口が引きつった。 「シグナム〜。反省中って一体何があったんですか?」 「露骨に話題転換しようとすんなよ」 ヴィータが半目でツッコミを入れると、米神に一筋の汗が流れた。 「で? 何があったん?」 「………日付、一日間違えたんです」 シャマルが小さくボソッと言うと、二人は納得したように頷いた。 「さすがシャマルやな〜。私らには理解できへんボケを平然とこなしてみせる」 「しびれねーし、憧れねーけどな」 「うぅっ!」 シャマルがどこからか取り出したハンカチを取り出して凶介に詰め寄った。 「ひどいと思いませんか!? ちょっと一日日取りを間違えただけでこの扱いですよ!? 向こうの人にも「ああ。でもシャマルさんですし」とか言われるし! 何で私だけそんなキャラクターが定着してるんですかー!?」 「いや、そんなこと言われてもー!?」 いきなりシャマルに詰め寄られ、身体をのけぞらせる凶介。 そんな二人をはやてたちは生暖かい瞳で見つめていたとか。 その頃の久遠。 「ん〜。えいっ」 久遠がカードを引くと、アルフが悔しそうに顔をゆがめた。 「くぅ。久遠あがり」 「またアルフの負けだね」 「ちくしょー!」 フェイトが苦笑して言うと、アルフはひっくり返ってじたばたと暴れた。 「まあ、ババ抜きというのはこう見えて意外と駆け引きが問われるゲームだからな」 「アルフさん、すぐ顔に出るしね………」 なのはとクロノが言う間に、アルフは散らばったカードをかき集めてシャッフルし始める。 「うらぁっ! 第二十三ラウンド始めるよっ! 今度こそ負かしてやるんだから!」 「くぅ。絶対負けない」 久遠は久遠で嬉しそうに尻尾を振りながら応じる。 実に穏やかなひと時が流れる高町家だった。 |